総合部会・論点整理


                                                                                        

                                                                                        

  I.我が国証券市場の現状と問題点                                                    

                                                                                        

    1.我が国証券市場のあり方が、今、問われている。我が国証券市場は、我が国経済と共に

      発展し、国民経済において大きな役割を果たしてきた。しかし、経済・社会環境の変化に

      伴い証券市場への期待が高まる中で、現在の我が国市場は、はたしてそうした期待に十分

      応えていけるのであろうか。当面の市場取引の活発化といった観点を越え、21世紀に目

      を向けた、中長期的な視点に立った証券市場全般の改革が求められている。            

                                                                                        

    2.我が国金融・資本市場は、基幹産業を中心に資金を効率的かつ重点的に配分するという

      役割に重点を置いてきたが、その軸足が大きく移るべき時期に来ている。人口の高齢化を

      控え、個人金融資産は1200兆円にも上り、金融・資本市場に期待される役割は、資産

      の効率的な運用へと大きく傾斜しつつある。また、経済の成熟化に従い、資金調達の面で

      も積極的なリスク負担を伴う様々な新規産業への資金供給が重要な課題となりつつある。

      更に、我が国の巨額な金融資産の蓄積を背景に、グローバルな観点からの効率的な資金配

      分についても、我が国市場が一層大きな役割を果たすことが期待されている。          

                                                                                        

    3.こうした役割は、銀行の預貸を中心とした我が国の伝統的な間接金融システムでは十分

      に果たすことができない。新たな時代における資金仲介ニーズを満たしうるのはリスク負

      担とリスク分散の機能に優れた証券市場であると考えられる。だが、現在の我が国の証券

      市場の姿はそうした期待と乖離したものとなっている。即ち、個人金融資産は依然として

      圧倒的に預貯金が中心で有価証券保有の割合は低く、企業の資金調達でも借入れが引き続

      き大きなウェートを占めている。また、我が国市場での海外の投資家・企業等の参加も限

      られたものとなっている。                                                        

                                                                                        

    4.こうした現状は、我が国経済発展の歴史的経緯や文化といったことだけでは片づけられ

      ず、むしろ我が国証券市場の枠組みや市場関係者のあり方に根ざしているのではないか、

      との問題意識を投げかけるものである。                                            

        まず、これまでの証券市場の規制の枠組みが、法体系としても、行政の運用としても、

      予防的であり、市場参加者の創意工夫と自己責任の芽を摘んできたのではないかとの批判

      がなされている。また、市場のインフラストラクチャーとしての会計制度、税制、法制が

      他の主要な金融センターに比べ、商品開発や取引を促進するような枠組みになっていない

      のではないかとの指摘もある。こうした予防的規制の枠組みや既存の制度的インフラスト

      ラクチャーの下、市場を構成するそれぞれの主体はそれなりに経済合理性に従って行動し、

      それが現在の市場の姿を形作ったともいえる。しかしながら、我が国証券市場をとりまく

      環境の変化もあって、以下にあげられるような問題点が浮き彫りにされてきている。    

      (1) 取引所や店頭市場については、利用者から見たさまざまな取引執行コストをより低減

        させ、また、ニーズの変化に対応して提供する取引サービスを利用者にとってより便利

        で魅力あるものとしていく余地があるのではないか。                              

      (2) 仲介者(証券会社、資産運用業者)については、サービスの提供の点で創意工夫が十

        分行われてこなかったのではないか。また、より投資家の立場に立った営業姿勢を採る

        ことにより、投資家が証券市場をより活用するようにできるのではないか。          

      (3) 個人投資家については、短期的なキャピタル・ゲイン狙いの投資に偏っていたり、自  

        己責任原則を十分に踏まえていなかった面も見られたのではないか。自己責任原則の徹

        底を図るとともに、証券市場を普通の人にも分かりやすいものとし、更に、長期株式保

        有を図れる土壌を作ることにより、投資家の裾野を広げることが必要なのではないか。    

      (4) 我が国の機関投資家やファンドマネージャーについては、その資産運用能力に疑問が

        投げかけられているだけでなく、その横並び的な投資態度が多様な個性的商品の提供を

        妨げ、市場における円滑な価格形成を阻害する原因の一つとなっているのではないか。  

      (5) 発行企業については、より、株主・投資家を重視した経営姿勢が求められているので

        はないか。また、投資家に対し証券投資を魅力あるものとするには、証券の発行が市場

        情勢や企業の実態、また、格付けを的確に反映した発行条件で行われることが重要であ

        るが、発行企業としてもこうした点に一層配慮する余地があるのではないか。        

          さらに、企業及び銀行による非金融的な動機による株式の持合いは、これまでの枠組

        みを前提とすれば経済合理性のある行動としても、株価の形成に影響し、金融資産とし

        ての株式の市場価値やコーポレート・ガバナンスについての疑念を生み、結果として個

        人を始めとした純投資家の株式投資意欲を阻害してきたのではないか。              

                                                                                        

    5.経済・金融のグローバル化の進展と通信・情報技術の高度化は、資本取引を地理的・物

      理的制約から解放し、新たな可能性をもたらすとともに、低コスト・高付加価値を求めた

      国際的な競争を激しくさせている。国際的な市場間競争は、一面では我が国の資金調達・

      運用ニーズが海外市場で満たされることを可能とする。だが、海外市場へ直接アクセスす

      ることが困難な個人や中小・中堅企業の存在や、金融・証券取引にまつわる情報の喪失の

      おそれ及び先端産業としての金融・証券業の雇用の喪失を考慮すれば、我が国市場を空洞

      化させてはならない。国際的水準からみて利便性に富み魅力と競争力のある市場とするこ

      とは、我が国の豊富な金融資産の我が国市場での効率的な運用や新規産業の発展・成長に

      も寄与するのではないか。                                                          

                                                                                        

    6.我が国証券市場の問題点は広範な原因に根ざしている。21世紀も視野に入れつつ、今

      後証券市場を国民のニーズに十分に応えていく存在とするためには、行政のあり方を含む

      これまでの規制の枠組みを変えていくことを出発点とし、市場の利用者、仲介者、運営者

      の意識や行動をも変革していく、抜本的かつ総合的な改革が要求されている。          

                                                                                       

    7.証券市場は国民共有の重要な財産である。株式を保有することが倫理的に問題視される

      ような風潮は、そうした証券市場の本質と相入れないものである。証券市場を巡る問題と

      こうした市場観は、いずれが原因とも結果とも言い難いが、すべての関係者が証券市場を

      重要な国民的財産として育てていくことが望まれる。こうした観点からは、改革に当って、

      市場の活性化や利用者利便の向上を図ることは当然として、市場の最終的受益者は国民全

      体であることを常に意識し、不正、利益相反等により、直接的利用者のみならず広く国民

      の利益が損なわれないことに留意すべきである。                                    

                                                                                      

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