預金保険法等の一部を改正する法律の概要

 

 平成13年4月以降の預金保険制度及び金融機関の破綻処理制度について所要の規定を整備するともに、交付国債の増額及び預金等全額保護の特例措置の1年延長等を行う。
 また、当該特例措置終了に向けての環境整備の一環として協同組織金融機関の経営基盤の強化を図るため、優先出資の発行を認めるとともに、金融機能早期健全化法に基づく資本増強を1年延長する等の手当を行う。
I.平成13年4月以降の恒久的な預金保険制度及び金融機関の破綻処理制度


.預金保険法の一部改正 【恒久措置】

(1

) 破綻処理の迅速化

(a)

 事前準備
 金融機関に対して、名寄せに必要な預金者データを整備するとともに、そのデータを預金保険機構に迅速に引き継ぐためのシステム対応を図ることを義務付ける。また、預金保険機構から預金等の額を速やかに把握するために資料の提出を求められた場合、磁気テープ等による提出を義務付ける。

(b)

 営業譲渡手続の迅速化・簡素化
 営業譲渡等に係る仮決議の制度及び特別決議に代わる裁判所の許可(代替許可)制度を導入する。また、信用金庫等の総会等の招集手続の特例を設ける。

(c)

 営業譲渡等に伴う債権者保護手続等の特例
 営業譲渡等に伴う債権者保護手続を事後的に行う制度を導入するほか、信託業務の承継における受託者更迭手続の特例を設ける。また、被管理金融機関等からの営業譲渡等においては、根抵当権を確定させずに被担保債権とともに譲渡することができる特例を設ける。
(注 )上記(a)〜(c)のような破綻処理の迅速化のための手当を行うことから、緊急手続は廃止することとする。

(2

) 破綻処理の多様化


 金融整理管財人制度
 破綻金融機関の経営権を掌握する公的な管理人(金融整理管財人)制度を導入する。
 具体的には、内閣総理大臣は、イ)債務超過と認める場合、ロ)預金等の払戻しを停止するおそれがあると認める場合、ハ)預金等の払戻しを停止した場合のほか、ニ)金融機関からの申出を受けて債務超過が生ずるおそれがあると認めるときは、金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分ができることとする。なお、金融機関に対しては、イ)債務超過の場合、ロ)預金等の払戻しを停止するおそれがあるときの届出を義務付ける。
 また、金融整理管財人は、被管理金融機関の経営者又は経営者であった者の破綻の責任を明確にするため、民事上・刑事上の所要の措置をとることとする。
 金融整理管財人による管理は1年以内に終了することとする(1年の延長可能)。


 承継銀行制度
 受皿とする金融機関が直ちに現れない場合に対応するために、承継銀行(ブリッジバンク)制度を導入する。
 具体的には、承継銀行は預金保険機構の子会社として設立し、預金保険機構が、承継銀行の業務の円滑な実施のために必要な資金の貸付け又は債務の保証のほか、業務の実施により生じた損失の補てんを行うことを可能とする。また、承継銀行の受皿に対する資金援助を可能とする。
 承継銀行の存続期間は2年以内とする(1年の延長可能)。


 資金援助が可能になる場合の拡大
 営業の全部譲渡の場合のみでなく、営業の一部譲渡(付保預金の移転を含むものとする)の場合の資金援助、営業譲渡・合併等が行われた後の追加的な資金援助、債権者間の衡平を図るための破綻金融機関に対する資金援助を可能とする。
 また、資金援助の一環として、受皿に対する資本増強及び事後的な損失補てん(ロスシェアリング)を行うことを可能とする。さらに、株式取得による資金援助の対象に、銀行及び銀行持株会社以外の会社を加える。

(3

) 金融危機への対応


 危機的な事態(システミック・リスク)が予想される場合、内閣総理大臣は、金融危機対応会議の議を経て、以下の金融機関の区分に応じそれぞれの例外的措置を講じる必要がある旨の認定を行うことを可能とする。

a)

金融機関( b)の金融機関を除く)

預金保険機構による株式等の引受け等(資本増強)
 預金保険機構による株式等の引受け等の申込みは、認定を受けた金融機関のみ可能とする。申込みに当たっては、金融機関は経営の健全化のための計画を提出し、内閣総理大臣が資本増強の決定を行う。内閣総理大臣は、当該計画の履行状況の報告を求め、これを公表する。

b)

破綻金融機関又は債務超過の金融機関

ペイオフコスト(保険金支払に要すると見込まれる費用)超の資金援助
 認定を受けた金融機関に対して、認定後直ちに金融整理管財人による管理の処分を行うとともに、ペイオフコスト超の資金援助を可能とする。

c)

債務超過の破綻銀行

預金保険機構による全株式の取得(特別危機管理銀行)
 認定と同時に預金保険機構が当該認定を受けた銀行の株式を取得することを決定し、官報公告により、預金保険機構が当該株式を取得する。また、特別危機管理銀行の新取締役等は、旧経営者の経営の責任を明確にするため、民事上・刑事上の所要の措置をとることとするほか、受皿に対するペイオフコスト超の資金援助等も可能とする。なお、当該措置は、受皿への営業譲渡等によりできる限り早期に終了させる。
(注 )c)の措置は、b)の措置では危機的な事態を回避できない場合にのみ認定することができる。


 金融危機への対応に係る業務を行うための勘定として、危機対応勘定を設ける。また、機構による当該業務に必要な資金の借入れ又は債券の発行について政府保証を付すことを可能とする。


 例外的措置に係る財源として、事後的に金融機関から負担金を納付させる。また、金融機関の負担だけでは我が国の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあるときは、財政措置を講じることを可能とする。
(注 )金融機関の負担金の額は、納付すべき年度の前年度末の全負債の残高を基準に算出する。

(4

) 預金保険の付保対象等の改正


 金融債(権利者を確知できるものに限る)、公金預金・特殊法人預金、預金利息を新たに付保対象とする(公金預金・特殊法人預金は政令事項)。
(注 )各預金者の保険金の額は、保険金支払限度額までの元本+その元本に係る利息とする。なお、保険金支払限度額は現行水準(1000万円、政令事項)に据え置く。


 協同組織金融機関の連合会を新たに預金保険の対象とする。


 保険金支払の場合のみでなく、資金援助の場合にも預金等債権の買取りを可能とする。


 保険料の算定基礎を、付保預金の年度末残高から年度中の平均残高に変更する。
(注 )金融機関の経営の健全性に応じた保険料率を導入することも可能とする。

(5

) その他


 破綻金融機関における保険金相当額までの預金の払戻し及び資産価値減少防止のための破綻金融機関の貸付けを可能とするために、預金保険機構から破綻金融機関へ必要となる資金の貸付けをできるようにする。


 破綻処理等の円滑な実施を確保するための金融機関に対する報告徴求及び立入検査の規定を設ける。


 時限措置である協定銀行(整理回収機構)の受皿機能及び破綻金融機関等からの資産買取りを預金保険機構が協定銀行へ委託する制度を、当分の間の措置とする。


.その他の法律の一部改正 【恒久措置】

(1

) 金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の一部改正


 民事再生法の特例(監督庁による再生手続開始の申立、再生手続における預金保険機構の預金者代理権限等)を規定する。


 更生手続又は民事再生手続開始後における保険金相当額までの預金の払戻しを可能とする。

(2

) 信託業法の一部改正
 信託財産の受益者保護の観点から、信託会社が信託財産として所有する登録社債及び登録国債について、第三者対抗要件の規定を整備する。

(3

) 信用金庫法等の一部改正
 協同組織金融機関の破綻処理方式の多様化を図るため、商法の整理手続を協同組織金融機関に準用できることとする。
II.交付国債の増額


 預金保険法の一部改正 【時限措置】
 預金保険機構に交付する国債を、既に交付している7兆円に追加して、6兆円増額する。
III.預金等全額保護の特例措置の延長等


 預金保険法の一部改正 【時限措置】

(1

) 時限措置であるペイオフコスト超の資金援助及び預金等債権の買取りの特例の適用期限を1年延長して、平成14年3月末までとする。
(注 )特別保険料の納付期間についても1年延長するほか、特例業務勘定の廃止についても1年延長して、平成15年3月末とする。

(2

) 当座預金、普通預金等の流動性預金を預金等全額保護の特例措置終了後1年間(平成15年3月末まで)全額保護する。
(注 )この間、全額保護する流動性預金については、他の預金よりも高い保険料を求める(保険料率は、預金保険機構の運営委員会において決定)とともに、臨時金利調整法(告示)により金利規制を課す。
IV.協同組織金融機関の経営基盤強化


.協同組織金融機関の優先出資に関する法律の一部改正 【恒久措置】
 全国を地区とする連合会のみでなく、個別の信用組合、信用金庫、労働金庫その他の協同組織金融機関も優先出資の発行を可能とする。


.金融機関の早期健全化のための緊急措置に関する法律の一部改正 【時限措置】
 現在、早期健全化法に基づく資本増強の対象となっている協同組織金融機関のうち上記1.の改正により優先出資の発行が可能となる協同組織金融機関について、資本増強が容易となるよう同法の適用要件を見直すとともに、その適用期限を1年延長して、平成14年3月末までとする。


.預金保険法の一部改正 【時限措置】
 平成8年の預金保険法改正前の信用組合の破綻処理に伴い信用組合協会が行っている債権回収業務を、整理回収機構に円滑に一元化する。
 具体的には、信用組合協会が回収業務を行っている旧破綻信用組合の不良債権を代物弁済として譲り受けた金融機関から、当該債権を預金保険機構が買い取るとともに、その売却に伴う損失の範囲内で預金保険機構が損失を補てんすることができるようにする。
(注 )預金保険機構は、資産の買取りを行うことを整理回収機構に委託することができる。
V.その他


.施行期日

(1

) 恒久的な預金保険制度及び金融機関の破綻処理制度に係る措置、預金等全額保護の特例措置の延長等については、平成13年4月1日から施行する。

(2

) 協同組織金融機関の連合会を新たに預金保険の対象金融機関とする措置、交付国債の増額、協同組織金融機関の経営基盤強化に関する措置については、公布の日から起算して、1月を超えない範囲において政令で定める日から施行する。


.その他
 その他所要の経過措置等に関する規定を設ける。

[続きがあります]