スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第10回)議事録

1.日時:

平成28年11月8日(火)16時00分~18時00分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室

【池尾座長】

それでは、定刻よりまだ一、二分早いかもしれませんが、出席予定の委員の方は全員おそろいになりましたので、ただいまから、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議第10回の会合を開催いたしたいと思います。

皆様には、ご多用中のところご参集いただきまして、まことにありがとうございます。

この間、企業と機関投資家の間の建設的な対話について議論を重ねてきたわけですが、本日はそれの取りまとめをしたいということで、これまでの議論を踏まえたフォローアップ会議としての意見書の案についてご議論いただきたいというふうに思っております。

それでは、すごく早速ですが、意見書の案につきまして、金融庁から説明をお願いいたします。

【田原企業開示課長】

それでは、お手元の資料に従いまして、意見書の案についてご説明をさせていただきます。タイトルは、「機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方」とさせていただいております。

意見書は4章から成っておりまして、「はじめに」、運用機関に関する章、アセットオーナーに関する章、最後に「おわりに」という構成になってございます。

まず「はじめに」でございますけれども、これまでご議論いただきましたように、企業の持続的な成長というのは、国民全体の豊かさの源泉となるということ、また企業が持続的に成長していくためには、経営陣・取締役会のリーダーシップのもとで、中長期的な視点に立った企業経営が行われていくことが重要であるということについて、これまでご議論を頂戴してまいりました。このような企業経営を促していくためには、コーポレートガバナンス改革に向けた取組みを一層進めていく必要があるということでございまして、これまでコードの導入ですとか意見書の公表をいただいたことで、改革の枠組みは整ってまいったわけですが、これをさらに実質的なものに深化させていくことが重要な課題であるというご議論であったかというふうに思います。

そのためには、この場で5回にわたりご議論いただいてきましたように、企業に投資を行っている機関投資家の方々が、インベストメント・チェーンにおけるそれぞれの役割を認識し、企業の実情や取り巻く環境を踏まえながら、持続的な成長に向けて、経営戦略を含む諸課題について、深度ある建設的な対話を行っていただくことが必要ということでございまして、その上で必要な運用機関とアセットオーナーの方々に求められる取組みというものについて提言するということが、Iの「はじめに」で書かれていることでございます。

IIの運用機関による実効的なスチュワードシップ活動でございますけれども、機関投資家の方、特に企業との直接の対話の相手方となる運用機関の方々には、中長期的な視点から、深度ある企業評価に基づいて、実効的なスチュワードシップ活動を行うことが求められるということでございます。また、その際、機関投資家の方々におかれましては、形式的な基準や助言会社のサービスを機械的に適用するのではなく、各企業の状況に着目したきめ細かな判断を行っていくことが重要であるということでございます。

この運用機関に関する章の具体的な内容は4節に分かれておりまして、まず1つ目の節でございますが、ガバナンスと利益相反管理についてご議論いただきました。運用機関が企業との間で実効的なスチュワードシップ活動を行っていく上で、運用機関が最終受益者の方の利益を第一に考え、顧客本位の活動が実効的に確保されることが不可欠ということでございます。他方で、金融グループ系列の運用機関の場合におきまして、利益相反を排除するための措置が必ずしも十分機能していないのではないかというようなご指摘があったということでございまして、ガバナンスの強化ですとか、利益相反のより適切な管理に向けて取組みが必要ではないかというご議論でありました。

その中の1つ目でございますけれども、運用機関のガバナンスの強化ということでございまして、運用機関は最終受益者の利益の確保や利益相反防止のため、例えば、独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などのガバナンス体制を整備することが求められているということでございまして、このようなガバナンスの強化というものは、企業と対話を行う上でも、対話の実効性を高めることにつながるものではないかというようなご指摘もあったということでございます。

2つ目が利益相反管理の具体的な局面でございまして、ご議論は、具体的に議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じうる局面というものを特定した上で、それを回避する、あるいは影響を実効的に排除するための措置について、具体的に方針を定め、公表すべきということが求められているということであったと思います。

1ページおめくりいただきまして、3つ目が経営陣の適切な能力と経験ということでございまして、議論の中では、系列の金融グループ――これは金融グループ内の機関の場合ですけれども――の論理などで経営陣が選ばれているのではないかというご指摘がありまして、経営陣の方々につきましては、スチュワードシップ責任を実効的に果たすための適切な能力・経験を備えているべきということでありますし、経営陣の方々は、みずからが運用機関のガバナンスや利益相反管理において重要な役割・責務を担っていることを認識して、これらに関する課題に対する取組みを推進すべきという役割を担っているということを確認すべきということであったかと思います。

2つ目の節は、議決権行使結果の公表の充実ということでございます。スチュワードシップ・コードにおきましては、機関投資家が適切に議決権行使をしているか否かについての可視性を高めるという観点から、議案の主な種類ごとに整理・集計する形での行使結果の公表というものを求めているところでございますが、一部の業態において、こうした集計を公表している割合が少ないというご指摘がありました。議決権行使結果の透明性を確保する上で、各運用機関におかれては、このような公表を行っていただくことがまずもって重要であるということかと思います。

その上で、運用機関などが最終受益者への説明責任を果たして透明性を向上させていくために、個別企業・議案ごとに議決権行使結果を公表することが重要であるというご指摘がございました。海外の例といたしましては、アメリカにおいて、投資信託について個別の議決権行使結果の公表が義務づけられておりましたり、英国において、説明責任の向上や利益相反管理の観点から、個別の議決権行使結果の公表を行っている機関投資家は少なくないということについても、ご指摘がございました。

1ページおめくりいただきまして、こうした海外の例に見られますように、真に最終受益者のために議決権が行使されることを担保する上で、個別の議決権行使結果を公表することは有効な方法と考えられますし、また、運用機関等が議決権行使の理由を対外的に明確に説明することも、透明性の向上に資するというご指摘もございました。

一方で、こういった個別の議決権行使結果につきましては、年金基金等のアセットオーナー、委託元であるそういった方々に開示することで足りるというようなご指摘もございました。ただ、議論の中では、最終受益者の方々が、例えば年金受益者の方などの場合には広範に及ぶので、潜在的な受益者も含めれば最終受益者は広く国民一般であるというようなご指摘もありましたし、利益相反への懸念を払拭するという観点からも、個別の議決権行使結果の公表が進められるべきではないかというご指摘もあったところでございます。

したがいまして、最終受益者の利益を確保するとともに、みずからの取組みの透明性を高めるため、運用機関等は、少なくとも「コンプライ・オア・エクスプレイン」ベースでの対応としては、アセットオーナーへの開示にとどまらず、個別の議決権行使結果を一般に公表することを原則とすべきであるという形で、案をまとめさせていただいているところでございます。

3つ目の節でございますが、パッシブ運用におけるエンゲージメント等ということでございまして、近年、運用におけるパッシブ運用の比重が高まっておりますけれども、投資先企業の株式を売却する選択肢が限られる、中長期的な企業価値を促す必要性が高いということでございまして、運用機関などにおかれては、より積極的に中長期的視点に立ったエンゲージメントや議決権行使に取り組むべきであるというご議論であったかというふうに思います。

なお、パッシブ運用の有効性を高めるという観点から、運用対象として明らかに不適当と考えられるような銘柄をそもそも外して運用対象とするということも考えられるのではないかというようなご指摘もあったところでございます。

4つ目の節でございますけれども、運用機関の自己評価ということでございまして、運用機関は、スチュワードシップ・コードの実施状況を定期的に自己評価し、公表すべきであるということでございまして、イギリスの例などがご紹介されたということでございます。こうした自己評価は、アセットオーナーの方々が運用機関の選定や評価を行う上でも有効であるということかと思います。

1ページおめくりいただいて5ページ目、IIIでございますが、アセットオーナーについてご議論をいただいた内容をまとめております。アセットオーナーの方々は、インベストメント・チェーンの中で最終受益者のより近くに位置するということでございまして、直接最終受益者の利益を確保する責務を負う立場にいらっしゃいます。こうした位置づけを踏まえまして、アセットオーナーの方々は以下のような取組みを進めていく必要があるということでございまして、3つ掲げさせていただいております。

1つ目は、アセットオーナーの方々におかれて実効的なスチュワードシップ活動を確保されるということでございまして、アセットオーナーは、最終受益者の利益の確保のため、可能な限り、みずからスチュワードシップ活動に取り組むべきである。また、みずから直接的に議決権行使を含むスチュワードシップ活動を行わない場合には、運用機関に実効的なスチュワードシップ活動を行うよう求めるべきであるということであったかと思います。その後7行ほどは、その際の考え方などについて記載させていただいておりまして、最後の4行でございますけれども、アセットオーナーの方々は、運用機関というものが、ほかの顧客の方や最終受益者に対してもスチュワードシップ責任を負っていることを認識すべきであるというご指摘がございましたので、それについても記載をさせていただいております。

2点目でございますけれども、アセットオーナーの方々が運用機関の方々に求める事項の明示ということでございまして、そのようなスチュワードシップ責任を果たすに際しまして、運用機関の選定ですとか運用委託契約の締結に際して、議決権行使を含め、スチュワードシップ活動に関して求める事項や原則を明示すべきであるということでございます。特に大規模なアセットオーナーの方におかれましては、みずから主体的にこういった内容について検討を行った上で、運用機関に対して議決権行使を含むスチュワードシップ活動に関して求める事項、原則を明確に示すべきであるということでございます。

1ページおめくりいただきまして、3点目でございますが、このように運用機関にいろいろなことをお願いするわけですが、それについてのモニタリングということでございまして、アセットオーナーは、運用機関のスチュワードシップ活動がみずからの方針と整合的なものとなっているかについて、運用機関の自己評価なども活用しながら、実効的に運用機関に対するモニタリングを行うべきであるということでございます。モニタリングに際しては、質が重要であって、形式的な確認に終始すべきではないというご指摘もございましたので、それも記載させていただいております。

最後、IVの「おわりに」ということでございまして、前半につきましては、「はじめに」でも触れさせていただきました運用機関・アセットオーナーの方々の役割というものについて再度確認をさせていただいておりまして、建設的な対話とその深化に向けた取組みを進めることで日本経済全体の好循環が実現していくことが期待されるという形でまとめさせていただいております。

なお、本意見書で、今こういう形で案をつくらせていただきましたけれども、これらの内容というものにつきましては、スチュワードシップ責任を負う機関投資家の方々が果たしていく上で重要なものであるというふうに考えられます。ちょうどスチュワードシップ・コードを策定いたしましてから3年が経とうとしておりまして、当初より想定されていた見直しを検討すべき時期ということになってきておりますことから、スチュワードシップ責任に関する国際的な議論や同コードに関する実務の動向も踏まえつつ、スチュワードシップ・コードについて、本意見書の内容を踏まえた見直しを期待するという形で締めくくらせていただいております。

以上、駆け足でございますが、意見書案の内容についてご説明を差し上げました。ありがとうございました。

【池尾座長】

どうもありがとうございました。ただいま事務局より説明のありました意見書案について、コメント等をお願いしたいと思いますが、本日は、冨山メンバーと西山メンバーから意見書の提出がございましたので、席上配付させていただいております。ただし、メンバーの方々には事前に送付させていただきましたので、この場で特に読み上げたりすることは省略させていただきたいと思いますが、必要に応じて、これらの意見書の内容も踏まえてご議論いただければ幸いです。

それから、本日ご欠席ですが、川村メンバー、それから神田メンバー、田中メンバーのお三方から、この意見書案の内容につきまして賛同するという旨のご意見を頂戴しております。

それでは、ご議論というか、コメントをお願いしたいと思いますが、どこからでもいいんですが、最初のほうで、運用機関に関する部分についてまずはご意見があればお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。

全部、どこでも結構ですが、運用機関の話とアセットオーナーの話が順になっておりますので、まずは運用機関のほうの話でいかがでしょうかということですが。

では、川北先生、お願いします。

【川北メンバー】

特に運用機関という話ではないのですが、全体の構成のことを少しお話ししていいのかなと思っていまして。これは対話の質という点に関してです。ところどころちりばめられてはいるんですけれども、全体の構成として、IIのすぐ下に、中長期的な観点から深度のある企業評価と書いてあるんですが、本論として、1は利益相反というか、運用機関のガバナンスの話が来ていて、2でいきなり議決権行使の話が出ています。そこは議論として少し飛んでいるのではないか。まず議決権行使をするに際してやはり対話が必要であって、それも質の高い、ここでいう深度のある企業評価を含めた、そういう議論があるべきではないのかと思っています。ということで、対話がプロセスの中に含まれていて、それが望ましい議決権行使につながる。では何をどういうふうに対話をしていくのか、その質の議論を入れていただければいいのかなと思っています。

対話の流れとして、これは例ですけれども、長期的には、投資家が満足する、経産省の肩を持つわけではありませんが、ROEの水準の確保ということと、同時に、企業価値が上がっていくためには売り上げが増加していかないといけない。この観点があります。ということで、具体的には、これはいろいろ投資家によってありますが、例えば、製品やサービスの1単位当たりの売上高利益率をいかに向上させていくのか、そういう中でセグメントとして利益率の高い事業分野をいかに確保し、増強していくのか。そういうためには海外展開をやらないといけないでしょうし、設備投資とか研究開発投資とかM&Aとか、そういうことをどういうふうに組み立てていくのか。この点をまず、書くというか議論する必要性がある。今申し上げた設備投資とか研究開発投資に関しましては、最後の5ページのIIIの1に書いてあるものの、この点を少し踏まえていただきたいと思います。

さらに言うと、逆に、では利益率の低いセグメントというか事業者分野をどうするのか。売却するのかどうか。それから目標とする資本構成、これをどういうふうに考えるのか。この関連で言うと、配当性向の目標をどうするのか、セグメントの戦略と資本構成の関係をどう考えるのか。それから、企業によっては増資をするということがありますので、その増資をやるときには、これはある有力な投資家から聞いた話なんですけれども、その増資の目標を聞きにいくとか、そういうことを対話していく必要性があります。これらのことを、先ほど言いましたように5ページのIIIの1でも多少触れていますので、何か少し書き加えて、今のIIの1と2の間に入れていただくのが構成として望ましいのではないのかと思います。その結果として対話の質が確保できて、その後につながる議決権行使も生きてくる、単なる議決権行使、○か×ではなくて、企業がそれをどういうふうに生かしていくのかにつながる、質の高い対話をすることによって経営にも反映されると思います。逆に、投資家が個別企業に関する議決権行使結果を公表したとして、いきなり×をつけられた企業が、何や、これということもなくなっていくと思います。

参考情報として申し上げますと、神田先生が6月1日、これは議決権行使に関して、利益相反の問題に限定して述べられていますが、対話のプロセスを強調した意見を言われています。それから企業経営者から聞きますと、複数の人から、対話の質が確保されていない中で議決権行使をされても、これは単なるノイズとしか思えない、そういうことも結構あるんだということも言われています。構成に関しまして、以上の点を少し申し上げたいというふうに思いました。

【池尾座長】

よろしいですか。はい。

どうぞ発言してください。

【江良メンバー】

私のほうからは、全体的な報告書のあり方および議論のプロセスについて、そして運用機関のガバナンス強化という点について、意見を申し上げます。

本意見書の中身を拝見すると、非常に影響力が大きいと思われる取り組みについても言及しています。そのため、言及している取り組みの実効性や影響などについて、きちんとエビデンスに基づいて議論して、それぞれのメリットとデメリットについてきちんと整理したうえで、本来であればもう少し時間をかけて議論すべきなのではないかと思います。

また、本意見書にあるように、ガバナンス改革の実質の深化は非常に重要なポイントです。その深化のためにも、先ほど申し上げたようなメリットとデメリットや、いろいろな意見があった上で、このような意見になったという議論の過程や、取り組みの目的、背景についてもきちんと幅広く周知することが、実質を担保するにあたって極めて重要なのではないかと思います。つきましては、そのあたりもう少し意見書においても補足いただけるとありがたいのかなと思います。

次に、運用機関のガバナンス強化についてですが、運用会社がお客様の利益を第一に考え、その責任を果たすということは当然でありまして、そのために自分たちのガバナンスを強化するというのは当たり前の話であり、さらに適切な利益相反管理の実施も極めて重要なことだと思います。一方で、これは以前も申し上げましたが、その具体的な手段については、運用会社の資本関係や事業構造など、運用会社といってもかなり多様でございますので、そういった多様な状況を踏まえて対応を検討し、必要性や実効性を検討することが重要なのではないかと思います。そういったことが取り組みの実質の充実につながると思います。つきましては、その具体的な手段という点について、先ほどの事務局からのご説明の中で、例えばという形でご説明いただいたかと思うのですが、この独立した取締役会や議決権行使の意思決定や監督のために第三者委員会ということについては、例示にとどめるほうが適切ではないかと思っております。以上です。

【池尾座長】

岩間さん、お願いします。

【岩間メンバー】

1点は、運用会社のガバナンスの話と、それから議決権行使の話ということになるんですけれども、その前に、川北先生からのコメントについて、ちょっと私の考えを申し上げたいと思います。

ご指摘は非常にごもっともだと思っておりますが、基本的には、やはりエンゲージメントのアジェンダというのをどういうぐあいに設定するかというのは、実際に投資をするプレーヤーが考える話でありまして、それは非常に幅広く自由に選定されるというのが筋であろうと。その中に、川北先生がご指摘のようなポイントは当然入ってくるだろうと思います。これはむしろ、そういうことをきちんと運用会社それぞれがやれるかどうかというのを投資家に広くごらんいただいて、評価いただくということになるんだと思いますので、あまり細かく挙げるのはどうなのかなという気がいたします。

それからもう1点、運用会社のガバナンスでございますけれども、これは要するに運用会社のガバナンスがどうもしっかりしていないと、利益相反の構造がそのまま放置されているというぐあいに世間から見られている節があるというのが、こういったご指摘の背景にあるんだと思っておりますし、これは運用機関としては重く受けとめなければいけないということだと思いますが、この点につきましても、江良メンバーがご指摘のとおり、それぞれの会社の置かれた立場の中でどういう形で説明ができるかということがポイントになるのではないかと思います。取締役会がきちんと監視しているかとか、あるいは利益相反の構造が実際に表面化していないかということをチェックする目を入れるとか、あるいは議決権行使がちゃんと独立して行われているかどうかということについてきちんと監視が行き届くということについては、それぞれの会社の置かれた状況でどういう形で説明するかということが、やはり運用会社の経営の自主性の中である程度認められていいのではないかなと私は思っております。それはどういう形にすればいいのかということについて、これは個々の会社が真剣に考えなければいけないという話であると思いますので、先ほどご指摘のあったように、例示としてそういうものが示されるというのはよろしいのではないかと思っております。

それから、議決権行使の問題なんでございますけれども、これは私ども長い歴史を持っておりまして、基本的に投資一任契約で運用している立場と、公募投信の運用をしている立場とでは、かなり違うと私は思っております。公募投信については、SECがルールとして示しておりますように、世界の流れとしては個別開示が妥当であるという方向であると私は認識しておりまして、多くの運用会社が投資信託と投資一任とを併営しておりますから、そういう意味でいうと、投資信託の、公募投信の分野について個別開示が妥当であると言われれば、ほとんど個別開示をするという形になるように思われますが、実際には、投資一任契約の場合には、個別のアセットオーナーであるお客様がどう対応されるのかということを前提に動いておるわけでございます。したがって、中には個別開示はしてはいけないと、守秘義務違反だというご指摘が出る可能性が実際、現在はまだ残っておりまして、それをどうするかということが私どもとしては、非常に大きな課題として認識されておるところでございます。

そこで、今、協会はガイドラインを設けて、会員メンバーに個社毎の開示できちんと、個別というか、それぞれの議決権行使に関するガイドラインを設けて、きちんと自分たちで明示しなさいと、それから実際に、協会として、年に1回アンケートをとって、どういう議決権行使をしたかということについて集計いたしまして、議案ごとにまとめて開示をしていると、こういう形になっておるのでございますが、これはどうしてそういう形にしているかというと、さっと申し上げたような背景があるからでございまして、もちろん個別のアセットオーナーが個別開示をしなさいと言われれば、これは当然しなければいけないという立場にあります。したがって、その個別開示を排除するものでは全然ないわけですけれども、一律に個別開示をしろということになりますと、アセットオーナーであるお客様との間の関係というのをある程度整理しないといけないと。ですから私どもは、今の状況でありますと、今やっておることが限界であるというぐあいに認識しておりまして、今後どうするかというのはちょっとまた別問題でございますけど、方向としては、私、前回もお話し申し上げましたように、世界の傾向は個別開示のほうに向いているということなんだろうと思っておりますが。

【池尾座長】

ありがとうございました。

では、上田メンバー、お願いします。

【上田メンバー】

ありがとうございます。まず全体の構成についてですが、先ほどより、対話の質についての言及が先生方からございましたけれども、個別のアジェンダを入れるかどうかというのはさておき、例えば対話の質を高めるために、現状努力義務のようなものが原則7にコードで書かれているんですが、もう少し具体的に、資源、これは人的資源であるとか予算であるとか、そういったものを投入するとか、資源の投入のようなものを書き込むであるとか、そうすることでそこがより強化されるのではないかと思います。あるいは現コードでは、共同エンゲージメントのようなものがすごく曖昧な書き方になっているため、現実に共同エンゲージメントを行おうという動きがある中で、コードに書いていないことをやってはいけないのではないかというような、保守的な解釈をするところも一部にはあるようです。そのため、少し、その共同エンゲージメントというものを、今のような書き方よりもう一歩明確にして、そういうやり方もエンゲージメントの1つの方法としてあるんだということの提示というものもあってもよいのかなとも思いました。対話の質を高めるための、少し違ったツールの提供のようなものでございます。

それでは、いただいた意見書案のほうで幾つか、気づいたところを申し上げさせてください。

まず2ページ目の運用機関のガバナンスの強化、利益相反管理について。日本の場合、多くの運用機関が金融機関グループに属しているということで、所与のものとして利益相反が存在するという前提での議論にもなるのかと思います。しかし、金融機関内部であっても運用機関には独立のしっかりとした運用をしてもらいたいというのが目的であるにもかかわらず、運用機関に対していろいろ、圧力というと変ですが、利益相反管理のため一層の負担を求めようとしているように思います。大事なのは、利益相反の根源というのは金融機関の外にいる取引先企業ですよね。ここから何らかの不当な働きかけのようなものがあるのではないか、これがなければ利益相反って生み出さないわけなので、何か働きかけがあるんじゃないか、あるいは働きかけがあると考える人がいるのではないかと思います。とすれば、取引先企業や金融機関グループからの圧力がかかる運用機関に利益相反管理の取り組みをしてもらうとともに、圧力をかける側、金融グループの親会社であるとか、あるいは外にいる顧客企業であるとか、こういったところにおいても、運用会社の受託者責任、スチュワードシップ責任というものを意識してもらう必要があるのではないでしょうか。これはコードに書くのは難しいかもしれませんが、意見書においてそういう意識改革を、圧力をかける側に求めるようなことを書いていただいてもいいのかなと思いました。

これに関連するものとしては、事務局からいただいた資料の5ページ目の1の「また」というところで、アセットオーナーは、ほかのアセットオーナーのお金もまざっているんですよということを意識しなさいとあります。これは例えばですけれども、企業年金の運用資金が合同アカウントになっている中で、一基金が自社のために具体的な指図や行使の圧力をかけると、ほかのお客さんの分も一緒になっているので影響を与えてしまいますよと、こういう例も含まれるのかなと思いました。これも、外にいるお客さんと金融グループ内部の関係という視点なのかなと思ったところでございます。

では続きまして、次の3ページの議決権行使結果の開示。ここが一番の論点だと思いますが、まず第1パラグラフの最後のところに「このような公表を行うことがまずもって重要である」と、これは「一部の業態」が主語だと理解していますが、こういうそもそも集計結果を公表していない業態においては、「まずもって重要」ではなくて、「開示するべき」としてもいいのかなと思います。

というのが、そこから3行下「また、集計による公表にとどまらず」のところは、「個別企業・議案ごとに議決権行使結果を公表することが重要である」と書かれていて、述語が両方とも「重要である」なんですね。「まずもって」がついているか、ついていないかの差はあるんですが、もう少し強弱をつけて、まず、集計開示していないところにはしていただく、その上で個別開示が必要だと、戦略としてやるべきだと判断された運用会社にはしてもらうことも重要ですよという議論なのかなというふうに思いました。

続いて、その下の投資信託についてです。私個人的には、後ろに個人投資家がいるということで、情報の非対称性を解消するためには個別開示というのが流れなんだろうなと思っています。ところが、運用会社の話を聞くと、ファンドごとに開示をするとなると、100本ファンドがあって、それごとに開示するんですかとか、そういう議論もあるようです。したがって、ファンドベースではなくて、おそらくこれは運用会社としてのポリシー、スチュワードシップのポリシーに基づいた判断というところであるとか、少し実務で整理する必要があるのかなと思っております。

あわせて一任契約については、運用会社自身のポリシーで判断している部分と、顧客の指図や議決権行使ガイドライン等に基づいて行使している場合があります。後者の場合については、顧客の判断が入ってくるものは、やはり顧客すなわちアセットオーナーの意向や関係を整理しないと、アセットマネジャーが勝手に、顧客の判断が入ってくる部分を開示できるか疑問に思いました。アセットオーナーについては、次の4ページ目に、最終受益者の利益を確保するためにアセットマネジャーが公表するべきであると、こういうふうに書かれておられて、なるほどなと思いましたが、この文脈でいくと、第一義的にはアセットオーナーは開示しなくてもいいんですかとも読めてしまいました。最終受益者の利益を確保するためという論理展開では、それを取りまとめるかなめであるアセットオーナーと後半のほうに書いてありましたけれども、そうなるとアセットオーナーはどうされるんでしょうかという帰結になりませんでしょうか。それをコードに書くかどうかはともかく、あるいは主語はアセットマネジャーとするのか、機関投資家とするのかという技術的な対応はあると思うんですが、この文脈だとアセットオーナーはどうするんですかというところがひっかかりましたので、お考えを聞かせてください。

あと、同じく4ページのパッシブ運用におけるエンゲージメントのところの第2パラグラフ、「パッシブ運用は」という文章で、最後、「エンゲージメントや議決権行使に取り組むべきである」と断定してありますが、こういう指摘があるというのが重要であるとか、あるいはこういうことを言われているのが重要であるぐらいがいいのかなと思いました。というのが、パッシブを採用するメリットというのは低コストだという意見もあります。そのため、エンゲージメントをしっかりやるとすると、低コストという前提が崩れてしまいます。このコストを誰が負担するのか。アセットマネジャーが負担するのか、アセットオーナーがするのか、投信の場合であれば個人の投資家に負担してもらうのか。この整理をしないまま「取り組むべきである」と言い切ってしまうと、運用会社のコストの問題というのがやはり避けては通れない議論であろうと思います。

この点について、事務局のこのペーパーにも紹介されていましたが、ICGNで、モデル・マンデート・イニシアチブという、運用機関とアセットオーナーとのマンデート契約のモデル条項をまとめたような、プリンシプルのようなものがございます。そのモデル・マンデート・イニシアチブの中で、あまりアセットマネジャーのみにコストを負担させようとすると、このアセットマネジメントというビジネス自体が成り立たなくなると書かれています。そうすると、ひいては優秀なプレーヤーがいなくなってしまうので、アセットオーナーのメリットにもならないため、コストをどう負担するかということをしっかり考えるべきであると提言がされております。特にパッシブ運用の場合には、コストについて衝突が生じる可能性がありますので、この文脈であればコストについても検討する、アセットオーナーあるいは個人投資家含めてこの意識を持つべきであるとか、少し書かれたほうがいいのかなと思いました。

すみません、ちょっと長くなりますが、最後に自己評価のところです。自己評価は、取締役会の評価と同様に、大変重要だけれども、多分対応が一番難しいと思っています。以前私がご紹介させていただいたイギリスの年金協会の自己評価シート、これを日本版に策定したような取り組みもでています。これとともにもう一つ、英国の状況でご紹介させていただきたいのが、イギリスの運用会社は、スチュワードシップ報告書というか、スチュワードシップ活動のアニュアルレポートのようなものを公表しています。この中には、議決権行使をどうしたか、あるいは対話はどういうものがあったかというものが相当具体的に書かれています。現状、日本の運用会社もこういったものを開示されていらっしゃるとは思うんですが、それはホームページ上ファイルが点在していることが多いようです。こういう情報を1つにまとめて体系立てて報告するということで、一種の自己レビューのようなものにもなりますし、体外的に見せることで、投信の場合には個人の投資家に直接訴えることができると、そしてアセットオーナーに対する説明や報告にもできるということで、こういう報告書的なものもあってもいいのかな、なんていうふうに思いました。少しこういう取り組みがあるというご紹介でございました。

すみません。長くなりましたが、以上でございます。ありがとうございました。

【池尾座長】

では、小口メンバー、お願いします。

【小口メンバー】

ありがとうございます。本日の議題になっています企業と機関投資家の「建設的な対話」ですが、キーワードになっている対話には、皆さんポジティブだと思うのです。対話とはどういう意味なのか、今さらながら広辞苑で確認してみたら、「向かい合って話すこと」とか、「相対して話すこと」ということで、要するに双方が同等の立場に立つというのが対話という言葉にそもそも含まれていて、立場には優劣がないというニュアンスから、おそらく企業も機関投資家も双方が受け入れやすい言葉だったのかと改めて思いました。これまでフォローアップ会議で議論してきたのですけれども、前半は企業についていろいろ議論していく中で、透明性の確保とか説明責任、これは上場会社だからより強く求められるのかもしれませんが、本日資料の「はじめに」のところにも書かれていますけれども、取締役会のあり方にしても独立した監督責任に関して、かなり踏み込んだ意見書を出しているわけです。企業に対してそういう発信をしてきたことを考えてみますと、このフォローアップ会議が、対話の相手方である機関投資家に対しても、企業と公平な立場に立つために、透明性とか説明責任に関して要請する、これは極めて自然であって、なおかつ妥当なことで、これがないと公平を欠くのではと思っているわけです。

そういう流れの中で今回の意見書案を拝見すると、細かい言葉はさておき、運用機関が説明責任を果たす、ガバナンスを強化する、これは第II章1(1)に書いてあるとおり、運用機関自身の信頼性を高めて、対話の実効性を高めることにつながる、企業からの信頼性を得るにも当然こういうことは必要だろうなということでありますし、個別の議決権行使の結果開示について、いろいろな意見があると思うのですけれども、やはり利益相反の懸念を払拭する上で有効な方法ということで、もう既に海外でも活用されているわけです。先ほどエビデンスベースでの議論というご指摘もありました。確かに日本では実施されていないのでエビデンスがないということですけれども、一方で、先達であるイギリスとかアメリカの例が今回示されていて、前回は国際機関投資家団体であるICGNの意見も紹介されていましたが、海外では経験が積まれていて、いろいろな問題はあると思いますけれども、利益相反の懸念を払拭し、透明性を高めるために有効だと、そういうことになっているのかなと思います。

個別の議決権行使の公表については、コンプライ・オア・エクスプレインなので、別にびた一文まけられないということではなくて、原則の話をしているわけです。企業に求める透明性確保と同じようなことを機関投資家に求めるということで、ただ、個別事情に照らしてそれは適切ではないと考えるのだったらば、先ほど岩間メンバーからお話しもございましたけれども、顧客とか受益者の利益が、むしろ公開しないほうが十分に得られるということであれば、それを説明することによって説明責任を果たすということで、コンプライ・オア・エクスプレインの手法は納得的ではないかなと思うわけです。

あと、どのようなケースがエクスプレインになるのかなと考えたのですけれども、考えられますのは、例えば集中ファンドみたいな形で、銘柄を絞って投資をしていますと、個別の議決権行使の結果の開示がイコール保有銘柄の開示になってしまうので、運用に支障があるということも考えられなくもないのですけれども、逆にそれぐらいしか思いつきませんでした。しかしながら、保有株数を開示するわけではなくて、保有銘柄、しかも過去に実施した議決権行使の結果を開示するわけで、今の保有銘柄を出すわけではないので、そこはさほど問題ないのかなと思うのと、小さい会社はリソースがないという理由があると思うのですけれども、リソースのある大きい会社は、パッシブ運用も含めて、ものすごく幅広い銘柄を持っているので、今さら個別銘柄、保有銘柄の開示につながったとしても、それが何か支障があるのかなというのは、正直言ってぴんとこなくて、ほんとうにどんなデメリットがあるのかなと。あるのかもしれませんけれども、思いつかないというのが私の今の率直な感想です。

今日も来る前にちょっと見てきたのですけれども、我々の顧客である海外年金基金は、日本株も含めて個別の議決権行使結果をネットで公表していまして、私ども、顧客の投資先企業とはかなり対話させていただいているのですが、開示が障害になった経験は、正直言ってないということと、あとは実際に企業様と対話するときに、むしろ企業様の方からは議決権行使の結果をはっきり言ってもらったほうがありがたいと言われることが多いのです。賛成してほしいけれども、反対だったら反対したと言ってもらったほうがありがたいということを言われているので、私自身の限られた経験ではありますけれども、個別開示にどんなデメリットがあるのか、正直言ってよくわからないというのがあります。戻りますけれども、原則として開示、そして何か特別の場合はエクスプレインということでいいのかなと思っています。

それで、先ほど共同エンゲージメントのお話があったのですけれども、我々も共同エンゲージメントに取り組んでいる立場で、ご意見に賛成したいところですが、ただ共同エンゲージメントのリスクも言っておきたいと思いますが、どうしても形式的なアジェンダに向かいがちなのですね。複数の投資家が共同する場合、みんながみんなその企業のことを深く理解しているわけではないので、ある意味形式的なアジェンダ、それもアウトスタンディングなアジェンダに引っ張られるわけです。そうすると、川北メンバーや岩間メンバーがおっしゃったように、エンゲージメントの質を突き詰めていこう、エンゲージメントというのは企業ごとに違うのではないか、運用会社で違うんじゃないかという議論が当てはまらなくなります。そもそもスチュワードシップ・コードにおいて定義付けされた、「投資先企業やその事業環境ごとの深い理解に基づく建設的な対話」と、複数の機関投資家が集まる共同エンゲージメントに内在する、形式的なもの引っ張られやすいということの整理をしておかないと、先ほど川北メンバーがノイズということをおっしゃいましたけど、企業を深く理解しない投資家が集まれるアジェンダを探して企業にモノ申していくことは、企業にしたら単なるノイズにしかならないというリスクもあるのです。その辺の整理をした上で、1つの手段として共同エンゲージメントというのはあるのかもしれませんが、その整理がなされないまま共同エンゲージメントを推奨しますと、今せっかく形式から実質へという話をしている中で、実質から形式への移行を誘発するようなリスクもあるという点を指摘させていただきたいと思います。

以上です。

【池尾座長】

内田メンバー、お願いします。

【内田メンバー】

どうもありがとうございます。私からは3点ございまして、1つ目は運用機関のガバナンス強化についてです。最終受益者の利益の確保や利益相反の防止、これは当然のことでありまして、これについて意見書で言及することは賛成です。そのための具体的な方策については、やはり各社でさまざまな工夫が期待されるところでありますので、ここに記載されている独立した取締役会あるいは第三者委員会以外の方法も当然認められるべきだと思います。この点については江良メンバーや岩間メンバーと同じ意見であり、ここに記載されているガバナンス体制は例示ということで、先ほどご説明のときにも「例えば」という言葉が入っていましたので、「例えば」という文言をここに入れるべきではないかと思います。

それから2つ目は、議決権行使結果の公表の充実についてです。これは4ページの第3パラグラフのところで、今回、個別の議決権行使結果を一般に公表することを原則とすべきということで、かなり言い切った形になっていると思います。確かに最終受益者への説明責任の観点からは、機関投資家の議決権行使の透明性を向上させることは非常に重要だと思っています。他方、前回申し上げたとおり、機関投資家が、投資先企業と建設的な対話を通じて、機関投資家みずからが定めた議決権行使基準を形式的に当てはめた場合と異なる議決権行使をすることは当然よくあることです。そうした場合に、個別の議決権行使結果を一般に開示する、つまり、当事者と関係ないところにまで開示することにしますと、その行使結果だけが独り歩きして、機関投資家が批判を受けたり、あるいは説明を求められたりすることが十分想定されます。その説明にはやはりコストも伴うと思います。

そういうことから、こうした批判や説明を回避するために、機関投資家の議決権行使が建設的な対話を踏まえるのではなくて、議決権行使基準にとらわれて形式に従ったものになるのではないかという懸念を、発行体としては持っております。そういうことになりますと、結局コーポレートガバナンス改革で形式から質ということを進めてきたのに逆行しますし、2つのコードが唱えています投資家と企業との建設的な対話を阻害する要因になると思いますので、その点に十分留意する必要があると思います。

それからもう一つは、かなり影響力のある機関投資家が反対票を投じたことが一般に公表された場合、その機関投資家が反対票を投じている企業についてはいずれ株を売却するのではないかという憶測を呼び、特に個人投資家はそういう憶測によって影響を受ける可能性があるのではないかと思います。その影響を受けることがいいことか悪いことかはわかりませんが、そういう懸念も想定しておく必要があるだろうと思います。

それから、3ページの最終パラグラフのところですが、米国においても個別の議決権行使結果の公表が義務づけられているのは投資信託です。SECに登録している投資信託等の一部にすぎないので、したがって、個別の議決権行使結果の公表を求める運用機関の範囲については、運用機関が負っている受託者責任の内容を踏まえて、業態等による違いを考慮して検討する必要があるのではないかと思います。以上のように、懸念点が幾つかありますので、やはり議決権行使結果の一般的公表についてはもう少し時間をかけて、慎重に議論をすべきではないかと思います。

それから3点目は、この意見書の影響はかなり大きいと思いますので、ちょっと細かい点を申し上げます。3ページ目の2ポツの第1パラグラフですが、ここで「スチュワードシップ・コードにおいては」とあって、その後「議案の主な種類ごとに整理・集計する形での行使結果の公表を求めている」と書いて、注として「スチュワードシップ・コード 指針5-3(抜粋)」が掲載されています。しかし、実際にスチュワードシップ・コードを見てみますと、この指針の後半部分にはただし書きでかなり長い文がついています。そこには要するに、必ずしも集計開示の形をとらなくても、他の方法があれば、理由を説明して、そういう方法によって議決権行使結果の公表を行うことも考えられると書いてあります。私はスチュワードシップ・コードの策定には関わっていないのでよくわからないのですが、これだけ長い文言が書いてあるということは、かなり議論がなされた結果、記載されたのではないかと思います。したがって、その一部分のみをこの意見書に記載することは少し問題ではないかと思いまして、意見として申し上げます。

以上です。

【池尾座長】

高山メンバー、お願いします。

【高山メンバー】

私からは、議決権行使の個別開示についてコメントさせていただきます。この意見書にもありますが、海外の状況について若干補足した上で、日本の状況に対する私の意見を申し上げたいと思います。

まず、イギリスの場合は、この意見書の3ページの注3にありますように、多くの機関投資家が個別開示を行っています。実際に調べてみると、主要な年金基金であるとか、それから主要な運用機関において個別開示がなされております。よって、英国では、主要な投資家においては個別開示というのがベストプラクティスであると考えます。それから、アメリカの場合は、年金基金においては、先日こちらの会議に電話で参加してくださったカルスターズもそうですし、それからカルパース、TIAAなどの主要なところは個別開示を行っているという状況にあります。一方、運用会社、アセットマネジャーのほうは、年金基金ほど開示が進んでいない状況にあると思います。ただし、先ほど来からお話がありますように、彼らはSECのルールのもとで投資信託の部分は個別開示を行っています。投信の部分だけだから少ないのではないかというふうに思われるかもしれませんが、アメリカの株式運用におけるお金の出どころを見ると、大きくいって投信と、それから年金がありますが、投信が6、年金が4という割合であり、6割が投信を占めています。その部分の個別開示がなされているという状況にあります。あと、多くの運用機関においては、年金の運用、それから投資信託の運用の両方をされているわけなんですけれども、投資信託の中には多くのインデックスファンドがありまして、そこにおいて個別開示をするということは、インデックスに入っている企業について開示をすることになり、実質的にほとんどの企業の個別開示をするという状況に米国の投資家は置かれていると考えます。

このように個別開示が進んでいる欧米の状況ですが、これらの主要な投資家においては、ガバナンスの体制に関しては最終受益者の利益の確保がきちんとできるような、そういったガバナンス体制が構築されているものと理解しております。

次に日本の状況についてですが、個別開示に関してはメリット、デメリット、両方あると思います。このデメリットを最小限にして、なおかつメリットを最大限に享受するためには、それを可能とする体制が必要だと思います。それがまさにこちらでも問題とされている運用機関のガバナンスの強化と、利益相反の管理、ここになると思います。この体制をきっちり築いた後、次に個別開示に移るということであれば、その個別開示のメリットが最大限に享受できるような状況になるのではないかと思います。

以上です。

【池尾座長】

どうもありがとうございました。

岩間メンバー、追加ですか。はい。

【岩間メンバー】

個別開示の点について、もう一度、私の立場というか考えをクリアにさせていただきたいのと、それから投信の場合の技術的な問題について、上田メンバーからちょっとご指摘があったので、その点について若干申し上げたいと思います。

私どもの立場は、個別開示に反対しているということではございません。要するにアセットオーナーが投資一任の契約を我々に与えるというときに、アセットオーナーがそれを許すということがないと、それができないと、こういう話でございます。そういう意味でいいますと、私どものガイドラインというのは個別開示を排除しているものではないわけです。ただ、我々としては、社会的に我々の会員がどういう行動をしているかということについて、毎年の結果を広くパブリックにご報告することが必要だとずっと前から考えておりまして、それは毎年励行している。これは私どものホームページを見ていただきますとわかりますけれども、こういったガイドラインがございまして、それの最後のほうに、こういうメルクマールで報告しなさいという具合に表になって出ておると、こういうことでございます。ですが、これは我々が最低やっておることでございまして、もちろんお客様が個別開示しろということであれば、個別開示に応じると、こういう建前になっておるわけです。

ですから私が申し上げたいのは、そういうことがちゃんと整理されて示されるということで、要するにアセットオーナーの立場と、エージェントであるアセットマネジャーの立場というのは、少なくとも投資一任契約の場合にはクリアに整理される必要があるのではないかと、こういうことでございます。

それからもう一つ、投資信託の問題でございますが、確かにファンドごとに開示をするということになると相当の手間がかかる、これは間違いないと思います。これはコスト倒れになって、多分悲鳴を上げると、特に日本は投資信託はたくさんあって、規模のわりに大変だという状況でございますので、これは大ごとになる可能性があると私は懸念します。ただし、これはやはり世界の流れとして個別開示に踏み切るべきだろうと私は思っておりますが、私は投資信託を代表する立場ではございませんので、こんなことを言っていいのかというのはあるのでございますけれども、そういう中で、要するにフィージブルなやり方といいますか、そういうものをやはり工夫する必要があるのではないかというぐあいに思う次第です。

【池尾座長】

はい、佃メンバー。

【佃メンバー】

どうもありがとうございます。今、岩間メンバーから非常に心強いコメントがございまして、我が意を得たりという感じなんですけれども、2点、ちょっとコメントさせていただきます。

まず、1番の運用機関のガバナンス・利益相反管理等のところです。先ほど高山メンバーからもございましたように、ガバナンスの強化、それから利益相反管理、これはどちらとも非常に大事なポイントだと思いますし、ここに書かれてある内容のとおりで良いと思います。3番のところに、さらりと「適切な能力と経験」というふうにありまして、ここは、この分野の専門家としていろいろ言いたいところはあるんですけれども、こういう記述でも良いのではないかなと思います。ただ、大事なポイントとしては、(1)ガバナンスの強化も、(2)利益相反管理も、(3)の適切な能力と経験がなければ、推進できないという関係は指摘させて頂きます。

従って、この適切な能力とは何ぞや、適切な経験とは何ぞやというのは、これはあえて我々が例示する必要はないかもしれませんが、各資産運用会社、あるいは各金融グループの中できっちりとご議論いただくということが非常に大事な点になるのではないかなと考えます。個人的には、やはり最低3つの能力を具備してほしいなと考えます。1つ目は、構想力。非常に変化の大きい世界の中で、我が国の資産運用業というのをいかにグローバルに、コンペティティブなものにしていくかといったときに、やはり構想力が非常に大事になると思います。前回、田中メンバーからもございました、資産運用等に関するワーキンググループの報告書の中にもございましたけれども、我が国の資産運用業の今の立ち位置を考えますと、構想力というのは非常に大事になると考えます。2つ目に、今までのやり方というのを変えていく力、いわゆる変革力も大事だと思います。最後に、3つ目は、胆力。先ほどもメンバーの方からコメントございましたけれども、外野からの批判というのは当然あると思いますし、それにひるんでしまうことはあると思います、特に日本的な文化の中では。さはさりながら、やはり大きな目的を達成するためには決然とやらなければいけない。以上3つの能力が大事になってくるかなと思いますが、今後、適切な能力、適切な経験とは何ぞやということを議論する上で、ぜひともじっくりと考えていただきたいなと思った次第でございます。

それから2点目に、この話とも絡むんですけれども、4ページの3つ目の段落のところです。「したがって」のところで、ここがまさにコンプライ・オア・エクスプレインベースでの対応として、アセットオーナーへの開示にとどまらず、個別の議決権行使結果を一般に公表することを原則とすべきであると、個人的にはこの文脈でいいのではないかなと思います。これを、ではコンプライとするのか、あるいはエクスプレインとして、できない理由というのを説明するのかというのは、これはもうひとえに、まさにアセットマネジャーの経営トップがみずから考えるべきことであると考えます。そこの基本的な方針に関する議論なしに資産運用業の発展というのはあり得ないと思いますので、そういった意味では、先ほど岩間メンバーからございましたように、いかにフィージブルな形にするか、いかに資産運用会社にとって負担の極力少ない形でやるかということを原則にしつつ、なおかつ基本的には運用機関の自主性に任せるといった原則を担保した上で、こういった方向性を打ち出していくのは非常に意義があることだと思います。

以上でございます。

【池尾座長】

ありがとうございました。2回目の発言になっている方もおられますので、後半のアセットオーナーの部分についてもあわせて意見を述べていただいて結構だと思いますので。

それでは、川北メンバー。

【川北メンバー】

II章の議論がほぼ終わりかなと思ったので、手を挙げました。第II章に関しましては、ガバナンスの問題、利益相反、それから議決権行使の開示、これに関しては私は特に大きな意見を持っていませんので、これはお任せします。1点だけ、パッシブ運用に関しまして少し意見を述べたいと思いまして、追加でお願いしたいと思います。

それは上田メンバーがおっしゃったことと結論として同じです。パッシブ運用の本質は、要はマーケットがちゃんと効率的に価格形成しているので、それを信じて何もやらない、コストをかけない、これが本来の姿です。そうはいっても現実には効率的ではないから、ある程度、ここでいうと対話とか議決権行使とかそういうことをやりましょうということであり、これを否定するわけではありません。ただ、そういう対話とか議決権行使をやるには、ではその結果、不適切だと思った企業をどうするのかが問題になると思います。これに関しては、投資対象として不適当と考える企業に関してはユニバースから外すというふうな、そういう議論が書かれていますので、それはそれでいいのかなと思っています。

ただ、書き方に関して、ここが上田メンバーがおっしゃったところと一緒なんですけれども、片方は、対話とか議決権行使に関しては取り組むべきだと強く書いてあって、外すということに関しては検討していくことも考えられるとあって、ここの書き方はアンバランスなのかなと思います。それは次の意見、アセットオーナーへの意見のところと関係しますが、今のパッシブ運用はTOPIX型が多いわけで、2,000社あります。この2,000社とほんとうに対話とか議決権行使、ほんとうの意味の議決権行使ができるのかというと、これはやはり無理だと思います。コストがかかり過ぎる。そうすると、これは企業の方が言われていますが、スチュワードシップ・コードができたおかげで、とんでもない機関投資家が来て、無駄な時間を過ごしてしまって、あまり有意義じゃないよねと。パッシブ運用で対話とか議決権行使をするのはいいとしても、じゃあそのときのパッシブ運用って何なのか。アメリカが投資信託で議決権行使の結果を公表されているというお話でしたけれども、何千社もパッシブ運用しているとは到底思えない。やはり数百社程度なんだろうと私は理解しています。やはりそういうところをもう少し真面目にというか、真剣に考えていくべきだろうなというのが1点です。これは西山メンバーのところにもJPX400ということが書かれていますので、この点を議論すべきだというのが1点です。

それから、アセットオーナーのところに移っていいということなので、アセットオーナーのところで申し上げます。5ページの頭のところで、アセットオーナー自身が、可能な限りみずからスチュワードシップ活動に取り組むべきだと書いてあります。そうすると、対話とか議決権行使をやろうとすると、すごいコストがやはりかかってくるわけですね。幾らJPX400であれ、400社と対話していかないといけないと、そこのコストをどうするのか。コストというのはやはり非常に大きな問題だと思います。この部分を、現状はアセットマネジメント会社にある意味投げているわけです。これもアセットマネジメント会社の人に聞くと、こんなフィーでやっていられるのかどうか、彼ら自身は非常に疑問に思っています。ただ、対お客さんとは、やはりそういうことはなかなか議論できないという状況です。この点、IIIの1の一番下のところに「アセットオーナーは、運用機関が」ということで、「運用機関の適切な活動を妨げることのないよう、留意すべき」とありますが、ここにコストの問題、フィーの問題をちょっと入れていただければいいのかなと思いました。

【池尾座長】

ありがとうございました。

江良メンバー、お願いします。

【江良メンバー】

ありがとうございます。議決権行使結果の個別開示についてですが、これは今回および前回の会合においてもさまざまなメリット、デメリットが指摘され、とりわけデメリットについて、例えば形式的な議決権が助長されるリスクがあるのではないかなど、いわゆる対話の実質を損なうことを懸念する意見が、私を含む何名かの委員の方々からもあったかと思います。要は、この点については、賛否両論ある状況だと思っておりまして、その点をきちんと意見書にも書き込むべきではないかと思います。

さらに、このような賛否両論ある状況を踏まえると、本意見書案の「原則とする」という言葉は非常に強いように見受けました。つきましては、この点についてはもう少し慎重に議論すべきではないかと思っております。

また、些末な点で恐縮ですが、引用いただいている英国投資委員会のレポート、サーベイですが、原本を拝見したのですが、英国スチュワードシップ・コードを受け入れ表明している288社にアンケートを送付していて、回答率が45%、要は130社ぐらいしか回答してない。そのうちの59社が議決権行使結果を開示していると回答しているが、そのうちの4分の3のみが議決権行使結果の個別開示をしているとのことでした。少なくないという表現で記載いただいているのは、このような状況を踏まえてかとは思いましたが、英国において、個別開示が主流あるいは一般的であるのかということについては議論の余地があるのではないかと感じました。議決権行使の個別開示については、以上です。

後半部分についてですが、アセットオーナーが運用機関に求める事項の明示という点についてコメントさせていただきます。アセットオーナーによるアセットマネジャーのスチュワードシップ活動に対する適切な評価および奨励という点は非常に重要だと思います。その観点から、パッシブ運用についてはコストについても考慮すべきなのではないかというご発言もありましたが、パッシブ運用についても、コストや運用手法の特性を踏まえ、適切な評価をいただくことは重要だと思います。

さらに、関連して申し上げると、運用会社において既存の実務や取り組みが存在することについてご理解いただきたいと思います。すなわち、個々の運用会社において自分たちの運用の特徴や強みを生かして、主体的かつ積極的にスチュワードシップ活動に取り組んできた会社も少なくないわけです。また、さらにスチュワードシップ・コードの受け入れなどをきっかけに自社の取り組みを強化している会社もあり、運用業界全体が取組みを強化する方向に進んでいることを感じています。

スチュワードシップ活動の実質を担保するにあたっては、このような運用会社の自主的な取り組み姿勢が極めて重要であるとおもいますので、こういった既存の活動、方針、そして努力については十分に評価、考慮していただきたいと思いますし、できれば意見書の中でも明示いただきたいと思います。そして、このような活動状況を踏まえ、運用会社の自主的な取り組みを検証した結果、実は運用会社の方針が優れていて、そのまま採択することがベストな選択肢であるという結論もあるように思います。そのため、そのような対応についても許容するような文言にすべきなのではないかと思っております。具体的には、5ページ目、非常に細かい点で恐縮ですが、「単に運用機関の方針をそのまま採択するのではなく」と記載いただいておりますが、このままの文言ですと、そのまま採択すること自体が全く望ましくないというように解釈も可能に思われますので、そのあたり丁寧に補足いただければ、趣旨がより理解されやすくなるのではないかと思います。

以上です。

【池尾座長】

どうもありがとうございました。

皆様の議論を受けて、私もちょっと意見を、いつも述べないんですけど、述べさせていただきたいと思います。対話の質の充実を図るということが重要であるというのはそのとおりで、冒頭で川北先生からご指摘いただいたことはごもっともだと思うのですが、私はやはり岩間メンバーがおっしゃった意見に賛成で、やはり、例えばどうやって収益を上げるかについて議論しろとか、資本政策について議論しろとか、ペイアウトポリシーについて議論しろとかいうのは、ちょっとやはりそれを書くというのは機関投資家をあまりにも小学生扱いしていないかという感じがします。上田メンバーがおっしゃった資源投入しろというのも、やはりちょっと小学生扱いをしていることになるのではないか、我々そこまで上から目線で意見書を書くのはちょっといかがなものかというのが私自身の思うところでありまして、私の思いは、佃メンバーがちょっと言っていただきましたが、3ページの2の前の(3)のところで、やはり経営陣がそういうミッションを負っていて、経営陣が真剣にそういうことを検討しなければいけないんだということを書くということで、この意見書としては十分ではないかということです。この「また、経営陣は――推進すべきである」という文章は、実を言いますと私がお願いして、入れていただいたんですが、だから見出しが、この文章が入る前の見出しで、「適切な能力と経験」としか書いていないので、そこを経営のミッションというか責務みたいな見出しに変えることによって、あるいはそこで、対話の質の充実を図っていくことがほんとうに経営者としてやっていかなければいけないことなんだということを書くことによって、構成上の問題についてはお許しいただけないかなというのが考えているところです。

それからもう一つ、この意見書を受けて、最後のところにありますが、スチュワードシップ・コードの見直しに関しての議論が始まるというふうに理解しております。それで、共同エンゲージメントの話に関しては、この場でそれについての議論をさらに深めて、その内容を意見書に盛り込むということにすると、スチュワードシップ・コードの見直しの議論のスタートをむしろ遅らせてしまうことになりかねないので、スチュワードシップ・コードの見直しの議論の中で共同エンゲージメントのあり方については議論していただくということで、我々のこの段階でまとめる意見書に共同エンゲージメントの話は入れないで、見直しの議論に委ねるという形のほうが望ましいのではないかと思うので、いかがでしょうかということです。

それから、議決権行使の公表の内容に関しては、懸念についてもう少し書き込むというのは余地があると思いますので、内田メンバー等が言われた意見、懸念についてもう少し書き込むという方向で修文を考えたいと思います。ただ、その上で、冨山メンバーの意見書とかだと義務づけろとかいうふうになっているわけですが、ここはあくまでもコンプライ・オア・エクスプレインベースで対応するということで、その場合、やはり何がプリンシプルなのかということで、一応公表するというのをプリンシプルとした上で、それに対応してもらう。だからどちらをデフォルトにするかによって、コンプライ、エクスプレインの内容は変わりますから、原則とすべきであるというのがきつい書き方だというふうなご指摘もちょっといただきましたが、コンプライ・オア・エクスプレインベースで対応するということとすれば、やはり個別議決権行使結果を一般に公表するということがプリンシプルというふうにせざるを得ないと思いますので、ご理解いただければと思います。

あと、いろいろと細かな点でご指摘いただいた点、例えば2ページのところで、「例えば」というのをやはり入れたほうがいいというのは、入れたほうがいいと思いますし、それから3ページの2ポツの最初のパラグラフの一番最後の「まずもって重要である」という記述に関して、これは上田メンバーが、こんなことでは不十分で、「すべきだ」と書くべきだとおっしゃいましたが、これに対して後で内田メンバーがおっしゃいましたように、ただし書きのいろいろな議論があって、その2つを打ち消し合うと、こういう「重要である」というふうな記述になるかなというふうに考えておりますので、そこもご理解いただければなというふうに思います。とりあえず今の段階で、こんなふうに思います。

それでは、武井さん、キャロンさん。

【武井メンバー】

私は最後に手を挙げましたけど、いいですか。ほかのかたのほうが先でしたが。

【池尾座長】

ちょっと順番で。小口さんは2回目だし。

では、やはりキャロンさんから。

【キャロンメンバー】

有難うございます。3点お話しさせてください。1点目は意見書全体に対してですが、私は、非常によくまとまった内容だと思います。バランスがとれており、コンプライ・オア・エクスプレインベースではありますが、それに対する懸念事項もちゃんと書かれています。この内容に、今日話された一任契約での運用について付け加えていただければ、十分なのかと思います。

2点目は4ページのパッシブ運用におけるエンゲージメント等に関してですが、上田メンバーと川北メンバーのおっしゃるとおりだと思います。と申しますのは、現在のパッシブ運用では、コスト競争の激化によって、手数料が既に随分安くなっており、エンゲージメントする余力がない、採算も合わないというような囚人のジレンマに陥っているかと思います。では取り組むべきではないのか、というと、絶対に取り組むべきであり、中長期的な観点からエンゲージメントすべきなのですが、コストの問題がありできない状況になっています。

ですので、私としては、「取り組むべきである」という文言を残していただくべきだと思います。そして、パッシブ比率が高まっているにも関わらず、ほぼほぼ誰も中長期的な立場でエンゲージメントできない現在の状況を改善するために、アセットオーナーが国民のために負担すべきエンゲージメントコストについても、この意見書に盛り込んで頂きたいと思います。

最後ですが、難しい事であると認識しておりますし、本日の議論も白熱いたしましたが、私はこの意見書の最も重要な改革の提言は、個別開示だと考えています。あくまでもコンプライ・オア・エクスプレインだと理解していますが、デメリットもある程度は覚悟しないといけないですし、そのデメリットを極力縮小する必要もあります。しかし、現実問題として欧米では実施されていますし、少なくとも私は、弊害はないと聞いています。可能でしたら、私どもの志をできるだけ高くして、欧米との差を縮めるのではなく、欧米を超えるベストプラクティスを目指したい。例えば、賛否両論の話がありましたが、3ページの最終行から4ページの「こうした海外の動向に見られるように、運用機関等により真に最終受益者のために議決権が行使されることを担保する上で、個別の議決権行使結果を公表することは、有効な方法と考えられる」という記載に関して、反対していらっしゃるメンバーはいらっしゃるでしょうか。賛否両論になるのであれば、多数決をとっていただいてもいいと思いますけれども、この部分は極めて重要です。

最後になりますが、欧米ができる事であれば、我々日本は欧米を超越してできると、心から信じています。もちろん運用面の問題もあることも理解していますが、今日、明日に実行するというようなお話では全くないので、方向性をつける意味でも、日本のガバナンス改革を支えるために、欧米が行っているイノベーションを、ぜひ日本でも取るべきであるという指針をお願いしたいと思います。

以上です。

【池尾座長】

ありがとうございました。

では、武井さん、お願いします。

【武井メンバー】

こちらの意見書ですが、今回ガバナンスを形式から実質に高めるという観点が元々の議論なわけで、そうした実質に高めていくという観点から申しますと、世の中にいろいろ存在している形式的なリアクションとか、形式論というのをいかに打破するかということも同時にやっていったほうが、実質が高まるのだと考えております。その観点から何点か申します。

まず、最初の運用機関のところなんですけれども、今回の案だと適切な文章を加筆していただいていますが、利益相反の懸念があるというのはわかるのですが、利益相反の懸念への対処を進めていく中で、逆にその対処が別の形式的リアクションを招いてしまうことがないように注意すべきだと思います。たとえば外の人に判断を任せるとか、そういった形式的リアクションに走らないよう、きちんと注意喚起を発するべきだと思います。利益相反の深刻さの度合いとも絡みますが、利益相反を消すからといって、逆に外の人に丸投げするとか、そういったことは形式的な対応は逆によくないんだという警鐘も同時に発したほうが良いと思います。今回の案の2ページのところには外部の者への丸投げはよくないということも書いていらっしゃるので良いと思いますが、そことリンクさせて、利益相反の議論とかをした中では、体制づくりについても最終的には実質が大切であり、形式論に陥りかねない点は注意喚起をしておいたほうがいいのかなと思います。

次に議決権行使結果の個別開示のところです。個別開示にもメリット、デメリットがあるわけですが、なぜデメリットが出てくるのかなというのを考えてみたときに、ここでも世の中における形式論、形式的リアクションという点が、デメリットの一つの重大な根っこなのではないかと考えております。

開示ということについて今回議論されているわけですが、もともと開示には3タイプあります。顧客、アセットマネジャーに開示するというのが開示の1象限目で、投資先の企業に開示するというのが開示の2象限目ですが、今回の個別公衆開示というのは、こうした1象限目と2象限目を超えて、さらに一般大衆に出すという3象限目を言っているわけです。加えまして、今の3象限を横軸としますと、次に縦軸がありまして、概要開示という選択肢と、個社ごとかつ個別議案ごという2象限があります。かけ併せると全部で6象限になるわけです。今回の個別公衆開示というのはこの6象限の中で一番厳しい詳細な6象限目をやるという話なわけです。利益相反であったりいろいろな理由があるとはいえ、6象限目まで行ったときにいろいろなデメリットが出てしまうと。それをどうしますかという議論をしているのだと思います。

デメリットとしてはいろいろな議論が出ています。例えば江良さんのおっしゃっているような建設的な対話の現場に対する支障という点は、これは建設的な対話を実際現場でやっていらっしゃる方のお言葉として重たい言葉だと思いますので、決してこれは軽視すべきではないと私は思います。

あと、内田メンバーのおっしゃった議決権行使の形式化です。形式化の点で特に懸念されますのは、どうしても議決権行使結果を、先ほどの開示1象限、開示2象限を超えて、開示3象限のレベルで出すことによって、反対票を行使していないと機関投資家の方は何か仕事をしていないのではないかと考える、ステレオタイプな形式論が懸念点です。そういった形式論を招聘しない施策も同時に施すべきなのだと思います。

あと、内田メンバーがおっしゃったように、議決権行使基準は外部に公表されているわけでして、その基準に照らすと形式的には一旦バツというか反対になるところ、対話等を経て賛成にすべき場合があると。それにもかかわらず、賛成にするのは対外的説明が面倒だからやめて反対のままにしようといった、機関投資家側の形式的リアクションです。これらの形式的なリアクションが起きることで、こういった個別開示が本来ガバナンスの実質に対して果たそうとしている目的に反した事態になってしまう点が怖いのだと思います。そうした意味で、そういった形式論や形式的リアクションをきちんと排除するような注意喚起も同時にきちんとやっておいたほうが良いと思っています。

あと、個別公衆開示のアセットオーナー側のデメリットとして、例えば保有銘柄がわかってしまい困るというデメリットもあります。あと、さきほど内田メンバーもおっしゃっていましたけれども、反対票を行使したことを公表したらそれはその銘柄を早晩売るというメッセージになってしまって、売るというメッセージが外に伝わることで損をするのは結局顧客やアセットオーナーだということになります。売るメッセージが外に伝わることでいい値で売れなくなり売るにも困ってしまうので、顧客がアセットオーナーにもデメリットがあると。

そういった実質的な不利益を鑑みますと、エクスプレインをすべき状況というのがそれなりにあると思われます。そうした状況の中で、今回コンプライといった施策を進めていくためには、そのエクスプレインをすべき、意味のあるエキスプレインとは何なのかということも併せてきちんと整理をしておいたほうが良いと思います。

そういう意味で、今回、警鐘を鳴らしておいたほうが良いと思う形式論、形式的リアクションが三つあります。第一が、「反対票を投じていないと機関投資家は仕事をしていない」という形式論です。反対票の行使比率に着目して機関投資家としての仕事を評価する形式的リアクションはおかしいというのが1点目です。2点目が、先ほどの外部への説明が面倒だから行使基準を形式的に適用して反対票のままにしておこうとか、外からの見ばえを気にして形式的な反対票行使を行う形式的リアクションに対する警鐘です。これが2点目です。3点目が、本来エクスプレインを行うことが合理的であるにもかかわらず、コンプライをしなければいけないと形式的に考えるとか、エクスプレインをすることに意味があるときにもなおかつコンプライしろと圧力をかけるような形式的リアクションです。これらの3点の形式論の弊害をきちんとかつ丁寧に排除するということまでやって初めて、今回の施策の目的が達成できるのではないかと思います。ペーパーにどう書くかはいろいろお考えがあるかもしれませんけれども、警鐘を鳴らしたほうが良いと思います。

あとこの3点に関しまして、ペーパーの最後のほうでアセットオーナーの話が出ていますけれども、アセットオーナーがアセットマネジャーに対してそういう形式論を押しつけることについても、きちんと警鐘を鳴らしておいたほうが良いかと思います。アセットオーナーがアセットマネジャーに対して、何でコンプライしないんだみたいに、形式的にコンプライしろと迫ってしまうと、結局、形式的コンプライの事態が招聘されてしまう懸念があります。そういったところを含めて、アセットオーナーに対してまで含めて、そういった形式的リアクションを起こさないという警鐘は何らかの形で書いておくほうが良いと思います。

以上です。

【池尾座長】

今、武井メンバーがご指摘いただいたことはまことにそのとおりで、非常に重要な論点で、私も全面的にエンドースしたいと思いますが、意見書に書くということは、ちょっと適さない感じです。この会議での議論は、議事録全部公開されていますので、そういう非常に貴重な指摘があったということを、議事録を通じて以後のいろいろなプロセスに反映していただくということで、ちょっと意見書には。

【武井メンバー】

議論をまとめた後で、済みません。

【池尾座長】

それでは、済みません、神作先生、先に。

【神作メンバー】

ありがとうございます。ここ数回欠席が続いておりまして、今日、最後に意見を集約する会議で、今ごろこのような意見を申し上げるのはちょっと時宜に反している部分もあるかもしれませんけれども、案を読ませていただいた私の感想を述べさせていただきます。

スチュワードシップの目的というのは、議決権行使やエンゲージメントによって企業の中長期的な価値を高めることにあり、スチュワードシップ・コードはそのための機関投資家の行動規範をベスト・プラクティスとして定めていると思います。しかし、利益相反があって、スチュワードシップ行動がきちんとなされていないのではないかという外形的な疑いが生じることは望ましい状態ではなく、利益相反がきちんとコントロールされた形で、顧客のベストインタレストのためにスチュワードシップ行動が行われていますということをある程度形式的に示す必要があり、反対にそのことを積極的に外形的に示さない限りなかなか納得が得られない部分があると思います。

そのためには、報告書案の最初にありますように、運用機関のガバナンス、利益相反の管理を中心とするガバナンスの問題というのが重要であり、それに続いて議決権行使結果の開示について記載されているというのは非常にロジカルだと思います。というのは、利益相反の管理の体制をきちんとつくってガバナンスを効かせて利益相反をコントロールした後、ではその結果はどうなっているんですかということを示すのは、当然であると思われるからです。そういう意味では、報告書案の順序として利益相反と議決権行使の結果の公表というのが続いて記載されているのは、私は利益相反という観点からはまことに筋が通っており、かつ、この利益相反というのは普通に考えると、個別の企業と運用機関との間で生じますから、個別の機関と個別の企業との間で議決権行使の結果がどうなりましたかというところが開示されて初めて、利益相反についての疑いというのが少なくとも外形的には晴らされる可能性があるということだと思います。個別の開示結果の公表を原則として打ち出すというのも、今申し上げたような利益相反という観点からすると非常にロジカルに結びついてきているのではないかというふうに思います。

ただ他方で、個別開示については、いろいろな問題があることは、本日メンバーの方からすでに多くのご指摘があったと思いますけれども、検討すべき点がまだまだあるように思います。法的に見て私が気にしているのは、金融機関が、直接の顧客との間で法的義務が存在する場合において、スチュワードシップ・コードという非法的規範に従うことによって当該法的義務違反が生じるという事態が生じることは望ましくなく、岩間メンバーはそのことをご指摘されたと思います。この点は、整理しておく必要があると思います。

この点に関連して、高山メンバーとキャロンメンバーにお伺いしたいのですが、投資一任のような形で、直接の顧客が、自分の保有する株式の議決権行使結果については何も言うなと、あるいは言わないことが黙示的に期待されているような場合でも個別の開示がなされているのか、そのような場合にはさすがにアメリカやEUでも個別開示がなされていないのか、この点はいかがでしょうか。私も、岩間メンバーが言われたように、投資信託ですとか、投資会社、アメリカの登録投資会社ですとか、それからEUのUCITSのような、顧客と申しますか、受益者ですとか持分権者と最終の受益者とが重なっている場合は、議決権の行使結果について個別開示させることはあり得、むしろ米国ではそれを法律上の義務としていると認識しておりますけれども、直接の顧客に対する法的義務とスチュワードシップの規範との間の衝突が生じる場合はあり得て、その点については検討していく必要があるのではないかというふうに思っております。その点についてアメリカやEUの状況について教えていただければ大変幸いに存じます。

最後はご質問になりましたけれども、私からは以上でございます。

【池尾座長】

ご存じですか。

【高山メンバー】

残念ながら、それに対する回答というのは今手元にございません。先ほどの話の繰り返しになりますけれども、実際に主要な機関投資家の開示情報等を見ると、アメリカの場合は、アセットマネジャーにおいては、SECに対する投信部分の開示の登録以外は開示が進んでいないような印象を受けます。一方でイギリスの場合は、日本の企業の大株主としてよく登場してくるような主要なアセットマネジャーの開示状況を見ますと、彼らはかなり個別開示をしているという状況にあります。そこのところで彼らがそれぞれの顧客とどういう話し合いをして、どういう契約を結んでいるかというのは、その開示情報からだけでは得ることができません。この問題についてはこれからスチュワードシップ・コードの見直しをするときなどの重要な参考資料になるかもしれませんので、事務局の方に今後このあたりのところの解明を期待したいと思います。

【キャロンメンバー】

少しいいですか。

【池尾座長】

はい。

【キャロンメンバー】

補足ですが、まずアセットオーナーとアセットマネジャーは利益相反の関係にはありません。欧米では、アセットオーナーの名前を出さずに個別開示が行われているという認識でおります。

【池尾座長】

では、小口メンバー。

【小口メンバー】

ありがとうございます。議決権と個別開示等々についてはいろいろな意見が出て、当然やったことがないわけなのでいろいろ懸念とか不安もあると思うのですけれども、そもそも今回のフォローアップ会議のたてつけについてもう一度考えてみたいのです。これだけ人を集めて議事録も公開するということは、多分透明性を高めようというだと思うのですね。議事録は要約ではなく全部開示いただいていますし、英語にもなって開示されているので、いろいろな意見が出たということはむしろ健全な証拠でして、それを隠さずに開示することで透明性は保たれるわけです。しかしもう一つ、フォローアップ会議には説明責任もあると思うのですよね。いろいろな意見があるで終わってしまったら意味がなくて、結局どういう方向に向かっていくのかということについて、発信していくという役割もあると思いますし、まさに意見書というのは、いろいろな議論があったけれども、最終的に、フォローアップ会議としてはこういうことで進めていきたいという1つの意思表示でもあり、対外的な発信でもあると思うのですね。

そんな中で、やはりどう考えても個別開示というグローバルスタンダード、グローバルな慣習になっているものに対して否定的なものを出すということが、ほんとうにどんなメリットがあるのかなと。先ほどのキャロンメンバーがおっしゃった、海外を超えるということまでは言いませんけれども、少なくともグローバルスタンダードに向かっていこうということに対して否定的な意見をこのフォローアップ会議で出すということについては、今まで一生懸命ガバナンス改革を進めて形式から実質へと向かってきた、特に、今の議論以上に大変だったコーポレートガバナンス・コード策定を乗り越えてきた今になって、それはやはり正直ないんじゃないかなというのが感想としてあります。

それで、後半の「アセットオーナーによる実効的なチェック」ですけど、インベストメント・チェーンについて、意見書案の最初で「最終受益者から投資先企業へ向かう投資資金の流れ」と説明をしていただいているのですけれども、本日もコストの話が出ていますが、いろいろなところの発生するコストをどうやって賄いながら、インベストメント・チェーンを維持していくのかと。前回、ICGN原則第3部でご紹介があったように、スチュワードシップのエコシステム、これはスチュワードシップの生態系ということで、いろいろなプレーヤーが有機的に動いていく、アセットオーナーもいればアセットマネジャーもいる生態系においてモニタリング機能を果たすのは、会社に置き換えれば取締役会の役割を果たすのは、やはりアセットオーナーだと思うのですね。最終受益者に一番近いところにいて、アセットマネジャーに指示をしていくのが、アセットオーナーであるということです。したがって、実際の作業は運用機関といったサービス機関に委託するとしても、取締役会に監督責任が求められるのと同じように、このスチュワードシップ生態系において、アセットオーナーが、手足を動かすという意味ではなくて、監督責任を果たすという、その仕組みが全体のインベストメント・チェーンを活性化していくと考えます。

その中で、今日の資料にはないのですけど、前回配られましたICGN原則の指針2.3に委任、Delegationがあって、それが記憶に残っていまして、今日資料を持ってきたのですが、結局、「アセットオーナーは、自身の受託者責任を委任することはできない」、こういうことだと思うのですよね。最終的な責任、これは取締役会が負う責任と一緒で、アセットオーナーはその責任から逃れられない。今回の意見書案では、運用機関とアセットオーナーを分けて書いてあって、それぞれわかりやすいのですけど、やはり別々に議論してしまうと、では結局、この生態系の責任という最終的なものがどこなのか、先ほど武井メンバーもおっしゃいましたけれども、いろいろなところで丸投げが起こるリスクがなきにしもあらずと。活動はそれぞれが餅は餅屋でやるのですけど、最終的には誰が責任をとるかということをやはりはっきりさせていく必要があるのかなと思っています。

それで、これは言わずもがなで、わかっているよという話だとは思うのですけれども、この第III章のアセットオーナーによる実効的なチェックのところに、「アセットオーナーは、インベストメント・チェーンにおいて、最終受益者のより近くに位置し」の後に、繰り返しになるかもしれませんが、アセットオーナー自身の受託者責任を委任することはできないというような言葉を入れることによって、スチュワードシップ生態系が機能するというのをはっきりさせてもいいのかなと思いました。

そう思った理由は、やはりコーポレートガバナンス・コードにおいても監督と執行という議論が大分あったと思うのですね。そこを議論して、取締役会の監督機能ということに行きついたのと同じように、リソースの不足というのは当然アセットオーナーにあるわけで、アセットオーナーに全部やれと言ってしまったら、できないという話になると思うのです。しかしながら、どうやったところでやはり最終的な受託者責任は自分のところにあるということを明確にして、それでリソース不足を補いながらスチュワードシップの実効性を高めるということだと考えると、どう書くかというのはあるのですが、スチュワードシップの生態系の中での監督と執行をはっきりさせることは、今まで我々が企業における取締役会の役割を議論していた延長線上でいくと、統一性がとれていいのかなと思いました。

以上です。

【池尾座長】

インベストメント・チェーンというのは、経済学の言葉で言うと重層的なエージェンシー関係になっているわけで、最終的なというか、本来的なプリンシパルは最終投資家ですけれども、最終投資家から見ればアセットオーナーもエージェントなのだけれども、アセットマネジャーに対して見ればアセットオーナーのほうがプリンシパルなはずなので、プリンシパルとしての責任は当然あるということですよね。機関投資家が株主という意味では、企業に対してはまたプリンシパルなのだけれどもという、そういう重層的な構造の中で、最終的なところに近い人ということの趣旨を書いているのですが、プリンシパル的な責任があるということをもっとちゃんと書けと。

【小口メンバー】

言わずもがなではありますが、書けるのだったら、そのほうがはっきりするかなと。

【池尾座長】

ええ。そこは方向性はそのとおりで、別に異論もないので、書き方だけの問題だと思います。

それでは、岩間メンバー。

【岩間メンバー】

1つは、パッシブです。パッシブのエンゲージメントというのが、むしろ非常に重要だという風潮になってきていると思います。確かにフィーは非常に低い、ですからどうやって有効的にエンゲージメントというか、それをやるのかということについては非常に工夫が要ると。実際、例えばTOPIX構成銘柄全部にそういうことをやるということではまずないでしょう。スクリーニングをして、どういうところに問題があるかということをセレクティブに考えて、段階的にやっていくと、こういうことが現実的なんだろうと思います。例えばノルジェスバンクだとか、GPIFもそうですけれども、あるいは、プレーヤーでいえばブラックロックだとかバンガードだとか、いろいろなところが既に動き始めていると私は理解しております。これらの動きは歓迎すべきことであるというぐあいに思っております。

それからもう一つ、個別開示になるのでございますけど、1つは、例えば年金と金融機関が顧客である場合とでは、全然違うと思います。年金は最終的なベネフィシャリーがいて、そこに対する説明責任がある。特に米国ではエリサという法律もございますし、そのほか英国でも非常に厳格な法律があって、透明性と説明責任があるということは明確ですから、基本的にはアセットオーナーが自分たちの方針を定めて、この間のカルスターズのお話もありましたけれども、プレーヤーに任せ切りにしないで自分たちでやるんだと、こういうこと、特に大きなところはそうだと思います。

ただし、例えば金融機関が、いろいろな金融機関があると思いますけど、株式の運用を任せるときに、もちろんどういう議決権行使をしたかということは報告しろと言うかと思いますが、これについて外部に対しては、個別開示を求めるということは到底考えられないと私は思います。これは、やるほうがいいのかという話はあり得ると思いますけど、これはまさにお客様の判断そのものによるのだと私は思うのです。ですから、やはりそういったケースがいろいろあって、そういう中でまさにコンプライ・オア・エクスプレインの原則にのっとって、実際にアセットマネジャーがその委託を受けて動いていくと、これが多分粛々といけば、いい方向に行くのではないかと私は思っております。

【池尾座長】

上田メンバー、お願いします。

【上田メンバー】

ありがとうございます。先ほどの神作先生からのご質問に関係して少しございます。海外では、アセットオーナーのなかには議決権を自ら留保して、アセットマネジャーは投資判断、議決権行使はアセットオーナー自身が行うと場合も少なくありません。これに対して、日本のアセットオーナーの多くは、アセットマネジャーに運用とともに議決権行使を委託しています。アセットマネジャー、日本の運用会社はほとんど不統一行使をしていると思います。つまり、どうして不統一になるかというと、自社基準で行使をしている部分と、顧客のガイドラインに従って行使をしているからです。おそらく個別開示をした場合には、反対、賛成、反対についてもいろいろな反対の仕方が、例えば代表取締役だけに反対するものもあれば取締役全員に反対するもの、そういうものになるのかなと思っています。

例えば資金の出し手、アセットオーナーが、みずから議決権の方針を設けず判断はしない、運用会社の判断に任せるという場合には、運用会社の判断を公表すればよいのかもしれません。しかし、アセットオーナーが具体的なガイドラインや基準を設けて指図をしている場合については、アセットオーナー自身が開示をするか、あるいはアセットマネジャーを通じての開示になるのかと、ここの整理は必要なのかなと思います。

個別開示がグローバルスタンダードであるというご意見に対しては、それが特にスチュワードシップ活動を行う機関投資家においてグローバルスタンダードの流れであるということは私も否定しません。しかし、ここで少しちゃんと踏まえておかないといけないのが、基本的に海外、欧米においては、アセットオーナーがまず個別開示を相当詳細にやっています。ノルジェスバンクも主要な年金もの多くも、みずからが権利を留保して開示をしている、そのうえ主なアセットマネジャー、プレーヤーであるアセットマネジャーも自身の判断について開示をしているというとりかいしています。グローバルスタンダードと言いながら、アセットオーナーの体制や実態については別にして、アセットマネジャーの個別開示ところだけグローバルスタンダードですというのは、私には違和感があります。あるいは、これはグローバルスタンダードで大事な取組みなので日本もやるべきだと言うのであれば、アセットマネジャーはグローバルスタンダードでいきましょうと、アセットオーナーについては別途日本的に考えておきましょうというのは、少し違う、バランスがとれていないのかなと思ったところになります。

その流れでアセットオーナーのところなんですが、こちらの意見書の5ページ目の1ポツの最初のところ、相当刺激的な一文だと私は理解したんですが、「アセットオーナーは、最終受益者の利益の確保のため、可能な限り、自らスチュワードシップ活動に取り組むべきである」と書いてあります。可能な限り取り組むべきであるということで、何となく私の従来の、現行のスチュワードシップ・コードを読む限りでは、可能であれば取り組むことが望ましいぐらいなのかなと理解していたんですが、これは相当強い表現かなと思っています。

というのが、今スチュワードシップ・コードを読んでいましたら、3ページ目の第7パラグラフの3番目のところで、資産保有者としての機関投資家は、みずから、あるいは委託先である資産運用者としての機関投資家の行動を通じてと書いてあります。何となく主体は運用会社であって、アセットオーナーというのはできれば頑張ってくださいくらいのニュアンスだというふうに理解していたんですが、もっと積極的に取り組むことが求められてきているということなのでしょうか。役割はいろいろあると思うのですが、ただ、可能な限り取り組むべきであるといっても、可能な限り取り組めるアセットオーナーは多分日本で片手ぐらいしかないかなと思いまして、ここは相当コンプライできない、エクスプレインせざるを得ないところが出てくるのかなと思いました。

以上でございます。ありがとうございます。

【池尾座長】

今の点は、これはこれのままで別に、直すということにはならないと思うのですが、それで、4ページの真ん中のところの部分ですが、「運用機関等」というふうに書いていて、この「等」の中には、アセットオーナーがみずから議決権行使、エンゲージメント等に取り組む場合はここの「等」の中に入ってくるという理解で。「等」だけではわからないというのは、でもアセットオーナーがみずから取り組む場合を含むとか書くのもなかなかあれなので、そういう理解だということをここで確認しておいていただければというふうに思います。

【上田メンバー】

ありがとうございます。

【池尾座長】

それで、いろいろ議論、ご意見いただきまして、それを踏まえて当然修文をすべきだということで、修文をして、最終案を固めたいと思うのですが、ただ、どう修正すべきか、ということの方向性についてはほぼ異論はなかったように思うので、ある程度合意が得られたのではないかというふうに理解しています。具体的には、4ページの個別の議決権行使結果の開示の部分については、想定される懸念をもう少し書き込むと。だから4ページの5行目から始まるパラグラフは倍ぐらいに増やして、しかしながら、その次の「したがって」の文章はこのまま維持するという方向性で、特にご異論はないというふうに思いますが、よろしいでしょうか。

それと、その下のパッシブ運用のところと、5ページの真ん中よりちょっと下の「また、アセットオーナー」云々のところで費用負担という話がちょっとあるので、そのエンゲージメント活動等に伴う費用の負担といいますか、分担ですね。シェア、コストのシェアリングについては検討すべき課題としてあるということをちょっと書き込むような修文が必要かなというふうに思います。

それ以外については既に申し上げたような形で、途中で申し上げたような形で直すか、結果的に直さないというふうなことでいかがかと思うのですが、そういう方向性で特にご異議がないということでしたら、事務局と私のほうで修文を行って、その修正文を皆様にお送りして確認をいただいて、最終的に了解が得られましたら公表するということで、もう一度そのために会合を開く必要は多分ないと思うので、あとはメールベースで調整等をして、最終案を固めたいと思いますが、そういう手順でよろしいでしょうか。それで、最終案がまとまりまして、あと細かい字句の修正とか平仄を合わせるとか、そういうのは私に一応ご一任いただくということで、その前の原案はもちろん承認いただくので、承認いただいた後の、公表の過程でちょっと直すのは私にご一任いただくということで進めさせていただきたいと思います。そういうことでよろしいでしょうか。

どうもありがとうございました。

それでは、そういうことでまとまってよかったなということで、本日の会議はこれで終了になるんですが、本日をもちまして、この企業と機関投資家の間の建設的な対話に関する議論というのは一段落ということで、あとスチュワードシップ・コードの見直しの議論のほうに委ねるということになりますが、フォローアップ会議は今後とも継続して開催していきますので、ちょっとはお休みすると思いますけれども、まだ、これで終わりということではございませんので、よろしくお願いしたいというふうに思います。

最後に、事務局からご連絡等がございましたら、お願いしたいと思います。

【田原企業開示課長】

どうも本日はありがとうございました。次回の日程でございますけれども、また座長ともご相談させていただいた上で、来年以降になるかと思いますけれども、ご連絡させていただきますので、よろしくお願いいたします。

本日はどうもありがとうございました。

【池尾座長】

それでは、以上をもちまして本日の会議を終了させていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)

総務企画局企業開示課

(内線3836、3671)

サイトマップ

ページの先頭に戻る