新たな自己資本充実度の枠組みに関する市中協議ペーパー

 

  1.  このペーパーは、新たな自己資本充実度の枠組みに関する当委員会の提案を呈示している。現行の自己資本合意の長所と弱点について、新しい合意に関する当委員会の目的とともに簡潔に論じられている。

  2.  今日の急速に変化する世界には、広範な基盤を持つ柔軟な自己資本充実度の枠組みが必要である。当委員会は、こうした目的を達成するには、三本の柱、すなわち最低所要自己資本、自己資本充実度に関する監督上の検証、そして市場規律が最適であると考えている。これらの相互補完的な三本の柱は、それぞれ銀行業界全体及び個別行の財務の健全性の両者を監督するうえで必要であるが、いずれも実効的な銀行経営を代替することはできない。

  3.  リスクとリスク管理に焦点を当てることによって、新しい枠組みはますます複雑化する金融市場における技術革新によってもたらされる課題に対応していく潜在力を有する、と当委員会は考えている。更に詳細な当委員会の提案と今後見込んでいる作業については、当ペーパーの付属文書1〜4に示されている。

A.現行自己資本合意の長所と弱点

  1.  1988年の自己資本合意は、国際的に活動する銀行に対する自己資本の最低水準を設定し、そこに、オフバランスシートのエクスポージャーと銀行が低リスク資産の保有を止めないようにすることを一つの目的としたリスク・ウェイト方式を組み込んだ。当初の自己資本合意は主として信用リスクに焦点を当てたものであったが、その後マーケット・リスクに対応するよう改定されている。バンキング勘定における金利リスクや、オペレーショナル・リスク、流動性リスク、リーガル・リスク、レピュテーショナル・リスク等のその他のリスクは明示的には取上げられていない。しかしながら、暗黙裡には、現行の自己資本合意は定量化されないリスクをカバーするための一般的に認知された緩衝を包含した最低比率を設定することによって、こうしたリスクを考慮に入れていた。

  2.  1988年合意とその後の追加・改定は、国際的な銀行システムの健全性と安定性を強化することの一助となり、国際的に活動する銀行の間の競争上の平等性を高めた、と当委員会は考えている。自己資本合意の公表後、主として1988〜1992年の移行期間中に、殆ど全ての国際的に活動する銀行における自己資本比率が大幅に上昇している。こうした傾向は、特に、高い自己資本比率を維持するべきとの市場からの銀行に対する圧力が増しているため、その後も一般的には続いている。多くの国における自己資本合意の広範な採用は、競争上の平等性という目的の達成に向けて貢献した。

  3.  しかしながら、現行の自己資本比率規制を用いて計算した銀行の自己資本比率が必ずしも銀行の財務状態を示す適切な指標ではないというところまで、過去10年間に金融界は大きく発展・進化した。資産をリスク・ウェイト付けする現行の手法は、主として信用リスクのエクスポージャーの程度が十分に測定されていないことから、借入先のデフォルト・リスクに応じて適切に差別化されておらず、せいぜい経済的なリスクの粗い指標でしかない。

  4.  現行の自己資本合意について、もう一つの関連した、深刻化している問題は、銀行が規制上の所要自己資本額をアービトラージし、真の経済的リスクと自己資本合意の枠組みにより計測されたリスクとの差異を利用して利益を得ることができる点である。規制上の自己資本のアービトラージは、証券化の幾つかの形態を利用するなどの様々な手法で行うことが可能であり、それによって銀行のポートフォリオが信用度のより低い資産に集中することに繋がりかねない。

  5.  最後に、取引の種類によっては、自己資本合意はリスク削減手法に対して正当なインセンティブを与えない。例えば、担保に対しては最低限の自己資本軽減効果しかなく、また、自己資本合意は場合によって信用リスク削減手法の活用を抑制する仕組みになっている。

B.新たな枠組みの目的

  1.  自己資本合意が市場の変化に従って進化しなければならないことは明らかである。したがって、当委員会は、以下の監督上の目的に焦点を絞った新しい包括的な自己資本充実度の枠組みに向けて作業を行っているところである。

  1.  自己資本合意は現在の国際金融の枠組みの礎である。そこで最優先される目標は国際金融システムの安全性と健全性を促進することである。十分な自己資本の緩衝が存在することがこの目標の中で中心的なものであり、当委員会は、現在の銀行システム内にある自己資本全体の水準が、新たな枠組みでは、少なくとも維持されるべきであると考えている。

  2.  当委員会は、安全性と健全性の目標を達成するためには、新たな自己資本充実度の枠組みには上記のパラグラフ2に定義されている三本の柱がなければならないと考えている。1988年の自己資本合意は最低所要自己資本を設定しているが、それは引続き新たな自己資本充実度の枠組みでも主要な柱となる。より最近になってから、当委員会は市場規律の価値を強調してきた。当委員会は今回、一部の国においては明示的ないしは暗黙裡に存在していた監督上の検証の柱を明示的にすることにより、この枠組みをさらに前進させることとした。

  3.  第一の柱に関しては、当委員会は現行の自己資本合意では信用リスクに対する自己資本賦課額を算出する手法が非常に高度化されているわけではなく、市場における急速な金融技術革新と金融取引の複雑さの増大によりその妥当性が低下してきていることを認識している。そこで、当委員会は、現在、自己資本合意をより信用リスクに感応的なものとするために、幾つかのアプローチの設定を進めている。こうした作業には、標準的アプローチとして用い得る修正・発展したルールを提案することが含まれる。当委員会は、それと同じ時間的枠組みの中で、銀行自身の内部格付に基いて、一部の先進的な銀行に対する最低所要自己資本を設定する代替的な手法を開発することを目指している。

  4.  自己資本合意が最初に設定されたときには、主として信用リスクをカバーするための最低所要自己資本が対象とされた。賦課された自己資本がその他の種類のリスクをカバーしている限りにおいて、これらは信用リスクと比例的であることが実質的に仮定されていた。当委員会はここで、オペレーショナル・リスクや、金利リスクが平均を大幅に超えている銀行(“outlier”)のバンキング勘定の金利リスクといった、その他のリスクに対し明示的に自己資本を賦課することを提案する。そのような枠組みにおいては、より広い範囲の実際のおよび潜在的なエクスポージャーを正式に勘案することとなろう。

  5.  当委員会は金融部門における競争の便益を十分に認識しており、国際市場で業務を行う銀行についての平等な競争条件(level playing field)の概念を引続き支持している。しかしながら、当委員会は、各国の会計制度、税制、法律、及び銀行の構造の違いが各国の市場の間に避け難い違いを生じさせ、銀行監督上の規準のみでこうした違いの全てに対応できるわけではないことを認識している。そこで当委員会は、第二と第三の柱が、第一の柱で設定された最低所要自己資本を補完する機能を果たすと考えている。

  6.  監督上の検証の柱に関しては、内部的な自己資本審査プロセスを開発し、当該銀行に特有のリスク・プロファイルと管理環境に合致する自己資本の目標値を設定することに、銀行経営陣の意識が向くように監督当局が働きかけるべきである点を当委員会は強調する。こうした内部的プロセスは、監督当局による検証と、適切な場合には介入に服することになろう。

  7.  当委員会はまた、監督当局は銀行システムの安全性と健全性を強化する梃子として実効的な市場規律を促進することに強い関心を有していると考える。実効的な市場規律は、市場参加者が十分な材料に基いたリスク評価を行えるよう、信頼性のある適時の情報を必要とする。当委員会は、自己資本の水準、リスク・エクスポージャー、そして自己資本充実度の情報開示に関するより詳細な指針を本年中に公表することを計画している。

  8.  当委員会は、所要自己資本を設定する基礎として健全な会計・評価実務が決定的に重要であることを認識しており、健全な実務を促進するよう、監督当局が全ての利用可能な手段を尽くすことを強く推奨する。多くの監督当局は、強制力のある規制を通じて会計と開示に関する規準を直接的に課す権限を有しているが、その他の当局は、健全な実務に関する提言を公表したり所管の当局と協調する等、より間接的なアプローチを採用するかもしれない。そこで当委員会は、こうした作業の一環として、貸出金の評価、貸倒引当金の設定及び信用リスクの開示に関する健全な実務についての指針を作成しているところである。

C.適用範囲

  1.  自己資本合意は、銀行グループ全体のリスクを捕捉するべきである。同時に、それはグループ内の個々の銀行の安全性と健全性を取扱うべきである。そのために、銀行グループの親会社である持株会社を、完全連結ベースで含むよう、自己資本合意を拡張することが提案されている。銀行グループとは、主として銀行業務を営んでいるグループであり、国によっては、単体の銀行として登録されているかもしれない。加えて、当委員会は、銀行グループ内の全てのレベルの国際的に活動する銀行に対し、完全連結ベースで自己資本合意が適用されることを明確化する。さらに、監督当局はグループ内のそれぞれの銀行が単独で十分な自己資本を保有していることを確実にすべきである。

  2.  銀行は、他の金融業務、特に証券業と保険業に一段と進出してきている。このため、当委員会は、これらの分野への銀行の投資に対する自己資本規制上の取扱いを明確化する。当委員会はまた、重大な少数持分の投資に対する自己資本上の取扱いについてはこれを明確化し、過半数の資本を所有する事業会社への投資に対する自己資本規制上の適切な取扱いについては、市中の見解を求める。多角化した金融グループに関しては、当委員会は、保険・証券監督当局と共に自己資本充実度に関する基準を整合的にするための作業を継続する必要性を認識しており、金融コングロマリットに関するジョイント・フォーラムによって開発された手法等の適用を支持するものである。

D.三本の柱

1)最低所要自己資本

  1.  最低所要自己資本は、引続き、規制上の自己資本の定義、リスク・エクスポージャーの測定値、およびそれらのリスクとの対比で自己資本の水準を特定する規準から構成される。自己資本の定義に関しては、現段階では、1988年のバーゼル合意で提示された既存の規準(1998年10月のプレス・リリースで自己資本の基本的項目<Tier 1>の定義を明確化)を維持する。規制上の自己資本とリスク・エクスポージャーの測定に関し、資本勘定中の剰余金を決定するうえで、資産・負債および関連する損益の現実的かつ慎重な測定をもたらす健全な会計・評価原則の重要性を当委員会は強調する。脆弱あるいは不適当な会計方針は、過大評価された現実的でない自己資本比率をもたらし、自己資本比率規制の有用性を損ねる。

  2.  リスク・エクスポージャーの測定値に関しては、銀行が取るリスクは以下の三つに分類される。すなわち、信用リスク(特にバンキング勘定の貸出から発生)、マーケット・リスク、およびその他のリスク(バンキング勘定の金利リスクや、オペレーショナル・リスク、流動性リスク、リーガル・リスク、レピュテーショナル・リスクを含む)である。当委員会では、これら三つの主要なリスク・カテゴリーのひとつひとつをより明示的にカバーするように新しい枠組みを拡大すべきであると考える。

  3.  信用リスクに関しては、より包括的にリスクを取扱うとともによりリスクに感応的な自己資本賦課を行うとの目的を達成する方法は、検討を行う期間の長さと銀行および監督当局の技術力によって異なりうると当委員会は考える。当委員会では、最低所要自己資本を設定するための以下のアプローチ、すなわち、既存のアプローチの修正、銀行の内部格付の利用、ポートフォリオ・ベースの信用リスク・モデルの利用、について検討した。

  4.  本市中協議ペーパーにおいて、当委員会は、信用リスクに関する既存のアプローチの修正を提言しているが、それは大多数の銀行の所要自己資本を計算する標準的アプローチとなろう。このアプローチの枠内において、外部信用評価の利用は、一部の信用リスクを峻別する手段を与えてくれる可能性がある。当委員会は、付属文書2に示したソブリンや銀行、特定の企業向け債権や、特定の資産証券化債権等、様々なバンキング勘定資産のリスク・ウェイトを決定する際に、こうした評価の利用を容認することを提案する。銀行向け債権については、二つの選択肢が検討されている。ひとつは銀行が設立されている国に対する評価に基づくもの、もうひとつは銀行の格付そのものに基づくものである。さらに、当委員会では、より高いリスク特性を有する資産について、100%超の高いリスク・ウェイトの導入を考えている。

  5.  当委員会は、外部信用評価機関の評価を規制上の自己資本比率規制のベースとすることを容認する前に、様々な検討が行われなければならないことを認識している。したがって、各国監督当局は、そうした評価機関が透明性、客観性、独立性、信頼性および実績の具備といった最低基準を満たしていることを見極める必要があろう。

  6.  一部の先進的な銀行については、当委員会では、内部格付に基づくアプローチを自己資本賦課額を決定するベースとすることができるであろうと考えている。当委員会では、銀行業界との協議を行いながら、こうしたアプローチに関する主要な論点を検討し、標準的アプローチの見直しと同じ時間的枠組みの中でこれを開発することを目指す所存である。当委員会は、今後作成される協議文書において、この提案についてのより詳細な分析を提示する予定である。

  7.  内部格付を利用している一部のより高度な銀行においては、こうした格付(およびその他の要素)に基づく信用リスク・モデルが開発されている。こうしたモデルはポートフォリオ全体のリスクを把握するように設計されている──外部格付や内部格付のみをベースにしているアプローチには見られない重要な要素である。当委員会では、これらのモデルが一部の銀行のリスク管理システムとして利用されていることを歓迎するとともに、一部の監督当局がリスク管理システムの評価に利用していることを認識している。しかし、利用可能なデータの存在やモデルの有効性等、数多くの問題があるため、現時点では、規制上の自己資本比率を設定するうえで、信用リスク・モデルが明示的な役割を果せる段階にはないことも明らかである。当委員会では、さらなる開発とテストの後に、それがどのように利用可能となるかを検証する予定であり、本件に関する進展を注意深くモニターして行く所存である。

  8.  最近のクレジット・デリバティブ等の信用リスク削減手法も、銀行のリスク管理を相当程度向上させることを可能とした。自己資本合意は、時として、所要自己資本を削減するものとして認識されるヘッジの種類や所要自己資本の削減額に制限を設けることにより、特定の形態の信用リスク削減策を優遇してこなかったかもしれない。また、信用リスクに対する不完全なプロテクション(期間ミスマッチ、資産ミスマッチ、ヘッジに関し将来発生する潜在的エクスポージャー)の取扱いも定まっていなかったため、国ごとに異なる取扱いが発生した。当委員会では、付属文書2で議論されているように、クレジット・デリバティブや担保、保証、オンバランスシート・ネッティングを包括する信用リスク削減手法に対するより整合的、経済学的なアプローチを提案する。

  9.  当委員会は、債権のマチュリティは、当該債権が銀行に対して与える信用リスク全体を決定するうえでの一要素であることを認識している。当委員会は、現時点では、極めて限定的なケースを除き、債権のマチュリティを自己資本比率規制上考慮することを提案しない。しかし、当委員会では、エクスポージャーの信用度をより厳密に峻別する方法を探求する作業を進める中で、より明確にマチュリティを信用リスクの評価に取入れていく方法を検討する予定である。

  10.  当委員会は、自己資本合意のマーケット・リスク部分についても、バンキング勘定とトレーディング勘定の取扱いの整合性を高めるとともに、トレーディング勘定に対する所要自己資本の適切なカバレッジを確保するために、どのような変更が必要か検討することとしている。当委員会では、また、トレーディング勘定とバンキング勘定の取扱いの両方の文脈で、「レバレッジの高い業務を行う機関」に関する最近の2つのペーパーで示されている提言をフォロー・アップする方法を検討することとしている。

  11.  当委員会のオペレーショナル・リスクに関するペーパーは、非公式のサーベイ結果を含んでいるが、そこでは信用リスクやマーケット・リスク以外の、例えば、オペレーショナル・リスク等、最近、幾つかの重大な銀行問題の核心となったリスクに対する重要性の認識が高まっていることについて強調している。当委員会では、そうしたその他のリスクに対する所要自己資本の賦課方法を開発することを提案する。現在、検討中の提案の中には、収入ないし費用、総資産等の事業活動の状態に関する測定値、ないしは、将来的には内部測定システム等をベースに所要自己資本を賦課する方法や、個々の業務系統を評価するために用いられる共通の尺度に基づいて高いオペレーショナル・リスクを伴う業務に対しては差別的な賦課を行う方法が挙げられている。キャピタル・アービトラージの可能性やそのことによって生じるリスク管理の改善に対する負のインセンティブ、そして特定の種類の銀行に対する所要自己資本のインパクトには特段の注意が払われる必要があろう。オペレーショナル・リスクに関する管理プロセスや内部測定方法の質の高さ(integrity)といった定性的要素が考慮されるべきであろう。当委員会では、考え得る具体的な方法について金融業界との議論を期待する。

  12.  さらに、当委員会は、銀行のリスク・プロファイルや市場の状況によって、一部のバンキング勘定内の金利リスクが非常に大きくなることを以前から認識していた。したがって、当委員会では、金利リスクが平均値を相当程度上回る銀行(“outlier”)の、バンキング勘定における金利リスクに対する所要自己資本の賦課方法を開発することを提案する。当委員会は、outlierの定義及びバンキング勘定における金利リスクの計測手法には、なにがしかの各国裁量が必要であろうと認識している。同時に、当委員会の1993年の「銀行の金利リスク測定フレームワーク」に関するペーパー中で言及されている、outlierである銀行を識別する手法の進展状況を、当委員会としては吟味していくことを考えている。当委員会では、所要自己資本の賦課方法(各国裁量をどのように認めるかを含む)について、監督当局の検証に服することを条件に内部測定システムを利用することも含め、検討し、金融業界からのコメントを求める予定である。

2)自己資本充実度に関する監督上の検証

  1.  当委員会は、監督上の検証を、国際的に活動する銀行に対する自己資本の枠組みの不可欠な一部として、また最低所要自己資本と市場規律という柱を補完するものとして、明示的に認識している。監督当局が銀行の自己資本のポジションを検証する目的は、そのポジションが当該銀行全体のリスク・プロファイルと戦略に整合的であることを確保することであり、その自己資本が十分にリスクに対する緩衝を提供しない場合に早期の介入を可能とすることである。このプロセスは、以下の4つの基本的で補完的な原則に基づいている。

  1.  当委員会は全ての国際的に活動する銀行に対し、自らの自己資本充実度を評価する実効的な内部プロセスを持つことを期待する。銀行はこの努力を行うにあたり、リスクの主観的な計測値、厳格な資本配分手法、及び内部モデルを含む様々な技術を用いることができよう。当委員会はまた、実際の自己資本の水準や構造に関する銀行の判断は、暗黙裡ないしは明示的な規制に関する期待や、同規模他行との比較、市場の期待やその他の定性的要因を含む、経営判断に基づく考察を引続き大幅に反映するであろう、とも認識している。選好する手法の如何に拘らず、各銀行は内部で設定した自己資本の目標値が十分に根拠があることを示せなければならず、自行の仮定を支持するための堅確で適切なストレス・テストのプロセスを有しているべきである。

  2.  監督当局は、オンサイトの検証、オフサイトでの監視、及び内部・外部監査人の作業の検証を通じて、現在でも銀行の自己資本充実度を検証し、評価している。当委員会はまた、監督当局が銀行の内部的な自己資本充実度の審査を検証し、銀行自身が設定した自己資本の目標値について議論することを期待する。銀行の包括的な自己資本充実度を評価するにあたり、監督当局は当該銀行のリスク選好度とリスク管理の実績、銀行が業務を行っている市場の性質、収益の質・信頼性及び変動性、健全な評価・会計基準の遵守状況、業務の多様性、そして国内・国際金融市場における相対的重要性を含む、様々な要素を考慮しなければならないだろう。

  3.  全ての監督当局はまた、自己資本水準の低下により業務上のショックに銀行が耐えられるかどうかが疑問視される場合に、それを識別し、銀行に介入する手法を有しているべきである。早期介入の必要性は、多くの銀行の預金債務が短期である一方、多くの銀行資産が相対的に長期で非流動的であること、及び銀行が迅速に自己資本を調達する手段が限られていることから生ずる。

  4.  もちろん、こうした監督プログラムは、殆どの銀行監督当局にとって重大な資源上のインプリケーションを持ち、この作業を実施するのに必要となる監督当局の人員の数と技術水準が考慮に入れられるべきであろう。また、こうした監督プログラムは、国際的に活動する銀行のリスク・プロファイルを評価するため、そして国境を超えた基準の共通性を確保するために、銀行監督当局間の緊密な協調を必要とする。

  5.  当委員会は、これらの目標の達成に向け、銀行、監督当局双方の進歩を歓迎する。このことに関し、当委員会は以下の分野で将来の作業の可能性があると考えている。

3)市場規律

  1.  市場規律は、潜在的に、銀行および金融システムの安全性と健全性を促進するための自己資本規制やその他の監督上の努力を強化する。市場規律は、銀行に対し安全で健全かつ効率的に業務を行う強いインセンティブを課す。また、銀行のリスク・エクスポージャーから生じる潜在的な将来損失に対する緩衝として高い自己資本を維持するインセンティブも与える。当委員会は、監督当局が、銀行システムの安全性・健全性を強化する手段として効果的な市場規律を促進させることに強い関心を有していると考えている。

  2.  当委員会のペーパー「銀行の透明性の向上について」10では、市場において健全でうまく経営されているとみなされる銀行が、リスクが高いとみなされる銀行よりも、投資家、債権者、預金者、およびその他の取引相手と、より有利な取引条件を獲得する傾向があることについて議論している。銀行の取引相手は、よりリスクを抱えている銀行に対して、より高いプレミアムや追加的な担保、その他の取引や契約関係上の安全手段を要求する。こうした市場の圧力は、銀行が資金を効率的に配分することを促進し、システム全体のリスクの封じ込めに役立つ。

  3.  当委員会は、銀行の金融市場に対する依存度や資本構造が異なり、その結果、市場規律の潜在的な力が国内外で異なっていることを認識している。実効的な監督上の枠組みと適切なパブリック・ディスクロージャーは不可欠ではあるが、市場規律のためのあらゆるインセンティブが適切に存在するようにすることは、銀行監督当局の権限ではない。例えば、預金を完全に保証されているために全くリスクを負っておらず、それゆえ規律を課す動機を持たない預金者からは、銀行は市場規律を受けないかもしれない。しかしながら、如何なる国際的に活動する銀行であっても、市場と一般市民の判断から完全に遮断されることを期待できるものではない。

  4.  実効的な市場規律は、取引相手が十分にリスク評価ができるような信頼性および適時性のある情報を必要とする。銀行は、損失の緩衝として保有している自己資本に係るすべての主要な性質や、損失をもたらし得るリスク・エスクポージャーに関する情報を、公けにかつ適時に開示すべきである。このことによって、市場参加者は、銀行が支払可能な状態を維持する能力を評価できる。こうした情報は、最低限、年次の財務報告書で開示されるべきであり、また銀行の財務状況や実績、業務活動、リスク・プロファイル、およびリスク管理活動に関する詳細な定量的・定性的情報を含むべきである。

  5.  当委員会は、銀行監督当局が開示基準を設定する法的権限は各国間で異なることを認識している。多くの監督当局が強制的な規制を通して直接的に開示要件を設定する権限を有しているが、その他の監督当局は、健全な実務に関する提言を公表するなど間接的なアプローチを用いるかもしれない。

  6.  現在、当委員会は、市場参加者とのインタビューを実施し、大規模で国際的に活動している銀行の実際の開示の実務を検証している。当委員会は、こうした問題を調査しているその他の団体と連携して、自己資本の枠組みにおける第三の柱を強化することを企図した、パブリック・ディスクロージャーに関するより包括的な指針を作成することを提案する。

E.自己資本合意の対象範囲

  1.  1988年の自己資本合意はG10諸国の国際的に活動する銀行向けに設計されたものであった。その後自己資本合意は世界中で採用・適用され、多くの国において国際的に活動する銀行だけでなく、完全に国内的な銀行にも適用されている。100カ国以上が自己資本合意を採用しており、世界中の健全性規制がより整合的になってきている。

  2.  新しい自己資本合意の焦点は今回も国際的に活動する銀行であるものの、三つの柱に具体化されているその原則的な考え方は、一般的に、どこの法域のどの銀行であっても適用可能である。それぞれの状況は十分に勘案されるべきである。例えば、多くの非G10諸国は、マクロ経済レベルでより大きな変動を示している。さらに、監督当局は、自己資本合意に示されている不可欠な前提条件が満たされているかどうか──例えば健全な会計原則・実務が備わっているか──を慎重に検討する必要があり、必要な場合には適切な措置を採らなければならない。個別銀行の状況(例えば、規模、多角化、リスク管理システム、リスクの度合い)と監督当局の状況(監督上の検証に利用可能な資源等)は、全て、何時、如何に個別国で自己資本合意を適用できるかに関係する事柄である。

  3.  経済状況の大幅な変動に晒されている国の監督当局は、より高い所要自己資本を設定することを検討すべきである。一部の監督当局は、既にそうした環境を勘案して実際により高い所要自己資本を銀行に賦課している。

  4.  当委員会は、世界中の銀行の安全性は監督当局が自己資本合意の三つの柱を完全に実施し、実効的な銀行監督のためのコアとなる諸原則11を採用することにより最も良く達成されると考えている。その見返りとして、これによって当該国が首尾よく世界経済と結び付き、国際的な資本フローの便益を獲得する展望が強まろう。当市中協議ペーパーを準備する過程で、多くの非G10諸国の監督当局の協力、特に最近の金融危機から得られた自己資本充実度に関する教訓、に対して、当委員会は謝意を表明する。

  5.  当委員会は、急速に進化する金融市場と金融機関を前に、銀行システムの安全性と健全性を促進することに関心を持つ全ての主体にとって可能な限り有益な新しい自己資本合意を開発したいと思っている。したがって、当委員会は、証券監督者国際機構(IOSCO)、保険監督者国際機構、金融安定化フォーラム、金融コングロマリットに関するジョイント・フォーラムおよびその他の団体をはじめとする世界中の銀行監督当局やその他の監督当局と、引続き緊密に協調していく所存である。

F.次のステップ

  1.  当ペーパーは市中協議用に公表されるものである。コメントは、2000年3月31日までに、関係する各国の監督当局と中央銀行、またはバーゼル銀行監督委員会(住所:The Basel Committee on Banking Supervision, Bank for International Settlements, CH-4002 Basel, Switzerland; ファックス:41-61-280-9100、電子メール:BCBS.Capital@bis.org)に提出されたい。

  2.  当委員会は、最近、当市中協議ペーパーを補完する目的で信用リスク・モデリングに関するペーパーを公表した。また、内部格付に関するもの等、さらなる市中協議ペーパーを公表する予定である。当委員会は、これらのペーパー全てに対するコメントと、本ペーパーに示されている将来の作業を受けて、全体の枠組みを包括するより具体的なペーパーを2000年中に公表する予定である。


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