I はじめに



                                                                      


  1.審議の経緯                                                    


                                                                        


   (1)  我が国の社会・経済が多様化し、国際化する中で、市場機能を支え、投


      資家保護をサポートする公共的サービスとしての公認会計士による外部監


      査(以下「会計士監査」と呼ぶ)の機能に期待が高まっている。   


        他方、これまでの会計士監査が、質的にも量的にも拡大し高度化する監


      査上のニーズに、十分に応えることができていないとの指摘があり、我が


      国内外からの信頼感の低下が懸念されている。特に、金融機関や住専の経


      営破綻を巡って、会計士監査が有効に機能したのかどうか疑問の声が寄せ


      られている。これに対し、日本公認会計士協会(以下「会計士協会」と呼


      ぶ)では、平成8年3月より「銀行等監査特別委員会」を設けて資産査定


      等の実務指針の検討を進めてきたところである。                        


        公認会計士審査会(以下「審査会」と呼ぶ)は、約50年の歴史を有する


      会計士監査について、より幅広く、監査体制・監査報告のあり方等を含め


      た制度全体の検討を行う必要性を認め、平成8年9月30日、審査会会長の


      委嘱による学識経験者・実業界・会計士等の有識者からなる懇談会メン  


      バーとの意見交換等を通じた検討を進めることとしたところである。    


                                                                        


   (2)  平成8年11月、金融市場改革に関する総理大臣指示、大蔵大臣の要請が


      証券取引審議会、企業会計審議会等に対し行われたが、会計士監査は、    


      ディスクロージャーの適正性を確保するものとして、市場機能発揮の基盤


      であるとともに、銀行等に対する早期是正措置においても重要な役割を担


      うことが期待されているものであり、「金融システム改革」のインフラの


      一つとして一層の充実が求められると考えられる。                    


                                                                        


   (3)  審査会は、懇談会メンバーとの意見交換等を通じ、これまで8回の審議


      を重ね、今般、会計士協会の自発的提案を基盤とした早急に対応すべき施


      策等を提言として取りまとめた。                                    


                                                                      


  2.報告の基本的視点                                                    


        ~会計士の主体的施策による会計士監査の意義の再認識~            


                                                                      


   (1)  終戦後の証券民主化を契機として、我が国の公認会計士制度がスタート


      して約50年が経過した。同制度の萌芽は昭和初期より生じており、諸外国


      の会計士制度を目標とした先人の努力により困難を克服し、監査実務が形


      づくられてきた。更に、証券市場を通じた企業の資金調達に対応し、市場


      機能を有効に発揮させるための市場関係者(投資家、発行体、仲介者、ア


      ナリストや取引所・関係自主規制機関等)の要請をうけ、会計士監査の充


      実が進められてきた。                                              


        証券市場においては、資金の調達側、供給側、ともに多くの者が参加す


      るが、この間を結ぶ投資情報に適正性を欠くことがあれば、誤った投資判


      断の結果、非効率な資源配分ひいては投資家の損失を招くこととなるため、


      従来より、投資判断の適正性を担保する会計士監査が、市場機能の有効な


      発揮のためには不可欠と認識されてきている。                        


        会計士監査は、このように、実務家である会計士が積み上げてきた機能


      が市場関係者の実務上のニーズにより磨かれ、より良い仕組みとして定着


      してきているものである。                                          


                                                                        


   (2)  ところで、残念なことであるが、過去において、会計士監査制度の必要


      性が再認識されたり、そのあり方が論じられるのは、これまでは、大型粉


      飾事件の際が殆どである。その度に、市場機能の有効な発揮を確保するた


      め、会計士監査制度に重要な改革が行われている。                    


        例えば、昭和30年代後半の山陽特殊鋼事件等は、監査基準等の改訂、公


      認会計士法の改正による会計士協会の特殊法人化と監査法人制度の創設、


      更には、昭和49年の商法監査特例法制定につながる。その後も、50年代初


      頭の不二サッシ事件を契機として、昭和54年に会計士協会が「監査業務審


      査会」を設置し、「組織的監査要綱」を制定する等の改革が行われた。平


      成3年の監査基準等の全面改訂は、昭和60年代初頭の菱三商事事件、富士


      石油事件等をうけて進められたものである。                          


        その他の時期においては、市場関係者から会計士監査のあり方を問う声


      はあまり聞かれない。これについては様々の見方があるが、監査が順調に


      機能している限りにおいては、監査の意義等に対する認識は低く会計士側


      からその意義を積極的に訴えようとしても、守秘義務の観点から個別の監


      査の有効性を実証的に明らかにすることもできないため限界があるという


      側面もあった。                                                    


                                                                        


   (3)  金融機関や住専の破綻を巡り、会計士監査に対する厳しい批判が寄せら


      れたことを契機として、企業の国際化・多角化や財務活動の複雑化等の企


      業活動の変化による監査難度の飛躍的向上の中で、会計士監査の有効性に


      注目が集まっている。市場関係者は、こうした会計士監査を巡る環境変化


      に対応し市場機能の有効な発揮を確保する観点から、会計士監査の現状を


      チェックし、そのあり方を提言していく必要がある。                  


        今回の審議においては、発行体サイドからは、自らと投資家とを正しく


      結ぶうえで会計士監査の一層の積極的貢献が望まれる旨の意見、仲介者、


      アナリストサイドからは、経済・金融のグローバリゼーション化に対応し


      た国際的に遜色のない監査の遂行が必要である旨の意見、更に、投資家サ


      イドからは、会計士監査の有効性等に関し提供される情報が不足している


      として会計士協会の機能の一層の発揮を求める意見が寄せられている。  


                                                                        


   (4)  このように市場関係者の厳しい認識が示されているが、市場機能の有効


      な発揮に基づく証券市場の活性化を実現する基礎となるディスクロー    


      ジャーの適正性の確保、更にコーポレートガバナンスの向上は、会計基準、


      会計実務、監査実務、監査報告等ディスクロージャーの各段階における会


      計士、発行体等、全ての関係者による総合的な取り組みにより達成される


      ものであることを改めて強調したい。                                


        当審査会は、このうち、監査実務・監査報告等の会計士監査に係る部分


      について提言を行うものである。市場関係者は、会計士監査の意義を再認


      識したうえで主体的に会計士監査をチェックし、その質的向上に向けた提


      言を行い、他方、市場関係者の側でも、会計士からのコーポレートガバナ


      ンスの向上に向けた問題提起を受け対応を講じていくことにより、市場関


      係者と会計士とがフィードバックを行いながら会計士監査の充実を図って


      いく必要がある。                                                    


        会計士監査の担い手である会計士界には、市場関係者の厳しい認識を受


      けとめ、信頼を高めるための施策を講ずることが求められる。これについ


      ては、今回の審議にあたり、会計士協会より幅広い施策が提案されたとこ


      ろである。                                                        


        更に、関係審議会・行政機関においても、会計士の主体的な検討を制度


      面に反映できるよう検討を進めることが求められる。                


                                                                        


  3.報告の全体像                                                      


        ~会計士監査の充実に向けて~                                  


                                                                        


   (1)  本報告は、会計士制度が新しい半世紀を迎えるにあたり、会計士監査に


      ついて、会計基準の高度化等に対応した監査手法・実務体制の整備、投資


      家への有用な情報提供を進めるための監査報告の見直し等制度全般に係る


      問題に関し、ディスクロージャーの適正性を確保するため早急にその充実


      を図るべきと考えられる諸点について提言するものである。              


                                                                        


   (2)  本報告は、                                                      


      ○  会計士界が自発的施策により、市場関係者の会計士監査への懸念を払


        拭し、市場機能の有効な発揮の前提としてその意義を再確認することを


        目指している。したがって、会計士協会の提案を基礎として、以下IIの


        とおり10の具体的諸施策を検討した。                                  


        (イ) 市場機能を支え、投資家と発行体を正しく結ぶための会計士の積極


          的関与(監査役・内部監査との相互補完、ベンチャー企業監査等)  


        (ロ) 経済・金融のグローバリゼーションに相応しい監査の遂行(監査の


          品質管理、監査報告書による情報提供の充実等)                  


        (ハ) 会計士監査の信頼性確保のための会計士協会の機能の発揮(監査の


          再チェックと外部とのコミュニケーションの拡充等)              


      ○  また、IIIでは、市場インフラとしての会計士監査の充実にあたっては、


        市場に関係する実務家の声の制度面への反映が必要であり、関係審議会


        ・行政機関との関係のあり方についても提言する。                  


                                                                          


   (3)  本報告は、先に述べたとおり、企業会計審議会における透明性ある企業


      会計・ディスクロージャーの整備と合わせて、これに対応する適正な監査


      の執行と投資家への情報提供の充実を目的としている。これは、        


     (i) 市場におけるリスクとリターンが明示されることにより投資家保護を


        一層促進し                                                      


     (ii)適正な情報提供による公正な市場価格の形成を通じて市場原理の基盤


        を確固たるものとし、より広範な投資家の参加を促すものであり      


     (iii)国際的にも我が国市場の国際化に対応したものとして高い評価を得る


        とともに、投資対象としての我が国企業の魅力の向上による国際的資金


        調達に資するもの                                                    


      であることから、金融システム改革とその方向性を一にし、その基盤整備


      に貢献することを目指すものである。                                


                                                                        



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