支払保証制度に関する研究会

報 告 書



平成9年12月5日

                                                                              
                                                                              


支払保証制度に関する研究会名簿

                                                                              
                                                                              
  座  長        倉  澤  康一郎(武蔵工業大学環境情報学部教授)                
                                                                              
  メンバー      岩  原  紳  作(東京大学法学部教授)                          
                                                                              
                高  橋  宏  志(東京大学法学部教授)                          
                                                                              
                田  中      弘(神奈川大学経済学部教授)                      
                                                                              
                花  村  良  一(法務省民事局付検事)                          
                                                                              
                山  下  友  信(東京大学法学部教授)                          
                                                                              
                山  本  和  彦(一橋大学法学部助教授)                        
                                                                              
      [事務局]大蔵省銀行局保険部                                            
                                                                              
(注)この他、保険業各業態からの意見を聴取するため、特別メンバーとしての参加を求
    めた。
                                                                  
 


                                                                            

支払保証制度に関する研究会報告書

                                                                            


                                                                            
                                                                            
        1.はじめに            
                                                                            
        2.制度の背景      
                                                                            
        3.保険契約者の保護の必要性      
                                                                            
        4.制度のねらい      
                                                                            
        5.制度による保障の維持      
                                                                            
        6.制度による保険契約者に対する補償      
                                                                            
        7.制度のための資金手当て      
                                                                            
        8.現行制度との関係      
                                                                            
        9.制度の具体的スキーム    
                                                                            
        10.おわりに 
     
                                                                                
                                                                            
1.はじめに                                                              
 (1).検討の背景                                                            
      (a).保険審議会報告「保険業法等の改正について」(平成6年6月)、新保険業
        法(平成8年4月施行)の国会審議における衆・参両院での附帯決議等を受け、
        平成8年10月に開催された保険審議会において支払保証制度について検討を
        行うことが決定された。                                              
      (b).その進め方については、保険審議会の事務局(大蔵省銀行局保険部)におい
        て、「支払保証制度に関する研究会」を開催し、論点整理を行い、その結果を
        保険審議会に報告することとなった。                                  
 (2).検討の経過                                                            
      (a).平成8年12月以降8回にわたって本研究会が開催され、本年6月に、「こ
        れまでの検討状況」をとりまとめ、保険審議会に対して報告が行われた。  
      (b).更に、本年10月以降は、支払保証制度の早急な創設が求められていること
        を踏まえ、検討の焦点を現時点で実行に移しうる制度の在り方に絞り、5回に
        わたる集中的な討議を経て、報告書をとりまとめた。                      
                                                                            
2.制度の背景                                                              
      (a)  新保険業法の下においては、破綻保険会社の保険契約の移転等を円滑に進め
        るため、救済保険会社に対して資金援助を行う保険契約者保護基金が設立され
        ている。しかしながら、同基金は、救済保険会社が現れないと発動できない上
        に、「保険契約者の保護に関するルールが明確となっていない。」との指摘も
        なされている。                                                        
      (b)  他方、保険会社間の競争の活発化が今後一層見込まれ、同時に各保険会社の
        経営リスクが高まることが予想される。そこで、救済保険会社が現れない場合
        を含めた保険会社の破綻時における保険契約者の保護と、その保護に関するル
        ールの明確化が求められている。                                      
                                                                            
3.保険契約者の保護の必要性                                              
      (a).保険は、人の生死や社会に発生する様々な危険に備え、万が一事故が発生し
        た場合には経済生活の連続性を保障(損害てん補を目的とする損害保険につい
        ては補償。以下同じ。)するという重要な役割を担っているものであり、保険
        の保障機能は国民経済及び国民生活の基礎となっている。                
      (b).一般に、保険会社においては自己規正を図りながら民間事業者としての経営
        判断を行い、保険契約者においては保険会社の経営の健全性を考慮に入れて保
        険契約を締結するなど、双方において自己責任に基づいた行動が求められてい
        る。しかしながら、株式や社債とは異なり市場で転々売買されるものではない、
        将来の変化まで見通した選択を保険契約者に期待することが困難な長期の契約
        があるといった保険契約の特性からみて、保険契約者の自己責任を問いにくい
        面がある。                                                          
      (c).このため、保険業に対する信頼を確保する上で、保険会社が破綻した場合に
        保険契約者が被る不利益をその自己責任のみに帰することは必ずしも適当では
        なく、破綻保険会社の保険契約者を適切に保護する必要がある。          
      (d).なお、保護されるべきは保険契約者であり、破綻保険会社の経営者や株主で
        はない。したがって、保険会社の破綻処理に当たっては、破綻保険会社の保険
        契約管理システム等を極力有効活用するとしても、破綻保険会社の救済そのも
        のを目的としないことが前提条件となる。                              
                                                                            
4.制度のねらい                                                            
      (a).保険契約者の保護に当たっては、保険の役割にかんがみ、保障機能を維持な
        いし確保することを第一の目的とし、併せて、保険契約者が被る不利益を適切
        な範囲で補償することが重要である。                                  
          特に、生命保険では、破綻保険会社に積み立てられた金額を単に払い戻すだ
        けでは、年齢や病歴によっては保険保障が受けられなくなるため、保険契約の
        継続が重要である。                                                  
      (b).なお、保険契約の継続を図る場合には、保険が相互扶助の仕組みで成り立っ
        ていることにかんがみ、保険契約者の解約の自由を踏まえつつも、保険集団の
        維持を図ることが重要である。                                        
                                                                            
5.制度による保障の維持                                                    
 (1).基本的枠組み                                                          
      (a).公的な運営機関(以下「機関」という。)が、一定の事由を要件として、保
        険契約者の保護のための措置を講じるという枠組みとすることが適当である。
        この場合、一定の「保険事故」が発生したときに預金者等に対して預金の払戻
        し等を行う預金保険制度に倣って、保険会社、保険契約者、機関との間で保険
        契約者が被る不利益に関して「保険関係」を成立させることが考えられるが、
        保険は預金とは異なり、保障の継続が重要であり給付内容を予め特定すること
        が困難であることから、「保険関係」として構成することにはなじまない。  
      (b).また、破綻保険会社の保険契約者の一部希望者に対して機関が代替契約の締
        結に応じる仕組みとすることも考えられる。しかしながら、代替契約の締結に
        伴う事務処理が実務上困難であること、また、相互扶助の仕組みを基本とする
        保険の特質と相容れないことから、この点についても本制度の枠組みには組み
        込まないこととする。                                                
      (c).したがって、今次制度の創設に当たっては、保険契約を迅速・簡易に移転す
        ることができるという現行制度の仕組みを活用し、手続の透明性にも留意しつ
        つ、救済保険会社が現れる見込みのない場合の最終的な手段として破綻保険会
        社の保険契約を機関に包括移転するとの枠組みとすることが適当である。  
      (d).破綻処理手続の厳格性、破綻処理方法の多様性等といった観点から倒産手続
        と連携した制度(倒産手続の開始をもって制度が発動される)とすることが考
        えられる。この場合、保障を維持ないし確保することの重要性等にかんがみれ
        ば、会社更生手続との連携を中核とすることが考えられる。しかしながら、会
        社更生手続に関する論点については検討に少なからず時間を要し早急に制度を
        創設するとの要請とは相容れないこと、破産手続に関しても保障の維持ないし
        確保とは相容れない面が少なからずあること、現在法制審議会において倒産法
        制全般にわたる抜本的見直しの作業が進められていること等から、倒産法制と
        の連携については、今回の制度の基本的枠組みとはせず、今後検討を継続する
        こととした。                                                        
          注1)会社更生手続に関する主な論点                                
              (i)双方未履行の保険契約は双務契約とみなされ、管財人に解除権が
                  与えられ、また、当該保険契約に係る権利は共益債権として扱われ
                  るとの解釈もあるが、これについてどう考えるか。            
              (ii)保険契約者に対して解除権を付与することについてどう考えるか。
              (iii)相互会社を、資本構成の変更を中核とする本手続の対象とするこ
                  とについてどう考えるか。                                  
              (iv)先取特権を保険契約者に付与することについてどう考えるか。  
          注2)破産手続に関する主な問題点                                  
              (i)破産宣告の3か月後に保険契約が失効することから、保障の維持
                  が困難である。                                            
              (ii)破綻保険会社の財産は破産財団によって管理され、直ちには保険
                  契約者に対して配当が行われないことから、保障の確保が困難にな
                  るおそれがある。                                          
 (2).保険契約の維持・管理及び他の保険会社への契約移転                    
      ○  本制度が民間の保険会社が行う業務と競争関係に立つこととなることは不適
        当であることから、機関は、新規の保険契約の募集等は行わず、移転を受けた
        保険契約の維持・管理(これらの保険契約を維持・管理するために最低限必要
        となる再保険の手当てを含む。)を業務とすることが適当である。一方、保険
        契約者の利便等にかんがみ、長期的な保険契約については、機関から他の保険
        会社への契約移転を、責任準備金の算出の基礎が同一である保険集団単位での
        契約移転を含めて、認めることが適当である。                          
 (3).保険の引受けに伴う法的手当て                                          
      本制度において保険の引受けが行われることに伴う法的手当てについては、次の
    ように考えられる。                                                      
      (a).機関は、前述したように、破綻保険会社の保険契約が終了し、または他の保
        険会社へ移転されるまでの間、自ら保険の引受けを行うものであり、機関によ
        るこのような保険の引受けを行う事業も保険業法で規定する保険業に該当する
        ものであると考えられる。                                            
          しかしながら、公益性が高いものとして創設される本制度において、保険の
        引受けが以上のように限定され、また、機関が公的な存在としてその設立が認
        められるものとするならば、改めて保険業の免許を付与する必要はないと考え
        られる。                                                            
      (b).また、機関は、新規の保険契約の募集等は行わない等、通常の保険会社とは
        性質を異にすることから、機関が行う保険の引受けについては、保険業法の規
        定を、必要に応じ部分的に適用することとしても、全面的に適用する必要はな
        いと考えられる。                                                    
 (4).業務の委託                                                            
      ○  機関は、保険の引受けに伴う業務の一部(保険料の収受、資金の運用、保険
        金の支払等)を外部に委託できるとすることが適当である。              
                                                                            
6.制度による保険契約者に対する補償                                        
 (1).はじめに                                                              
      ○  補償の内容については、どのような保険契約が対象とされ、保険契約者のど
        のような不利益に対して、どの程度まで補償されるのかといった論点がある。
        以下、それぞれについて述べることとするが、このうち、補償対象となる保険
        契約、補償限度の具体的設定等については、必ずしも本研究会での検討になじ
        まないものと考えられることから、基本的考え方を提起するにとどめることと
        する。                                                              
 (2).補償対象となる保険契約                                                
      (a).補償対象については、本制度の趣旨が我が国保険業に対する信頼の確保であ
        ることを踏まえれば、我が国において免許を受けた保険会社が我が国において
        引き受けた保険契約に関し幅広いものとすることが望ましいと考えられる。た
        だし、保険契約者に自己責任を問いうる程度や制度の負担能力にも留意して補
        償対象を設定する必要がある。                                        
      (b).補償対象の設定は、保険種類をベースとすることが適当である。これは、保
        険が基本的には保険契約者の属性にかかわらず保険種類毎に同じ母集団を形成
        し相互扶助の仕組みで成り立っていることに基づくものである。ただし、保険
        契約者に自己責任を問いうる程度の違いや制度の負担能力にかんがみ、同じ母
        集団を形成する保険種類の中から一部の保険契約を除外することは考えられる。
      (c).保険業法では、特定の保険種類について、その責任準備金の額に見合う資産
        をその他の資産と区別して経理するため、特別の勘定を設けることができると
        されている。特別の勘定に資産が計上されている場合には、責任準備金の額は
        当該資産の運用成果によって変動するため、破綻処理において、他の保険種類
        と異なる扱いをしてはどうかとの指摘がある。しかしながら、特別の勘定と一
        般の勘定間で振替が行われている場合がある、倒産手続における扱いとの整合
        性がとれないといった問題があり、今後、慎重に検討することが適当ではない
        かと考えられる。                                                    
      (d).本制度の下で保険契約の包括移転が行われる場合には、制度による補償対象
        とはならない保険契約についても移転されることになるが、これについては、
        当該保険契約の保険契約者においても保険契約の継続の利益が認められ、公平
        を失するものではないと考えられる。                                  
 (3).破綻における保険契約者の不利益の所在                                  
      (a).保険会社の経営破綻に伴う保険契約の移転に当たっては、以下を理由として、
        保険金額の削減など契約条件の変更が必要となるものと考えられる。      
          1)保険会社の貸借対照表には、責任準備金の額(保険契約者が払い込んだ
            保険料の中から将来の保険金の支払に備えるために積み立てられる金額。)
            が、負債として、計上されている。しかしながら、破綻保険会社では、一
            般に、これに見合う資産が不足していることから、当該責任準備金の額は
            資産に見合う水準まで削減されるものとなる。                      
          2)保険契約が適正、公正、安全に維持されるためには、契約条件の礎とな
            っている基礎率(利率、事業費率など契約条件を算定する上で基礎となる
            計算利率)が適切なものである必要があり、通常、破綻の場合には、適切
            な基礎率に変更されることによって保険金額が削減されるものとなる。  
      (b).なお、上記2)に関し、保険業法では、保険会社間で包括移転が行われる場
        合に契約条件の変更の一つとして、将来に向けての基礎率の変更が行われるこ
        とも認められているが、破綻保険会社から機関への保険契約の包括移転におい
        ても認められることが適当である。この場合、機関は保険を引き受けることに
        伴うリスクを適切に回避すべく基礎率の水準を慎重に設定することが重要であ
        る。また、変動金利型商品が開発されている保険種類については、契約移転に
        際して当該商品に置換することも考えられる。                          
 (4).保険契約者の不利益に対する補償の基準                                  
      (a).上記(3)を念頭において、保険契約者の不利益を補償するに当たって基準とす
        べきものを検討すれば、まず、保険契約者が破綻保険会社と締結した保険契約
        で定められている保険金額(以下「旧保険金額」という。)を基準として補償
        することが考えられる。                                              
          しかしながら、全ての保険契約について、将来に向けての基礎率の変更の可
        能性がある中で、旧保険金額を基準として補償することとする場合には、その
        基礎率の変更によって生じる保険契約者の不利益についても補償することにな
        る。このような補償は、保険収支を歪め、機関の健全性を損ねることとなり、
        機関による保険契約の維持を困難にするなど保険契約者の利益が更に損なわれ
        ることになるおそれが大きい。また、機関から他の保険会社への契約移転の途
        を閉ざすことにもなる。このため、旧保険金額を基準として補償するとの仕組
        みとすることは適当ではない。                                        
      (b).次に、基礎率の変更に伴って増減された保険金額を基準として補償すること
        も考えられないわけではないが、基礎率の変更の程度は個々の破綻によって、
        また同一の破綻においても保険契約者間で異なるため、保険契約者の保護に関
        するルールとしては適切ではないと考えられる。また、保険契約者によっては
        機関による資産の補てんが全く行われない可能性があるなど制度の実際上の効
        果が保険契約者に広く均てんしない面もあり、適当ではないと考えられる。  
      (c).むしろ、(3).(a).1)に着目し、破綻時点において個々の保険契約者につい
        て積み立てられているべき責任準備金を基準として補償することが、公平性等
        の観点から適当である。なお、破綻時点までに適用されていた基礎率を過去に
        遡って見直し、当該責任準備金の額を減額することも考えられるが、配当金に
        ついて既に支払われ精算が終了しているものもあるため実務上保険契約者間の
        公平を確保することが困難であること等から適当ではない。              
      (d).他方、破綻前に既に支払事由が発生している請求権のうち、保険契約の移転
        に伴い機関に対する請求権となるものについては、将来に向けての基礎率の変
        更と無関係であることから、当該請求権を基準として補償することが考えられ
        る。                                                                
 (5).補償限度の設定等                                                      
      (a).保険契約者の自己責任、制度の負担能力を踏まえると、補償限度を設定する
        必要がある。他方、自動車損害賠償責任保険については、法令上一定の保険金
        額が定められている趣旨にかんがみて、当該保険金額まで補償されることが適
        当である。                                                          
      (b).補償限度の設定方法については、一定率方式と一定額方式が考えられるが、
        保険が相互扶助の仕組みで成り立っていること、保険種類によって保険契約者
        のために積み立てておくべき責任準備金の額の水準が異なるが保険種類間で公
        平性を保つべきであることなどから、一定率方式を基本とすることが適当であ
        る。なお、一定額方式の場合には、小額契約の保険契約者の保護が手厚くなる
        と考えられるものの、保障内容が多様であり、保険種類に応じた補償限度の設
        定に伴い制度が複雑になったり、迅速な処理が困難になる等の問題がある。  
      (c).なお、保険契約の継続を図る場合、保険集団の維持を図る必要があると考え
        られることから、保険会社間の包括移転において、契約条件の変更の一つとし
        て早期解約控除制度(保険の集団性を維持させるとともに、移転後早期の大量
        解約に伴う救済保険会社の収支悪化を防ぐため、契約移転後一定期間内の解約
        に対して条件変更後の解約返戻金に一定の解約控除率を乗じた金額を控除する
        ことにより解約返戻金を減額するもの)の適用があるが、破綻保険会社から機
        関への包括移転においても、同制度が適用されることが考えられる。ただし、
        この場合は、早期の解約者については、結果として、補償限度までの補償が行
        われないこととなる。                                                
 (6).資金の貸付け                                                          
      (a).保険業法では、契約条件の変更を伴う保険契約の包括移転の手続き中は、移
        転対象の資産、負債をある程度確定する必要があること、保険契約者間の公平
        を確保する必要があることから、保険金等の支払を停止することを原則として
        いる。基本的には、本制度においてもこの点を変更すべきでない。        
      (b).ただし、保険業に対する信頼を確保する上で、保険金の迅速な支払は重要な
        要素であり、包括移転の処理に時間を要する場合などには、機関が自らの判断
        によって支払事由の発生した保険契約者に対して資金を貸し付けることができ
        るとすることが考えられる。                                          
                                                                            
7.制度のための資金手当て                                                  
 (1).基本的な考え方                                                        
      (a).次のような理由から、本制度については保険業界一体の下で関与する必要が
        あり、各保険会社に対して本制度への加入を強制することが適当である。すな
        わち、保険業に対する信頼が損なわれた場合、その影響は保険業界全体に及ぶ
        ことになるが、個別の保険会社で対応を図るには限界があり、また、保険業に
        対する信頼が確保されることによって各保険会社それぞれが業務を円滑に遂行
        することができるなど、その利益は全ての保険会社に均てんされることになる。
      (b).同様の理由から、本制度において機関が必要とする資金については各保険会
        社からの拠出によって賄うことを原則とすることが適当である。ただし、保険
        会社や保険契約者の負担にも十分に留意することが必要であり、機関は費用を
        最小限に抑えつつ保険契約者の保護にあたる必要がある。また、本制度が導入
        されている海外諸国の例をも踏まえつつ、保険会社の経営の健全性、安定性を
        確保するため、当該拠出に関して何らかの負担限度等を設定することが適当で
        ある。                                                              
 (2).資金の借入れ                                                          
      ○  機関は、その円滑な業務の遂行に当たり、一時的な資金不足を補うために、
        資金を借り入れることができるとすることが適当である。                  
 (3).経過措置                                                                
      ○  本制度発足時において、例えば、業務停止命令を受けている保険会社につい
        ては、本制度の対象保険会社とならないよう措置することが考えられる。  
                                                                            
8.現行制度との関係                                                        
 (1).資金援助機能の具備                                                    
      (a).救済保険会社に対する資金援助(資金の出資を含む)は、保険契約者を保護
        する上で重要な機能である。                                          
      (b).このため、機関は、保険会社の破綻処理において保険契約者の保護に関し中
        核的役割を担うものとして、この機能についても併せて具備することが適当で
        ある。                                                              
      (c).救済保険会社への資金援助に当たっては、資金援助に要すると見込まれる費
        用と破綻保険会社の保険契約の移転先となることに伴い要すると見込まれる費
        用とを考慮するとともに、資金援助の方法による場合が、機関に保険契約を移
        転する場合に比して保険契約者の補償水準が劣ることのないよう考慮しつつ、
        その実施にあたることが適当である。                                    
 (2).保険契約者保護基金との関係                                            
       1.次のような理由から、現行保険業法の保険契約者保護基金に関する規定につ
        いては本制度に係る規定に発展的に吸収することが考えられる。すなわち、両
        制度の併存は、機能面からみれば、救済保険会社が現れるか否かによって保険
        契約者の補償水準を異なるものとしたり、保険契約者の保護のための費用を二
        重のものとすることになる。また、法律上、保険会社に対して本制度への加入
        を強制した上で、更に、現行の任意の制度を想定することは適当ではない。  
       2.なお、本制度の創設時において、保険契約者保護基金から機関へ既存の権利
        義務関係を引き継ぐことも考えられる。                                
                                                                            
9.制度の具体的スキーム                                                    
      (a).制度の発動                                                        
        i)内閣総理大臣による保険会社に対する次のいずれかの命令            
                a.保険契約の移転等の協議の命令                            
                b.保険管理人による業務及び財産の管理命令                  
        ii)上記i)bの場合には、内閣総理大臣による保険管理人に対する保険契約
          の移転等を定める計画の作成命令                                    
        iii)協議の命令を受けた保険会社による保険契約の移転等に関する方針の策定、
          もしくは、保険管理人による計画の作成                              
                ・  財務状況の査定                                          
                ・  専門性・中立性を有する第三者による当該査定結果の検証    
                ・  機関との間で機関の負担額の確定                          
                ・  他の保険会社への打診                                    
                ・  救済保険会社が現れない場合には機関に対して保険契約の移転を
                  申し込む                                                  
                ・  機関による受理                                          
                ・  なお、機関が、内閣総理大臣に対して、保険契約の移転等の対象
                  となる他の保険会社を指定し、勧告するよう申し入れることも可能
                  とする                                                    
                ・  機関、救済保険会社(現れた場合)を交えた契約条件の変更案の
                  作成(補償対象保険契約については、契約条件の変更内容は機関に
                  よる補償を織り込んだものとなる)                          
        iv)内閣総理大臣による計画の承認                                    
        v)a.救済保険会社が現れている場合には、機関による資金援助        
            b.機関に保険契約を移転する場合には下記 2の手続へ              
      (b).機関への保険契約の移転                                            
        i)保険管理人等と機関による保険契約の移転に関する契約書の作成      
        ii)破綻保険会社における株主総会等による保険契約の移転の決議        
        iii)保険契約の移転の公告及び異議申立て                              
        iv)内閣総理大臣による保険契約の移転の認可                          
        v)機関への保険契約の移転                                          
        vi)保険契約の移転の公告等                                          
                                                                            
10.おわりに                                                              
      (a).本研究会は、支払保証制度に関して、法的構成の側面を中心として、その在
        り方について検討を行ってきたものである。本報告が、支払保証制度の構築の
        一助となることを期待する。                                          
      (b).支払保証制度については、もとより、多角的・多面的に検討が加えられる必
        要があり、制度の構築に当たっては、保険審議会における幅広い視点での検討
        が重要である。                                                      
      (c).何よりも肝要なことは、健全な経営により保険会社の破綻が未然に防止され
        ることであり、保険会社において、情報の更なる開示を通じて、経営の自己規
        正が図られる必要がある。また、行政においても、客観的、具体的な基準に基
        づいた早期是正措置制度を速やかに導入するなど保険会社の破綻防止のための
        透明な枠組みを整備する必要がある。                                  
      (d).倒産手続との連携については、検討に少なからずの時間を要する論点がある
        が、今次研究会では保険会社の破綻処理におけるその重要性が深く認識された
        ところであり、当局において、制度創設後、今後の倒産法制全般にわたる抜本
        的見直しの作業をも踏まえつつ、会社更生的な手続を含め、引き続き検討し、
        早期に実現されることを強く要望したい。                              
                                                                              



支払保証制度の基本的なイメージ

                                                                                
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃                                                                            ┃
┃I.救済会社が現れない場合                                                  ┃
┃                                                                            ┃
┃                            保険契約の移転                                  ┃
┃┏━━━━━━━━━┓    (契約条件の変更)      ┏━━━━━━━━━┓    ┃
┃┃   破綻保険会社   ┠─────────────→┃                  ┃    ┃
┃┗━━━━┯━━━━┛  責任準備金の一定率を補償  ┃                  ┃    ┃
┃          │                                      ┃                  ┃    ┃
┃          │                                      ┃                  ┃    ┃
┃┏━━━━┷━━━━┓                            ┃   支払保証機関   ┃    ┃
┃┃   保険契約者     ┃←─────────────┨                  ┃    ┃
┃┗━━━━━━━━━┛      保険金等の支払        ┃                  ┃    ┃
┃┏━━━━━━━━━┓                            ┃                  ┃    ┃
┃┃  制度参加保険会社┠─────────────→┃                  ┃    ┃
┃┃    (強制加入)  ┃      負担金の拠出          ┃                  ┃    ┃
┃┗━━━━━━━━━┛  (一定の限度を設定)      ┗━━━━━━━━━┛    ┃
┃                                                                            ┃
┃                                                                            ┃
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃                                                                            ┃
┃II.救済会社が現れた場合                                                    ┃
┃                                                                            ┃
┃                          保険契約の移転等                                  ┃
┃┏━━━━━━━━━┓    (契約条件の変更)      ┏━━━━━━━━━┓    ┃
┃┃   破綻保険会社   ┠─────────────→┃                  ┃    ┃
┃┗━━━━┯━━━━┛  責任準備金の一定率を補償  ┃                  ┃    ┃
┃          │                                      ┃   救済保険会社   ┃    ┃
┃          │                                      ┃                  ┃    ┃
┃┏━━━━┷━━━━┓                            ┃                  ┃    ┃
┃┃   保険契約者     ┃←─────────────┨                  ┃    ┃
┃┗━━━━━━━━━┛      保険金等の支払        ┗━━┯━━━━━━┛    ┃
┃                                                        │      ↑          ┃
┃                                              資金援助  │      │  資金援助┃
┃                                              の申込み  ↓      │          ┃
┃                                                  ┏━━━━━━┷━━┓    ┃
┃┏━━━━━━━━━┓                            ┃                  ┃    ┃
┃┃ 制度参加保険会社 ┠─────────────→┃   支払保証機関   ┃    ┃
┃┃    (強制加入)  ┃      負担金の拠出          ┃                  ┃    ┃
┃┗━━━━━━━━━┛  (一定の限度を設定)      ┗━━━━━━━━━┛    ┃
┃                                                                            ┃
┃注)支払保証機関へ保険契約が移転される場合と同様に、資金援助を通じて、責任準┃
┃  備金の一定率が補償される。                                                ┃
┃                                                                            ┃
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