証券取引審議会

投資対象ワーキング・パーティー報告書

「魅力ある投資対象」


                                                                              

平成9年5月16日                                                            

主査    植田  和男                                                            

                                                                              

目    次

1.商品の自由化・多様化

2.デリバティブ商品の多様化

3.投資信託の多様化等

4.有価証券の定義の見直し

5.企業活力の向上のための資金調達手段等の充実

6.株式の魅力の向上

7.情報提供の充実

8.証券取引に対する課税の在り方(商品供給コストの削減等)


1.商品の自由化・多様化


 (1)  総論                                                                    

      投資家の多様な投資・資産運用ニーズを満たし得るような、魅力のある投資対象

    を低廉なコストで提供できるようにすべきである。商品の自由化・多様化の結果、

    証券市場が、高齢化社会を迎えるに当たって国民金融資産の形成に大きな役割を果

    たし得るようになることが期待される。このためには、より投資家に配慮した有価

    証券の発行者の経営姿勢・情報開示の在り方も重要になる。                    

      資金調達者にとっては、商品の自由化・多様化は、そのニーズに合った資金調達

    手段を選択する途を開くことになる。その結果、我が国証券市場が国際的にみても

    利便性に富んだ魅力ある市場となり、我が国の巨額な金融資産を背景として、グロ

    ーバルな観点からの効率的な資金配分について一層大きく寄与することが期待でき

    るようになる。また、これとともに、次代を担う新規産業に対しても、資金供給の

    途を開き、その発展・成長を促す基盤を形作るものとなる。                    

      こうした自由化・多様化は、市場仲介者が競争を通じ、商品性の向上を図ること

    により現実のものとなる。そのためには、市場仲介者が創意工夫を行い、多様な商

    品を開発し、その成果を獲得することが可能な、より自由な市場とする方向での改

    革が必要となる。                                                          

      以下にみられるように、社債を始めとした商品の自由化は近年大幅に進展してい

    る。今後、一層多様な商品の出現を促すには、刑法、商法等関連法規における取扱

    いの明確な課題となっているケースが少なくない。こうした面での整理が進み、我

    が国における商品の開発の自由度が一層高まることを期待したい。              

                                                                              

 (2)  社債発行の自由化                                                        

      公募社債の発行については、昨年1月に、適債基準及び財務制限条項の設定を義

    務づけるルールが撤廃されたことにより、ほぼ自由化が完了したといえる。また、

    私募社債についても、昨年4月に、発行上限額及び起債回数の制限が撤廃されてお

    り、さらに平成10年度を目処に、一定の場合に機関投資家間の転売を即時に行う

    ことが可能となる予定であることから、米国と比較しても遜色のない自由な市場に

    なるものと見込まれる。                                                    

                                                                              

 (3)  社債等商品の多様化                                                      

      社債の商品性については、償還年限に係る制約が取り払われ、多様な償還期間の

    社債が発行されるに至っている。また、デュアル・カレンシー債(払込み及び利払

    いの通貨と償還時の通貨が異なるもの)、変動利付債(市場金利に連動して利率が

    変化するもの)、コーラブル債(発行会社が繰上償還を行い得るもの)等が発行さ

    れるなど、その多様化が着実に進展しており、諸外国で発行可能な社債は、我が国

    でもそのほとんどが発行可能といえる状況に至っている。さらに、CPについても、

    発行適格基準及び償還期間制限の実質的撤廃が行われ、その商品性の多様化が図ら

    れている。                                                                

      今後は、残されたリンク債や永久債などに関して刑法、商法等の考え方との関係

    を調整し、商品の多様化を徹底することが望まれる。                          

                                                                              

2.デリバティブ商品の多様化


 (1)  金利、為替、有価証券等の価格変動をもとにしたキャッシュフローを自由に組み

    合わせる、いわゆるデリバティブ取引は、金融・証券取引の自由化、金融技術の発

    達を背景に、新たなヘッジ・資産運用ニーズ等に応える取引として、取引規模が世

    界的に拡大の一途をたどっている。                                          

      我が国のデリバティブ市場を見ると、取引規模は拡大しているものの、諸外国に

    比べて、特に有価証券関連のデリバティブ取引の種類が限られており、この面での

    改善の余地は大きいと考えられる。デリバティブ取引のメリットが、より少ないコ

    ストでキャッシュフローとリスクを自由に組み合わせて再配分する取引であること

    に鑑みると、デリバティブ取引の多様化を図ることは、投資家あるいは資金調達者

    に対し、最適な資産・負債の構成の選択を実現していく上で、大いに意義のあるこ

    とである。                                                                

      また、現在、金融・証券取引のグローバル化が急速に進展し、資金が利便性の高

    い市場を求めて流れて行く傾向がますます強まっており、こうした環境変化の中で、

    我が国市場の国際的競争力を確保して行くことが喫緊の課題となっている。デリバ

    ティブ取引の多くは、原資産の移転を伴わない取引であることから、取引の流出の

    可能性が大きく、かかる観点からも、我が国におけるデリバティブ取引の多様化を

    図る必要性は大きい。                                                      

                                                                              

 (2)  こうした問題意識の下、有価証券関連のデリバティブ取引の多様化について、主

    としてデリバティブ特別部会において審議を行っている。具体的には、証券取引所

    におけるデリバティブ取引の多様化については、先般、証券取引所における個別株

    式オプション取引の導入について前向きの認識を公表するとともに、また、店頭に

    おける有価証券関連のデリバティブ取引を始めとする証券関連デリバティブの全面

    解禁に向けての環境整備について、これまで問題とされてきた賭博罪との関係の整

    理を含め検討を行っている。                                                

                                                                              

3.投資信託の多様化等


 (1)  投資信託の改革                                                          

      投資信託は、専門家の資産運用能力を活かした分散投資を可能とすることにより、

    投資家に簡便かつ効率的な資産運用手段を提供するものであり、投資家の証券市場

    への参加をより容易にする上で大きな意義を有している。投資信託をより魅力ある

    ものとするため、平成6年12月には、抜本的な改革が行なわれ、資産運用等に関

    する既存の規制を見直すとともに、運用成績の公開やディスクロージャーの充実が

    図られた。                                                                

      こうした中で、各委託会社は投資家の多様なニーズに対応した創意工夫のある商

    品を開発し、様々な特色のあるファンドが登場してきており、運用成績についての

    情報提供等が進んできている。                                              

                                                                              

 (2)  投資信託の商品性や利便性の向上                                          

      投資家による選択の幅を拡げ得る魅力ある商品を提供していく観点から、例えば、

    MMF(マネー・マネージメント・ファンド)や中期国債ファンドの商品性につい

    ては、その改善が図られるよう、これまで行われてきた諸規制を見直すことが適当

    である。                                                                  

      また、短期の公社債投資信託を中核としたいわゆる証券総合口座は、多様な顧客

    ニーズに応じたサービスの向上に資するものである。したがって、公共料金等の引

    き落とし機能の銀行法上の為替業務との関係を整理・検討した上で証券総合口座の

    導入を進めることが適当である。また、中核となる公社債投資信託について期待さ

    れる機能を果たすための運用の在り方に関して、一定のルールを設けることが必要

    である。                                                                  

                                                                              

 (3)  私募投資信託の導入                                                      

      一定の限られた投資家を対象とする投資信託(いわゆる私募投資信託)について

    は、投資家の多様な資産運用ニーズに応えていく観点から、これを我が国に導入す

    ることは意義があるものと考える。こうした私募投資信託については、一定の限ら

    れた投資家向けであっても、受益者に対する忠実な運用、投資信託としての公正取

    引ルールが適用される必要がある。このような観点から、私募投資信託を証券投資

    信託法に明示的に位置付け、制度化することが適当と考えられる。              

      但し、私募投資信託の性格に着目すれば、運用規制やディスクロージャー等の面

    においては、現行法に基づく各種ルールをそのまま適用することまでを求める必要

    性は必ずしもない。また、こうした業務を行うことについては、より広く適格性を

    有する者に認められるべきものと考えられる。したがって、現行投資信託制度や関

    連諸法制との関係を踏まえ、私募投資信託固有に適用されるべきルールの整備を行

    う必要があるものと考える。                                                

                                                                              

 (4)  会社型投資信託の導入の検討                                              

      会社型投資信託は、米・仏を始め諸外国において広く行われている一般投資家の

    ための会社形態での投資信託の仕組みである。国際的整合性、グローバル・スタン

    ダードの観点や投資家の資産運用に当たっての選択肢を拡げる意味から、その導入

    が検討課題となっている。                                                  

      会社型投資信託においては、投資家は株主権を有しており、株主権行使や株主総

    会、取締役会といったコーポレートガバナンス(会社運営)の枠組みの下での私的

    自治による投資家保護が図られるといったメリットがある。また、長期的運用にも

    資することが期待される。                                                  

      会社型投資信託の我が国への導入を検討するに当たっては、その円滑な運営を確

    保するため、例えば、オープン・エンド型(注)の仕組みが十分機能するよう、買

    戻し請求権付株式の発行、買取り等の手続きを始め、多くの点で現行株式会社制度

    との調整を要するものと考えられる。したがって、その実現のためには、会社型投

    資信託のための特別の法人制度を創設することも検討すべきである。投資家による

    ガバナンス機能(私的自治)が、円滑な運営の下で適切に発揮されるような仕組み

    を法制的に検討すべきである。あわせて、投資信託の機能にふさわしい税制が確保

    されることも必要であり、そうした税制面での整備も望まれる。                

    (注)いつでも保有者が、会社による発行証券の買戻しを請求できるもの。      

                                                                              

 (5)  投資信託約款の個別承認制の見直し                                        

      投資信託約款の承認制度については、投資家に対するディスクロージャーを一層

    徹底する等、所要の制度の整備を行った上で、届出制等に移行することが適当であ

    る。                                                                      

                                                                              

 (6)  販売チャンネルの拡充                                                    

      投資家の利便性の向上と新たな投資家層の拡大を通じた証券市場の活性化といっ

    た観点からは、投資信託の販売チャンネルについて、その拡充を図ることが必要で

    ある。こうした販売チャンネルの拡充を通じた自由な競争の中でコストの削減や投

    資信託の運用面における一層の競争促進が期待される。                        

      新たな販売チャンネルとしては、銀行等の金融機関による投資信託の販売を導入

    することが考えられる。銀行等の金融機関においては、元本保証の付いた預金を扱

    っていることから、投資信託というリスクキャピタル商品をも扱うこととなる場合

    には、顧客の誤認といった問題が生ずる可能性がある。こうした問題やさらには、

    利益相反の可能性等を防止するための十分な措置を講じる必要がある。また、適正

    な販売を確保する観点から、有価証券の販売に係る証券取引法上の規制や販売員の

    資格制度等が、いずれの販売チャンネルにおいても適用されるべきである。      

      投資信託の販売チャンネルについては、これまでも委託会社による直接販売が導

    入され、順調にその残高を拡大してきている。直接販売は、委託会社が直接投資家

    に接することにより、投資家のニーズ等が的確に把握されることから、引き続き投

    資家へのアクセスの拡大などその充実が期待される。こうした観点から、銀行等の

    金融機関自身による販売に加え、銀行の委託会社への店舗貸しによる直接販売も考

    えられよう。                                                              

                                                                              

4.有価証券の定義の見直し


 (1)  有価証券の定義は、証券取引法の適用対象の範囲を定める基本的な概念である。

    証券取引法は、公衆縦覧型ディスクロージャー、何人にも適用される公正取引ルー

    ル等、投資家が自己責任原則を貫徹できるような市場環境を整備するための基本的

    なルールを規定している。有価証券の定義は、こうした取引ルールをいかなる商品

    に適用すべきであるかという観点から検討されるべきである。                  

                                                                              

 (2)  有価証券の範囲を定めるに当たっては、以下の条件を満たすことが求められる。  

    ○  取引ルールの整合性                                                    

        類似の商品に対して異なる取引ルールが適用される場合には、投資家保護に欠

      けるおそれが生じるだけでなく、競争条件の公平性の欠如、規制回避のための商

      品変更等により、投資商品の健全な発展が阻害されるおそれがある。したがって、

      証券取引法の規制体系に適合する商品については、証券取引法上の有価証券とし

      て、証券取引法による統一的なルールが適用されるべきである。              

    ○  国際的整合性                                                          

        証券取引の国際化が進展し、海外商品への投資機会が拡大する中で、海外から

      の持込み商品に関する投資家保護を徹底するとともに、我が国証券市場の国際的

      信頼性を確保する必要がある。そのような観点から、有価証券の範囲については、

      国内での取引実態に留意しつつ、国際的整合性を図るべきである。            

    ○  適用範囲の明確性                                                    

        ある商品に対して証券取引法上のルールが適用されるかどうかは、市場参加者

      が取引開始前に明確に判別できるようにすべきであり、有価証券の定義規定は明

      確であるべきである。                                                    

                                                                              

 (3)  以上の観点から、現行の定義規定及び包含される商品の範囲をみると、具体的な

    商品をベースとした個別列挙であることにより適用範囲の明確性は高いものの、新

    商品の出現に対し必ずしも機動的に対応できていない等、取引ルールの整合性確保

    の面で欠ける点もある。他方、抽象的な文言による包括的な有価証券定義は、カバ

    レッジの点では優れたものになり得るとも考えられるが、定義規定の明確性及び証

    券取引法の規制内容に適した商品に限定するという点で困難な問題がある。      

      今後は、定義規定の明確性を保ちつつ、より広範な商品を包含できる規定振りを

    検討するとともに、個別商品の指定を機動的に行っていくことが適当と考えられる。

                                                                              

 (4)  有価証券の範囲については、証券取引法上の有価証券とすることを検討すべき商

    品を例示すれば、以下のとおりである。                                      

    ○  多様な形態の資産担保型証券                                            

        近年、我が国においても、社債・CPの形態で資産担保型証券が発行されてい

      るが、海外においては、信託の受益証券やリミテッドパートナーシップ(注1)

      の持分証券など様々な形態で証券化が図られている。そこで、多様な形態の資産

      担保型証券を証券取引法上の有価証券に含める方向で検討すべきである。      

    ○  DR(預託証券)                                                      

        海外株券の取引・決済の手段として、海外ではDRが利用されているが、証券

      取引法上の位置付けを明確化し、投資家保護を徹底する観点から、有価証券とし

      て位置付ける方向で検討すべきである。                                    

    ○  カバードワラント                                                      

        店頭デリバティブが解禁された場合には、いわゆるカバードワラント(注2)  

      について、証券取引法上の有価証券に含める方向で検討すべきである。          

      (注1)我が国の組合に類似する組織。                                    

      (注2)株式等を一定の価格で買い取る権利や株価指数の変動に伴う差額を受け

            取る権利等を表象する証券。                                        

                                                                              

 (5)  上記の他、不特定多数の一般投資家に販売されたり、譲渡が容易に行われる資産

    運用型商品(多数の投資家から資金を集め、その資金をプールして第三者が投資を

    行い、そこから生じた利益を分配する仕組みをもった商品)についても、取引ルー

    ルの整合性、国際的整合性等の観点から、公衆縦覧型ディスクロージャーや公正取

    引ルール等の適用を検討すべきである。                                      

                                                                              

 (6)  証券取引法には、ディスクロージャー、公正取引ルール、取扱者の適格性を含む

    仲介者ルール等が規定されているが、現在でもすべての有価証券にこれらのルール

    がすべて適用されているわけではなく、商品の特性に応じた適用除外が設けられて

    いる。今後、有価証券の範囲を拡大していく際には、証券取引法による仲介者ルー

    ル等をそのまま適用すべきかどうか、商品ごとにきめ細かく検討していく必要があ

    る。                                                                      

                                                                              

 (7)  上記の手当てを行っても、なお、証券取引法の対象とならない投資商品について

    も、投資家保護や取引ルールの整合性の観点から何らかの手当てを行うことを検討

    すべきである。                                                            

                                                                              

5.企業活力の向上のための資金調達手段等の充実


 (1)  ABS(資産担保型証券)の利用拡大                                      

      金融自由化、国際化の一層の進展に伴い、金融機関や事業法人、投資家等におい

    て資産の流動化に対するニーズが増大しつつある。こうした中で、ABSは、資金

    調達・資産管理手段の多様化、魅力ある投資対象の提供等、様々な効果をもたらす

    ものと期待される。                                                        

      そこで、我が国においてABSを発行する際の障害となっている民法上の第三者

    対抗要件の問題や特別目的会社(SPC)に対する商法上の問題等について、これ

    らを解決する方向で法律上の手当てが講じられるべきである。                  

                                                                              

 (2)  MTN(ミディアム・ターム・ノート)の利用促進                          

      MTN(MTNプログラム)とは、発行会社が証券会社等との間で、あらかじめ

    定める発行枠の範囲内で社債を反復・継続的に発行することを取り決める契約をい

    う。MTNは、企業の資金調達の円滑化、証券市場の活性化に資するものであり、

    海外では既に定着していることから、本ワーキング・パーティにおいては、我が国

    においても早急に導入すべきであるということで意見の一致をみた。            

      MTNの国内への導入を図るに当たっては、社債発行を取締役会の決議事項とす

    る商法規定との関係、すなわち、社債発行に当たり取締役会が代表取締役に授権で

    きる範囲を明確化することが必要である。また、現行の発行登録制度を機動的な証

    券発行に対応し得るよう改善する必要がある。                                

      これらの諸点について、本年3月、大蔵・法務両省から、                    

    イ.社債発行決議に係る取締役会による代表取締役への授権の範囲の明確化を図る

      とともに、                                                                

    ロ.発行登録追補書類の記載事項の簡素化等発行登録制度の改善を行う          

    ことを内容とする、居住者国内MTNの導入に係る環境整備のための方策が示され

    た 。                                                                     

      これにより、我が国においてMTNの利用が促進され、企業の資金調達の円滑化、

    証券市場の活性化に大いに資することが期待される。                          

                                                                              

 (3)  外国株式の流通・決済制度の在り方                                        

      現在、取引所における外国株券の売買取引の決済は、外国株券振替決済制度によ

    り口座振替で行われている。一方、諸外国においては、DR(預託証券)の利用が

    定着しており、外国企業によってはDRの発行により資金調達を行いたいとのニー

    ズがある。そこで、投資家保護等の問題に配慮しつつ、外国株式への投資機会の増

    大、外国企業の上場促進等の観点から、DRの上場を可能とするための措置を検討

    すべきである。                                                            

                                                                                

 (4)  ストックオプションの利用の拡大                                          

      ストックオプション制度は、会社の業績向上による株価の上昇が、役員・従業員

    の利益に直接結び付くことによって、役員・従業員への強力なインセンティブとし

    て機能し、これが、株主重視の経営を促し、企業の活性化、ひいては株式市場活性

    化にも効果をもたらすものと期待される。                                    

      我が国においては、現在、新規事業法によるものや新株引受権付社債を利用した

    ものなど、限定的な形でのみ実施されているが、ベンチャー企業から大企業まで幅

    広いニーズがあることから、商法を改正し、ストックオプション制度を一般的に導

    入できる枠組みを設けることが適当である。                                  

                                                                              

 (5)  新株発行の迅速化・弾力化                                                  

      証券市場が企業活力の向上に役立っていくためには、企業が証券市場における資

    金調達を機動的・弾力的に行い得るようにしなければならない。特に、新株の発行

    に当たって、企業においては株価が日々変動する中、迅速かつ弾力的に発行手続を

    進めたいとの要請がある。一方、我が国においては商法上、2週間の公告期間を設

    ける必要があることがこのような機動的発行に対し制約となっているとの指摘があ

    る。したがって、この公告期間を短縮するか、あるいは公告方法を弾力化すること

    が望ましい。これらのうち、公告期間の短縮については、株主の発行差止め請求権

    の行使が確保されるためには現行の2週間は最小限必要な期間とされていることか

    ら、これ以上の短縮は困難と考えられる。そのため、発行差止め請求権の行使可能

    期間は現行通り確保した上で、公告方法の弾力化を図ることにより発行までの期間

    を実質的に短縮し、市場環境の変化に応じた機動的株式発行を可能とすることが適

    当である。                                                                

      なお、欧米市場においては、新株の募集直後から流通市場における需給関係が悪

    化するのを防止する観点から、オーバーアロットメント(注)という手法が用いら

    れているが、今後、我が国においてこのような手法を導入することについての法的

    問題点を早急に整理していく必要がある。                                    

    (注)引受証券会社が発行株数を超える株数の販売を行い、超過販売分の調達は、

        引受証券会社が募集後の株価の状況によって、市場から市場価格で買い付ける

        か(株価が発行価格を下回っているとき)、発行会社に追加発行させる(株価

        が発行価格を上回っているとき)ことによって行う方法をいう。            

                                                                              

6.株式の魅力の向上


 (1)  利益消却のための自己株式取得                                            

      利益消却のための自己株式取得は、ROE(株主資本利益率)の改善による投資

    対象としての株式の魅力の向上や株式市場における需給のタイト化などに大きな効

    果がある。例えば、ニューヨーク市場が活況を呈している大きな要因として、米国

    では、自己株式の取得数が新株発行数とほぼ拮抗していることが指摘されていると

    ころである。                                                              

      また、利益消却は、一度に大量の株式を市場に放出して需給バランスを崩すとい

    うことなく、企業持合い解消を進めていく手段としても有用である。            

      さらに、利益消却は、ROEの改善等を通じ、資本・投資の効率化を促進するほ

    か、余剰資金のある成熟産業から投資意欲旺盛な新規産業への資金の流れのパイプ

    役をも果たすものであり、経済構造改革への貢献も期待される。                

      平成6年の商法改正により、定時株主総会の決議により利益消却を行う仕組みが

    設けられたが、現行の仕組みでは定時株主総会の時には予見できなかった経済情勢

    や会社の業績等の変化に対応できないという問題がある。そこで、商法と調整を図

    り、利益消却のための自己株式取得を一定の条件の下に取締役会決議に委ねること

    により、利益消却を機動的弾力的に行い得る仕組みを設けることが適当である。  

                                                                              

 (2)  株式の投資単位の引下げ                                                  

      我が国の株式の投資単位は、国際的にみても高い水準にあることから、個人投資

    家の証券市場への参入を促進するためには、株式投資単位の引下げを機動的に行い

    得るようにすることが望ましい。                                            

      株式投資単位の引下げのため株式の分割・くくり直しを実施するためには、商法

    上、株主総会の特別決議が必要とされているが、これらの決定を取締役会決議だけ

    で実施できるよう、商法を改正すべきとの指摘がある。しかし、商法がくくり直し

    等に伴う定款変更を株主総会特別決議に係らしめているのは、これらが会社の組織

    運営の基本事項の変更となり、株主にとって影響が大きいことによるものである。

    そのため、これら株主総会の専決事項を取締役会決議に委ねるのは困難であるとの

    見方が強いところである。                                                  

      したがって、株主権の保護を図りつつ、機動的な投資単位引下げを図る方策を導

    入することが必要である。そのような方策として、現行商法においても条件付きの

    株主総会決議が有効であるとされていることにかんがみ、例えば、株価がある具体

    的水準に達すればくくり直しを行うとの条件付きの定款変更を株主総会特別決議と

    して実施するなどの方法が考えられる。                                      

                                                                              

 (3)  配当課税の在り方                                                        

      株式の個人に対する配当については、法人段階で法人税が課税されることに加え、

    個人段階で所得税が課税されることに対して、法人税と所得税の間で調整を行う必

    要があるとの考え方がある。この点について、我が国税制では、現在個人段階で配

    当税額控除方式により部分的な調整が図られている。                          

      国際的には、米国においては調整が行われていないが、英国、フランス、ドイツ

    ではインピュテーション方式により我が国に比べて充実した調整が行われている。

    この点に関して、米国においては、我が国に比べて国、地方合わせた法人課税の税

    率が低く、所得税の累進度が緩やかであるという点にも留意すべきであるとの指摘

    があった。株式の配当面での魅力の向上を図る観点からは、配当所得に係る法人税

    と所得税の間の調整を一層充実させることが適当であるとの意見があった。      

      また、預金等の利子については国税、地方税合わせて20%の源泉分離課税が行わ

    れているのに対して、株式の配当については原則として総合課税により所得税が課

    税されている。このような金融商品間の課税方法の違いが、税制面で預金に比べて

    株式を相対的に不利なものとし、個人の金融資産選択に影響を与えており、様々な

    金融商品に対して課税が中立的に行われることが基本的に望ましいとの意見があっ

    た。                                                                      

      他方、従来から、配当に対する法人税、所得税の課税の在り方については、我が

    国の法人企業がどのような存在であるのかといった角度から、様々な議論が行われ

    てきている。配当課税の在り方を検討するに当たっては、株主を意識した企業経営、

    株主に対する利益の還元、企業による株式の持合い等の問題と併せて考えていく必

    要があるとの指摘がある。                                                  

      上記のような問題は、我が国市場において株式の魅力を向上させていく観点から

    重要な課題であり、総合部会において議論が深められているところである。今後、

    我が国市場において株式の魅力を高めていくため、株主を重視した経営など企業の

    側の様々な取り組みが行われることを期待する。これとともに、税制面においても

    配当課税の在り方について、株式の魅力の向上、金融商品間の中立的な課税の確保

    といった観点も踏まえた検討が行われることを要請する。                      

                                                                              

7.情報提供の充実


 (1)  投資家が、めまぐるしく変化する投資環境の中で、的確な投資情報を入手し、極

    めて数多くの投資対象銘柄から実際に投資する対象を選択することは容易ではない。

    多様化する投資家ニーズに応え、また、個人投資家を呼び起こしていくためには、

    企業側の能動的な情報提供も必要である。こうした情報提供は、増資や公開時だけ

    でなく、継続的に行ってこそ、投資家の信頼を得られるものである。企業が自己の

    営業活動等について幅広く投資家に伝え理解を深めてもらう企業の自主的なディス

    クロージャー活動であるIR(インベスター・リレーションス)は、証券取引法等

    に基づく制度上のディスクロージャーの整備やアナリスト等の役割を補完していくこ

    とによって、適正な株価形成や個人投資家の裾野を広げることにも役立つものと考

    えられる。                                                                

                                                                              

 (2)  こうした企業のIR活動を促進するための環境整備としては、まず、IRの普及

    ・啓蒙活動がある。これについては、例えば、93年にIR協議会が設立され、I

    R優良企業に対し表彰制度を設けたり、実務者向けの手引き書を作成するなどの啓

    蒙活動が行われている。                                                    

      しかしながら、IR活動の普及に当たっては、企業経営者の意識改革が極めて重

    要である。企業の経営者にあっても、IR活動の重要な意義を認識し、積極的に対

    応していくことが強く求められている。                                      

      具体的には、IRの為の社内体制の整備、様々な情報媒体を利用した情報伝達、

    個人投資家向けの会社説明会の開催などの取り組みが考えられよう。            

                                                                            

 (3)  また、投資判断の基礎資料である企業の会社情報が適時、適切、公平に開示され

    ることは重要であり、タイムリー・ディスクロージャーの役割は大きいと考えられ

    る。さらに、こうしたタイムリー・ディスクロージャーは、より多くの内部情報を

    適時に公開させることによって証券価格がより適切に情報を反映することを可能と

    するという意味において、市場の効率化にも資すると期待される。このような観点

    から、我が国においては、証券取引所及び証券業協会によって、会社情報の適時開

    示が要請されている。                                                      

                                                                              

 (4)  適時に開示された情報が、個人投資家にとっても直接、容易に入手できることが、

    開示情報へのアクセスの公平性を確保し、より効率的な価格形成を図っていく上で

    重要である。したがって、情報の開示を様々な情報媒体を利用して行うことなどを

    通し、個人投資家の情報へのアクセスを改善していくことは、望ましい方向と考え

    られる。                                                                  

      こうした観点からは、インターネットを利用して会社自身が投資家に向けて情報

    を開示することは、有益なことと考えられる。しかしながら、他方で、こうしたイ

    ンターネットを利用した情報の開示については、インサイダー取引規制との関係で

    問題があり、会社がインターネット上でタイムリー・ディスクロージャーを行う妨

    げになっているとの指摘がある。即ち、インターネットを介して情報を得た者は、

    現行の証券取引法においてはインサイダー取引規制における第一次情報受領者とさ

    れてしまうため、新聞社、通信社など2以上の報道機関に対して情報を公開してか

    ら12時間を経過するまでは、取引を控えることが求められる。                  

      しかしながら、情報サービス会社の情報端末等を介して会社が公開した重要事実

    に関する情報を入手した者が、直ちに投資行動に移ってもインサイダー取引規制に

    は触れないが、上記のようにインターネットを介して情報を入手した者は12時間

    待機しなければならないというのは、不合理であると考えられる。したがって、イ

    ンターネットにより不特定多数を対象として提供された情報を入手した者が、イン

    サイダー(第一次情報受領者)とみなされないように手当てすることによって、イ

    ンターネットを利用したタイムリー・ディスクロージャーを促進していくことが適

    当である。                                                                

                                                                              

8.証券取引に対する課税の在り方(商品供給コストの削減等)


 (1)  我が国においては、株式、債券といった有価証券の取引に対して有価証券取引税

    が課税されているほか、証券取引所における先物・オプション取引に対して取引所

    税が課税されている。                                                      

 (2)  取引課税が証券市場に与えている影響等                                    

    ○  有価証券取引税については、                                            

      イ.証券取引のコストを引き上げ、投資家の投資行動に影響を与える面がある。

      ロ.また、証券会社等の自己売買は、市場において投資家の注文のみでは取引が

        成立しにくい場合に流動性を供給する役割を果たしている。証券会社等の自己

        売買に対する有価証券取引税は一般の税率に比べて低い税率ではあるものの、

        こうした機能を阻害する面がある。                                      

      ハ.短期国債等を除き、債券に対しても課税されているため、短期国債等以外の

        債券を使った現先取引が低調である。                                    

    ○  取引所税については、                                                    

      イ.デリバティブ取引はリスク・ヘッジ手段として活用され、現物市場の発展に

        も貢献するほか、新たな資産運用ニーズに応える取引であり、我が国デリバテ

        ィブ市場の一層の整備を図る必要がある。このため、取引コストの軽減が必要

        である。                                                              

      ロ.リスク・ヘッジ取引はコストに敏感であると考えられるほか、デリバティブ

        取引の多くは原資産の移転を伴わない取引であり、取引の流出が生じやすい面

        がある。他方、取引所税は先物取引等の国際性にも配慮して軽微な負担水準と

        されているとの指摘もあった。                                          

      ハ.店頭デリバティブ取引が導入されると、取引所内のデリバティブと税制面で

        の取扱いが異なることが問題となりうる。                                

                                                                                

 (3)  取引課税に係る国際的な状況                                                

    ○  我が国の有価証券取引税は、株式のほか、債券、証券会社の取引についても低

      い税率ではあるものの課税されている。これに対して、米国には取引課税は存在

      しない。また、英国には印紙税、印紙補完税が存在するものの、普通債券、証券

      会社の取引のうちマーケット・メイクに係るものについては非課税であるほか、

      ロンドン市場の外国株取引の大部分については課税されていない。            

    ○  先物・オプション取引に対する取引所税のような課税は、主要国にはほとんど

      例をみない。他方、デリバティブ取引は世界的にも新しい分野であり、これに対

      する課税の在り方には種々議論があるとの指摘もあった。                    

                                                                              

 (4)  他方、情報・通信技術の発達などにより、国境を越えた金融・証券取引が活発に

    行われ、現在、我が国市場は世界の主要な市場との厳しい市場間競争に直面してい

    る。さらに、今後改正外為法が施行されれば、内外の金融・証券市場は一体となり、

    国際的な市場間競争がますます厳しくなることが予想される。                  

                                                                                

 (5)  取引課税が証券市場に与えている様々な影響、国際的な市場間競争など、上記の

    ような諸点を踏まえれば、我が国市場における取引コストを軽減し、市場の効率化

    を図ることは喫緊の課題である。取引コストを軽減する観点からは、株式委託手数

    料など各種手数料について自由化を図るべきであるが、同時に、有価証券取引税、

    取引所税といった取引課税については、廃止も含め、その在り方を見直すべく早急

    に検討が行われることを要請する。                                          

                                                                              

 (6)  他方、証券税制については、取引課税のほか、キャピタル・ゲイン課税など様々

    な税制が組み合わされており、取引課税とともに、キャピタル・ゲイン課税につい

    ても、その適正化の観点から見直す必要があるのではないかとの意見がある。    

      こうした意見も踏まえつつ、キャピタル・ゲイン課税の在り方についても、以下

    のような議論が行われた。                                                  

    イ.キャピタル・ゲイン課税の見直しを、単に有価証券取引税などの取引課税の見

      直しによる減収分を補うとの考え方で行うとすれば問題である。取引課税ととも

      に、キャピタル・ゲイン課税についても検討を行うのであれば、我が国証券市場

      の将来像を展望しながら、公平等の課税の原則をも踏まえつつ、これがどうある

      べきかといった観点から考えるべきであろう。                              

    ロ.また、その検討に当たっては、利子所得に対する課税との中立性を確保すると

      の観点、リスク・マネーの供給促進、産業の育成の観点も必要ではないかとの意

      見があった。                                                            




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