I.我が国金融をとりまく環境

                                                                              
 (1)  我が国金融をとりまく環境は、自由化の進展、利用者ニーズの多様化・高度化、金
    融技術・情報技術の革新、国際化の進展、資金余剰基調の定着、などにより大きく変
    化している。                                                              
      特に、資金余剰基調の定着は、金融機関、その利用者を問わず、我が国の経済主体
    の資金調達・運用両面における意識の変革を促している。                      
      こうした環境変化に伴い、金融機関の有する仲介機能については、デリバティブ取
    引や債権流動化等、金融技術やリスク管理能力を駆使した手法による新たな展開が進
    みつつある。また、ノンバンクがより銀行等の預金受入金融機関(以下「銀行等」と
    いう。)の有する金融仲介機能に類似した役割を果たすようになりつつある。一方、
    決済機能についても、例えば電子マネー・電子決済に関する種々のプロジェクトの進
    展により、今後、画期的な変革がもたらされる可能性が生じている。            
      さらに、海外の金融センター、特にロンドンでは、ビッグバン以降利用者にとって
    便利で使いやすい市場が成立している一方で、経済活動のボーダーレス化が進展する
    ことにより、我が国の利用者及び金融機関が自由に市場を選択して金融取引を行うこ
    とが可能となってきており、海外の金融センターへの金融取引の流出など金融の空洞
    化についての懸念も指摘される状況となっている。                            
                                                                              
 (2)  我が国金融機関が以上のような環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、21世紀に向け
    てこれまで以上に特色ある経営を展開していくことを可能にするとともに、利用者が
    真に効率的な調達・運用を行えるようにするためには、下支えとなる金融制度・シス
    テムについて絶え間ない見直し努力が必要である。                            
                                                                              
 (3)  91年6月に出された調査会答申「新しい金融制度について」を受け、93年4月にい
    わゆる金融制度改革法が施行されたことにより、金融制度改革は、業態別子会社方式
    による相互参入等をはじめとして実施に移されてきたが、その後、各金融機関ともバ
    ブル崩壊に伴う不良債権問題への対応等、負の遺産の処理に追われたことから、改革
    実施の遅れや国際競争力の低下が指摘される状況につながったものと考えられる。  
                                                                              
 (4)  このような状況の下、金融システム安定化のための諸施策を盛り込んだいわゆる金
    融三法が96年6月に成立し、その一方で金融行政機構改革等が進められるなど、我が
    国は新しい金融行政に踏み出しつつあり、この機をとらえて、全力を挙げて2001年に
    向けた金融システム改革に取り組む必要がある。                              
                                                                              
(参考)
      現在、米国においても金融制度改革を巡る議論が活発に行われている。本件につい
    ては、96年末に    終了した第 104連邦議会においては、法案をめぐる調整が難航し、
    最終的な結論を得るに至らなかったが、97年1月からの第 105連邦議会においては、
    持株会社を通じた銀行・証券・保険をはじめとする業態間の参入拡大を盛り込んだ複
    数の金融制度改革法案が提出されており、今回議会の最重要課題の一つとして、今後、
    審議の本格化が予想されている。
      なお、財務省からもこれらの法案提出を受けて改革案が発表されたところである。
      また、議会における議論と並行して、行政レベルにおいても、昨年来、銀行持株会
    社傘下の証券会社における業務内容制限の緩和、銀行・証券会社間のファイアー・ウォ
    ール規制の緩和、銀行の子会社に認められる業務範囲の拡大等、金融機関の業務に関す
    る種々の規制緩和が実施され、金融分野における競争促進が進められている。
      こうした制度面での動きに加え、実態面においても、例えば、米銀によるエクィティ
    ・デリバティブやクレジット・デリバティブを組み込んだ取引、及び、貸付債権や保険
    リスクの証券化等が活発に行われることにより、銀行・証券・保険の業務の融合化は一
    層進みつつある。
    
      一方、欧州においては、市場統合が着実に進展する中、米国系金融機関等との競争が
    激しくなってきており、国際競争力の強化に向け、欧州の金融機関による国籍・業態を
    超えた買収等が進められている。具体的には、資本力のある商業銀行が、証券引受業務
    ・アドバイザリー業務等に関するノウハウを有する投資銀行や、投資顧問サービスを専
    門とする資産運用会社等を買収する例が近年相次ぐなど、ホールセール部門における総
    合的な金融サービスの提供が促進されてきている。
    
      また、最近の欧米金融機関においては、資金調達を行おうとする顧客企業に対し、市
    場環境や顧客の財務状況を見つつ、クロスマーケティングにより、ローン、社債、株式
    等の資金調達手段を選択肢のパッケージとして提案し、顧客企業は、それらを総合的に
    比較検討して最適な資金調達手段の組み合わせを選択するようになっていると言われて
    いる。

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