令和5年11月27日

各業界団体等代表者 殿

内閣総理大臣 岸田 文雄
財務大臣兼金融担当大臣 鈴木 俊一
 厚生労働大臣 武見 敬三
                                                       農林水産大臣 宮下 一郎
経済産業大臣 西村 康稔

「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を踏まえた経営改善・事業再生支援の徹底等について

官民の金融機関等におかれては、累次にわたる要請等も踏まえ、事業者支援に着実に取り組んでいただいていますことに感謝申し上げます。
 本年5月より、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症に移行したことを受け、社会経済活動の正常化が進みつつある一方で、物価高騰や人手不足の影響等により、依然として厳しい状況に置かれている事業者が数多く存在します。そのため、資金需要の高まる年末、年度末に向けては、事業者の資金繰りに重大な支障が生じることのないよう、より一層の金融仲介機能の発揮が期待されます。加えて、民間金融機関による実質無利子・無担保融資の返済が本格化する中、コロナ禍において資金繰り支援に注力した段階から、事業者の実情に応じた経営改善支援や事業再生支援、再チャレンジ支援等を先延ばしすることなく、一歩先を見据えて取り組む新しい段階へと移行していく必要があります。
 こうした中、政府においては、11月2日に「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を決定し、コロナ禍を乗り越えたものの、物価高騰の影響等により、依然として厳しい状況にある事業者に対して、借換え支援の継続等の資金繰り支援に加え、経営改善・事業再生支援等に万全を期すこととしたこと等を踏まえ、以下の事項について、改めて要請いたしますので、本日の「事業者支援の促進及び金融の円滑化に関する意見交換会」における要請事項等と合わせ、貴機関、貴協会会員金融機関等の経営層は勿論のこと、現場の第一線の職員等まで周知・徹底をお願いいたします。

記 


1.資金繰り支援

事業者への資金繰り支援について、足下の経営環境の変化や資金需要の高まる年末、年度末を迎えることを踏まえ、他の官民金融機関等や支援機関(中小企業活性化協議会、株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)、よろず支援拠点、事業承継・引継ぎ支援センター、税理士・弁護士等の専門家、商工団体等)との連携・協働に努めながら、中小企業や小規模・零細企業、中小企業組合はもとより、中堅・大企業等も含めた事業者の業況を積極的に把握し、資金繰りの相談に丁寧に対応するなど、事業者に最大限寄り添ったきめ細かな支援を徹底すること。
 その際、日本政策金融公庫等においては、令和6年3月末まで延長されたセーフティネット貸付(物価高騰対策)や賃上げに取り組む事業者を対象として新たに創設される融資制度等の活用を促進すること。
 また、融資判断に当たっては、それぞれの事業者の現下の決算状況・借入状況や条件変更の有無等のみで機械的・硬直的に判断せず、事業の特性、各種支援施策の実施見込み等も踏まえ、経営改善につながるよう、丁寧かつ親身に対応すること。特に、各種補助金等の支給までの間に必要となる資金や、ポストコロナに向けた設備投資に要する資金等については、引き続き事業者の立場に立った柔軟な資金繰り支援を行うこと。


2.条件変更、借換え
 返済期間・据置期間が到来する既往債務の条件変更や借換え等について、特に新型コロナの影響を受けてきた宿泊業・飲食業等を中心に、申込みを断念させるような対応を取らないことは勿論のこと、事業者の実情に応じた迅速かつ柔軟な対応を継続すること。
 その際、民間金融機関においては、実質無利子・無担保融資等の既往の信用保証付融資からの借換えや、事業再構築等の前向き投資に必要な新たな資金需要にも対応できる、コロナ借換保証制度を積極的に活用し、伴走支援に努めること。
 また、日本政策金融公庫等においては、既往の実質無利子・無担保融資等のコロナ資本性劣後ローンへの借換えが、新型コロナの影響を受け債務が増大した事業者の財務基盤を強化し、新規の投資を促進する観点から重要であることを踏まえ、こうした借換需要に柔軟に対応すること。

 
3.資本性劣後ローン
 資本性劣後ローンについて、過大な債務や物価高騰等に苦しむ事業者に対しては、その財務内容を改善し、新規融資を供給しやすくする手段として、積極的に活用を検討すること。
 その際、日本政策金融公庫等及び民間金融機関においては、民間金融機関による実質無利子・無担保融資等からの借換え促進も念頭に、協調融資商品の組成拡大等に努めること。
 また、日本政策金融公庫等においては、事業者が民間金融機関等からの協調支援を希望しない場合等は、認定支援機関の支援を受けて事業計画書を策定していれば対象となることや、宿泊業など黒字額が小さい回復途上にある事業者の金利負担を軽減する運用の見直しを行うことも踏まえつつ、コロナ資本性劣後ローンについて、事業者のみならず、営業現場の職員まで周知・徹底を図り、小規模事業者を含め、その利用を促進すること。加えて、民間金融機関が協調融資の際に既存債権を劣後化しているなど、事業者の法的整理時だけではなく私的整理時であっても、一定の場合には、劣後化されることがあり得ることを営業現場の職員まで周知すること。
 民間金融機関においては、認定経営革新等支援機関による再生計画が策定されれば対象となるように要件が緩和された信用保証付債権DDSの活用も含め、他の金融機関の引当事例も参考にしながら[1]、債権の劣後化についても真摯に検討すること。
 
4.経営改善・事業再生支援等
 事業者支援について、以下の①~⑤も踏まえつつ、一歩先を見据え、資金繰り支援にとどまらない、事業者の実情に応じた経営改善や債務減免を含めた事業再生支援、再チャレンジ支援等に早め早めに取り組むこと。その際、他の官民金融機関等や支援機関と緊密に連携するほか、今般の「デフレ完全脱却のための総合経済対策」で措置された補助金等を含め、政府の各種支援施策については、営業現場の第一線の職員等へ周知・徹底し、理解を促すとともに、積極的に活用を事業者に提案すること。

①.民間金融機関による実質無利子・無担保融資等の信用保証付融資が借入の中心となる中小企業の早期の経営改善を後押しするべく、一定の条件の下で民間金融機関による計画策定支援も時限的に対象に追加される予定の「早期経営改善計画策定支援事業」等の各種支援施策も活用しつつ、事業者が抱える課題解決に向けてコンサルティング機能を発揮するとともに、一歩先を見据えて、当該事業者自身による経営改善計画等の策定を積極的に提案し、必要に応じて計画策定支援や計画の実行状況のモニタリングを実施するなど、経営改善・事業再生支援等を積極的に行うこと。その上で、こうした過程を経て、事業承継やM&Aなども含めた構造改革を後押しすること。
②.「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の活用について、令和5年10月に金融庁より公表した同ガイドラインの活用事例集も参考にしつつ、その趣旨・内容を営業現場の第一線の職員等まで十分に浸透させ、事業再生計画の成立や円滑な廃業に向けて、主体的に支援すること。その際、REVICによる研修の活用や、弁護士等の専門家との連携強化等を通じて、地方における事業再生の担い手の育成に努めること。
③.商工組合中央金庫においては、危機対応融資を活用した事業者に対して、DESによる再生支援が可能となったことも踏まえ、これまで確立してきた経営改善・再生支援のノウハウを最大限活用して、率先して支援に努めること。
④.資本性資金の供給や債権買取等が可能なREVICによるファンド(復興支援ファンド等)や独立行政法人中小企業基盤整備機構の出資するファンド(中小企業経営力強化支援ファンド、中小企業再生ファンド等)等の組成・活用についても真摯に検討すること。
⑤.「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」の改定により、廃業手続の早期着手により保証人の手元に残せる資産が増加する可能性があること等を明確化したことを踏まえ、事業者に退出希望がある場合の早期相談の重要性等をより一層周知するとともに、経営者の個人破産の回避に向け、誠実に対応すること。その際、REVICの特定支援(経営者の再チャレンジ支援)の活用も検討するほか、再チャレンジに向けた事業者の資金繰り支援についても柔軟に対応すること。

5.メイン先以外への支援と信用保証協会の役割
 自身のメイン先である事業者に対しては、早期の経営改善・事業再生支援等に主体的に取り組むことは勿論のこと、実質無利子・無担保融資により新たに取引先となった先や残高メイン先でなくなるなど融資シェアが低下した先等であっても、支援がおろそかにならないよう、自身の経営資源の状況等を踏まえつつ、他の官民金融機関等や支援機関と早期に連携し、メイン・非メイン先の別や、既存顧客・新規顧客の別、プロパー融資・信用保証付融資の別にかかわらず、事業者の実情に応じて継続的な伴走支援に努めること。
 信用保証協会においては、実質無利子・無担保融資などの信用保証付融資割合が高い先等について、民間金融機関や支援機関と連携し、支援先を選定した上で、積極的な経営改善・事業再生支援等に取り組むこと。その際、再生支援が必要と判断される事業者については、民間金融機関と連携し、事業者を後押しすることで、早期に中小企業活性化協議会へ繋いでいく等、主体的に対応すること。
 
6.経営者保証
 経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組みについて、令和4年12月23日付で政府より発出した要請文「個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組の促進」において要請された事項を、営業現場の第一線の職員等に対してより一層の浸透・定着を図ること。
 また、民間金融機関及び信用保証協会においては、今後創設される信用保証料上乗せにより経営者保証の提供を不要とする信用保証制度について、制度創設後の3年間で行った保証承諾案件に限り、信用保証料の負担軽減策を講じることを踏まえ、積極的な活用を検討すること。併せて、地域によって活用実績に差が見られる経営者保証を求めないスタートアップ創出促進保証についても、前向きに活用を検討すること。
 
7.住宅ローン等
 住宅ローンやその他の個人ローンについて、丁寧な相談対応や顧客の状況やニーズに応じた返済猶予等の条件変更の迅速かつ柔軟な対応を行い、生活・暮らしの支援に努めること。
 
8.ALPS処理水放出の影響を受けた事業者支援
 ALPS処理水(多核種除去設備等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を確実に下回るまで浄化した水をいう)の海洋放出に伴う輸出先の国又は地域における水産物の輸入規制措置等の影響を受け、輸出業者や水産加工業者、卸売業者など、経営等に支障を来す事業者への支援について、民間金融機関及び信用保証協会においては、令和5年11月15日に発動されたセーフティネット保証2号の活用を促進するとともに、日本政策金融公庫等においては、セーフティネット貸付等の利用を促すことで、より一層のきめ細やかな資金繰り支援を徹底すること。

以 上


[1] 全額引当以外を含む主な引当事例等を取りまとめた、金融庁「DDSを含む資本性借入金の引当方法について」(令和5年6月13日)を参照(https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20230613/20230613.html)。
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