市場へのメッセージ
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市場へのメッセージ(平成31年4月~)証券監視委メールマガジン(平成22年11月~平成31年3月)
最新号〔8月8日(金) 配信分〕
<目次>
- 大成建設株式会社従業員4名及び同社との契約締結者からの情報受領者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について
- クオンタムソリューションズ株式会社における四半期報告書の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について
- 日本創発グループ株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について
- 東京産業株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について
- 公開買付者の従業員によるC&Fロジホールディングス株式に係る公開買付けの実施に関する事実に係る伝達行為及び同従業員から伝達を受けた者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について
- 金融庁設置法第21条の規定に基づく建議について
- 「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」の公表について
- 令和6年度「証券取引等監視委員会の活動状況」の公表について
- 株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスとの契約締結交渉者から伝達を受けた者4名による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について
- 「開示検査事例集」の公表について
- 株式会社アイスタイル株券に係る内部者取引事件の告発について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、取引調査の結果に基づいて、令和7年5月30日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。
【事案の概要】
課徴金納付命令対象者(1)~(4)は、大成建設株式会社(以下「大成建設」といいます。)の従業員としてその職務に関し、大成建設が札幌市内で施工中の高層ビル(以下「本件ビル」といいます。)に関し、大成建設において、①発注者との間で定めた品質基準を満たさない鉄骨建方等の精度不良を生じさせた旨、②工事監理者に対して同精度不良に係る鉄骨精度計測値の虚偽報告を行っていた旨及び③上記①及び②の事実を受けて同精度不良の是正措置として建築途中の本件ビルの地上部分の全部を解体して再建築する計画を定めた旨の大成建設の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす事実(以下「本件重要事実」といいます。)を知りながら、同重要事実の公表前に大成建設株式を売り付けたものです。
また、課徴金納付命令対象者(5)(以下「対象者(5)」といいます。)は、A社の従業員としてその職務に関し、本件重要事実を知りながら、同重要事実の公表前に大成建設株式を売り付けたものです。
なお、対象者(5)が本件重要事実を知った経緯としては、まず、大成建設との間で本件ビルの建築工事請負契約を締結していたエヌ・ティ・ティ都市開発株式会社(以下「NTT都市開発」といいます。)の従業員が同契約の履行に関して本件重要事実を知り、次に、NTT都市開発とA社は賃貸借予約契約を締結していたため、NTT都市開発の従業員からA社の従業員に対して本件重要事実が伝達され、結果、対象者(5)がその職務に関して本件重要事実を知った、ということになります(詳細は別図「○違反行為事実の概要について」を参照ください。)。対象者(5)が本件重要事実を知るまでについて法令上の整理をすると、NTT都市開発は大成建設の会社関係者(金商法第166条第1項第4号の上場会社等と契約を締結している法人)であり、A社は大成建設の会社関係者であるNTT都市開発から伝達を受けた第一次情報受領者(金商法第166条第3項の職務上伝達を受けた者が所属する法人)であることから、A社において、その職務に関し本件重要事実を知った対象者(5)も、インサイダー取引規制の対象となります。
【事案の特色】
本件は、大手ゼネコンの1社である大成建設において、4名もの従業員が、自社の請負工事で精度不良等が生じた旨の重大な情報を知り、この情報の公表前に自らが保有する同社株式を同時多発的に売り付けて損失を回避しているものであり、証券監視委としては、たとえ100株という僅かな数量の売り付けであってもこれを看過することはできません。また、対象者(5)のA社の従業員は、本件重要事実を知り、自己の利益を図る目的で大成建設株式を空売りしているなど、対象者5名はいずれも悪質であると考えています。
【証券監視委からのメッセージ】
本件を勧告することで、証券監視委は僅かな不公正取引も見逃すことなく厳正に対処していることを市場に訴えるとともに、上場会社とその役職員に対しては、改めてインサイダー情報の管理態勢及び法令遵守態勢の整備と法令遵守を徹底する旨を注意喚起し、インサイダー取引の防止に対する規程の整備や研修等の実施を強く要請したいと考えています。
なお、この場を借りて、先般公表した課徴金事例集のコラム⑨(P11「バスケット条項について~意外な落とし穴~」)を紹介したいと思います。
金商法第166条には、重要事実として、大きく分けて、決定事実(第166条第2項第1号(第5号))、発生事実(第166条第2項第2号(第6号))、決算情報(第166条第2項第3号(第7号))があり、これらについて具体的な事項が列挙されていますが、実は、重要事実はこれだけではありません。
いわゆる「バスケット条項」として、上場会社等及び上場会社等の子会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの(第166条第2項第4号(第8号))が定義されています。
つまり、このバスケット条項とは、法令などの条文としてすべての事項を網羅的に列挙することができないため、明確に表現しきれないようなインサイダー取引を包括的に拾い上げる機能を果たす条項ということになり、まさに本件重要事実は、このバスケット条項に該当します。
金商法上、具体的に列挙されている事項だけがインサイダー取引規制の対象となっているわけではないことを正しく理解していただくとともに、上場会社等においては、何が投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすかを考慮し、インサイダー情報の管理態勢及び法令等遵守態勢の整備を徹底していただければと思います。
2.クオンタムソリューションズ株式会社における四半期報告書の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、クオンタムソリューションズ株式会社(以下「当社」といいます。)における金融商品取引法に基づく開示規制の違反について検査した結果、下記のとおり法令違反の事実が認められたことから、令和7年6月10日に内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。【法令違反の内容】
当社は、貸倒引当金の不計上等の不適正な会計処理を行ったことにより、「重要な事項につき虚偽の記載」がある下記の開示書類を関東財務局長に提出しました。
(継続開示書類)
・ 令和4年8月第2四半期四半期報告書(令和4年10月11日提出)等、合計2通
3.日本創発グループ株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、取引調査の結果に基づいて、令和7年6月13日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。【事案の概要】
課徴金納付命令対象者は、株式会社日本創発グループの株式について、知人名義2口座、親族名義1口座の合計3口座を使用し、全てインターネット注文による信用取引で、同株式の売買を誘引する目的をもって、171取引日にわたり一連の売買をしたものです。
取引の主な流れは、
① あらかじめ上値に売り注文を発注する(売抜け準備)。
②・対当売買(1916回)
自身が発注した売り注文に対し買い注文を発注して対当させることで、取引が活発な状況を作出する。また、一部の対当売買においては、直近の約定値段より高い価格で約定させることで、株価を上昇基調にする(株価引上げを伴う対当売買)。
・株価引上げ(846回)
他の投資者の売り注文に合わせて買い注文を発注し、順次約定させる方法によって、繰り返し株価を引き上げることで、株価を上昇基調にする。
③ 対当売買や株価引上げに誘引されたと考えられる他の投資者からの買い注文を①で発注していた売り注文と約定させて売り抜ける。
となります。
これらの方法により、同株式の売買が繁盛であると誤解させ、かつ、同株式の相場を変動させる取引を行っていました。
【事案の特色】
本件は、親族名義だけでなく知人名義の口座まで使用して相場操縦を行っており、対当売買及び株価引き上げの回数としては合計約2700回にも及んでいることから、悪質な相場操縦事案であると考えています。
【証券監視委からのメッセージ】
親族や知人名義の口座を使用した取引であっても、証券監視委において調査上の支障が生じることは全くなく、証券監視委は日本取引所自主規制法人や証券会社と協力しながら実態を解明することができ、立件も可能であることを広く投資家や市場関係者に認識いただきたいと考えています。
また、先般公表した課徴金事例集のコラム③(P5「違反行為は見逃さない~少額取引・他人名義取引でも発覚~」)でも取り上げたとおり、「他人名義で取引すれば発覚しないだろう」「複数の証券口座を使って相場操縦を行えば発覚しないだろう」などといった認識から違反行為に及ぶ者が後を絶たない状況が見受けられます。他人名義の証券口座を用いるなど、違反行為の発覚を妨げる隠蔽工作を行っても、違反行為者の家族や友人、知人に対する幅広い調査等によって、真の取引者を容易に特定することが可能であり、違反行為が見逃されることはありません。

4.東京産業株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、東京産業株式会社(以下「当社」といいます。)における金融商品取引法に基づく開示規制の違反について検査した結果、下記のとおり法令違反の事実が認められたことから、令和7年6月17日に内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。【法令違反の内容】
当社は、貸倒引当金繰入額の過少計上、売上原価の過少計上等の不適正な会計処理を行ったことにより、「重要な事項につき虚偽の記載」がある下記の開示書類を関東財務局長に提出しました。
(継続開示書類)合計5通
・ 令和5年3月期有価証券報告書(令和5年6月28日提出)
・ 令和4年9月第2四半期四半期報告書(令和4年11月14日提出)等
(発行開示書類)合計1通
・ 有価証券届出書(令和5年9月1日提出)
5.公開買付者の従業員によるC&Fロジホールディングス株式に係る公開買付けの実施に関する事実に係る伝達行為及び同従業員から伝達を受けた者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、取引調査の結果に基づいて、令和7年6月20日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。【事案の概要】
AZ-COM丸和ホールディングス株式会社の従業員であった課徴金納付命令対象者(1)(以下「対象者(1)」といいます。)は、同社の業務執行を決定する機関が、株式会社C&Fロジホールディングス(以下「C&F」といいます。)株式の公開買付けを行うことについての決定をした旨の公開買付けの実施に関する事実(以下「本件事実」といいます。)を、その職務に関し知りながら、知人の課徴金納付命令対象者(2)(以下「対象者(2)」といいます。)に対し、本件事実の公表前にC&F株式の買付けをさせることにより同人に利益を得させる目的をもって、伝達したものであり、これにより伝達を受けた対象者(2)が、本件事実の公表前に、C&F株式を買い付けたものです(情報伝達規制違反)。
対象者(2)は、知人の対象者(1)から本件事実の伝達を受けながら、その公表前に、C&F株式を買い付けたものです(インサイダー取引規制違反)。
【事案の特色】
本件は、株取引に対して高い規範意識を保つことが求められる上場企業の従業員という立場の者が利益を得させる目的をもって知人に対して本件事実の伝達を行っているため、悪質な事案と考えています。
【証券監視委からのメッセージ】
対象者(2)は、一見したところ、本件公開買付けに関する情報とは無縁の立場にあるように思われますが、そのような者の取引であっても、証券監視委や日本取引所自主規制法人による市場監視の網に掛かり、きちんと調査の手が及ぶということを国民等に広く知ってもらうことで、同種の違反行為を抑止する効果が期待できると考えています。
なお、先般公表した課徴金事例集のコラム⑥(P8「情報管理の重要性③~プライベート編~」)でも取り上げたとおり、親族や知⼈等との会話で、勤務先の話や仕事の内容の話をすることがあるかと思いますが、何気なく話したことでも、その内容等によっては、インサイダー取引規制の対象となり得ることに注意してください。

6.金融庁設置法第21条の規定に基づく建議について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、令和7年6月20日、金融庁設置法第21条の規定に基づき、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、市場監視機能強化に向けた建議を行いました。(注)建議は、証券監視委が、検査・調査等の結果把握した事項を総合分析した上で、法規制や自主規制ルールの在り方等について証券監視委としての見解を明らかにし、これを行政や自主規制機関が行う諸施策に反映させようとするものであり、証券監視委の行う建議は、規制当局等の政策対応の上で、重要な判断材料として扱われます。
【建議の背景及び概要】
資産運⽤⽴国に向けた官⺠⼀体の取組みが進展し、誰もが投資者となり得る中で、市場 監視機能を⼀層強化し、従前の投資者も新たな投資者も共に安⼼して投資ができる公正・ 透明な市場を確⽴していくことが重要となっています。
⾦融商品取引の複雑化・⾼度化・国際化の進展などがみられるなか、近年における証券 取引等監視委員会の検査・調査の結果等を踏まえると、
・ 不正と考えられる⾏為について、現⾏制度では規制の対象とならず、法令違反⾏為として捕捉できない事例
・ 課徴⾦の額が低く(あるいは直接の対象にならず)、違反⾏為に対する抑⽌効果が不⼗分な事例
・ 効果的・効率的な検査・調査に困難が⽣じている事例
が認められており、これらに適切に対応できる実効性のある措置等を整備していく必要があるため、下記のとおり建議を行いました。
(建議1)内部者取引規制における関係者の範囲について
発行者との契約締結者などの公開買付者等関係者と同等の内部者とみなされるべき者から情報受領した者が内部者取引規制の対象外になる場合があるなど、内部者取引規制の趣旨に鑑みると不正と考えられる行為でありながら、現行制度では規制の対象とならなかった事例等を踏まえ、公開買付者等関係者の範囲等について、各関係者と同等の内部者とみなされるべき者が含まれるよう拡大する必要がある。
(建議2)課徴金の適用範囲及び算定基準について
他人名義口座の提供を受けるなどして不公正取引を行う悪質な事案が多く発生しており、なかには提供先の不公正取引を認識した上で口座提供をしている課徴金対象とならない協力者も存在します。また、継続的に株式の買い集めを行う投資者による大量保有報告書の不提出など、想定される利得額と比較して現行の課徴金額の水準が抑止効果としては不十分とみられるものがあります。さらに、新しい形態として高速取引行為による不公正取引事案が認められています。こうした状況に鑑みれば、実効的な抑止力を発揮するための課徴金水準の引上げ及び対象の拡大、新しい取引形態に対応した算定方法の見直しなどの適切な措置を講ずる必要がある。
(建議3)効果的・効率的な検査・調査の実施のための措置について
⑴ 課徴金の減算制度の見直し
課徴金水準の引上げ等が図られることと併せて、検査・調査においても、より一層、実効性・効率性を高めていくことが重要となることを踏まえ、対象者の自発的な協力を促すよう減算制度の拡大などの適切な措置を講ずる必要がある。
⑵ 検査等対象者の出頭命令の範囲拡大及び強化された多国間情報交換枠組みの署名
不公正取引事案の国際化や当局間の国際協力に加え、国内検査対象の多様化も進展していることなどを踏まえ、国内事業者等を対象とする検査及び外国当局に対する調査協力に関して、出頭命令の権限を追加するなどとともに、証券監督者国際機構(IOSCO)の強化された多国間情報交換枠組み(EMMoU)の早期署名に向けた取組みを行うといった適切な措置を講ずる必要がある。
⑶ 無登録業者に対する犯則調査権限の創設
近年顕在化している金融商品取引業の無登録業と偽計、相場操縦等の不公正取引との複合型と疑われる事案等に適切に対応するため、無登録業を行う者に対する犯則調査権限を創設するなどの適切な措置を講ずる必要がある。
7.「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」の公表について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、令和7年6月24日、「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」(以下、「事例集」といいます。)を公表しました。事例集は、証券監視委が、主に令和6年度に、インサイダー取引や相場操縦といった金融商品取引法違反となる不公正取引に関し課徴金納付命令の勧告を行った事案について、分析を行うとともに概要を取りまとめ、事例として紹介するものです。
また、「監視委コラム」では、本年度の勧告事案等も踏まえ、市場利用者の関心が高いと思われるテーマや、証券監視委から市場利用者に特に伝えたいテーマを選び、イラスト等も活用しつつ、記載内容を最新の情報に更新するなど、内容の充実を図りました。
以下は、監視委コラムの一例です。
● インサイダー取引の調査対象者について
~それでもやりますか?インサイダー取引②~
● バスケット条項について
~意外な落とし穴~
● 海外子会社の従業員によるインサイダー事案の課徴金勧告
~如何なる国から発注した取引であっても監視しています~
● 証券会社による見せ玉を用いた相場操縦事案の課徴金勧告
~機関投資家等による市場デリバティブ取引も適切に監視しています~
● 風説の流布について
~インターネット上の投稿や書き込みによる風説の流布も見逃しません!~
● 今後の課題
〜市場機能強化に向けた建議について〜
証券監視委としては、不公正取引の未然防止という観点から、事例集を、
(1)重要事実等の発生源となる上場会社等における情報管理態勢、インサイダー取引管理態勢の一層の充実
(2)公開買付け等企業再編の当事者からフィナンシャル・アドバイザリー業務等を受託する証券会社・投資銀行等における重要事実等の情報管理の徹底
(3)証券市場のゲートキーパーとしての役割を担う証券会社における適正な売買審査の実施
などのために活用していただくことを期待しております。
事例集が活用されることにより、すべての市場利用者による自己規律の強化、市場の公正性・透明性の確保及び投資者保護につながれば幸いです。
8.令和6年度「証券取引等監視委員会の活動状況」の公表について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、金融庁設置法第22条の規定に基づき、毎年、活動状況等を公表しています。今回は、その33回目として令和6年度(令和6年4月1日~令和7年3月31日)の「証券取引等監視委員会の活動状況」を令和7年6月24日に公表いたしました。9.株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスとの契約締結交渉者から伝達を受けた者4名による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、取引調査の結果に基づいて、令和7年6月27日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。【事案の概要】
課徴金納付命令対象者(1)~(4)(以下「対象者(1)~(4)」といいます。)は、株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス(以下「ヨシムラFHD」といいます。)との間で株式譲渡契約の締結の交渉をしていた契約締結交渉者甲から、同人が同契約の締結又は交渉に関し知った、ヨシムラFHDの業務執行を決定する機関が、子会社の異動を伴う株式会社ワイエスフーズの株式の取得をすることについての決定をした旨の重要事実(以下「本件重要事実」といいます。)の伝達を受けながら、本件重要事実の公表前にヨシムラFHD株式を買い付けたものです。
【事案の特色】
本件は、証券監視委がヨシムラFHD株式に係るインサイダー取引及び情報伝達につき、金融商品取引法違反の嫌疑で告発した甲から本件重要事実の伝達を受けた対象者(1)~(4)によるインサイダー取引事案であるところ、特別調査課との連携により、迅速に調査を実施し、勧告に至ったものです。
【証券監視委からのメッセージ】
本件を勧告することで、証券監視委が告発事案と課徴金事案とを一体的かつ迅速に対処しており、取引金額や課徴金額の多寡に関わらず不公正取引に対して厳正に対処していることを市場関係者や一般投資家に対して改めて訴えることができたと考えています。
なお、この場を借りて、先般公表した課徴金事例集のコラム①(P3「インサイダー取引後に起こり得ること~それでもやりますか?インサイダー取引①~」)を紹介したいと思います。
インサイダー取引で利得を得たとしても、会社や規制当局にインサイダー取引がバレるのではないかなどの不安や違法な行為をしたことへの後悔の念に長期間苛まれることになります。
そして、取引調査の結果、インサイダー取引が認定された場合には、その違反行為は金融庁への勧告に伴い公表され、インサイダー取引で得た利得は課徴金により剥奪されます。また、その違反行為が重大・悪質な場合は、刑事告発され、逮捕されるかもしれません。
このほか、調査対象者の勤務先では社内規程に基づく降格・懲戒解雇等の処分がなされる可能性があり、懲戒解雇になれば定年まで勤めた場合に得られたであろう退職金の消失など将来的な経済的損失のほか、これらの事象が重なり家族へ多大なる経済的・精神的な負担が生じることで家庭が崩壊することも考えられます。

10.「開示検査事例集」の公表について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、令和7年6月30日、「令和6年度 開示検査事例集」を公表いたしました。※ 今回の事例集より、対象期間を事務年度(7月~翌年6月)から年度(4月~翌年3月)に変更しています。
※「開示検査事例集」は、適正な情報開示に向けた市場関係者の自主的な取組みを促す観点から、証券取引等監視委員会による開示検査の最近の取組みや開示検査によって判明した開示規制違反の内容、その背景・原因及び是正策等の概要を取りまとめたもので、毎年公表しています。
今般公表した「令和6年度 開示検査事例集」では、令和6年4月から令和7年3月までの間に開示検査を終了し、開示規制違反について課徴金納付命令勧告を行った事例等を掲載しました。今回の事例集では、大量保有報告制度違反や注記の不記載に対する課徴金納付命令勧告を行った事例等、特徴的な開示規制違反事例についても新たに掲載し、積極的に紹介しています。
また、「令和6年度 開示検査事例集」では、以下のような令和6年度の課徴金納付命令勧告事案等に係る分析結果を掲載しています。
(令和6年度の課徴金納付命令勧告事案の分析結果)
・ 「違反行為者の業種別分類」で見ると、「サービス業」、「情報・通信業」及び「卸売業」が全体の8割弱(78%)を占めている。
・ 「主な不適正な会計処理等の内容」で見ると、「売上の過大計上等」及び「資産の過大計上」がそれぞれ全体の2割超(22%)と最も多い。
・ 「違反行為者の市場別分類」で見ると、東証スタンダード及び東証グロースの上場会社が全体の8割を占めている。
(過去10年度分の課徴金納付命令勧告事案の分析結果)
・ 「違反行為者の上場期間別分類」で見ると、上場後3年以内の会社が全体の2割弱(19%)を占めており、不適正な会計処理等を行った目的の大宗が、予算・業績目標達成のためであった。
さらに、「監視委コラム」では、最近の大量保有報告制度を巡る動きや財務諸表の注記の必要性等、開示実務の参考にしていただけるよう特徴的な勧告事例に関連した内容や、不適正な会計処理の背景・原因となった内部統制・ガバナンス上の問題等を解説しています。
証券監視委としては、「開示検査事例集」を通じて、上場会社、会計監査人や投資者等の皆さんに、開示規制違反の手法、背景・原因等や証券取引等監視委員会の取組みについてご理解いただいた上で、上場会社とその会計監査人である公認会計士・監査法人とのコミュニケーションや上場会社とその投資者等の皆さんとの対話を活発に行っていただくことによって、適正な情報開示が積極的に行われることを期待しています。
11.株式会社アイスタイル株券に係る内部者取引事件の告発について
証券取引等監視委員会は、令和7年7月4日、金融商品取引法違反(内部者取引)の嫌疑で、嫌疑者1名を東京地方検察庁に告発しました。【事案の概要】
犯則嫌疑者は、株式会社アイスタイル(以下「アイスタイル」という。)の従業員から、令和4年7月中旬頃、同人が職務に関し知った、アイスタイルの業務執行を決定する機関が、Amazon.com,Inc.及び三井物産株式会社との間で業務上の提携を行うとともに、両者を割当先とする無担保転換社債型新株予約権付社債等の発行を行うことについての決定をした旨のアイスタイルの業務等に関する重要事実の伝達を受け、その公表前の同年8月上旬、知人名義でアイスタイルの株券合計5万株を代金合計約1420万円で買い付けたものです。
【本件の意義】
本件は、アイスタイルの従業員から重要事実の伝達を受けた犯則嫌疑者が、その公表前に、知人名義で当該株券を買い付けたという内部者取引の事案であり、市場の公正性に与えた影響等諸般の事情に照らし、悪質性が認められます。
証券取引等監視委員会は、引き続き、市場の公正性・透明性の確保に向けて、本件のような重大で悪質な違法行為に対し、厳正に対応していきます。