第六 会計


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|1  事業年度                                                  |

|      日本銀行の事業年度は1年(4月1日~翌年3月31日)とす|

|  る。                                                        |

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  (説明)                                                        

                                                                

      日本銀行の事業年度については、現行日本銀行法には規定がなく、

    定款において4月1日から9月30日まで、及び10月1日から翌

    年3月31日までの、半年とされている。                      

      現在、一般法人も含め、事業年度は1年が通例であり、日本銀行

    の事業年度も、1年とし、法定化するのが適当である。          

                                                                

                                                                

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|2  経費の予算                                                 |

|  (1) 日本銀行は、毎事業年度、経費(通貨及び金融の調節に支障の |

|    生じないものに限る。)に関する予算を作成し、事業年度開始前 |

|    に、大蔵大臣に提出して、その認可を受けるものとする。       |

|  (2) 大蔵大臣は、上記(1)の認可をすることが適当でないと認めると |

|    きは、その旨及びその理由を速やかに日本銀行に通知するととも |

|    に、これを公表するものとする。                             |

|  (3) 日本銀行は、上記(2)の通知があったときは、大蔵大臣に対して |

|    意見を述べ、又はこれを公表することができる。                |

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  (説明)                                                        

                                                                  

  1.(中央銀行の利益(通貨発行益)の公的性格)                

                                                                

      中央銀行の利益の大宗は、通貨発行益(銀行券発行と引換えに保

    有する金融資産から生じる利子収入等)であり、国が中央銀行に銀

    行券の発行権を独占的に与えたことから反射的に生じる利益である

    ため、国民の財産として、基本的に国庫納付される。            

      中央銀行は、一般に通貨発行益を中央銀行の支出、内部留保及び

    配当に充当した後、残余を国庫納付することとなっている。しかし、

    中央銀行は、営利法人ではないため、経費効率化のインセンティブ

    に欠けるおそれも否定できない。このため、中央銀行の効率的な経

    費支出を促すため、妥当な支出がなされているかをチェックする仕

    組みが必要とされるが、その仕組みは、各国の事情により、それぞ

    れ特徴を有している。                                        

                                                                

    (注)通貨発行益からの銀行部門への支出を原則認めない英国、通

      貨発行益からの支出が政府の同意がなければ確定しないフランス、

      分権的中央銀行制度を活用し、FRBが各地区連銀予算を承認す

      る米国、中央銀行が憲法上の機関であり予算の承認は不要だが役

      職員の給与を公務員をベースとしているドイツ等の方式がある。  

                                                                

                                                                

  2.(中央銀行の金融政策の独立性等への配慮)                  

                                                                

      予算の公的チェックは、中央銀行の経理の自主性を阻害し、ひい

    ては、中央銀行の金融政策の独立性に悪影響を与えるおそれがある

    との指摘がある。従って、公的チェックのあり方は、できる限り中

    央銀行の金融政策の独立性や運営の自主性に配慮したものであるこ

    とが望ましい。                                                

                                                                

                                                                

  3.(基本的考え方)                                          

                                                                

      今回の日本銀行改革においては、日本銀行の経費が通貨発行益に

    より賄われていること等の日本銀行の公的性格から、その経費を公

    的にチェックすることは必要であるが、その場合、金融政策の独立

    性及び運営の自主性が担保されるよう配慮すべきである。(中央銀

    行研究会同旨)                                              

      さらに、日本銀行の予算の公的チェックの仕組みに望まれる特性

    としては、経費支出の効率化促進の観点からは、不適切な経費支出

    が、的確に是正されることが担保されている方式が望ましい。また、

    日本銀行の業務の遂行上、金融環境の変化等に即応し、機動的に経

    費予算の変更等を行いうる制度とすることが適当である。        

                                                                

                                                                

  4.(具体的な公的チェックの方法)                            

                                                                

      上記の基本的考え方及び具体的な公的チェックの仕組みが備える

    べき特性を考慮すると、中央銀行の金融政策の独立性及び運営の自

    主性を阻害しないよう、十分なセーフガードを設けた上で、政府に

    よる予算認可制度とすることが適当であると考えられる。        

                                                                

      なお、事前届出制についても議論が行われたが、届出のみでは、

    不適切な支出があった場合、それを的確に是正することができない

    おそれがある一方、担保措置として、予算変更命令等を導入するこ

    とは、かえって、日本銀行の独立性強化に逆行するのではないかと

    の問題が指摘された。                                      

                                                                

    (参考)憲法との関係                                        

                                                                

        従来、公正取引委員会等の独立行政委員会に関し、人事(任命

      権)・予算についての内閣のコントロールが存在すれば、憲法と

      の関係で問題とならないとの政府の見解が示されてきた。こうし

      た観点からは、日本銀行に対する人事(任命権)・予算上のコン

      トロール(最終的な決定権限が内閣あるいは国会に存すること)

      が確保されていることが、日本銀行の金融政策の独立性強化が憲

      法上問題とされないためには必要との考え方がある。他方、これ

      に対し、必ずしも予算のコントロールまで必要はないとの考え方

      も存在している。                                          

        独立行政委員会の憲法上の位置づけは、学説的にも諸説存在し

      ており、独立した中央銀行の憲法上の位置づけについて、確定的

      な結論を出すことは、本調査会の任務を超えた問題であるが、本

      調査会では、金融政策の独立性を阻害しないような、効率的な予

      算のチェックの仕組みとして、上述のように、セーフガード付き

      の政府による認可制度が適当と判断したところである。        

        今後、中央銀行に対する民主的コントロールのあり方という重

      要な問題について中央銀行の独立性の憲法上の位置づけを含め、

      国民的合意が形成されることが望まれる。                    

                                                                

                                                                

  5.(金融政策の独立性等を阻害しないためのセーフガード)      

                                                                

      政府による予算認可の際に、金融政策の独立性及び運営の自主性

    を阻害しないよう、担保措置(セーフガード)を講じることが適当

    である。                                                  

                                                                

      (1)  認可対象の限定                                        

        認可対象となる経費予算の項目は、日本銀行の金融政策に影響

      しないもの(例えば債券売買による差損金は対象外)とし、人件

      費、交通通信費、一般事務費等に限定する。                  

                                                                

      (2)  透明性の確保                                          

        経費予算を認可することが適当でないと認める場合には、大蔵

      大臣は、その詳細・理由を公表する。                        

        日本銀行は、大蔵大臣に対し、意見を述べることができ、又、

      必要に応じ、その意見を公表することができる。              

                                                                

                                                                

  6.(日本銀行の自主的な効率化の必要性)                      

      政府による予算認可のあり方が、より独立性を重視する方向に変

    わっていくのに伴い、それだけ、日本銀行自身の効率化への努力が

    重要となる。日本銀行自身の予算の効率化を含めた自主的な努力が

    期待される。                                                

                                                                

                                                                

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|3  財務諸表等                                                 |

|    日本銀行は、財務諸表(貸借対照表、損益計算書)を作成し、監 |

|  事の意見を添付して大蔵大臣に提出し、その承認を受ける等の措置 |

|  を講ずる。                                                   |

|                                                               |

|4  剰余金の処分                                               |

|  (1) 日本銀行は、各事業年度の剰余金に関して、損失の補てん等の |

|    ための準備金として、その剰余金額の5%相当額を積み立てるも |

|    のとし、特に必要があると認めるときは、大蔵大臣の認可を受け |

|    て、これを超える金額を積み立てることができる。また、払込出 |

|      資金額に対し年5%の範囲内で剰余金の配当をすることができ |

|    る。                                                       |

|  (2) 日本銀行は、各事業年度の剰余金額から上記(1)の金額を控除し |

|    た残額を国庫に納付するものとする。                         |

+――――――――――――――――――――――――――――――――+



  (説明)                                                      

                                                                

1.(財務諸表等)                                              

                                                                

    日本銀行の財務諸表については、国民に還元されるべき通貨発行益

  の経理処理等にかかるものであり、また、日本銀行には出資者総会が

  存在しないことから、その適正な経理処理を担保するためには、政府

  による事後のチェックの仕組みを設けることが適当である。        

    なお、日本銀行の財務の透明性を高める観点から、経理基準の明確

  化を図っていくことが必要である。                              

                                                                

                                                                

2.(剰余金の処分)                                            

                                                                

    現行法においては、日本銀行における剰余金の処分については、  

  ・  財務の健全性の確保の観点から、損失の補てん等のための準備金

    として、定率の法定準備金のほか、特定目的のための積み立てを行

    うことができる、                                            

  ・  出資者に対して一定の配当を行うことができる、              

  ・  剰余金から上記の金額を控除した残額は、全額国庫納付とする  

  こととされているが、改正後においても、基本的には、現行の仕組み

  を維持することが適当である。                                  

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