(仮訳)
銀行の透明性の向上について
銀行システムの健全性を促進する パブリック・ディスクロージャーおよび銀行監督上の情報
バーゼル銀行監督委員会
バーゼル 1998年9月 バーゼル銀行監督委員会の透明性小委員会
議 長Ms. Susan Krause Office of the Comptroller of the Currency, Washington, D.C.
2.健全性を促進するうえでのパブリック・ディスクロージャーの役割 ( i)透明性の達成( ii)市場規律の達成(a)ディスクロージャーの基準・慣行を設定したり、これらに影響を及ぼす際の監督当局の役割 ( i)信用リスク( ii)マーケット・リスク( iii)流動性リスク( iv)オペレーショナル・リスクおよびリーガル・リスク
銀行の透明性向上に向けて
銀行システムの健全性を促進する パブリック・ディスクロージャーおよび銀行監督上の情報
本ペーパーは、効果的な市場規律および有効な銀行監督に必要な情報の役割について論じている。本ペーパーは、銀行監督当局や規制当局に対し、パブリック・ディスクロージャーや監督上の報告の枠組みの策定ないし改善についての一般的な指針を提供しているほか、銀行業界に対し公表するべきディスクロージャーの中核的な内容に関する指針も提供している。
市場はリスクを効果的に管理している銀行に対しては報酬を与え、リスク管理が不適切あるいは不健全な銀行に対しては罰則を与えることによって、銀行監督を補強しうる規律的なメカニズムを有している、ということが本ペーパーの公表にあたっての基本認識である。ただし、市場規律は、銀行の活動とそれらの活動に内在するリスクを評価するための適時性と信頼性のある情報に市場参加者がアクセスできる場合にのみ機能しうる。パブリック・ディスクロージャーの向上は、市場参加者が安全かつ健全な銀行業務を促進させる能力を強化するのである。
個別金融機関と銀行システム双方の長期的な安定性を促進させるうえで、健全性監督と市場規律の相互補完的な関係は決定的に重要である。こうした相互補完関係の有効性は、有益なパブリック・ディスクロージャーに大きく依存している。本ペーパーは、監督当局が妥当なコストの下で質の高いパブリック・ディスクロージャーの推奨に注力することを提言している。パブリック・ディスクロージャーにおける銀行監督上の定義や報告上の分類の使用を促すことにより、情報の比較可能性を高めることは、監督当局の単独での、あるいは基準策定主体と協力しての、積極的な関与に適した分野である。また、監督当局がディスクロージャー基準の遵守を確実にするメカニズムと、情報の信頼性を保証する基準の強化とを前進させることが推奨されている。
本ペーパーは、銀行が財務報告をはじめとする一般向けディスクロージャーにおいて、市場参加者による銀行の評価を容易にする適時な情報を提供することを推奨している。ペーパーは、下記の 6つの大きな情報のカテゴリーを提示している。銀行の透明性について申し分ない水準を達成できるよう、各カテゴリーは明確かつ十分な詳細さで記されるべきである。・ ・ 財務状況(自己資本、ソルベンシー、流動性に関する情報を含む)・ リスク管理の戦略と体制・ リスク・エクスポージャー(信用リスク、マーケット・リスク、流動性リスク、オペレーショナル・リスク、リーガル・リスク、その他のリスクを含む)・ 会計方針・ 基本的な業務、経営およびコーポレート・ガバナンスに関する情報本ペーパーは、各カテゴリー毎に有用な情報の類型について議論している。最後に、監督当局がこれらの情報および監督上関心のあるその他の情報にアクセスすることも奨励している。
バーゼル銀行監督委員会が公表する本レポートは、効果的な市場規律および実効的な銀行監督における透明性と情報のディスクロージャーの役割について論じている。さらに、銀行の活動や銀行が直面しているリスクについて基本的な理解をする際に必要となる、 6つの情報のカテゴリーを明らかにしている。本ペーパーは、銀行がこうした情報を開示することにより、市場規律の発達を促進し、銀行の活動やリスク・エクスポージャーの透明性を高めることにより金融の安定性を強化することを推奨している。さらに、監督当局がこうした情報とその他の監督上の関心のある情報にアクセスすることが奨励されている。
近年、銀行活動がより複雑かつダイナミックになるにつれ、透明性確保という目標を達成することはより困難になってきている。現在、多くの銀行は大規模な国際業務を展開しているほか、伝統的な銀行業務に加えて証券業務や保険業務にも参入している。銀行の商品ラインは急速に変化しており、かなり高度な取引が含まれているほか、法律上または管理上複雑な構造を有した取引もみられる。こうした銀行は、銀行の活動やリスクを継続的に評価する必要がある市場参加者や監督当局に対して、大きな課題を与えている。同時に、透明性が大きな課題になるにつれ、銀行の市場活動の範囲が広がるとともに監督のためのディスクロージャーの潜在的な効用が大きくなっている。そのため市場規律が監督を補完するかたちで機能する余地が高まってきている。とりわけ、金融混乱の余波や新興国市場との関連で、 G7の首脳、蔵相、規制当局、および市場参加者から、透明性の向上を求める声が上がっている。
本ペーパーの公表は、実効的な銀行監督や安全かつ健全性のある銀行システムを促進するための、バーゼル委員会の長期にわたる作業の一環として行うものである。コア・プリンシプルでは、バーゼル委員会は実効的な銀行監督システムに必要な最低基準を定義し、金融市場の安定を促進するために必要な取り決めについて議論している。本ペーパーは、コア・プリンシプルが銀行監督当局に求めている以下の点について、より踏み込んだ説明をするものである。 ・ ・ 銀行監督当局は、銀行の財務状況や業務の収益性について正確かつ公正に把握することを可能にする、整合的な会計基準や慣行に沿った適切な記録が各銀行で保管されていることに納得させられなければならない(原則 21の第1節)。・ 銀行監督当局は、銀行が、財務状況を公正に反映する財務諸表を定期的に公表していることに納得させられなければならない(原則 21の第2節)。
銀行監督当局が銀行の透明性に対して関心を有しているのは、市場は適切な状況では、効果的にリスクを管理している銀行に対し報酬を与え、リスク管理が脆弱ないし効果的ではない銀行に対しては罰則を与えることによって、銀行監督を補強する規律的なメカニズムを有している、という認識に基づいている。銀行の活動やその活動に内在するリスクの評価を可能とする適時性と信頼性のある情報に市場参加者がアクセスできる場合にのみ、市場規律は機能しうる。健全性を促進するうえでのパブリック・ディスクロージャーの役割については、本ペーパーの第 2章で議論されており、透明性の向上に関する監督当局の役割については、第3章で記述されている。
さらに、監督当局は銀行自身が有している情報を必要とする。実効的な銀行監督において、個別銀行や銀行システム全体の状況を評価するために、情報の収集と分析が必要である。監督当局は、早期に潜在的な問題を見付け、特定の銀行だけでなく銀行システム全体の傾向を把握することができるような情報を入手しなければならない。監督当局の情報ニーズについては第 4章で議論されている。
本ペーパーでは、透明性について、情報の利用者が銀行の財務状況、業績、業務活動、リスク・プロファイル、およびリスク管理の体制について正確に評価することができるような、信頼性と適時性のある情報のパブリック・ディスクロージャーとして定義している。この定義は、単なるディスクロージャーだけでは、必ずしも透明性をもたらすとは限らないことを前提としている。銀行は、透明性を確立するために、利用者が金融機関の活動およびリスク・プロファイルを適切に評価できるような適時性、正確性、目的適合性がある、十分な定性的・定量的情報を提供しなければならない。また、開示される情報が健全な測定原則に基づいていることやその原則が適切に適用されていることが重要である。第 5章では、銀行の透明性に寄与する情報の定性的特徴がさらに詳しく記述されている。第6章では、銀行の透明性向上のための具体的な提言について議論している。
本ペーパーは、銀行監督当局、立法者、およびその他の基準策定主体が、パブリック・ディスクロージャーや監督上の報告の枠組みを策定したり向上させる際の一般的な指針を提供しているほか、銀行業界に対し、公表すべきディスクロージャーの中核的な内容に関する指針も提供している。また、銀行監督当局がそれぞれの管轄の下で、パブリック・ディスクージャーや監督上の報告の基準や手法を見直す場合 ── 例えば実効的な銀行監督のためのコア・プリンシプルの実施をする際 ── の包括的な枠組みを提供している。
バーゼル委員会は、透明性について、実効的に監督されている安全かつ健全な銀行システムにとっての重要な要件と考えている。また、パブリック・ディスクロージャーの最低限の基準やガイドラインが、必ずしも市場におけるすべての金融機関の十分な透明性の水準を確保するものではないことも認識している。したがって、市場の変化や銀行業務の複雑性の高まりを勘案し、十分かつ意味のある情報が市場に提示されることを確保するため、銀行業界が、本ペーパーのガイドラインを超えてディスクロージャーに取り組むことを奨励する。
2.健全性を促進するうえでのパブリック・ディスクロージャーの役割
この章では、銀行システムの健全性が、銀行のパブリック・ディスクロージャーの促進を通じた透明性向上により、どのように強化されるかを記述している。パブリック・ディスクロージャーの効用のほか、監督当局やその他の公的な政策当局が、効果的なパブリック・ディスクロージャーの基準を策定するうえで考慮すべき問題について議論されている。また、一定の状況下では透明性のプラス面の影響を制限しかねない、パブリック・ディスクロージャーの欠点を考慮する必要があることにも言及している。
健全で適切に経営されている銀行が、自行の財務状況、業績や、リスク管理能力に関する包括的で、正確性、目的適合性、適時性のある情報を開示した場合、理論的には、メリットを享受するはずである。こうした銀行は、適切なディスクロージャーを行っていない金融機関よりも効率的に資本市場に参入できるはずである。
様々な種類の経済的な意思決定を行う判断材料として情報を利用できる場合、市場参加者はディスクロージャーのメリットを享受することになる。質の高いパブリック・ディスクロージャーは、以下の点により、市場参加者の意思決定能力を向上させる。 1.市場参加者は銀行の財務状況や業績をより正確に評価することが可能になる。 2.銀行が開示する情報の信頼性を向上させる。 3.リスク測定の方法論に関する定性的、定量的情報の開示など、銀行がリスク・エクスポージャーをモニターし、管理する能力を説明する。 4.市場の不確実性を引き下げる。
効率的かつ健全に業務を行うインセンティブを銀行に与えることを通じて、市場参加者の意思決定は様々な方法で、市場規律に資する。本質的には、市場規律は、健全で十分管理された銀行が、十分な情報を持ち合理的に行動する市場参加者と、より良い条件で取引ができる、との見方に基づいている。一方、よりリスクを抱えているとみなされる銀行に投資ないし、預金した資金について、市場はより高いリターンを要求するであろう。例えば、リスク・エクスポージャーが増加しつつある銀行が発行した流通商品を保有している者は、その商品を売りに出すことにより、商品価格に下落圧力を加え、銀行が先行き新規に資金調達を行う際の価格にマイナス方向の影響を及ぼすこともあり得る。
また、市場参加者は、価格以外の取引条件を変更することにより規律が働く方向のインセンティブを与えている。例えば、リスク・プロファイルを増加させている銀行に対しては、取引量や取引業務の範囲の縮小を図るかもしれない。また、追加担保の差し入れを要求する先もあるかもしれない。同様に、預金者も、預金保険の対象となっていない資金や一部しか預金保険の対象となっていない資金を健全性に疑問のある銀行から引き出すインセンティブを有している。究極的には、市場は不健全な銀行とはいかなる条件でも新しい取引を拒むことができ、その銀行は満期を迎える預金の再調達や速やかな資産処分ができなくなる。その結果、銀行は満期を迎える債務を支払うことができなくなるリスクが高まる。
重要な点として、ディスクロージャーは銀行において問題が発生することを防止するのに役立つことがある。パブリック・ディスクロージャーの向上は、市場規律がより早い段階で効果的に働くことを可能にし、そのことによって銀行が健全かつ効率的に行動するインセンティブを高める。銀行の経営陣が、自行の活動やリスク・エクスポージャーが透明になるということを承知している度合に応じて、前項で記述した投資判断やその他の営業上の意思決定といった市場参加者の様々な行動は、銀行経営陣に対してリスク管理や内部管理を向上させる強いインセンティブを与えることになる。したがって、適切なパブリック・ディスクロージャーに基づいた市場規律は、銀行に健全なリスク管理体制及びその実施の維持を奨励する銀行監督当局の努力を効果的に補完することができる。
透明性は、効果的な市場規律の必要条件であるのみならず、金融の安定にとって別の効用もある。長期間にわたって良いニュースのみ、あるいは何もニュースがない状態で、突然ネガティブなニュースが公表されるなど、情報の流れが不規則な場合、市場の混乱は大きくなる傾向がある。もしディスクロージャーが継続的に行われていれば、市場規律のメカニズムはより迅速かつより効果的に機能するであろう。適時なパブリック・ディスクロージャーは、市場参加者が継続的に情報を入手することにより、直近の状況に関する情報に過剰反応しなくなる可能性が高まることから、市場の混乱の深刻さを柔らげることができる。
パブリック・ディスクロージャーは、ストレス時において強い銀行と弱い銀行を識別する市場の能力を向上させるため、市場の混乱のシステミックな影響を抑制する。問題のある情報を開示しなかったり、開示を大幅に遅らせる傾向のある銀行は、即時かつ適切なディスクロージャーを継続的に行っている銀行よりも市場の過剰反応に直面することになるであろう。
さらに、パブリック・ディスクロージャーの向上は、より多数の株主が効果的に銀行の統治に参加したり、コーポレート・ガバナンスの手順をより透明にすることにより、株主がグループとして銀行経営陣をコントロールする力を強化できる。
そのうえ、パブリック・ディスクロージャーは、銀行に法令に遵守しているか否かの開示を義務付けることにより、銀行の健全な行動の促進を目的とした特定の監督上の方策、例えば健全なリスク管理実務に関する監督上の指針等を強化できる。
最後に、適切なパブリック・ディスクロージャーは、市場が個々の銀行のリスクとリターンの見通しを正確に評価・比較することに役立つため、銀行間のより効率的な資本配分を容易にする。
効果的なディスクロージャー基準を策定する際、監督当局やその他の公的な政策当局は、複数の論点を考慮する必要がある。大別して 2つの目標がある。ひとつは、開示される情報が適切な透明性をもたらすことである。もうひとつは、市場が健全な銀行に対し報酬を与えるように適切に反応することである。
銀行を含むあらゆる企業のリスクの度合を透明性のあるものにすることには本来的に困難が伴う。例えば、多くの国では銀行の中核的な業務の価値は、銀行の信用ポートフォリオに存在する信用リスクや損失に関連すること等を勘案すると、真に正確には評価できない。そのため、銀行のリスクの度合を評価するうえで重要な情報である特定の時点における銀行の財務の健全性や会計期間中の業績の計数は、ある程度の不確実性を伴う。さらに、銀行のリスク選好度や内部管理の質は、銀行のリスクの度合を評価するうえで非常に重要な要素であるが、その内容を意味のある形で伝達することが難しいため、透明性を確保するのは困難である。
技術的な理由だけでなく、会計、法律、財政、政治の各要素の間における相互依存関係が存在するため、会計やディスクロージャー基準がかなり異なるので、各国間での財務情報の比較可能性の達成も容易ではない。仮に基準が類似している場合でも、原則を適用する際には解釈および判断にかなりの開きが存在するかもしれない。これは、また、当然ながら各国内でも比較可能性の問題を引き起こす可能性がある。
さらに、顧客との関連等においてある程度機密を保持する必要があるため、銀行は業務活動およびリスク・エクスポージャーを評価する際に意味のあるデータをすべて公に開示することはできない。プライバシーに係る法律が、銀行が個別の顧客情報を開示することを制限しているかもしれない。その上、個別の顧客やリスク管理の技術・戦略に関する詳細な情報を開示することは、銀行がこうした活動に投資する価値を大きく減少させるかもしれない。パブリック・ディスクロージャーの基準は、市場参加者が銀行の経営能力を評価する必要性と、銀行の専有的なデータの価値を保護することとのバランスを図るべきである。
また、情報の有用性は、その情報の新しさにも依存する。銀行のリスク・プロファイルは急速に変化し得るため、透明性を確保するためには、目的適合性のある情報を適時に公表することが必要である。 ii)市場規律の達成
銀行の健全性を促進する手段としてのパブリック・ディスクロージャーの有効性は、開示情報に基づき市場参加者が金融の安定性を促進する行動をとることに依存している。場合によっては、こうした行動がとられると仮定できないこともある。
例えば、株主、債権者、および市場一般が、銀行が困難に直面した際に政府は情報の非開示、部分的開示、さらにはミスリーディングな開示さえも許容すると信じている場合には、彼らは公に開示されている情報を信頼性のあるものとみなさないであろう。この場合、市場参加者は信頼するに足るパブリック・ディスクロージャーが不足していることを、格付機関や報道、噂といった二次的な情報源への依存度を高めることにより補うかもしれない。
さらに、市場規律に係るパブリック・ディスクロージャーの有効性は、市場参加者が公的な「セーフティ・ネット」により保護されていると信じている場合には、限定的になるかもしれない。また、個人預金に大きく依存した銀行に関しても、パブリック・ディスクロージャーの有効性が限定的になるかもしれない。なぜなら、個人預金者は、パブリック・ディスクロージャーを通じて銀行の状況をモニターする訓練を受けていないかもしれないからである。預金保険制度の存在により、預金者が経営内容の悪化している銀行から預金を引き出すインセンティブが一段と限定的になる場合があるかもしれない。
債権者と株主の間のように、市場参加者の間でリスク許容度が異なる場合があるかもしれない。例えば、銀行が、資本の毀損によりすでに倒産間際となっている場合、株主は銀行のリスキーな戦略を許容あるいは促進することに経済的利益を有するかもしれない。なぜなら、リスキーな戦略が失敗しても失うものはほとんどない一方、成功した場合の利得は大きいからである。このような場合、株主は規律的インセンティブを与える情報に反応しなくなる。
また、市場が適当な規律を及ぼすとしても、銀行行動に与える効果は、銀行内のインセンティブ構造に依存する。市場規律により株主が銀行経営陣に健全に行動するよう圧力をかけ、さらに経営陣が上級管理者に対し健全に業務を行うインセンティブを与えるというような形で、組織下部まで同様の規律が働くと想定されている。しかし、この連鎖には潜在的に弱い部分が存在する。例えば、経営陣および従業員に対する究極の制裁(すなわち解雇)は、株主に対する制裁(すなわち損失)の深刻さに対応しないかもしれない。この結果、経営陣は報酬が上昇する可能性があるため、適切でないリスクをとるインセンティブを持つようになるかもしれない。市場の状況によっては、銀行の長期的な財務の健全性と完全に整合的ではないインセンティブを経営陣やスタッフに与える報酬の枠組みを提供せざるをえなくなることもあるかもしれない。さらに、上級管理職に対する多額の退職金は、健全に行動するインセンティブを削ぐかもしれない。
パブリック・ディスクロージャーに対する市場の反応を左右する要素のいくつかは、資本市場と銀行業務の根底にある制度的枠組みの設計に関する政策的トレード・オフ関係に由来する。市場規律のためには、預金者や貸手、投資家が安全で健全性のある銀行を選好するインセンティブを持つことが必要であることから、利害関係者のリスク・エクスポージャーを制限する仕組みは、市場規律の有効性を減少させるであろう。
透明性を向上させる際に、監督当局やその他の公的な政策当局は、ある状況下で生ずるパブリック・ディスクロージャーの潜在的な欠点を考慮する必要がある。民間と公的部門の利害は必ずしも一致しないかもしれない。特に、ある銀行が脆弱な立場にあることに市場が気づいたときに、市場は、預金者保護やシステミック・リスクの防止に責任を負う監督当局の立場からは望ましいと考える以上に厳しく反応するかもしれない。継続的な流動性のファシリティや取り決めがなければ、銀行は純資産の観点からは資産超過( solvent)であっても、流動性危機をきっかけに破綻するかもしれない。ある銀行に対する市場の信認の欠如は他の銀行に広がり、結果としてシステミックな混乱をもたらすかもしれない。しかしながら、継続的なディスクロージャーが十分に行われている状況においては、こうした伝播の可能性はより低くなるであろう。さらに、多くの国では、銀行はアニュアル・レポートで財務状況、業績、リスク・プロファイル、およびリスク管理に関する重要な情報の開示を要請されており、ほとんどの証券取引所の規則では、上場している銀行に対し、市場に影響を及ぼすような情報を迅速に開示するよう要請している。
銀行が脆弱な状況にあるときにディスクロージャーが問題を引き起こすかもしれないということによって、ディスクロージャーが健全な銀行に健全かつ効率的に業務を続けるインセンティブを与えるという命題が否定されるわけではない。そのうえ、前述したように、ディスクロージャーは早い段階で問題を修復することを促す。正直なディスクロージャーによって経営陣に対する信頼が高まることを通じ、銀行に対する市場の信認が高まることになれば、銀行がネガティブな情報を開示することが銀行への市場の評価にプラスの影響を及ぼすこともある、と主張する者もいる。
パブリック・ディスクロージャーのもう一つの潜在的な欠点は、関連するコストの問題である。追加的なディスクロージャーの利益がコストを上回るかどうかを評価することは、しばしば困難である。その理由の一つとして、情報を生産して提供する直接的なコスト、例えば、要請される開示情報や公表物を作成するシステムの開発、導入、およびメンテナンスにかかる追加的なコストを、ディスクロージャーが改善されることによって利益を享受するであろう潜在的な利用者が負担することはない点が指摘できる。政策当局は、追加的なディスクロージャーによる正味の利得を当然のものと考えがちであるが、場合によってはディスクロージャーの要請が大きなコストを課すこともありうることを指摘する研究もある。ただし、適切に経営されている銀行では、有用な情報はすでに内部で利用可能となっているはずであり、業務遂行のうえで経営者に使用されているはずである。
透明性には、金融安定の観点からだけでなく、銀行監督の観点からも大きな効用があるとバーゼル委員会は確信している。したがって、立法者、銀行監督当局、およびその他の基準策定の主体が、継続的で質の高い適当なコストのパブリック・ディスクロージャーの促進に注力することを奨励している。監督当局がパブリック・ディスクロージャーの向上を促進し、透明性強化に貢献する方法には、様々なものがある。
(a)ディスクロージャーの基準・慣行を設定したり、これらに影響を及ぼす際の監督当局の役割
パブリック・ディスクロージャーの最大限のメリットを達成するためには、開示情報の比較可能性、目的適合性、信頼性、および適時性を向上させる政策を追求していくことが、監督当局およびその他の公的な政策当局の利害にも合致する。継続的で質の高いディスクロージャーは、リスクの高い銀行と基本的に安全で健全な銀行を識別する市場参加者の能力を高め、市場規律が迅速かつより効果的に機能することを可能にする。
いくつかの国では、銀行監督当局、規制当局およびその他の基準策定主体が、透明性および比較可能性を満足できる水準に引き上げるためにディスクロージャー基準やガイドラインを公表している。銀行監督当局は、基準設定の権限がない場合であっても、ディスクロージャーにかかる原則や手法の改善に関する議論に貢献し、影響を及ぼすことよって重要な役割を果たすことができる。バーゼル委員会自身も、トレーディングおよびデリバティブに関するディスクロージャーの向上を促進する作業を通し、こうした役割を果たしてきている。
特に、監督当局は、監督上の定義や報告分類をパブリック・ディスクロージャーにおいて使用することを推奨することにより、主導的な役割を果たすことができる。監督上の報告体系は、典型的には、一貫性のある銀行業務関連の情報を含み、統一的な技術用語を使用しているため、データの比較を容易にする。例えば、バーゼル委員会と証券監督者国際機構( IOSCO)のトレーディングおよびデリバティブのディスクロージャーに関する報告書の中で推奨されているように、銀行は、パブリック・ディスクロージャーで使用するデリバティブに関する各種の情報の最低基準として、バーゼル委員会とIOSCOの監督上の情報についての枠組みを使用できる。監督上の指針は、銀行が民間ベースで共通基準に関して合意を形成しようとする場合に直面する調整問題を緩和し、一貫性のあるディスクロージャー基準や手法に関する業界の合意を容易にしうる。ディスクロージャーの向上へ向けた監督当局の貢献は、銀行システムの透明性にかかるコストを最小化し、仮に外的な刺激がなければ時間がかかるディスクロージャーの整合性向上のスピードを早めることとなろう。
一般的な利害と銀行が負担するコストとの間のバランスをとる必要があるため、ディスクロージャーの基準と指針の策定の際には、監督当局は、銀行業界や会計専門家の代表と協議すべきである。十分かつ一般的に受け入れられ、ストレス時に信認の危機の原因となる過剰反応のリスクを最小化するような基準を定めていくうえで、こうした協調は非常に重要である。
多くの規制上の枠組みでは、職業上の守秘義務に関する法律や規則が定めた関係に基づき、銀行は法律上開示が義務付けられている情報(年次報告書等)や、報道機関等に対して自主的に開示している情報以外の会計データ等の情報を監督当局に提出している。
監督当局は、この重要な情報のストックを法律により委ねられている任務を遂行するためだけでなく、公に利用できる情報を充実させるために使用できる。守秘義務があることにより、情報は通常、合計値の形で公表しなければならない。監督当局がデータを公表する方法は、様々なオプションから選ぶことができる。例えば、取引の種類(通貨別、期間別、顧客の地域別、セクター別等に分類)を踏まえ、銀行が提出したデータの総計を公表することができる。また、銀行業務の主要な側面(バランス・シートの構造、自己資本比率、収益力、リスク・プロファイル等)を反映したバランス・シートの指標や統計的パラメータを含めたより洗練された取扱いも可能である。
高い透明性を通じた市場機能強化は重要であるが、個別行に関する情報ないしはバランス・シート、収益性の評価についての監督当局による公表の是非は難問である。個別行に関して、監督当局が取得あるいは作成した情報をすべて公開することは、銀行システムの安定性、効率性や重要性、および守秘義務の関連もあって、推奨できないように思える。さらに、法律で禁止されているかもしれない。監督当局の役割は、単に銀行の業績を把握し、評価することだけではなく、銀行システムの安定性を保持するという任務を果たすべく、困難な状況を未然に防いだりそうした状況に対処したりすることも含まれる。個別行の監督上の評価や個別行の問題解決の計画に関するすべての情報を公表することは、こうした監督当局の任務に反するであろう。潜在的な市場の過剰反応や伝播効果は、問題を抱えている銀行について健全な経営状況を復元しようとする監督当局の努力を邪魔する可能性がある。さらに、監督当局が独立した判断を下すことが、市場への影響を懸念することで、阻害されかねない。最後に、銀行側が情報の公表を危惧するため、監督当局が銀行から機密情報を入手することがより困難になるかもしれない。
しかし、法制等の義務や経営陣の自主的な決定に基づき、銀行が監督上の情報を公開することで情報ニーズの一部に応えられる。
監督当局が透明性を強化する他の方法として、ディスクロージャー基準の遵守を確実にするための効果的なチェックや強制メカニズムの導入がある。ネガティブな情報を隠したり、誤解を招く情報を提供している銀行が効果的に制裁を受けなければ、パブリック・ディスクロージャーの信頼性は損なわれる。すでにいくつかの国においては、監督当局、証券規制当局、およびその他の規制当局が銀行のパブリック・ディスクロージャーの質を定期的にチェックしており、不十分な情報や誤解を招く情報の開示をしている銀行に対し何らかの行動をとっている。具体的には、当該銀行との議論、こうした事実公表、銀行への罰金の賦課、などがある。
銀行内部で情報の信頼性を確実にする主要な手段は、健全かつ包括的な内部管理とリスク管理システムであり、これらは有効な内部監査活動によって補完される。さらに、開示される情報の信頼性は、独立した外部監査人による監査を通じて高められる。そのため、監督当局は、銀行内部の強固な内部管理とリスク管理の体制を促進する方策に加え、監査に関する基準、倫理および実務を継続的に向上させていくことを奨励すべきである。
監督当局は、適当なディスクロージャー基準を設定する際に一定の役割を有すると同時に、銀行が提供する情報の利用者でもある。実効的な銀行監督を行うためには、個別行の状況、収益性、およびリスク・プロファイルや、銀行システムの状況を評価するための情報の収集と分析が必要となる。第 2章では市場規律を機能させる情報の役割を考察したが、この章では健全性監督における情報の役割について議論する。
監督当局は、様々な形態で情報を受取る。第一に、監督当局は、公開されている情報や、年次報告書、アナリストの格付や評価に含まれる情報の主要な利用者である。第二に、多くの国では、監督当局は定期的な報告の基準を設定する権限を有しており、これらの情報が定期的に監督当局に送られる。これらの情報は、適時性、専有的な性格、個別の監督上の情報ニーズへの適合などの点から、監督当局にとって、公に開示されている情報を補完するために重要である。さらに、監督当局は実地検査・考査や外部監査の過程でデータを収集する。これらの情報は、公開されている情報や、銀行の状況、業務、リスク・プロファイルおよびリスク管理活動などに関する包括的かつ将来に向けての姿を把握するために監督当局に報告されている情報と併せて使用される。また、監督当局は目標を定めた検査・考査、監査、あるいは調査などにより情報を収集しうる。最後に、監督当局は銀行自身が保有している情報にアクセスすることもある。
監督当局は、データの特性、チェックする金融機関の数、金融機関の規模や複雑さ、および市場や規制の枠組みの特徴に応じて、上記の情報収集手段を様々に組合わせる。使用される手段が何であっても、銀行監督当局が早期の段階で潜在的な問題を発見し、個別金融機関ならびに銀行システム全体の傾向が把握できる情報を収集することが重要である。通常、何らかの報告手続きもこれらに含まれるであろう。
当レポートでは、監督当局がパブリック・ディスクロージャーの基準の向上を積極的に奨励することを提案しているが、金融市場が比較的未発達な国において最も優先度の高いことは、包括的な監督上の報告システムを確立することである。活発で競争的な市場にほとんど、あるいはまったく依存していない銀行にとっては、市場規律は非常に限定的な役割しか果たすことができない。
銀行監督当局は、監督上の報告を様々な方法で活用している。それらは、まず、銀行の、自己資本規制や大口与信規制といった健全性規制の遵守状況をチェックしたり、潜在的な問題を識別するために用いられる。実効的なオフサイトの監督を確保するために、銀行監督当局は財務報告を一定の期間毎に受取るべきであり、これらの情報は、実地検査・考査や外部監査を通して定期的に検証されなければならない。もちろん、銀行監督当局の興味の対象となる情報には公開情報が含まれるであろうが、通常の監督上の報告には、例えばより詳細な、適時の、そして専有性のある情報といった公開されていない情報を包含するであろう。銀行は、監督当局によるレビューのために定期的に情報を提出することと、重要な事項については適時に監督当局に報告することとを義務付けられるべきである。監督上の報告システムは、実地検査・考査、外部監査ないしは監督上の訪問の合間の早期察知を可能にすることにより、問題が深刻になる前に監督当局が即座に行動できるようにするべきである。
監督当局は、銀行業界の追加的なコストを最小化するために、銀行が内部目的で作成した情報を適宜使用すべきである。さらに、報告目的で得る情報と、銀行が他の監督当局やパブリック・ディスクロージャーの義務に応じるために作成することとなっているデータとは、できる限り整合的であるべきである。最後に、監督当局は、徴求している報告のうち削減できるものがないかどうか、定期的に自らの情報の必要性を評価すべきである。
また、内部管理上およびパブリック・ディスクロージャーのためにすでに作成しているデータを踏まえて、監督上の情報を国際的な共通化のための最低必要事項を定めることは、銀行業界の報告負担を緩和するうえで役立つであろう。この目的のため、バーゼル委員会は、 IOSCOと共同で「銀行および証券会社のデリバティブ取引活動の監督上の情報のための枠組み」を1995年に公表した。これは、監督当局が利用すべき取引所型と店頭型のデリバティブに関するデータの共通のミニマム・フレームワークを含んでいる。1998年には、金融イノベーションや、主にマーケット・リスクの分野におけるトレーディングおよびデリバティブ取引のリスク管理実務の進展を反映して、この枠組みを改訂した。
本レポートの次章で記述される情報の特質と類型は、パブリック・ディスクロージャーの文脈でしばしば議論されるが、監督目的にとっても非常に重要である。これらの情報の特質と種類は、銀行の財務状況・業績、リスク・プロファイル、リスク管理体制、およびコーポレート・ガバナンスを評価し理解するために必要である。したがって、監督上の情報は、次章で議論される定性的および定量的な属性を有するべきである。
本ペーパーでは、透明性について、情報の利用者が銀行の財務状況や業績、業務活動、およびこれに伴うリスクを正確に評価できるような信頼性と適時性のある情報のパブリック・ディスクロージャーと定義している。本章では、銀行の透明性を高めることに資する情報に必須の定性的特質について議論する。それらの特質とは以下のとおりである 。・包括性 ・目的適合性および適時性 ・信頼性 ・比較可能性 ・重要性
市場参加者やその他の利用者が銀行を適切に評価するためには、情報は包括的でなければならない。これは、例えば、情報は異なる部門や法人に跨って合算、連結、評価されるということを意味している。
銀行グループが異なる監督当局の権限の下にある業務を兼営している場合、もしくは系列会社の一部が当局の監督を受けていない場合、各当局は自らの監督下にある会社との間で、当該グループの活動全般に係るリスクの実態を包括的かつ適時に伝える情報を入手する最善の方法を議論しなければならない。銀行監督当局は、グループの活動に関する情報を連結ベースで入手するよう努力しなければならないが、同時に、系列会社がそれぞれ独立の法人であることを認識し、銀行の連結グループ内の主要業務および核となる会社について個別に概要についての情報を入手する必要がある。
情報は利用者の意思決定上のニーズに応えるものでなければ有用とはいえない。情報が市場参加者のニーズに合致するということは、市場参加者が銀行に対して投資・融資等のかたちでエクスポージャーをとることに伴うリスクとリターンを予想したり、銀行の将来における財務上の業績や財務状況を評価したりする際の助けとなるということを意味する。また、情報が監督当局のニーズに合致するということは、監督当局が銀行の業務運営の健全性を評価する際に有用であるということを意味する。
情報提供が適時に行われることも、利用者のニーズを満たすための要件である。リスク・プロファイルやリスク管理状況を含め、銀行の実態を有効に伝えるためには、十分な頻度と適時性をもった情報提供が行わなればければならない。
また、情報は信頼性のあるものでなければならない。特に、情報は、それが伝えようと称するもの、もしくは伝えることが合理的に期待されるものを忠実に伝えなければならない。さらに、情報が信頼できるためには、事象や取引について法令上の形式に止まらず経済的実態を伝えていること、検証可能であること、中立的であること(すなわち、甚だしい誤りや偏向がないこと)、慎重であること、およびあらゆる重要な側面において十全であること、が要求される。重要性とコストを制約要因としつつも、十全さを保つことは極めて大切である。なぜなら、省略によって情報が間違ったものとなったり、誤解を招いたりする場合があるからである。
状況により、銀行は情報の目的適合性と信頼性の間でバランスをとらなければならないこともある。例えば、収益予想などの先行きを見通す情報は、目的適合性という意味では評価が高いものの信頼性に欠け、他方、過去の情報についてはその逆のことが言える。また、銀行がリスク・プロファイルを迅速に変化させることが可能になっている現在、目的適合性に応えるためには適時性が決定的な意味を持つ。しかし、信頼性を確保するための主要な手段の一つとして外部監査を用いると、情報の公開は遅れがちとなる。
情報のいまひとつの不可欠な特質は比較可能性である。監督当局、市場参加者等の情報利用者は、銀行相互間、各国間、および時系列での比較が可能な情報を必要としている。すなわち、銀行は毎期とも一貫した会計方針と手続を用いなければならず、関連する項目は統一的な概念と手続を用いて測定しなければならない。会計方針・手続の変更は、会計基準の変更等に伴い、それがより適切であると認められる場合に限られる。会計方針が変更された場合は、変更の内容とその影響が開示されなければならない。銀行間および各国間の情報比較が可能であれば、情報利用者は銀行の財務状況および財務上の業績を他の銀行と比べて相対的に評価することができる。時系列の比較が可能であることは、銀行の財務状況および財務上の業績のトレンドを把握するために必要となる。トレンドの把握を容易にするため、財務報告書における数値情報は、過去1期以上に遡って比較可能な数字を提供していなければならない。
銀行の財務報告書においては、重要な項目は個別に提示ないし開示されなければならない。重要な情報とは、それが省略されたり誤って伝えられたりした場合に、当該情報に基づいて利用者が行う評価や決定に変更ないし影響が及ぶ可能性のある情報を指す。但し、重要性が認められないため開示されない情報も、内部的なリスク管理上の目的において、および監督当局の評価に際して必要となる可能性がある。その種の情報は、規制対象となっている会社およびその主要な系列会社の内部に存在し、監督当局が利用できるものとすべきである。
バーゼル委員会は銀行に対し、定期的な財務報告およびその他の開示により、銀行を評価する際に有用な情報を適切なタイミングで市場参加者に提供するよう勧奨する。銀行の透明性を満足し得る水準に引き上げることに資するため、とくに以下の 6つの情報のカテゴリーについては、明確な表現と十分な詳細さをもって開示されなければならない。・財務上の業績 ・財務状況(自己資本、ソルベンシー、流動性等) ・リスク管理の戦略と体制 ・リスク・エクスポージャー(信用リスク、マーケット・リスク、流動性リスク、オペレーショナル・リスク、リーガル・リスク等) ・会計方針 ・基本的な業務、経営およびコーポレート・ガバナンスに関する情報
提供する情報の範囲や内容、および内訳や詳細の度合は、各銀行の業務の規模や性質に応じたものでなければならない。また、測定手法は適用されている会計基準に従ったものとする。
銀行を評価するという作業は、健全性監督の一部でもある。バーゼル委員会は、上記6分野に関する情報に対して監督当局が適切かつ適時な情報を利用することを奨励する。監督当局は、通常の財務報告において提供される以上に詳細な情報をいくつか求めることもある。金融市場が比較的未発達な国では、一般に開示されている情報の不足を補うため、監督当局は上記の 6つのカテゴリーに関する一層包括的な監督報告システムを構築する必要があるかもしれない。
本提言は極く一般論的なレベルにとどまる。各カテゴリーでは、個別銀行の活動内容等に応じて、かなり詳細な開示が要求される可能性がある。バーゼル委員会は今後、これらのカテゴリーの一部について、より具体的な指針を提示する可能性がある。前述のとおり、バーゼル委員会はすでに IOSCOの専門委員会と共同で、大規模な銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ業務の開示に係る詳細な提言を公表した。
市場参加者および監督当局の双方とも、銀行の財務上の業績に係る情報を必要としている。銀行の業績、特に収益性および収益の変動に係る情報は、当該銀行の財務状況の将来の変化、将来において預金およびその他債務を返済する能力、株主に配当を行う能力、および自己資本を増強する能力を評価するために必要となる。損益とその要因に係る直近期からそれ以前に遡る情報は、将来の財務上の業績やキャッシュ・フローを評価する際の助けとなる。また、そうした情報は、銀行が資金をいかに有効に運用し得たかを検証するための助けともなる。財務上の業績に係る基本的な定量的指標、収入と支出の内訳、および財務上の業績に関する経営陣の議論と分析は有用な情報となる。
銀行の財務上の業績を評価するためには、収入と支出の内訳を知ることが不可欠である。こうした情報は、収益の質の評価、収益性変化の理由の特定、財務上の業績の銀行間での比較、といった作業において必要となる。財務上の業績に係る情報の典型例は、収入と支出を銀行内部の機能別に示した損益計算書である。通常、損益計算書には、金利収入・支出、料金・手数料、その他非金利収入、経費、貸倒損失、臨時項目、租税支払、および純益が示される。損益計算書の注記には、重要な収入・支出カテゴリーに関する追加的な詳細情報が示される。収益を維持する能力を評価するためには、対象年度中の事業取得や業務撤退の影響が開示されていることが不可欠である。数字や比率の中で重要なものは、自己資本利益率、総資産利益率、純資金運用利回(純金利収入÷利付資産平残)、費用収入比率等である。
業務別および地域別のセグメント情報は、過去の業績を分析するとともに先行きの見通しを立てるためにも有用である。それぞれの業務分野や地域が銀行全体の財務上の業績にいかに寄与したかが開示されていれば、財務情報の利用者は当該銀行の財務上の業績の全体像をより正確に把握することができる。特に、こうした情報は、当該銀行の業務がどの程度多様化されているか、また、リスクが大きいとみなされている業務分野や地域が全体としての財務上の業績にどの様に影響しているかを利用者が評価するうえで有用である。また、地域的混乱などの大きな異変が銀行全体に及ぼした影響も、これによって把握しやすくなる。
経営陣は、外部の人間が知り得ない詳細な業務情報を持っている。したがって経営陣は、銀行の当該年度の財務上の業績に影響を及ぼした主たる要因について解説したり、当該年度と前年度における業績の相違を説明したり、先行きの財務上の業績に大きな影響を及ぼすと思われる要因について論じたりすることにより、市場および監督当局の双方にとって大きな助力となりうる。
多くの国には、財務上の業績に関する情報の作成および開示に関する総合的な会計指針が存在する。権威のある指針は、立法当局、規制当局、および会計基準の設定にあたる各国および国際機関から発出されている。それらの指針は、適切な情報開示のあり方を知り、かつ、情報開示が何故有用であるかを理解するための参考となる。
市場参加者および監督当局は、銀行の財務状況に関する情報を必要としている。銀行の財務状況に関する情報は、当該銀行が債務およびコミットメントを所定の時期に履行することができるか否かを予測する際に役に立つ。資産、負債、コミットメント、偶発債務、および株主資本の性質と額に関する情報が特定時点および期中平均ベースの双方で開示され、さらに満期および金利改定期が明らかにされていれば、当該銀行の流動性、支払能力、ひいては財務体力、およびそれらのトレンドを評価する際に有用である。貸倒引当金およびそれらがどのように算定されたかについての情報は、当該銀行の損失抵抗力を評価するうえで重要である。
銀行の財務状況を評価するためには、資産、負債、および株主資本のタイプ別内訳を知ることが不可欠である。財務状況に係る情報の典型例は、資産、負債、および株主資本をタイプ別に示したバランス・シートである。通常、バランス・シートには、貸出、商品有価証券、投資有価証券、有形固定資産(不動産等)、無形固定資産(営業権)、短期債務、および長期債務といった項目が設けられている。オフバランス項目に関する開示情報には、オフバランス取引の想定元本、公正価値、再構築コスト、およびコミットメントと偶発債務に関する情報が含まれる場合がある。バランス・シートの注記には、バランス・シート項目について、公正価値(トレーディング勘定、貸出、預金等)など情報利用者のニーズに応える追加情報が示される場合もある。
また、規制上の自己資本とその構成要素( tier1、tier2、tier3、リスク・アセット・ベースの自己資本比率規制が適用されている場合はリスク・アセットと自己資本比率)、および株主資本に係る情報(負債比率、配当制限等)は、銀行の財務状況を分析する際に重要である。収益・配当・新株発行の影響を含め、自己資本の額およびタイプの変化に関する情報は、将来発生し得る損失を吸収するクッションがどの程度備わっているか、また近い将来の成長を支える力がどの程度あるかを評価するうえで重要である。銀行の財務状況とその変化に関する経営陣の議論と分析は、市場のより正確な理解を助け、先行きの予想を立てるための土台となる。
預金、他の負債・コミットメントをサポートするために担保として提供された資産の性質や金額および保証債務の金額に関する情報は、銀行の財務状況、特に清算時の銀行に対する債権の回収可能性を評価する際に有用である。
財務上の業績の場合と同様、財務状況に係る情報の作成と開示についても、多くの国において包括的な会計指針が存在する。権威のある指針は、立法当局、規制当局、および会計基準の設定にあたる各国および国際機関から発出されている。
市場参加者と監督当局は、銀行経営陣のリスク管理・統制に関する戦略や方針に関する情報を必要としている。リスク管理は、銀行の将来の業績や状態、および銀行経営の有効性を評価する際に鍵となる要素である。
開示情報には、総合的なリスク管理哲学、総合的な方針と手法、リスクがいかに発生するか、いかに管理・統制されるか、リスク管理目的でデリバティブが用いられているか否か、いかに用いられているか、といった議論が含まれるかもしれない。また、リスク管理の構造、リスクの測定とモニタリング(例えば、モデル、バリュー・アット・リスク、シミュレーション、クレジット・スコアリング、資本配分、等)、モニタリングの手順、モデルの有効性を検証する手順、ストレス・テスト、バックテスティング、リスク軽減手段の活用(担保・保証、ネッティング契約、与信集中の管理)、限度枠の設定(例えば、与信限度、マーケット・リスクのリミット等)、およびエクスポージャーの定期的見直し、などについての議論も有用であり得よう。
リスク管理手法が向上するにつれ、銀行が透明性を維持することは格別の課題となる。用いられているリスク管理の手法や措置について一般大衆が理解するよう、銀行は意味のある情報開示を継続して行うよう努力しなければならない。
総合的なリスク管理戦略に加え、個々のリスク・エクスポージャーに関する議論には、それぞれのリスク管理戦略を含む必要がある。この点については次の項で詳述する。
市場参加者と監督当局は、金融機関のリスク・エクスポージャーについて定性的・定量的な情報を必要とする。そうした情報には、当該金融機関のリスク管理戦略およびそれらの戦略の有効性も含まれる。銀行の財務状況の開示と相俟って、これらは、当該金融機関の財務体力、存続可能性、そして究極的にはストレス時に事業を継続できる能力を明らかにする一助となる。銀行のリスク・プロファイル、すなわち、ある時点におけるオンバランス、オフバランスの活動に内在するリスクやリスクに対する選好度は、その金融機関の財務状況の安定性や、市場の状況の変化に対する潜在的な収益力の感応度についての情報を提供する。そのうえ、ある銀行のリスク・エクスポージャーの性質・規模を理解することは、その銀行の収益が、引き受けているリスクの水準に照らして妥当か否かを評価することの助けにもなる。
リスク情報のディスクロージャーは、将来のキャッシュ・フローの金額、タイミング、確実度合を評価するうえで役立つ。銀行が活動する場であるダイナミックな金融市場、加速する世界的規模での競争および技術革新の影響により、銀行のリスク・プロファイルは急速に変化し得る。したがって、財務情報の利用者にとっては、長期間にわたって意味があり、根底にある市場の状況の変化に対する感応度を正確に反映するようなリスク・エクスポージャーの指標が必要となる。
伝統的に銀行は信用リスクや、金利・為替リスクを含めたマーケット・リスク、そしてそこまで重視されていないものの、流動性リスク、といったリスクに関連する情報を開示することに重点を置いてきた。これらのリスク分野のそれぞれを議論するにあたり、リスク・エクスポージャーの性質と規模を利用者が理解する助けとなるよう、金融機関は十分な定性的情報(例:経営戦略)および定量的情報(例:ポジション・データ)を提供するべきである。さらに、財務諸表の利用者が基本的なエクスポージャーの推移についての見通しを得られるよう、最近数年間のデータに関する比較情報が提供されるべきである。
オペレーショナル・リスク、リーガル・リスク、戦略リスクといった、他のリスク・エクスポージャーは、数量化するのがより困難ではあるが、適合性は極めて高いかもしれない。これらのリスクの性質やそれらの管理状況についての定性的な情報が提供されるべきである。
多くの金融機関にとって、信用リスクが最も重要なエクスポージャーである。信用リスクは、一義的には貸出ポートフォリオから発生するのが典型的であるが、投資や、トレーディングに係るポートフォリオや他の銀行活動(例:資産証券化、インターバンク貸出、オーバーナイト預金)からも発生する。
ディスクロージャーは、利用者が金融機関の信用エクスポージャーの規模を、合算ベースおよびその主要な構成要素別に理解する助けとなるべきである。さらに、金融機関がどのように信用リスクを管理しているのか、またその管理戦略が有効であったか否かを、財務情報の利用者が理解できるようでなければならない。
透明性を確保するため、金融機関は信用リスクを作り出す業務活動、それらの業務ラインに関する戦略、発生したエクスポージャーの性質および構成について、記述的な情報を提供するべきである。有用なディスクロージャーの例としては、経営戦略、リスク管理の手順、および信用リスクを発生させる活動に関する内部管理についての議論を含むものが挙げられる。加えて、グロス・ポジション(例:貸付、投資、トレーディングおよびオフバランスのエクスポージャー)、取引相手の種類(例:銀行向け・商業向け・政府機関向けの区別、国内向け・国外向けの区別、劣後性資産・担保付および無担保エクスポージャーの区別等)、信用エクスポージャーの集中状況に関し、定量的な情報が提供されるべきである。さらに、現在のデリバティブ契約から生じる潜在的な信用リスク・エクスポージャーに関する情報は、当該エクスポージャーが急速かつ大幅に変化しうるので、有用である。
現在の貸付、投資ポートフォリオ等の主要なカウンターパーティーへのエクスポージャーの質に関するディスクロージャーは、金融機関の将来的な収益力についての重要な情報を提供する。定量的なディスクロージャーには、問題債権および他の資産の総額、延滞債権および他の資産の延滞期間、信用の集中度、ならびにカウンターパーティーの信用度別のエクスポージャーの合計が含まれるべきである。加えて、貸倒引当金に関する情報と、その金額が期間毎にどのように変化したかについての情報が提供されるべきである。
金融機関の信用リスク・ポジションについての理解は、リスク管理戦略の開示によって促進される。例えば、担保・保証の活用、クレジット・スコアリングとポートフォリオ・リスク計測モデルの活用、信用リスク審査部署、ならびに信用エクスポージャーを管理するために行われている業務に関する同様の説明のディスクロージャーは、リスク・エクスポージャーの重大性の評価に役立つ背景情報を提供する。信用枠や内部の信用格付の活用についての情報もまた有用である。 ii)マーケット・リスク
信用リスクと同様、金融機関はマーケット・リスク・エクスポージャーについても、定量的・定性的情報の両者を提供するべきである。マーケット・リスクは、金利、為替レート、株式、コモディティ等の市場金利・価格変動の可能性に起因する。これらそれぞれのタイプのリスクについての金融機関のディスクロージャーは、エクスポージャーの大きさに応じたものであるべきである。
金利リスクが特に銀行に関連したものである以上、経営陣は金利に感応的な資産・負債およびオフバランスのエクスポージャーの性質・規模に関し、詳細にわたる定量情報を提供するべきである。バンキング勘定における有益なディスクロージャーの例としては、固定および変動金利の項目別分類ならびにそれぞれのネット金利収入の明示がある。その他の有用なディスクロージャーとしては、資産・負債のデュレーションや実効金利などがある。これらのディスクロージャーは、資産・負債および関連する利益・損失を識別するべきである。
ディスクロージャーでは、その他にも、金融機関の資産・負債の金利感応度についての情報も提供するべきである。例えば、ある一定の金利変化(上昇あるいは下降)が資産、負債および資本の経済価値に与える影響のディスクロージャーは、金融機関のリスク・エクスポージャーに関する有用で簡潔な指標を提供することとなるだろう。
為替リスク・エクスポージャーの理解を容易にするために、金融機関は通貨別の為替エクスポージャーの主要な集中に関して、ヘッジの有無で区別した要約データを提供するべきである。海外子会社への投資に関する情報(為替リスク)の開示もまた有用である。こうした定量情報は、通貨エクスポージャーの性質、年毎のエクスポージャーの変化、外貨換算の影響、外為取引の収益へのインパクト、およびリスク管理(ヘッジ)戦略の有効性についての説明によって補足されるべきである。
より大きな金融機関にとっては、“バリュー・アット・リスク( VAR)”や “アーニング・アット・リスク(EAR)”の開示により、マーケット・リスクのエクスポージャーについての要約データを提供することもできよう。典型的には、VARとEARのディスクロージャーは、金利リスクと為替リスクについて行われるが、これらのモデルは株式やコモディティに係るリスク・エクスポージャーを総計するために使用することもできる。これらのモデルに関連する具体的なディスクロージャーとしては、日次、週次、ないしは月次ベースでのエクスポージャーの規模、その最大値・最小値および期末値などがある。モデルから算出されたこうした情報を利用者が理解しやすいようにするために、計算で用いられた前提(信頼区間、保有期間等)も併せて開示されるべきである。加えて、報告書の対象期間内の日次ベースの収益またはエクスポージャーの頻度分布図は、リスク・エクスポージャーの変動性についての理解を促進しよう。iii)流動性リスク
流動性とは、銀行が様々な約定を履行するための資金を入手可能にできる能力である。マーケット参加者が金融機関の流動性リスク・エクスポージャーを理解できるようにするために、金融機関は入手可能な流動資産に関する情報とともに、資金の調達先・運用先に関する情報も提供するべきである。例えば、短期資産(例:現金、現金等価物、レポ契約、インターバンク貸出)や短期負債(例:リバースレポ契約、コマーシャル・ペーパー)についてのディスクロージャーは、金融機関の流動性プロファイルに関する基礎的な情報を提供する。キャッシュフロー計算書は資金の調達先・運用先を示し、金融機関が内部的に流動資産を産み出す能力についての指標を提供する。預金者や他の資金提供者の集中度についての情報、預金や他の負債の満期に関する情報、ならびに証券化された資産の総額は、金融機関の流動性を評価するうえで有用である。資金調達の選択肢やコンティンジェンシー・プランの多様性についての記述的な説明は、流動性リスクの金融機関への潜在的インパクトに関する追加的な視点を提供する。 iv)オペレーショナル・リスクおよびリーガル・リスク
金融機関はオペレーショナル・リスクやリーガル・リスクについても開示するべきである。オペレーショナル・リスクの開示には、同リスクの主なタイプについての情報を盛り込むべきであり、また個別に重要と考えられるすべての問題(例:2000年問題)についても識別すべきである。リーガル・リスクの開示は、法的偶発事象(係争中の訴訟を含む)および潜在的な債務に関する説明や推計を含むものである。銀行がどのようにしてこれらのリスクを管理し、コントロールしているのかに関する定性的な情報も提供されるべきである。
市場参加者と監督当局は、財務報告書の作成にあたって用いられた会計方針についての情報を必要とする。会計の方針・実務・手続は国によって異なるばかりではなく、同一国内であっても銀行により異なる。したがって、会計情報の利用者は、情報を正確に読み取るためには、どのようにして各項目が測定されたのかを理解する必要がある。財務報告書の根拠となるような重要な会計方針の開示によって、利用者は、銀行の報告する財務状況や業績に関して信頼できる評価を行うことが可能となる。
会計方針の開示は、以下のものについて行うことが適切であろう。すなわち、一般的な会計原則、会計方針/慣行の変更、連結の原則、資産の減損の認定方針・方法、減損資産からの収益および不稼動債権の損失の認識、特定および一般貸倒引当金の計上方針、収益の認識、評価方針(例:トレーディング有価証券、投資有価証券、貸付金、有形固定資産、無形固定資産、負債)、認識/認識の中止についての方針、証券化、外貨換算、貸付金手数料、プレミアムおよびディスカウント、レポ契約、証券貸借、不動産/固定資産、法人税、およびデリバティブ(ヘッジ取引、非ヘッジ取引、デリバティブの損失)。
(f)基本的な業務、経営およびコーポレート・ガバナンスに関する情報
市場参加者と監督当局が、財務状況、財務上の業績、リスクおよびリスク管理戦略についての銀行のディスクロージャーを正確に評価するためには、銀行の業務、経営およびコーポレート・ガバナンスについての基礎的な情報が必要である。こうした情報は、銀行活動を理解するうえでの適切な視点や道筋を提供する。例えば、銀行が競争を行っている市場における位置付けや、当該銀行の戦略的目標を達成するための戦略および進捗状況についての経営陣の見解は、銀行の将来の見通しを評価するうえで重要である。
法律上、経営上の構造との意味で、銀行の組織は金融機関の基幹業務および市場の変化への適応力についての情報を提供する。さらに、そうした情報は、金融機関の効率性や総合的な強さについての指標を提供することにもなろう。したがって、経営陣の構成(例:役員規模、取締役会直属の委員会、構成員)、上級管理職の構成(責任の所在、報告系統)および基本的な組織構造(業務構造のライン、法人の構成)についての情報を開示することが適当である。加えて、役員や上級管理職の資質・経験についての情報も提供されるべきである。この情報は、金融機関が緊急時にどのような行動をしうるか、また、経済的または競争的環境の変化にいかに反応しうるかを評価するうえで有用であろう。
報酬政策を含む銀行内のインセンティブ構造についての情報、例えば役員報酬の額や業績に応じた賞与・ストックオプションの活用などは、過剰なリスクを取ろうとする役職員のインセンティブを評価するのに役立つ。有益な情報には、役職員に対する報酬についての哲学および方針、報酬決定にあたっての取締役会の役割および報酬総額に関する要点の説明が含まれよう。
また、銀行は関連会社や関係のある主体との取引につき、その内容と規模についての情報を提供するべきである。こうした情報は銀行の財務状況や財務上の業績に対し正または負のインパクトをもたらしうる関係を識別するのに有用である。さらに、それは関連会社が銀行の財務上の業績に与える影響に対し、銀行がどれだけ敏感であるか(伝播リスク< contagion risk>)を評価するのに役立てることができよう。
最後に、金融機関は市場参加者と監督当局が当該金融機関のカルチャーについての広範な理解を得られるよう、一般的な情報を提供することを考慮するべきである。前述されたように、銀行は提供する情報の種類やデータの提供方法を選別するにあたって、革新的な姿勢で臨むべきである。
バーゼル委員会は、銀行の透明性は最重要課題であると考えている。金融市場の参加者が、銀行活動とそれに内在するリスクの評価を可能にする、適時性と信頼性のある情報を入手可能な場合、銀行監督当局の努力は補強される。この目的に向けて、銀行および銀行監督当局は、適切なディスクロージャーを確かなものとする必要がある。
透明性を向上させるために、銀行は、財務報告書やその他の一般向けディスクロージャーの中で、市場参加者による銀行の評価に影響を与えるような重要な要素に関する情報を適時に提供するべきである。本ペーパーでは、以下の 6つの大きな情報のカテゴリーを設定している。これらはすべて、十分な水準の銀行の透明性を達成するうえで有用であるよう、明確な用語でかつ適切な詳細さで説明されるべきである。・ ・ 財務状況(自己資本、ソルベンシー、流動性を含む)・ リスク管理の戦略と体制・ リスク・エクスポージャー(信用リスク、マーケット・リスク、流動性リスク、オペレーショナル・リスク、リーガル・リスク、その他リスクを含む)・ 会計方針・ 基本的な業務、経営およびコーポレート・ガバナンスに関する情報
本ペーパーでは、各カテゴリーでの有用な情報の例が提示されている。監督当局や公的な政策当局は、本ペーパーで示されている提案を考慮に入れつつ、質の高いディスクロージャー基準の奨励やこれらの基準の遵守を確実にするメカニズムの開発に注力すべきである。
バーゼル委員会は、透明性について、実効的に監督されている安全かつ健全な銀行システムにとっての重要な要件と考えている。また、同委員会は、本レポートで識別された分野のいくつかで、より詳細なディスクロージャーの指針を作成することを含め、透明性の促進に向けた努力を継続する所存である。
以 上 |