III.具体的な制度整備のあり方                                            

                                                                          
  1.電子マネー・電子決済に係る取引の信頼性確保                          
                                                                          
  (1) 利用者に対する情報の提供                                            
                                                                          
  イ  説明・開示及びエラー対応の義務を負う主体                            
                                                                          
    電子マネー・電子決済は、オープンなネットワークやシステムを用いる決済サ
  ービスであり、サービスの提供に関する情報処理のプロセス全体に責任を負う主
  体が存在しないこと等から、何らの法制度も設けない場合には、決済処理の確実
  性に対する利用者の信認が得られにくいという問題がある。                  
    特に電子マネーでは、いわば製造者として電磁的記録を作出する主体、電子マ
  ネーの発行体、発行体から発行見合資金の管理・運用を委託される主体、発行体
  と利用者との間で電子マネーの仲介を行う主体(以下、電子マネーにおける「流
  通取扱機関」という。)等が相互に関係することで全体のシステムが構成される
  スキームも想定されている。将来、広範な利用者を対象とする電子マネーがこう
  した形態を採ることは十分にあり得るものと考えられる。                    
    従って、電子マネー・電子決済については、利用者からの支払指図等を受けて
  決済の執行が行われることに着目し、サービスの提供に関係する様々な事業者の
  うち、決済サービス提供者が、利用者に対して取引ルール等を説明、開示し、決
  済に関する情報処理の過程で生じたエラーに対応する義務を負うこととすべきで
  ある。この場合において、決済サービス提供者の中に、最終的に決済の執行を行
  う金融機関や電子マネーの発行体のほかに、クレジットカード会社や電子マネー
  の流通取扱機関等、決済の最終的な執行者と利用者との間で決済の仲介を行う者
  がある場合には、利用者から直接支払指図等を受けていることから、当該仲介者
  が上述の義務を負うこととすべきである。                                  
    また、このような義務を負う主体である旨を、決済サービス提供者は、利用者
  に明示することが必要である。                                            
                                                                          
  ロ  取引ルール等の説明、開示の内容・方法                                
                                                                          
    電子マネー・電子決済が、民間部門の創意工夫と利用者の選択の下で発展する
  ためには、当該サービスに係る取引ルール等が、取引開始時点において、利用者
  に明確に説明、開示されるべきである。この点は、各国における制度の共通の前
  提となっている。                                                        
    その際に、利用者に説明、開示されるべき重要項目については、法令上定める
  ことが必要である。具体的な項目としては、決済サービスの提供に関連する米国
  や英国の例等を参考にすれば、例えば、決済サービス提供者の責任、利用者の責
  任、カード等の紛失時の通知先、取引記録の受領方法、エラー対応手続、使用が
  不能となった場合の対応、電子マネーの換金性の有無、採用したセキュリティ技
  術等が挙げられる。                                                      
    各項目の具体的な内容については、基本的には各サービス毎の約款等により定
  まるものであり、電子マネー・電子決済が揺籃期にあり、多様な形態のサービス
  が考案されている状況に鑑みれば、現時点において画一的に法令上規定すること
  は避けるべきである。ただし、約款等において定められる内容は、後述の公正な
  取引ルールの形成等に係る指摘を十分に踏まえたものとすることが望まれる。  
    こうした説明、開示の方法については、契約締結に当たって、利用者がサービ
  スの主な内容を比較することにより容易に選択を行うことができるよう分かりや
  すく概要を説明した書面により行う必要がある。ただし、電子マネー・電子決済
  に係る利用者利便の向上に資する場合には、例えばパーソナル・コンピュータの
  画面上に取引ルール等を表示し、利用者に内容を確認してもらった上で利用を可
  能にするなど、実質的に説明、開示が十分に行われる方法で代えることも認める
  ことが適当である。                                                      
                                                                          
  ハ  個別取引に関する履歴の交付                                          
                                                                          
    決済に関する情報について、オープン・ネットワークにおける授受・交換や、
  パーソナル・コンピュータやICチップ等における処理に際してエラーが生じた
  場合には、利用者は当該エラーに関する照会を決済サービス提供者に対して行う
  ことになる。このような場合に備え、利用者がエラーに関する自らの責任の有無
  を確認、主張することを可能とするため、決済サービス提供者の側において、取
  引履歴の情報が利用者に交付され得るような手段を提供しなければならない旨を
  法令上定めることが必要である。こうした取引履歴の交付は米国では法律で規定
  されており、英国やドイツでも事業者の自主的規律として確立されている。    
    ただし、その具体的な方法については、個別取引の履歴は件数が極めて大きな
  ものとなり、この点に過大なコストがかかれば電子マネー・電子決済の導入の効
  率化効果をかえって阻害しかねないなどの問題に留意する必要がある。従って、
  実質的に利用者保護が図られるような方法であれば、弾力的に取り扱うことが適
  当である。                                                              
                                                                          
  (2) 公正な取引ルールの形成                                              
                                                                          
  イ  利用者と決済サービス提供者との責任分担等に関するルール              
                                                                          
    利用者が安心して電子マネー・電子決済を利用するため、利用者と決済サービ
  ス提供者との責任分担等に関する特別のルールについても検討することが考えら
  れる。例えば、利用者側の事由により損失が生じた場合にも利用者の損失額を限
  定し、決済サービス提供者側が一定の損失額以上の責任を負うというルールや、
  利用者と決済サービス提供者との間で争いが生じた場合等に、決済サービス提供
  者に自らの過失がないことを立証する責任を負わせるようなルールが考えられる。
  この点については、例えば、米国では、TLA(Truth in Lending Act、貸付真
  実法)やEFT法等に基づくいわゆる50ドル・ルール等が存在している。英国
  においても関係団体による自主的規律として同様のルールが存在している。    
    このような利用者と決済サービス提供者との責任分担等に関する特別のルール
  については、個別取引の記録が預金者に交付されることを前提とした米国型の法
  規制は、通帳を利用する我が国の銀行取引には直ちに導入し得ないこと等、決済
  分野での我が国特有の慣行を踏まえ、実務上も十分に検討することが必要である。
  さらに、決済サービス提供者が自己の事由によらない損失を一律に負担すること
  等については、決済サービスの提供自体が行われなくなり、かえって利用者の利
  便性向上の妨げとなるおそれがあることにも留意すべきである。従って、こうし
  たルールについては、当面、上述の説明、開示等に関する制度整備の下で、決済
  サービス提供者の自主的な努力等を促すことが適当である。                  
    また、電子マネーについては、利用者及び決済サービス提供者双方の損失負担
  額を限定するという配慮から、あらかじめ利用者一人当たりの保有可能残高の最
  高限度額を設定することも考えられる。ただし、多様な選択肢を提供する観点か
  らは、最高限度額を法令上一律に定めることは適当でない。                  
                                                                          
  ロ  商品購入等の際における決済サービス提供者の責任に関するルール        
                                                                          
    利用者保護の観点からは、利用者が電子マネー・電子決済を用いて購入した商
  品の瑕疵を理由にその契約を取り消すような場合に、決済サービス提供者が利用
  者の請求に応じて決済の停止等を行う義務を負うべきかどうかという問題がある。  
    例えば、割賦販売法においては、このような場合に利用者が商品の販売につい
  て商品の販売業者に対して生じている事由をもって、支払の請求をする割賦購入
  あっせん業者に対抗することができるという抗弁権の接続が一定の条件の下で認
  められている。プリペイドカードにおいても、プリペイドカード業者が商品の販
  売業者に支払いを行うことを差し止める権限及びその商品に相当する金額をプリ
  ペイドカード業者から返還させる権限を、一定の条件の下で利用者に認める旨が、
  前払式証票発行協会の策定した標準約款において定められている。            
    しかし、一般的な決済手段として広範に利用される電子マネーにおいては、購
  入商品の瑕疵に基づいて決済の効力が覆されることは、支払完了性の高い決済サ
  ービスの提供を行おうとすることを妨げることになる。この問題は、多様な選択
  肢を提供する観点からは、基本的には個別の電子マネー・電子決済のスキーム毎
  に事業者が自主的に行うサービスの問題として検討されるべきであり、法令上一
  律に定めることは必ずしも適当でない。                                    
                                                                          
  ハ  個人情報の保護                                                      
                                                                          
    電子マネー・電子決済については、決済に関する情報が決済サービス提供者に
  集積され得るものも多い。しかし、電子マネー・電子決済のスキーム毎に、決済
  サービス提供者に集積され得る利用者の個人情報の程度や範囲は異なる。例えば、
  電子マネーのスキームの中には、偽変造等に対する技術的安全性を確保しつつ完
  全に匿名で利用することが可能なもの、通常はプライバシーが確保されているが
  偽変造等が行われた場合には取引履歴の追跡が可能となるもの、セキュリティ確
  保のためにプライバシーが制限されることが前提とされるもの等の様々なものが
  存在する。                                                              
    電子マネー・電子決済の利用に伴う個人情報の取扱いについては、決済サービ
  ス提供者における個人情報の集積状況を利用者が必ずしも十分に理解していると
  はいえないことや、利用者にとって重要な個人情報が相当程度集積される可能性
  があることを考慮すれば、少なくとも個人情報の集積、集積された個人情報の利
  用範囲等について適正な管理や利用者の了解が行われること等が必要である。  
    ただし、こうした決済に関する個人情報の取扱いについて法規制を考える場合
  には、電子商取引や取引一般に係る個人情報全般をどのように取り扱うべきかと
  いった議論に留意する必要があり、具体的な制度整備の段階において、その進捗
  状況を展望しつつ検討していく必要がある。                                
                                                                          
  (3) 取引の信頼性確保のための枠組み                                      
                                                                          
    電子マネー・電子決済に係る取引の信頼性確保のための枠組みについては、基
  本的には、決済サービス提供者の自主的な努力や関係団体による自主的な規律が
  中心的な役割を果たすべきである。                                        
    従って、監督当局による関与は、電子マネーの流通取扱機関を含め、一定の行
  為規制が義務づけられた主体である決済サービス提供者の所在を届出により把握
  するなど、利用者保護のための制度が実効性を持つことを担保するために必要最
  小限のものとする必要がある。                                            
    こうした観点からは、公正な取引ルールの形成、個人情報の保護基準の策定に
  加え、後述のセキュリティ等に関する基準の策定等の役割を担う法律上の団体を
  設けることについても検討する必要がある。                                
    また、決済サービス提供者の自主的な努力や関係団体のガイドラインにより公
  正な取引ルール等を形成する際には、最近の消費者契約適正化に関する議論を踏
  まえるとともに、ルールの形成等の過程において消費者その他の利用者が参画で
  きるよう配慮すべきである。                                              
                                                                          
  2.電子マネーの発行体の適格性確保                                      
                                                                          
  (1) 参入についての考え方                                                
                                                                          
  イ  発行体事業への参入の範囲                                            
                                                                          
    電子マネーの発行体の範囲に関する諸外国の動きを見ると、米国では、決済サ
  ービスの提供者に対する連邦EFT法による取引の公正性確保のための規制や州
  法による財務の健全性規制の枠組みが存在することを背景に、広範な主体による
  参入が利用者の選択の幅を拡大し、その利便を向上させるために望ましいと考え
  られている。一方、欧州大陸諸国では、当局の監督が行き届くことを理由に、電
  子マネーの発行体は原則として金融機関に対する監督の対象とすべきとの考え方
  が採られており、このうちドイツでは信用組織法により電子マネーの発行が金融
  機関に限定されている。                                                  
    こうした中で、我が国においては、電子マネーが民間部門の技術開発や創意工
  夫により発展するものであることを考慮し、電子マネー・電子決済に係る取引の
  信頼性を確保した上で、金融機関以外の主体も幅広く参入し得るような制度整備
  を行うべきである。                                                      
                                                                          
  ロ  他業との兼業                                                        
                                                                          
    電子マネーの発行体の業務範囲については、電子マネー以外の事業の失敗によ
  るリスクを遮断し、財務の健全性を確保する観点から、他業を禁止すべきかどう
  かという問題がある。                                                    
    この問題については、電子マネー事業のメリットは主として他の業務との組合
  せで発揮されること、その普及・発展のためには多様な主体の参入により様々な
  サービスが提供されることが望ましいと考えられることから、他業禁止規制は妥
  当でなく、兼業によるリスクを遮断する他の方策を義務づけることにより対応す
  ることが適当である。                                                    
                                                                          
  ハ  発行体の参入適格                                                    
                                                                          
    電子マネーの発行体は、発行見合資金に係る利用者の請求権に対する最終的な
  責任を負っている主体であることから、利用者の信認を確保するために必要な財
  産的基礎と規制を遵守し得るような一定の適格性や、技術面を含む適正な業務運
  営・内部管理体制等を有する必要がある。参入に当たっては、監督当局はこうし
  た点について審査を行う必要がある。                                      
                                                                          
  二  発行体事業の区分                                                    
                                                                          
    電子マネーの発行体が行う事業スキームのうち、一般的に元本の返還を約して
  いる電子マネーのスキームについては、決済インフラとしての役割が期待され得
  ることから、相応の参入要件を定める必要がある。また、一般的に元本の返還を
  約していない電子マネーであっても、一般的な決済手段として広範に利用され、
  現金や預金による決済に近似した状況となることが見込まれる場合には、一般的
  に元本の返還を約している電子マネーと実質的に同じ機能を果たすこととなるこ
  とから、同様の取扱いを行う必要がある。                                  
    一方、特定企業の内部の福利厚生事業に用いられるような場合や、使用される
  地域や種類がごく限られた商品・サービスの代金の前払いであるような場合には、
  現行のプリペイドカード法に準じた取扱いとすることが適当である。          
    以上の両者の境界に関し、一般的に元本の返還を約していないが決済インフラ
  としての性格を持つ電子マネーを、どのような基準で定義づけるかが問題となる。
  この点については、当該決済サービスが広く利用者に信認されるに足るサービス
  であるか、それとも決済インフラとしては不十分なサービスに過ぎないかが、利
  用者に明示されるような制度とすることで、サービス提供に関し、事業者が利用
  者からの支持を得ようとするインセンティブと適格性確保に必要なコストを節約
  しようとするインセンティブとのバランスを図っていくという視点が重要である。
  このような視点に立って、具体的な境界については、電子マネーに対する民間の
  取組みの動向等を踏まえつつ検討していくことが適当である。                
    以下においては、一般的に元本の返還を約している電子マネー、及び一般的な
  決済手段として広範に利用され、実質的に現金や預金による決済に近似した決済
  の機能を果たし得る電子マネーを、「決済インフラとしての性格を持つ」電子マ
  ネーとし、それに求められる発行見合資金の管理、発行体破綻時の対応及び監督
  当局の関与を中心に検討を行った。一方、それ以外の電子マネーについては、必
  要に応じ、具体的な制度整備の段階において、決済インフラとしての性格を持つ
  電子マネーに準じた方策を検討する必要がある。                            
                                                                          
  (2) 発行見合資金の管理                                                  
                                                                          
  イ  発行見合資金に係るリスク遮断                                        
                                                                          
    決済インフラとしての性格を持つ電子マネーにおいては、発行見合資金が常に
  確実に払い戻され得ることが重要であり、まずは、電子マネーの発行体に対し、
  発行見合資金について他の業務に係る負債・資産とは区分して経理することを義
  務づける必要がある。                                                    
    さらに、電子マネーの発行体は、電子マネー事業や他事業の失敗による破綻の
  リスクに晒されている。従って、万一発行体が破綻した場合においても、その損
  失や債務が発行見合資金に及ぶリスクを遮断することが必要である。          
    具体的なリスク遮断に関しては、電子マネーの発行体が破綻した場合に、発行
  見合資金を保全し、発行体に対する利用者の請求権を実体的に保護することが必
  要である。そうしたスキームとしては、大別して、発行体以外の主体が発行体破
  綻により生ずる損失を利用者に対して補償する仕組みと、電子マネーの発行体が
  発行見合資金を分別管理し、分別された資金について利用者が他の債権者に先立
  って弁済を受けることができるようにする仕組みとが考えられる。            
    前者については、さらに、預金保険制度に類似した包括的な保険制度を創設す
  る方法と、個別の発行体が他の民間主体と保証契約を結ぶことによる方法とが考
  えられる。                                                              
    これらのスキームのうち、預金保険制度類似の包括的な保険制度の創設につい
  ては、保険料を支払う主体の業務面、財務面での同質性・均一性がある程度確保
  されていることを前提として成り立つ仕組みであり、電子マネーが技術・事業両
  面で多様な形態を採ることに馴染まず、例えば、セキュリティ確保の面において
  モラルハザードの弊害が著しいものとなりかねない。従って、こうした制度の創
  設は適当でない。                                                        
    他方、第三者による保証については、発行見合資金が確実に保全され得るよう、
  保証を行う民間主体について極めて高い信用力及びその信用力が継続的に確保さ
  れていることが必要である。                                              
    一方、後者の分別管理については、信託による方法が考えられる。電子マネー
  については、多数の利用者が受益者となることから、例えば、同様の性格を持つ
  ものとして、会社の従業員の社内預金や証券会社の顧客の預り資産に係る引当信
  託のような方法が考えられ、関係者の創意工夫による具体的なスキーム構築が望
  まれる。なお、プリペイドカードについて採られている供託による方法も考えら
  れる。                                                                  
    以上を踏まえれば、電子マネーの発行体は、利用者の実体的権利保護の具体的
  なスキームとして、信託、個別保証及び供託の少なくともいずれか一つを採用す
  る義務を負うこととすべきである。ただし、どのスキームを選択するかは、それ
  ぞれの電子マネーのスキームの実態等に応じて電子マネーの発行体が決めること
  ができるような法制度とすることが適当である。                            
    こうしたリスク遮断をどの程度行うかについては、決済インフラとしての性格
  を持つ電子マネーの場合には、一般的な決済手段として広範に利用され、実質的
  に現金や預金による決済に近似した決済の機能を果たし得ることから、発行見合
  資金の全額について当該措置を義務づける必要がある。なお、これ以外の電子マ
  ネーの場合には、現行のプリペイドカードではその未使用残高の2分の1以上の
  金額を発行保証金として供託することが義務づけられており、同様の水準とする
  ことが一つの目安として考えられる。                                      
                                                                          
  ロ  発行見合資金の管理・運用                                            
                                                                          
    決済インフラとしての性格を持つ電子マネーの発行見合資金については、以上
  のような発行体の破綻からのリスク遮断に加え、通常時においても、利用者の請
  求に応じて払い戻されなければならない流動性の高い債務であることから、その
  管理・運用に当たっては、信用リスクが小さいこと、価格変動リスクが小さいこ
  とに加え、十分な流動性を有していることという要件をいずれも満たしているこ
  とが必要である。                                                        
    具体的には、発行見合資金が信託等の方法により分別管理されている場合には、
  その運用の方法がこうした3つの要件を満たしている必要があり、また、運用の
  対象に関しても、前述のリスク遮断措置を確実にするため、発行体の他事業のリ
  スクから隔離されている必要がある。                                      
    また、発行見合資金が個別保証の方法により保全されている場合には、電子マ
  ネーの発行体は、個別の保証契約や一定限度内の流動性供給を受けることができ
  る契約を結ぶことにより、こうした3つの要件を確保している必要がある。    
    電子マネーの発行見合資金がこうした要件を満たすことについては、外部から
  のチェックを有効に働かせるため、電子マネーの発行体は、運用対象資産の時価
  評価や、個別保証の相手方、内容等の保全方法を含め、区分経理された発行見合
  資金の管理・運用の状況に関して、十分な情報開示を行う義務を負うこととすべ
  きである。                                                              
    さらに、電子マネーの発行体は、信用リスク、価格変動リスク等の顕在化に備
  え、事業を継続的に営むため、一定以上の資本を有する必要がある。          
                                                                          
  (3) 発行体の破綻時の対応                                                
                                                                          
  イ  破綻時における利用者への資金の返還                                  
                                                                          
    電子マネーが決済インフラとしての性格を持つものとして利用者の信認を得る
  ためには、電子マネーの発行体が事業を継続できなくなる場合にも、分別管理さ
  れた発行見合資金について、他の債権者に先立って利用者に返還される仕組みと
  するよう法令上定める必要がある。                                        
    さらに、発行見合資金について分別管理または個別保証によるリスク遮断措置
  が採られた場合であっても、大量の偽変造が行われた場合等には、全体としての
  資金が不足することが考えられるため、様々な利用者の中でも消費者に対しては
  特に優先的に返還される仕組みとするよう法令上定めるかどうかという問題があ
  る。                                                                    
    この問題については、電子マネーの利用者の請求権が、通常、少額かつ多数の
  権利であることを考慮すれば、権利実行手続を簡易かつ迅速に実行するためには、
  消費者に対しては優先返還すべきとの考え方があり得る。他方、電子マネーのス
  キームによっては消費者と商店その他の事業者とを明確に区別することができな
  い場合があること、電子マネーの普及を促進する観点からはむしろ商店その他の
  事業者の積極的な参加が望まれること等を考慮する必要がある。以上に鑑みれば、
  法令上一律に消費者を優先するよう定めることは必ずしも適当でない。        
                                                                          
  ロ  権利実行手続の整備                                                  
                                                                          
    電子マネーの利用者の権利が実体的に保護される場合であっても、通常、利用
  者は多数であり、それぞれの利用者の発行体に対する権利は少額であることに鑑
  みれば、利用者自身に権利実行手続への参加を求めることは現実的でない。従っ
  て、万一の事態が生じた場合に分別管理された発行見合資金や個別保証による補
  償金が円滑に返還されるよう制度整備を図る必要がある。                    
    このため、電子マネーの発行体は、事業への参入に際し、あらかじめ第三者を
  利用者のための事務代行者として指定しておくことが必要である。この場合にお
  いて、利用者の権利の確認には電磁的記録の読取り等が必要になることを考慮す
  れば、当該電子マネー・スキームにおいて流通取扱機関等がある場合には、一定
  の要件を満たしたその者を事務代行者として指定することも考えられる。      
    いずれにしても、権利実行手続については、電子マネーのスキーム毎に異なる
  ものであり、実体的権利保護のスキームに係る民間の取組みの動向を踏まえつつ、
  供託が利用される場合の円滑な運用手続のあり方を含め、制度整備の段階におい
  て、さらに詳細に検討する必要がある。                                    
                                                                          
  (4) 発行体の適格性確保のための公的関与                                  
                                                                          
  イ  発行体の継続的な適格性確保のための公的関与                          
                                                                          
    電子マネーの発行体の財務の健全性及び業務の適正性は、継続的に確保されて
  いることが必要であり、そのための担保としては、発行見合資金の管理を含む業
  務・財産の状況についての情報開示制度のほか、監督当局が規制の遵守状況に関
  する立入検査や監督命令を行う権限を有していることが必要である。ただし、こ
  うした検査監督については、発行体の負担や監督当局の人的体制にも配慮し、明
  確な基準に従って簡素な方法により行われる必要がある。                    
    また、決済インフラとしての性格を持つ電子マネーについては、それが広範に
  流通する場合に大量の偽変造等の発生等の重大な事態が生ずれば、利用者保護及
  び決済システムの安定性確保の観点から深刻な影響を与えることも考えられる。
  従って、一種の有事規制として、監督当局が緊急時にその流通を停止させること
  を可能とすることが必要である。                                          
    なお、以上のような公的関与に係る制度整備に際しては、決済インフラとして
  の性格を持たない電子マネーにおいては、求められる利用者保護の水準や期待さ
  れる社会的基盤としての役割が小さいことに応じたものとすることが適当である。  
                                                                          
  ロ  銀行制度との関係                                                    
                                                                          
    銀行等の金融機関には、他業禁止、情報開示、自己資本比率規制、大口信用供
  与規制、預金保険制度等の経営の健全性確保のための規制の枠組みが存在してい
  るため、上述のような電子マネーの発行体に係る規制の適用についてどのように
  考えるかという問題がある。                                              
    この問題については、金融機関に対しても、何が行われるかという機能面に着
  目し、同様のサービスの提供については同様の法制度を適用するという基本的な
  考え方に立って臨むべきである。また、電子マネーには預金保険制度が馴染まな
  いことに鑑みれば、仮に電子マネーの発行見合資金に係る法制度を適用しなけれ
  ば、電子マネーの利用者保護の水準が預金者に比べ著しく劣ることとなるという
  問題が生じる。従って、金融機関が電子マネーを発行する場合にも、電子マネー
  の発行体に係る法制度を適用すべきである。

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