偽造キャッシュカード問題に関するスタディグループ(第12回)
議論の概要

1.日時

平成17年4月28日(木)10時00分~12時00分

2.場所

中央合同庁舎第4号館11階 共用第一特別会議室

3.議論の概要

○ 金融庁より、保険におけるモラルハザードの防止例及び盗難キャッシュカード問題に関する判例について、資料に基づき説明が行われた。

○ これまでの議論を踏まえ、盗難キャッシュカードに関する議論が行われた。その概要は以下のとおり。

  • 預金者からの金融機関に対する届出を補償ルールの要件とする場合は、預金者が盗難被害を通知した時間に関する立証方法を考える必要がある。

  • 銀行では受付記録を保存しているほか、連絡受付後の預金の引出停止措置をコンピュータで行う際に時間が記録されるため、確認可能である。

  • 外国では、預金者は盗難被害等を電話等で連絡した後に、再度書面で通知する仕組みとなっている。書面で確認するため、仮に被害の偽装による狂言だった場合に、軽犯罪法による告発の対象とできるメリットがある。

  • 警察への盗難届の提出を補償ルールの要件とした場合に、例えば、すり等の被害にすぐ気が付かず、預金者が盗難にあったのか紛失したのかがはっきり分からない場合には、警察は盗難届を受理するのか。

  • 多くの国で盗難と紛失を区別していないのは、非常に巧妙に盗難被害にあった際には、両者の区別が難しいところによるのではないか。

  • 仮に、銀行も預金者も無過失の場合に銀行が全額補償するルールを導入するとした場合、銀行には捜査権がないため、預金者の申出以外に預金者の過失を確認することが極めて困難であり、さらに言えば、被害の偽装に関しても、その確認方法がない銀行に対して、攻撃を仕掛けてくる可能性が今後極めて高まるのではないか。その点を十分検討する必要がある。

  • 銀行も預金者も無過失の場合に、銀行が全額補償すべきという結論にするならば、それをどう根拠付けるかがポイント。法経済学的な枠組を参考とすれば、損害賠償ルールを考える場合に、最安価損害回避者の原理(最も安い費用で損害を回避できる主体に損害を負担させるルール)がある。これを適用すると、偽造キャッシュカードの場合は、銀行がシステム等の情報知識の面で預金者より優位性があるため、偽造防止策を講じる上で銀行側が最安価損害回避者であり、損害賠償の責任を銀行側に負わせているとも解釈できる。しかし、盗難キャッシュカードの問題では、銀行側は、ATMコーナーでの覗き見防止措置や生体認証の導入により盗難予防が図れる一方で、預金者側も少し気をつければ盗難を防げる場合も多いはずであり、銀行側を最安価損害回避者と解釈することはなかなか容易でない。

  • もっとも、最安価損害回避者の理論は、あくまでも事故による損失と事故防止の費用の合計である社会的費用の採算を取るための効率性の観点だけで議論している。もう少し別の観点として、分配の公平性とか、あるいは銀行にとっては一件の盗難被害は大数のなかの一つであるが、預金者にとっては一つの被害の影響はものすごく大きい、といった他の観点を勘案すると、別の結論になる可能性がある。

  • 銀行が十分なセキュリティ対策を講じてきたかとの議論があるが、リスクに応じたセキュリティ対策をしてきたのかということが本来問題になるのではないか。少額の取引であれば利便性が優先するべきであり、さらにモラルハザードを防ぐ観点で考えるべきである。逆に高額な取引については被害の偽装を防ぐ認証を行わなければならない。取引金額に応じて、考え方を変えていかなければならないのではないか。

  • ATMシステムに関するセキュリティ対策が、時代の変化に対して必ずしも十分でなかったという問題が、銀行側に一定の負担、又は場合によっては全面的な負担を負わせることの根拠であろうと思う。民法第478条の枠組みをいっぺん取り払えば、預金者が預金の払戻しを受け取っていないため銀行の債務は未だ残っているというところからスタートすれば、銀行が無過失で責任を負う理由は、銀行が預金を預っているからだ、という話で終わるのではないか。

  • その次に、銀行が債務の全額を払戻す債務を負っているというところからスタートするのか、あるいは、銀行は債務の半分負担とか3割負担というルールでスタートすることが良いかという点は、次の段階の政策的な判断になってくるのではないかと思う。セキュリティの高い施策を既にとっている銀行、例えば、引出限度額を相当引下げているとか、顧客のニーズに応じて個別に対応しているとか、暗証番号等についても何かプラスアルファをつけて導入している等の場合であれば、銀行の責任がより軽くなるようにすべきではないか。

  • 銀行が無過失で補償する根拠については、消費者側、預金者側から言えば、銀行に安全性を求めていることがある。確かに、盗難の場合では、盗まれたことについて注意が不十分であった等があるとしても、盗難の形態によってはどうしても防ぎようがない場合もある。このため、盗難のケースによって、顧客側の過失の有無を議論することは非常に難しくなってしまうと思う。

  • 銀行は、顧客の保護という観点に立つべき。銀行は一個人(預金者)と比較すれば、経済力も情報力も大きいのであるから、力量の大きい方が顧客保護を行うとの観点で、銀行が被害を補償すると考えていただけると消費者保護の面からは非常にありがたい。

  • なお、銀行と預金者の被害の負担割合をあらかじめ数字で決めることは、非常に分かり易く処理も早いと思うが、なぜ5割ずつなのか、あるいは7:3や9:1とするのかその根拠を問われた際にどう説明するのか、説明しきれないと思うが、その場合は国民の合意がとれるかどうかが重要ではないか。

  • 盗難被害の偽装について議論されているが、確かにそれが増大する懸念はあるとしても、それを理由として、盗難被害に関する全ての場合に銀行が補償しないとすることはおかしいのではないか。また、この問題は、暗証番号へのひらがな導入といった、盗難被害の防止対策と関連が強いのではないか。

  • 銀行と預金者双方の過失の問題を考えた場合、いずれの場合もそれを立証するために個別具体的な事情を勘案することになるため、その判断は大変難しいのではないか。多くの事例が訴訟に持ち込まれ、さらに裁判官の判断も分かれるのではないか。過失の有無に着目してルールを法的につめていくと、どうも現実にはワークしないのではないかという懸念を感じる。

  • 銀行と預金者の負担割合をあらかじめ定めておくことは一案であり、さらに、普通預金の種類を複数にして、預入限度額のほか、銀行による補償の有無、カード発行手数料や預金者の払う保険料の有無を組み合わせた商品を作り、預金者の選択に任せれば、補償の負担割合についてある程度の説明が可能となるのではないか。

  • 効率性の観点から、カード犯罪が引き起こす損害とセキュリティ対策を講じる予防費用を合わせた社会的費用を最小化することが目標ということを申し上げたが、例えば過失を立証する時間とか労力とか費用とかいうものも、ある面で社会的費用とも考えられる。その意味で、銀行と預金者の負担割合をあらかじめ定める案は、社会的費用の最小化という観点からも正当化され得る可能性がある。

  • 銀行と預金者の負担割合をあらかじめ定める案は、外国ではほとんど否定的であり、その理由は、結局細かい事例を適用しようとすると必ず争いになってしまうためである。日本では、既に一部の地方銀行において、偽造・盗難・紛失されたキャッシュカードによる損失に対して、保険でカバーする方向である旨の新聞報道があった。また、郵便貯金では、郵貯クラブを利用すれば年間350円の負担で一定額の補償を受けられると聞いており、そのような解決方法があるのではないか。

  • アメリカの50ドルルールは、現時点では、経済学の論理ではワークしない、少なくても250ドルは支払う必要がある、と言われているところ。このようなルールが米英独で作られた理由として、銀行が自ら商品設計をして預金の引出限度額を定めるとか保険を付保するとした方が、厳しい消費者保護の法律を作られて銀行がはるかに大きな負担をするよりはましだというロジックが働いていたことは、これは各国の記録でも明らかである。どちらが望ましいかとの話にもなりうるのではないか。

  • 例えば、預金に保険がきちんと付保され、引出限度額が引き下げられる等のオペレーションレベルで一定の手当てが行われれば、この問題の大部分は解決し、実態法を変える必要は無くなると思う。しかし、オペレーションの改善をより迅速にやってもらうための方策として実態法を今よりもう少し銀行にコストを負担させる形に変えれば、経済学的な理屈から銀行は望ましい方向により早くシフトするだろうと言えるのではないか。

  • 偽造・盗難カードに対する金融機関側の取組みの違いを一切無視して、同じように金融機関に全部の責任を負わせることは適当でないと考えられるため、銀行により負担に差をつけることが必要ではないか。そのように考えると、むしろ銀行側が被害額をとりあえず負担するという民法第478条を撤廃した形をスタートとして、銀行側が預金者の特段の落ち度をきちんと指摘してそれが納得できるものであれば負担が減額されると、さらに銀行側としてかなりの対策を行っていたのであれば、その分も減額されるというような形が適当ではないか。

  • こうした過失責任的なルールを採用するとした場合、どこに満たすべきセキュリティ基準を設定するかの判断が非常に難しくなる。例えば、ICカードをきちんと導入していれば良いとするのか、また、盗難の場合はICカードを導入しても防げない部分もあるとすると、どの程度のセキュリティ基準を満たせば補償しなくても良いとするのか。過失責任的なルールには、このような実際上の難しさがあり、それを避けようとすると、予防の程度に関わらず損害の責任を負わせる厳格責任的なルールとなる。

  • ATMの引出限度額を低くして、それ以上100万円や200万円の高額な引出しを希望される顧客からは手数料を取り、個人的に保険に入ってもらうような仕組みを導入すれば、結果的に銀行負担は少なくなっていくのではないか。

  • 利用者のニーズは千差万別であるので高額がどこかという仕切りは非常に難しいとは思うが、顧客の申告により一定額以上を超えればその部分は保険でカバーをするとか、顧客のニーズとして引出限度額を100万円や500万円とする商品設計を考えていく方法もあるのではないか。

  • キャッシュカード自体の保管や暗証番号の管理については、預金者側では一定の管理ができるが、銀行側では管理は不可能である。このため両者とも無過失である場合に一律に銀行が負担するというルールが負担の分担として妥当なのかは、若干疑義がある。

  • 双方に過失がない場合の考え方としては、以前議論された支配領域の考え方(相手方との比較において各当事者が事故を起こりにくくする可能性がある領域を考え、そこで起きた事故についてはそれぞれが損害を負担するという考え方)を導入できるのではないか。例えば自宅でキャッシュカードを保管していた場合には原則として預金者側で負担する。あるいは銀行のATMコーナーで暗証番号を盗み見られた場合は銀行の支配領域内で発生した事故として、仮に銀行に過失がなくとも銀行のほうで損害を負担する。また、立証責任は、自分の支配領域内で発生した事故ではないと主張する方がそれぞれの立証を負担するルールとしてはどうか。

  • 支配領域の考え方は一つの重要な考え方だと思うが、キャッシュカードについて占有者である預金者が保管の責任を負うと言う理屈は分かり易いが、もう一つの暗証番号については、それが4桁の数字に固定され預金者が自由に選択できない点で、預金者が100%支配しているのかというと疑問がある。支配領域の考え方では、記憶に頼る認証は議論に馴染まないのではないか。

  • 支配領域の考え方を個別の事例に適用した場合には、過失の立証と同様に、ケースによっては支配領域内と言えるか否か区別が難しくなるのではないか。

  • 双方無過失の場合の一番典型的なパターンである「犯罪者によりカードを奪われ、さらに脅迫により暗証番号を言わされ、直後に犯罪者に預金を引出された場合」には、「双方無過失なので銀行が責任を負う」とルール化したとする。「預金者が犯罪者に尾行され、カードで預金を引出した帰りに襲われた場合」には、補償の議論は発生しないと思うが、「犯罪者に脅迫され本人がカードをATMに差し込み、暗証番号を入力させられた場合」はどのように考えるか。この3例を比較すると、そこに差をつけることが合理的なのか、また、その差を説明できるのかという点も考える必要がある。

  • あらかじめ預金者と銀行の負担割合を決めておく案については、個々の事例を適用した場合に、1:9や5:5として簡単に割り切ることは難しいと考える。海外の銀行で一時期実施した例があるが、同じ事案でも下級審と高裁で負担割合が変更されたといった話を聞いている。それよりも保険を活用することで、損失負担ルールを包括的にカバーした方が実務的ではないか。

  • 負担割合について検討する場合には、諸外国のような小切手社会と、我が国のような現金社会とでは、分母として考える金額に差があることを念頭に置く必要がある。銀行側が何百万円も負担するというのは、銀行にとっては苦しいのではないか。

  • それは同時に、預金者も何百万円も負担することは苦しいこととなる。仮に海外のようなルールを採用する場合には、原則的な預金形態として引出限度額が低い状態にあって、その上で選択的に限度額の高い預金商品も提供するということになるのではないか。

以上

本件に関する問い合わせ先

金融庁 TEL 03-3506-6000(代表)
監督局銀行第一課(内線3322、3388)
本議論の概要は暫定版であるため、今後修正があり得ます。


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