平成11年 4月 8日
金融監督庁検査部

(別添1)

金融検査マニュアル検討会「最終とりまとめ」の概要

  

 金融監督庁においては、検査官が金融機関を検査する際の手引書(マニュアル)を整備するため、昨年8月、検査部内に、法律家、公認会計士、金融実務家等をメンバーとする「金融検査マニュアル検討会」を設置し、検討を進めてきた。昨年12月22日に「中間とりまとめ」を公表し、これに対するパブリックコメント等を踏まえ検討を重ね、合計24回にわたる審議の結果、本日、その最終的な成果として具体的なマニュアル案を内容とする「最終とりまとめ」をまとめ、公表するに至った。

 

I .概要

1.  我が国金融システムの安定と再生を図り内外の信頼を回復するためには、不良債権の処理、業務再構築やリストラ、情報開示等に取り組むとともに、検査マニュアル等の整備等を通じて検査監督体制の一層の充実を図っていく必要がある(金融再生トータルプラン、緊急経済対策)。金融検査マニュアル等の整備・公表は、監督当局の検査監督機能の一層の向上及び透明な行政の確立に資するだけでなく、金融機関の自己責任に基づく経営を促し、もって金融行政全体に対する信頼の確立につながるものと期待される。
 
2.  本検査マニュアル案の作成に当たっては、金融検査は自己責任原則に基づく金融機関の経営を補強するためのものであるとの考え方を基本に、
 
(1)  従来の当局指導型から、自己管理型への転換を進める(検査は、金融機関自身の内部管理と会計監査人等による厳正な外部監査を前提として、内部管理・外部監査態勢の適切性を検証するプロセス・チェックを中心とする)、
 
(2)  従来の資産査定中心の検査から、リスク管理重視の検査へ転換を図る、ことに重点を置いている。

 また、諸外国の金融検査を巡る動向やバーゼル銀行監督委員会における議論を勘案するなど、グローバル・スタンダードを踏まえて作成している。
 

3.  本検査マニュアル案では、法令等遵守態勢及びリスク管理態勢について、各々チェック・リスト等により、検査を行う際のチェック・ポイントを示している。

 まず、法令等遵守態勢については、経営陣(注1)が金融機関の社会的責任と公共的使命を柱とした企業倫理を構築し、法令等が遵守される体制を整備しているかをチェックすることとしている。

 また、リスク管理態勢については、自己責任原則の下、監査役を含めた経営陣、そして会計監査人等の役割と責任を明確化するとともに、当局による検査において経営陣等が各種リスク管理の重要性を認識し、リスク管理のための方針を策定し、体制の整備等を行っているかをチェックすることとしている。

(注1) 本検査マニュアル案においては、経営陣の役割について「取締役会」において決定するべき項目と「取締役会等」(取締役会のほか、常務会、経営会議等を含む。)において決定するべき項目の2つに分けている。
 
4.  なお、本検査マニュアル案は、邦銀の海外拠点及び外国銀行の在日支店も含め、全ての預金等受入金融機関を対象とすることを予定している。

 また、金融検査マニュアルはあくまでも検査官が金融機関を検査する際に用いる手引書として位置づけられるものであり、各金融機関においては、自己責任原則の下、このマニュアル等を踏まえ創意・工夫を十分に生かし、それぞれの規模・特性に応じたより詳細なマニュアルを自主的に作成し、業務の健全性と適切性の確保に努めることが期待される。

 マニュアルの各チェック項目(注2)は検査官が金融機関のリスク管理態勢等を評価する際の基準であり、これらの基準の達成を金融機関に直ちに法的に義務づけるものではない。マニュアルの適用にあたっては、機械的・画一的な運用に陥らないよう配慮する必要があり、チェック項目に記述されている字義通りの対応がなされていない場合でも、業務の健全性及び適切性確保の観点からみて、対応が合理的なものであり、チェック項目に記述されているものと同様の効果がある、あるいは金融機関の規模や特性に応じた十分なものである、と認められるのであれば、不適切とされるものではない。したがって、検査官は、立入検査の際に金融機関と十分な意見交換を行う必要がある。

 なお、検査における指摘が直ちに特定の監督上の措置に結びつくわけではない。

(注2) 本検査マニュアル案においては、チェック項目を以下の3つに区分している
 
(1)  チェック項目の語尾が「しているか」又は「なっているか」とあるのは、特にことわりのない限り、全ての金融機関に対してミニマム・スタンダードとして求められる項目である。したがって、検査官は各チェック項目を確認の上、その実効性を十分検証する必要がある項目である。
 
(2)  チェック項目の語尾が「望ましい」とあるのは、特にことわりのない限り、全ての金融機関に対してベスト・プラクティスとして望まれる項目である。したがって、検査官は各チェック項目の確認をすれば足りる項目である。
 
(3)  さらに、両者を組み合わせて、国際統一基準により自己資本比率を算定している金融機関にあっては(1)、国内基準により自己資本比率を算定している金融機関にあっては(2)としている項目がある。

 

II .各マニュアル案の概要

1.法令等遵守態勢(コンプライアンス)のチェックリスト

  本チェックリストでは、取締役や監査役に求められている役割を明らかにしているほか、コンプライアンスを実現するための施策等を明記し、取締役等のコンプライアンスに対する自覚を求め、コンプライアンス重視の企業風土醸成により、金融機関としての公共性を発揮することを促している。
 

2.リスク管理態勢
 
(1) リスク管理態勢のチェックリスト(共通編)

本チェックリストにおいては、金融機関の抱える各種リスクを管理するにあたって、全てのリスク管理に共通するチェック項目を、バーゼル銀行監督委員会の「銀行組織における内部管理体制のフレームワーク」の原則を踏まえ整理している。

本チェックリストの各項目は、金融機関経営に際して当然実践されるべきリスク管理の基本であり、特に金融機関の取締役が認識し実践することが求められるものである。

具体的には、取締役、取締役会、取締役会等、監査役、管理者それぞれの認識と役割等を明記し、取締役等にリスク管理に対する自覚を求めているほか、金融機関としてのあるべきリスク管理態勢の整備を促している。
 

(2) 信用リスク管理態勢のチェックリスト及び信用リスク検査マニュアル

本チェックリストにおいては、与信集中の排除等のポートフォリオ管理の重要性を強調するとともに、信用格付の導入、信用リスクの計量化を促している。

また、信用収縮に対する懸念に配慮し、チェックリストに「円滑な資金供給を行っているか」、「金融検査マニュアルを理由とした資金供給の拒否や資金回収等の不適切な取扱いを行っていないか」をチェックする項目を設けている。

 信用リスク検査マニュアルにおいては、自己査定に関する検査について、旧大蔵省金融検査部の「資産査定について」の通達をベースとしつつ、債務者区分を判定する場合の判断基準の明確化(特に関連ノンバンクを含む金融支援先の査定方法の明確化)等を図っている。なお、判断基準は債務者を区分する際の目安であり、債務者区分の判定に当たっては、定量的な判断だけでなく、業種の特性等を踏まえた総合的な判断が必要である。特に、中小企業等向けの与信に対しては、どの債務者区分の判定の際にも、当該企業の財務状況のみならず、代表者等の資産等をも勘案して判断する必要がある旨を明記している。

 償却・引当に関する検査についても、償却・引当基準の一層の明確化を図るとともに、貸倒引当率等の算定方法の適切性、償却・引当額の水準の適切性について検査を行うこととしている。また、要注意先に対する引当は、信用リスクの程度に応じて区分毎に行うことを基本とし、例えば要管理先債権とそれ以外のものに区分して行っている場合には、妥当と判断できることも明確化している。

 自己査定及び償却・引当に関する検査を踏まえ、自己資本比率がどのような影響を受けるのか等についても検査において検討することとしている。
 

(3) 市場関連リスク管理態勢のチェックリスト

本チェックリストは、旧大蔵省金融検査部の「市場関連リスク管理態勢のチェックリスト」と「海外拠点検査のチェックリスト」を一本化した上で、金融環境の変化に対応し金融機関の市場関連リスクの管理態勢レベルの向上を求めているまた、自己資本比率に係るマーケット・リスク規制やトレーディング勘定についてのチェック項目を新たに設けるなど内容の充実を図っている。
 

(4) 流動性リスク管理態勢のチェックリスト

本チェックリストは、流動性管理の重要性が非常に高まっている昨今の金融情勢を踏まえ、特に資金繰りリスクに重点を置いて作成している。

具体的には、資金繰りの逼迫度に応じた管理手法等の規定の整備、円貨・外貨及び国内拠点・海外拠点の資金繰りの統合管理、オフバランス取引、コミットメントライン、調達先の分散状況等を考慮した調達可能額の把握等について記し、流動性リスクの適切な管理態勢の確立を促すこととしている。

なお、市場流動性リスクについては、「市場関連リスク管理態勢のチェックリスト」に盛り込まれており、その中でチェックすることとしている。
 

(5) 事務リスク管理態勢のチェックリスト

事務リスクについては、従来、現物検査、実地検査を通じて把握した状況を基に事務管理態勢のチェックを行っていたが、本チェックリストでは、基本的に本部検査等を通じて事務リスク管理態勢のプロセス・チェックを行うこととしている。

具体的には、事務リスクの適切な評価(計量化を含む。)を行うことを促しているほか、網羅的な事務規定の整備、自店検査の機能発揮について明確化し、事務管理態勢の整備状況をチェックすることとしている。また、顧客保護の徹底を図るとともに、融資先の財務情報など個別企業に関わる情報については、特に厳重かつ慎重に扱うことを求めている。

(6) システムリスク管理態勢のチェックリスト

本チェックリストは、旧大蔵省金融検査部の「コンピュータシステム及びコンティンジェンシープランチェックリスト」をベースに作成しているが、従来の、システム安全対策やコンティンジェンシープランのチェックについては、財金融情報システムセンター(FISC)の手引きを活用することとし、当局の検査においては主にシステムの企画・開発体制や管理・運営体制の状況のチェックに重点を置いている。

具体的には、システム戦略やセキュリティーポリシーの明確化を求めているほか、内部監査時の監査証跡(オーディット・トレイル)の確認を促している。また、コンティンジェンシープランの策定に当たっては、システミックリスクも考慮することを促している。
 

以 上


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(別添2)

金融検査マニュアル案(中間とりまとめ)の見直しについて

 


 

「最終とりまとめ」

 

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