平成9年12月22日    

                                                                          

中間連結財務諸表等の作成基準の設定に関する意見書(公開草案)

 

    中間連結財務諸表等の作成基準の設定について                        

                                                                          

  一  経緯                                                                

                                                                          

      我が国における半期報告書制度は、昭和46年の証券取引法改正により一年決

    算を採用する証券取引法適用会社を対象として創設され、当審議会は、これに伴

    い、昭和47年に「半期報告書に記載される要約財務諸表の作成手続に関する試

    案」を公表した。その後、昭和49年の商法改正により中間配当が認められたこ

    とを契機として大部分の証券取引法適用会社が一年決算に移行したことにより、

    半期報告書制度の重要性が著しく増大した。このため、当審議会は、昭和52年

    に「半期報告書で開示すべき中間財務諸表に関する意見書」を公表して上記「試

    案」を抜本的に改訂し、現行の「中間財務諸表作成基準」及び「中間財務諸表監

    査基準」を設定して、今日に至っている。                                

      現行の半期報告書制度では個別ベースのディスクロージャーが行われており、

    「中間財務諸表作成基準」は、半期報告書において開示される個別ベースの中間

    財務諸表の作成基準を示している。近年、子会社等を通じての企業の多角化・国

    際化が急速に進展し、企業集団に係る情報の重要性が増大してきている。このた

    め、当審議会は本年6月、連結情報を中心とするディスクロージャー制度への転

    換を図るため、「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」を公表し、その一

    環として中間連結財務諸表の導入を提言した。                            

      当審議会は、この提言を踏まえ、本年8月以降、中間連結財務諸表の作成基準

    の設定について審議を重ねてきた。審議の過程で、中間連結財務諸表の作成基準

    と現行の「中間財務諸表作成基準」との整合性を図ることが必要となったため、

    「中間財務諸表作成基準」の見直しについても併せて審議した。この度、一応の

    成案を得たため、これを「中間連結財務諸表等の作成基準(案)」として公表す

    ることとした。                                                        

                                                                          

  二  半期報告書におけるディスクロージャーの在り方                        

                                                                          

      証券取引法に基づくディスクロージャー制度においては、投資者の的確な投資

    判断に資する情報を適時に開示するため中間財務諸表を含む半期報告書の提出が

    求められているが、当審議会が本年6月に公表した「連結財務諸表制度の見直し

    に関する意見書」を踏まえ、半期報告書についても連結情報を中心とした開示内

    容となるよう必要な措置を講ずることが適当である。                      

      他方、連結情報の充実に伴い、その有用性が乏しくなると考えられる個別情報

    については、半期報告書においても可能な範囲で簡素化し、ディスクロージャー

    の効率化を図ることが適当である。なお、連結情報を中心とするディスクロージ  

    ャー及び企業分析等の進展状況を踏まえ、今後、個別情報の一層の簡素化につい

    て更に検討していくことが適当である。                                  

                                                                          

  三  中間連結財務諸表等の種類                                            

                                                                          

      中間連結財務諸表の種類は、年度の連結財務諸表と同様とすることが適当であ

    ると考えられる。                                                      

      当審議会は、本年6月に公表した「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」

    において、連結キャッシュ・フロー計算書を導入することを提言したが、連結キ

    ャッシュ・フロー計算書とともに中間連結キャッシュ・フロー計算書を作成する

    ことが適当であり、また、連結財務諸表を作成しない会社については、個別ベー

    スのキャッシュ・フロー計算書及び中間キャッシュ・フロー計算書を作成するこ

    とが適当であると考えられる。当審議会は、連結キャッシュ・フロー計算書等の

    作成基準についても併せて審議し、「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基

    準の設定に関する意見書」の草案として別途公表する運びとなったが、そこでは、

    これらのキャッシュ・フロー計算書をすべて財務諸表の一つとして位置付けるこ

    とが適当であるとしている。                                            

      したがって、中間連結財務諸表及び個別ベースの中間財務諸表の種類は、以下

    のようになる。                                                        

      中間連結財務諸表                                                      

          中間連結貸借対照表                                              

          中間連結損益計算書                                              

          中間連結剰余金計算書                                            

          中間連結キャッシュ・フロー計算書                                

      個別ベースの中間財務諸表                                            

          中間貸借対照表                                                  

          中間損益計算書                                                  

          中間キャッシュ・フロー計算書                                    

      なお、中間連結キャッシュ・フロー計算書及び中間キャッシュ・フロー計算書

    の作成基準は、別途公表する「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準の設

    定に関する意見書」による。                                            

                                                                          

  四  中間財務諸表の性格                                                  

                                                                          

      中間連結財務諸表及び中間財務諸表(以下『中間財務諸表』という。)の性格

    付けについては、2つの異なる考え方がある。                            

      一つは、中間会計期間を事業年度と並ぶ一会計期間とみたうえで、『中間財務

    諸表』を、原則として年度の連結財務諸表及び財務諸表(以下『財務諸表』とい

    う。)と同じ会計処理基準を適用して作成し、当該中間会計期間の財政状態及び

    経営成績に関する情報を提供するものとする考え方である。この考え方は、従来、  

    「実績主義」と呼ばれてきた。他は、中間会計期間を事業年度の一構成部分と位

    置付けて、『中間財務諸表』を、部分的には年度の『財務諸表』と異なる会計処

    理基準を適用して作成し、当該中間会計期間を含む事業年度の業績の予測に資す  

    る情報を提供するものとする考え方である。この考え方は、従来、「予測主義」  

    と呼ばれてきた。                                                        

      昭和47年に当審議会が公表した「半期報告書に記載される要約財務諸表の作

    成手続に関する試案」は、「実績主義」の考え方に基づくものであったが、現行

    の「中間財務諸表作成基準」は、「予測主義」の考え方によっている。      

      この度の中間連結財務諸表の作成基準の審議に当たり、当審議会は、「実績主

    義」と「予測主義」のいずれによるべきかについて、あらためて検討を行った。

    その結果、以下の理由から、「実績主義」による中間連結財務諸表の作成基準を

    提案することとし、それとの整合性を図るため、現行の「中間財務諸表作成基準」

    についても、その改訂を提案することとした。                            

    (1)  『中間財務諸表』は、中間会計期間を含む事業年度の業績の予測に資する情

      報を提供するものと性格付けることもできるが、『中間財務諸表』及び『財務

      諸表』は、中間会計期間又は事業年度に係る企業集団(又は企業)の財政状態

      及び経営成績を明らかにすることにより、いずれも投資者に対して将来の業績

      の予測に資する情報を提供するものと性格付けることがむしろ適当と考えられ

      ること。                                                            

    (2)  いずれの考え方を採る場合であっても、期間計算である限り、見積もりや予

      測に基づく測定は不可避であるが、相対的にみて、「予測主義」による場合は

      より多くそのような測定に依存せざるを得ないため、恣意的な判断の介入の余

      地が大きいと考えられること。                                        

    (3)  中間連結財務諸表の導入に伴い多くの子会社等において新たに中間財務諸表

      を作成することが必要となるが、「実績主義」によれば、それを年度の財務諸

      表と同様の基準により作成することができるため計算手続が明確であり、実行

      面で優れていると考えられること。                                    

      なお、国際会計基準委員会が本年8月に公表した中間報告書に関する公開草案

    第57号においても、「実績主義」による作成基準が提案されている。      

                                                                            

  五  中間財務諸表の役割                                                  

                                                                          

      証券取引法におけるディスクロージャー制度においては投資者の的確な投資判

    断に資するため、年度ベースの『財務諸表』のほか、適時開示の観点から個別ベ

    ースの中間財務諸表の開示が求められている。大半の会社が一年決算を採用して

    おり、年度単位での『財務諸表』の作成が定着していることを考慮すると、『中

    間財務諸表』は年度の中間期までの期間を対象とした企業活動に係る中間的な報

    告であり、投資者の投資判断上、有用な投資情報を提供するという性格を有して

    いると考えられる。                                                    

      現行の「中間財務諸表作成基準」では、「中間財務諸表は、事業年度を構成す

    る中間会計期間に係る有用な会計情報を提供するものでなければならない」とし

    ている。そこでいう「有用な会計情報」は、「中間財務諸表が示す会計情報が、

    当該会計期間を含む事業年度の損益予測に資するものであることを要すること、

    正規の決算手続とは異なる手続を適用して中間財務諸表項目の数値を算出する面

    があること、期間損益確定のための決算ではなく、中間会計期間に係る財務状況

    の概況を示すものであること等を意味している」(「半期報告書で開示すべき中

    間財務諸表に関する意見書」)とされている。これは、「予測主義」を前提とし

    た個別ベースの中間財務諸表の位置付けであると解される。                

      今回、当審議会においては、「実績主義」による『中間財務諸表』の作成基準

    を提案し、中間会計期間を事業年度と並ぶ一会計期間とみて『中間財務諸表』を

    作成することとしているため、『中間財務諸表』の提供する情報の内容は、従来

    と異なってくる。                                                      

      このため、本意見書(公開草案)では、『中間財務諸表』について、その提供

    する情報の内容は年度単位での『財務諸表』に準ずるものであることを明らかに

    する観点から、従来の「事業年度を構成する中間会計期間に係る有用な会計情報

    を提供するもの」という記載を修正し、「中間会計期間に係る企業集団(又は企

    業)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関し、有用な情報を

    提供するものでなければならない」との位置付けを行うこととした。        

                                                                          

  六  「中間連結財務諸表等の作成基準(案)」の概要                        

                                                                          

    1.「中間連結財務諸表等の作成基準(案)」は、新たに設定した「中間連結財

      務諸表作成基準」と現行基準を改訂した「中間財務諸表作成基準」から構成さ

      れている。                                                          

                                                                          

    2.「実績主義」を採用したことに伴い、『中間財務諸表』は、原則として年度

      の『財務諸表』の作成に適用される原則及び手続に準拠して作成しなければな

      らないこととした。ただし、『中間財務諸表』の作成者の事務負担を考慮して、

      中間会計期間に係る財政状態及び経営成績に関する利害関係者の判断を誤らせ

      ない限り、簡便な手続によることを許容することとしている。            

                                                                          

    3.「実績主義」を採用したことに伴い、従来中間財務諸表の作成上適用されて

      いた以下のような中間決算に特有の会計処理は認められないことになる。  

     (1)  年度の財務諸表の作成に際しては適用されないような営業費用の繰延処理

        又は繰上計上                                                      

     (2)  たな卸資産に後入先出法を適用している場合の売上原価の修正        

     (3)  たな卸資産等に低価基準を適用している場合の評価損の不計上        

     (4)  原価差額の繰延べ                                                

        なお、事業の性質上営業収益又は営業費用に著しい季節的変動がある場合に

      は、企業の利害関係者の判断に資するため、『中間財務諸表』に必要な注記を

      施すとともに、半期報告書の「営業の状況」等においてその状況を記載するこ

      とが適当と考えられる。                                              

                                                                          

    4.法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金は、年度決算と同様

      の方法により計算するが、法人税等は事業年度末において確定するため、中間

      会計期間を含む事業年度の決算に適用される税率に基づいて計算する。    

        ただし、中間会計期間を含む事業年度の実効税率を合理的に見積もり、税引

      前中間純利益に当該見積実効税率を乗じて法人税等の額を計算することができ

      ることとしている。                                                  

                                                                          

    5.『中間財務諸表』は中間期末時点の情報に基づいて作成されるため、「実績

      主義」による場合であっても、年度の『財務諸表』の作成に当たっては、中間

      会計期間を含む事業年度全体を対象として、年度末の情報に基づいて改めて会

      計処理が行われ、『中間財務諸表』の基礎となった数値とは異なる数値が計上

      される場合もある。例えば、たな卸資産等に低価基準を適用している場合、中

      間決算では帳簿価額と中間期末の時価との比較が行われるが、当該資産が期末

      に残存する場合には、年度決算では期末の時価との比較が行われるため、中間

      決算において評価損が計上されていても、時価が年度末に回復したときは、年

      度決算では評価損は計上されないことになる。                          

                                                                          

    6.中間連結財務諸表には、事業の種類別等のセグメント情報、偶発債務、重要

      な後発事象等を注記することとする。                                  

                                                                          

  七  実施時期等                                                          

                                                                          

      中間連結財務諸表及び改訂後の基準による中間財務諸表の作成は、平成12年

    4月1日以後開始する中間会計期間から実施されるよう措置することが適当であ

    る。                                                                  

      中間連結財務諸表等の作成に関する実務指針については、今後、日本公認会計

    士協会が関係者と協議のうえ適切に措置することが必要と考える。

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