第一 総論 1 目的 (1) 日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するととも に、通貨及び金融の調節を行うものする。通貨及び金融の調節は、物 価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することを旨 として行う。 (2) 日本銀行は、上記(1)のほか、金融機関間の資金決済の円滑の確保を 図り、もって信用秩序の維持に資するものとする。 2 通貨及び金融の調節の自主性の尊重及び透明性の確保 (1) 日本銀行の通貨及び金融の調節に関する自主性は、尊重されるもの とする。 (2) 日本銀行は、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容及び過程 を国民に明らかにするよう努めるものとする。 3 政府との関係 日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節と政府の経済政策との整合 性が確保されるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図る ものとする。 4 業務の公共性及び自主性 (1) 日本銀行は、その業務及び財産の公共性にかんがみ、適正かつ効率 的な業務運営に努めるものとする。 (2) この法律の運用に当たっては、日本銀行の業務運営についての自主 性は十分配慮されるものとする。 5 法人格、資本金 (1) 日本銀行は法人とする。 (2) 資本金の額及び構成は現状どおりとする。 6 本店及び支店等 (1) 日本銀行は、本店を東京都に置く。 (2) 日本銀行は、大蔵大臣の認可を受けて、支店、事務所又は代理店を 設置することができる。 (3) 大蔵大臣は、上記(2)の認可をしなかったときは、速やかにその旨及 び理由を公表するものとする。(以下に掲げる大蔵大臣の認可及び承 認に係る事項について、原則、これを準用する。) 7 定款 日本銀行の定款の変更は、大蔵大臣の認可を受けるものとする。 第二 政策委員会 1 設置 日本銀行に、その内部の機関として、政策委員会を置く。 ※ いわゆる役員集会を廃止する。 2 権限 (1) 次の事項は、政策委員会の議決によるものとする。 ○ 通貨及び金融の調節に関する事項(公定歩合の変更、金融市場調 節方針、準備率操作、金融情勢の基本判断等) ○ その他の業務の運営に関する事項(信用秩序維持に資する業務、 考査等) ○ 業務の執行の基本方針に関する事項 (2) 政策委員会は、日本銀行の役員の職務の執行を監督する。 3 組織・構成 (1) 政策委員会は、次の委員9名で構成する。 総裁 1名 副総裁 2名 審議委員 6名 ※ 政府代表委員を廃止する。 (2) 政策委員会の議長は委員の互選による。 (3) 総裁及び副総裁は、政策委員会において独立して委員の職務を行 う。 4 運営方法 (1) 政策委員会の会議の定足数は、総委員の3分の2以上とする。 (2) 議事は出席した委員の過半数をもって決する。 (3) 通貨及び金融の調節に関する事項を議事とする政策委員会の会議 を定期的に開催するものとする。ただし、一定の場合に臨時に同会議 を開催することを妨げない。 5 政府からの出席等 (1) 大蔵大臣若しくはその指名するその職員又は経済企画庁長官若しく はその指名するその職員は、必要に応じ、上記4(3)の会議に出席し、 意見を述べることができる。 (2) 政府からの出席者は、通貨及び金融の調節に係る事項に関する議案 を提出することができる。 また、政府からの出席者は、次回の同会議まで委員会の議決を延期 することを求めることができる。この場合には委員会は、その求めに ついての採否を決定するものとする。 6 議事録等の公開 (1) 政策委員会の議長は、上記4(3)の会議の終了後、速やかに、政策委 員会の承認を得て、その会議の議事の概要を公開するものとする。 (2) 政策委員会の議長は、上記4(3)の会議の議事録を、その開催日から 相当期間(政策委員会が決定)経過後、公開するものとする。 第三 役員及び職員 1 役員構成 日本銀行の役員は、以下のとおりとする。 総裁 1人 副総裁 2人 審議委員 6人 理事 6人以内 監事 3人以内 参与 若干人 2 役員の職務及び権限 (1) 総裁は、日本銀行を代表し、政策委員会の定めるところに従い、日 本銀行の業務を総理する。 (2) 副総裁は、日本銀行を代表し、総裁を補佐して日本銀行の業務を掌 理し、総裁に事故がある場合等においてその職務の代理等を行う。 (3) 理事は、総裁及び副総裁を補佐して日本銀行の業務を掌理する。 (4) 監事は、日本銀行の業務を監査し、監査の結果に基づき必要がある と認めるときは、大蔵大臣又は政策委員会に意見を提出することがで きる。 (5) 参与は、日本銀行の業務に関する重要事項について、政策委員会の 諮問に応じ、又は必要と認めるときは、政策委員会に意見を述べるこ とができる。 3 役員の任命 (1) 総裁及び副総裁は、両議院の同意を得て、内閣が任命する。 (2) 審議委員は、経済又は金融に関して高い識見を有する者その他の学 識経験のある者のうちから、両議院の同意を得て、内閣が任命する。 (3) 監事は、内閣が任命する。 (4) 理事及び参与は、政策委員会の推薦に基づいて、大蔵大臣が任命す る。 4 役員の任期 役員の任期は、以下のとおりとし、再任することができる。 総裁、副総裁及び審議委員 5年 理事及び監事 4年 参与 2年 5 役員の身分保障 日本銀行の役員は、次のいずれかの場合のほか、在任中、その意に反 して解任されることがない。 (1) 禁治産、準禁治産又は破産の宣告を受けたとき。 (2) この法律に規定する罰則の適用を受けたとき。 (3) 禁錮以上の刑に処せられたとき。 (4) 心身の故障のため職務を執行することができないと政策委員会に おいて認めたとき。 ※ 政府と意見が異なることを理由とする解任は認めない。(理事に ついては、政策委員会の求めによる解任もあり得る。) 6 役員の行為制限 日本銀行の役員は、在任中、次の行為をしてはならない。 (1) 国会又は地方公共団体の議会の議員その他公選による公職の候補 者となること。 (2) 政党等の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をする こと。 (3) 報酬のある他の職務に従事すること。(政策委員会において職務 の適切な執行に支障がないものとして認めた場合を除く。) (4) 営利事業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこ と。 7 役職員の秘密保持義務等 (1) 日本銀行の役職員は、その職務上知ることができた秘密を他に漏ら し、又は盗用してはならない。 (2) 日本銀行の役職員は、刑法その他の罰則の適用については、法令に より公務に従事する職員とみなす。 8 給与等の支給の基準 日本銀行は、その役職員の報酬、給与等の支給の基準を社会一般の情 勢に適合したものとなるよう定め、大蔵大臣に届け出るとともに、公表 するものとする。 9 服務の準則 日本銀行は、役職員の職務に専念する義務、私企業からの隔離その他 の服務に関する準則を定め、大蔵大臣に届け出るとともに、公表するも のとする。 第四 業務 1 普通業務 日本銀行は、上記「第一・1」の目的を達成するため、以下の業務を 行うことができる。 (1) 商業手形その他の手形の割引 (2) 手形、国債その他の有価証券を担保とする貸付け (3) 商業手形その他の手形又は国債その他の債券の売買 (4) 売出しのための手形の振出し (5) 預り金 (6) 内国為替取引 (7) 保護預り、地金銀の売買 (8) その他これらの業務に付随する業務等 2 国と関係する業務 (1) 日本銀行は、国との間で次の業務を行うことができる。 ○ 財政法第5条ただし書で認められた貸付け(無担保)又は国債の 応募若しくは引受けを行うこと。 ○ 一時貸付(無担保)又は大蔵省証券その他の融通証券の応募若し くは引受けを行うこと。 (2) 日本銀行は、国庫金の取扱いのための業務を行うものとする。 (3) 日本銀行は、通貨及び金融に関する国の事務の取扱いのための業務 を行うものとする。 3 信用秩序維持に資する業務 (1) 日本銀行は、一定の金融機関において電子情報処理組織の故障その 他の予見しがたい事由により支払上資金が一時的に不足しているとき は、一定の期間を限度として、その金融機関に対して、特別の条件に より資金の貸付けを行うことができる。 (2) 日本銀行は、大蔵大臣から信用秩序維持のため特に必要があるとし て要請があったときは、当該要請の範囲において、特別の条件による 資金の貸付けその他信用秩序維持のため必要な業務を行うことができ る。 4 資金決済の円滑に資する業務 日本銀行は、上記1及び2の業務と一体的に行うことによって金融機 関間の資金決済の円滑に資すると認められる業務(大蔵大臣認可)を行 うことができる。 5 国際金融業務 (1) 日本銀行は、外国為替の売買を行うことができる。この場合におい て、日本銀行は、本邦通貨の外国為替相場の安定を目的とする外国為 替の売買については、政府による売買の事務の取扱いをする者とし て、また、国際金融面での外国中央銀行等との協力のために必要な外 国為替の売買については、大蔵大臣の要請又は承認により、行うもの とする。 (2) 日本銀行は、外国中央銀行等のために預り金その他本邦通貨建てで の資産の適切な運用に資すると認められる業務を行うことができる。 (3) 日本銀行は、外国中央銀行等に対する信用の供与その他の国際金融 面での外国中央銀行等との協力のために必要な取引を、大蔵大臣の要 請又は承認により、行うことができる。 6 他業 日本銀行は、日本銀行の目的達成上必要がある場合には、この法律又 は他の法令により規定する業務以外の業務を大蔵大臣の認可を受けて行 うことができる。 7 考査 (1) 日本銀行は、信用秩序の維持に資するための業務の適切な実施及び 適切な実施に備えるためのものとして、これらの業務の相手方となる 金融機関との間で、一定の要件を備えた考査に関する契約を締結する ことができる。 (2) 日本銀行は、考査を行う場合には、金融機関の事務負担に配慮しな ければならない。 (3) 日本銀行は、大蔵大臣から要請があったときは、考査の結果等を大 蔵大臣に対し提出し、閲覧させることができる。 第五 日本銀行券 日本銀行は、銀行券を発行する。日本銀行が発行する銀行券(日本銀 行券)は、法貨として無制限に通用する。 その他日本銀行券に関する事項について、所要の措置を講ずる。 ※ 日本銀行券の発行限度及び発行保証を廃止する。 第六 会計 1 事業年度 日本銀行の事業年度は1年(4月1日~翌年3月31日)とする。 2 経費の予算 (1) 日本銀行は、毎事業年度、経費(通貨及び金融の調節に支障の生じ ないものに限る。)に関する予算を作成し、事業年度開始前に、大蔵 大臣に提出して、その認可を受けるものとする。 (2) 大蔵大臣は、上記(1)の認可をすることが適当でないと認めるとき は、その旨及びその理由を速やかに日本銀行に通知するとともに、こ れを公表するものとする。 (3) 日本銀行は、上記(2)の通知があったときは、大蔵大臣に対して意見 を述べ、又はこれを公表することができる。 3 財務諸表等 日本銀行は、財務諸表(貸借対照表、損益計算書)を作成し、監事の 意見を添付して大蔵大臣に提出し、その承認を受ける等の措置を講ず る。 4 剰余金の処分 (1) 日本銀行は、各事業年度の剰余金に関して、損失の補てん等のため の準備金として、その剰余金額の5%相当額を積み立てるものとし、 特に必要があると認めるときは、大蔵大臣の認可を受けて、これを 超える金額を積み立てることができる。また、払込出資金額に対し年 5%の範囲内で剰余金の配当をすることができる。 (2) 日本銀行は、各事業年度の剰余金額から上記(1)の金額を控除した残 額を国庫に納付するものとする。 第七 国会への報告等 1 業務の報告等 日本銀行は、概ね6月に1回、通貨及び金融の調節に関する政策委員 会の議決した内容及びそれに基づく業務の状況を記載した報告書を作成 し、大蔵大臣を経由して国会に提出する等の措置を講ずる。 2 業務概況の公告 日本銀行は、毎事業年度終了後、その業務の概況を、財務諸表等とと もに公告するものとする。 第八 違法行為等の是正等 1 違法行為等の是正 (1) 大蔵大臣は、日本銀行又はその役職員の行為が法令・定款に違反し 又はそのおそれがある場合において、日本銀行に対し、当該行為の是 正のため必要な措置を講ずることを求めることができる。 (2) 日本銀行は、上記(1)の求めがあったときは、速やかに当該行為の是 正その他の政策委員会が必要と認める措置を講じるものとする。 ※ 広範な業務命令権及び日本銀行監理官制度を廃止する。 2 大蔵大臣の求めによる監査等 (1) 大蔵大臣は、日本銀行又はその役職員の行為が法令・定款に違反し 又はそのおそれがある場合において、日本銀行の監事に対して、当該 行為その他の必要な事項について監査し、及びその結果を報告すべき ことを求めることができる。 (2) 日本銀行の監事は、上記(1)の求めがあったときは、速やかにその事 項について監査し、その結果を大蔵大臣及び政策委員会に報告するも のとする。 ※ 大蔵大臣の立入検査権を廃止する。 (3) 大蔵大臣は、日本銀行の業務の執行の状況に照らし必要があると認 めるときは、日本銀行に対し報告又は資料の提出を求めることができ る。 第九 その他 1 罰則 この法律の諸条項の実効を期するため、所要の罰則を規定するものと する。 2 施行日 平成10年4月1日とする。 3 準備預金制度に関する改正 準備預金制度について、準備率の設定等に関する大蔵大臣の認可を廃 止する等の措置を講じる。 4 規定の整備 上記のほか、所要の規定の整備を行う。