第3章  金融検査の実施状況

 

第1節  平成10検査事務年度の検査計画及びその実績
 
I  平成10検査事務年度の検査計画(資料3−1−2参照)
 
.現下の金融情勢においては、金融機関等の不良債権の処理が最重要かつ喫緊の課題であることから、金融検査においても、金融機関等の不良債権の実態を的確に把握し、不良債権の処理の促進に資することが求められている。
 また、近年における金融機関等を取り巻く経営環境の大きな変化、金融取引の著しい高度化・国際化、金融機関等を巡る不祥事の増加を踏まえ、ルール遵守状況、リスク管理状況等について的確に実態把握することも必要である。
 
.このような状況を踏まえ、平成10年7月から平成11年6月までの平成10検査事務年度においては、次に示す事項に重点を置いて金融検査を実施することとした。
 
(1)  金融機関等の自己査定と公認会計士等による外部監査を前提に、自己査定の正確性、償却・引当の適切性について実態把握する。そのため、緊急的対応として、日本銀行と連携しつつ、平成10年7月半ば以降、主要19行に対する検査を実施するとともに、地方銀行、第二地方銀行についても同様の検査を、順次、実施する。
 
(2)  金融機関等における自己責任原則を前提にルール遵守体制、リスク管理体制の整備状況及びその機能発揮状況等について実態把握する。
 
(3)  また、コンピュータ2000年問題への対応状況についての実態把握に重点を置いた検査も実施する。
 
 こうした検査基本方針に基づき、限られた検査要員の中で、厳正で実効性ある検査の実施に努めているところである。

 

II  平成10検査事務年度(この1年間)における検査の実施状況(資料3−1−4〜12参照)
 
 銀行については、金融再生トータルプランに盛り込まれたとおり、その資産内容等の実態把握のために、主要行・地方銀行・第二地方銀行に対し集中的に検査を実施したのに加え、一部の銀行についてはコンピュータ2000年問題に関する検査、内部モデルに関する検査等を集中検査とは別に実施したことから、検査計画に比べ着手件数は増加している。
 信用金庫については、銀行と同様に、その資産内容等の実態把握のために、資産の健全性等に係る検査を中心に行った結果、検査計画に比べ、着手件数は増加している。
 保険会社については、銀行に対する集中検査等の影響を受け、検査計画に比べ、着手件数は減少している。
 証券会社等のうち、投資顧問業者への検査については、銀行に対する集中検査等の影響を受け、検査計画より大幅に減少しているものの、証券会社への検査については、検査計画とほぼ同じ着手件数となっている。

 

第2節  銀行に対する金融検査
 
I  都市銀行・長期信用銀行・信託銀行に対する金融検査
 
.主要行(17行)に対する検査・考査の実施状況
 
 平成10年7月に政府・与党がとりまとめた「金融再生トータルプラン(第2次とりまとめ)」において「緊急的な措置として金融監督庁は日本銀行と連携しつつ、主要19行に対し、集中的な検査を実施」するとの方針が示されたことも踏まえ、平成10年3月期決算における各行の自己査定結果の報告を基に、平成10年7月から日本銀行と連携しつつ、都市銀行9行・長期信用銀行1行・信託銀行7行の主要17行に、現在特別公的管理となっている日本長期信用銀行、日本債券信用銀行を加えた19行に対して、集中的な検査を実施した。
 検査においては、各行の自己査定基準及び償却・引当基準の妥当性並びに自己査定の正確性等について検証するとともに、当局査定結果に基づく要追加償却・引当額を各行に対して通知した。また、監督部門においては、検査において指摘された事項について事実確認、発生原因分析、改善策等の報告を求めるなど、検査終了後のフォローアップを実施している。
 なお、検査・考査に当たっては、1行当たり平均して、20.8日間の立入日数で、12.0人を投入した。
 
.主要行(17行)に対する検査・考査結果の概要(資料3−2−2〜3参照)
 
(1)  自己査定態勢及び償却・引当態勢
 自己査定態勢及び償却・引当態勢については、概ね整備されているものの、一部に今後、更に充実・強化が必要なところが見られた。
 
(2)  自己査定基準
 自己査定基準については、その内容の一部に問題が認められたので、大半の銀行に改善を求めたが、総体としては当局の「資産査定について」通達に対応しており、概ね妥当であった。
 
(3)  償却・引当基準
 償却・引当基準については、その内容の一部に問題が認められたので、大半の銀行に改善を求めたが、総体としては日本公認会計士協会の「銀行等金融機関の資産の自己査定に係る内部統制の検証並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」に整合しており、概ね妥当であった。
 
(4)  自己査定の正確性
 自己査定の正確性については、関連会社や大口メイン先の分類誤り等、当局査定と自己査定が相違しているものが全行において認められた。

 なお、日本長期信用銀行及び日本債券信用銀行については、 III 分類及び IV 分類の乖離が大きく、特に IV 分類の乖離額は17行の合計を上回っている(詳細については、第3章第7節を参照のこと。)。
 

 

(5)  償却・引当の適切性
 償却・引当の適切性については、自己査定が正確に行われていないほか、償却・引当基準自体に問題が認められたことなどから、全行について償却・引当額の追加が必要であると認められた。
 

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 なお、日本長期信用銀行・日本債券信用銀行の要追加償却・引当額は、 III 分類及び IV 分類が大幅に増加したことなどから、多額なものとなっている。

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(6)  ディスクロージャーの適切性
 不良債権(旧基準)のディスクロージャーについては、若干の開示漏れ、区分誤り等が認められるが、概ね適切に開示されている。
 リスク管理債権(新基準)のディスクロージャーについては、全国銀行協会連合会の統一開示基準により平成10年3月期から自主的に開示しているが、貸出条件緩和債権については、基準を各行が区々に定義しているため、統一性を欠く状況となっている。
 
(7)  監査の改善・強化の必要性
 自己査定基準、償却・引当基準の誤りがあったほか、大半の銀行で償却・引当不足等が認められたため、内部監査の改善・強化はもとより、外部監査についても改善・強化のための具体的方策を講じる必要がある。

 

II  地方銀行に対する金融検査(資料3−2−4〜5参照・この項に限り平成11年6月22日現在)
 
 地方銀行(「地方銀行協会加盟行」を指す。)64行についても、平成10年3月期における自己査定及びそれに基づいた償却・引当の実施状況を的確に把握するため、大蔵省財務局、日本銀行と連携しつつ、平成10年7月から、順次、検査・考査に着手し、平成10年12月には、その全行について立入検査を終了した。
 なお、検査・考査に当たっては、1行当たり平均して、16.8日間の立入日数で、9.1人を投入した。

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III  第二地方銀行に対する金融検査(資料3−2−6参照)
 
 第二地方銀行(「第二地方銀行協会加盟行」を指す。)60行についても、平成10年9月期及び平成11年3月期における自己査定及びそれに基づいた償却・引当の実施状況を的確に把握するため、大蔵省財務局、日本銀行と連携しつつ、平成10年10月から、順次、検査・考査を開始し、平成11年5月には、その全行について立入検査を実施している。
 なお、検査・考査に当たっては、1行当たり平均して、17.2日間の立入日数で、8.0人を投入した。

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IV  その他の銀行に対する金融検査
 
 主要行、地方銀行及び第二地方銀行に対しては集中検査を実施したところであるが、このほかに外国銀行の支店、外資系信託銀行及び信託子会社に対しても、資産の健全性、リスク管理の状況、法令等の遵守状況に関する実態把握を行うため、順次、検査を実施することとし、平成11年5月末までに、外国銀行の支店等4拠点及び都市銀行の信託子会社1行に対して、その業態の特性に応じた検査を実施している。

 

第3節  その他の預金取扱金融機関に対する金融検査
 
I  信用金庫に対する金融検査
 
 信用金庫は、平成10年3月末現在で401金庫あり、銀行と同様、平成10年4月から早期是正措置が導入されたことから、金庫自身による自己査定等を前提に、その自己査定の正確性、償却・引当の適切性を早急に実態把握することが必要となった。このため、平成10検査事務年度においては、平成11年5月31日現在で、大蔵省財務局において、資産の健全性等に係る検査を中心に137金庫に対して検査に着手し、そのうち61金庫に対して大蔵省財務局長から検査結果を通知している。
 なお、検査に当たっては、1金庫当たり平均して12.6日間の立入日数で、6.4人を投入している。

 

II  労働金庫に対する金融検査
 
 労働金庫は、平成10年3月末現在で47金庫あり、労働金庫法に基づき金融監督庁と労働省の共管となっている。このため、検査についても、大蔵省財務局と都道府県(機関委任)が共同で実施しており、平成10検査事務年度においては、平成11年5月31日現在で、資産の健全性に係る検査を中心に8金庫に対して検査に着手した。検査においては、銀行と同様に、各金庫の自己査定の正確性、償却・引当の適切性等について検証し、6金庫に対して大蔵省財務局長及び都道府県知事から検査結果を通知している。
 なお、検査に当たっては、1金庫当たり平均して9.7日間の立入日数で、大蔵省財務局の職員のほか、都道府県及び労働省の職員も含めて9.2人を投入している。

 

III  信用組合に対する金融検査
 
 都道府県の区域内を地区とする信用組合については、基本的に都道府県が検査を実施することとなっている。しかしながら、協同組合による金融事業に関する法律第7条の規定に基づき、都道府県知事が要請し、かつ金融監督庁長官(大蔵省財務局長)が必要があると認める場合には、大蔵省財務局と都道府県が共同で検査を実施しており、平成10検査事務年度においては、平成11年5月31日現在で、8信用組合に対して共同検査に着手した。共同検査においては、都道府県の要請に応じ、当該信用組合の資産内容の的確な実態把握を中心とした検査を実施しており、7信用組合に対して大蔵省財務局長及び都道府県知事から検査結果を通知している。
 なお、検査に当たっては、1組合当たり平均して13.3日間の立入日数で、大蔵省財務局及び都道府県の職員を6.7人投入している。

 

第4節  証券会社等に対する金融検査
 
I  証券会社等の検査における留意事項
 
 証券会社等の設立が平成10年12月に免許制から登録制に移行したことに加え、株式委託手数料の自由化等による競争の促進や顧客資産の分別管理の義務化が証券会社等の経営に与える影響にも留意する必要性が高まっていることから、検査を通じた財務内容の的確な実態把握が従前にも増して重要となっている。

 

II  証券会社等の検査における重点事項
 
 上記 I に示した状況を踏まえ、証券会社等に対する検査に当たっては、次の点に重点を置いて実施している。
 
(1)  引き続き証券会社等の財務内容を的確に実態把握する。
 
(2)  経営破綻した証券会社等についても、行政上の必要に応じ、破綻の原因の究明を含め、適時、的確に、その実態把握を行う。
 
(3)  証券会社等の自己責任原則を前提に、リスク管理状況等を的確に実態把握する。その際、ビッグバンの本格化に伴い、我が国への進出が増加している外国証券会社等に対して、その内部管理態勢及びリスク管理状況等に重点を置いて実態把握する。
 
(4)  金融システム改革によって証券会社の業務が大幅に自由化されることに伴い、新しく行われる業務については、的確にリスクの把握・管理が行われているか等の実態把握を行うとともに、平成11年4月から証券会社等は顧客から預託を受けた有価証券等を自己の固有財産と分別して保管することが義務付けられたことから、早期是正措置制度の基盤となる自己資本規制比率のチェックと合わせ、これらのルール遵守状況に重点を置いて実態把握する。
 
(5)  金融機関の証券子会社、証券投資信託委託業者、投資顧問業者の業務運営については、特に利益相反行為の有無に重点を置きつつ、的確に実態把握する。

 

III  検査の実施状況(資料3−4−1参照)
 
 平成10検査事務年度においては、平成10年5月31日現在で、金融監督庁と大蔵省財務局がそれぞれ着手したものをあわせて、証券会社92社と証券投資信託委託会社・投資顧問業者16社となっており、このうち証券会社60社、証券投資信託委託会社・投資顧問業者7社に対して検査結果を通知している。
 なお、検査を実施するに当たっての検査の延べ日数をみると、証券会社については1社当たり平均して48.7人日、証券投資信託委託会社・投資顧問業者については1社当たり平均して8.7人日となっている。

 

第5節  保険会社に対する金融検査

 保険会社についても、銀行と同様、平成10年4月から自己査定が導入されたことから、保険会社による自己査定等を前提に、自己査定の正確性、引当・償却の適切性等を実態把握することが必要となった。
 また、平成11年度から早期是正措置制度が導入され、ソルベンシー・マージン比率に基づいて、必要な措置が適時に講じられることになることから、本制度を効果的に機能させるため、ソルベンシー・マージン比率の正確性等についても実態把握に努める必要が生じた。
 このため、平成11年5月には保険会社5社に対する資産内容等の実態把握のための検査に着手したところである。今後、他の保険会社についても、順次、集中的に検査を実施していく考えである。
 


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