報 告 書 の 概 要

                                                                                            

                                                                                            

                                                                                            

I.電子マネー・電子決済を巡る内外の状況                                                    



  (1) 民間部門の動向                                                                        

        電子マネー・電子決済は、従来にない効率的な決済方法を提供することにより利用者利便の向

      上に寄与するとともに、高度情報通信社会における電子商取引の発展の基盤となるものである。

      また、金融部門の重要な機能の一つである決済機能を高度化させるものである。こうした電子マ

      ネー・電子決済は、情報通信技術の革新等を背景に更なる発展が見込まれており、各国・各分野

      の事業者が開発・実験・普及の取組みを進めている。                                      

                                                                                            

  (2) 制度面の検討状況                                                                      

        我が国では、平成8年7月より「電子マネー及び電子決済に関する懇談会」において検討が開

      始され、昨年5月に幅広い論点について課題の整理が行われた。さらに、同年6月の金融制度調

      査会答申において「電子マネー・電子決済の発展・普及のための環境の整備は、21世紀に向けた

      金融システム改革の一環として取り組むべき課題であり、速やかに具体的な施策に関する検討を

      進め、所要の措置を講じていくことが求められる。」とされた。                            

        この懇談会は、電子マネー・電子決済の健全な発展・普及のための環境整備を図ることを目的

      に、上記の報告書や答申に示された考え方を基本として、さらに具体的な制度整備のあり方につ

      いて提言を行うものである。                                                            

                                                                                            

II.制度整備に当たっての基本的な考え方                                                      



  (1) 制度整備の必要性と政策目的                                                            

        電子マネー・電子決済の健全かつ円滑な発展・普及のためには、利用者の信認を確立するとと

      もに、決済システムの安定性を確保することが必要である。                                

        電子マネー・電子決済について、幅広い事業者による参入を促しつつ、利用者保護及び決済シ

      ステムの安定性を確保するという政策目的の下で、新たな立法措置を含む法的な制度整備を図る

      必要がある。                                                                          

                                                                                            

  (2) 機能面から見た3つの着眼点                                                            

        電子マネー・電子決済は現在揺籃期にあり、未だ典型的な形態が確立しているとはいいがたく、

      今後とも新たな形態のサービスが提供されることが見込まれる状況に鑑みれば、「何が行われる

      か」という機能面に着目して必要最小限の規制体系を構築する必要がある。                  

        利用者保護及び決済システムの安定性を確保するという政策目的を達成する観点から、以下の

      3つの着眼点に基づいて制度整備の内容等を検討することが適当である。                    

      ○  電磁的な方法により支払指図等の決済に関する情報が処理され、そのプロセス全体を管理す

        る責任を有する単一の主体が存在しない決済サービスの提供に対する利用者の信認の確保    

      ○  電子マネーと見合いで利用者から受け入れられた資金の保全                            

      ○  決済インフラとしての性格を持つ電子マネーによる決済の安定性の確保                  

                                                                                            

  (3) 対象範囲                                                                              

      (「電子マネー」の定義)                                                              

        本報告書では、「電子マネー」とは、利用者から受け入れられる資金(「発行見合資金」)に

      応じて発行される電磁的記録を利用者間で授受、更新することによって決済が行われる仕組み、

      または、その電磁的記録自体をいうこととする。                                          

        こうした電子マネーが利用者から信頼されて利用されるためには、利用者からの請求に応じて

      金銭の払出しが確実に行われることが重要である。従って、発行見合資金に係る利用者の請求権

      に対する最終的な責任を負っている主体を、電子マネーの「発行体」として制度整備の対象とする。  

      (「電子マネー・電子決済」の定義)                                                    

        「電子マネー・電子決済」とは、電子マネーを含め、決済に関する情報が電磁的な方法により

      処理され、そのプロセス全体を管理する責任を有する単一の主体が存在しない決済の仕組みをい

      うこととする。                                                                        

        こうした決済の仕組みにおいては、利用者からの支払指図等に応じて決済の仲介や最終的な執

      行が確実に行われることが重要である。従って、電子マネー・電子決済に係る決済の仲介または

      最終的な執行を行う主体を、「決済サービス提供者」ということととし、その者が行う決済の仲

      介・執行を制度整備の対象とする。このような定義によれば、電子マネー・電子決済には、IC

      カードを用いた電子マネ-、クレジットやプリペイドの仕組みを利用したインターネット上での

      決済サービス、インターネット・バンキング等が含まれることになる。                      

                                                                                            

  (4) 制度整備の際の留意点                                                                  

        具体的な制度整備を検討するに当たっては、電子マネー・電子決済が世界的な動きの一環であ

      ることを考慮すれば、制度の国際的整合性に配慮することが必要である。                    

        また、こうした制度整備は、電子マネー・電子決済の健全な普及・発展のための現時点での対

      応であり、今後の電子マネー・電子決済の普及・定着の状況等を踏まえ、制度を見直すことが考

      えられる。                                                                            

                                                                                            

III.具体的な制度整備のあり方                                                                



1.電子マネー・電子決済に係る取引の信頼性確保                                              

  (1) 利用者に対する情報の提供                                                              

      (説明・開示及びエラー対応の義務を負う主体)                                          

        電子マネー・電子決済は、オープンなネットワークやシステムを用いる決済サービスであり、

      決済に関する情報処理のプロセス全体に責任を負う主体が存在しないこと等から、何らの法制度

      も設けない場合には、決済処理の確実性に対する利用者の信認が得られにくいという問題がある。

      従って、利用者からの支払指図等を受けて決済の執行が行われることに着目し、サービスの提供

      に関係する様々な事業者のうち、決済サービス提供者(決済の仲介を行う者がある場合には、そ

      の者)が、利用者に対して取引ルール等を説明、開示し、エラーに対応する義務を負うこととす

      べきである。また、決済サービス提供者は、このような義務を負う主体である旨を、利用者に明

      示することが必要である。                                                              

      (取引ルール等の説明、開示の内容・方法)                                              

        取引開始時点で利用者に説明、開示されるべき重要項目として、(1)決済サービス提供者の責任、

      (2)利用者の責任、(3)カード等の紛失時の通知先、(4)取引履歴の受領方法、(5)エラー対応手続、

      (6)使用が不能となった場合の対応、(7)電子マネーの換金性の有無、(8)採用したセキュリティ

      技術等を、制度上定めることが必要である。説明・開示の方法については、概要を説明した書面

      により行う必要がある。ただし、実質的に利用者保護が図られるような方法で代えることも認め

      ることが適当である。                                                                  

      (個別取引に関する履歴の交付)                                                        

        利用者がエラーについて自らの責任の有無を確認、主張することを可能とするために、決済サ

      ービス提供者の側において、取引履歴の情報が、利用者に交付され得るような手段を提供するよ

      う、制度上定めることが必要である。ただし、具体的な方法については、実質的に利用者保護が

      図られるような方法であれば、弾力的に取り扱うことが適当である。                        

                                                                                            

  (2) 公正な取引ルールの形成                                                                

      (利用者と決済サービス提供者との責任分担等に関するルール)                            

        責任分担等に関する特別のルールとしては、例えば、米国連邦EFT法制(いわゆる50ドル・

      ルール、立証責任の転換等)、保有可能残高の制限等があると考えられるが、いずれのルールが

      望ましいかは実務上も十分な検討が必要である。従って、当面、説明・開示に関する制度整備の

      下で、決済サービス提供者の自主的な努力等を促すことが適当である。                      

      (商品購入等の際における決済サービス提供者の責任に関するルール)                      

        割賦販売の場合と異なり、一般的な決済手段として広範に利用される電子マネーにおいて、購

      入商品の瑕疵に基づいて決済の効力が覆されることは、支払完了性の高い決済サービスの提供を

      行おうとすることを妨げることとなるので、必ずしも制度上一律に規制を定めるべきではない。  

      (個人情報の保護)                                                                    

        電子マネー・電子決済の利用に伴う個人情報の取扱いについては、決済サービス提供者におけ

      る個人情報の集積状況を利用者が必ずしも十分に理解しているとはいえないことや、利用者にと

      って重要な個人情報が相当程度集積される可能性があることを考慮すれば、少なくとも個人情報

      の集積、集積された個人情報の利用範囲等について適正な管理や利用者の了解が行われること等

      が必要である。                                                                        

        しかし、こうした点に関する法規制を考える場合には、電子商取引や取引一般に係る個人情報

      全般をどのように取り扱うべきかといった議論に留意する必要があり、具体的な制度整備の段階

      において、その進捗状況を展望しつつ検討していく必要がある。                            

                                                                                            

  (3) 取引の信頼性確保のための枠組み                                                        

        電子マネー・電子決済に係る取引の信頼性確保のための枠組みについては、基本的には決済サ

      ービス提供者の自主的な努力や関係団体による自主的な規律が中心的な役割を果たすべきであり、

      監督当局による関与は、一定の行為規制が義務づけられた主体である決済サービス提供者の所在

      を届出により把握する等、利用者保護のための制度が実効性を持つことを担保するために必要最

      小限のものとすべきである。                                                            

        こうした観点からは、公正な取引ルールの形成等を行うことを目的とする法律上の団体を設け

      ることについても検討する必要がある。また、公正な取引ルール等を形成する際には、最近の消

      費者契約適正化に関する議論を踏まえるとともに、その過程に一般の利用者が参画できるよう配

      慮すべきである。                                                                      

                                                                                            

2.電子マネーの発行体の適格性確保                                                          

  (1) 参入についての考え方                                                                  

      (発行体事業への参入の範囲)                                                          

        電子マネーが民間部門の技術開発や創意工夫により発展するものであることを考慮し、電子マ

      ネー・電子決済に係る取引の信頼性を確保した上で、金融機関以外の主体も幅広く参入し得るよ

      うな制度整備を行うべきである。                                                        

      (他業との兼業)                                                                      

        電子マネー事業のメリットは主として他の業務との組合せで発揮されること、その発展・普及

      のためには多様な主体の参入により様々なサービスが提供されることが適当であることから、他

      業禁止規制は妥当でない。ただし、兼業によるリスクを遮断する他の方策が確保されることが必

      要である。                                                                            

      (発行体の参入適格)                                                                  

        電子マネーの発行体は、発行見合資金に係る利用者の請求権に対する最終的な責任を負ってい

      る主体であることから、利用者の信認を確保するために必要な財産的基礎や規制を遵守し得るよ

      うな一定の適格性を有する必要がある。監督当局はこうした適格性や技術面を含む適正な業務運

      営、内部管理体制等について審査を行う必要がある。                                      

      (発行体事業の区分)                                                                  

        一般的に元本の返還を約している電子マネーや一般的な決済手段として広範に利用され実質的

      に現金や預金による決済に近似した機能を果たし得る電子マネーについては、決済インフラとし

      ての役割が期待されることから、相応の参入要件を求める必要がある。それ以外の電子マネーに

      ついては、決済インフラとしての性格を持つ電子マネーに準じた要件を検討する必要がある。  

                                                                                            

  (2) 発行見合資金の管理                                                                    

      (発行見合資金に係るリスク遮断)                                                      

        決済インフラとしての性格を持つ電子マネーにおいては、発行見合資金が確実に払い戻され得

      ることが重要であり、まずは、そうした資金について他の業務に係る負債・資産とは区分して経

      理することが必要である。さらに、万一発行体が破綻した場合にも、その影響が発行見合資金に

      及ぶリスクを遮断し、利用者の実体的権利保護を図るため、分別管理及び優先弁済の確保等が必

      要である。                                                                            

        電子マネーの発行体は、具体的なリスク遮断のスキームとして、信託、個別保証、供託等によ

      る方法の少なくともいずれか一つを採用する義務を負うこととすべきである。                

        こうしたリスク遮断をどの程度行うかについては、決済インフラとしての性格を持つ電子マネ

      ーの場合には、発行見合資金の全額について当該措置が行われる必要がある。                

      (発行見合資金の管理・運用)                                                          

        決済インフラとしての性格を持つ電子マネーの発行見合資金については、発行体の破綻時のみ

      ならず、通常時においても利用者の請求に応じて払い戻されなければならない流動性の高い債務

      であることから、その管理・運用に当たっては、信用リスクが小さいこと、価格変動リスクが小

      さいことに加え、十分な流動性を有していること、という要件をいずれも満たしていることが必

      要である。具体的には、発行見合資金が信託等の方法により分別管理されている場合には、その

      運用の方法がこうした3つの要件を満たしている必要があり、発行見合資金が個別保証の方法に

      より保全されている場合には、個別の保証契約等により、こうした3つの要件を確保している必

      要がある。                                                                            

        電子マネーの発行見合資金が上述の要件を満たすことについては、外部からのチェックを有効

      に働かせる必要があるため、電子マネーの発行体は、運用資産の時価評価、個別保証の内容など

      発行見合資金の管理・運用の状況に関して、十分な情報開示を行うことが必要である。        

                                                                                            

  (3) 発行体の破綻時の対応                                                                  

      (破綻時における利用者への資金の返還)                                                

        電子マネーが一般的な決済手段として利用者の信認を得るためには、電子マネーの発行体が事

      業を継続できなくなる場合にも、分別管理された発行見合資金について、他の債権者に先立って

      利用者に返還される仕組みとするよう制度上定める必要がある。                            

      (権利実行手続の整備)                                                                

        発行体破綻時に発行見合資金が円滑に返還される制度の整備のため、決済サービス提供者には、

      事業への参入に際し、第三者を利用者の権利の確認等のための事務代行者として指定しておくこ

      とが求められる。                                                                      

                                                                                            

  (4) 発行体の適格性確保のための公的関与                                                    

      (発行体の継続的な適格性確保のための公的関与)                                        

        電子マネーの発行体の財務の健全性及び業務の適正性は継続的に確保されていることが必要で

      ある。そのための担保としては発行見合資金の管理を含む業務、財産の状況についての情報開示

      制度のほか、監督当局が規制の遵守状況に関する検査監督権限を有していることが必要である。

      ただし、こうした検査監督については、発行体の負担や監督当局の人的体制にも配慮し、明確な

      基準に従って簡素な方法により行われる必要がある。                                      

      (銀行制度との関係)                                                                  

        銀行等の金融機関についても、機能面に着目して横断的に制度を適用するという基本的な考え

      方に立って臨むべきであり、電子マネーの発行体に係る制度を適用すべきである。            

                                                                                            

IV.その他の課題                                                                            

  (1) 技術面での適正性確保                                                                  

        安全な電子マネー・電子決済を実現するためには、決済サービス提供者が自主的な努力により

      セキュリティを確保していくことが最も重要であるが、広く普及した段階でセキュリティに重大

      な欠陥があることが発覚した場合には決済システムに深刻な影響が出る可能性もある。従って、

      技術的安全性が全体として向上していくことを促進するために、発行体のセキュリティ対策の状

      況についても情報開示を求めていくことが必要である。                                    

                                                                                            

  (2) 犯罪、不正利用対策                                                                    

        電子マネー・電子決済が偽変造、マネロン等の犯罪、不正利用の温床になる場合には、広く社

      会から認知されずその健全な発展が望めなくなると考えられることから、犯罪、不正利用に対し

      て適切な防止対策が図られることが望ましい。そうした対策としては、技術面においてセキュリ

      ティが確保されることが基本である。また、電子マネーでは、偽変造を個別に追跡し得る仕組み

      等の技術的な対応や利用限度額の設定の工夫等の適切な対策が考えられている。              

        また、こうした事業者の取組みが行われるともに、電子マネーが刑事法上の保護対象たり得る

      だけの一定の客観性を備えた決済手段となる場合には、その社会的信頼を保護するため、偽変造

      等について刑事法上の手当てを検討することが必要である。                                

                                                                                            

  (3) 民事法上の課題                                                                        

        電子マネーの中には、あたかも電磁的記録自体が財産的価値を有しているかのように観念され、

      電磁的記録の移転により決済が完了するようなものも存在するが、現行の民事法では電磁的記録

      が物権的に移転していくことは想定されておらず、第三者との法的関係をどのように捉えるべき

      かという考え方が確立していないという指摘もある。いうまでもなく、この点が解決されない限

      り電子マネーのサービス提供自体が行えないわけではないが、今後の高度情報通信社会を展望す

      れば、電子署名・電子取引等に係る国際的な動向を踏まえつつ、電磁的記録を民事法上どのよう

      に位置づけていくかが検討されることが必要である。                                      

                                                                                            

V.電子マネー・電子決済の将来に向けて                                                      

        金融行政当局においては、以上の検討結果を踏まえ、各国や関係各省庁における検討作業との

      協調を図りつつ、早急に具体的な制度整備に取り組んでいく必要がある。

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