第四 業務


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|1  普通業務                                                  |

|    日本銀行は、上記「第一・1」の目的(日本銀行の目的)を達成|

|  するため、以下の業務を行うことができる。                     |

|    (1)  商業手形その他の手形の割引                            |

|    (2)  手形、国債その他の有価証券を担保とする貸付け          |

|    (3)  商業手形その他の手形又は国債その他の債券の売買        |

|    (4)  売出しのための手形の振出し                            |

|    (5)  預り金                                                |

|    (6)  内国為替取引                                          |

|    (7)  保護預り、地金銀の売買                                |

|    (8)  その他これらの業務に付随する業務等                    |

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  (説明)                                                      

                                                                

    現行法の普通業務に関する規定は、銀行法における普通銀行の業務

  の規定振りを参考に所要の見直しを行うことが適当である。        

                                                                

    手形割引の対象手形、貸付金の担保等については、政策委員会の定

  める回収確実なものに限定することが適当である。なお、経営困難な

  金融機関等に対する特別な条件による融資等は、後述の信用秩序に資

  する業務として行うものとして位置づけるのが適当である。        

                                                                

                                                                

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|2  国と関係する業務                                          |

|                                                              |

|  (1) 日本銀行は、国との間で次の業務を行うことができる。      |

|    ○  財政法第5条ただし書で認められた貸付け(無担保)又は国|

|      債の応募若しくは引受けを行うこと。                      |

|    ○  一時貸付(無担保)又は大蔵省証券その他の融通証券の応募|

|      若しくは引受けを行うこと。                              |

|  (2) 日本銀行は、国庫金の取扱いのための業務を行うものとする。|

|  (3) 日本銀行は、通貨及び金融に関する国の事務の取扱いのための|

|    業務を行うものとする。                                    |

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  (説明)                                                      

                                                                

  1.(対政府信用)                                            

                                                                

      現行日本銀行法第22条では日本銀行の一連の通常業務に加え、

    日本銀行の政府に対する無担保貸付、国債の応募又は引受けを認め

    ている。                                                    

      これに対し、現行財政法は、戦時下における戦費調達手段として

    の巨額の日本銀行引受けが戦時インフレを招いたことに対する反省

    から、政府が日本銀行に引き受けさせる国債、日本銀行から行う借

    入れにつき、制限を加えている。                              

      今回の日本銀行法改正に際しては、日本銀行法の規定を財政法の

    規定と整合性の取れたものとするよう改めることが適当である。  

                                                                

                                                                

  2.(国庫金取扱い)                                          

                                                                

      現行日本銀行法第26条は、政府の銀行としての日本銀行の性格

      にかんがみ、国庫金取扱いを日本銀行の本来的業務として捉え、

    「日本銀行ハ法令ノ定ムル所ニ依リ国庫金ノ取扱ヲ為スベシ」と定

    めている。現状で問題は生じておらず、将来的にも特段の問題が想

    定されないことから、同様の趣旨の規定を置くことが適当である。  

                                                                

                                                                

  3.(国の事務の取扱い)                                      

                                                                

      現行日本銀行法第3条は、日本銀行の政府の銀行としての性格か

    ら、国庫金の取扱いにとどまらず、通貨・金融に関する国の事務の

    取扱いについても日本銀行が「取扱フモノトス」と定め、経費は、

    法令の定めに従って日本銀行の負担とするとされている。        

      現状で問題は生じておらず、将来的にも特段の問題が想定されな

    いことから、同様の趣旨の規定を置くことが適当である。        

                                                                  

                                                                  

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|3  信用秩序維持に資する業務                                  |

|                                                              |

|  (1) 日本銀行は、一定の金融機関において電子情報処理組織の故障|

|    その他の予見しがたい事由により支払上資金が一時的に不足して|

|    いるときは、一定の期間を限度として、その金融機関に対して、|

|    特別の条件により資金の貸付けを行うことができる。          |

|  (2) 日本銀行は、大蔵大臣から信用秩序維持のため特に必要がある|

|    として要請があったときは、当該要請の範囲において、特別の条|

|    件による資金の貸付けその他信用秩序維持のため必要な業務を行|

|    うことができる。                                          |

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  (説明)                                                        

                                                                  

  1.(信用秩序維持における日本銀行の役割)                      

                                                                  

      これまで、日本銀行は、現行日本銀行法第25条の規定に基づき、

    大蔵大臣の認可を得て、無担保の貸出等を実施してきた。信用不安

    が生じた場合の対応については、金融機関の破綻処理等の行政的手

    法を要することから、最終的な責任は政府にある。しかしながら、

    日本銀行も、「最後の貸手」として重要な役割を担っており、信用

    秩序維持の観点から適切な流動性供給を行うことが求められる。た

    だし、明白に回収不能なケースについての損失補填は、金融機関の

    モラルハザードを避けるためにも行うべきではない。            

                                                                

                                                                

  2.(一時貸付)                                              

                                                                

      経営の健全性に問題のない金融機関においても、コンピューター

    故障等により、緊急かつ一時的な流動性不足が生じるおそれがあり、

    日本銀行による一時的な流動性の供給が必要とされることが考えら

    れる。こうした場合に該当する事例としては、1985年に、バン

    ク・オブ・ニューヨークが、コンピューター故障により、ニューヨ

    ーク連銀の口座に巨額の赤残を抱え、ニューヨーク連銀が緊急融資

    を行った例がある。                                          

      自己資本の充実の状況等に照らし、経営の健全性に問題のない金

    融機関の緊急かつ一時的な流動性不足に速やかに対処しうるよう、

    一定の期間を限度として、日本銀行が独自の判断で、流動性供給を

    行いうることを認めることが適当である。                      

                                                                

                                                                

  3.(信用秩序維持のための特別な業務)                        

                                                                

      新しい金融行政の下では、自己資本の充実の状況に応じて、問題

    を先送りすることなく、政府が、適切な是正措置を講じていくこと

    ととされている。こうした政府が講じる信用秩序維持のための措置

    と日本銀行の行う流動性供給は、整合的である必要がある。      

      このため、経営の健全性に問題のある金融機関の処理その他の信

    用不安への対処においては、政府が信用秩序維持のため、日本銀行

    に対し、信用秩序維持のため必要と認める措置を講じることを要請

    することができるものとし、この要請に、日本銀行が政策委員会の

    議決により同意した場合、必要な措置が講じられる仕組みとするこ

    とが適当である。                                            

                                                                  

                                                                  

  4.(緊急時の対応)                                            

                                                                  

      天災・恐慌等といった緊急時に、信用秩序に重大な混乱が生じた

    場合、日本銀行が、中央銀行の本来の使命に照らし、当然のことと

    して、信用秩序の維持に寄与していくことが求められるのは言うま

    でもない。今後、緊急時に信用秩序に重大な混乱が生じた場合には、

    日本銀行においては、そうした見解に沿って、政府の要請等に応じ、

    最大限の協力を行っていくことが期待される。                  

      なお、天災、恐慌等といった緊急時に、政府に指示権を認めるこ

    とについては、危機管理の観点から有意義と考えられる一方、その

    要件が厳格でない場合には、政府の指示権の濫用が懸念されるとの

    意見や、日本銀行の緊急時の対応については、政府全体の危機管理

    の一環として考えることが適当との指摘があった。このような指摘

    も考慮し、政府全体の危機管理のあり方も踏まえつつ、さらに検討

    することが適当と考えられる。                                

                                                                  

                                                                  

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|4  資金決済の円滑に資する業務                                |

|                                                              |

|    日本銀行は、上記1及び2の業務と一体的に行うことによって金|

|  融機関間の資金決済の円滑に資すると認められる業務(大蔵大臣認|

|  可)を行うことができる。                                    |

+―――――――――――――――――――――――――――――――+



  (説明)                                                        

                                                                

  1.(決済制度に関する日本銀行の役割)                        

                                                                

      日本銀行は、日本銀行当座預金の振替等の業務を行い、金融機関

    に対する決済サービスを提供しているが、加えて、現行日本銀行法

    第25条の「信用制度ノ保持育成」の「育成」に該当する業務とし

    て、日本銀行の業務に密接な関係を有する業務のうち、資金決済の

    円滑に資する業務(例  日本銀行ネットの運営等)を実施している。

    また、昭和35年度金融制度調査会答申では、信用制度の育成は、

    立法手続きを要するものや、政府の金融行政の分野に属するものも

    多いと指摘している。                                          

                                                                

                                                                

  2.(基本的考え方)                                          

                                                                

      今日においても、決済に係る基本的・構造的な制度の創設などは

    政府の任務として、制度的対応を要する面が多いものと考えられる。

      従来、普通業務の範囲を超える新たな決済制度の創設(あるいは

    既存の制度の重大な変更)については、現行日本銀行法下において

    は、「信用制度の育成」のため必要な業務として、政府の認可を得

    ることとされている。今後とも、新しい決済制度の創設に相当する

    ような新規の業務を行う際には、中央銀行の優越的な地位を考慮し、

    公平性の確保及び民間事業者による決済サービスとの競合回避等の

    観点から、チェックを行っていくことが適当と考える。            

                                                                

      日本銀行は、金融機関間の資金決済の円滑を図るという重要な役

    割を担っているが、金融市場における情報通信技術の進歩にも配慮

    しつつ、今後とも、円滑かつ安定的な決済サービス等を提供してい

    くよう努めていく必要がある。                                

      政府と日本銀行の密接な連携により、我が国決済制度の健全な発

    展が促進されることが望まれる。                              

                                                                  

                                                                

+―――――――――――――――――――――――――――――――+

|5  国際金融業務                                              |

|                                                              |

|  (1) 日本銀行は、外国為替の売買を行うことができる。この場合に|

|    おいて、日本銀行は、本邦通貨の外国為替相場の安定を目的とす|

|    る外国為替の売買については、政府による売買の事務の取扱いを|

|    する者として、また、国際金融面での外国中央銀行等との協力の|

|    ために必要な外国為替の売買については、大蔵大臣の要請又は承|

|    認により、行うものとする。                                |

|  (2) 日本銀行は、外国中央銀行等のために預り金その他本邦通貨建|

|    てでの資産の適切な運用に資すると認められる業務を行うことが|

|    できる。                                                  |

|  (3) 日本銀行は、外国中央銀行等に対する信用の供与その他の国際|

|    金融面での外国中央銀行等との協力のために必要な取引を、大蔵|

|    大臣の要請又は承認により、行うことができる。              |

+―――――――――――――――――――――――――――――――+



  (説明)                                                        

                                                                

  1.(金融の国際化の進展と中央銀行間の協力の現状)            

                                                                

      金融の国際化の進展に対応し、今日、各国の中央銀行等は互いに

    協力を進めてきている。                                      

      主要国の中央銀行においては、自国の通貨を、公的な準備資産と

    してあるいは自己の資産として管理運用する外国の中央銀行や国際

    機関に対して、預金の受入れ等種々のファシリティーを提供し、日

    常的な協力を行っている。                                    

      また、特定国が国際収支上の困難に陥り、国際金融の安定上看過

    できないような状況にある場合には、主要国の蔵相やIMF等の国

    際金融機関の協調による国際金融支援策が策定されるが、主要国の

    中央銀行は、その一環としてのブリッジ・ローンに参加するなど、

    対外的な支払困難に陥った当該国の中央銀行に対する協力等を行っ

    ている。                                                    

                                                                

                                                                

  2.(日本銀行の国際金融業務)                                

                                                                

      このような外国中央銀行等との協力に関しては、現行日本銀行法

    が立法当時必ずしも想定していなかったような業務も必要となって

    きており、主要国の中央銀行が行う国際金融業務の実態にも即して、

    金融の国際化に対応した日本銀行の役割として新たに規定の整備を

    図る必要がある。                                            

      この場合、まず、上記の主要国中央銀行の国際金融業務のうち前

    者に相当するもの、すなわち、外国中央銀行等による円資産の適切

    な運用に資すると認められる業務については、外国中央銀行等との

    日常的な協力のために行うものであることから、日本銀行独自の判

    断で行うべき業務とすることが適当である。                    

                                                                

      次いで、後者に相当するもの、すなわち、国際金融危機に対する

    国際支援等は、日常的な協力を超えて行われる国際金融面での外国

    中央銀行等との協力のために必要となる業務として規定することと

    し、このような業務については、政府の策定する国際金融支援策と

    の整合性を図る必要があること等から、政府の関与(現行の実態に

    即して大蔵大臣の要請又は承認とする)の下で行うべき業務とする

    ことが適当である。                                          

                                                                

                                                                

  3.(外国為替の売買)                                        

                                                                

      外国為替の売買については、国際金融業務遂行のための売買など

    必要な場合の売買を日本銀行が行い得ることとした上で、本邦通貨

    の外国為替相場の安定のための売買に関して、「現在の国際金融シ

    ステムの下では、政府が一元的に責任を持つべきである」とした中

    央銀行研究会の報告書に沿って規定する等所要の調整を図ることと

    する。                                                      

                                                                  

                                                                

+―――――――――――――――――――――――――――――――+

|6  他業                                                      |

|    日本銀行は、日本銀行の目的達成上必要がある場合には、この法|

|  律又は他の法令により規定する業務以外の業務を大蔵大臣の認可を|

|  受けて行うことができる。                                    |

+―――――――――――――――――――――――――――――――+



  (説明)                                                        

                                                                

    今回の日本銀行法改正において、これまで他業認可で認められてき

  た業務につき、各条文において規定することが、業務の明確化の観点

  からは望ましい。                                              

                                                                

    ただし、今後とも新たな業務の必要性が生じる可能性も否定できず、

  日本銀行は、その目的達成上必要がある場合には、本法または他の法

  令により規定する業務以外の業務を、大蔵大臣の認可を受けて行うこ

  とができることとする。                                        

                                                                

                                                                

+―――――――――――――――――――――――――――――――+

|7  考査                                                      |

|                                                              |

|  (1) 日本銀行は、信用秩序の維持に資するための業務の適切な実施|

|    及び適切な実施に備えるためのものとして、これらの業務の相手|

|    方となる金融機関との間で、一定の要件を備えた考査に関する契|

|    約を締結することができる。                                |

|  (2) 日本銀行は、考査を行う場合には、金融機関の事務負担に配慮|

|    しなければならない。                                      |

|  (3) 日本銀行は、大蔵大臣から要請があったときは、考査の結果等|

|    を大蔵大臣に対し提出し、閲覧させることができる。          |

+―――――――――――――――――――――――――――――――+



  (説明)                                                        

                                                                

      日本銀行は、「最後の貸手」機能を通じ流動性の供給を行い、金

    融機関間の円滑な資金決済の確保を図ることにより、信用秩序の維

    持に寄与しており、考査は、このような信用秩序の維持に資するた

    めの業務の適切な実施及び適切な実施に備えるためのものとして、

    行われると考えることが適当である。                          

      このため、現在、日本銀行は、金融機関に対し当座勘定開設の際

    に包括的な内容の考査約定の締結を求めた上考査を行っているが、

    日本銀行の行う業務内容の明確化の観点から、考査に関する規定を

    設けることが適当と考える。                                  

                                                                

                                                                

      日本銀行は銀行券の独占的発行権を付与され、金融政策の運営を

    担うなど公的性格を有するものの、法律に基づく金融機関の監督を

    行っているものではない。したがって、考査は金融機関の監督・指

    導などのための行政権限の行使として実施されるものではないため、

    金融機関との任意の契約(協力)に基づき行われるものと位置づけ

    ることが適当である。                                        

                                                                

                                                                

      考査は金融機関との任意の契約に基づき相当の負担を求めて行わ

    れるものであることから、金融機関に対する日本銀行の優越的な地

    位にかんがみ、考査に際してはあらかじめ金融機関の承諾を得るこ

    となど、一定の要件を備えた内容の考査約定に基づき考査が行われ

    ることや、金融機関の事務負担に配慮することについて規定するこ

    とが適当である。                                            

      また、要件に基づく考査約定の見直しに際しては、広く関係者の

    意見が聴取されることが望ましい。                            

                                                                

                                                                

      金融機関間の円滑な資金決済の確保の観点から行われる考査によ

    って得られた金融機関に関する資料や考査結果は、政府の金融機関

    監督にも役立つものである。このため、考査結果等について政府か

    らの要請に応じ提出できる旨を規定することが適当である。      

      なお、デリバティブ取引の発達等、金融市場の高度化やリスクの

    多様化が指摘されており、日本銀行においては、これらの動きを考

    慮して、金融機関の実情に応じた考査内容の重点化や効率化に努め、

    信用秩序の維持に寄与していくことが望ましい。 

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