I.ノンバンクの業務運営のあり方、資金調達の多様化等

1.我が国のノンバンクの現状



   (1)ノンバンクの多様性                                            


        ノンバンクは、「預金等を受け入れないで与信業務を営む企業」を指す総称と


      して使われている。                                                  


        ノンバンクは、法令等により専業義務が課せられていない等、業務運営面での


      自由度が極めて高い。その形態は、消費者金融会社、クレジット・カード会社、


      信販会社、事業金融会社、抵当証券会社、リース会社等、様々である。また、ノ


      ンバンク約3万社/人(貸金業規制法上の登録業者数)のうち1%弱にあたる融


      資残高上位約250社(融資残高 500億円超)で、登録業者全体の融資残高の約


      7割を占める等、少数の大手ノンバンクが市場の大半を占める一方、極めて多数


      の中小零細業者が存在するという、二極構造となっている。                


        ノンバンクに関する諸問題を検討するにあたっては、こうしたノンバンクの実


      態に留意する必要がある。しかし、当懇談会においては、時間的な制約もあり、


      ノンバンクの多様性に留意しつつも、「与信業務を営む」という共通の特性に重


      点を置いて検討を行った。                                              


                                                                            


   (2)ノンバンク全体の融資残高                                              


        ノンバンク全体の融資残高は、貸金業規制法上の登録業者の融資残高でみると、


      バブル期の昭和62年度から平成2年度にかけて、毎年度、4割以上の高い伸びを


      示したが、平成3年3月末の約85兆円をピークに減少に転じ、平成8年3月末


      で約69兆円となった。これは、全国銀行の融資残高(平成8年3月末で約48


      1兆円)の約14%に相当する。このように、ノンバンクは、今日なお、我が国


      の金融システムの中で相当のプレゼンスを有している。                    


                                                                            


   (3)事業者向けノンバンクの現状                                            


        事業者向けノンバンク(主として事業金融会社、不動産関係金融会社等)は、


      バブル期に不動産関連融資等を中心に業容を拡大してきたが、バブル崩壊後、融


      資先の業況悪化や担保価値の下落等により、多額の不良債権を抱えているところ


      が多く、全体の融資残高もここ数年減少している。また、リース会社等で、本業


      を離れ、不動産関連融資に傾注した企業においても、多額の不良債権を抱えてい


      るところが少なくない。                                                


        他方、事業者向けノンバンクの中には、中小企業向け融資を専門に行うノンバ


      ンク等、特定の分野において、不動産担保に安易に依存せず、独自の審査能力を


      発揮し、差別化を図る等により、業容を拡大しているところもある。        


                                                                            


   (4)消費者向けノンバンクの現状                                            


        消費者向けノンバンク(主として、消費者金融会社、クレジット・カード会社、


      信販会社等)は、消費者ニーズの多様化に応え、バブルの前後を問わず、一貫し


      て融資残高を伸ばし、業容を拡大している。他方、消費者信用の分野では、バブ


      ル崩壊後、個人の自己破産件数が急増し、平成8年、過去最高の約5万6千件と


      なる等、多重債務問題が深刻化している。                                


                                                                            


2.ノンバンクの業務運営のあり方



   (1)融資業務の特性                                                        


        融資業務においては、融資先の将来の返済能力には不確実性が伴うことから、


      融資先のリスクに関する事前の情報収集・分析(審査)や、事後の管理(監視)


      が極めて重要となる。また、融資業務は、バブル期にみられたように、投機的取


      引と結びついて際限なく拡大してしまう危険もあり、融資者の厳しい自己規律と


      適切なリスク管理が求められる。                                        


        更に、貸付債権の価値は、融資先の返済能力、返済努力等に依存し、その劣化


      状況は、外部から判断しにくい。この点に関しては、貸付債権に係る会計処理の


      改善に向けた検討が関係者間で進められている。                          


        なお、ノンバンクが行うこのような融資先に対する審査・監視活動を通じた機


      能は、銀行等の預金受入金融機関(以下、「銀行等」という)の行う金融仲介機


      能と同様のものと言える。                                              


                                                                          


   (2)バブル期における問題等                                                


        ノンバンクは、国民のニーズが多様化する中で、その自由さと機動力を活かし、


      銀行等が積極的に取り扱ってこなかったニッチマーケットを積極的に開拓してき


      た。具体的には、銀行等にはないノウハウを活かした小口の分野や専門性の高い


      分野、リスクは高いが将来性のある分野等であり、ノンバンクは、こうした分野


      に資金を提供することにより、産業界及び国民経済において重要な役割を果たし


      てきた。                                                              


        しかしながら、バブル期においては、投機的な不動産取引が拡大する中で、事


      業者向けノンバンクを中心に、ノンバンクの多くが本来の専門分野からは離れた、


      不動産関連融資に過度に傾斜した業務を展開し、その結果、多額の不良債権を抱


      えるに至っている。もっとも、こうした事情は、他の金融機関にも共通するもの


      であり、ノンバンク固有のものでは必ずしもない。しかし、ノンバンクに累積す


      る不良債権について、特にその背景を挙げれば、イ)ノンバンクの融資態度やリ


      スク管理に問題があったこと、ロ)ノンバンクに貸し付けていた銀行等のモニタ


      リング機能が有効に働いていなかったこと、また、銀行等の一部には、系列ノン


      バンクを活用して積極的に融資の拡大を図るものも見受けられたこと、ハ)ノン


      バンクの市場からの資金調達に制約があり、市場(機関投資家、格付機関等)に


      よる監視が十分に働かないシステムであったこと、等がある。              


                                                                            


   (3)今後のノンバンクの業務運営のあり方                                    


        今後、ノンバンクは、バブル期にみられた不動産関連融資への過度の傾斜等、


      安易な融資姿勢を改め、リスク管理を徹底するとともに、その専門性、独自性を


      発揮し、差別化を図っていくことが必要である。また、今後、外国系ノンバンク


      の国内進出や、我が国の大手ノンバンクの海外展開が進んでいく中で、大手ノン


      バンクの国際的競争力の強化も課題となってくるものと考えられる。        


        今後、ノンバンクは、このような自助努力を重ねつつ、国民のニーズの多様化


      に応えた様々なサービスの提供や、次代を担う成長企業等への資金供給等を行う


      ことにより、我が国経済において健全に発展していくことが期待される。    


                                                                            


3.ノンバンクの金融システム上の位置づけ



   (1)基本的考え方                                                          


        ノンバンクは、預金等を受け入れておらず、また、決済システムを中心とする


      信用秩序にも直接関わらないことから、銀行等とは異なり、経営の健全性維持の


      観点からの規制・監督を受けていない。ノンバンクは、貸金業規制法に基づき、


      主として借手の保護の観点からの規制・監督を受けるに留まる。            


        他方、既に述べたとおり、近年、ノンバンクの国民経済的役割やその融資規模


      は拡大しており、特に大規模ノンバンクについては、その破綻が借手の円滑な資


      金調達や貸手である銀行等の経営に影響を及ぼしかねない場合もある。従って、


      ノンバンクは、厳格な自己規律と自己責任原則の下、リスク管理の一層の強化等


      を通じ健全な経営を実施していくことが求められる。その際、ノンバンクの経営


      の健全性は、基本的には、市場の規律に委ねられ、不健全な経営により破綻した


      ノンバンクは、速やかに市場からの退出を迫られることになる。従来、ノンバン


      クに対しては、こうした市場による監視が十分に機能してこなかった。今後、個  


      々の銀行等が融資先のノンバンクに対する与信審査・与信管理を一層充実させ、


      そのモニタリング機能を高めていくことを期待するとともに、市場メカニズムが


      より有効に機能するような制度の整備が必要と考えられる。                


        なお、大規模ノンバンクの自己規律を促すとともに、市場の監視機能の強化に


      資する観点から、貸金業規制法上の事業報告書の徴求対象となる大規模ノンバン


      ク(融資残高 500億円超)について、会計監査人(公認会計士又は監査法人)の


      監査機能の拡充を図るとともに、融資基準、審査体制(リスク管理体制)、基本


      的な経理基準等について、貸金業規制法の登録申請書の記載事項とし、登録官庁


      における登録簿の閲覧制度を通じて公表することとしてはどうか、との意見があ  


      った。                                                                  


                                                                            


   (2)ノンバンクの破綻と金融システムの安定                                  


        ノンバンクが破綻することによって、貸手である銀行等の経営の健全性に影響


      が及ぶ場合も考えられる。銀行等の経営の健全性の確保については、平成8年6


      月に成立したいわゆる金融3法で導入された早期是正措置が平成10年4月より実


      施される予定であり、また、銀行等の預金者を保護するセーフティ・ネットにつ


      いても、金融3法等により整備が図られたところである。このように、現在、銀


      行等に対する監督行政に関する諸制度の整備等を踏まえつつ、自己責任原則の徹


      底と市場規律に立脚した透明性の高い金融行政への転換が進められつつある。従  


      って、ノンバンクの破綻処理についても、こうした新しい金融行政の考え方を踏


      まえ、公的な関与は行わないという原則を今後とも徹底していくべきである。  


                                                                            


4.ノンバンクの社債発行による貸付資金の受入れ



        現在、ノンバンクは、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法


      律」(以下、「出資法」という。)第2条第3項の規定により、貸付資金に充て


      ることを目的として、社債の発行により不特定かつ多数の者から資金を調達する


      ことが禁止されている。当懇談会においては、ノンバンクの資金調達の多様化等


      の観点から、同項による規制について検討を行った。                      


                                                                            


   (1)出資法第2条第1項の趣旨                                              


        出資法は、いわゆる保全経済会事件等、戦後の混乱期に続出した悪徳業者によ


      る一般大衆被害を契機に、昭和29年に制定された刑罰法規である。同法第2条第


      1項は、「業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、


      何人も業として預り金をしてはならない」と規定している。即ち、同項の趣旨は、


      業として、不特定かつ多数の者から元本保証をして金銭を受け入れること(預り


      金)について、銀行等法律に特別の規定のある者を除き禁止することにより、一


      般大衆の預金等を保護しようというものである。                          


        同項違反により摘発される事件は、現在でも数多く見受けられ、同項の規定は、


      今日なお、一般大衆の保護に一定の効果を有している。                    


                                                                            


   (2)出資法第2条第3項の趣旨                                              


        また、出資法第2条第3項は、「主として金銭の貸付けの業務を営む株式会社


      (銀行及び証券金融会社を除く)が、社債の発行により、不特定かつ多数の者か


      ら貸付資金を受け入れるときは、業として預り金をするものとみなす」と規定し


      ている。同項の趣旨については、一般に、「貸金業者が社債の発行により不特定


      かつ多数の者から貸付資金を受け入れるときは、その業務が銀行業務的性質を帯


      びることになり、銀行等のように法令の厳重な規制を受けない貸金業者にこれを


      認めることは著しい弊害を生ずるため」等と説明されてきた(立法当時の法務省


      刑事局担当者の解説等)。この「銀行業務的性質を帯びることによる弊害」につ


      いては、以下の2つの考え方が背景にあったと考えられる。                


                                                                            


      ○一般大衆の保護の観点                                                


        貸金業者が社債により不特定かつ多数の者から資金を調達して融資業務を行う


      場合には、銀行業務に類似した性質を帯びることになるが、社債市場が未成熟で、


      社債についての認識が国民一般に十分浸透していなかった当時としては、一般大


      衆が銀行等の預金等と誤認して金銭を預けてしまう惧れがあったことから、第3


      項において「預り金」とみなし、禁止の対象とすることにより、一般大衆の保護


      という第1項の趣旨を徹底する必要があると考えられたこと。              


                                                                            


      ○金融仲介業務を銀行等に限定する観点                                  


        更に、およそ不特定かつ多数の者から資金を集め貸付を行う業務(金融仲介業


      務)については、企業部門が資金不足状態にあり、限りある資金を国民経済の発


      展のために有用に配分することが求められていた当時としては、その業務は極め


      て公共性の高いものと認識され、免許制の下、厳しい規制・監督を受ける銀行等


      に限定すべきであると考えられたこと。                                  


                                                                            


   (3)出資法第2条第3項の今日的意義                                        


        同項の趣旨について、今日の状況を踏まえ、改めて検証すると、以下のような


      整理ができよう。                                                      


                                                                          


      ○一般大衆の保護の観点                                              


        近年、我が国の社債市場においては、商法、証券取引法等による市場ルール、


      投資家保護のための諸制度が整備され、また、引受証券会社、社債管理会社、格


      付機関等の市場関係者の健全な発展も見受けられる等、出資法制定当時と比較す


      れば、格段に市場は整備されてきている。こうした状況を踏まえると、一般大衆


      が貸金業者の社債について、銀行等の預金等と誤認して金銭を預ける惧れはほと


      んどなくなっており、従って、同項により禁止する意義は失われつつあると考え


      られる。                                                              


                                                                            


      ○金融仲介業務を銀行等に限定する観点                                  


        出資法制定当時の資金不足時代においては、企業部門に資金を配分する金融仲


      介業務は極めて公共性の高い業務と考えられ、また、現在のような大規模ノンバ


      ンクの隆盛も予想されなかったことから、金融仲介業務を銀行等に限定すること


      には一定の意義があった。しかし、企業部門の資金不足が解消された今日では、


      むしろ金融仲介の多チャンネル化が求められている状況にあり、同項によりノン


      バンクの社債発行を禁止する意義は失われつつあると考えられる。          


        また、実態をみても、今や200近い金融機関から融資を受けているノンバン


      クがあることや、銀行等の側も積極的に関連ノンバンクを活用して金融仲介を行  


      っている等、出資法第2条第3項の禁止の趣旨自体が形骸化してきているとも言


      える。                                                                


                                                                            


   (4)ノンバンクの資金調達の多様化の意義                                    


        出資法第2条第3項に基づくノンバンクの市場からの資金調達に係る制約を廃


      止することについては、以下のようなメリットがあることを積極的に評価すべき


      である。                                                              


      ○金融仲介チャンネルの多様化により、経済全体の資金配分の効率化に資する。


      ○市場による監視機能の導入により、金融システムの透明化、安定化に資する。


        即ち、市場(機関投資家、格付機関等)の評価が調達コストに反映され、評価


        の低いノンバンクについては、最終的には、市場からの資金調達の途が閉ざさ


        れることにより、早期に淘汰され得る。                                


      ○ノンバンクの資金調達の多様化・弾力化により、貸出金利の低下の可能性が高


        まる。                                                              


      ○ノンバンクの銀行依存が低下し、ノンバンクの自主性の発揮や創意工夫を凝ら


        した事業展開が期待される。                                          


      ○社債市場の厚みが増すとともに、同項の趣旨を踏まえたノンバンクのCPや債


        権流動化に係る制約も廃止されることにより、証券市場全体の発展及び債権流


        動化・証券化の進展が期待される。                                    


                                                                            


   (5)ノンバンクの資金調達に係る制約の見直し                                


        以上を踏まえると、出資法第2条第3項に基づくノンバンクの資金調達に係る


      制約については、基本的に廃止すべきものと考える。                      


                                                                            


5.ノンバンクの資金調達の多様化に伴い留意すべき点



   (1)金融システム改革後の金融のあり方との関連                              


        ノンバンクが社債の発行により不特定かつ多数の者から資金を調達し、融資業


      務を行うこととなれば、ノンバンクの金融仲介機能は、より銀行等の金融仲介機


      能に類似したものとなる。他方、今後、金融システム改革(いわゆるビッグ・バ


      ン)が進展した状況を考えると、このような金融仲介機能の拡大が実現し、業態


      にとらわれない活発な競争が一層展開され、投資家に対して多種多様な金融商品


      ・サービスが提供されることになるものと考えられる。これらの金融商品・サー


      ビスについては、ディスクロージャー等の市場ルールを前提とした投資家の自己


      責任原則を基本としつつも、当該サービスの担い手に関しては、金融取引の仲介


      や金融資産の管理・運用といった、その業務に係る共通の特性を考慮した場合、


      投資家の保護や取引の公正の確保等の観点から、通常の事業法人と全く同じ取扱


      いでよいかどうかについて、更に検討を行う必要があろう。なお、この問題は、


      バンク(銀行)の機能をどのように考えるかという問題とも関係する。      


        現在、これらの担い手については、個別の業法において規制・監督が行われて


      いるが、経済環境の変化や金融技術の発達の中で、業法という枠組みが制約とな


      り、個人・家計等の資産運用の効率性や公正さを阻害する惧れがあるとの指摘が


      ある。金融商品・サービスの多様化に対しては、今後、投資家、消費者等の自己


      責任を前提に、利用者の視点を重視した統一的、包括的なルールを構築する方向


      での検討が行われることが望ましいと考えられる。                        


        そのような観点から現行の出資法についてみた場合、元本保証付きの出資金や


      預り金の受入れを禁止することにより、一般の投資家や消費者の保護に一定の役


      割を果たしているとは言え、立法当時に比べ、金融商品・サービスや、その担い


      手が著しく多様化しつつある今日、現行法のような規制のみでは必ずしも十分と


      はいえず、証券取引法のような行為規制を課すとともに、その実効性を期すため


      の規定の整備や、金融犯罪及び悪質業者のより効果的な取締りのための規定の整


      備についても、今後、併せて検討していく必要がある。                    


        ノンバンクの融資業務向け社債発行の自由化にあたっては、このような金融サ  


      ービス・取引等に係るルールの枠組みについての検討の方向をにらみつつ、現状


      における対応として、ディスクロージャーの強化や、金融サービスとしてのノン


      バンクの業務の特性を踏まえた投資家保護、不公正取引の排除等の最低限の措置


      を講じておく必要があると考えられる。                                  


        なお、同様の問題意識から、当面、ノンバンクの融資業務向け社債発行の自由


      化にあたっては、イ)機関投資家向け等に限定すべきではないか、ロ)社債管理


      会社の設置の義務づけ、直接募集の禁止等の条件を付すべきではないか、ハ)一


      定の格付以上のノンバンクに限定すべきではないか、との意見があった。    


        また、社債を発行するノンバンクに対して融資業務の特性を踏まえた措置を講


      じる場合には、現行の貸金業規制法上適用除外となっている企業で、独立的に融


      資業務を営んでいるものについても同様に扱うべきではないか、との意見があっ


      た。                                                                  


                                                                            


   (2)ディスクロージャーの強化                                              


        一般に、社債を含む有価証券に係る投資家保護は、証券取引法によるディスク


      ロージャーや公正取引ルールによるのが基本である。                      


        但し、証券取引法上のディスクロージャーが有効に機能するためには、適正な


      会計処理が行われ、資産の状況が適切に財務諸表に反映されることが前提となる。


      この点、貸付債権の会計処理の現状についてみると、償却基準の明確化等今後改


      善すべき点が多い。これは、必ずしもノンバンク固有の問題ではないが、銀行等


      に関する償却基準の整備が進捗していること等を踏まえ、銀行等以外の者につい


      ても、貸付債権の会計処理の一層の適正化に向けて、今後、関係者間で更なる検


      討が進められることが期待される。また、融資業務において、融資基準や審査体


      制(リスク管理体制)、大口融資の状況等が重要であることを踏まえると、これ


      らの事項についてもディスクローズされることが適当である。これらの事項につ


      いては、現行の証券取引法上、有価証券報告書等において記載することは可能で


      あるが、義務づけはなされていない。                                    


        以上の点を踏まえ、現状において、ノンバンクの社債発行を自由化するのであ


      れば、社債を発行するノンバンクについて、不良債権の状況、融資基準、審査体


      制(リスク管理体制)、大口融資の状況等、ノンバンクの融資業務の基本となる


      事項についてディスクロージャーを義務づけることが必要と考えられる。具体的


      には、これらの事項を有価証券報告書等の「事業の概況」、「営業の状況」、財


      務諸表の注記事項の欄に記載する方法等が考えられる。この点に関し、自己資本


      比率については、現行の証券取引法の通達において既に開示対象となっているが、


      投資家の投資判断に資する観点から、社債発行ノンバンクについて統一的な算定


      方法等を定める必要があるのではないか、との意見があった。              


        また、社債発行ノンバンクに対するディスクロージャーの義務づけについては、


      本来、証券取引法で行うべきであるが、同法の運用の実態等に鑑み、その実効性


      をより確保する観点から監督当局が関与することに一定の意義が認められること


      等から、当面、暫定的に、貸金業規制法等の他の法令で手当てすることでもよい


      のではないか、との意見があった。                                      


        この他、ディスクロージャーの適正さを確保するためには、会計監査人による


      財務諸表監査も重要である。ノンバンクの社債発行にあたっては、会計監査人に


      よる深度ある監査が求められる。                                        


                                                                            


   (3)リスク管理体制、財産的基礎                                            


        ノンバンクが社債の発行により不特定かつ多数の者から資金を調達し、融資業


      務を行うこととなれば、ノンバンクの金融仲介機能は、より銀行等の金融仲介機


      能に類似したものとなる。それゆえ、金融サービスとしてのノンバンクの業務の


      特性等を考慮しつつ、投資家によるモニターをサポートする観点から、最低限の


      人的構成(リスク管理体制)や財産的基礎(自己資本等)を求めることが考えら


      れる。                                                                


                                                                            


  (注)証券会社、証券投資信託委託会社、抵当証券業者、商品投資販売業者等、不特


      定かつ多数の者を対象に金融仲介を行ったり、不特定かつ多数の者から資金を集


      めて融資ないし投資を行う業者については、法令上、事業を適確に遂行するに足


      りる人的構成及び財産的基礎等が求められている。                        


                                                                            


   (4)悪質業者による詐欺的行為の排除                                        


        現行の商法、証券取引法の下では、社債管理会社及び引受証券会社を活用せず、


      更に、証券取引法のディスクロージャーも行わずに、投資家に直接社債を売るこ


      とも可能であるが、悪質業者がこれを悪用して詐欺的行為を働く余地があると考


      えられる。また、悪質業者が商法上の社債ではない社債まがい商品等を売りつけ


      る等の詐欺的行為も考えられる。ノンバンクの社債発行を自由化する場合には、


      解禁に乗じた悪質業者の詐欺的行為を阻止するための方策についても検討する必


      要があるが、上記3)のような最低限の人的構成や財産的基礎を求めることは、悪


      質業者の参入の阻止にも効果があるものと考えられる。                    


                                                                            


6.ノンバンクのCPの発行



        CP(コマーシャル・ペーパー)の法律的性格については、手形法上の約束手


      形として構成されており、従って、社債に関する出資法第2条第3項の規定は、


      CPには適用されない。しかし、CPは、経済実態的には、短期社債とも言うべ


      きものであることから、ノンバンクがCPを発行する場合には、同項の趣旨を踏


      まえ、通達により、発行代わり金を貸付資金に充てない等の規制が行われている。


        ノンバンクのCP発行に係るこうした制約については、社債発行を自由化する


      のであれば、同様に廃止すべきものと考える。その際、5.で検討した社債に関


      するルールは、短期社債としての性格を有するCPにも適用すべきものと考えら


      れる。                                                                


        なお、現行のCPの商品性についてみると、イ)発行者は一定以上の格付を取


      得した者、ロ)購入者は機関投資家等、ハ)発行単位は1億円以上等の限定があ


      り、こうした商品性を前提とする限り、社債に関する出資法第2条第3項の改正


      を待たずに廃止してもよいのではないか、との意見もあった。他方、ノンバンク


      のCP発行を自由化する場合には、運用・調達の期間ギャップを考慮し、流動性


      補完の観点からバックアップラインの設定が必要との意見があった。この点につ


      いては、バックアップライン設定の必要性は発行(会社)毎に格付機関及び市場


      の判断に委ねるべきものであり、ノンバンク固有の問題として捉えるべきではな


      いとの意見もあった。                                                  


                                                                            


7.債権流動化のための法制度の整備



        近年、リスクの分散化や資産の圧縮による財務体質の改善等の観点から、金融


      機関やノンバンクを中心に、市場からの資金調達の一手法として、債権の流動化


      のニーズが高まっている。そのなかで、ノンバンクの債権流動化については、出


      資法第2条第3項の趣旨を踏まえ、調達した資金を貸付資金に充てられないとい


      う制約がある。この点については、ノンバンクの社債発行を自由化するのであれ


      ば、債権流動化に係るこのような制約についても、CPに係る取扱いと同様、廃


      止されるべきものと考える。                                            


        なお、債権流動化については、一般に、対抗要件の具備の手続が煩雑であるこ


      とが指摘されているが、現在、法務省を中心に、その簡素化に向けた検討が行わ


      れており、その検討結果が期待される。                                  


        今後、債権流動化に関するこのような制約を取り除いていくことは、債権流動


      化の進展に資するものであるが、一層の進展を促す観点から、債権の譲受者とし


      ての特別目的会社(SPC)の仕組作りや投資家保護のあり方等について検討す


      る必要がある。その際、リース・クレジット債権に関し特別に規定している「特


      定債権等に係る事業の規制に関する法律」の全面的見直しも含め、総合的に検討


      する必要がある。                                                      


                                                                            



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