コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議(第4回)議事録

1.日時:

平成26年10月20日(月)16時30分~18時30分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館13階 共用第一特別会議室

○池尾座長

定刻になりましたので、ただいまよりコーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議の第4回会合を開催いたしたいと思います。

それで、森メンバーは5分ほど遅れるというご連絡がありました。それから、堀江メンバーからは連絡がないのですが、すぐ来られると思います。本日は、メンバー全員がご出席の予定ということで、どうもありがとうございます。

それでは、早速議事に移らせていただきますが、本日も前回に引き続きまして、OECD原則に記載されている項目に沿って一通り議論をするということの続きです。資料1の表紙のところにありますが、今回は具体的には情報開示と透明性、それから、取締役会等の責務(うち、役割・機能等の発揮)というところ。それから、OECD原則の項目にはございませんが、前回の会合等においても日本のコード作成に当たって追加すべき事項として、メンバーの方からご意見のあった株主との対話という項目に関しても、今回、取り上げることにしたいと思っております。

それで、この3つの項目に関連して、事務局からまず説明をいただいた上で、メンバーの皆様方からご検討の議論をお願いしたいと考えております。

それでは、まず、事務局から一通りのご説明をお願いいたします。

○油布企業開示課長

それでは、資料1につきましてご説明申し上げたいと思います。項目は3点ございまして、計18ページございますが、最後まで一括してご説明申し上げます。

まず、表紙をおめくりいただきまして1ページですが、情報開示と透明性についてということであります。前回の資料と同じく、左側にOECD原則を順番に全て並べておりまして、右側に検討の視点の例として、それに関連する項目をいろいろと提示させていただいております。

まず、1ページでございますが、この中では矢羽根の2つ目でございます。会社のオブジェクティブ、目指すところをしっかり説明することについてどのように考えるか。それから、その下になりますけれども、いわゆる取締役・経営幹部の報酬の決定に当たって方針を定めて、それを開示する、それから、個別報酬額の開示をするということについてはどうかというお尋ねをしています。

2ページのほうになりますけれども、取締役会が代表取締役その他の経営幹部の選任・取締役の指名などに関する基本的な考え方・手続等を明確化して、これらを開示する。それから、個別の提案を株主総会に行うに当たりまして、それぞれの方の選任理由や指名理由をしっかり説明するというようなことについてどう考えるかということであります。

それから、その下になりますが、資料3はご説明いたしませんが、現在でもガバナンスに関する基本的な考え方というのは開示がされておりますけれども、このコードが策定されましたら、そのコードを踏まえて各企業が基本方針や考え方を公表するということをどう考えるか。

それから、2ページ目の下からは少しテーマが変わりますが、これは開示そのものではございませんで、外部会計監査人、つまり監査法人等でございますけれども、その役割を適切に果たすためにどういうことが考えられるかということです。3ページをごらんいただきますと、これももちろん例示でございますが、6つほど記載をさせていただいております。これは個別のご説明は省略いたします。

それから、3ページのその下の矢羽根のところですが、外部会計監査人、すなわち監査法人等は、もちろん監査契約自体は経営陣と締結するということでありますが、株主により選任されるという立場にあるわけでございますので、「株主に対する責務を負っている」というような基本的な考え方をコードに記載することについてどう考えるかということであります。

続きまして、5ページをごらんいただきたいと思います。取締役会等の責務ということで、うち、役割・機能等の発揮ということでございます。5ページ、上から2行目の欄外のところに書いてございますが、いわゆる取締役会などの機関設計とか構成、手続、あるいはトレーニングといったものについては次回以降ご議論いただくとして、今回はその基本的な役割・機能等を中心にご議論いただくということを想定しております。

5ページをごらんいただきますと、取締役会には、その後括弧書きに書いてございますが、例えば会社法に具体的に記載されているような個別の取締役会の権限ということにとどまらず、基本的にどういう役割・責務を果たすことが期待されているのかという投げかけでございまして、その下にも、これも例示ということでございますが、幾つか具体的なことを記載しております。1点目が、会社の戦略的な方向づけを行う。それから、いろいろな利益相反のマネジメントを取締役会が行う。さらには、経営業績、それから、その裏側にあります潜在的なリスク、これらを踏まえまして経営の評価・監督を行う。それから、代表取締役その他の経営幹部の選解任。それから、こうした経営幹部の方々に適切な企業家精神の発揮、逆に申し上げると過大なリスクの回避を含むということでありますが、それを促すようなインセンティブづけを取締役会が行う。

6ページのほうに移りますが、最初に括弧書きで書いておりますが、個別の取引1本1本のコンプライアンス・チェックということではなくて、コンプライアンス体制や、より能動的なリスク管理体制を整備する。その下にありますのは、株主に対する受託者責任と説明責任を全うする。ここは括弧書きに書いておりますように、このような責任が十分に果たされている場合に、経営幹部の適正で迅速果断な意思決定をサポートするということを含むということを付記しております。それから、ステークホルダーとの協働などでございます。

このテーマは8ページまで続いておりまして、7ページの右上の欄には、ここで何回も触れさせていただいておりますが、自由民主党の提言の抜粋を掲げております。それを受ける形で、その下に続けて矢羽根を3つ書いておりますが、1つ目の矢羽根は、いわゆる経営における監督機能と執行機能の分離についてどのように考えるか。それから、2つ目の矢羽根ですけれども、取締役会として実効性ある監督機能を発揮していくために、取締役会全体としてどのようなバランスが求められるかということ。それから、8ページに移りまして、執行役ではなくて執行役員、これは法的な位置づけはございませんけれども、それについて記載するとの指摘をどう考えるか。

以上で、取締役会の極めて基本的な役割について記載させていただいておりますが、この会議でも何度かご議論が出ております監査役、監査役会については、後ほど12ページでご説明させていただきます。

さらに、8ページでございますが、取締役会が受託者責任を負っているということをコードに記載することについてどのように考えるか。ここは、「※」を打っております。受託者責任を負う取締役会として、独立・客観的な立場から影響力を発揮することの重要性について「※」のところで記載しております。

9ページですけれども、ここからは、やや先ほどの論点と重複する部分もございますが、個別の論点、取締役会の機能について一つ一つ挙げております。まず、9ページの一番上が戦略的な方向づけ。9ページの2つ目が、ここはむしろ「※」のところをごらんいただいたほうがいいかと思います。先ほどの執行と監督の分離にも関連するかと思いますが、取締役会として自分自身でどこまでを決めて、どこからを経営陣に委任するのかということを明確に策定して説明するということ。次の「※」につきましては、取締役会が取締役会自身の評価・分析を行う。これは、外国ではごく一般的に見られているプラクティスでございますが、ただ、その中身を私ども事務局で見ましたところ、いわゆるABCDEといったような「評定」をやっているわけではなくて、例えばこの1年を振り返ってきて、取締役会はこういうところでは非常に建設的な議論がいろいろあったけれども、こういう面の対応はちょっと弱かったとか、どちらかというと日本語に落とすと「分析」に近いようなものが外国で行われているように思いましたので、英語ではエバリュエーションとかアセスメントという言葉が使われておりますが、評価の後に「分析」という言葉をあえて足しております。それから、各取締役お一人お一人の自己評価についてどう考えるかということを記載しております。

10ページ、まだ続きますけれども、ここも「※」をごらんいただきますと、CEOなどのサクセッション・プランについて記載しております。後継者に関する計画の策定・モニタリングについてどう考えるかと。それから、その下でございますが、これも「※」のところをご説明させていただきますが、我が国で会社役員の報酬は固定報酬の割合が非常に高いという指摘がされております。これについて、中長期の業績などと連動する部分、そういう報酬のウエートを上げるということについてかねて指摘がございますので、どのように考えるかということでございます。

11ページでございますが、こちらは右側の欄には記載している項目は少ないのでご説明は省略いたしまして、12ページの上は取締役が期待される機能や役割を適切に果たすために必要となる情報アクセス、サポート体制についてどのように考えるか。

以上で取締役会のところが終わりまして、12ページの点線から下はこれまで議論がございました監査役ないし監査役会に期待される役割について、2ページにわたり記載しております。まず、12ページの2つ目の矢羽根のところには、もちろんこれに限定されるわけではございませんけれども、取締役の職務執行の監査といったことなどを3つ例示で挙げております。

その下に矢羽根が2つございますが、1つ目の矢羽根のほうです。監査役会は業務の適法性監査を超えて、実際どこまで当否の問題に踏み込むことが可能なのか。その下の矢羽根でございますが、取締役会に出席義務がございますけれども、議決権は持たないという状況において、取締役会の意思決定にどこまで影響力を及ぼすことができるのか。

13ページでございます。上の2つの矢羽根は、監査役のバックグラウンドないし知識・経験についてでございますが、特に2つ目の矢羽根は、監査役会には財務・会計の知識を持つ者が含められるべきという指摘がございまして、これをどのように考えるのか。その下の矢羽根ですけれども、監査役、監査役会に対するサポート体制、それから、経営陣、内部監査部門、社外取締役、外部会計監査人などとの連携・情報共有について記載していただいております。

14ページ以降が株主との対話についてでございます。前回にもご指摘がありましたことを踏まえて、事務局のほうで議論のもととなる資料を作成させていただきました。ここは、左側に掲げていますのは、各国のコードを機械的に並べているだけでございまして、この14ページ以降については右と左の欄は直接には対応しておりません。主に右欄のほうをごらんになっていただいて、ご議論いただければと思っております。

14ページですが、スチュワードシップ・コードが策定されまして、機関投資家の側には対話が求められるようになった、これが明確になったわけでございますが、投資先の企業サイドとしてはこういう対話の意義をどう考えるべきか。

15ページから16ページの上までは、今の点に関連しまして、例えば、ということで、こういう点はどのように考えるかということを6つ記載しております。1つは、株主との対話全般を統括し、建設的な対話が実現されるような、全体を目配りする者、あるいは機関を明確化する、そういった体制整備についてどう考えるか。

それから、これは面談の申し込みがあった場合の、株主側の要望もあるということでしょうけれども、実際に誰が個別の面談、対話に対応するのか。その他、社内の連携体制の確保や対話で把握された意見のフィードバック、それから、15ページの下にありますのは、スチュワードシップ・コードは、機関投資家との対話については必ずしも個別の面談に限定するという趣旨では書かれておりませんので、投資家説明会やIR活動などについてもどのように考えるか。それから16ページですが、そのような方針、取り組みを公表するということを記載しています。

16ページのその下にございますのは、ご議論が若干ございましたけれども、オートマチックに企業側は実質株主がわかるわけではないという状況のもとで、いろいろな調査をなさっておられるということですが、できる限りということですが、株主側もそれに協力することが求められるというご意見を踏まえて記載しております。

最後に、18ページになりますが、18ページは株主との対話の項目でございますけれども、左側に載せているのは6月の閣議決定文書でございます。3行目あたりをごらんになっていただきますと、グローバル企業を中心に資本コストを意識してガバナンスを強化し、持続的な企業価値向上につなげるということが記載されておりますので、これを踏まえる形で右側に矢羽根を設定しております。企業は、持続的な成長を実現するための経営戦略や経営計画を策定し、中長期的な収益計画、資本政策、それから利益率・資本効率に関する水準について定めて、株主にわかりやすく説明するべきである、こういう指摘についてどう考えるかということを記載してございます。

時間の関係で、資料2、3などのご説明は割愛させていただきます。適宜、必要に応じてご参照いただければと思います。私からの説明は以上でございます。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、皆様からのご意見をお伺いする自由討議に移りたいと思いますが、その前に、本日、冨山メンバーが途中で退席されるということですので、冨山さんから意見書が出されております。それと、意見書と並びまして、日本取締役会協会の資料、それから経済同友会の意見書がそれぞれ提出されておりますので、席上に配付させていただいております。ただし、メンバーの方々には事前に送付させていただいておりますので、いずれもこの場で読み上げたりすることは省略させていただきたいと思いますが、冨山メンバーがご退席された後も、メモ等を踏まえて議論していただければ幸いかと存じます。

それでは、自由討議に移りたいと思いますが、項目ごとにまた議論していくという形にさせていただきたいと思いますので、まずは情報開示と透明性という項目につきましてご議論いただければと思います。どなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。どうぞ。

○森メンバー

ありがとうございます。前回、開示と透明性のところでご検討いただくというお話をさせていただきましたので、それにつきまして、加えて意見を述べさせていただきたいと思います。

前回申し上げましたのは、投資家が議決権を行使するまでの間にどのような情報を入手するのか、その情報の信頼性はどうなのか、投資家が情報を検討するに当たっての期間は十分か、この3点、非常に大事であるというお話をさせていただきました。正確な情報の開示という観点から考えますと、情報の信頼性、質が重要でありまして、情報の作成責任を持つ企業としては情報の開示に大きな責任があるわけであります。開示される情報に対しては、会計監査人監査及び監査役監査が実施されることによってその信頼性、質が担保されるわけでありますけれども、そのためには一定の期間を確保することが必要である、ということであります。

つまり、招集通知の発送までに企業がしっかりとした情報を作成することができなければ情報として意味がないということでありまして、現場における決算の早期化は既に限界まで進んでいるという状況であります。招集通知の早期発送を目的として開示する情報の作成期間を無理にタイトにするような方向性は望ましくないと考えている次第であります。

例えば、株主総会の開催日を後ろ倒しにすることで、投資家は企業の情報を把握するのに十分な期間を確保することができると考えられます。さらに、現状最も詳細な開示情報である有価証券報告書の提出を、招集通知を発送するスケジュールとほぼ同時期に組めるとすれば、投資家はより多くの情報をもとに株主総会までの間に議決権行使に向けた準備を行うことが可能になるということであります。したがいまして、そのような前提のもとで、招集通知から総会開催日までの必要な期間を確保することが望ましいのではないかと考えている次第であります。

会社法の計算書類と金商法の有価証券報告書、これは最終的な企業の報告資料という位置づけであるわけでありますが、この制度の目的は異なっていましても、結果として必要な情報は重複する部分が多いものであります。重複する部分が多いにもかかわらず、会社法の計算書類等を添付した招集通知の発送から有価証券報告書の提出日まで3週間と開いているわけでありまして、この異なるタイミングで開示するということは、企業に開示のリスクが生じるということになります。したがいまして、開示のタイミングが異なることによって情報をアップデートしなければならないはずでありまして、そのアップデートのリスクが生じるということであります。

例えば、計算書類等を添付した招集通知の発送後に後発事象が発生した場合の有価証券報告書上の企業の開示の取扱いもリスクでありますし、監査役の内部統制の監査についてもこの3週間の間に新たな開示すべき重要な不備が発覚するケースもあります。現状、このように情報開示のタイミングが異なることによるリスクを企業は抱えているという実態になっていると考えております。したがいまして、計算書類等と有価証券報告書の開示のタイミングは、ほぼ同時期のほうが望ましいと考えます。

前回申し上げましたが、米国、あるいは英国においては、年次報告の提出後に招集通知を発送しており、年次報告書を株主総会の議決権行使に十分に活用しているということになるわけであります。日本においては有価証券報告書の提出日がほぼ6月末、株主総会日の後になるわけでありまして、有価証券報告書の開示内容を議決権行使に活用することができない状況になっておりますので、ぜひその辺は考慮すべき点であると考えている次第であります。

さらに、情報開示と透明性のCのところに外部会計監査人がその役割を適切に果たすためにということで、幾つかの点を挙げていただいております。このOECDの原則においても、外部監査人の役割として明確に記載されているわけではありませんが、ここはやはり我が国のコーポレートガバナンス・コードにおいても明確に記載されるべきではないのかと考えている次第です。

それと、以下の点ということで6つ例示を掲げていただいております。これらの点は、まさにごもっともな点でありまして、コードにはやや詳細かなという印象はありますけれども、OECDの原則においても、原則本体の記載とその注釈の記載という構成になっていたと思います。この6つの点につきましては、法令、あるいは監査を行うための監査基準に記されている点が多いわけでありますが、これはあくまでも監査をする立場での基準であります。したがいまして、コーポレートガバナンス・コード、これは企業側、経営側の規律でありますので、経営側の規律においてもこういった情報の信頼性を確保するという重要な点につきましては、何らかの形でコードに記載する必要があるのではないかと考えている次第であります。

続けてよろしいですか。

○池尾座長

はい。お願いします。

○森メンバー

それと、取締役会についてと監査役会についてでありますけれども……。

○池尾座長

それはちょっと後で。

○森メンバー

それは後ですね。

○池尾座長

はい。

○森メンバー

了解しました。今、この開示と透明性のところについて発言させていただきました。ありがとうございました。

○池尾座長

どうも。ほかにいかがでしょうか。では、冨山メンバー。

○冨山メンバー

済みません、途中でいなくなっちゃうので、パタパタと話をしておきます。

まず、お手元の意見書にも書いてあるのですが、開示及び透明性の議論で、これ、実は後ろの株主との対話とちょっとかぶる話なのですが、今後のいわゆるエンゲージメントをちゃんとやっていきましょうという議論の脈絡でいうと、確かに財務情報も非常に重要なのですが、長期的にこの会社、どうするのよという議論が実は一番大事な情報になってくるとすれば、いわゆる統合レポート的な非財務情報も含めたものの考え方を開示していくことが私は大事だと思っているので、この議論は私は入れてもらえたらいいのかなと思っているのが1つ。

それから、あと、開示の中身の中で、報酬の議論と人事のところがありましたが、私としては当たり前の話であって、こんな不透明な決め方するんじゃねえよというのが、少なくとも幹部の報酬と幹部人事、それを密室でやるなんていうことは公器たる上場企業においてはあり得ない話であって、正々堂々と開示すればいいわけで、オムロンなんて社長指名の経緯までIRで公表していますから、何も困らないです。簡単です、こんなことは。これは当然、私は入れるべきだと思っております。

とりあえずこのぐらいにしておきます。

○池尾座長

途中退席されますから、特別に後ろのほうについても、もし意見があれば。

○冨山メンバー

じゃあ、いいですか。ささっと言っちゃいますね。駆け足で。今の脈絡で、お手元資料の2ページ目、取締役会の責任なのですが、この議論は、このページ5、6のほうの皆さんの資料にも書いてあって、金融庁の資料にも書いてありますが、ここに書いてある検討の視点、私、ほとんどイエスでありまして、これは基本的な立ち位置は監督と執行でいえば監督のほうに基本的にはフォーカスしていくというのが正しい考え方であって、したがって、要は英語で言うとモニタリングですよね。監督と言うとちょっと誤解を招きやすいんですけれども、要は監督というのは叱咤激励することです。だめだったら叱咤するし、いいことをやっていればがんがん激励するというのが仕事であって、叱咤激励するのが仕事であって、細かい執行業務にかかわることは私は本来の仕事ではないと思っております。

3ページ目に行きますが、ところが日本の会社法上、そんなことはできないんだとすぐ反論する人がいるんですけれども、これ、要は会社法でいうところの重要な業務執行の解釈の問題であって、私が実際かかわっている大企業のケースでも極端に分かれます。大体、相当大きな会社でも実際は決議事項が毎月毎月せいぜい3つか4つしかない会社と、20も30も出してくる会社があるんですよ。これ、要は取締役をやっている人自身なりなんなりが根性がなくてびびって、何でもかんでも重要な意思決定にしておいたら、てめえの身が安全だろうといっぱい上げちゃうんですよ。また、そういう中途半端なことを弁護士に聞くと、弁護士の人はまた慎重なことを言うので、彼は言わないと思いますけれども、言うので、とりあえず役会決議にしちゃいましょうという。ああいう運用をしているのがはっきり言ってだめだめなわけでありまして、全然この3つ、4つに絞り込むことは現状の会社法上も可能なはずなので、極力やっぱり高度なありようとしては、できるだけ、少なくとも会社法上、法の許す範囲で監督と執行が分離していくような実際の取締役運営は可能だし、そうしていくべきだというふうに言うべきだと思っています。

それからあと、監査役会についても簡単に触れておきます。監査役会の議論については、私自身、監査役制度に対して決して否定的ではなくて、これはこれで1つの仕組みなんだろうと思っていますが、その重要性を言うあまり、これは私のページだと5ページ目ですが、監査役の仕事を妙に攻めのガバナンスの議論まで広げることはかえって制度破産のリスクがあると思っていて、やはり本来的に監査役は守りのガバナンスのかなめですから、守りに徹してここをちゃんとやってくれというのが私の実務的な要望です。

これは何でこういうことを言うかというと、多分戦後最大の粉飾事件ってカネボウ事件でありまして、私はその捜査側にいた本人でありますので、あのときの実感でいうと、当時の監査法人、これは監査法人はなくなっちゃったのである意味ではちゃんと責任をとっているわけですけれども、要するに監査役は何をやっていたのって正直あるわけです。10年間ぐらいずっと粉飾を見逃しているわけで、あれでJ-SOX法ができたんですよね。これでああいうことなくなるかと思ったら、とんでもびっくり、オリンパス事件や大王製紙事件が起きているわけで、ということは、これ、3つの事件で共通しているのは、不祥事の根本原因が経営トップなんですよ。代表取締役がやっている、はっきり言って犯罪行為なんですよね。そういった問題に関して、監査役制度がどう機能してきたかということは検証すべきで、現状、不十分であれば、それはむしろ強化すべきです。もっとストレートに言っちゃうと、これはちょっと言いにくいんですけれども、例えばカネボウとかみんなそうなんですけれども、古い日本の会社というのは内部、社内昇格の監査役というのははっきり言って取締役になれなかった人の充て職みたいになっていて、その人事権を社長が持っているわけですよ。だけど、一方で、内部告発とか情報を圧倒的に持っているのは社内の常勤監査役なんですね。そうすると、あの仕組みだと社長を絶対刺すぞみたいなタイプで内部告発する人は監査役にはなっていないはずで、本当にそれって機能するのかなと疑問を感じています。

私自身、社外監査役もやったことあるし、社外取締役と両方ともやったことありますけれども、そこはやっぱり社外監査役だと入ってくる情報に限度があるので、この問題はやっぱりぜひとも、もしここで議論、そこはむしろ突っ込んで議論してほしいと思っています。

それからもう1点、攻めのガバナンスに対して監査役が果たし得る役割に関しては、私はあまりここを期待すべきではないと思って、ここに書いてあるとおりで、やはり攻めのガバナンスに関するガバナンスの一番コア中のコアはトップ人事です。権力というのは最後ここに収れんするので、この議論に関してトップに関する人事権を持っていない人がどんな遠吠えしたって意味がないです。ちなみに、監査役がトップ人事にかかわれるのは、トップが犯罪行為をしているときに限られちゃうので、あれはたしか職務執行停止権か何かをお持ちでありますよね。ということは、トップが犯罪でも犯してくれない限りはトップの首とりに行けないので、そこはどうしたって深くて暗い川があるので、そのことは忘れちゃいけないんだと思っております。

そんなところで、あと、最後の株主との対話の議論ですが、18ページ目、これもこういうことを説明していくのは、企業は、持続的な成長を実現するために云々かんぬんと、どのように考えるかというのは、これ、逆にこれを論理的に明確に説明してなかったら、これははっきり言って経営じゃないでしょう。これが説明できなかったら、何もやってないと同じで、こんなの当たり前でしょうというのが私の、少なくともまともな経営感覚では当たり前なので、もしこれが嫌だという人がいたら、はっきり言って上場するのやめたほうがいいですよ。私はそのぐらい思っています。

ちなみに、私もういなくなっちゃうので、一応取締役協会と経済同友会から意見書を出しておりますが、私の感覚で言うと、これはどちらも経営者が集まっている団体です。ですから、ちょっとマスコミの方に気をつけてほしいのは、すぐ簡単に経済界はこう言っているということをマスコミの方はお書きになりますが、正確にちゃんと把握をして、こういうのも全部読んだ上で経済界がどう言っているかということはちゃんと記事にしていただきたいと思います。何が言いたいかというと、これは非常に多くの、顔ぶれを見ればわかりますように、非常に真っ当なちゃんとした企業群の人たちが集まってつくっている意見書でありますので、極めていろいろな意味での実情を踏まえた意見書になっているはずです。そういった意味合いで、私個人の感覚で言うと、OECDがフロアーであるとすれば、この辺がせいぜいストライクゾーンの真ん中ぐらいかな。高めではありません、このぐらいで。

これはもともと政府の再興戦略のど真ん中にコーポレートガバナンスを据えているということは、今ある現状から改善・改良的なコーポレートガバナンス・コードが出てくるのであれば、これは全く政府でわざわざ閣議決定までする必要のある話ではないわけで、どう考えても異次元のコーポレートガバナンスをやっていくんだという内容が今回のコードから出てこなければ、これははっきり言って全く今回の政策的な期待に応えてないことになります。これは当然のことながら、同友会と取締役協会のストライクゾーン、私は真ん中ぐらいなので、もうちょっと高めでもいいぐらいだと思っているので、そのくらいの不連続をつくるつもりでやっていくような議論を今後もぜひともお願いします。以上であります。

○池尾座長

どうもありがとうございました。冨山さんの2つ目以降のご意見に関しては、とりあえずはテークノートしておいていただいて、ちょっと戻らせていただいて、最初の情報開示と透明性の項目に関して議論をもう少し続けさせていただきたいと思います。

では、小口メンバー。

○小口メンバー

ありがとうございます。情報開示と透明性のところですが、投資家の視点でこれを読ませていただいたのですけれども、投資家というのはあくまでもアウトサイダーですので、そういった外部にいる一般的投資家にとって、基本的に経営にかかわる社外秘の情報以外の情報については、開示による透明性確保をしていただくというのが前提条件かなと思っています。今日説明はございませんでしたけれども、資料3の3ページのところに「コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方」というキーワード分析があり、これは企業さんが実際にキーワードを書かれているということですが、約7割の企業が「透明性」に言及されている。これはガバナンスにおける情報の非対称の問題ということで、社内にいる経営の方と社外にいる投資家の間の情報非対称があるがゆえに、やはり透明性が大事だということを企業の方もお考えになっていることの証左かなと思っております。

そういった視点で情報開示と透明性の項目を拝見すると、私自身はコンプライ・オア・エクスプレインということであれば、対象から外すような項目というのは正直見当たらなくて、これを全部そのまま書いてしかるべきだし、何かどこかいけないところがあるのかなとむしろ疑問に思ったのですが、ただ、少しひっかかりましたのは、2ページのところの個別報酬開示のところです。これは海外では進んでおりますが、日本の場合ですとやはり開示ということに対する抵抗から、結果的に、後ろのほうに書いてある、マネジメントや取締役の適切なインセンティブの障害になる副作用もあるんじゃないかなということで、何でもかんでも開示したらいいということではなくて、目的はやはりアウトサイダーである一般投資家に対して、適切な情報を開示するという視点でいいますと、個別開示の実態の数字まではちょっとどうかなとクエスチョンマークがついたのが1点です。

もう一つ投資家の視点で申し上げますと、3ページのEのところなんですけれども、情報の伝達、これはまさに誰に情報を出すのかということになると、投資家に出していただくということになりますが、投資家、株主に伝わらないと意味がないので、3割が外人投資家という現状下、彼らは日本の情報を解するのに大変苦慮しておりますので、ぜひこういう重要な情報については英語での開示というのは必須かなと思っております。以上です。

○池尾座長

ありがとうございました。いかがでしょうか、この項目に関して。どうぞ。

○森メンバー

済みません、先ほど発言したんですけれども、もう一つ、この3ページのDのところ、外部監査人と書いてありますので、私の立場でちゃんと言及しなければならないところだと思います。株主により選任される外部監査人、これは確かに会社と契約を結んでいるわけでありまして、会社に対する善管注意義務があるということでありますが、この外部監査のもともとの役割というのは、経営陣が開示する情報の信頼性の確保ですから、その情報を誰が使うのかというところにかかわってきます。ですから、情報利用者である株主、また、株主だけではなく、そのほかの利害関係者に対して責任を負っているということになるだろうと思います。したがいまして、こういった基本的な考え方、これをコードに記載することについては大変有意義ではないかと考えている次第です。

この責任の果たし方ですが、これは今A4、1枚の監査報告書によって果たしている、あるいは総会に出席して説明義務というのがありますので、そういった状況になったときに説明する、そういったところで責務を果たしているのかなというところであります。これはやはり今スチュワードシップ・コードも公表され、投資家が中長期的な企業の価値創造に向けていろいろな発言をするということであります。様々な情報についてもこういった監査人の責務、これは情報開示にも当たるわけでありますけれども、そこもやはりユーザーサイドの考え方というのが尊重されつつあるというところです。

特に、これは国内でどうなるのかというのは先の話ですけれども、海外の例を紹介しますと、監査報告書に、監査意見だけではなくて監査のときに留意した重要な事項、キー・オーディット・マターと呼ばれていますけれども、それについて記載をするということになってきています。既に英国では実務として進んでいるわけでありまして、我が国においても、監査報告書の記載事項として何が必要なのかという点につきましては、これから検討すべき課題ではないのかと考えている次第であります。以上でございます。

○池尾座長

ありがとうございました。内田メンバー。

○内田メンバー

まず、情報開示と透明性についての基本的な考え方として、健全なガバナンスを担保するために適時・適切な情報開示を行って、それによって経営の透明性を確保することは、非常に重要なことだと認識しています。中でも、企業の経営理念や経営方針、経営戦略など会社のオブジェクティブについて株主に対して十分説明することは非常に意義が大きいと思います。

ただし、一方で、いたずらに開示を増やすことで、株主、投資家の適切な判断を妨げたり、発行体企業にとって過大な負担、コストアップにつながることは避けるように工夫する必要があると思います。既に会社法、金商法、上場規則で法定開示等が課せられており、これらと整合性を持ちながら、持続的な企業価値向上に資する情報とは何かという観点で、十分に吟味して選別すべきと思います。

先ほどお話のあった統合報告書というのも非常に重要だと思います。ただ、すでに企業はアニュアルレポート、CSRレポート、知財報告書等々を出していますので、これにプラスアルファとなることは避けるべきと思います。投資家に見てもらうものと、ほかのステークホルダーに見てもらうものを共通化するということが重要だと思いますので、そういう観点での検討は必要だと思います。

各論のところの報酬開示では、個別報酬開示について、日本企業の役員報酬の多寡が問題になってはいない状況の中で、既に行っている1億円以上の役員報酬開示以上の個別開示が本当に必要なのかは慎重に考える必要があると思います。

また、先ほどあった英語による情報開示については、海外投資家の比率が高い企業や、海外から投資を積極的に呼び込みたいという企業は既に積極的に進めていると私は認識しています。ただ、海外からの投資が全然入っていない会社もあると思われ、一律にやるべきというのではなく、資料に括弧付きで「合理的な範囲」と書いてあるような形にすべきと思います。以上です。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、そろそろ次の項目に移らせていただいてよろしいでしょうか。

次が、取締役会等の責務(うち、役割・機能等の発揮)ということで、取締役会等のあり方というのは本丸の1つだとは思うのですが、まずは機能論のほうをやる。次回、組織論をやるということで、組織は機能に従うということで、機能をしっかりと議論しておいた上でにしたい。機能論抜きで組織のことを話される方がたまにありますが、それはやはり経済学者としてはおかしいと思っておりまして、まず取締役会のあり方を機能面から本日は議論して、どういう機能を果たすべきかということについてのコンセンサスを得たいと思っておりますので、この2番目の項目に関しましてご意見ございましたらよろしくお願いします。松井メンバーから。

○松井メンバー

済みません、なかなか出席もかなわなくて申しわけないと思っているのですが、やはり取締役会は、ここに書いてくれているように、大きくは長期方針を決めて、もちろんこのガバナンス・コードも長期にわたって会社をどう発展させるかということが最大の目標だと思いますから、あまり足を縛るようなことはしたくないので、そうしてほしい。確かに利益相反のマネジメントだとかリスクというのはあります。私も社外取締役は3社やっているんですけれども、現実的に社外取締役で現場を見に行って、細かいことはわからないんですね。したがって、わからないことを要求されても大変困るわけですね。相当丁寧に事前に説明をしてくれて、欠席をするとさらにまた説明してくれるわけですね。それでも、内情はわからないんです。

結論から言うと、3社の方々はどうやっているかと言うと、全て例外なく経営会議でやっています。我社もそういうことでやっています。したがって、執行していくところは経営会議で、執行役員中心にやるというふうにしないと、中途半端になっているとどうもうまくいかないという感じはものすごくしているんです。ここも明確にしてもらって、取締役会は執行したりどうのこうのという役割ではない、としないと難しいのではないかという感じがします。ここに書かれていることは大きく間違っていないと思いますけれども、そこら辺のところは整理をしていただいたほうがいいと思います。

○池尾座長

ありがとうございました。では、どうぞ、堀江さん。

○堀江メンバー

機能論というところで少し発言させていただきます。今回の目的が、株主の立場として、冨山さんの言葉で言うと攻めのコーポレートガバナンスだと思いますが、資本生産性を長期的に向上させていくことを目的に、何がしかのことを経営陣に働きかけていく機能が求められていると思います。そうすると、実効性を担保するために何が必要なのかということになるかと思います。

そうすると、実際に資本生産性を向上させるべく経営陣に働きかけていくと、そこにはある程度のクオリフィケーション(資質)がないと、ちょっと弁護士の方を前にして申しわけないですが、弁護士とか学者の方なんかがそういったことを本当にできるのかなと。今回の目的は守りではなく攻めを考えるということになりますと、独立取締役の資質に対して何らかの言及があってしかるべきかなというのが1点。もう一つは、今、松井さんおっしゃったように、株主の立場として何か資本生産性に関する向上の発言をしようと思うと、それなりの情報が備わっていないと難しいかと。株主の立場として、独立取締役が果たす役割を前提に話していますが、十分な情報を与えていただかないと、そういった機能を果たせないと思っています。

もう一つは、社内の論理だけでやると、資本生産性に関して違った角度からの視点が入らないと思います。そこにやはり独立取締役という観点が、株主の立場からの意見を言うという観点からして重要なのではないかと思っております。

この3点なんです。私は、次回出席できないので取締役の構成についてもついでに若干述べさせていただきたいと思います。冨山さんの属している日本取締役協会から3分の1以上というのが出ています。私も3名以上か3分の1以上という条件は非常に重要だと思います。私は外形的な要件にこだわるつもりはありません。経営者の頭の中をのぞいてみると、多分、市場のこと、従業員のこと、債権者のことばかりで、ほとんど株主のことを考えていらっしゃらない方もおられると思います。そういう意味から、株主のことばかり考えていただくと言っているわけではなく、ある程度利害関係者の間のバランスをとるためには、従業員、債権者、株主に分け、3分の1は株主のことも考えて頂きたいということで、独立取締役の数を3分の1にする、もしくは取締役の数が少ない会社は3名以上と、どちらか多いほうを条件に入れて頂きたいと思います。何度も申しますように外形基準にはこだわりませんが、先ほど言った機能を果たしていくためには、ある程度日本の状況を踏まえると、外形的な基準も整えていただきたいというのが、これは次回議論されるんでしょうけれども、申し添えさせていただきたいと思います。

○池尾座長

ありがとうございました。だから、求められている機能を実効的に遂行していくためにはどういう体制が必要かという形で次回、議論させていただきたいと思いますので、その前提としてどういう機能が取締役会に求められているかというところを確認させていただきたいということです。

いかがでしょうか、ご意見。内田メンバー。

○内田メンバー

皆さんご承知のことを繰り返すのははばかられますが、本件については原点に立ち返って考える必要があると思いますので、申し述べさせていただきます。

欧米の取締役会というのは基本的にはモニタリングモデルで機関設計されていて、取締役会といえば、業務執行に関する監督、モニタリングをする機関というのが一般の認識です。それに対して、日本の監査役会設置会社制度における取締役会は、業務執行に関する意思決定が中心的役割になっており、いわゆるオペレーション型の機関で、モニタリングは監査役会と取締役会自体とが担う設計になっています。この2つの制度は、会社法上、企業のガバナンスという目的は同じですが、アプローチが違うということだと思います。この2つの異なるアプローチが生まれた背景は、社会構造の違い、特に労働市場の構造の違い、労働市場に流動性があるかないかということであり、これが一番大きな要因であると思います。

そうした中で、会社法上、モニタリングモデルである指名委員会等設置会社、それと異なる型の監査役会設置会社、そして、その中間的な位置づけと思われる監査等委員会設置会社、この3つの制度が制定されていますが、会社法で決められている以上、この3つの制度はコーポレートガバナンスの観点からは基本的に等価であるはずです。したがって、この3つの類型について、等価であるということと、それぞれの特徴を踏まえた明確な説明、考え方というのを、ぜひとも示す必要があると考えます。

ここで、取締役会について、モニタリングを重視するのか、あるいは業務執行を重視するのかは、各社各様の考え方があると思います。本コードの検討の背景として、モニタリングモデルに近づける方向に力が働いているようですが、収益力強化に向けてコーポレートガバナンスの強化を図る際に、唯一の正解はないと思います。モニタリングモデルが万能ということはなく、これによって収益力が高まるということは一律的には言えず、それぞれの会社がみずからの企業価値向上に資する機関設計を各社の判断で選択するというのがあるべき姿と思います。もし、監督と執行の分離というモニタリングモデルに偏った形でコードが設定されると、上場企業の大半を占めている監査役設置会社にとっては適用が困難になってしまい、会社法に戻る話だと思います。

また、海外から十分理解されていない、言いかえればコーポレートガバナンス上問題があると思われている監査役会設置会社制度に関して、取締役会と監査役会などのガバナンスの根幹を担う機関について、それぞれが果たすべき役割・責務について、会社法などの枠組みと整合的に明確に示すということは意義があると思います。

中でも、監査役会や個々の監査役が果たしている役割や権限については海外の投資家には十分理解されていないと思いますので、明確に発信することが重要だと思います。

その際、2回目の会議で申し上げたことであり、先ほど冨山メンバーからは反対の意見が出ましたけれども、監査役について、単に法制度上の義務、権利を説明するだけではなくて、監査役に期待されているより広い役割についてもしっかり記述することが重要だと思います。社外監査役を含め、監査役というのは非業務執行役員であり、そういう観点から、広い役割が期待されてよいと思います。単なるコンプライアンスオフィサーとしての機能だけでなく、情報収集については極めて強い権限が会社法で保証されているわけですから、そういう情報を活用して企業価値向上に資する意見、アドバイスを述べることも期待されていると思います。こういう期待役割を記述することは投資家への理解を深めるだけでなくて、会社のよりよい取り組みを促すということにつながると思います。

それから、少し長くなりますが、監査役は取締役会の議決権を持っていないので、取締役会の意思決定にどこまで影響力を及ぼせるのかということが問題にされますが、いろいろな企業にお聞きしたところ、取締役会にかける前に監査役会に案件を相談し、そこで反対された場合は議案を取締役会に上程しないという運用をしている会社もあり、監査役が反対意見を表明している案件を取締役会で決議するということは、事実上かなり困難が伴うと考えられます。監査役会の判断というのはやはり取締役会に大きな影響を与えていると考えます。以上です。

○池尾座長

では、中村さん。

○中村メンバー

まず、今、監査役会の話が出ておりまして、個人的な見解ですが、冨山メンバーのおっしゃられたことと内田メンバーのご見解と、そんなに違いがあるかというとよくわからないんですけれども、実際の体験に基づいて申し上げますと、常勤監査役が情報収集をした中で課題があるところを社外の監査役、社外の取締役に共有して、その中で会社の内情というところを把握していただくというようなことが私どもの会社の中では行っておりますので、そういった実態的な意味合いにおいて、常勤監査役というのが常に会社の中にあって、まさに監視といいますかチェック機能というのを持っているモデルというのは、実態的に有効に働いているのではないか、またモニタリングモデルとの共生も考えられるのではないかと考えております。

ここに書かれている方向的なことについて、大きな違和感があるということではございませんけれども、例えば取締役は会社及び株主の最善の利益のために行動すべきであるというようなこと、受託者責任ということについては当然のことなんですけれども、ここの書きぶりのところで、多様なステークホルダーとの協働や意見の考慮というところと、ちょっと外見的に矛盾するように読める部分もございますので、最終的に整理をするときには株主の共同の利益とか、そういう形でご検討いただきたいと思います。また、片仮名言葉が結構あちこち出てくるんですけれども、今後、このコードを、中小の方も含めて上場企業に広く知らしめて実行してもらうという観点からは、最終的な文書にするときにはできるだけ誰にでもわかる日本語で表現をしていただくのが良いのではないかと思っております。

それから、後のところにも若干関係するんですけれども、報酬に関しては、インセンティブ付与という考え方があるんですけれども、取締役の選任等にも関係があるのですが、やはり日本の、特有なのかどうかはよくわかりませんけれども、必ずしもお金ではないというか、必ずしもたくさん報酬を得られるからもっと頑張るというものでもないのではないかというところもございますので、そういうところも検討の中で考えていただきたいと思います。また、例えば私どものような小売業等では、経営者がすごく頑張ったからといって業績が必ずしも上がるということではなく、やはり全従業員がやる気を持って働くということが会社の業績に最終的にはつながっていくということなので、経営者のインセンティブということだけではなくて、日本の会社が元気になるためにはどうしていったらいいのかということを、経営者ということだけにあまりフォーカスして議論するとうまくないところもあるのではないかということを申し上げたいと思いました。以上です。

○池尾座長

ありがとうございました。大場さん、それから小口さんでお願いします。

○大場メンバー

取締役会の機能にとりあえず焦点を絞ってということでご意見申し上げますけれども、今、現状を見ますと、堀江さんからもお話がございましたけれども、企業を取り巻くステークホルダーの中で、やはり相対的に意識づけが取締役会の中で希薄化していると思われるのは株主だということを前提にして議論しないと、今回のこのコード作成の会議が開かれているということに応えることにはならないだろうと思います。したがいまして、株主の期待にどう応えるかということが取締役会の機能の重要な部分だという認識が必要ではないかと思います。

もう一方、現状がどうなっているかというと、モニタリングやリスク管理というのは相対的には相当機能しているという認識のほうがいいのではないかと思います。むしろ持続的な成長に向けての議論が足りなさ過ぎる嫌いがあると、こういうことではないかと思います。

したがいまして、取締役会の役割としては、持続的成長に向けたビジョンの作成、そのビジョンを株主の期待に応えるためにどのような経営資源の活用をして実現していくか、これを具体的に取締役会の中で議論することが求められているのではないかと思います。以上です。

○池尾座長

どうもありがとうございました。では、小口さん。

○小口メンバー

ありがとうございます。このOECD原則の5ページから始まるところの原文、その訳文ですけれども、今回は記載から抜けてはいるのですが、それを拝見しますと、このOECD原則というのは、「会社を統治し経営陣を監視する機能が如何なる取締役会構造にゆだねられようとも、それらに適用するために十分に一般的であることを意図している。」と明記されています。いろいろなOECD加盟国がありますし、制度も必ずしも同じではない、いろいろな機関設計がある中で、先程の池尾先生の話ではないですが、まずどういう機能かというところに立ち返り、どんな体制をとろうとも取締役会の重要な機能だとするOECDの視点でここに書いてあることを見ますと、いずれも納得的な内容であると改めて思います。とりわけ今回、Eのところで、次回議論予定となってはいるのですが、独立の判断を下すことができるべき責務の例ということで、11ページのEの1番ですけれども、財務・非財務報告の廉潔性の確保とか関連者取引の検討、取締役会メンバー、幹部経営陣の指名、取締役会に対する報酬といったものが利益相反が発生しやすい例として挙げられている。言い方を変えると、これらの機能については、外から見るとどうしても、利益相反が実際に起こっているということではないにせよ、やや眉唾なものに見られがちだということです。

それで、先ほど来、攻めのガバナンスといった話が出ていますが、攻めるために例えばそういった独立の見識を持った方を入れる、ダイバーシティを深めるというのはもちろん大切なのですが、やはり外にいる株主に対していかに利害相反が回避された形で運営されているかということを、これは外部にはわからないので、中からアピールしていただかないといけないという点は強調しておきたいと思います。ひょっとしたらお手盛りの人事がされているんじゃないかとか、ひょっとしたらお手盛りの指名がされているんじゃないかと、監査もそうですけれども、言い方は難しいですが、そのような後ろ指をさされない透明性を確保するということによって、かえって経営は思い切ってリスクもとり、企業価値向上に向かう体制がとれるんじゃないかと思っています。ですから、次回、具体的にどうするかというお話はあるとは思うのですけれども、提出された経済同友会の意見書を拝見しましたが、監査役設置会社や監査等委員会設置会社においても過半数が独立で構成される指名諮問委員会、報酬諮問委員会を設置するというのは、繰り返しになりますが、次回以降の議論にはなるのですが、私自身としては大変傾聴に値するご提案じゃないかと思っています。

それから、監査役についてですが、私自身も監査役の方と何度かお話をして、監査役の方のいろいろなお気持ちとか、あるいは一生懸命やられていること、それから、会社への貢献というのはよくわかる、理解はできるんですけれども、外にいる株主にとってみると、やはりやればできるという話と、やらなければならないという責任とは違うんじゃないかと思っています。我々などは企業さんとよく話をするので少しはわかっているつもりではありますけれども、あくまでも外にいる投資家、株主にとっては、対話するにしても、あるいは議決権を行使するにしても、責任を伴った権限の所在を明確にしていただくことが必要だということです。そのことと一生懸命いろいろな役職の方が会社のために働いていただくこととは、別に議論したほうがいいんじゃないかと思っています。その意味で、冨山メンバーはもう退室されたようですけれども、冨山メンバーの前回の資料の中で、あるいはいろいろなところでも言及されていますけれども、会社法改正において社外取締役導入に関する法務省令で、社外監査役の存在が、社外取締役を置くことが相当でない理由にはならないと記載される予定だと聞いており、社外監査役と社外取締役の機能が違うということで議論が決着したものと理解しています。同じであれば2つ存在する必要はないのであって、違うから意味があるとすれば、その違う役割とは何なんだということを議論していったらいいのかなと思います。

それから、これは私も企業さんと話をしていて思うのですが、社内監査役の方は確かにディープに現地実査されたり、いろいろ社内の方との連携があって、社内監査役の果たす役割というのは、これは逆に海外にはなかなかない良い機能かなということで、先ほど外人は日本の監査役について理解がないという指摘がございましたけれども、例えば昨年の10月にACGAという100以上の海外の機関投資家が参加する団体が、「『監査委員会』との比較における監査役会の役割と機能」というペーパーを公表していまして、お時間があればまた後でごらんいただけたらと思うのですが、そこでは、会社内部にいてよりディープに議論に入れるという意味での内部常勤監査役、それは海外にはない機能としての長所を認めています。しかし、その一方で、監査役については、海外の「監査委員会」と比べた上で、先ほど申したような利益相反の懸念について触れています。攻めのガバナンスにおいて透明性を高くする議論とあわせて日本のコーポレートガバナンス・コードに書けたら、AオアBではなくてAプラスBという形で書けたら大変いいものになるんじゃないかなと思いましたので、意見させていただきました。

○池尾座長

ありがとうございました。それでは、太田メンバー、お願いします。

○太田メンバー

池尾座長が言われているように、いわゆる機能ということから議論すべきだということですが、形と機能の分離のしぐあいが私の発言の中で一部混乱するかもしれません。先ほど来、各委員の方々から出ておりますが、まず取締役会等の責務ということに関して言えば、冨山委員が退席してしまいましたので、冨山氏がいないままでの指摘になってまことに申しわけないのですが、後で議事録をごらんいただければと考えて発言いたします。資料1の5ページ、これは釈迦に説法ですけれども、現行法では取締役の職務の執行の監督義務に加えて、業務執行の決定というものを上げているわけですね。これはご承知のとおりです。

日本型の取締役会のあり方についても、今いろいろな改善提案がありましたけれども、私も、むろん、課題がないと申し上げるつもりはありませんけれども、少なくとも私が承知する限り、モニタリングモデル型の取締役会が制度としてすぐれているんだという実証研究はないと思います。

したがって、むしろ大事なのは取締役会に中心的に期待される機能は何かということだと思いますが、5ページにありますように、やはり会社の戦略的方向づけ、これが一番大きいんだろうと思います。だからといって、それ以外の利益相反のマネジメントだとか、さまざまな経営評価だとか、とりわけ少し気になりますのは、経営幹部の選解任だとか、あるいは経営者評価が中心的な機能なんだと断定することには私は非常に違和感を持っております。全てこれらの並びの中で優先順位が各個別企業の中の実態に応じて優先されればいいだけのことであって、繰り返しになりますが、経営者評価、あるいは経営幹部の選解任が中心的な機能だとする見解は我が国では定まっていないのではないかと思います。

また、取締役会の構成を論ずる場合に、やはり構成員の多様化というのは当然必要なことだと思っております。前回も発言いたしましたけれども、専門スキルであるとか業務経験、あるいは会社の、当該企業に関する知見だとか知識、これが必要なのは言うまでもないと思いますけれども、それに加えて業務経験だとか会社の活動内容に精通している社内の人間、これもやはり議論に加わるということは欠かせないと思います。そういった点をまず指摘しておきたいと思います。

それと、少し形の議論になるかもしれませんが、日本の今の取締役会のコーポレートガバナンスの機関設計の中で、繰り返しになりますけれども、98%の企業が監査役会設置モデルを採用しているという事実は厳然としてあるわけで、その評価は別の機会に譲るとしても、幾つかの企業においてはさまざまなトライアル、試行を継続的に行っていると思います。例えば今、内田メンバーがおられますが、東レさんもそうですし、多くの企業でも行われていますけれども、監査役会設置会社方式の企業において、取締役会の下に、いわゆる任意ですけれども、社長の指名諮問委員会だとか、あるいは報酬の諮問委員会というものを設置して、委員長を社外の取締役の方が務めるというような、いわばハイブリッド型の機関設計も採用している企業は決して少なくないということがあげられます。むろん任意ということなので、強制力がないではないかという議論が当然想定されるわけですけれども、社外役員がその議長を務めるということで、助言機関としての独立性をより一層担保して、提言内容を取締役会がリスペクトすると、こういう業務慣行がそろそろ定着してきているのではないかなと思います。

あと、もうちょっと続けていいですか。

○池尾座長

どうぞ。

○太田メンバー

12ページ以降のところに、監査役(会)に期待される役割・責務という項目があります。たくさんの問題の検討の視点、ここで挙げておられます。ちょっと悩みましたのは、12ページの下から2つ目の、業務の適法性を超えて、どこまで当否の問題、つまり妥当性に踏み込むことができるかという設問です。これも皆様にとっては、既にご存知のとおり、監査役の業務監査の範囲をめぐりましては、適法性に限定されるのか、あるいは妥当性、相当性にも及ぶのかという議論が依然として存在しているという事実はあると思います。しかしながら、監査役が今どのような仕事をしているかということなんですけれども、現実には地道に業務慣行の積み重ねを行ってきているということでありまして、その内容は、結論から申し上げれば必ずしも適法性監査には限定されていないと認識をしております。

我々監査役の日々の活動はどうなのかということから考えますと、一々、例えば業務監査の折に、これは適法性の観点から自分は監査しているのか、あるいは妥当性、相当性の判断からなのかというようなことを考えるのではなくて、むしろ思うところ、気づいたところをさまざまな業務経験を背景にしながら発言したほうが、会社のため、ひいては投資家、あるいは他のステークホルダーのためになるだろうと思い込んで仕事をしているというのが実態だと思います。実態に対する批判はいろいろあってもいいのですが、それが実態だということです。

具体的に申し上げます。当協会で2012年に行ったアンケート調査結果からはこういうデータがあるんです。議長の求めがない場合であっても、87%の監査役さん、これは社内外を含めての議論になりますが、87%の監査役が発言をしておりますし、その主たる発言内容は何かというと、3つです。

1つは、やはり企業経営のリスクだとかリスク管理、あるいは損害の程度に関する事項が最も多くて、これも87%です。重複する回答オーケーにしていますので、数字はダブるのですが。次いで大きいのは、法令、定款への遵守状況、これが82%。3番目に出てくるのが経営判断原則の履行の十分性に関して質疑を行うというのが61%というアンケート調査結果がございます。

申し上げたいのは、経営効率の監査とも言われる監査慣行が実践されていること、既に多くの企業で実践されているベストプラクティスであるということを関係者にはぜひ理解していただきたいと思いますし、我が国独自で発展してきた監査役制度、その監査役制度の足跡とか特性、こういったものをむしろ肯定的に捉えていく必要があるのではないかとまず思います。

それと、もう少し続けますと、監査役の専門性、個々の案件に関する資質の問題についての視点がございます。まず、日本監査役協会では、既に監査役監査基準なるものを定めてございまして、とりわけここで挙げられておりますけれども、財務・会計の知識を有する者の配置が望ましいというふうには規定してございます。一方、監査役の要件として、財務・会計に関する知識を有することは必ずしも必要条件ではないというふうにも思います。特に、社内から選出されている監査役においては、むしろ多様な業務経験、監査役会設置会社の前提で申し上げておきますが、複数の監査役さんがおりますので、多様な業務経験を有する者の集団であることが望ましいと思っておりますし、必ずしもそれが全て法律だとか会計等の専門知識に限定される必要はないと考えております。

しかしながら、より効率的な監査、職務を遂行していくためには、当然、会社法であるとか金商法、そういった知識を持つことが必要だというふうにも認識しておりますので、監査役協会が提供している研修受講実績、こういったものを例えば日本の監査役制度の説明の中で、こういうことをやっているんですというようなことを開示項目とするということがあってもいいのではないかと思います。

具体的に申し上げますと、今、有報に記載されている、財務だとか会計の知識を有する者の記載がある会社は、東証の一部上場に限りますが、2012年のデータでは約70%に上ります。

一方、監査役協会が提供している、いわゆる財務・会計に関する研修の機会は、年間で約60回で、延べ受講実績が1万2,000人強ということですので、1回当たり200人ぐらいの監査役さん、当然、知識のない方もおられます。そして、知識のある方でもさらにそこをレビューしようという形で来られる。そういうような実績もありますので、実は監査役の方々には、相当程度こういうことに対する研修意欲があり、あるいは協会としてもそういう研修の機会を提供しているということもあるので、これを開示項目にしていただくということがあっていいのではないかと思います。

それともう1点、社外取締役と監査役なのですが、先ほど内田メンバーからもありましたけれども、同じ非業務執行役員であります。しかしながら、社外取締役は残念ながら実態として常勤が前提とはなっておりません。したがって、やはり情報の入手に相当制約があるというのが欠点だろうと思いますが、この社外取締役の方々と監査役が連携することによって、我が国の企業統治の実が大いに上がるんだということをコーポレートガバナンス・コードの策定の上で、この項目を1本起こして、そこをきちんと説明していくことが必要ではないかと思います。ちょっと長くなりましたが、以上です。

○池尾座長

どうもありがとうございました。では、先に神田メンバー。

○神田メンバー

ありがとうございます。3点意見を申し述べたいと思います。冨山さんの言葉で、守りと攻めというのは非常にわかりやすいので、私も借用させていただきます。資料1の5ページ、6ページあたりに挙がっている取締役会の機能でいいますと、利益相反のマネジメントですとかコンプライアンスというのは守りに当たると思いますので、私はむしろ攻めのほうに着目して申し上げたいと思います。

この観点から見ますと、取締役会の機能という観点から見て、既にご指摘があったことですけれども、取締役会はあえて分類すると3つに分けられると思います。1つは、欧米で最近多くなっているモニタリングボードとでも呼ぶのでしょうか、取締役会の機能はモニタリングをすることです。ここでいうモニタリングというのは守りの意味ではありませんので、監督などと言われますけれども、その点を誤解しないようにしなければいけないと思います。第2は、日本企業の多くはそうだというご指摘がありますけれども、業務決定を中心に行う、マネジメントボードとでも呼ぶことにします。第3は、将来も見据えると、両方やるというのでハイブリッドボードとでも呼ばせていただきます。この3つは、結局どれもあり得るので、答えはあまり簡単ではないのですけれども、欧米においても、私の理解では昔は上場会社の取締役会は全てマネジメントボードであったと理解しています。アメリカにおいてもそうであったという指摘がアメリカの文献で十分にされています。

にもかかわらず、では、なぜアメリカにおいてマネジメントボードであった上場企業のボードがモニタリングボードになったのかということなのですけれども、そこを研究する必要があるように思います。それは、日本の将来も、今ここでまさに成長ということも視野に入れて、ボードの機能がどうなっていくべきかという議論も必要になると思いますので、そういう議論をする際に参考になると思われるからです。

私が知る限り、アメリカでなぜマネジメントボードがモニタリングボードになったかについては意見は分かれていて、1つだけの説明が圧倒的に優位なわけではないと思います。しかし、最大公約数的に申し上げますと、その最大の理由は、私の言葉で言うと株式市場の目ということだと思います。そうだとすると、時間の関係で手短にさせていただきたいと思いますけれども、この場を含めて、日本でも株式市場の目、あるいは株式市場の観点というものを入れたときに、取締役会の機能がどうなっていくべきなのか。複数のタイプがあり得るかとは思いますけれども、そのあたりについてコードで何か記述できないかということがあると思います。

次は、2点目です。これは厳密に言うと取締役会の機能ではないのかもしれないのですけれども、取締役の選任議案とか報酬に関する議案が株主総会に付議されるという場面を考えますと、これは株式市場の投資家の立場からいいますと、その議案についてやはり誰かが意見を述べてほしいと思われるわけです。社外取締役、あるいはそれに相当する人が総会に提出される選任議案、それから、提出される場合ですけれども、報酬に関する議案について意見を述べるという機能が、取締役会自体ではないかもしれませんが、どこかに必要な気がします。

そこで意見を述べる人というのは、株主に対して責任を負える人であるのが望ましいので、社外取締役、またはそれに相当する者と言いましたけれども、法律的に言えば、現在の会社法を前提にすれば会社に対して善管注意義務を負っている人というのが望ましいと思われます。

それから、3点目です。これもちょっと直接取締役会の機能ではないのかもしれませんが、今回のいろいろなご議論を伺っていますと、資料の5ページあたりに「過大なリスクの回避を含む」と括弧書きがついていて、括弧の外のほうが大事なのかもしれませんが、やはり日本の企業はリスクをとるということも重要で、もう少しリスクをとるということをしていく必要があると思います。ですから、括弧の外のほうの「適切な企業家精神の発揮」というほうがいいのかもしれませんけれども、そのためにリスクをとった結果、しかし、結果が悪かったときに後から結果責任を負うようなことがないような仕組み、ルールなのかもしれせん、それを確保する必要があります。これは大変重要なことで、さもないと保守的にリスクをとらない経営になってしまうので、これはまさに攻めという言葉で言えば、コーポレートガバナンスの観点から決して望ましいことではないわけです。ですから、もう少しリスクをとれるような、したがって結果責任というものは負わないような、何かそういうことを、議論していただいてはどうかと思います。以上です。

○池尾座長

ありがとうございました。森メンバー。

○森メンバー

重なる部分も多いと思いますけれども、発言させていただきたいと思います。今回の会議につきましては、やはりコーポレートガバナンス・コードをつくる、そして、スチュワードシップ・コードはもう公表されておりますが、これらを車の両輪として企業の成長に結びつけようということであり、やはり株主、投資家の視点というのは非常に大事なんだろうと思います。その中で、モニタリング機能とマネジメント機能、これらをどのように整理しているのかという説明がまず必要であると考えております。

日本の場合ですと、やはり指名委員会等設置会社、そして監査役会設置会社、それと新しい機関である監査等委員会設置会社、この3つのパターンが上場会社の場合は考えられるわけですけれども、それぞれの構成によってモニタリング機能とマネジメント機能は違うんだろうと思います。そこをまず企業サイドで説明をする必要があるのではないかと思います。したがいまして、監査役会設置会社の場合、マネジメント機能を持たせるとすれば、監査役会におけるモニタリング機能を十分に働かせているその仕組みについて説明する必要があります。あるいは取締役会において、これはモニタリング機能を持っているんだということであれば、マネジメントはどのように行われているのかというところについて説明をする必要があると思います。これは、特に会社法の機関設計の中に入っていなくても、それぞれの企業が説明をしていけばいいことであると考えております。

それと、監査役会のところですけれども、監査役会設置会社においては、監査役会がモニタリングにおいて非常に重要な責任を負っているということでありまして、13ページの最後のところの「責務を実効的に果たすために必要となる体制」、これは非常に大事なところでありまして、これを確保するというのは何らかの形でコードに入れるべきではないかと考えております。

モニタリングを協働して、協働ではないのかもしれませんが、それぞれ担っている社外取締役、あるいは外部監査人との連携も非常に大事でありまして、しかも、一方的な報告ではなくて、やはり双方向のコミュニケーションをとるというような仕組みが必要なのではないかと考えております。

それと、そのもう一つ上の、監査役会には財務・会計の知識を持つ者が含められるべきとの指摘ですが、この監査役会全体として、これはやはり財務・会計の知識を持つ者は必要なのではないかと考えております。それと、モニタリングの機能を持つ社外取締役も同様ではないかと思います。マネジメントにつきましては、例えば会社の経営戦略だとか、M&Aだとかいったものが経営執行上、重視されるということであれば、当然、そういう専門家が取締役に入るということはあるんですけれども、モニタリングという視点でもそういった内容を掲げることが必要だということ、それと、監査役会には会計監査人の相当性の評価が求められています。これは情報開示の質に大きくかかわる点でありまして、非常に重要な機能であります。この相当性の評価につきましては、やはり会計監査人の監査に精通しているという専門性がどうしても必要になってくると考えておりまして、この「監査役会には」というところですが、財務・会計だけではなくて、会計監査に関する知識も必要であると。これは全員に持てということではありません。監査役会としてそういう機能、知見を持っていればいいと考えております。以上でございます。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

私は司会役で、あまり意見的なことを述べるのは適切ではないかもしれないですが、今お二人のメンバーからおっしゃっていただいたことがまさにかなりポイントかなと思います。例えば監査役設置会社というのは日本の法律で認められている制度なわけで、それは適正・適法な制度なわけですけれども、でも、監査役設置会社だから取締役はマネージングボードの機能しか果たしていなくてもいいんだということにはならないということですよね。やはり最低限のレベルでは委員会設置会社と同等以上のモニタリング機能を果たさなければいけないわけですし、その裏返しで委員会設置会社においてもちゃんとマネージング機能を同等以上に果たさなければいけないということで、だから会社形態で機能が規定されるわけではなくて、求められる機能を遂行できるように制度の中で組織の内実を変えていっていただく必要があるのではないかという話だと思っております。

ということで、では、武井メンバー、次にスコットさん。

○武井メンバー

ありがとうございます。まさに今、座長がおっしゃろうとしたことを私も申し上げようとしたんですけれども、少し補足させていただきますと、OECD原則が書いています取締役会の機能、戦略的方向づけや中長期的な会社の方向づけなどの8項目を、どこの会社機関で行うのかはさておきどこかでやる必要があるということなのだと思います。それをモニタリングと何と呼ぶかは措いて、どこかでやらなきゃいけないわけですから、監査役会型であれ、監査等委員会型であれ、委員会設置型であれ、どの会社であってもこうした項目を社内の機関できちんと議論していないといけないわけです。

日本の場合、監査役会設置会社では取締役会が業務執行のいろいろな意思決定を兼ねておりますので、ちゃんとやっていらっしゃる会社もありますけれども、まだまだ多くの上場会社の取締役会において、さきほど何回も出てきた中長期的な会社の方向づけといったものを取締役会で議論し切れていないという実態があるのだと思います。そこのところを今回のコードで言及して変えていくだけでも効果がかなり大きいと思います。どの機関設計の類型をとるのであれ、このOECDが求めている機能を取締役会はきちんとやるべきだということを明確に書いたほうがいいと思います。

その関連で、モニタリングモデルという言葉は案外多義的で、論者によって指している意味が違うので、モニタリングモデルをとったかとらないかという議論はやめたほうがいいと思います。社外独立過半数で決めているのがモニタリングモデルだと思っている人もいるぐらいで、欧米の経営機構のどの部分を指してモニタリングモデルと言っているのかは論者によって案外異なっています。そういった人によって誤解を生む言葉ではなく、基本的にOECDで必要な機能をどこで果たしていますかという説明のほうがいいと思います。これが1点目です。

2点目ですけれども、先ほど神田先生からおっしゃったリスクをとれる環境、結果責任としないという点と私もかぶるのですが、5ページ目と6ページ目の「適切な企業家精神の発揮」、経営幹部の適切かつ迅速果断な意思決定をサポート、あと冨山さんの言葉で言うところの攻めの経営ですね。そういったまさに会社役員の方がチャレンジをできる環境が、ガバナンスの仕組みの観点からも日本ではまだまだ整っていないところがあります。

大きな点はインデミニフィケーション、すなわち会社補償が整備されていないという問題と、あと保険カバレッジの問題です。これらの点を取締役会において、きちんと会社役員がチャレンジできる環境を整えましょうとコードに明記していただきたいと私は思います。

イギリスのコードには会社は適切なカバレッジの保険を掛けなさいと書いていますし、あとOECD原則にも経営判断の失敗があったときに、重過失がない経営判断のミスで結果責任を追及してはならないとされています。そういった部分が、日本の場合はまだちゃんと整備されていないと思います。あとアメリカにはコードはないのですが、代わりにバイ・ローズという準定款のところで大半の会社がインデミニフィケーション、補償規定を置いているのですね。日本の場合は法律にもなくバイ・ローズも存在しない状態ですので、マネジメントボードがチャレンジできる環境の整備ということもきちんと取締役会のほうで議論すべきだと思います。

ちなみにこの補償とか保険というのは、何らかの利益相反的な性格を持つことがあるので、スーパーバイザリーボードで処理を決めるのが適切だと思います。それだけにボードのほうでやっていただく事項としてコードに書いていただきたいと思います。以上が2点目です。

3点目が、2点目の絡みですが、スーパーバイザリーボードが今回のコードもあって機能整備されて業務執行を実効的にモニターしていくことで、株主代表訴訟の文脈を含めて、業務執行取締役としての善管注意義務は果たしていることを法的にも示せることになると。そういった1つの礎にもなるということをさらに発展的に言及していっていただきたいと思います。これこそまさに攻めの経営を支えるガバナンスシステムになるのだと思います。スーパーバイザリーボードがきちんと見ていることでいろいろチャレンジができる環境になっていく効果がありますので、そういった趣旨の文章もあわせてコードで言及していただきたいと思います。これが3点目です。

次に4点目が、指名・報酬の絡みです。指名・報酬について確かにどこの国でも一定の利益相反がない役員さんが関与しているということになるのだと思いますけれども、どういう委員会を組成するのかなどの手続論も1つ重要な関心事だとは思いますが、その前にむしろ、どういった考慮要素を考えて指名や報酬を決めるのかという考慮要素のところを、コードで例示しておいたほうが良いと思います。

例えば指名でいいますと、1つは多様性、ダイバーシティが重要ですけれども、どういうことを考えてこういうダイバーシティにしたのか。社内のことがよくわかっているという知識の側面と、他方で独立役員の方は外の方なので知識が十分ではないという、一種のトレードオフが常に存在しているわけです。そういったいろいろなどういう要素を考慮していかなる利害を体現するものとして当社のボードとしてどう良いと判断したのか、そういう構成の部分というのはまさに取締役会できちんと議論すべきだと思います。そういった議論が十分取締役会でなされていない会社もまだ多いので、そこの根本を今回のコードで変えていくべきだと思います。ですので、構成をどうすべきだという端的な結論をコードで書くよりも、企業側はどういう考慮要素を考えてボードの構成員を決めるべきなのか、そういったことの考慮要素の例示をコードで言及していただきたいというのが指名のほうです。

次に報酬のほうですが、私は中長期業績連動報酬をもっと入れていくべきだと思っています。OECDの原則もそうですし、どこの国のコードを見ても、中長期的な企業価値の向上に資するインセンティブづけになっていますかというのが役員報酬に関する一丁目一番地の考慮要素として言及されています。中長期的な企業価値向上の観点からの報酬になっているかが重要な考慮要素であることを明記すべきだと思います。次の考慮要素として、長期業績連動の指標としてどういった指標を用いるのか。それからさきほど中村さんがお話されていましたけれども、従業員を含めた社内の連帯感、一体感を果たして高める報酬なのか。そういったいろいろな考慮要素は5つ、6つ必ず出てきますから、そういった例示を書いていただければと思います。

そういった考慮要素を踏まえて、それをどういう手続で決めていくのかというのが指名諮問委員会なり報酬諮問委員会を置くかどうかといった話になるわけですけれども、その前に何を考慮するのかというところを先に整理した上で指名・報酬のあり方をコードに書いたほうがいいかなと思います。

次に5点目です。今の報酬のところに絡んで、若干日本で誤解があると思っていますのが、社外取締役の方を含めた非業務執行役員の自社株の保有の話です。いろいろな国ではマネジメントの方もスーパーバイザリーボードの方も自社株は持つべきだとコードなどで明記されています。シグニフィカントポーション、相当数の自社株を持つべきだと書いているコードも結構多いのです。日本の場合はまだそこまで行っていないわけですけれども、一定数の株式の保有について、マネジメントボードの方なりスーパーバイザリーボードの方がどのくらい持つべきなのかといった点も社内で議論をして、それを開示すべきだと思います。役員がどのくらい自社株を持つのかの結論は会社で決めればいいかもしれませんけれども、持つことに関する議論はやってほしいということも書いていただければと思います。

ちなみに非業務執行役員の自社株報酬に関しては、ストックオプションという言葉が多義的にとられていて日本国内の議論に混乱があります。別に欧米では株価に連動するような純粋なストックオプションや業績連動で株式数が変わるパフォーマンスシェアは非業務執行役員にとって不適切であっても、別に非業務執行役員が自社株を持つこと自体は禁止していないわけです。逆に、持ちなさいという国のほうが多いわけで、そこのところについて日本では誤解があると思います。非業務執行役員の方も含めた株主利害とのアライメントの部分、自社株報酬の部分も会社で議論して開示していただくということをやっていただきたいというのが5点目です。

最後に6点目ですが、11ページに書いています非業務執行役員を支える体制です。この部分については、いろいろ会社法でも手当てされていますが、非業務執行役員を支える体制で日本でまだまだ足りない部分があります。ヒトモノカネに分けますと、まずヒトについていうと、非業務執行役員の方に誰も部下をつけない、手伝ってくれる人も部下も置かない、そういった状況の会社がまだまだあります。非業務執行役員を補助する人たちをきちんと手当てして頂くべきだと思います。あと、非業務執行役員を補助する人に関する人事ローテーションの決め方とか人事評価の決め方など、補助する方本人のインセンティブづけについての仕組み、そういったものも会社としてきちんと決めていただいたほうが良いと思います。

次にカネについては、会社法の規定では非業務執行役員の職務に必要なお金を会社は出す必要があることになっていますけれども、実際に遵守されていない事例が結構あります。例えば年間の予算を決めてしまって、予算の枠でないと非業務執行役員はお金を使っちゃいけないとか、そういった非常事態に備えないことをやっている企業さんもあります。そういったことのないように、予算なんかに関してもマネジメントボードだけで決めるのではなく、スーパーバイザリーボードもきちんと関与して決めるということをやっていただきたいということです。

いろいろ申し上げましたが、以上です。

○池尾座長

これまでの分を全部取り戻したぐらい発言していただきました。

それでは、スコットさんお願いします。

○キャロンメンバー

ありがとうございました。取締役会の役割についてお答えする前に、上場企業の役割を考える必要があると思いますが、武井先生が非常によいお言葉を使ってくださったんですけれども、私も同感です。上場企業とは中長期的な企業価値向上を果たす器であり、よいサービス、商品の提供をしながら、質のよい雇用を実現することは、非常に意義のある社会活動の1つだと思います。そしてその中長期的な価値向上を牽引し支援する役割が取締役会にあるのだと思います。

ここで若干皆さん方も感じていらっしゃると思いますが、現状維持がいいのか、一工夫だけ入れてしまって現状維持か、それとも大きな改革にも挑戦するか。今回の会議の目的は、現状維持戦略じゃなくて日本再興戦略の1つだと私は認識しており、「改革の必要性」が前提でつくられた組織だと認識しております。その背景には、中長期的な企業価値向上が上場企業の役割だとしたら、日本で中長期的に企業価値向上が果たされてきたかというと、そうとは言い切れないことが共通認識だからではないでしょうか。先進国の中では最も企業価値向上が行われていない、むしろ大きな毀損になっている。株主資本利益率-株主から預けていただいた資本に対するリターンが最も低い国になっていて、中長期的には最も株式市場のリターンが低い国になっている。私に言わせていただくと日本らしくない。全く日本らしくないと思います。

なので、現状維持ではなく、日本らしい結果を出すために、ぜひ抜本対策を取っていただきたい。株主目線で考えれば、現状維持はあり得ないと思います。

私は、実は日本の上場企業の経営者も兼任していまして、会長として株主総会の議長も務めております。株主は約4万名ほどいらっしゃるんですけれども、毎年株主総会でお会いする方々はほとんど年配の方々です。先輩方が、我々現役の経営陣に先輩方の努力の結果である貯蓄を預けてくださっている。現役である我々は、最大限の努力をもってその信頼にお応えしお返しする、そういう役割も担っていると思いますので、抽象的で恐縮ですが、やはり現状は満足できる水準ではありません。

日本の独自の違いは、機関設計というよりは結果なんです。結果が足りないのであれば新しい機関設計でより結果を出せるように進化していくしかないと思いますので、よろしくお願いします。

○池尾座長

どうもありがとうございました。持続的経済成長に向けて、企業の戦略的方向づけを図るといった機能の重要性、本来の意味でのモニタリング機能の重要性を否定される方は誰もおられないと思いますので、特に現時点の日本においてそういう機能の強化が必須の課題として求められているということはコンセンサスだと思いますので、そういう機能を実装していくためにはどういう組織内容、例えば相当数の独立取締役は必要ではないかとか、そういう話を次回させていただくということです。

時間が押しておりますので、最後のところの株主との対話の部分に関して何かご意見。どうぞ、神田先生。

○神田メンバー

株主の対話についてちょっと意見を述べたいと思います。私は、日本版スチュワードシップ・コード、それから、株主の対話というのは大変結構なことで賛成しているということをまず申し上げて、その上で、あえて1点注意したほうがいいと思う点を感想として申し述べます。

それは、株主の対話は大変結構なのですけれども、対話のし過ぎに注意したほうがいいということです。これは小口さんが先ほどおっしゃったように、機関投資家をはじめとする株主というのは、小口さんの言葉で言えば基本的にはアウトサイダーであって、中長期的に株式を保有しているとはいえ、基本は株式を売ったり買ったりする投資家なわけですね。ですから、株式市場における投資家という観点から見ると、対話をし過ぎて安定株主になるのはよろしくないわけでありまして、具体的に3点申し上げたいと思います。

第1は、スチュワードシップ・コードの対象になる投資家というか、広い意味での機関投資家と呼んでおきますと、機関投資家とだけ対話するというコードの書き方は避けていただきたい。他の一般株主との間の平等ということも考えていただきたいということです。実際のところ、翻訳によれば、少なくともこの資料の左の欄にある各国コード等は、株主との対話と書いてあって機関投資家との対話とは書いていません。やはりあくまで考え方としては株主との対話。もちろん、具体的な状況はケースによって違うと思いますけれども、これが1点目です。

それから、2点目です。今確認しましたが、これはスチュワードシップ・コードにもきちんと書いてあることなのですけれども、対話をし過ぎて企業のインサイド情報といいますか、未公表の情報を得ることは機関投資家も好まないことですし、株主一般にとっての投資家という立場と矛盾することですので、これは注意する必要がある。これはスチュワードシップ・コードにも書いてありますけれども、念のために、申し上げておきます。

それから3点目です。これは対話と直接関係ないかもしれませんし、スチュワードシップ・コードには書いてないことなので問題提起だけさせていただきたいのですけれども、TOBが企業にかかった場合、特に典型的には敵対的なTOBで、現在の市場価格よりもかなり高い価格でのTOBがかかった場合について、投資家サイドというか、スチュワードシップ・コードは、機関投資家はTOBに応じるべきなのか応じないべきなのかということについては一切何も言っておらず、沈黙していると理解しているのですけれども、今回、会社側のコードの話ですので、会社側としては例外はあるとは思いますけれども、原則的な考え方を一般論として言えば、そういう場合に株主が持ち株を売るというか、TOBに応じるということを妨害すべきではないというのが原則だと考えられます。例外的な場合はあり得るかと思いますけれども。これは機関投資家側のコードには出てこない話なのかもしれませんし、あるいは合意が得られなくて載ってないのかもしれませんけれども、会社側のほうについて何かそこをコードに書けるかどうかということは検討対象になると思います。以上です。

○池尾座長

では、どうぞ。

○堀江メンバー

株主との対話について入れていただいて、どうもありがとうございます。今、神田先生からもご指摘がありましたが、私もスチュワードシップ・コードにかかわった人間として、コード導入の弊害が出ていると聞いています。例えば、事業会社の方から、中長期の企業価値を考慮しない形式的な質問や会合の申し込みが多く来て、非常に忙しい中困るというような苦情です。スチュワードシップ・コードを盾にとって会議の回数の辻褄を合わせるだけの要求であり、スチュワードシップ・コードが意図する、企業価値に焦点を合わせた建設的な会話を促進させるという趣旨と大きく乖離した状況が一部で生じているということだと理解しています。一方で、私は2週間前にニューヨークで長期投資家の方にコーポレートガバナンス・コードの現状を紹介しましたが、今の話とは全く逆に非常に大きな企業、名前は申し上げられませんけれども、「CFOの方が資金繰りと財務戦略の区別がついていなかった。堀江さん何とかしてください。」といった、非常にプリミティブな理解を経営陣がしていないというご指摘も受けています。こういった投資家と事業経営者の認識の齟齬がどこから来ているのかというと、やはり株主との対話をするに当たっての情報開示が不十分なのではないかと考えています。

長期的な経営ビジョンとかスタンスを説明したいというのが事業経営者の方の立場だと私は理解しておりますけれども、そういうざっくりしたレベルで議論ができないと私は思っています。そこには、例えば中期経営計画の中で資本生産性の一定の目標値、これは数値で、一点主義でなくても幅でも結構ですが、そういった目標を出していただくだとか、それを達成するに当たってのKPI、Key Performance Indicators、例えば普通のデュポン分解をすればマージン、資産回転率、レバレッジに分けられるわけですから、それらの大体の目安をどのぐらいにしているとか、それを達成するに当たってどういうことを考えているという、非常にプリミティブな指摘で恐縮でございますが、対話を促進させるための非常に基本的な情報開示をやはり事業会社の方にしていただきたいと思います。そういった情報開示をして頂ければ、先ほどのROEが低いという非常にプリミティブな質問も投資家から出ないでしょうし、より建設的な対話が促進できるのではないかと思っています。非常にプリミティブな指摘で恐縮ですが、建設的な対話を促進させるための最低限の情報開示、これは今言った点は多分指針か何かの細かい点になり、箸の上げ下げみたいなことで恐縮ですが、そういったことも書かないと、今の状況を見ていますと事業経営者の方と投資家の方の認識の齟齬が非常に大きいというのが現状です。スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードを車の両輪として機能させるには、そういった非常に原始的なレベルの情報開示についてある程度の書き込みをしていただきたいと思っています。以上でございます。

○池尾座長

ありがとうございました。森メンバー。

○森メンバー

ありがとうございます。今までのご発言と重なるところがありますけれども、やはり株主平等の原則というのはどうしてもありますので、情報開示は企業にとって非常に慎重にならざるを得ないというところだと思います。したがいまして、何らかの情報開示に対するフレームワークが必要ではないかと考えます。これはここでの議論ではないかもしれませんが。

財務情報に関しては情報開示のフレームワークはできてますが、非財務情報についてがまだできていない、十分ではないということだと思います。新聞等の報道によれば、100社前後の企業がいわゆる統合報告という形で情報開示をしているとされています。しかし、現状は非財務情報のフレームワークが明確でなく、企業の情報開示に対する責任の問題が出てきてしまう可能性も否定できないことから、今後、統合報告につきましても制度上のフレームワークの議論が必要となってくると考えます。また、現状においても、企業の積極的な情報開示に関する取組みを促進できるよう、その辺りを少し書き込む必要があるのではないかとも考えております。

また、過去情報よりも将来情報のほうが情報のリスクというものが高くなるものですから、これは企業サイドにとってもその辺りの整理が必要ではないかと考えております。

○池尾座長

はい。

○内田メンバー

まず、情報のフェアディスクロージャーについては、各企業はかなり気を使っており、ある1つの偏ったところに情報を過度に出すということがないように各企業は注意されていると思います。基本的には開示できる情報を手元に持っていて、それに基づいて平等にやっていると思います。

また、資本効率の水準等の開示については、企業が持続的成長に向けて投資家に中長期の投資を求める場合、当然、中長期の経営戦略、収益目標というのを示すことは必要であり、そういう対話も必要と考えます。

先ほど経営者、取締役会はほとんど株主を見ていないというお話がありましたが、今日IR活動がこれだけ発達してきて、株主を意識することは日本でも根付いてきており、したがって、資本効率を示す指標としてROEを取り上げる会社がだんだん増えていると思います。

ただ、ほかのステークホルダーとの関係を考えると、ROEだけではやはり偏りがあって、ROAやROS、D/Eレシオといった指標と合わせて、総合的にバランスをとって水準を設定していくことが重要と思います。その意味では投資家もワン・オブ・ゼムという形になるかもしれませんが、その点はご理解いただきたいと思います。

○池尾座長

ほぼ時間が来てしまいましたが、追加的にどうしてもご発言……、では、大場さん、どうぞ。

○大場メンバー

どうしてもと言われると困りますが、今、内田さんからお話があった点で言いますと、企業も投資家だけを見ていればいいということではなくて、バランスをとるためにあまりにも投資家が今までは意識されなさ過ぎているので、これを是正する必要があると思います。エクイティーガバナンスの強化だということでご理解をいただければと思います。

今日は開示と機能と対話と分けて議論しているのですが、結構これはつながっていまして、どこのところで言えばいいのかなと思うのですが、1つ認識しておかなくてはいけないのは、株主市場は非常に厳しく企業を評価しているという事実があるということです。これは意見というよりもファクトです。それについて、では、取締役会がどのような機能を果たせていたのか、いなかったのか。個々の取締役についても、社外取締役も含めて、どのようなことに貢献できて、どのようなことに貢献できないのかという課題を開示して、投資家との対話によって共有化するということが大事ではないでしょうか。開示と評価と機能と対話が全部セットになった意見なのですが、そういうことをサイクルで回していかないとコーポレートガバナンス・コードが有効に機能するということにはならないのではないかと思いますので、ぜひその旨をコードに付していただけるとありがたいと思います。

○池尾座長

まだまだご議論が尽きないところかとは思いますが、時間が来てしまいましたので、本日の議論はとりあえずここまでということにさせていただきたいと思います。

それで、次回は取締役会の責務に関連して、機関設計、構成、手続、トレーニング等、取締役等に求められる責務を果たすための具体的な事項についてご議論いただくということになっております。加えて、これまでの議論を踏まえて、さらに追加的な議論が必要な部分があれば、それについてもご指摘をいただきたいということです。

本日は活発なご議論をたくさんいただきまして、まことにありがとうございました。あるいは、いつも申し上げていますが、意見を十分言えなかったとかいうことで追加があれば、書面、メール等で事務局にお寄せいただければ、随時受け付けておりますのでよろしくお願いします。

それでは、最後に事務局からご連絡等お願いいたします。

○油布企業開示課長

次回のこの会議の日程でございますが、後日改めて事務局からご案内させていただきますけれども、今月の10月31日金曜日の14時からということで今、調整をさせていただいているところであります。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、以上をもちまして本日の会議を終了させていただきます。どうもありがとうございました。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企業開示課(内線3836、3671)

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