第3回「金融業界における書面・押印・対面手続の見直しに向けた検討会」議事概要

1.日時:

令和2年7月15日(水)14時30分~16時00分

2.場所:

オンライン会議

3.議事概要:

 

(規制改革推進室)

〇 書面・押印を無くしていくためには、ハンコを単に無くすだけではなく、代替手段を検討していかなければならない。民間の事業者にハンコが無くならない理由を聞くと、役所の手続きで押印を求められるから、という声が聞かれる一方、役所に同じ質問をすると、民間に押印の慣行が残っているから、という声が聞かれる。このような中において、契約本体を電子化すると、社会全体の電子化が進むと考えられている。

 

〇 ハンコを押す行為には、嘘をつきにくくさせるという一定の心理的効果があるとされてきた。認印の効果も認められ、押印慣行が文化として許容されてきた。規制改革推進会議では、民事訴訟法228条4項の二段の推定に関する議論が、誤解を与え、ハンコ文化を強化している可能性があるという問題意識から、228条4項の効果は限定的であるということを示すとともに、電子署名といった、電子的な手段についても、押印を代替するものであるとして、押印と電子的な手段との間で、イコールフッティングを図っている。こうした中で押印についてのQ&Aを公表するに至った。

 

〇 押印についてのQ&Aのポイントは、形式的証拠力の確保に当たっては、押印の効果は限定的であるということを説明していることと、押印に代わり、送受信記録の保存や、本人確認情報の記録・保存、電子署名や電子認証サービス・それに準じるような暗号化による改ざん防止が可能なサービス等の活用が、文書の成立の真正性を証明する手段として考えられることを説明していることの2点である。 

 

〇 電子署名の活用推進についての取り組みを紹介する。現在、電子署名法が制定された当時は存在しなかったクラウド型の電子署名の普及が進みつつある。しかし、現行法の運用上は、クラウド型の電子署名は電子署名法上の「電子署名」に含まれないと解釈されている。この点については、電子署名の活用を促進するため、クラウド型の電子署名のうち、特にサービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスについて、電子署名法上の解釈の明確化に取り組んでいるところである。

 

〇 これまで、ローカル署名型は電子署名法上の電子署名と認められてきたが、クラウド型はまだ電子署名法上の電子署名とは認められていない。そこで、現在、クラウド型を電子署名法上の電子署名として認められるように、総務省、法務省、経産省の三省庁で議論しているところ。

 

〇  電子署名法2条によると、電子署名法上の「電子署名」とは、「電磁的記録(略)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう」と規定されており、その要件の一つである1号には、「当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること」と規定されている。ここで、「当該情報」とは、電磁的書面のことである。したがって、契約書が電磁的な記録になっている場合、当該情報に当たる。その次の「当該措置を行った者」とは、これまでの解釈では、AとBが契約する場合、Aが当該措置を行うとともに、Bが当該措置を行うというように、二人の利用者が当該措置を行うことで、当該情報が作成される、というように解釈されていた。しかし、この読み方を改めることで、クラウド型も電子署名法上の「電子署名」であると読めるようにする方向で現在、三省庁で議論している。すなわち、クラウド型で電子署名を付すことを「当該措置」と読み、指示を行う利用者を「当該措置を行った者」であると解釈すると、クラウド型も電子署名法2条の「電子署名」であると解釈できるのではないか、という方向で三省庁と議論している。

 

〇 電子署名法3条の在り方に関する取り組みを紹介する。電子署名法3条は、電子署名が付されていれば、電子署名全体が真正に成立したものと推定する規定であるが、その規定ぶりを見ると、「電磁的記録であって、情報を表すために作成されたもの(略)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(略)が行われているときは、真正に成立したものと推定する」と規定されている。そこで、クラウド型のように、サービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスについても、一定の要件を満たせば第3条の対象となり得ることについて、今後検討していく。

 

(金融庁)

〇 電子署名法3条については、これから議論するとのことだが、クラウド型であっても、一定の要件を満たせば、第3条の対象になり得ると解釈するという方向性は固まっているという理解で良いか。また、今後の検討のタイムスケジュールはどのようになっているか。

 

(規制改革推進室)

→ この資料に書いていることは、規制改革の答申に記載しており、三省の協議済みであるため、この方針は決定されている。一方、タイムスケジュールについては、三省庁との今後の調整次第である。

 

(Fintech協会)

〇 デジタル化の推進にあたって、課題を分析すると、「顧客との接点」「サプライヤー・協業先との接点」「社内手続き」の三つに分解することができる。

 

〇 まずは、顧客との接点について説明する。ボストンコンサルティンググループの調査によると、年代に関わらず、ウェブサイトやモバイルアプリの利用率が高まっている。当協会には、電子決済等代行業者が多く加盟しているが、それらの業者は、金融機関が提供するAPIを活用して連携サービスを提供している。銀行APIを活用するエンドユーザーは、基本的にはインターネットバンキングの認証機構を活用して、APIを利用するので、銀行APIの手前にあるデジタルチャネルが活用されないと、そもそもAPIも活用されない。したがって、前提としてのデジタルチャネル(インターネットバンキング)の普及は重要性が増していると考えている。すでにデジタルチャネルを使用している方も、実は不満を抱えていることがある。よって、ユーザー体験を磨くことが必要である。使いやすさを磨くことが、既存のデジタルチャネルのユーザーの利用度を上げることにつながると考えている。

 

〇 ここからは、法人分野における課題を説明する。個人の場合と比べると、法人用のインターネットバンキング(法人IB)は利用が進んでいないのが現状である。法人IBについては、そもそも利用していない人が多い。そして、利用しない理由は、使う際に手数料がかかるという点が一番高いハードルであると指摘されている。実際に、当協会の会員に個別にアンケートを実施したところ、申し込みの手続きが煩雑、特定のブラウザーでしか利用できない、という声があった。

 

〇 続いて、電子化全般について当協会の期待するところを紹介する。まずは、eKYCについて紹介する。デジタル身分証のアプリを提供している会社や、本人確認をeKYCで行う際に、画像の認識に強みがあるベンチャーも存在するので、これらを活用して、eKYCの利用率が上がっていくことを期待している。法人口座においては、本人の画像だけでなく、法人情報の確認が必要になるが、登記情報提供サービス(登記ネットという法務省が提供するサービス)を活用することで、お客様に負担をかけずに、オンラインで手続きを完結させることが可能で、実際に進みつつある。

 

〇 ここまでは、顧客との接点について説明してきた。ここからは、サプライヤー・協業先との関係について説明する。中小企業や当協会会員にアンケートを実施したところ、現在、アナログな商慣行がテレワークのハードルになっているということが見えてきた。そのような問題意識から、「取引先にもリモートワークを」というツイッターのハッシュタグを使った運動が起こっている。自社内では電子化できても、相手先との関係で電子化できないこともあるため、相手先もリモートで働くことができるようにするための運動である。実際の取り組み例としては、ビデオ会議で打合せを行うことや、書類をPDFで送って済まし、社判を省略すること、それが難しければ、いったんは電子媒体で送り、その後まとめて押印して、出社回数を減らすといった取り組みが行われている。

 

〇 ここからは、実際に電子化を進める際の方法について説明する。まずは、リスクの把握から始めるべきである。類型を絞って、徐々に電子化することが現実的である。それぞれの取引にどのようなリスクがあるのかを個々に把握することが必要である。その中でも、リスクの低いところから電子化することが現実的である。また、一連の取引の中でも位置づけも重要である。初回取引か、継続取引か、その後の業務によって、追認されるものか、前後の取引で本人確認ができているのか、それとも、突然発生したものか。また、ここであえて嘘をつく人はいるのか、ということも把握する。これまでどれほどのリスクを許容していたのか。紙の手続きでは、事実上見逃されていた、あるいはそのリスクは慣習上許容されていた、というものが電子化したときに急に厳格になることが多く、それが電子化の推進の阻害要因になっている。実際に、身分証を個別に確認していたか、初見で誰なのかを知らないままに取引していたものだったのではないか。署名や印鑑の照合手段があったのか、また、照合をしていたのか。ネットバンキングでも高額の処理は今でもできるが、様々な認証手段やアカウント管理手段を利用して、電子でも許容しているリスクはあるはず。必ずしも、サプライヤーの取引になったとたんに、ネットバンキングよりもリスクの許容度を下げる必要はないのではないか。

 

〇 リスクの分析をして、もともとの許容度を振り返った後に、具体的にどのような電子化の手法を採るのかを考えることになる。押印を電子化するときに、最も強い電子署名法3条該当の電子署名を活用する必要はないと考えている。もともと3文判や登録のない認印相当のものを使っていた場合、慣習上の意味はあるが、事実上、セキュリティ確保の点ではほとんど意味を有していなかったと思われる。例えば、取締役会の議事録を3条該当の電子署名でなくても許容するという話もある。リスクに応じて、手続きの手段を選択することが重要である。

 

〇 ここからは、金融機関内の手続きの電子化について説明する。社外との手続きの裏には、必ず稟議などの社内手続きが存在する。社外と社内の手続き全体を電子化することで、過去の地点からデータをトレースすることができるようになる。当社(freee株式会社)の例だと、個別のお客様がサービスを購入する場合、電子契約ツールで申込書をやり取りしているが、この電子契約ツールは、その手前の営業管理のシステムとデータがつながれていて、統制をより強化することができると感じている。点ではなくて、線や面でリスクコントロールすることが可能になる。アナログの手続きと比べて、データを遡りやすいという点がデジタルの利点である。こうしたものを活用し、社外だけでなく、行内の手続きを電子化することが有効だと思う。

 

〇 金融機関におけるデジタルチャネルの充実は、コンシューマ領域を中心に著しく進んでいる。しかし、顧客からは、コロナ禍において、より一層デジタルチャネルを充実させることが求められている状況である。サプライヤーや協業先(Fintech企業)から見ても、金融機関のデジタル化のニーズは高い。リスク分析をもとに、取引先とのやり取りのうち、導入しやすいところから電子化を進めるべきである。ここで、取引は、類型ごとにリスクが異なるため、リスクの抑制・制御と許容度、取引・事務コストのバランスを判断して電子化を進めることが重要である。社外取引の背後にある社内手続きも含めてデジタル化をすることが、業務効率化やリモートワーク促進において、重要である。こうしたデジタル化の推進には、明確な目標設定と経営のリーダーシップが必要である。

 

(金融庁)

〇 金融機関は、セキュリティを担保したいので、ネットバンキングの手続きも煩雑になるとの指摘もある。セキュリティ確保とユーザー体験のバランスをどのようにとっていくと良いのか。

 

(Fintech協会)

→ セキュリティを確保しながらも、継続的に少しずつユーザー体験を改善することは可能である。銀行のAPIの連携先サイトから銀行のサイトに遷移するときの挙動を一つとってみても、既に知っている取引先であれば、その確認画面は出さない、というように、一つ一つのリスク評価とそれに応じたユーザー体験の向上によって、こういった不満は減らせると考えている。

 

(金融庁)

〇 販売管理ツールとの一体化により、内部統制を高めながら、デジタル化を進めるという話があったが、インターネットバンキングのユーザーは、インターネットバンキングがあればよい、ということではなく、それを決済に使うなど、他の手続きとの連携が重要ではないか。そのような点で、好事例やアドバイスなどはあるか。

 

(Fintech協会)

→ 商取引の発生から、会計処理が済むまでの一連の流れ全体が全部つなぐことができるものだと思っている。究極のケースは、サプライヤーとの間はEDIでつながっていて、受発注のシステムがあって、社内はERPがあって、電子データが最初から最後まで流れるという状態である。点での統制ではなく、全体としてデータの安全性・整合性が保たれていく。そのような大型のソリューションは、全ての企業でできるわけではない。現在、ベンチャーやクラウドのサービスベンダーが提供しているのは、そのパーツを提供し、それぞれを、APIを通してつなぐという形になっている。銀行APIは単に、インターネットバンキングを使用しているということではなく、インターネットネットバンキングを活用し、銀行APIの連携もすると、さらに活用度が上がり、全体としての内部統制も高められる。

 

(第二地方銀行協会)

〇 弊協会でも、前提として、デジタル化を進めていきたいと思っている。直近では、Fintech企業とのAPIの連携を行った。

 

〇 コロナ禍において、お客様の間でも、法人IBを利用したいというニーズは高まっている。銀行としても、力を入れていきたい事業である。セキュリティにも配慮しつつ、より多くの事業者様にご利用いただけるように取り組んでまいりたい。

 

〇 次に、利用料について申し上げる。ユーザーのセキュリティを確保するためにも、安心安全な仕組みにすることが何よりも重要であると認識している。そのため、サービスの利用者様には、相応の費用を事業者との間でシェアいただくということにはご理解いただけるのではないかと認識している。料金体系については、様々なコストが複合的に構成されているため、それらの変動によって、変わる可能性があるものだと考えている。各金融機関においては、それぞれの経営環境を踏まえて、お客様の様々な声を聞き、Fintech企業の技術をお借りしながら、進めてまいりたい。

 

(金融庁)

〇 事業者の側で電子化が進んでいないケースもあるが、金融機関として、そのような事業者に対してどのような対応をすることができるか。

 

(Fintech協会)

→ 中小事業者には、インターネットバンキングの利便性が知られていない点が課題である。そのため、メリットを丁寧に説明していくことが必要であると考えている。インターネットバンキングを利用するメリットは、そこにAPIが付いていて、様々なツールと連携させることで、より便利になる点である。金融機関様にもお客様に勧めていただきたいし、我々も勧めていきたい。

 

(金融庁)

〇 ユーザー体験の改善については、コストが掛かると思うが、Fintech企業はどのように工夫して取り組んでいるのか。また、その際、リスクをどのように抑えているのか。

 

(Fintech協会)

→ ある程度コストを掛けて、ユーザー体験の改善に投資している。そのために、目指す姿とタイムラインを意識することに加えて、投資とリターンも意識している。それぞれの金融機関がそれぞれの経営目標に合わせて、デジタル投資をしていけばよい。リスクを抑えるという点については、細かくリスク分析をして、基本的な手法の組み合わせでリスクを抑えることが重要になる。過去の取引によって、取引先の信用度を判定して、必要に応じて認証画面を減らすなど、細かいリスク分析が重要である。また、手軽に電子的な取引を始めて、その結果を踏まえて、漸進的にリスク分析をしていくという方法もある。例えば、電子契約については、クラウド型など、使った分のみコストを負担するなど、初期投資にそれほどコストが掛からず、電子化する範囲を絞って手軽に始められるものもある。また、金融機関がお客様と一緒にやり取りを電子化していくこともあると思う。その際に、中小の事業者がお客様であっても、初期費用が掛からない形で導入すれば、かなり手軽に始められるので、その点は今後、電子化を進めていくうえでポイントになると思う。

 

(金融庁)

〇 中小の事業者の電子化を推進するためには、電子化を支援する専門家が必要になると思うが、そのような観点から、Fintech企業が事業者にアドバイスをし、導入しているような取り組みがあれば教えてほしい。

 

(Fintech協会)

→ お客様である事業者の中で、電子化の取り組みの中心になる人を見極めることが営業活動のポイントになる。そして、そのような人が若手であっても、経営者のバックアップがあれば、社内の推進力になりうるので、そのような推進役を特定して、応援していくことを地道に取り組んでいく。もう一つは、金融機関が電子化を進める中で、ツールの使い方に関するノウハウが蓄積されていくと思うので、それを地域の企業のハブになって広げていくことも期待される。実際に、行内でグループウェアを使いこなし、それをエンドユーザーに勧めている金融機関もある。地域のITの代理店でも、最近は、自社で使いこなしたツールをお客様にノウハウとして提供するところも増えてきている。金融機関もデジタル化を推進する中で蓄積されたノウハウを地域に還元して、地域の事業者の経営状況が改善し、地域金融機関の収益が増え、地域全体の経済が向上するという姿が望ましいと思う。

 

ー了ー

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

監督局総務課(内線3387)

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