証券取引審議会・総合部会最終報告(要約)




                                                                      



                                                                      



I.改革の目的と背景




                                                                      



      1200兆円の個人金融資産のより有利な運用、次代を担う新規産業への



    資金供給、及びグローバルな資金供給という要請に応えていく必要があり、



    このためには、金融システムの機能が適切に発揮されなければならない。  



      中でも、リスク・テイクとリスク分散に優れた証券市場の役割への期待は



    大きい。                                                          



                                                                      



                                                                      



II.改革の基本的方向




                                                                      



  1.漸進的規制緩和から抜本的市場改革へ                              



                                                                      



      海外において活発に取引が行われているが、未だ我が国において導入され



    ていない商品・サービスの導入を図ることは急務であるが、単に海外で開発



    された商品等を後追い的に導入するだけでは、我が国市場をニューヨークや



    ロンドンと並ぶ国際的市場とするという目的は達しがたい。事前的な商品・



    業務規制は極力なくし、多様な創意工夫の発揮を促す枠組みを整備する必要



    がある。                                                          



                                                                      



  2.市場の枠組み整備の重要性                                        



                                                                      



   (1)  公正で信頼感のある市場の整備                                  



                                                                      



      こうした改革にあっては、行政も、事前予防的行政から事後的チェックを



    中心とした行政へ転換する必要がある。そのうえでディスクロージャー及び



    公正取引にかかるルールの整備や監視・処分体制の充実を図るべきである。  



    さらに、民事的な紛争が、信頼できる形で、迅速に解決されることも重要で



    あろう。                                                          



      また、自由な市場では市場参加者自身にも自己規律の精神が求められる。  



                                                                      



   (2)  市場基盤の整備                                                



                                                                      



      行政は、ルール整備と並び、決済システムを始めとした、取引を支える市



    場の制度の整備においても重要な役割を果たさなければならない。また、民



    商法、税法、及び会計等の枠組みも市場のインフラとして重要な役割を担っ



    ている。金融取引については、民商法や税制、会計制度については、いわば



      デファクト・スタンダード(事実上の基準)ともいうべき枠組みが出来上



      がりつつあり、これと大きく乖離した仕組みを持った市場は、市場利用者



      から見放されていくこととなりかねない。                          



                                                                      



                                                                      



III.証券市場改革の進め方




                                                                      



      今回の証券市場改革は、行政手法の改革や市場の制度的基盤の整備などを



    出発点としつつ、市場利用者、仲介者、運営者など市場にかかわる全ての者



    がそれぞれの問題に取組むことを求めた総合的なパッケージとなっている。  



      このパッケージを、報告が示す具体的なスケジュール(別紙)に沿って一



    体的に進めることが重要である。                                    



                                                                      



      また、法改正を要する項目については、今後、証券取引審議会・公正取引



    部会及び市場整備部会(仮称)において、その細目を検討し、できる限り早



    期に改革を実施に移すべきである。                                  



                                                                      



                                                                      



IV.改革の具体的内容




                                                                      



  1.  投資対象(魅力ある投資対象)                                  



                                                                      



   (1)  総論                                                          



                                                                      



        投資家の多様化・複雑化したニーズにこたえられる、多様な投資商品の



      供給が可能な仕組みを構築することが必要である。これは資金調達手段等



      の多様化を通じて企業活力の向上にもつながる。多様な投資対象及び資金



      調達手段が提供される枠組みの整備は、市場活性化の基本的条件である。  



                                                                      



   (2)  多様な商品の提供の枠組み                                      



                                                                      



        海外で普及している商品でも、刑法・商法等の基本法との関係で問題が



      あり、依然として、国内においてその活用が制限されている例も見られる。



        ABS(資産担保型証券)を始めとしたこうした商品については、今後



      必要な法整備等を進めていくべきである。                          



                                                                      



   (3)  デリバティブ商品の多様化                                      



                                                                      



        賭博罪との関係など、法的な整理を行うことにより、証券デリバティブ



      を全面的に解禁し、様々な金融革新が生まれる環境を整備すべきである。  



                                                                      



   (4)  投資信託の整備                                                



                                                                      



        投資信託は、広範な層の投資家が証券市場に参加することを容易にする



      などの点で重要な商品である。投資信託の利便性向上、商品の多様化、販



      売チャンネルの拡充等、その整備を図る必要がある。                



        こうした観点から、証券総合口座の導入、私募投資信託の導入を行うと



      ともに、会社型投資信託の導入についても検討を行うべきである。    



        また、銀行等の金融機関による投資信託の販売を導入することが適当で



      ある。                                                          



                                                                      



   (5)  株式等の魅力の向上                                            



                                                                      



        投資対象の魅力は、究極的には証券の発行体たる企業等にどれだけの魅



      力があるかによって決まる。                                      



        我が国企業については、その低いROE(株主資本利益率)や額面配当



      を始めとする配当政策の面を捉えて、株主を重視した経営が行われていな



      いとしばしば指摘されており、株主をより意識した経営を行うことが求め



      られている。                                                    



        また、今次国会で商法改正等により実現したストック・オプション制度



      や自社株消却のための特例についても、こうした観点から積極的に活用さ



      れていくことが望まれる。                                        



                                                                      



     (6)  有価証券定義の見直し                                        



                                                                      



        提供される商品の種類の拡大に併せ、有価証券定義の見直しを行い、市



      場性のある投資商品を証券取引法による投資家保護の枠組みの中に取り込



      んでいくことが必要である。この場合、仲介者としてどのような主体を認



      め、どのような仲介者規制を課していくかについては、商品ごとに検討し



      ていく必要がある。                                              



        また、今後金融システムの全般的な改革において仲介者や投資商品・  



      サービスの多様化が進んでいく中で、全ての市場参加者に横断的なルール



      を適用する新たな立法(いわゆる金融サービス法)等も視野に入れた検討



      が行われるべきである。                                          



                                                                      



     (7)  証券税制                                                    



                                                                      



        証券取引審議会としては、市場の効率化と市場の国際的競争力の観点か



      らは、有価証券取引税及び取引所税について撤廃の方向での検討を要請す



      る。また、今後、デリバティブなど様々な商品が生まれてくることも踏ま



      えれば、金融商品、金融取引に対する課税の中立性、リスクキャピタル供



      給の重要性等の観点から、利子、配当、キャピタルゲインなど金融商品か



      ら生ずる所得に対する課税のあり方についても検討すべきである。    



                                                                      



                                                                      



  2.市場(信頼できる効率的な取引の枠組み)                          



                                                                      



   (1)  総論                                                          



                                                                      



        公正取引ルールを定めたうえで、できるだけ自由に取引が行えるよう、



      様々な市場間で競争が行われていくような枠組みを整備していく必要があ



      る。                                                            



                                                                      



   (2)  特色ある多様な市場                                            



                                                                      



        投資家の取引ニーズの多様化等に対応する観点から、取引所集中義務の



      撤廃、店頭登録市場の機能の強化、未上場・未登録株の証券会社による取



      扱いの解禁、などを行っていくべきである。                        



        また、市場を巡る基盤の整備として、取引・気配情報へのアクセス改善、



      証券取引・決済制度の整備、貸株市場の整備等を進めていく必要がある。  



                                                                      



   (3)  市場の効率化と株式の持合いの問題                              



                                                                      



        持合いに関する議論で証券市場にとって最も重要な観点は、それが市場



      原理を通じた資源の最適配分と資本の効率的な利用などを阻害していない



      かという点である。その観点からは、持合いによる保有といえども、株主



      として資本のリターンを常に検討し、経営に対するチェック機能を有効に



      働かせることが要請される。                                      



                                                                      



   (4)  個人投資家の主体的な市場参加                                  



                                                                      



        市場機能が十分に活用されていくためには、適合性原則をはじめとした



      仲介者の顧客に対する義務をいささかも軽減するものではないが、個人投



      資家にあっても自らの資産を自らの判断によって主体的に運用していく態



      度の確立が望まれる。                                            



                                                                      



   (5)  公正で透明な市場の枠組み                                      



                                                                      



        今後、新たな商品やサービスが開発・導入され、取引が高度化・複雑化



      していく中にあって、利益相反行為の防止、相場操縦禁止やインサイダー



      取引の禁止等について、関連するルールを拡充していくことが必要である。



        また、証券取引等監視委員会の機能強化を始めとする検査・監視・処分



      体制の充実・強化が要請される。検査・監視当局への虚偽報告等に対する



      罰則強化も検討すべきである。また、紛争処理手続きの整備・拡充も必要  



      である。                                                            



                                                                      



   (6)  ディスクロージャーの充実                                      



                                                                      



        投資対象のリスクとリターンを事前に投資家に十分周知しておくことが



      重要であり、透明で公正なディスクロージャーの整備を進めていくべきで



      ある。                                                          



        具体的には、連結財務諸表制度の見直し、時価基準のあり方を含めた金



      融商品に係る会計基準、企業年金に係る会計基準等の会計制度の見直し、



      公認会計士監査の充実・強化、ディスクロージャー情報への投資家のアク



      セス改善等を進めていくべきである。                              



        また、投資家啓蒙活動を一層拡充していくことも望まれる。        



                                                                      



                                                                      



  3.市場仲介者(顧客ニーズに対応した多様な投資サービス)            



                                                                      



   (1)  総論                                                          



                                                                      



        多様で価値ある商品・サービスを開発・提供する活力ある仲介者がより



      多く生まれる枠組みを整備する。また、新たな参入を促進することも含め、



      活発な競争を促進することにより、利用者へのサービスの向上を図ってい    



      く。                                                                  



                                                                      



   (2)  仲介者による多様な業務展開                                    



                                                                      



        証券会社の専業義務を撤廃し、業務の多角化を認めるべきである。また、



      本体や子会社において行うことが必ずしも適当でないと考えられる業務に



      ついても、有効なリスク遮断を図ったうえで、持株会社の活用により、で



      きるだけ自由に業務展開ができるようにすべきである。              



                                                                      



   (3)  株式売買委託手数料の自由化                                    



                                                                      



        多様な業務展開のインセンティブを提供するとの観点から、業務展開の



      自由度を保証した上で、手数料を完全自由化を進めるべきである。    



        その進め方としては、99年末には、完全自由化が実施されていること



      とし、その前段階として、現在売買代金10億円超の部分について自由化



      が行われているが、98年4月に、この金額を5千万円超まで引き下げる



      べきである。                                                    



                                                                      



                                                                      



   (4)  資産運用サービスの強化                                        



                                                                      



        投資信託に係る運用指図の外部委託の解禁、未上場・未登録株式の投資



      信託への組み入れ解禁等により、投資信託のより効率的な運用が行い得る



      仕組みを構築していくべきである。                                



        また、証券会社に対し、不正行為防止及び利益相反防止等のためのルー



      ルを整備しつつ、ラップアカウントを導入していくことが適当である。  



        さらに、格付・評価機関、アナリスト、ファイナンシャル・プラナーな



      ども一層大きな役割を果たすことが期待されている。                



                                                                      



   (5)  仲介者の監督のあり方及び参入規制                              



                                                                      



      ○  参入規制の改革(免許制から登録制への移行)                      



                                                                      



        仲介者の監督に当たっては、事前予防的な制限は極力なくすべきである。  



        参入規制はできるだけ自由な参入が保証される仕組みとすべきである。



      同時に、証券会社は証券市場へのアクセスを提供する役割を有しているこ



      とから、顧客の信頼に応えうる存在であることが求められる。こうした観



      点から、証券会社の免許制を改め、原則登録制とする。そのうえで、例え



      ば店頭デリバティブ業務や引受業務など、業務の専門性やより高度なリス



      ク管理が求められる特定の業務については、必要な仲介者の質を確保する



      観点から、認可制とする。                                        



                                                                      



      ○  銀行からの参入                                              



                                                                      



        銀行からの参入については、現在、銀行系証券子会社について一定の業



      務が制限されている。これについては、                            



      イ.97年度下期より、株式関連業務を除く全ての業務を解禁する、  



      ロ.99年度下期中に、全ての業務規制を撤廃する                  



      こととすべきである。                                            



        また、持株会社が認められることとなった場合には、持株会社方式での



      参入も認め、この業務範囲については子会社方式と同様の考え方を適用す



      べきである。                                                    



        また、業務範囲が拡大する中で、ファイアー・ウォールの実効性を担保



      するための検査・監視体制のあり方についても、検討していくべきである。  



                                                                      



   (6)  証券会社の健全性確保と投資家保護の枠組み                    



                                                                      



        証券会社の業務及び経営の健全性を確保していくため、自己資本規制を、



      実際のリスクをより的確に反映するように見直すとともに、証券会社の経



      営内容のディスクロージャーを充実するなどの、業務及び財務の健全性の



      チェックを充実するべきである。また、顧客資産の分別管理の徹底、寄託



      補償基金制度の充実などの制度整備が必要である。                  



                                                                      



                                                                      



V.結び




                                                                      



      以上のような改革が実現されれば、我が国市場は、制度面において、欧



    米と比べ遜色のないものとなる。しかし、制度や監督の仕組みの改革のみ



    によって、証券市場が活性化し、我が国経済自体の活力維持に貢献すると



    いう究極の目的の達成は保証されない。以下のような点についての取組み



    如何が我が国市場のあり方を最終的には決定付ける。                



                                                                   



      ひとつは、民商法等の基本法制の問題であり、我が国の伝統的な価値観



    や社会の有り様とも調和を図りつつ、いかに国際的な取引慣行等に見合っ



    た形でこれを整備し得るかという点である。                        



                                                                      



      今ひとつは、証券税制の問題である。市場にとって望ましい税制につい



    ての証券取引審議会の報告を踏まえ、税制調査会等の場において早急に検



    討が行われることを期待する。                                    



                                                                      



      しかしながら、市場の再生において最も基本的なことは、我が国の仲介



    者、企業、投資家が新たに獲得した自由をどう活用するかである。    



      すべての市場参加者が自由を最大限に活用し、主体性と高い倫理観に裏



    打ちされた規律をもって行動することが望まれる。