平成26年12月5日
金融庁

株式会社田中化学研究所との契約締結者の社員及び同人からの情報受領者による内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、(株)田中化学研究所との契約締結者の社員及び同人からの情報受領者による内部者取引の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成26年2月25日に審判手続開始の決定(平成25年度(判)第43号、同第44号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:303KB)を行いました。

決定の内容

  • (1)第43号事件被審人(A)に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

    • 納付すべき課徴金の額 金68万円

    • 課徴金の納付期限 平成27年2月5日

  • (2)第44号事件被審人(B)に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

    • 納付すべき課徴金の額 金50万円

    • 課徴金の納付期限 平成27年2月5日

事実及び理由の概要

別紙のとおり


(別紙)

(課徴金に係る金商法第178条第1項各号に掲げる事実(以下、1に掲げる事実を「違反事実1」、2に掲げる事実を「違反事実2」という。))

  • 第43号事件被審人(以下「被審人A」という。)は、パナソニック株式会社(以下「パナソニック」という。)の社員であるが、遅くとも平成25年3月27日までに、 大阪証券取引所JASDAQ市場に上場されていた株式会社田中化学研究所(以下「田中化学研究所」という。同年7月16日付で東京証券取引所JASDAQ市場に上場。)とパナソニックとの間で締結していた原材料に係る購買取引基本契約(以下「本件基本契約」という。)の履行に関し、田中化学研究所の業務執行を決定する機関が、住友化学株式会社(以下「住友化学」という。)と業務上の提携を行うことについての決定をした旨の重要事実(以下「本件重要事実」という。)を知りながら、法定の除外事由がないのに、本件重要事実の公表(以下「本件公表」という。)がされた同年3月28日午後4時頃より前の同日午前10時29分頃から午後2時23分頃までの間、C証券株式会社を介し、株式会社大阪証券取引所(以下「大阪証券取引所」という。)において、自己の計算において、田中化学研究所株式(以下「本件株式」という。)合計2,500株を買付価額合計87万5,700円で買い付け(以下「本件買付け1」という。)た。

  • 第44号事件被審人(以下「被審人B」という。)は、平成25年3月27日、パナソニックの社員である被審人Aから、被審人Aが、本件基本契約の履行に関し知った本件重要事実の伝達を受けながら、法定の除外事由がないのに、本件公表がされた同年3月28日午後4時頃より前の同日午後2時10分頃から午後2時56分頃までの間、C証券株式会社を介し、大阪証券取引所において、自己の計算において、本件株式合計1,900株を買付価額合計68万3,400円で買い付け(以下「本件買付け2」という。)た。

(違反事実認定の補足説明)

  • 争点

    ア.被審人らは、それぞれに係る違反事実のうち、被審人Aが、本件基本契約の履行に関し本件重要事実を知った点について、イ.被審人Bは、違反事実2のうち、被審人Aから本件重要事実の伝達を受けた点についてそれぞれ否認しているから、これらの点につき、以下補足して説明する(なお、各違反事実のうち、その余の点については、被審人らが争わず、そのとおり認められる。)。

  • 前提となる事実

    • (1)関係者等

      • 被審人A

        被審人Aは、平成20年に大学を卒業した後、平成21年、パナソニックに入社し、平成25年3月当時は、パナソニックの社内カンパニーであり、二次電池の原材料の調達・販売等を行うことを目的とするD社に勤務していた者である。

        被審人Aは、大学生の頃に株式取引を行った経験を有しているが、平成19年7月頃から平成25年3月18日までの間は、株式取引を行っていなかった。また、被審人Aは、同日まで、本件株式を売買したことはなかった。

        被審人Aは、同月当時、大阪府内に居住していた。

      • 被審人B

        被審人Bは、被審人Aの実母で、無職の者である。

        被審人Bは、約40年にわたる株式取引の経験を有している。

        被審人Bは、平成25年3月当時、実子であり、被審人Aの実弟であるEとともに、埼玉県内に居住していた。

      • 田中化学研究所

        田中化学研究所は、二次電池の正極材料の製造、販売等を目的とする株式会社であり、平成18年10月1日、パナソニックとの間で、本件基本契約を締結した。

    • (2)本件重要事実等

      田中化学研究所は、二次電池の価格競争が激化したことなどから、平成24年3月期において営業損失を計上することとなり、このような状況を打開する必要性が生じていたところ、同年10月10日、取締役会において、住友化学との業務上の提携を行うことについて、交渉を進めていく方針を決議した(本件重要事実)。その後、田中化学研究所は、住友化学との間で交渉を進め、平成25年3月28日、取締役会において、資本業務提携契約を締結することについて決議した。

    • (3)被審人Aの職務状況、Fが本件重要事実を知った経緯

      • 被審人Aは、D社において、本件基本契約に係るコバルトの販売を担当していたところ、日頃から、田中化学研究所大阪支社営業部において購買部門の社員Fとの間で、本件基本契約の履行に関する業務上の連絡を取り合っていた。

      • D社は、平成24年12月頃、田中化学研究所に対する取引与信枠を減額した。取引与信枠が減額されたままであれば、D社においては、田中化学研究所に対する原材料の売上が減少することとなり、田中化学研究所においては、原材料であるコバルトの仕入れに窮することとなることから、被審人A及びFは、従前の取引与信枠を回復するための方策について検討することとした。

        被審人Aは、取引与信枠を回復するために、新たに債権流動化の引受手となる金融機関を探そうと考えたが、引受手を見つけることができなかった。

        また、被審人Aは、同年1月、取引与信枠の範囲外の取引として、D社と田中化学研究所との間に別の会社を介して取引を行うことで販売量の維持を図ろうとしたところ、同年3月19日、同年4月分については、当該会社から、取引を行うことができないとの連絡を受けた。

        他方、D社は、損害保険会社との間で、取引信用保険契約を締結していたところ、取引信用保険の保証額が前年と同額となったため、田中化学研究所に対する取引与信枠を更に減額することはなかったが、取引与信枠は、増額されることはなかった。

      • Fは、平成25年3月26日、田中化学研究所の役員から、本件重要事実及びその公表日が同月28日であることを知らされた。

      • Fは、平成25年3月27日、被審人Aの携帯電話に電話をかけたところ、被審人Aは電話に出なかったため、同携帯電話に不在着信履歴が残った。

    • (4)本件公表

      平成25年3月28日午後4時頃、TDnet(適時開示情報伝達システム)により、本件重要事実が公衆の縦覧に供され、本件公表がされた。

    • (5)被審人らの取引状況

      • 被審人Aは、平成25年3月18日、本件株式合計2,700株を買付価額合計101万5,200円で買い付けた。

        また、被審人Aは、同月28日、自己名義の預金口座の残高が合計約89万円であったところ、G銀行から当座貸越の限度額である200万円を借り入れ、同日、その全額を証券口座に入金した。その上で、被審人Aは、同日、344円ないし345円の指値で本件株式合計5,800株について、合計199万9,000円で買い注文を出したが、約定前に、注文を取り消した。被審人Aは、同日、349円ないし353円の指値で本件株式合計3,700株について、合計129万9,300円で買い注文を出し、そのうち合計2,500株について、買付価額合計87万5,700円で買い付けた(本件買付け1)。その他、被審人Aは、同日午後2時55分頃、356円の指値で本件株式1,000株について、35万6,000円で買い注文を出している。

        なお、被審人Aは、同年5月20日、本件株式合計2,500株を売付価額合計120万円で売り付けた。

      • 被審人Bは、平成25年3月28日、本件株式とは別銘柄の自己保有株式を約80万円で売り付け、自己名義の証券口座の残高を81万4,532円とした。被審人Bは、同日、350円の指値で本件株式2,000株について、70万円で買い注文を出したが、約定前に注文を取り消し、352円の指値で本件株式1,200株について、42万2,400円で買い注文を出したが、これも約定前に注文を取り消した。

        その上で、被審人Bは、同日、再度、352円の指値で本件株式2,200株について、77万4,400円で買い注文を出したところ、同買い注文のうち100株は、買付価額3万5,200円で約定したが、約定しなかった注文を取り消した上で、同日、成行により本件株式1,800株の買い注文を出したところ、その全てについて、買付価額合計64万8,200円で約定した(この1,800株の約定分と上記100株の約定分が「本件買付け2」である。)。

  • 被審人Bの供述について

    • (1)被審人Bの供述内容

      被審人Bは、平成25年10月9日付け質問調書において、おおむね次のとおり供述している。

      息子である被審人Aが、同年3月27日午後8時頃から午後9時頃までの間に、自宅に電話をかけてきて、私に対し、「田中化学が資本業務提携を明日発表するから」、「確実に儲かるかわからないけど」、「お金があれば買ってみたらおもしろいから」などという話をした。そのとき、嘘ではない確かな情報を教えてくれたと思った。

      電話を終えた後、被審人Aから伝えられた情報を、株式取引をしているEに対し、「今、Aから電話があって」、「田中化学という会社が、資本提携を明日発表するってAが教えてくれたよ」、「Aの話なので確かな情報じゃない」などと伝えた。

      同月28日、被審人Aがわざわざ教えてくれたのであるから、本件株式を購入しようと思い、保有していた株式を売却し、買付資金約80万円を用意した。現金を証券口座に振り込んだとしても、それが同口座に反映されるのは振込みの翌日となってしまうため、思惑どおりに値段の上がらない自己保有株式を売却することにした。

      用意した買付資金全額を用いて本件株式を購入しようと思い、350円の指値で2,000株の買い注文を出したが、全く約定に至らなかったため、その買い注文を取り消した上で、352円の指値で、2,200株の買い注文を出したものの、100株を除いて約定に至らなかった。そこで、成行で注文を出さなければ購入できないと考え、引け間際に、成行により1,800株の買い注文を出して約定させた。

      当時、田中化学研究所と被審人Aの関係については知らず、田中化学研究所は被審人Aが勤務している会社ではないため、インサイダー取引になるとは思わずに取引を行った。

      その後、インターネットで本件重要事実が公表されたことを確認し、Eと、「Aの言ったとおり公表があったね、株価上がるといいね。」などと話した。被審人Aからは、「母さん、買った」という電話があったため、「少し、買ったよ」と答えた。

    • (2)被審人Bの供述の信用性を支える事情

      被審人Bは、一連の経緯について、その時々の感情を交えつつ、具体的かつ迫真的に述べているものであり、その供述内容は、自然で合理的なものといえる。

      また、自己保有株式を売却して約80万円の資金を捻出し、350円の指値による買い注文が約定に至らなかったため、二度にわたり352円の指値により買い注文を出し、更に成行により買い注文を出して本件買付け2を行った一連の取引は、被審人Bが、同日以降に本件株式の株価が上昇する可能性が高いと見越していたことをうかがわせる事実であるといえる。そして、本件重要事実が同日に公表されることは、同日以降の株価上昇に資する事実であるから、被審人Bが本件重要事実を伝えられたとの供述内容は、上記客観的な取引内容と整合する。

      さらに、被審人Bの上記供述内容は、被審人らが不利益を被る可能性のある内容であるところ、被審人Bには、あえて自らや息子である被審人Aに不利益となる虚偽の供述をする動機は見当たらない。

    • (3)まとめ

      以上のとおりであるから、平成25年10月9日付け質問調書における被審人Bの供述は、十分に信用することができる。

  • 争点ア(被審人Aが、本件基本契約の履行に関し本件重要事実を知ったか否か)について

    • (1)検討

      • 被審人Bへの伝達行為

        前記3のとおり信用できる被審人Bの供述によれば、被審人Aは、本件公表された日の前日である同月27日午後8時頃から午後9時頃までの間に、被審人Bに電話をかけ、被審人Bに対し、「田中化学が業務提携を明日発表するから」、「確実に儲かるかわからないけど」、「お金があれば買ってみたらおもしろいから」などと伝えたことが認められる。

        かかる被審人Aの行為は、被審人Aが、遅くとも同日までに、本件重要事実について知ったことを強く推認させる。

      • 取引態様等

        被審人Aは、長期間にわたり株式取引を行っていなかったところ、本件公表当日において、自己名義の預金口座の残高が合計約89万円にすぎなかったにもかかわらず、あえて当座貸越の限度額である200万円を借り入れて負債を負ってまで、そのほぼ全額に相当する合計199万9,000円での買い注文を出した。さらに、被審人Aは、これらの買い注文を取り消し、より高い指値で買い注文を出し、その一部を約定させた。その上、当時、田中化学研究所の業績は悪化しており、被審人Aは、そのことを知っていた。

        これらの事実を総合すると、被審人Aには、本件買付け1に先立ち、本件買付け1を特に動機付ける事情があったことがうかがわれるところ、本件重要事実を知ったことのほかに、特段本件株式の買付けを動機付ける要因は見当たらない。

      • Fが被審人Aに情報提供する動機、経緯等

        被審人Aは、平成24年から平成25年当時、D社において、本件基本契約に係るコバルトの販売を担当しており、日頃からFと業務上の連絡を取り合っていたところ、田中化学研究所に対する取引与信枠が減額された平成24年12月以降は、その取引与信枠を回復するための対策について検討を行い、Fに対し、業績の回復に向けた前向きな情報を提供するよう申し出ていた。

        そのような中で、Fは、平成25年3月26日、田中化学研究所の役員から、本件重要事実及びそれが同月28日に公表されることを伝えられたところ、Fには、本件重要事実を被審人Aに知らせる動機があったことが認められる。

        また、Fは、本件重要事実及びその公表日を知った日の翌日、被審人Aの携帯電話に電話をかけたところ、被審人Aは、電話に出なかったが、取引先であるFからの不在着信履歴を確認した上でそれを放置するとはにわかに考え難く、Fが被審人Aに本件重要事実を知らせる機会は十分にあったものと認められる。他方で、被審人Aが、F以外の者との間で情報を授受したことはうかがわれない。

      • まとめ

        以上によれば、被審人Aは、遅くとも被審人Bに電話をかけた平成25年3月27日までに、本件基本契約の履行に関し、Fから伝えられて本件重要事実を知ったものと認められる。

  • 争点イ(被審人Bが、被審人Aから本件重要事実の伝達を受けたか否か)について

    前記3のとおり信用できる被審人Bの供述によれば、被審人Bは、同日、被審人Aから本件重要事実の伝達を受けたものと認められる。

(課徴金の計算の基礎)

各違反事実に係る課徴金の計算の基礎となる事実については、被審人らが争わず、そのとおり認められる。

  • 違反事実1に係る課徴金の額

    • (1)金商法第175条第1項第2号の規定により、当該有価証券の買付けについて、業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も高い価格に当該有価証券の買付けの数量を乗じて得た額から当該有価証券の買付けをした価格にその数量を乗じて得た額を控除した額。

      (625円×2,500株)-(349円×1,700株+353円×800株)

      = 686,800円

    • (2)金商法第176条第2項の規定により、上記(1)で計算した額の1万円未満の端数を切捨て、680,000円となる。

  • 違反事実2に係る課徴金の額

    • (1)金商法第175条第1項第2号の規定により、当該有価証券の買付けについて、業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も高い価格に当該有価証券の買付けの数量を乗じて得た額から当該有価証券の買付けをした価格にその数量を乗じて得た額を控除した額。

      (625円×1,900株)

      -(352円×100株+357円×100株+358円×200株+359円×700株

      +360円×400株+364円×400株)

      = 504,100円

    • (2)金商法第176条第2項の規定により、上記(1)で計算した額の1万円未満の端数を切捨て、500,000円となる。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局総務課審判手続室
(内線2398、2404)

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