「貸金業制度に関するプロジェクトチーム」第十二回事務局会議の概要

日時   平成22年2月4日(木)10時30分~11時40分
場所   金融庁 13階共用第一特別会議室
出席者   田村内閣府大臣政務官(金融担当)、泉内閣府大臣政務官(消費者担当)、中村法務大臣政務官、警察庁生活安全局 南生活経済対策管理官付補佐、経済産業省商務情報政策局 坂口取引信用課長
議題   ヒアリング
・津田 武寛氏   (シティグループ証券)
・大槻 奈那氏   (UBS証券会社)
・小林 節氏   (慶應義塾大学法学部教授)

【津田武寛氏の説明】

  • 多重債務は依存症が大きな原因である。例えば、アルコール依存症は全国で440万人、パチンコ依存症を自覚している人は全国で400万人程度存在している。買物依存症の日本全体での人数は不明だが、その大半は多重債務者であると考えられる。

  • ギャンブル依存症や買物依存症と呼ばれる症状を持つ人たちを例に取ると、彼らは多額のお金を賭け事や買い物につぎ込んでしまうため、多くの場合は借金の問題を抱えていると考えられる。

  • このように、多重債務問題の原因は心の問題であり、その発生原因は家族にある。したがって、多重債務問題に関しては、厚生労働省または文部科学省にプロジェクトチームを設置し、精神科の医師や教育者によるカウンセリングの充実などについて検討すべきであり、金融庁が取り扱うテーマではない。金融庁はあくまで、健全な利用者を前提に、信用制度という側面から、貸金業制度について検討を行うべきであると考える。

  • 共依存とは、二人の成人の間で片方がもう一方の世話に没頭している状態を言い、アルコール依存症の男性とその妻などが該当する。多重債務者とクレサラ弁護士の関係が共依存関係であると仮定すると、クレサラ弁護士は多重債務の原因を科学的に解明するよりも、救済するという方向に生き甲斐を求めてくることとなり、多重債務問題の根本的な解決法が分からなくなる危険性がある。また、健全な利用者の存在も見えなくなり、健全な利用者が困窮する、という点を考えられなくなる精神状態になりやすい。

  • 情況倫理においては、人間は一定の情況下では必然的にある行為に及ぶという考え方があり、したがって、情況の説明が行為の弁明となるという特徴を持つ。これを多重債務問題に当てはめると、多重債務者が悪いのではなく、多重債務にならざるを得なかった情況、その情況を作った貸金業者と信用制度が悪いという論理になる。

  • 高金利が多重債務の原因であるということがよく言われているが、低金利であっても返済を行わなければ債務は増加していき、最終的には多重債務状態になる。返済を行わなければ、金利と関係なく、多重債務に陥ると言うことである。

  • 「貸さない親切」は、依存症である多重債務者に対する方策としては有効であると考えるが、健全な利用者に対しては、悪影響を及ぼすだけである。多重債務者と健全な利用者とで分けて考える必要がある。

  • 改正貸金業法については、施行を延期し、健全な利用者に対するクレジットクランチを防止することが必要ではないか。また、多重債務者に対しては、別途プロジェクトチームを設置し、カウンセリング体制を整えるための検討を行うことが必要ではないか。

【大槻奈那氏の説明】

  • 貸金業者は、同じような信用力を持つ他業種の企業と比較し、資金調達の際、高い金利を要求されている。また、消費者金融のCDSの推移を見ると、貸金業法の改正により資金調達が困難になっている訳ではなく、むしろ、過払金の問題で資金調達が困難となっている。

  • 貸金業者の特徴として、一つのきっかけにより、信用力が急速に悪くなり、資金調達が困難となる点が挙げられる。現在、過払金の問題により貸金業者の資金調達環境は悪化しており、たとえ規制緩和を実施したとしても、資金調達の問題は改善しないのではないか。

  • 現在、証券化市場が機能不全を起こしており、消費者ローンの証券化商品の発行額が激減している。事業会社は土地等を担保に資金調達を行うことが出来る。他方、預金、マネーマーケットへのアクセスを持たない貸金業者は、保有する債権の証券化が資金調達の最後の手段だが、証券化市場が目詰まりを起こしているため、このような資金調達も困難となっている。

  • 米国では、貸金業者の再編が進んでおり、多くの独立系の貸金業者は再編を行っている。

  • 試算によると、総量規制の導入により、貸金業者の貸付残高は3割程度減少する可能性がある。また、上限金利の引下げにより、貸付残高は2割程度減少する可能性がある。

  • 試算によると、貸出利回り16%前後で貸付けを行った場合でも、スケールメリットによる営業経費の削減等を進めていくことができれば、貸金業者が1.5%程度の営業利益率を達成できる可能性もある。他方、営業経費の削減等を進めていくためには、ある程度の期間が必要であり、準備期間が短い場合、対応が困難となると考えられる。

  • 貸金業者の過払金支払額は1兆円に近づいているが、これは、潜在規模の2割から3割程度である。

  • 改正貸金業法を見直し、規制を緩和した場合、過剰借入れによる多重債務の問題に帰着する。また、規制をこのまま導入すると、貸付けが収縮するという問題が発生する。また、そもそも、貸金業者は過払金の問題により、資金調達が困難となっており、新規貸付けは難しい状況にある。

【小林節氏の説明】

  • 日本においては、「借金は恥」という文化があるため、消費者金融の多くの健全な利用者はその有用性を語らない。他方、弁護士・司法書士の中には、少数の多重債務者の悲惨な状況を大々的に語る者も存在している。このため、貸金業は、大衆、ひいては政治家の支持を得られない状況であった。

  • 改正貸金業法等により、このままでは、貸金業者は壊滅し、ヤミ金が増加するのではないか。また、貸金業者からの資金供給が無くなれば、破産をせざるを得ない者が増加すると考えられる。

  • 貸金業者は、信用力の低い人への貸付けを実施するという点で、社会の安全弁としての機能を果たしている。この機能をセーフティネットという形で公的に実施することも考えられるが、ノウハウを持たない役人が、税金を原資に貸付けを行う場合、貸倒れが増大するのではないか。

  • 貸金業者の替わりに銀行が消費者向けの貸付けを実施すればよい、との声も聞くが、銀行は担保主義であり、無担保貸付けのノウハウを持っていないため、現在のままでは消費者信用市場に参入することは困難ではないか。

  • 貸金業者は、簡易な審査で迅速に融資を行うことを特徴としており、このような観点から存在意義は高いと考える。例えば、結婚式の祝儀など、急な資金需要が発生した際、簡単に貸してくれるところは消費者金融しかない。

  • 本来、貸金市場の適正化のためには、金利規制や総量規制ではなく、行為規制を強化するだけでよかったのではないか。自由な市場の取引の中で、適正な金利が決定されるべきであると考える。

  • 過払金については、最高裁の判決により、みなし弁済規定が形式的な理由で認められなくなったことから発生しているが、みなし弁済の本来の趣旨を考え、立法府、行政府は何らかの対応を行う必要があるのではないか。最高裁の判決が絶対ではない。

  • 貸金業者の利用者の5%~10%程度が多重債務者であり、残りの90%以上の利用者は健全な顧客である。多重債務問題は、本人の性格が原因であると考えられ、少数の多重債務者のためだけに、健全に機能している制度全体を変更することは問題ではないか。

  • 改正貸金業法の施行により、貸金市場が壊滅し、多重債務者はいなくなると考えられる。これは、一部の問題を解決するために、市場全体を破壊しているということであり、このような規制を導入する必要が本当にあるのか。行為規制を強化することで良いのではないか。

【質疑応答】

  • ○ 利息制限法の上限金利規制について、現行の上限金利が適切なのかどうか、お考えがあればお聞かせいただきたい。

  • (答:津田氏)上限金利が低く設定されているため、銀行が消費者信用市場に進出できていないのではないかと考える。したがって、上限金利をもう少し上げること、例えば25%程度に上げることが必要ではないか。

  • (答:大槻氏)試算によれば、16%で貸付けを行った場合でも、1.5%程度の営業利益率を達成できる可能性もある。ただし、この試算には、営業費用の削減が前提であり、スケールメリットを活かすため、相当の規模を持つ貸金業者でないと達成できないと考える。

    また、銀行が消費者信用市場に進出していない理由は、上限金利が低く設定されているためではなく、無担保貸付のノウハウや、個人信用情報の蓄積が無いためであると考える。上限金利を上げなくても、このようなノウハウや信用情報を補完するものが整備されれば、銀行も消費者信用市場に進出するのではないか。

  • ○ 米国では、貸金業者の再編が進んでおり、多くの独立系の貸金業者は再編を行ったとの発言があったが、今後、日本でも業界の整理が進んでいく余地はあるのか。

  • (答:大槻氏)今後、業界の整理が進んでいく余地はあると考える。銀行も貸金業者とのジョイントベンチャーを2000年頃から設立している。

  • (答:津田氏)多重債務の原因である依存症に陥るのは、家族に問題がある場合が多く、マーケットに問題があるわけではない。家族の流動化が進み、関係が希薄になったことで、心の問題を抱えている人も増えているのではないか。

  • ○ 改正貸金業法の完全施行後には、貸金業界の状況はどう変わるのか。

  • (答:津田氏)総量規制の導入により、貸金業者は既存の債権の回収を進め、返済に問題がない健全な利用者も新たな借入れが困難となる。また、上限金利の引下げにより、信用力の低い顧客には正規業者は貸すことが出来なくなるため、ヤミ金被害が増えるのではないか。

    さらに、過払金返還請求が今後も続くことにより、貸金業者の経営が更に厳しくなるのではないか。この影響は、銀行の不良債権問題につながり、マクロ経済にも影響を及ぼす可能性もある。

  • ○ 本日は、このような重要な話を聞くことができ、感謝している。改正貸金業法の影響が大きいことが明らかになったと思う。政治家はこのような方々の意見を良く聞き、判断することが重要である。今後、国会議員の間で、この問題について議論を行う場を設けることを検討して頂きたい。

  • ○ 上限金利が25%くらいになればよいとの発言があったが、25%の根拠は何か。また、大槻氏の資料の試算の中で、営業経費の圧縮を考慮しているが、この試算の根拠は何か。

  • (答:津田氏)貸金業者の経費、貸倒率等を足し上げると18%程度になる。よって、上限金利が18%であると、経営を維持することが出来ない。25%程度まで上限金利が上がれば、持続的に経営を維持できるのではないかと考える。

  • (答:大槻氏)営業経費の圧縮は、米国の大手貸金業者の経費率を勘案し、算出している。現在、貸金業者は大規模なリストラ等を実施しており、今後、業界の再編により、規模のメリットを享受するとの前提で試算を行っている。ただし、あくまで基本的な試算であり、金利16%程度では経営を維持していくことが難しいとの試算もある。

(以 上)

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