証券取引審議会総合部会

市場仲介者ワーキング・パーティー報告書

「顧客ニーズに対応した多様な投資サービス」


                                                                          

平成9年5月16日                                                        

主査    神田  秀樹                                                        

                                                                          

目   次

1.総論

2.手数料自由化

3.証券会社の業務の多角化

4.持株会社の活用

5.資産運用業(投資顧問、投資信託)の強化

6.格付機関、アナリスト、評価機関、ファイナンシャル・プラナー

7.証券会社の健全性のチェックの充実

8.仲介業者の参入・退出のあり方の見直し

9.破綻処理制度等の整備


1.総論


 (1)  21世紀の証券市場は、投資家の資産運用の場として、また、企業の最適な財務

    構成を構築するための資金調達の場として、これまで以上に有効に機能することを

    求められる。そのためには、証券会社を始めとする市場仲介者の役割は、質的に変

    化していかなければならない。証券会社は、ブローカレッジ(取次)業務を基本と

    しつつも、幅広い資産運用サービスを充実させることによって、顧客ニーズに応じ

    た高度な投資サービスを提供することを求められる。このように顧客の多様なニー

    ズに応えるためには、証券会社の業務の多角化・差別化を可能とする枠組みを作り

    だすことが必要となる。また、新規参入の増加は、証券会社間の市場原理に基づく

    競争を促進し、サービスの向上、コストの低下等をもたらすため、投資家や資金調

    達者にとって望ましいものである。なお、投資信託業務、投資顧問業務においても、

    グローバル化、投資家ニーズの多様化等に対応した健全かつ効率的な運用を可能と

    するための制度整備を図る必要がある。                                    

                                                                            

 (2)  一方、仲介者は、市場の重要な参加者であると同時に、投資家の証券市場へのア

    クセスの担い手としての役割を担っている。行政としても、このような証券市場に

    おける仲介者の性格に応じた対応を行うことが必要である。従って、証券市場にお

    ける制度的な安定性の維持や信頼の確保のためには、証券会社について、健全性の

    チェックの充実、破綻処理手続等のルールの明確化や利益相反の防止、適合性原則

    の遵守等の確保が必要となる。今後の行政は、明確なルールの厳正かつ機動的な運

    用により、市場機能を適正に発揮させることに主眼を置くこととなる。        

                                                                            

2.手数料自由化


 (1)  自由化の進展                                                            

    ○  我が国の株式委託手数料は、証券取引法に基づき、証券取引所の受託契約準則で

      定められた固定手数料体系がとられてきている。                            

                                                                            

    ○  手数料率の水準は、昭和60年以降平成2年までの間に、国際水準の動向をも勘案

      し4回にわたり引下げが行われた。その後、平成4年1月の証券取引審議会報告に

      おいて、「我が国証券市場の健全な発展を図る見地から、基本的に手数料の固定制

      について見直しを行うことが必要である」として、手数料自由化の方向が打ち出さ

      れたところである。しかし、「その実施にあたっては、まず、比較的問題の少ない

      と思われる大口取引に係る手数料について自由化を図る」こととされ、6年4月よ

      り売買代金が10億円を超える取引部分の手数料についてのみ自由化されている。  

                                                                            

 (2)  基本的な考え方                                                          

    ○  証券市場の効率化及び利用者の利便性向上を図るため、市場仲介者には、資産運

      用サービスをはじめとする多様なサービスの提供が求められている。我が国におい

      て、このようなサービスの多様化を実現するとともに、取引コストの軽減を図るた

      めには、売買代金10億円以下の取引部分の手数料についても、固定手数料制を早急

      に改めていく必要がある。                                                  

                                                                            

    ○  国際的にみても、米国、英国をはじめ主要な市場において、手数料は既に自由化

      されている。我が国証券市場をニューヨーク、ロンドンと並ぶ国際金融センターと

      して整備していくためには、国際的整合性の観点からも、手数料の自由化をできる

      限り早く推進していく必要がある。                                        

        特に、外国為替及び外国貿易管理法の改正により、平成10年4月には、資本取

      引等の面で内外市場の一体化が図られることとなる。我が国証券市場を国際的に見

      て利用者にとって魅力あるものとしていくためには、手数料のあり方についても、

      このような動きを踏まえ適切に対応していく必要がある。                    

                                                                            

    ○  一方、手数料の自由化を進めていく場合、投資家、証券会社をはじめ証券市場に

      重大な影響を及ぼす可能性が指摘されており、以下の点について留意が必要である。  

      ア.第一に、証券会社への影響である。中小証券会社がその収入の6~7割を委託

        手数料に依存していることに典型的に示されるように、手数料の更なる自由化は、

        固定手数料制を前提としてきた証券会社の経営に大きな影響を及ぼす可能性が高

        い。手数料の自由化を進めるにあたっては、証券会社の経営の自由度を高めてい

        く必要がある。                                                        

      イ.第二に、投資家への影響である。固定手数料制は、投資家に対し不当な手数料

        が徴求されることを防止してきた側面がある。手数料の自由化によって、投資家

        が不当に高い手数料を徴求されることがないよう、仲介者の自由な参入・退出が

        行われるなど競争的な環境が整備されていることが望ましい。              

      ウ.なお、手数料の自由化によって、個人投資家を中心とした小口取引にかかる手

        数料率が上昇するか否かは必ずしも明らかでない。仮に上昇することとなった場

        合であっても、証券会社が提供するサービスの多様化等により、個人投資家も選

        択の自由度の拡大等によるメリットが享受できるようなものにしていく必要があ

        る。                                                                  

                                                                            

    ○  以上を踏まえると、手数料自由化の推進は、証券市場改革全体の幅広い枠組みの

      中で検討される必要があり、その実現のためには証券会社の経営のあり方を含め様

      々な面での環境整備を図っていく必要がある。                              

        例えば、証券業務の自由化・多角化を促進し、顧客に対する新たな資産運用サー

      ビスの提供を可能とする必要がある。また、ディーリング(売買)業務をブローカ

      レッジ業務の補完としている位置づけも見直すべきである。これらにより、証券会

      社が委託手数料に依存した経営から資産運用サービスを中心にしたものへ移行する

      ことを可能にする必要がある。さらに、取引所集中義務のように証券会社の取引の

      執行を行う場を制約している規制についても、その撤廃を含め、抜本的に見直して

      いく必要がある。その他、取引コストの軽減を通じた市場の効率化という観点から

      は、有価証券取引税についても、その在り方の見直しが検討されるべきである。  

        仮に、手数料自由化のみを先行して実施することとなれば、証券会社は収入確保

      のため、いたずらに取引量の拡大のみを目指した営業姿勢をとることとなりかねな

      い。このことは、必ずしも我が国市場の効率化に資するものとはならない。    

                                                                            

 (3)  今後のスケジュール                                                      

    ○  今回の証券市場改革にとって、手数料自由化は大きな柱となるべきものである。

      証券市場の効率化・機能向上を図る観点から、売買代金10億円以下の取引部分に係

      る手数料についても、その完全自由化を2001年を待たずに、できる限り早期に

      実現する必要がある。                                                    

                                                                            

    ○  しかしながら、手数料の自由化の推進にあたっては、前述のとおり、様々な面で

      環境整備を図っていく必要がある。従って、完全自由化を実施する前段階として、

      98年(平成10年)4月に、自由化により直ちに手数料負担の面でメリットを享

      受することが明らかであり、かつ、自由化なかりせば国際的に取引がシフトする惧

      れがある取引を念頭に置き、自由化を進めることが適当である。その水準としては、

      売買代金が1億円を超えるものを想定すべきであるとの意見もあるものの、国際的

      な競争にさらされる取引の水準としては、1億円よりも更に低い水準を想定するこ

      とが適当である。                                                        

                                                                            

    ○  なお、株式委託手数料以外の手数料でこれまでのところ自由化されていないもの

      についても、同様の考え方により、早急に完全自由化が図られるべきである。  

                                                                            

 (4)  その他                                                                  

      手数料自由化後の手数料率設定方法については、証券取引法上の損失補てん禁止規

    定との関係を整理しておく必要がある。証券取引法第50条の3は、証券会社が顧客

    に対し、「損失の全部又は一部を補てん・・・するため、当該顧客・・・に対し、財

    産上の利益を提供」することを禁止している。しかし、特定の顧客に対して手数料を

    割り引いた場合であっても、単に他の顧客よりも手数料が低いということが問題とさ

    れてはならない。                                                          

      他方、平成5年3月の証券取引審議会報告が指摘したように、証券会社が同様の取

    引を行う他の顧客に対する手数料率等と比較して、社会通念上、不当に手数料を安く

    することによる財産上の利益の提供によって顧客の損失を埋め合わせようとした場合

    には、損失補てんに当たることに留意する必要がある。この点について、各証券会社

    は手数料の料率表や割引ルールを社内規則として整備することを求められてくるとの

    指摘もあった。いずれにせよ、損失補てん罪に当たるか否かの具体的な判断は、個別

    のケースに基づき行わざるえないが、損失補てん禁止規定の存在が手数料自由化によ

    る市場の効率化を阻害するものであってはならないことは言うまでもない。      

                                                                              

3.証券会社の業務の多角化


 (1)  基本的な考え方                                                          

    ○  証券市場の活性化のためには、証券会社が、投資家や資金調達者と証券市場とを

      結び付ける機能を十分に発揮し、市場参加者が利用しやすい市場を作ることが必要

      である。そのためには、証券会社が、自主的な創意に基づいて業務の多角化を図り、

      顧客ニーズに応じた多様な商品・サービスを提供できなければならない。業務の多

      角化は、証券会社の収益源の多様化につながるとともに、我が国証券会社ひいては

      証券市場の国際競争力を保持していくことを可能とする。                    

                                                                            

    ○  このような観点から、今後は、証券会社の業務に関する制限を可能な限りなくし、

      自由な業務活動を可能とすべきである。一方、証券会社の市場仲介者としての性格

      を考えると、仲介者の事情により投資家が不測の損害を被ることを最小限にするた

      めの枠組みが必要である。このため、証券会社の健全性チェックの充実、利益相反

      の防止や行為規制の強化等の事後的な監視・監督について、投資家保護に配慮した

      適切な手当てが必要である。                                              

                                                                            

 (2)  証券業務の充実                                                          

    ○  証券業務は、証券取引法第2条第8項に定義されており、同法第28条で、ディ

      ーリング(売買)、ブローカレッジ(取次)、アンダーライティング(引受)、セ

      リング(売出し)の4種類の免許が規定されている。これらは証券市場における取

      引の基本的な形態であり、今後も証券会社の業務の根幹となるものである。証券会

      社が業務を多角化し、証券業務以外の業務を行っていく中にあっても、証券業務の

      充実が第一義的に求められる。                                            

                                                                            

    ○  手数料の自由化等の証券市場における自由化に伴い、現在、ブローカレッジ業務

      として提供されている取引執行、情報提供等の各種サービスの多様化が進む。その

      結果、純粋な取引執行サービスとしてのブローカレッジからの収入の減少が予想さ

      れる。証券会社にあっては、顧客ニーズに応じたサービスをどのように選択的に提

      供し、収益を上げていくかということが課題となる。                        

                                                                            

    ○  証券会社の業務展開の方法については、各証券会社が自主的に業務展開の道を探

      っていくこととなる。例えば、ブローカレッジ業務に特化したディスカウント・ブ

      ローカーとしての業務展開を選択する証券会社の出現も予想される。このような自

      主性に基づく業務展開のために、アウトソーシング(業務の外部委託)や自由な店

      舗設置による業務展開の多様化を可能にすることが必要である。              

                                                                            

    ○  また、ブローカレッジ業務の補完として位置づけられてきたディーリング業務を、

      今後は、業務の多角化や市場の厚みを増すという観点から、他の証券業務と並ぶ主

      たる業務の一つとして位置づけることが必要である。但し、ディーリング業務とブ

      ローカレッジ業務やアンダーライティング業務との間には、利益相反や情報の共用

      等の問題点がある。従って、効果ある利益相反防止措置等の整備が必要である。例

      えば、顧客情報を利用したディーリング(フロントランニング)の禁止、担当部門

      の明確な区分(チャイニーズ・ウォール)等のより一層の強化が必要になる。  

                                                                            

    ○  さらに、新規の取引形態の導入は、投資家や資金調達者のニーズに応えることが

      できるだけでなく、証券会社にとっても業務の幅を広げることができるというメリ

      ットがある。このような観点から、個別株式オプション取引の導入や有価証券関連

      店頭デリバティブ取引に関する法令整備等は、証券業務の多様化として歓迎すべき

      ものである。今後、証券会社がこれらの新しい取引を積極的に活用していくことが

      期待される。                                                              

                                                                            

    ○  なお、証券会社の取締役等の兼職の禁止についても、業務の自由な展開を阻害す

      ることのないようにその見直しが必要である。証券会社の取締役と銀行等の金融機

      関の取締役との兼職禁止は弊害防止の観点から存続が適当であるが、その他の兼職

      禁止は原則廃止することが適当である。                                    

                                                                            

 (3)  付随業務の明確化                                                        

      現在、証券会社は、証券業務及び大蔵大臣の承認を得て行う兼業業務以外に、証

    券業務に付随するいわゆる付随業務を行っている。証券会社の付随業務は法令上明

    確でなく、その範囲は相当に制限的なものとなっているため、証券業務に付随する

    業務であっても、兼業業務として行っている例が多い。顧客のための事務代理等の

    付随業務については、その業務に何ら制限を付すことが適当でないため、付随業務

    の概念を明確化した上で、自由に行えるようにすることが必要である。        

                                                                            

 (4)  専業義務の見直し                                                        

    ○  証券会社の専業義務は、証券会社と顧客との利益相反の事前防止、専業による証

      券業務の質の向上を図るために導入されたものと考えられる。しかしながら、各証

      券会社は、創意と工夫に基づく自主的な経営・業務展開を行うことを要求される。

      こうした中で、現状の専業義務・兼業の個別承認制の下では、自主的な業務の発展

      が阻害されかねない。投資家保護は、利益相反の防止、行為規制の強化等の事後的

      な監視・監督によって図られるべきであり、投資家保護を理由に、他業を一般的に

      禁止することは適当でない。                                              

                                                                            

    ○  従って、証券会社の専業制は廃止し、証券会社の業務の内容については、原則と

      して自由に行えるようにすることが必要である。但し、証券会社の投資家と市場と

      を結ぶという性格を考えると、証券会社の全ての業務のリスクが健全性のチェック

      において正確に反映されなければならない。このような観点から、健全性のチェッ

      クを十分に行うことが可能な業務を幅広く法令上規定し、個別承認を不要とするこ

      とが適当である。さらに、法令上個別承認が不要とされる業務以外の業務について

      も、承認を得て行うことができることとする。この場合、リスク算定が困難な業務

      や投資家保護又は公益に反する業務に限り、承認しないことができることとすべき

      である。なお、米国や英国等ではリスク評価が高いために証券会社本体で行われて

      いない業務は、持株会社等を利用して、関連会社で行われている。我が国でも、持

      株会社が認められることとなれば、持株会社を利用してそのような自由な業務展開

      が可能となる。                                                          

                                                                            

    ○  また、証券会社の証券業務以外の業務のリスクを把握するために、証券業務以外

      の業務についても適切な報告義務等を課すことが必要である。さらに、リスクの高

      い業務については、健全性のチェックにおいて、自己資本規制比率の算定を適切な

      リスク評価に基づいて行うことが必要である。                              

                                                                            

 (5)  資産運用サービスの充実                                                  

    ○  今後は、証券会社による投資家の多様な資産運用ニーズにきめ細かく対応したサ

      ービスの提供を可能とするため、証券業務と関連する資産運用サービスの充実が求

      められてくる。米国では、証券会社が投資顧問として登録し、利益相反防止等のル

      ールの下で、自己や外部の顧問サービスを基に、資産残高に対して定率の手数料を

      徴収するラップアカウント方式をはじめとする資産運用サービスを行うことが認め

      られている。                                                            

                                                                            

    ○  このような観点から、今後は、証券会社がブローカー業務に限定されず、多様な

      資産運用サービスを提供できるようにすることが必要である。但し、証券業務と投

      資顧問業務との併営については、投資一任が原則禁止とされた経緯、投資顧問業に

      関する様々なルールや証券業務と投資顧問業務との間の利益相反の規制等を考慮し

      て、利益相反防止規制、チャイニーズ・ウォール規制の明確化の他、ルール違反の

      場合の処分・罰則を充実させることが必要である。一方、資産運用サービスの提供

      には証券業務とは異なる能力や営業姿勢が必要であり、今後も証券会社から独立し

      た投資顧問業者が利用される可能性が高いとの指摘もあった。                

                                                                            

    ○  資産運用サービスの中でも、米国で行われているラップ・アカウント方式の資産

      運用サービスは、証券会社の手数料獲得目的の短期売買の危険が少ないため、投資

      家のメリットが大きい。また、証券会社にとっても、ラップ・アカウント方式の資

      産運用サービスは、営業の多様化につながるというメリットがあり、今後幅広く利

      用されることが期待される。ラップ・アカウント方式の資産運用サービスには、証

      券会社が本体で顧問サービスを行うものと、外部の顧問サービスを利用するものと

      があり、それぞれの方式について、利益相反の防止等のルールを明確にしていくこ

      とが必要である。                                                        

                                                                            

    ○  また、短期の公社債投信を中核として、株式等の購入を行う他、公共料金等の引

      き落とし機能を有するいわゆる証券総合口座は、多様な顧客ニーズに応じたサービ

      スの向上に資するものである。従って、公共料金等の引き落とし機能の銀行法上の

      為替業務との関係を検討、整理した上で、証券総合口座の導入を進めることが適当

      である。また、中核となる公社債投信についても、期待される機能を果たすための

      運用のあり方に関して、一定のルールを設けることが必要である。            

                                                                            

4.持株会社の活用


 (1)  我が国では、これまで純粋持株会社の設立は認められてこなかった。現在、これを

    一定の要件の下に認めることにする方向で、独占禁止法の改正案が国会に提出されて

    いる。                                                                    

      一般的に、持株会社は、                                                  

    ○経営の多角化に有効な枠組みを与え得る、                                  

    ○経営組織・形態について多様な選択肢を与えうる、                          

    ○デリバティブ業務などの高度に専門技術的な業務について、分社化により異なる人

      事・給与体系とすることを可能とする、                                    

    などの効用があると指摘されている。                                        

      また、米国等においては、大手証券会社が持株会社の形態をとっている例が多くみ

    られている。                                                              

                                                                            

 (2)  我が国でも持株会社が認められることとなれば、特に証券市場の仲介者にとっても、

    持株会社を通じた多様な業務展開と経営の効率化が可能となり、ひいては、仲介者が

    創意・工夫を発揮することによって高い付加価値を創造し、顧客の多様なニーズに応

    えることが可能となるなどの大きなメリットがあると考えられる。このことは、我が

    国仲介者の競争力の強化にも資すると考えられる。                            

                                                                            

 (3)  他方、持株会社の枠組みを通じた業務の多角的展開等の結果、利益相反等により顧

    客の利益が損なわれてはならない。また、他の兄弟会社のリスクを被ることにより投

    資家が不測の損害を被ることがあってはならない。                            

      従って、持株会社の下での証券会社等に対して充分な健全性のチェックを行ったり、

    あるいは効果的な利益相反防止の為の方策を手当てすること等が必要である。    

                                                                            

 (4)  関連兄弟会社とのリスク遮断や利益相反等の防止のためには、アームズ・レングズ

    ・ルール(独立企業間ルール)や不公正取引防止ルール、及びファイアー・ウォール

    規制等の整備が必要である。                                                

      なお、証券業と銀行業とではシステミック・リスクに対する対応の仕方が異なると

    考えられる。従って、リスク遮断や利益相反防止等が効果的に担保できるのであれば、

    持株会社の下での証券会社等の規制や監督は、証券会社本体を対象に行うことで充分

    ではないか、とも考えられる。                                              

      しかしながら、仮にそうした場合でも、証券会社本体に対する監督の実効性を担保

    することは必要である。このような観点からの親持株会社及びその下の兄弟会社に対

    する報告徴取や検査のあり方については、充分検討していく必要があろう。      

                                                                            

 (5)  持株会社の枠組みを利用することによって、リスク遮断や利益相反防止等が十分有

    効に担保できるのであれば、兄弟関係にある子会社に対しては、本体では認められて

    いない業種も含め、広く自由に認めても良いのではないか、と考えられる。      

                                                                            

 (6)  なお、上記の諸点については、証券会社を保有する持株会社が同時に銀行を子会社

    として保有する場合には、別の観点からの検討が必要となろう。                

                                                                          

5.資産運用業(投資顧問、投資信託)の強化


 (1)  投資信託に係る運用指図の外部委託                                        

    ○  投資信託における資産運用力の強化という観点から、投資対象のグローバル化、

      運用手法の高度化・多様化に対応した効率的な運用を可能とすべきである。そのた

      め、委託会社が運用に対する責任を負うという証券投資信託制度の基本的な仕組み

      の中で、委託会社が行う信託財産に係る運用指図の一部について外部の資産運用会

      社に委託することを認めることが適当である。                              

                                                                            

    ○  委託会社の業務のうち信託財産に係る運用指図は、委託会社の主要な業務である

      ことから、運用指図を外部に委託する場合であっても、その範囲は信託財産の全て

      ではなく、より効率的な運用を可能とするものとして信託財産の一部とすることが

      考えられる。また、投資家に対する委託会社としての責任を果たす意味からも、委

      託会社は外部委託先の選定やこれに対する継続的な監督等について責任を負うこと、

      外部委託先における法令の遵守等を担保する仕組みが整備されていることが必要で

      ある。加えて、外部委託を行う投資信託については、信託約款において、外部委託

      先や委託の範囲等を明確にしておくことも必要と考えられる。                

                                                                            

    ○  委託会社が行う運用の外部委託については、現行制度上必ずしも否定されるもの

      とは考えられない。しかしながら、証券投資信託制度の基本的な仕組みに関連する

      ことを踏まえ、こうした責任の明確化や外部委託を行うに際しての取扱い上のルー

      ルについて、法令上整備を図った上で実施することが望まれる。              

                                                                            

 (2)  私募投資信託                                                            

    ○  投資信託は、個人投資家を中心とする不特定かつ多数の投資家に簡便かつ効率的

      な資産運用手段を提供するという基本的な性格があり、個人投資家の証券投資によ

      る資産運用という意味では、その中核的な役割を果たしていくことが期待される。

      こうした投資信託の機能は引き続き重要であるが、他方、投資家の多様な資産運用

      ニーズに応えていく観点から、一定の限られた投資家を対象とする投資信託(いわ

      ゆる私募投資信託)をわが国に導入することは意義があるものと考える。      

                                                                            

    ○  こうした、私募投資信託については、一定の限られた投資家向けであっても、受

      益者に対する忠実な運用、投資信託としての公正取引ルールが適用される必要があ

      る。このような観点から、私募投資信託を証券投資信託法に明示的に位置づけ、制

      度化することが適当と考えられる。                                        

                                                                            

    ○  但し、私募投資信託の性格に着目すれば、運用規制やディスクロージャー等の面

      においては、現行法に基づく各種ルールをそのまま適用することまでを求める必要

      性は必ずしもない。また、こうした業務を行うことについては、より広く適格性を

      有する者に認められるべきものと考えられる。従って、現行投資信託制度や関連諸

      法制との関係を踏まえ、私募投資信託固有に適用されるべきルールの整備を行う必

      要があるものと考える。                                                  

                                                                            

 (3)  未登録・未上場株式の投資信託への組入れ                                  

    ○  未登録・未上場株式の投資信託への組入れについては、新規産業への資金供給の

      可能性や投資信託を通じた資産運用におけるリスク・リターンの選択の幅を拡大す

      る観点からも、これを全く認めないということは適当ではない。むしろ個人投資家

      のための投資代行手段として、ファンド全体の流動性や分散投資に配慮した運用が

      行われることが望まれる。特に受益者の解約が行われることを考えれば、ファンド

      資産の流動性を確保する必要があるほか、組入れ資産の適正な評価を行い得ること

      が前提となる。                                                          

                                                                            

    ○  こうした点に鑑みれば、未登録・未上場株式等の投資信託への組入れは、流動性

      の乏しい投資対象として信託財産の一定の範囲内で行われることが適当である。ま

      た、組入れ資産の適正な評価といった問題については、未登録・未上場株式に係る

      流通市場の整備状況を参考にすることが考えられる。組入れ対象となり得る銘柄に

      ついては、例えば、市場での気配値の把握ができるものであることや一定のルール

      に従い、会社の財務内容が的確かつ継続的に把握でき、その評価方法が適正に行え

      る方策が講じられていること等が求められよう。                            

                                                                            

 (4)  投資信託の販売チャンネルの拡充                                          

      投資家の利便性の向上や、新たな投資家層の拡大を通じた証券市場の活性化の観

    点から、投資信託の販売チャンネルの拡充を図ることが必要であり、これを通じて

    一層の競争促進が期待される。新たな販売チャンネルとしては、銀行等の金融機関

    による投資信託の販売を導入することが考えられる。この場合、顧客の誤認や利益

    相反の可能性等を防止するための十分な措置を講じる必要がある。また、適正な販

    売を確保する観点から、証券取引法上の規制や販売員の資格制度等が適用されるべ

    きである。このほか、委託会社による直接販売は引き続きその充実が期待される。

    こうした観点から、銀行等の金融機関自身による販売に加え、銀行の委託会社への

    店舗貸しによる直接販売も考えられよう。                                  

                                                                            

 (5)  投資一任業務における投資対象                                            

      投資一任業務における投資対象については、投資家の多様なニーズに応える観点

    から、これを拡大することはできないかとの意見もある。これについては、証券投

    資顧問業における投資対象に係る専門性や投資家保護を確保する必要があることか

    ら、引き続き有価証券に係る投資顧問業務を基本とすることが適当である。今後、

    投資対象拡大についての具体的なニーズが出てきた場合には、投資家保護に支障を

    生ずることがないか、あるいは証券投資顧問業務との関連性、専門性があるか等を

    勘案しつつ、兼業による対応も含め、個々のケースに即して適切な対応が求められ

    る。                                                                    

                                                                            

6.格付機関、アナリスト、評価機関、ファイナンシャル・プラナー


 (1)  基本的な考え方                                                          

    ○  投資家が自己責任原則に基づき適切な投資判断を行うに当たっては、投資判断の

      ベースとなる情報が十分に提供されることが重要である。こうした点で、発行企業

      によるディスクロージャー情報が重要であることは当然である。しかしながら、こ

      うした生の情報は、一般の投資家にとっては、しばしば、分析が困難であったり、

      また、入手するコストや利便性の点で問題があるとの指摘も見られる。リスクとリ

      ターンを個人を含めた投資家に分かりやすいものとするという意味で、格付機関、

      アナリスト、評価機関、ファイナンシャル・プラナーの役割は極めて大きいと考え

      られる。                                                                

                                                                              

    ○  こうした形での投資家への情報提供の拡充は、投資家の裾野を広げ、公正な価格

      形成を促すとともに、資金利用・投資効率を高めることにも資するという点で、我

      が国市場をニューヨーク、ロンドンと並ぶ国際市場とする上での重要な市場のイン

      フラの一部であるとも位置づけることができよう。                          

                                                                            

 (2)  格付機関の充実                                                          

    ○  債券の格付は、簡単な記号を用いて投資対象に関する評価を分かりやすく投資家

      に提供するものであり、これを利用することにより、投資家は多岐にわたる情報の

      総合的評価を簡便な形で入手することができる。今後、証券取引における自己責任

      原則が徹底されていく中で、自らの危険負担の下で投資判断を求められる投資家に

      とって、こうした簡便な形の格付情報はますます重要なものになっていくと考えら

      れる。                                                                  

                                                                            

    ○  格付及び格付機関をいかに受容していくかは市場が判断する事柄であり、その判

      断によって格付機関は淘汰されることになる。したがって、格付機関がその機能を

      果していくには、市場に受け入れられるだけの格付の信頼性、公正性を確保するこ

      とが不可欠である。そのためには、格付機関自らが的確な情報分析・評価能力を有

      し、適切な情報提供を行うとともに、その業務運営に当たっては格付対象会社等か

      らの十分な独立性・中立性を維持することが重要になる。                    

                                                                            

    ○  格付の母国である米国の格付機関は、大恐慌等の歴史的試練を経て証券市場から

      の信頼を勝ち得、安定した経営の下でその業務の独立性・中立性を維持することに

      成功しているといわれている。歴史の浅い我が国の格付機関についても、経営基盤

      の強化等その努力に待つところが少なくなく、また、市場関係者が格付の機能と重

      要性を正確に認識し、これを積極的に活用していくことが併せて期待される。  

                                                                            

 (3)  投資信託のパフォーマンス(運用成績)評価の充実                          

    ○  投資信託のパフォーマンス評価についても、その充実は、自己責任原則に基づく

      投資信託の購入に資することとなる。さらには、我が国ファンド・マネージャーの

      運用努力を促し、また、販売会社にとっては、有力な販売資料となることが期待さ

      れる。これらにより、パフォーマンスの良否に基づいた投資家の選択、真のパフォ

      ーマンス競争がより一層進むことが期待される。                            

                                                                            

    ○  米国においては、複数の民間評価機関により、様々な形でパフォーマンス評価が

      行われている。これに対して、我が国では、こうしたサービスの採算性等の問題も

      あり、第三者的なパフォーマンス評価機関が発達していない状況にある。こうした

      中で、本年4月より、証券投資信託協会はデータ提供を希望する評価機関に対しパ

      フォーマンス評価のための基礎的なデータの提供を行う体制を整えている。このこ

      とが、我が国におけるパフォーマンス評価機関の発達の契機となることを期待した

      い。                                                                    

                                                                            

 (4)  アナリスト、ファイナンシャル・プラナーの役割の強化                      

    ○  投資家に対して専門的立場から投資情報を分かりやすく分析したアナリスト情報

      も重要である。産業・企業分析と有価証券投資について十分に訓練され、知識を持

      った多数のアナリストが、常時ファンダメンタルズに基づいて有利な投資機会を追

      うことが期待される。その上で、アナリストは、有価証券がその期待リターンとリ

      スクに見合った適正な評価を受けているかどうかを判断して、客観的かつ合理的で

      わかりやすい投資情報の提供を行うことが期待されている。                  

                                                                            

    ○  更に、米国では、投資・保険・税務等幅広い金融情報サービスや財務コンサルテ

      ィングを行うファイナンシャル・プラナーが発達している。今後、手数料の自由化

      などにより仲介業者の差別化が進み、ディスカウント・ブローカーなどが我が国に

      おいても出現することになることが予想される。このような中で、ファイナンシャ

      ル・プラナーに対する需要と期待される役割が一層大きくなっていく可能性も考え

      られる。                                                                

                                                                            

    ○  こうしたアナリストやファイナンシャル・プラナーが我が国において広く社会的

      に認知され、その期待される役割を果たすためには、専門性と独立性を一層高めて

      いくことが必要である。こうした観点からは、資格制度がその専門性と独立性を高

      めていく上で、大きな役割を果たしていくことが期待される。また、資格制度が公

      益的な性格を有する法人により運営されることは、その制度の専門性と独立性を高

      めることに資するものと考える。                                          

                                                                            

7.証券会社の健全性のチェックの充実


 (1)  基本的な考え方                                                          

    ○  証券市場においては、投資家は証券市場にアクセスするために証券会社を仲介者

      として利用しなければならない。証券市場のこのような性格を考えると、仲介者で

      ある証券会社が突然破綻することによって、投資家に多大な損害が生じた場合には、

      証券市場自体に対する信頼を失わせる可能性がある。また、顧客に損害を与えかね

      ない状態にある証券会社が営業を継続することには問題がある。従って、証券会社

      の健全性をチェックし、健全性が損なわれた場合には、その是正を促し、是正され

      ない場合には、証券業から退出させることが必要である。                    

                                                                            

    ○  なお、証券会社の取扱う金融商品・取引の高度化に伴い、証券会社自体が的確な

      リスク管理を責任を持って行うことの重要性が高まっていることは言うまでもない。

      証券会社にあっては、リスク管理部門を強化するだけでなく、自社の抱えているリ

      スクを常時把握できる体制を整えることを求められる。                      

                                                                            

 (2)  早期是正的措置の一層の充実                                              

    ○  証券会社の健全性をチェックするための指標として、現在では、自己資本規制比

      率が中心的な役割を果たしている。指標としての客観性・合理性から、今後も、原

      則として自己資本規制比率が健全性チェックのための主たる指標として用いられる

      ことが適当である。その際、証券会社が破綻する前に早期是正措置的な対応を行う

      ルールの一層の明確化を検討することが必要である。                        

                                                                            

    ○  また、証券会社の退出については、今後、行政の裁量権をできるかぎり少なくし

      ていくことが必要である。一方、客観的指標のみに基づき退出を強制することが適

      当でない場合もあることから、退出の枠組みにはある程度の裁量の範囲も必要であ

      る。その中にあっても、基本的には、証券会社の退出は、ディスクロージャー等に

      基づき市場が選択することによって図られることが望ましいと考えられる。従って、

      そのための方策として、例えば、自己資本規制比率が一定値(是正を求めるべき水

      準)以下となった場合には、証券会社がその事実を公表し、当局は改善命令を行う

      ということも検討されるべきである。但し、現実に証券会社が債務超過に陥ってい

      る場合や自己資本規制比率が必要値を一定期間以上下回っている場合等、投資家に

      損害が及ぶ可能性が高い場合には、当局のイニシアティブにより、適切な退出を図

      るために制度を整備することが必要である。                                

                                                                            

 (3)  自己資本規制比率の見直し                                                

    ○  現行の自己資本規制比率が実際のリスクをより的確に反映するように見直しを行

      うことが必要である。金融商品のリスク評価を見直すとともに、取引先リスクの算

      定に当たっては貸付金相当額のリスクが適切に反映されなければならない。また、

      ヘッジ取引によるリスクの相殺、デリバティブ等のオフバランス商品のリスク算定

      等の見直しも必要である。                                                

                                                                            

    ○  また、適切な業務運営のためには、証券会社自身のリスク管理も今後ますます重

      要となる。自己のリスク管理の徹底の観点から、市場リスクの算定に関し、証券会

      社の自己のリスク管理モデル(内部リスク管理モデル)の利用を認めることを検討

      することが必要である。但し、監督当局が内部リスク管理モデルをどのように評価

      するのかについては、IOSCO(証券監督者国際機構)でも議論が行われており、

      これらの議論等を踏まえ、更に検討が必要である。                          

                                                                            

    ○  業務範囲の拡大や持株会社の解禁については、これらが自己資本規制比率に基づ

      く規制にどのような影響を与えるか検討することが必要となる。証券会社の健全性

      のチェックを行うためには、証券業務だけでなく全ての業務のリスクが、自己資本

      規制に的確に反映されていなければならない。米国や英国では、貸付金、不動産の

      リスク評価が高く、自己資本規制が業務の制限として機能している場合がある。この

      ような規制は証券会社の健全性のチェックという観点から合理性がある。これらの

      国ではこのようなリスク評価の高い業務は本体以外の関連会社で行われていること

      にも留意することが必要である。                                          

        また、持株会社が解禁された場合でも、証券会社の健全性のチェックは証券会社

      本体だけに対して行うことが適当である。そのためには、証券会社の関連会社に対

      する実質的な与信相当額のリスクを適切に評価すること等によって、証券会社から

      関連会社のリスクを切断することが求められる。                            

                                                                            

 (4)  証券会社のディスクロージャーの充実                                      

    ○  証券会社のディスクロージャーの充実のため、例えば、銀行法第21条と同様に、

      証券会社のディスクロージャーについての規定を設ける必要がある。開示の対象と

      なる項目については、今後、証券会社として何を開示することを求められるかとい

      う観点から、内容を検討していくことが必要である。                        

                                                                            

    ○  また、自己資本規制比率については、数字の一人歩きという危険もあることから、

      常時その変化を開示することは適当でない。しかしながら、ディスクロージャーの

      充実のためには、銀行等の金融機関と同様に、少なくとも年に1回の開示を求める

      必要がある。                                                            

                                                                            

 (5)  取引損失準備金等の準備金の取扱い                                        

        証券会社の損益の平準化等を目的とした取引損失準備金等の準備金は、十分なリ

      スク管理や自己資本規制による健全性のチェックが行われる場合には、自主的な経

      営方針に従った資本の利用を可能とするため、廃止することが適当である。    

        これに対して、証券責任準備金は、証券会社の事故の場合に支払われるものであ

      る。自己資本規制では証券事故の場合の証券会社の訴訟リスク等が反映されていな

      いため、この準備金を積むことに意味があると考えられる。従って、本準備金につ

      いては、存続させていくことが適当である。                                

                                                                            

 (6)  自己資本規制に係る不正行為の取扱い                                      

      証券会社の健全性チェックの指標として自己資本規制の重要性が高まるに伴い、

    自己資本規制比率の算定・報告等が実態を正確に反映することが要求される。自己

    資本規制比率の算定を意図的に歪めた場合には、退出すべき証券会社が業務を続け

    る結果、さらに多くの投資家等に損害を及ぼすこととなる。従って、自己資本規制

    に関する不正行為に対して、厳格な行政処分等に関する規定を設けることが必要で

    ある。                                                                  

                                                                            

8.仲介業者の参入・退出のあり方の見直し


 (1)  基本的な考え方                                                          

    ○  証券会社の免許制は、登録制の下で、資力や人的構成に問題のある会社の廃業等

      により、投資家に被害が生じたことから、昭和43年に導入された。免許制は、投

      資家保護及び証券市場の健全な発展を図ることを目的として導入され、証券不況の

      中で信頼を失いつつあった証券市場の信用の回復に大きな意義があった。現在では、

      平成4年の当審議会報告等を受け、免許制の下で、新規参入や退出が自由に行える

      ような制度の運用を行うこととされている。                                

                                                                            

    ○  しかしながら、国際的にみて効率的かつ競争力のある証券市場を作るためには、

      証券会社等の仲介業者についても、市場原理に基づく競争が重要であり、参入・退

      出をより一層自由化することが必要である。同時に、参入・退出以外の当局の監督

      全般についても、免許制のあり方の見直しを含めて、当局の介入をできる限り少な

      くし、自主的な経営を可能とするために、総合的な見直しを行うことが必要である。  

                                                                            

    ○  今後の行政では、証券会社に対する監督として、一般的な事前予防的監督を行う

      ことは適当でない。証券会社等の自主的な経営を尊重し、ルールに従った活動を原

      則として自由に認めた上で、ルール遵守状況について事後的監督を強化する行政が

      必要である。具体的には、健全性チェックの充実、破綻処理手続等の整備、不公正

      な取引についての行為規制及びこれらを担保するための体制の整備が必要である。  

                                                                            

 (2)  参入の自由化                                                            

    ○  証券業への新規参入はできる限り自由でなければならない。現行の参入規制につ

      いては、そのような観点から抜本的な見直しが必要である。現在の免許基準のうち、

      証券取引法第31条第1項第3号に規定されるいわゆる経済条項は、需給調整的な

      意味合いを持つものであり、削除することが適当である。                    

                                                                            

    ○  一方、市場アクセスのためには証券会社を介さなければならないという証券市場

      の性格を考えると、証券会社は顧客の信頼に応えることのできる一定の質を有する

      ことを求められる。従って、証券会社の新規参入に当たり、一定の人的・財務的基

      準を満たすことを要求することが適当である。但し、このような基準が新規参入を

      妨げる方向で作用することのないような法制度が検討されるべきであることは言う

      までもない。                                                            

                                                                            

    ○  なお、銀行による証券業への参入については、平成5年4月の金融制度改革法施

      行以来、19社が既に参入している。また、制度改革の円滑な実施を図る観点から、

      漸進的・段階的に参入を推進していくこととされ、当初の業務範囲としては、エク

      イティもの(転換社債、ワラント債、ワラント)の流通業務、株価指数先物・株価

      指数オプション取引、及び株の発行流通業務が除かれ、現在に至っている。    

      こうした業務範囲については、3月28日の規制緩和推進計画の再改定において

      見直しが行われ、                                                        

      ア.9年度下期に、新たにエクイティもの(転換社債、ワラント債、ワラント)の

        流通業務、株価指数先物・株価指数オプション取引を解禁する。            

      イ.残余の業務範囲の見直しについても、金融システム改革全体の中で完了させる。

      とされたところである。                                                  

        金融制度改革に基づくこうした参入の目指すものが金融の効率化及び市場の健全

      な発展であることは言うまでもない。                                      

                                                                            

 (3)  退出の自由化                                                            

    ○  現行証券取引法では、証券会社の退出には当局の認可が必要とされている。これ

      は、証券会社が退出するに当たって、投資家に損害が生じないことを当局が確認し

      た上で、問題のない場合に限り退出させる趣旨と考えられる。退出は、本来、証券

      会社の自由な意思に委ねられるべきものであり、顧客に損害が生じる可能性のない

      場合には退出は自由とされることが必要である。                            

                                                                            

     ○  しかしながら、証券会社が顧客に損害を及ぼした状態で当局の監督下から逃れる

      場合には、投資家保護に著しく欠ける可能性が高い。従って、証券会社の退出は原

      則自由としつつも、投資家に損害が及ぶ場合には適切な退出手続を整備し、それに

      従って退出させることが必要である。                                      

                                                                            

 (4)  監督全般のあり方                                                        

    ○  証券会社に対する当局の監督全般についても、一般的な事前予防的監督は最小限

      にしなければならない。このような観点から、業務方法書の変更、店舗の設置等の

      認可制を廃止し、届出制に改めることが適当である。但し、投資家保護という目的

      から、市場競争を阻害しない範囲で存続させることに意義がある監督手続は、必要

      最小限の範囲で存続させることとする。                                    

                                                                            

    ○  しかしながら、このような見直しは、ルールの遵守状況等についての継続的なモ

      ニタリングが十分に行われることを前提としている。従って、参入規制の程度にか

      かわらず、健全性のチェック、業務改善命令、業務停止、取消し等の行政処分、検

      査・監督・監視が実効的に行われなければならない。また、証券会社の業務の多角

      化等に対応して、証券会社の法令違反に対する証券取引法第35条に規定する処分

      として、リスク管理の改善命令等の事例に応じた処分を可能とすべきであると考え

      られる。                                                                

                                                                            

 (5)  免許制と登録制                                                          

      上記のような参入・退出の自由化、監督全般の見直しを前提とした場合に、この

    ような制度を免許制として位置づけるのか、登録制として位置づけるのかという問

    題が残る。この点について、免許制・登録制で実態が変わらないのであれば、幅広

    い担い手が様々な取引を行う自由な証券市場を設けるという観点から登録制の方向

    で考えるべきとの意見が多かった。この場合、仮に参入規制が登録制とされたとし

    ても、財務・業務の健全性についての十分な事後的な監督が行われなければならな

    いことは言うまでもない。                                                

      これに対して、参入規制は実質的な運用が問題であり、運用によって十分な新規

    参入が図れることから、業界としての信用の維持を考慮して免許制を維持すること

    が適当との意見があった。                                                

                                                                            

 (6)  資産運用会社の参入規制                                      

    ○  現行の資産運用会社の参入規制は、証券投資信託の委託会社は免許制、証券投資

      顧問業者については、助言業者は登録制、投資一任業者は認可制となっている。資

      産運用会社の参入規制のあり方についても、競争を一層促進しつつ、必要な投資者

      保護を図るための適格性を確保する観点から、見直しを行なう必要がある。証券投

      資信託の委託会社の免許制等を維持すべきかどうかについては、証券会社に係る参

      入規制についての議論も踏まえ、検討されるべき問題である。                

                                                                            

    ○  資産運用会社の適格性としては、運用能力が重要であることは言うまでもない。

      また、資産運用業という投資家の資産に重大な影響を与える可能性のある業務であ

      ること等を十分に踏まえる必要があり、一定の人的・財務的要件を満たすことが諸

      外国においても基本となっている。こうしたことから例えば、財務・経営の健全性

      が確保されていること、業務の遂行に当たって受益者本位の運用が確保されること

      などが求められるものと考えられる。このような適格性の審査が競争制限的となら

      ないような参入の仕組みとすべきである。同時に、資産運用業務の適正な運営が確

      保されるためのルールや事後的な監督について、整備・充実する方向で検討する必

      要がある。                                                              

                                                                            

    ○  上記のような観点から、証券投資信託法に定める委託会社の参入規制における  

      「証券投資信託及び証券市場の状況に照らし、必要かつ適当なものであること」と

      したいわゆる「経済条項」については、廃止することが適当である。また、委託会

      社の参入の際の具体的な基準におけるいわゆる設立母体概念については、今日では

      実質的な意義を失っている面がある。資産運用分野における専門性等を確保する観

      点から、これに代わる明確な基準を設けるべく、その見直しを行なうことが適当で

      ある。                                                                  

        また、こうした参入規制のほかにも、証券投資信託における投資者保護を図るた

      めの行政の関与の一つとして、証券投資信託約款の承認制度がある。承認手続きの

      一層の簡素化の観点から、一定の同一内容の商品について、包括承認制を導入する

      ことが適当である。更に、本承認制度については、投資家に対するディスクロージ

      ャーを一層徹底する等、所要の制度の整備を行った上で、届出制等に移行すること

      が適当である。                                                          

                                                                            

9.破綻処理制度等の整備


 (1)  基本的な考え方                                                            

      証券会社間の競争が行われる過程で、新たに参入する証券会社が増加すると同時

    に、個別証券会社の中には退出する証券会社の出現も予想される。従って、今後は、

    投資家保護を図りつつ、破綻処理制度等の環境整備を十分に行うことが必要である。

    このような環境整備が不十分なままで自由化が進んだ場合には、投資家保護が図ら

    れないだけでなく、証券市場に対する国民の信頼が大きく損なわれる虞がある。  

                                                                            

 (2)  顧客資産の分別の徹底                                                    

    ○  証券市場の投資家は証券市場にアクセスする際には、市場仲介者である証券会社

      を通じて取引を行うこととなる。投資家は、取引に当たり、現金や有価証券等を証

      券会社に一時的に預けることが通常である。証券会社が破綻した場合に、投資家の

      資産が適切かつ迅速に返還されないこととなれば、投資家に予期せざる損害が生じ

      る可能性がある。従って、証券会社の顧客資産の分別義務の徹底等により、顧客資

      産が顧客に適切に返還されるための制度を整備することが、市場に対する信頼を維

      持する上で不可欠である。                                                

                                                                            

    ○  同様の観点から、米国や英国においては、顧客資産を証券会社の資産から明確に

      分別することを要求している。これらの国では、分別された顧客資産について、証

      券会社破綻の際に、本来の所有者たる顧客に早期に弁済されることを担保する制度

      を設けている。我が国においても、このような法制度を参考にして、証券会社の顧

      客資産の分別を強化するとともに、分別された顧客資産の顧客への的確な返還を担

      保するための制度を早急に整備することが必要となる。                      

                                                                            

    ○  具体的な分別義務の強化の方法としては、顧客の有価証券を証券会社の資産から

      区分して顧客名義での管理を強化することが求められる。さらに、証券会社の破綻

      の際に一般債権として取り扱われる虞の高い預り金、証拠金、保証金等を証券会社

      の資産から明確に分離して証券会社の外部で管理することが必要となる。      

                                                                            

    ○  このように適切に分別した顧客資産については、証券会社の破綻の際に、既存の

      法制度との整合性に留意の上、顧客に返還されることが法制上明確にされることが

      必要である。また、分別管理の重要性に鑑み、分別管理に関する違反行為に対して

      は、厳格な行政処分等を課すことが必要であると考えられる。                

                                                                            

 (3)  顧客資産の返還手続の迅速化                                              

      顧客資産の顧客への返還手続は、現行の破産等の倒産処理手続によった場合には、

    債権者となる関係者の数が膨大であること等により、相当の時間と手間がかかるこ

    とが予想される。顧客資産の顧客への返還が法制上明確になったとしても、返還手

    続に相当の時間を要する場合には、市場価格の変動により顧客が損害を被る可能性

    がある。従って、証券会社の破綻処理の特殊性に鑑み、顧客資産返還のための手続

    規定を整備することが必要である。さらに、このような返還手続の過程で、次項に

    述べる寄託証券補償基金の利用を検討することが必要である。                

                                                                            

 (4)  寄託証券補償基金制度の拡充                                              

    ○  投資家は、証券会社の破綻の際にその証券会社と取引を行っていたことに対して、

      一定の責任を負うべきである。しかしながら、十分な情報を持たない一般投資家が

      常に全ての損害を被るとすれば、証券市場の信用が大きく損なわれる虞がある。従

      って、一般投資家を保護し証券市場の信用を維持するため、金融機関等の一定の投

      資家以外の投資家の損害に対して一定の補償を行う制度を整備することが必要であ

      る。米国や英国を始めとする諸外国においても、同様の観点から証券会社の拠出す

      る基金によって投資者に生じる不測の損害を補償する制度を定めている。      

                                                                            

    ○  我が国においても、このような観点から、自主的な基金である現行の寄託証券補

      償基金を証券取引法上の法人として位置づけ、その制度を整備・拡充することが必

      要である。寄託証券補償基金を証券取引法上の法人として位置づけるにあたっては、

      証券会社破綻の際の投資家への補償及び顧客資産返還手続等を行う機関としての役

      割を明確にすべきである。なお、補償制度においては、寄託証券補償基金の利用を

      分別管理により返還が図られない顧客資産に対する補償に限定し、補償を一定額に

      限定することによってモラル・ハザードを防ぐことが必要である。              

                                                                            

    ○  また、寄託証券補償基金による補償は、米国や英国の制度を参考に、また預金保

      険制度との並びから、例えば、一人当たり1000万円を上限とすることが考えられる。

      この際、前述のように、金融機関等の一定の投資家については、自己責任での対応

      が行われることが要求され、補償の対象とはならないものと考えられる。    


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