日本銀行法の改正に関する答申理由書

 

 第一 総論

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|1  目的                                                      |
|  (1) 日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとと|
|    もに、通貨及び金融の調節を行うものとする。通貨及び金融の調|
|    節は、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資|
|    することを旨として行う。                                  |
|  (2) 日本銀行は、上記(1)のほか、金融機関間の資金決済の円滑の |
|    確保を図り、もって信用秩序の維持に資するものとする。      |
+―――――――――――――――――――――――――――――――+

  (説明)                                                      
                                                                
    現行日本銀行法第1条は、戦時中の立法を反映して、「日本銀行ハ
  国家経済総力ノ適切ナル発揮ヲ図ル為国家ノ政策ニ即シ通貨ノ調節、
  金融ノ調整及信用制度ノ保持育成ニ任ズルヲ以テ目的トス。」として
  いるが、現在では、同規定は時代にそぐわないものとなっており、そ
  のため、日本銀行の目的は不明確となっている。今回の日本銀行法改
    正においては、まず、日本銀行の目的を明確化することが必要であ
  る。                                                          
                                                                
  1.(銀行券の発行と通貨及び金融の調節)                      
                                                                
      中央銀行は、歴史的に、発券銀行として銀行券の独占的発行権を
    付与されることで、中央銀行としての公的性格を確立してきている。
    その後、管理通貨制への移行により、中央銀行による通貨発行量や
    金利水準の調節の余地が拡大し、中央銀行の行う金融政策が国民経
    済に大きな影響を与えるようになった。現在の中央銀行には、銀行
    券を発行するとともに、公定歩合操作や債券・手形オペレーション、
    預金準備率操作等の通貨及び金融の調節を適切に実施することが求
    められている。日本銀行法改正においても、銀行券を発行するとと
    もに、通貨及び金融の調節を行うことが、日本銀行の本質的な任務
    であることを示すことが適当である。                          
                                                                
                                                                
  2.(通貨及び金融の調節の基本方針)                          
                                                                
      日本銀行の金融政策(通貨及び金融の調節)の最も重要な目的は
    「物価の安定」を図ることにある。その際、日本銀行の金融政策の
    運営は、物価の安定を図ることを通じて、「国民経済の健全な発展」
    に資することを基本とすべきである。                          
      ただし、日本銀行は、ただ物価の安定にのみ専念すれば足りるも
    のではなく、物価の安定を基本とし、国民経済の健全な発展に資す
    るよう、機動的かつ的確な金融政策を遂行することが求められてい
    る。                                                        
      なお、金融政策の目標を、物価の安定ではなく、通貨価値の安定
    とする考え方もある。しかし、通貨価値には、対内的価値である物
    価と対外的価値である為替レートの2つの側面があり、こうした2
    つの目標を、金融政策という1つの経済手段で追及する場合、利益
    相反が生じうることは、理論や過去の経験が示すところである。従
    って、金融政策の目標は、通貨価値の安定とせず、物価の安定とす
    ることが適当と判断したところである。                        
      さらに、一般物価水準が安定している中でも、地価・株価等の資
    産価格の高騰・急落が生じ、国民経済に深刻な影響を与える可能性
    があることは、過去の経験が示すところであり、日本銀行は、資産
    価格の変動にも留意していく必要がある。                      
                                                                
                                                                
  3.(信用秩序維持への寄与)                                  
                                                                
      日本銀行は、銀行の銀行として、金融機関間の資金決済サービス
    を提供しており、また、金融機関の破綻等が、金融機関間の円滑な
      決済に深刻な影響を与えるおそれがある場合には、発券機能を裏
      付けに流動性の供給を行い、円滑な資金決済の確保を図っている
    (「最後の貸手」機能)。金融機関の監督等による信用秩序維持は、
    行政的手法を要し、最終的には、政府の責務であるが、日本銀行も、
    決済システムの円滑かつ安定的な運行の確保を通じ、信用秩序維持
    に寄与している。                                            
      こうしたことから、銀行その他の金融機関の間で行われる円滑か
    つ安定的な決済を確保していくことをもって、信用秩序の維持に資
    することが、日本銀行の目的であることを明確にすることが適当で
    ある。                                                      
                                                                
                                                                  
+―――――――――――――――――――――――――――――――+
|2  通貨及び金融の調節の自主性の尊重及び透明性の確保          |
|  (1) 日本銀行の通貨及び金融の調節に関する自主性は、尊重される|
|    ものとする。                                              |
|  (2) 日本銀行は、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容及び|
|    過程を国民に明らかにするよう努めるものとする。            |
+―――――――――――――――――――――――――――――――+

  (説明)                                                        
                                                                  
  1.(日本銀行の金融政策の独立性強化)                        
                                                                
      今般の日本銀行改革の基本的考え方は、日本銀行の金融政策(通
    貨及び金融の調節)の独立性の強化とその政策運営の透明性の確保
    にある。                                                      
      中央銀行の金融政策の最も重要な目標は、物価の安定であるが、
    過去の各国の中央銀行の歴史は、中央銀行の金融政策にはインフレ
    的な経済運営を求める圧力がかかりやすいことを示しており、物価
    の安定達成のためには、中央銀行の金融政策に関し、高い独立性が
    付与されることが望ましい。                                  
      こうしたことから、日本銀行法改正において、日本銀行の金融政
    策の独立性を高めるため、日本銀行の金融政策の自主性が尊重され
    ねばならないことを、基本的考え方として確認的に明確にすること
    が適当である。                                                
                                                                
                                                                
  2.(日本銀行の金融政策決定の透明性の確保)                  
                                                                
      金融政策が国民生活に大きな影響を与えうるものであることにか
    んがみれば、日本銀行の金融政策の独立性の強化が国民の支持を得
    るためには、政策の決定主体を明確にするとともに、その決定過程
    の透明性を高め、国民や国会に対するアカウンタビリティー(説明
    責任)を伴ったものとする必要がある。                          
      また、現在、グローバル化した世界の金融・資本市場を見据えつ
    つ、21世紀へ向け、我が国の市場を自由かつ透明で信頼できる市
    場とすることを目指した改革が進められているが、その際、日本銀
    行の金融政策決定が不透明な状況では、グローバル・マーケットの
    信認を得ることは難しく、ひいては、日本銀行の金融政策の円滑な
    遂行にも支障をきたすものと考えられる。                      
      こうしたことから、日本銀行法の改正において、日本銀行の金融
    政策決定の透明性の確保を、その基本的考え方として明確化した上
    で、具体的には、日本銀行の通貨及び金融の調節を審議する政策委
    員会の議事要旨・議事録公開等を通じ、日本銀行の政策決定の透明
    性を確保していくことが重要である。                          
                                                                
                                                                
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|3  政府との関係                                              |
|    日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節と政府の経済政策との|
|  整合性が確保されるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎|
|  通を図るものとする。                                        |
+―――――――――――――――――――――――――――――――+

  (説明)                                                        
                                                                
      中央銀行の行う金融政策は、政府の行う経済政策と相まって、国
    民経済の健全な発展に寄与するものである。日本銀行の金融政策が、
    国民経済の健全な発展に寄与するためにも、日本銀行の金融政策と
    政府の経済政策の整合性が確保されるよう努めていく必要がある。  
    そのため、日本銀行は、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通
    を図るものとすることが適当である。                          
                                                                
      日本銀行法の改正において、こうした基本的考え方を明らかにす
    ることが適当である。                                        
                                                                
                                                                
+―――――――――――――――――――――――――――――――+
|4  業務の公共性及び自主性                                    |
|  (1) 日本銀行は、その業務及び財産の公共性にかんがみ、適正かつ|
|    効率的な業務運営に努めるものとする。                      |
|  (2) この法律の運用に当たっては、日本銀行の業務運営についての|
|    自主性は十分配慮されるものとする。                        |
+―――――――――――――――――――――――――――――――+

  (説明)                                                        
                                                                
1.(日本銀行の業務の公共性)                                  
      日本銀行の業務は、銀行券の独占的発行をはじめとして、多岐に
    わたるが、いずれも公的性格の高いものであり、また、その運用の
    如何によって取引先金融機関等の損益に重大な影響を与えるおそれ
    があることから、業務運営に当たっては、恣意性を排し、適正・中
    立なものとなるよう努めることが要請される。                  
                                                                
      また、日本銀行の利益の大宗は、国から付与された銀行券の独占
    的発行権に基づく通貨発行益であること等から、日本銀行の財産の
    公共性はきわめて高いものがあり、したがって、日本銀行には、そ
    の経営資源に関して、中央銀行全体としての財務の健全性に十分に
    配慮しつつ、適正かつ効率的に運用していくことが要請される。  
                                                                  
2.(業務運営の自主性への配慮)                                
                                                                
      今般の日本銀行の改革においては、政策委員会が業務執行の基本
    方針も決定することとされている。今後は、政策委員会が、日本銀
    行の業務運営についても、最高意思決定機関となることにかんがみ、
    政府は、この法律の運用に当たり、日本銀行の業務運営における自
    主性について、十分配慮することが適当である。                
                                                                
      こうした考え方を、日本銀行法の改正において、その基本的考え
    方として明確化することが適当である。                        
                                                                
                                                                
+――――――――――――――――――――――――――――――――+
|5  法人格、資本金                                             |
|  (1) 日本銀行は法人とする。                                   |
|  (2) 資本金の額及び構成は現状どおりとする。                   |
|                                                               |
|6  本店及び支店等                                             |
|  (1) 日本銀行は、本店を東京都に置く。                         |
|  (2) 日本銀行は、大蔵大臣の認可を受けて、支店、事務所又は代理 |
|    店を設置することができる。                                 |
|  (3) 大蔵大臣は、上記(2)の認可をしなかったときは、速やかにその |
|    旨及び理由を公表するものとする。(以下に掲げる大蔵大臣の認 |
|    可及び承認に係る事項について、原則、これを準用する。)     |
|                                                               |
|7  定款                                                       |
|  日本銀行の定款の変更は、大蔵大臣の認可を受けるものとする。   |
+――――――――――――――――――――――――――――――――+

  (説明)                                                        
                                                                  
  1.(日本銀行の法的性格及び定款)                            
                                                                
      日本銀行の法的性格については、講学上、その業務の公共性から  
    特殊法人的存在とされることが多いが、現在、行政手続法において
    は、その設立の経緯に着目し、「その行う業務が国の行政運営と密  
    接な関連を有する」認可法人とされている。                    
      また、現在、日本銀行の定款は、日本銀行が日本銀行法に則した
    ものであることを担保するため、主務大臣の認可が必要とされてい
    る。                                                        
      日本銀行の法的性格については、その公的性格から国有化し、特
    殊法人として位置づけるべきではないかとの考え方もあるが、日本
    銀行が銀行業務を業務の中心とすること、また、金融政策の独立性
    を確保する上で支障がないということからも、認可法人とする現在
    の法的位置づけで問題ないと考えられる。(中央銀行研究会同旨)  
                                                                
    (注)認可法人とは、特別の法律により設立され、かつ、その設立
    に関し行政庁の認可を要する法人であるが、日本銀行は、明治15
    年に、松方大蔵卿が、日本銀行定款が日本銀行条例に沿っているこ
    とを確認の上、営業免状を下付したのを受け、設立・開業されてお
    り、こうした設立経緯から、認可法人とされている。            
                                                                
                                                                
  2.(資本金)                                                
                                                                
      現在、日本銀行の資本金は1億円で、構成は、国が55%、民間
    が45%とされている。出資に対しては、出資証券が発行されるこ
    ととされており、出資証券は証券市場で売買されている。        
      日本銀行の資本金について、中央銀行研究会報告は、「当面現状
    を維持して差し支えない」としているが、現在の資本金のままで特
    に支障もないことから、本調査会においても、現状を維持すること
    が適当と考える。                                            
                                                                
                                                                
  3.(本店及び支店等)                                        
                                                                
      日本銀行は、本店の外、大蔵大臣の認可を受け、支店等を設置で
    きることとされており、現金輸送の都合その他の理由から、各地に
    支店・事務所を設置している。本規定については、現状を維持する
    ことが適当であるが、日本銀行の支店・事務所については、交通や
    情報通信の進歩に伴い、効率的配置の観点から、その見直しを行っ
    ていくことが望ましい。 

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