平成9年12月22日
研究開発費等に係る会計基準の設定について 一 経緯 当審議会は、平成8年6月に開催された総会において、重要な投資情報と位 置付けられている研究開発費に係る会計基準について検討することを決定し、 当審議会における審議の効率化を図るため、企業財務懇談会において論点の整 理を行うこととした。 平成9年6月に同懇談会から、「研究開発費に係る会計処理基準の検討にあ たっての論点の整理」が報告され、当審議会では、これを受けて、同年7月以 降審議を行った。この度、一応の成案を得たため、これを「研究開発費等に係 る会計基準(案)」として公表することとした。 二 会計基準の整備の必要性 研究開発は、企業の将来の収益性を左右する重要な要素であるが、近年、商 品サイクルの短期化、新規技術に対するキャッチアップ期間の短縮及び研究開 発の広範化・高度化により、研究開発のための支出も相当の規模となっており、 企業活動における研究開発の重要性が一層増大している。そのため、研究開発 費の総額や研究開発の内容等の情報は、企業の経営方針や将来の収益予測に関 する重要な投資情報と位置付けられている。 一方、研究開発費に係る現在の会計基準に対しては、研究開発の範囲が明確 でなく、また、資産への計上が任意となっていること等から、内外企業間の比 較可能性が阻害されているとの指摘がなされている。 このような状況を踏まえ、企業の研究開発に関する適切な情報提供、企業間 の比較可能性及び国際的調和の観点から、研究開発費に係る会計基準を整備す る必要がある。 また、コンピュータの発達による高度情報化社会の進展の中で、企業活動に おけるソフトウェアの果たす役割が急速に重要性を増し、その制作のために支 出する額も次第に多額になってきている。このソフトウェアの制作過程には研 究開発に当たる活動が含まれているが、ソフトウェアについても、研究開発と 同様、明確な会計基準が存在せず、各企業において区々の会計処理が行われて おり、会計基準の整備が望まれている。 このため、本基準では、ソフトウェア制作過程における研究開発の範囲を明 らかにするとともに、ソフトウェアに係る会計処理全体の整合性の観点から、 研究開発には該当しないソフトウェア制作についても、本基準において会計処 理を明らかにすることとした。 (注)本意見書において、ソフトウェアとは、コンピュータを機能させるよう に指令を組み合わせて表現したプログラム等をいう。 三 要点と考え方 1 研究・開発の定義について 研究・開発の定義は研究開発の範囲と直接結びついているため、内外企業間 の比較が可能となるよう、諸外国における定義を参考としながら、経営者が実 務慣行上研究開発として認識している範囲等を考慮の上検討を行い、次のよう な定義を定めた。 研究とは、「新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究」をいい、 開発とは、「新しい製品・サービス・生産方法(以下、「製品等」という。) についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若 しくは設計として、研究成果その他の知識を具体化すること」をいう。 例えば、製造現場で行われる改良研究であっても、明確なプロジェクトとし て行われている場合には、開発の定義における「著しい改良」に該当するもの と考えられる。なお、製造現場で行われる品質管理活動やクレーム処理のため の活動は研究開発には含まれないと考えられる。 2 研究開発費の発生時費用処理について 重要な投資情報である研究開発費について、企業間の比較可能性を担保する 必要があり、費用処理又は資産計上を任意とする現行の会計処理は適当でない。 研究開発費は、発生時には将来の収益を獲得できるか否か不明であり、また、 研究開発計画が進行し、将来の収益の獲得期待が高まったとしても、依然とし て獲得が確実であるとはいえないため、資産として貸借対照表に計上すること は適当でないと判断した。 また、仮に、一定の要件を満たすものについて資産計上を強制する処理を採 用する場合には、一定の資産計上要件を定める必要があるが、実務上客観的に 判断可能な要件を規定することは困難であり、抽象的な要件のもとでの資産計 上では企業間の比較可能性が損なわれるおそれがあると考えられる。 したがって、研究開発費は発生時に費用処理することとした。 3 ソフトウェアについて (1) ソフトウェアに係る現行会計実務では、法人税法上の取扱いに従い、購入 ・委託したソフトウェアを資産計上しているが、この会計処理については、 ソフトウェア制作部門を社内の一部門とするのか、子会社とするのかで会計 処理が異なる等の問題点が指摘されている。また、ソフトウェアは、その利 用目的により、将来の収益との対応関係が異なること等から、ソフトウェア 制作費に係る会計処理の検討にあたっては、取得形態(自社制作、外部購入) 別ではなく、制作目的別に検討することとした。 したがって、購入・委託したソフトウェアを加工することにより、目的の 機能を有するソフトウェアを完成させる場合、当該購入・委託に要した費用 は、下記(2)に示すようにそれぞれの制作目的に応じて処理することとなる。 なお、研究開発以外の目的で行うソフトウェアの制作においても、研究開 発に該当するソフトウェア制作費は研究開発費として発生時に費用処理する。 (2) 研究開発に該当しないソフトウェア制作費の会計処理を制作目的別に規定 するにあたっては、販売目的のソフトウェアをさらに受注生産のソフトウェ アと量販目的のソフトウェアに区分するとともに、社内利用目的と販売目的 の中間的な位置付けと考えられるサービス提供目的のソフトウェアについて も区分して規定することとした。 ○ 受注生産のソフトウェア 受注生産のソフトウェアについては、請負工事の会計処理に準じた処理 を行うこととした。 ○ 量販目的のソフトウェア ソフトウェアを量販する場合には、製品マスター(複写可能な完成品) を制作し、これを複写したものを販売することとなる。 製品マスターの制作過程には、通常、研究開発に該当する部分と製品の 製造に相当する部分とがあり、研究開発の終了時点の決定及びそれ以降の ソフトウェア制作費の取扱いが問題となる。 イ.研究開発の終了時点 新しい知識を具体化するまでの過程が研究開発であり、ソフトウェア の制作過程においては、最初に製品化された製品マスターが完成するま での活動は研究開発と考えられる。 これは、製品マスターの完成は、工業製品の研究開発における量産品 の設計完了に相当するものと考えられるためである。 ロ.研究開発終了後のソフトウェア制作費の取扱い 最初に製品化された製品マスターの機能の改良・強化を行う制作活動 (バージョンアップ)は、著しい改良と認められない限り、研究開発に は該当しないこととなる。このバージョンアップ費用については、現行 実務では一般的には仕掛品として処理されている。 しかし、当該製品マスター自体は販売の対象物ではなく、機械装置等 と同様にこれを利用(複写)して製品を作成すること、製品マスターは 法的権利(著作権)を有していること及び適正な原価計算により取得原 価を明確化できることから、仕掛品ではなく無形固定資産として計上す ることとした。 ○ サービス提供目的のソフトウェア ソフトウェア自体を販売するわけではないが、例えば、通信サービスソ フトウェアのように、ソフトウェアを利用してサービスを提供することに より収益を獲得できることが、契約等により明らかである場合には、適正 な原価を集計した上、当該ソフトウェアの制作費を無形固定資産として計 上することとした。 ○ 社内利用ソフトウェア 事業活動(生産活動、管理活動等)のために数期間にわたり利用される 社内利用ソフトウェアについては、将来の収益との対応等の観点から、事 業活動に利用される有形固定資産と同様に資産として計上し、その利用期 間にわたり償却を行うべきであるとの考え方がある。 一方、無形である社内利用ソフトウェアについては、有形固定資産と異 なり、将来の収益の獲得が不確実であること、また、自己創設無形資産の 計上については国際的にも限定的であることから、原則費用処理すべきで あるとの考え方もある。 これらの意見を踏まえて検討した結果、完成品を購入した場合には資産 に計上し、独自仕様のソフトウェアを自社又は委託により制作する場合に は、費用処理することとした。 四 ディスクロージャーについて 1 財務諸表における開示 研究開発の規模について企業間の比較可能性を担保するため、当該年度の一 般管理費及び当期製造費用に含まれる研究開発費の総額を財務諸表に注記する こととする。 なお、研究開発費は、当期製造費用として処理されたものを除き、一般管理 費として当該科目名称を付して記載することが適当である。 2 研究開発活動の記載 有価証券報告書等の「事業の概況」等における研究開発活動の状況に関する 情報の記載については、企業間比較が可能となるよう記載項目(研究体制、研 究成果等)を統一する必要があるとの意見もあった。 しかし、記載項目を統一した場合、画一的な記載内容となるおそれがあるた め、現行どおり、概括的な記載を求めることが適当であると判断した。 なお、研究開発活動の状況に関する情報は、企業の経営方針や将来の収益予 測に関する重要な投資情報であると考えられるため、各企業において、これを 自発的、積極的に開示することが望まれる。 五 実施時期等 研究開発費等に係る会計基準は、平成11年4月1日以後開始する事業年度か ら実施されるよう措置することが適当である。 なお、本基準の実施にあたっては、関係各方面に与える影響等を考慮し、本基 準の実施前において既に資産計上されている研究開発費等については、従前の会 計処理を継続する等の措置を講ずるとともに、本基準を実務に適用する場合の具 体的な指針等については、今後、日本公認会計士協会が関係者と協議のうえ適切 に措置する必要があると考える。