平成12年12月1日
金融庁

企業会計審議会第3回第一部会議事録について

企業会計審議会第3回第一部会(平成12年11月10日(金)開催)の議事録は、別紙のとおり。

(問い合わせ・連絡先)

金融庁(TEL 03-3506-6000)
総務企画部企業開示参事官室
企業会計審議会事務局


企業会計審議会第3回第一部会議事録

日時:平成12年11月10日(金)午後2時00分~午後4時02分

場所:中央合同庁舎第4号館4階共用第一特別会議室

○斎藤部会長

定刻になりましたので、これより第3回第一部会を開催いたします。

委員の皆様方にはお忙しいところお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。

本日は企業結合会計の類型と識別規準について御報告をいただく予定にしております。

それでは、まず黒川委員、よろしくお願いいたします。

○黒川委員

黒川でございます。お手元の資料1をごらんいただきたいと思います。大体40分位事務局の方からお時間をいただいていると思いますが、この資料は長いもので、ポイントだけ40分以内におさまるように御報告したいと思います。

まず1ページ目でございますけれども、第1回、第2回と審議を進める中でFASBの動向も知ったわけでございますが、公開草案が出てからどうもすんなりと基準に至らないという状況になっています。この状況は、30年前のAPBオピニオンの16号と17号の基準設定経過においてもいろいろな変遷が直前においてありまして、研究しておりますとそれの再来というような感じがいたします。

そこで、今回のFASBの動き、あるいは当時のAPBのときにどのような論点があったのかということを踏まえまして、また今回は事務局から基本的問題を再認識するという趣旨だということでございましたので、実務的、あるいは細部の問題よりも大きな問題について議論したいと、このように思ってこの原稿をつくりました。

まず論点としては、マル1代替的処理を認めて、識別規準の検討を行うのかどうか。そうでないならばマル2現在広く認識されている三つの会計処理、すなわちマル1パーチェスとマル2プーリングとマル3公正価値プーリングですが、そのうちの一つのみを、その一つというのはパーチェス法というのが大体定説になるわけですが、それを強制適用するのか。

それからもう一つ、これは論点としてこれまでの2回で出されていなかったかもしれませんが、マル3代替的処理の差異、特にパーチェスと持分プーリングでございますが、その差異を小さくする方法を工夫して、その処理を一律適用するのか、このような論点があります。

そこで、これに関連して、もう一度基本的認識ということで、企業結合会計の類型でこの三つの会計処理の効果、あるいはどのような姿・形になるのかを確認したいと思います。のれんは資産計上するのが一般的でございますが、この会計処理マル3の新たな工夫として、のれんを所有主持分から控除するという、少し変わった処理の仕方をすると、先ほどの論点マル3に沿うような形になります。のれんが常に企業結合会計と同時に議論されるポイントでもあるので所有主持分からの控除説の論拠を再度検討しようと思います。

それから、3番目に、仮に代替的処理を認めて、識別規準の検討をするのであれば、どのような検討がこれまでなされてきたのかという点について、典型的な経済的実質からの規準を皆様方に御紹介しようと、このような流れでございます。

まず第1番目の企業結合会計の類型、これは基本的な財務諸表の姿・形がどうなるかという問題でございます。第1に1回、2回の審議の過程でも出てきたフレッシュスタート法という名称がございます。これは企業結合に関連していいますと、G4+1のポジションペーパーの中のドラフトの段階ではニューベイシス法という名前でございました。それが確定版になった段階でフレッシュスタート法という名前に変更されました。多分この理由は、いろいろ考えられるでしょうが、ニューベイシスという方が広い概念だと思いますので、もう少し特定したのではないかと思います。

それから、フレッシュスタート法と言う場合に、先ほど公正価値プーリングと言いましたが、これと相互パーチェスという名前も出てきました。

公正価値プーリングというのは、多分ARS第5号で、1960年代ですがワイアットという人が出した名前だと思います。そのときにどのような会計処理をするのかということですけれども、両方、当事会社すべてを再評価するわけですが、ポイントはのれんをどうするかです。のれんについては、ARS第5号では明確ではありませんが、第10号で所有主持分からの控除説を非常に推すわけでございますので――ARS第10号は第5号の約5年位後で出され、多分援軍としてあらわされていると思いますので――のれんは所有主持分からの控除説であろうと推定して公正価値プーリングはのれんを所有主持分から控除する方法だと考えてよいのではないかと思います。

相互パーチェスは、それに対してフレッシュスタート法ですべて再評価し、さらにのれんを資産計上する方法と理解すればよいのではないかと思います。

次に、2ページ目の会計処理方法の相違でございますが、これは過去2回御説明がございましたので、省略いたします。

3番目ののれんの分類が2ページの一番下の方にございます。これについてもいろいろな考え方がありますが、ここでは特に理論ということでございますので、のれんにはひとまず個別のれんと結合のれんというのがあったと考えます。個別のれんというのは、当事会社それぞれに合併、あるいは企業結合前から既に存在する何か超過収益力の源泉とか資源でございます。それをひとまず個別のれんと呼んでおきます。

それからもう一つ、合併あるいは企業結合によって生じるシナジー効果を結合のれんと呼んでおきます。

理論的に、例えば合併比率の基礎となる当事会社の企業評価をするためには、個別のれんと結合のれんがもしあったとすれば、個別のれんに加えて、結合のれんのうちの当事会社の寄与分を含めてそれぞれの会社の企業評価をし、一株当たりの企業価値を計算し、それに基づいて合併比率等々を決めないと持分の変動が起こることになると思うので、両方、個別のれんとシナジーのうちの寄与分は考えなければならないだろうと思います。

さて、そこでこのような前提を置きまして、設例を用いていろいろな結合会計の姿・形、いろいろな方法の組み合わせによってどのような姿・形になるかを確認したいと思います。

3ページに設例1がございます。図表1が、その前提となる財務諸表です。この場合、合併を考えておりますが、P社の方が大きい会社で、S社が少し小さい会社となっております。Tフォームがございますが、上の方の4行が資産と負債それぞれの帳簿価額であります。下の方の3行に、資産評価増とか個別のれんとか評価剰余金と書いてあります。これは合併比率を決めるに当たって公正な評価をして企業のそれぞれの帳簿価額にない要素を勘案して――理論的にこのような要素を考えるだろう、それをもし仮に貸借対照表に載せたらどうなるかを示した表でございます。ですから、P社、S社についても、上の4行ずつが帳簿価額だと思っていただきたいと思います。

このようないろいろなのれんとか、あるいは土地の評価益とか、そのような資産評価増をしまして、一株当たりの公正評価額を計算すると、S社の方が若干大きかったということです。ですから、合併比率はS社一株を持ってくれば、P社を3分の4株、要するに1株と3分の1株、例えば15株持ってくれば20株あげましょうということで、S社の方が評価が少し高かったという事例でございます。

さて、そこでページをめくっていただきまして、4ページにどんな会計処理の類型、組み合わせがあるかということでございますが、ここではまずプーリング法、それからパーチェス法、フレッシュスタート法、それからバートンの提案と――少し聞きなれない名前ですが、またこれは後で説明いたします――大きく分けるとこの四つになります。

それで、パーチェス法の中を先ほどのれんの計上を少し工夫することによって三つに分解しております。結合のれんと個別のれんを資産計上する。それから、この結合のれんと個別のれんを所有主持分からの控除説で処理する。それから、結合のれんはシナジー効果で将来のことでございますので、非常に不確定だということで、個別のれんしか認識しないとする考え方もできるかと思いますので、個別のれんを資産計上説で処理したらどうなるか。ただし、所有主持分からの控除説で個別のれんだけ処理するのは、結合のれんと個別のれん、両方認識した場合と同じ結果になると思いますので省略しています。

フレッシュスタート法も同様に、資産計上説と所有主持分からの控除説と、それから個別のれんのみの資産計上説に分かれます。

最後にバートンの提案でございますが、これは4ページの下の方に書いてございますけれども、1976年のFASB討議資料で紹介されている方法で、パーチェス法でのれんの資産計上説の一つの系だと思います。パーチェス法でのれんを資産計上した場合の最大の問題点は、のれんの償却が多額に上って、結合後の報告利益が非常に小さくなるという点が企業側からしばしば指摘されてきたわけですが、それを少し工夫しよう――マイナスの効果を少し軽減しようという工夫だと思います。

具体的には、その後の設例で確認したいと思いますので、5ページ目をめくっていただきます。図表2でございますが、まずわかりやすいところから、プーリング法でございますが、これはP社、S社の帳簿価額のまま資産も負債も、それから資本の部も合算するというものでございます。

それに対して、次にパーチェス法を見ますが、パーチェス法の資産計上説で個別のれんと結合のれんが両方あった場合、どこが違ってくるのかといいますと、ひとまずこのS社の方が小さくて、買収された、あるいは吸収されたと今仮定しておきますが、S社の資産が含み益があったというわけで185から235になっています。それから、個別のれんと結合のれんについて、S社だけ認識しましたので、70と30を計上したということになります。

それから、貸方側の方ですが、どこが違うかといいますと、S社の貸方側を見ていただくと、持分プーリング法では50留保利益がございます。それがなくなって、合併差益200が計上されています。この合併差益200の根拠なのですが、これは「*3」をそこに記入し忘れましたが、5ページの最後の行にあります「*3」がパーチェス法(2-1)の合併差益200の説明でございます。この200の内訳は、留保利益が資本剰余金である合併差益に変わった部分と、それからS社の資産の含み益部分50、資産増加した50、それからのれん100、この合わせた200が資本剰余金としての合併差益になったというわけであります。

次に、(2-2)の列でございますが、これはのれんを所有主持分から控除するという説です。どうなるかといいますと、(2-1)と比べてみるとわかりやすいと思います。「←」がありますが、これは「同左」、同じ金額が入るという意味でございます。どこが違うかといいますと、S社の個別のれんと結合のれんの部分、ここが(2-1)の列と(2-2)の列では違います。70と30がございません。ですから、資産合計も100だけ少なくなります。この70と30がどこに行ったのかといいますと、これがS社の合併差益が100だけ小さい、このようになっています。これが所有主持分からの控除説というゆえんでありまして、対価は株式で渡す。合併の場合は、普通一般的に株式の交換です。それから、買収の場合であっても、対価を株式で渡す買収がもしあるとすれば――株式の交換移転制度などを使えばそのようなことになると思いますが――対価が株式の場合には資本が増加します。ところが、のれんの部分だけは資本を増加させないという処理なのです。所有主持分からの控除といっても、それは資本の増加をのれんの評価分だけは増加させないでおく処理だと思っていただきたいと思います。したがって、合併差益が100だけ少なくなっています。

次に、パーチェス法の(2-3)。これは結合のれんについては認識しないということです。ですから、個別のれん部分だけ資産に計上し、合併差益もその部分だけふえるということです。(2-1)との違いは30だけです。

次に、フレッシュスタート法でございますが、フレッシュスタート法は、今度は吸収・取得するP社の方の資産を再評価する、それからのれんも計上するという方法です。

したがって、違いを見る場合には、例えば(3-1)列を見る場合には(2-1)列との比較で見ていただくとわかりやすいと思います。(2-1)列と(3-1)列の違いは、P社、要するに吸収・取得する方ののれんが計上されることです。それから、合併差益、これもP社の方も計上されます。300という数字があると思いますが、(3-1)列のP社の合併差益300、ここに「*4」を書き加えていただきたいと思います。「*4」の説明が6ページにございます。この300の内訳は、P社の払込剰余金25と、それから留保利益60、資産の増加65にP社の個別のれん100と結合のれん50を加えて300という数字になったものです。ここがパーチェス法と異なってきます。

それから、所有主持分からの控除説でございますが、これは(3-1)列と(3-2)列を比べてみればよいのですが、P社についても個別のれんと結合のれんを資産に計上しなくて、その分、P社の方の合併差益増加分を減らしておけばよいわけです。したがって、P社の合併差益の増加は150でよいことになります。

次に、結合のれんはないというのが(3-3)の列でございますが、これは結合のれんP社分の50を計上しないというものでございます。あとは同じです。

さて、最後に残りましたバートンの提案でございますが、これは先ほどパーチェス法の系だと説明しましたので、(2-1)列と比べてみればよいのです。(2-1)列と(4)列との違いはのれんのところです。のれんが(4)列のバートンの提案ではございません。ただし、そのかわり、将来の収益力のコストという科目を新たにつくります。そこに100入っております。これはのれんの部分です。

あと、S社の合併差益が(2-1)列では200でございますが、バートンの提案では100でございます。この違いがどこにいくかというと、最後から2番の行の「将来の収益力を表す持分」という勘定をやはり新たにつくります。ここに振りかえておきます。したがって、「将来の収益力のコスト」と「将来の収益力を表す持分」という新たな対照勘定をつくっておきます。この対照勘定をのれんの償却期間、例えば5年で償却するのであれば、将来の収益力のコストを5分の1ずつ償却し、その相手勘定が将来の収益力をあらわす持分。このように対照勘定を一部ずつ消していく。これがバートンの提案です。したがって、損益計算書を通さないわけです。のれんの償却ですと、それが損益計算書にいきますが、将来の収益力のコストの減分が貸方側の持分との相殺で使われてしまいますので、損益計算書を通さない。したがって、結合後の報告利益の減少分がない。このような工夫でございます。

そこで、6ページにこれらの八つの処理の知見が書いてございますが、これは今説明をいたしましたので、省略いたします。

7ページにバートンの提案について今私が説明いたしましたことが書いてございます。問題点として、7ページのマル7の第2パラグラフに「なお、企業結合時の対価が現金や社債などの場合には留保利益が減少し、持分証券の場合には資本金等が減少するが」とあります。これは企業結合の対価の種類によって会計処理を異にするというわけで、パーチェス法は対価の種類に影響されないという論拠が第2回目のときに出てきたと思いますが、それに矛盾するわけです。

バートンの提案の場合には、振りかえる負担先が違うということが問題になっています。今の説明はわかりにくかったと思うので、それをもう少しわかりやすくするために、設例2を次に検討したいと思います。

設例2でございますが、設例1が株式の交換による合併か、あるいは買収を念頭に置きましたが、設例2は現金を対価とした子会社化で――これも企業結合でございますので――もし仮に理論的にあり得ないかもしれないけれども、幾つかの方法を組み合わせて処理をしたらどうなるかということを念頭に置いたものです。

どこが違うかといいますと、P社がS社に株式を交付するかわりに、企業評価額全額の現金300、300がP社がS社に払わなければならない総額になります。それはどうしてわかるかといいますと、3ページのS社のB/Sを見ていただくと、公正価値で評価したB/Sの総額が335になっています。負債が帳簿上35、これは公正価値で評価しても負債は変更しなかったという仮定なので35を引きますと、S社の純資産は300ということです。ですから、公正価値で測定したS社の純資産は300ですので、もし仮に現金を対価として買収する場合にはP社は300払わなければならないだろうと、このような仮定でございます。そこだけが違います。

さて、現金を対価とした場合には持分プーリング法はできませんので、持分プーリング法はありません。ほかに、パーチェス法とフレッシュスタート法とバートンの提案がありますが、このうち、資産計上説は個別のれんと結合のれん、両方行ったという方だけにしておきます。それが1、それから所有主持分からの控除説が2、それからフレッシュスタート法の場合の資産計上と所有主持分からの控除、それぞれ3、4、それからバートンの提案と、このようにつくったものです。

これを確認しますが、8ページの(1)列、これはパーチェス法の資産計上説ですが、これはどこが違うかといいますと、5ページの(2-1)列と見比べていただきたいのですけれども、P社の資産が400だったものが100になっています。8ページの方の(1)では、P社の資産が100になっています。これは300だけ現金を払ってしまったのでP社の資産が300減っているというものです。

それから、S社の資本金とか合併差益がないわけです。株式を渡していませんから、S社分の方の資本はふえておりません。そこが違います。それで300少なくなっているということです。これが現金を対価とした普通の連結です。

次に(2)列ですが、(1)列と比較してどうなるのか。これは、S社の個別のれんと結合のれんの部分を今度は資本控除説で処理します。そうしますと、個別のれんと結合のれん、70と30がありません。それから、貸方側の所有主持分のところですが、のれん控除と書いてありますけれども、負荷するところがもうないので、マイナス100としてあります。

それから、現金を対価とした買収でもフレッシュスタート法をもし仮に採用したとすれば、P社の方の個別のれんと結合のれん、100と50が出てくる。そこが(1)列と(3)列の違いです。P社の資本剰余金も違ってきます。

それから、所有主持分からの控除説(4)列では個別のれんと結合のれん部分だけP社の資本剰余金が減っています。それから、S社についてはやはりのれん控除がマイナス100と出てきます。

したがいまして、フレッシュスタート法で資産計上説を採用した場合には、P社については資本剰余金がふえることになります。現金を対価として渡した場合であっても――要するに買収・普通の子会社化です――現金を対価とした子会社化にしたとしても、親会社の方の資産を再評価し、それから個別のれんと結合のれんも認識することになる。そこにとてもおもしろいフレッシュスタート法の特徴が出てくると思います。

それから、所有主持分からの控除説を採用しますと、親会社の資産の再評価は行いますが、個別のれんと結合のれん部分だけは資本剰余金をふやさないという、圧縮という効果が出てきます。

さて、最後にバートンの提案でございますが、これは(1)列と比べればよいのですが、やはりS社の個別のれんと結合のれんを将来の収益力のコストという科目に変更します。

それから、「将来の収益力を表す持分」という勘定が下から2行目にあると思います。100を出さなければならないのですが、そこに振りかえる科目が問題になります。現金を対価とした場合には、留保利益の方から振りかえろとバートンは提案していましたので、留保利益が減るということになります。留保利益はこの場合P社の方にしかありませんので、60から100を減らしてマイナス40と、このような数字になるだろうと思います。これが先ほどの対価が株式の場合と、対価が現金の場合で振りかえる元の科目が違うという処理でございます。

以上がこの図表3の説明です。

では、次に第2の話題に移ります。のれんの所有主持分からの控除説の論拠です。9ページでございますが、今のれんの所有主持分からの控除説が企業結合会計のいろいろなやり方と密接に結びついているということがわかったと思いますけれども、こののれんの所有主持分からの控除説には、大きく分けて四つの論拠が主張されていると思います。

まず、第1番目は、9ページの(1)ですけれども、資産計上説でしばしば矛盾と説明されることがあるのですが、これは何かというと、例えば会社を買収してのれんの価値が維持されているときに、例えばある特定ののれん、非常に著名な会社を買収して、その著名な名前がずっと維持されているというような状況で、買収のコスト・対価にのれん代を多く払ったと、こう考えましょう。そのときに、そののれんを購入のれんと言いますが、その購入のれんを償却するかどうかが問題になります。

のれんの価値は、ネームバリューが――これはのれんのうちの一つのブランドということになるかもしれませんが――ずっと維持されるのがどのような状況で生じているのかという解釈に依拠します。買収した後に広告宣伝とか研究開発といった努力をして、そして買ったときのそののれん価値が維持されているとみなしますと、買収後も研究開発とか広告宣伝に支出しています。それが損益計算書上の費用になっています。そうすると、購入のれんを償却しますと、購入のれんの償却費と、それからのれんを維持するための追加の支出、広告宣伝とか研究開発の費用の二重計上になるという問題があります。

では、のれんの償却をしなくて、のれんを非償却、ずっとそのまま残しておけばどうなるかということですが、今の仮定で、追加のコスト・追加の努力によってのれんが維持されているのであれば、本当は初めの購入のれんの価値は下がっている――それがとってかわっている。どのようにとってかわっているかというと、自己創出のれん部分にとってかわっている。そうすると、のれんの非償却説でいくと、自己創出のれんの計上になるということになる。これは要するに償却をしても非償却であっても困るという、どちらをとっても何か矛盾というか、問題ではないかということになりまして、所有主持分からの控除説をとれば、今の困った問題は回避できる、逃げてしまうということであります。

2番目に、比較可能性があります。これは自己創出のれん、要するに自分の努力によってある超過収益力を持つような会社に至った場合と、それから何か非常に超過収益力のある会社を買収することによって超過収益力のある状況に至った二つの会社があったとします。ほかの条件はみんな同じで、企業価値が一緒だったとします。要するに、超過収益力が一緒だったと仮定したときに、自分で努力をした会社は、自己創出のれんという超過収益力の源泉を持つに至る過程で研究開発とか広告宣伝といった努力をしておりますから、それが損益計算書上の費用になって、貸借対照表上は累計として留保利益がその分だけ少なくなっているはずです。

ところが、他の超過収益力のある会社を購入したという場合には、その努力部分がのれん代になっておりますから、のれんが資産に計上される。だから、その分だけ買った時点では留保利益は減っておりません。したがって、自分でのれんを創出した会社は留保利益が減って、資産もそれだけない。ところが、購入のれんのある会社、すなわち買収した会社は資産に計上されていて、その分だけ留保利益が減っていないという点で、買収の方がよく見える。自分で努力するよりも買収した方が、その時点においては財務内容がよく見えるという効果が論理的には考えられます。ですから、比較可能性がない。

その場合に、比較可能性を保つにはどうするかといいますと、二つありまして、自己創出のれんを計上するのが一つと、もう一つは購入のれんの資産計上をやめるという説です。所有主持分から控除してしまえば、資産計上がない。それによって比較可能性ができると、このように説明されております。

3番目、そもそものれんを今まで我々は無形資産と同じようなものというように頭に描いていましたが、のれんは実は主観的なものであって、将来の収益力の源泉を評価しているんだと。そこで、どうなるかといいますと、もし仮に有形資産や無形資産の償却であれば、その償却の仕方でございますが、比例償却、あるいは収益に比例するような償却をしばしば理論的だと考える場合がありますが、利益比例償却、あるいは収益比例償却的なものを考えますと、将来の収益がたくさん上がった期には収益費用を対応の原則に従いまして償却費も大きくすると、このように考える場合がございます。のれんの場合でも、有効期間内にわたって償却する、あるいは非常にのれんの効果が発現した期に償却をすればというようなことを念頭に置いて――収益費用の対応を念頭に置けば、資産に計上し償却ということもありますが、のれんは将来の超過収益力の主観的見積もりなので、収益がたくさん上がった期にたくさん償却をするというのはいかがなものかという論理が出てくるのです。収益がたくさん上がると、その会社の超過収益力は大きくなったのではないかと、このように考えることもできるわけです。ですから、のれんの価値は下がっていないのではないかと見ることも論理的にはできるわけです。

そうすると、先ほど言った収益費用の対応、期間損益計算の論理では説明できない。すなわち、償却の基礎がないということになってしまいます。これが第3番目の論拠です。

4番目の論拠は、これはARS第10号で強調されますが、所有者にとってののれんという考え方でございまして、現在の、例えば先ほどですとP社でございますが、P社の株主はS社に対して、例えば300を払って購入する。そのうちの100位はのれんだったと思いますが、それは将来取り戻すということを念頭に置いて今たくさんお金を払っておく、あるいは株式を渡しておくということです。現在我々が会計測定するのは現在の状態だとすると、現在の状態というのは、結局将来の取り戻し、超過収益力の実現を願って、現在多めに払う。要するに、所有主持分が減るのを我慢するんだと、一言で言ってしまえばそのような論理であります。ですから、現在の状況は明らかに所有主持分は減っているのだと、このように考える論拠でわかりやすい。

以上、所有主持分からの控除説を御説明いたしました。

次に、11ページののれんの所有主持分からの控除説と減損処理、これは今かなり固まっていると思いますが、結局この減損がのれんの償却に、あるいはのれんの評価減に関係するわけです。減損をきちんとやるということは、のれんの資産計上説をとった場合に、早期にその資産を減らすというか、ただ単に償却だけするよりも、臨時的に減損処理をすることになりますから、のれんの減損処理は、ある意味でのれんの資産計上説からのれんの所有主持分控除説に若干近づいた方法と、効果だけ見ればそう言えるかもしれません。

特に高い買い物、対価を株式で相手に渡した場合には、現金で渡すよりも痛みが少ないわけですから、しばしば高い買い物になる危険性があります。資産計上説の場合には、要するにのれんの本来的な価値、将来の収益力の源泉がない場合であってものれんに計上される場合がございますけれども、それが減損処理によって早期に留保利益が減るということで、所有主持分控除説に近づいてくるということでございます。

最後に、第3番目の経済的実質の違いでございます。G4+1の場合の論拠は、もう既に第2回のときに御説明があったかと思いますので省略いたしまして、14ページのFASBの1976年討議資料、大分古いものでございますが、これをやはり基礎的検討ということでみておく必要があると思います。

ここでは、経済的実質に基づいて識別を行おうという提案がございました。要するに、経済的実質がプーリングなのか、あるいはパーチェスなのか、ニューベイシスなのかというものでございます。14ページの上から8行目位、1976年の討議資料では、「当事会社はそれらの以前からの活動を継続するために一つになった」と、このような経済的実質を持っていればプーリングが適切であるとされています。

それから、「一つの会社が他の会社の純資産上の支配権を取得する」という経済的実質を持っていた場合にはパーチェスが適切であるとされています。

それから、以前の当事会社の性質や範囲とは全く違う、新しい経済的実態を結果としてもたらすような場合には、第3類型のフレッシュスタート、あるいはニューベイシスが適切となると考えています。

そこで、識別規準を検討するに当たって、利害関係集団がどのようなことをこの三つの経済的実質にコミットするか・関係するかということで識別規準を検討していきます。

まず一つ目が、参加集団の動機と期待でございます。特に、支配会社の立場と非支配会社の立場から考えます。支配会社の動機として、もし仮にその結合が利益への貢献とか財務流動性への貢献、あるいは事業活動の互換性、そのようなものに興味があって買収とか合併をするといった場合には、これはAタイプ、持分プーリングではないか。

しかし、買収とか合併する方の会社がされる会社の特定の資源、技術とかライセンスとか、特定の従業員ですね、このようなものだけに興味がある。要するに、会社組織全体ではなくて、特定のものだけに興味があるということであればパーチェスになるだろうと、このようなことです。

それから、非支配会社側の動機とか期待でございますが、非支配会社側の株主とか取締役、経営者が、これが自分が単独で存続していると、財務上の欠乏とか、販路が不十分とか、生産ラインが十分でない、補完してもらおうということで傘下に入る。しかし、組織としては傘下に入っても継続していくと、このような意図を持って傘下に入る場合にはプーリングだろうというわけです。

しかし、非支配会社の方の例えばオーナーが、自分はもうリタイヤしたいと、こう願って、継続的な経営活動への参加の意思がないという場合、あるいは非上場会社から上場会社へ転換して、そして自分の持っている株式の流動性を高めて、いずれリタイヤしようと、このような場合には、これはやはりパーチェスだろうと、こう考えるわけであります。そのようなことがここでは言えます。

ニューベイシスの場合は、多分、当事会社すべての既存の事業活動や計画がそのまま継続することを意図していない。ですから、株主とか取締役、経営者ももしかしたら全然違ったタイプになってしまうかもしれない。このような場合が考えられるだろうというわけです。

第2に、(2)の対価の種類ですけれども、対価の種類といった場合に現金か株式の交換かというわけですが、その根本的なところは、資源の喪失の有無とリスクと便益の交換という二つの内容を含んでいます。現金を相手に渡すというのは、それだけ資源の喪失があったわけです。設例でもおわかりになったように、資源の喪失、300だけキャッシュ・アウトフローがあります。しかし、株式の交換の場合は、ひとまず資源の喪失はない。それから、リスクと便益の交換という属性について見れば、現金で買収すると、買収された方は現金を受け取ってしまうと、もうリスクと便益の交換はない。融合というか、シェアはない。しかし、株式の交換の場合は、被買収側の株主はやはりリスクと便益に参加していきますから交換がある、このような二つの属性があったわけです。それぞれについて、資源の喪失の有無とリスクと便益の交換ということで、対価の種類によってパーチェスか持分プーリングかが判定できるということです。

ここで一つだけ注意したいのは、16ページに線を引いておきましたが、これは日本の場合、細かい議論になったときに影響するかもしれませんが、「例えば」というところです。10行目位に線を引いておきました。

「支配会社が自己株式を取得しておいて、増資をすることなく、企業結合の対価として、その自己株式を再交付した場合」、対価が現金であるとみなすのか、あるいは、この場合であっても株式を交付したとみなすのか、ここは議論があると思います。日本の場合ですと、これは自己株式で渡してもいいと思いますけれども、これは前もって自己株式を購入したときに、現金等のキャッシュ・アウトフローがありますから、現金を対価とした取得とひとまずアメリカなどでは考えるということであります。ここは日本の処理・認識と違うのではないかと思いまして線を引いておきました。

3番目に、非支配会社株主の所有主持分への影響ということで、企業結合後の会社に非支配会社株主の所有主持分が参加しているのかどうかという点でパーチェスか持分プーリングを判断するという話です。

4番目に、支配的当事会社の識別可能性、これも前回議論になったところでございますが、この識別可能性があるのかないのかで判断したらどうか。

最後ですが、識別可能性能に関連して、特に数値例でしばしば言われる相対的規模の格差規準というものがございます。APBオピニオン第16号の設定過程――ドラフトの段階ではこれが入っていました。相対的規模が3対1とか9対1という規準でございますが、これもだんだん緩和されてしまったのですけれども、それはとても客観的でわかりやすい。それから、持分プーリング法を非常に限定しやすい。要するに、濫用を防ぐのに大変強力な規準であると考えられたのですけれども、反対にあって、最後にはなくなってしまったという経緯がございます。そのときに、相対的規模規準は非常に効果は高いんだけれども、論理的には問題だといった論拠が二つ言われておりましたので、御紹介したいと思います。

第1に、「GMのような大企業は、小企業と比較して、合併相手の会社との相対的規模の格差が大きくなってしまうので、持分プーリング法の適用チャンスが小さくなって、規準自体が公平でない」。

要するに、大きい会社は、例えば3対1位の会社と合併するチャンスが少なくなるわけです。自分自身が著しく大きいわけですから。ですから、小さい会社しか合併相手がない。そうなると、パーチェスになってしまうわけです。ある程度、相手の会社が大きくないと、持分プーリングは認めないというのが相対的規模規準ですので、公平性がない。

それから、結合の順番を変えることによって操作できるというのが第2の論拠です。

以上、少し長くなりまして申しわけございませんでした。終わります。

○斎藤部会長

ありがとうございました。

それでは、ただいまの御報告につきまして、御質問や関連する御意見を承りたいと存じます。どうぞ御自由に御発言ください。

小宮山委員、どうぞ。

○小宮山委員

1点だけ伺いたいのですけれども、こののれんの種類を個別のれんと結合のれんに分けるという考え方がございますね。実際、実務で企業を買うときというのは、もともと買い手の営業と一緒にすることによってシナジーでどのくらいキャッシュフローが生み出せるかを大体反映して計算していますよね。そうしますと、個別のれんと結合のれんは実際に出てくるんですね。確かに結合のれんの部分というのは、自己創設のれんではないかという思いは常に実務をやっているとないわけではありません。所有主持分から控除するという処理のところで、この中に書いていないのですけれども、個別のれんについては資産計上し、結合のれんについては所有主持分から控除するという考え方がどうしてないのかを伺いたかったのですけれども。

○斎藤部会長

どうぞ、黒川委員。

○黒川委員

それはそれでもよろしいと思います。それは資産計上説の――例えば図表2の(2-3)列――要するに個別のれんだけ資産に計上するという処理と同じになるだろうと思います。結合のれんについては、資産に計上しないということは、資本剰余金もふえていません。だから、自動的に減っているということですので、これは結合のれん部分はのれんの所有主持分からの控除説で処理したのと同じことになるだろうと思います。

○斎藤部会長

よろしゅうございますか。

ほかに御発言ございませんでしょうか。

それでは、事務局から企業結合会計の国際比較について御報告いただきまして、その上で議論を続けたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

○辻前企業会計専門官

それでは、資料2の方をごらんください。

前回、米国と国際会計基準について、どのような状況になっているのか御報告をいただいたわけですが、その他の国について、それではどのような状況になっているのかという点について、非常に簡単にですがまとめてみました。

目的としては各国の企業結合会計の現状を特徴的な点に限って比較する。調査内容は5項目に限定しまして、調査対象国は手持ちの資料とか、問い合わせ等により確認できた範囲内に限っております。

これらの国々につきましては、極端に情報が少ないという点がありますので、項目については最低限、このあたりが重要であろうという点だけに絞りました。

回答欄の方ですが、一応IAS22号を基準というか、IAS22号が全部「Yes」と入るような形につくりまして、対比していくような形でつくっております。

まず、全体的な状況についてですが、数年前の状況に比べまして、予定も含めますとIASの導入が世界的に進行しているのではないかと推定されます。日本国内で出ております出版物とかでは、数年前の状況が書いてあったりするわけですが、改めて問い合わせをしてみますと、かなりIASにかえたとか、IASに切りかえますというような回答が多く返ってきました。

それから、ここには書いておりませんけれども、EUの方では、2005年までにすべての上場企業の連結財務諸表をIASで作成することを義務づけるという方針を公表しておりますので、ここに含まれている国々のうちでも、EU諸国の会計基準はいずれ変更されていくことになると思います。

そうではあるのですが、例えばオランダのようにIASに準拠するような改訂を近々に予定している国も見られるところであります。

カナダの場合ですが、ここは特殊でして、米国のFASBのプロジェクトと密接な関係を保ってプロジェクトを進めておりまして、内容的には両国は一つのグループを形成しているのではないかと思われます。カナダのホームページを見ますと、米国の会計基準とカナダの会計基準が違うということは、カナダにとって不利であるということから、主要な内容については米国と同じように公開草案を作成したという旨の記述がありました。

個別の内容についてですが、まずこの一番左の列のパーチェス法とプーリング法の併用の状況ですが、多数の国々ではパーチェス法とプーリング法を使い分けるようなアプローチを採用しているということでした。公開草案段階の国々も含めまして、企業結合の会計処理方法をパーチェス法のみにするというような国はまだ少数なのではないかと思われます。

次の列にいきまして、プーリング法の適用状況ですが、これは多分多くの国々でプーリング法の適用はまれであると考えられているのではないかと思われます。ただし、プーリング法の適用が法定合併に限られている国々でも、まれであるという回答やまれでないという回答もありましたので、ここのあたりについては、大まかな状況しかわからないというのが正確なところであります。

次の列にいきまして、のれんの会計処理ですが、これは多くの国々でのれんを資産計上して償却していくという処理が行われておりまして、多分数年前に比べますと会計処理の多様性は減ってきているのではないかと思います。

次の列にのれんの償却期間について、20年という期間を何らかの形で明記して、何かの指標として使っていますかという質問なのですが、IASの場合は反証可能な推定という形で使っているのですが、IASと全く同じにしていない国々におきましても、20年という期間を何らかの指標として使うという国々が幾つか見られます。

次の列にいきまして、負ののれんの会計処理方法ですが、これにつきましては、他の項目と比べまして、見ていただくとわかるのですが、会計処理の方法が細かな点で違っているパターンが幾つもあるというような形でありまして、必ずしもIAS22号と類似する処理が多数派であるとはまだ言えない状況になっているのかと思われます。

ごく大まかに御説明いたしますと、以上のような状況になっています。一番右の端に摘要ということで、例えばIASとの関係を書いておりますが、ごらんになっていただくとわかるように、IAS22号に準拠するような改正をするとか、IAS22号に準拠しているとかという国々が数多く見られます。

簡単ですが、以上でございます。

○斎藤部会長

ありがとうございました。

それでは、先ほどの黒川委員の御報告並びに今の事務局からのお話を含めて、御意見や御質問を承りたいと存じます。どうぞ御発言ください。

西川委員、どうぞ。

○西川委員

この表で、アメリカ、カナダ、オーストラリアの公開草案で、パーチェス法のみということを言っているわけですが、これのもとになっている考え方は98年に出ているG4+1のポジションペーパーであり、日本公認会計士協会では、それに対して99年4月にコメントを出しております。実質的な議論は山田さんのIAS専門委員会で議論して出したものなのですけれども、内容的にはやはりパーチェス法のみという方向性にはついていけないということで、持分の結合と取得という二つの事態は完全に存在する、別個の事態として存在するという立場をとっています。現行のIASのスタンスに従ってコメントしているということで、その点日本のプーリング法の適用はまれですかというところの「No」とは少し違いますが、一応まれとは認めつつ、パーチェス法と持分プーリングは併存すべきであるということを会計士協会のスタンスとして打ち出しています。

それから1年半位たっていますが、今の段階でもパーチェス法に絶対すべきであるというような新しい根拠は見つかっていないというようなことでございます。

○斎藤部会長

ありがとうございました。

ほかに御発言ございませんでしょうか。

どうぞ。

○辻前企業会計専門官

今のパーチェス法への統一の件ですが、米国以外の国の公開草案なり会計基準なりを一応チェックしましたが、特にこれというほどの論拠というか、米国の公開草案やG4+1のペーパーほどの根拠が示されていなかったという状況でしたので、その点ではこれらの国がどのように考えているのかというのは、あまりよくわからなかったところです。

○斎藤部会長

ほかに御発言ございませんでしょうか。

葛馬委員、どうぞ。

○葛馬委員

最初の黒川委員の御説明、非常に細かいところまで説明があったのですけれども、全貌がよく理解できないので、非常にプリミティブな質問をまずさせていただきたいんですけれども、結局はのれんの認識の仕方、評価の仕方、あるいはその扱いが問題になるわけですが、そもそもの話の始まりとして、のれんというのは、私の実務的な理解では、要するに企業の資産簿価とそれの右側による評価、すなわち負債総額と資本の評価額の差額だとしか理解できないのですけれども、それを個別のれんと結合のれんに分けるというのは、具体的にどのようなプロセスで分けられるのか。特に、結合のれんの方は一緒になって発揮される価値ということだろうと思うのですけれども、それは言ってみれば、よく禅問答である「柏手を打って、この音はどちらから出たんだ」というような話で、結合した結果、初めて出てくるのれんを最初に割り振りというのは、どのような手続なのか、その辺を少し御説明いただければと思います。

○斎藤部会長

黒川委員、どうぞ。

○黒川委員

大変柏手論は説得力がございまして、私もそうかなと思うのですけれども、ここは一応論理的に考えておりまして、具体的な手続はどうなるかということについては、先生を説得するだけの答えを持ち合わせておりません。ただ、先ほど一つ質問があった中で、やはり将来のキャッシュフローを見積もるときに企業評価の仕方の問題が一つ絡んでくるのかと思うわけです。今言った資産と負債、資本を引いたということですか、そのようなときでのれんがあるというのは、確かにそのとおりだと思うのですが、そのときの資産、負債という、先ほど公正価値のB/Sがつくられる過程でもう既にのれんが計上されていたわけですけれども、そののれんが計上されている過程の前に企業評価方法がいろいろあって、そこでシナジー効果とか、あるいは企業の特定の資源、超過収益の資源があるというようなことが評価されていると、このような仮定を置いているわけです。具体的な企業評価方法ということになると、また何種類かあると思いますけれども、これは私よりも実務に携わっている方、あるいはM&Aの仲介会社の方の方が詳しいかと思います。

○斎藤部会長

いかがでしょうか。

○葛馬委員

実務上、特にこのような概念に分けて何か計算がされたケースがあるというわけではないのでしょうか。要するに、これはコンセプトとして出しているだけで、このような概念に沿って実務処理が行われているということは余りないんですね。

○斎藤部会長

小宮山委員、どうぞ。

○小宮山委員

私が質問したのは、概念として実務をやっていて、事業評価するときに一緒にやったらとか、流通チャネルに乗せたらとか、例えば工場を統合したりとか、そのようなシナジー効果を合わせて企業評価しているわけです。確かに一緒になる部分というのは、自己創設のれんではないかと思っているのはさきほど質問したとおりなのですが、ただ、買い手にとっては一緒になってやっていくことに意味があるのであって、別々に営業していたら、幾らの価値があったかというものが本当に意味のあることなのかという疑問があるわけです。そうすると、分ける意味が買い手にとって何なのだろうと。ただ計算のための計算であるという感じがするわけです。何かそのような概念は別だけれども、数字を出す意味は何なのだろうとは私も思っています。

○斎藤部会長

葛馬委員、よろしゅうございましょうか。

○葛馬委員

はい。

○斎藤部会長

ほかに御発言ございますでしょうか。

山田委員、どうぞ。

○山田委員

先ほど西川委員の方からも少し話があったのですが、今IASで詰めているその議論の中で、IASの合併のところでは、委員の多くはパーチェスとプーリングは適用する事象が違うものがあるのではないかと、一応信念を持ってプーリングを適用すべき場合を特定しようと考えているのですが、実際に詰めていくとなかなか、どのような事象ならいいのか。つまり、取得者がはっきりしない、特定できずに、両者というか、三者・複数で構わないんですが、複数者が資源を持ち寄って何か一つの事業を継続しようというような形のものは、現実の世界にどれだけあるのかということを考えていくと、条件がなかなか設定できない。むしろ、ほとんど多くの場合は、どちらかが買ったないしはどちらかがそれを取得するという意図を持っているケースの方が圧倒的に多いのではないかというのが今議論の中で出てきていまして、そうすると、プーリング自体を積極的にいいと言える論拠がなかなか見つからないというのが現状です。

ですから、これから基準を考えていくときに、本当に事象として特定できるのかどうかが大きな問題だと思います。その特定するための条件を、先ほども出ました相対的規模だとか株式数だとか、それから取締役の数だとかという形にしていきますと、どうしてもそれが数合わせで、いわばパーチェス逃れのような形に使われかねないときに、それをどのように手当していくかというところが、条件を出せば出すほど細かくもなるし、それを詰めるために難しくなる。そのような議論の中から、今のIASの起草委員会の中では、やはりそれなら全部一つの方法の方がいいのではないかという議論に傾きかけています。

ただ、日本の主張にありますように、プーリングが是とされることが必ずあると思っているのですが、それをどのように特定できるかなのです。私ども協会でも議論しましたが、なかなか明確なポイントが出せない。したがって、これから基準を考えていくときにも、そこの部分が説得力ある形で整備されなければらなない。答えになっていないのですが、そこが世界的にも明確になっていないということだけ申し上げたいと思います。

○斎藤部会長

ありがとうございました。

どうぞ、黒川委員。

○黒川委員

今の点で、明確なお答えになるかどうか不安ですが、13ページの下から7行目に、プーリングの特質は持分のプーリングだけかという、これは先ほど時間がなくて省いたのですけれども、ここを少しだけ説明させていただいてよろしいでしょうか。

今まで、持分プーリングという言葉は、原語はプーリング・オブ・インタレストですし、G4+1あたりからプーリング会計ということだったのですが、これは以前も話題になったかもしれませんが、プーリング・オブ・インタレストを持分プーリングというように訳した段階で、日本ではそもそも持分の融合、プーリングだと。持分のところの貸方側の持分の融合、あるいは株主持分の融合というか、当事者は株主だけだという点が非常に強調された。それは、日本だけでなくても、やはりポジションペーパーなどを読んでいても、当事者は株主と書いてありまして、非常に持分が強調されたのですけれども、そもそもプーリング・オブ・インタレストの歴史を見ますと、複数の電力会社が合併いたしまして、その当時、パーチェス的に合併をすると資産再評価が行われることが多かったらしいのです。1940年代の話だったと思いますが、合併をしたのはなぜかというと、公益的会社の料金規制がアメリカにございまして、それがレートベース方式で行われていました。レートベースというのは、投下資産にある一定の利潤率を掛けて適正利潤を計算します。それとかかった必要経費を足して売り上げになる、要するに料金になればいい。適正利潤を確保して料金を算定するという方式です。コストが高く測定され、それから投下資産が大きく測定されると料金が上がるというメカニズムになっているわけです。そこで、合併をして――資産がその当時含み益があったのでしょう――再評価されるということになると、投下資産が大きくなり、それから減価償却費も大きくなり、料金が上方に修正される可能性があるということで、別々の電力会社がそのような意図でもって合併をした。

それに対して、料金規制委員会のようなところが、それはけしからんということで、そのような合併については、以前の帳簿価額のままで合算をしなさいと命じた。そのようなことが持分プーリングの初めの状況だとアメリカの本に書いてありました。

その状況を考えると、プーリング・オブ・インタレストは確かに持分のプーリングではあるのですけれども、同じ電力会社でそれぞれ地域独占で、それが単に一緒になっただけなのです。その属性は何だったのかということをここで書いたのですが、事業や営業の継続という観点がある。それから、株主もただ一緒になる。それから、利害関係者集団の消費者もただ一緒になっただけである。そこではリストラも何もなかったと仮定しまして、利害、利害関係者、利害関係すべてが一緒になったという状況。インタレストという意味は持分だけではなくて、利害とか利害関係、利害関係者一般すべての言葉であったのではないかと原文を読んでいて思いました。

ですから、プーリング・オブ・インタレストについては、もしあるとすれば、例えば東京電力と中部電力が一緒になって、それで単に消費者もただ一緒になっただけ、それから利害関係も一緒になっただけ、株主もただ一緒になっただけというような属性があるかもしれないということです。リストラも何もない。

○斎藤部会長

今御説明のありました料金規制におけるオリジナルコスト・プリンシプルというのは、実は合併に固有の問題ではないんですね。これはそうではなくて、もともとアメリカの料金規制でオリジナルコストと言っていたのは、ある財産が公益的な事業に投下されたときの価値をもって料金のベースにしようという発想であって、その問題と合併の問題は余り直接に結びつけない方がいいというような感じがいたします。

ほかに御発言ないでしょうか。

どうぞ。

○辻前企業会計専門官

山田先生にお聞きしたいんですけれども、ここで、例えば持分プーリングの説明は前回も今回もあったわけですが、例えばジョイント・ベンチャーを考えると、対等な関係は、人工的につくり出すということは可能というか、持分プーリングの説明を聞いていると、何かジョイント・ベンチャーの会計の話をしているともとれるのですが、IASの基準の方を見ていると、その辺が読み取れないというか、どのような整理になっているのかなかなかよくわからないんですが、その辺について、何か話というか、どのような考え方になっているとかというのがあれば、教えていただきたいんですけれども。

○山田委員

それはジョイント・ベンチャーの考え方ということですか。

○辻前企業会計専門官

ジョイント・ベンチャーの考え方と持分プーリングで言っているような持分の対等な関係の意味の一貫性がどのようにとられているのかというところです。

○山田委員

まず、ジョイント・ベンチャーは結合形態が三つたしかあったと思うんですけれども、一つが資産を結合させたり、それから事業から結合させたり、典型的にあるのは、例えばヨーロッパにおけるエアバスなんかの製造がよく例に挙げられるんですが、機体の製造を請け負う企業がその工程を出資というか、ベンチャー事業に出して、エンジンをつくるところが別なことをやる。それで一貫してつくったものに対して得た利益をどのような形で分けるかという形のもの、もう一つ、パイプラインの所有のように、一つの機能を果たしているものに対して、自分の所有分・出資として何を出すか。

つまり、そこにあるのは、ある種存在している企業のある事業なり、ある活動をお互いに出し合って一つのものをつくることによって、ある活動をなし遂げるための一つの事業活動というのを何かベンチャーという形にしているような私は印象を持っています。ですから、そのようなことと22号の企業結合で言っておりますエンティティとしての企業が結合するときの結合のあり方というのとは少し違うんのではないか。あえて質問されたところで答えますと、そのような感じがしております。

基本的には、企業結合の中でパーチェスが最大というか、大半を占めるだろう、ただ、パーチェス自体がない、先ほど黒川先生のお話ですと、消費者と活動地域が全く違うものが一緒になるというのがオリジナルということでしたが、もともとシナジーか何かは別として、二つの事業体がその事業活動を継続しながら一つになることによって、何かメリットがあって集まる場合だけにプーリングという、そこには持分だけではなくて、もちろん事業活動そのものの統合ということが前提になっているのですが、そのようなところだけに何か、どちらかが買った買われないという関係ではない事業の継続性を認めようということだろうと思うのです。

それで、G4+1の中にもありますように、以前二つのものが一つの事業になって継続していると言うけれども、エンティティは一つになったのだから、前の事業はもう継続していると言えないのではないかという主張があって、それは少し気にはなっていますが、意図としてあるのは、従前それぞれがやっていた事業を継続するということが多分コンセプトにはあるんだろうと思います。

○辻前企業会計専門官

ジョイント・ベンチャーというのは、投資者というか作成企業があって、そこが出資する場合の会計処理、22号で言っている企業結合は作成企業みずからが当事者になるというか、合併するときの会計処理だと、そのような分け方と理解してよろしいのですか。わかりました。

○斎藤部会長

ほかに御発言ございませんか。

どうぞ、池澤委員。

○池澤委員

実際、営業権を計上するときの額は幾らかというときには、例えば株を出す方は当然市場価格から計算するわけですけれども、我々の経験であったことですが、ある計算を市場価格で行ったところ、相場が変わりまして、7カ月後には実は株が倍位になって、またさらに少したったら、今度は最初よりも3割位下がった。そうしますと、実行したときの株価で営業権を計上して、それで償却していくわけですけれども、20年で償却しますと、出てくる各年の影響額というものが意外に我々の経験では大きかった。例えば純利益の10%近くまでいくとかです。そうしますと、会社を経営している人たちは、何となく高値づかみしたものを基礎に経営成績なり何なりが反映され、判断されることを恐れて、発表のときには非常にそこのところに気をつけて、いろいろなことを言い訳するというようなことが現実にはあるのではないか、なってきてしまうのではないかということがあります。

そこで、今、黒川先生の資料を見ていて、中にはそうではないやり方もあるというので、なるほどと思ったわけです。会社を経営していく人の責任は与えられた源泉をうまく使って事業活動することですけれども、営業権は本当にそのようなものなのでしょうか。雲みたいなものではないかと。超過利潤だと言われてみても、実際株価から計算する方法、またはキャッシュ・ディスカウント法とかいろいろ方法はありますけれども、実務に携わったことがある方には経験があるだろうと思うのですけれども、非常に主観的というか、恣意的な側面を持っている。そのように考えますと、何かそこに非常にむなしいものがあるということを感ぜざるを得ないということです。

営業権の計上基礎――株価であるとか、将来キャッシュ・ディスカウント法であるとかを基礎にした営業権というものは、本来会社の責任ではない。やはりそれは資本市場の責任ではないかと感じるわけです。そうしますと、先ほどのいろいろな考え方の中で、控除する方法、このような方法だとぴたっとくるなとさきほど感じたわけです。

○斎藤部会長

ありがとうございました。

ほかに御発言ございませんか。

辻山委員、どうぞ。

○辻山委員

黒川先生に幾つかお教えいただきたいのですけれども、資料の5ページのところで、日本ではこれまで余り議論が整理されていなかったという合併される企業の資産、借方側の評価の問題と、それから貸方側の対価の問題が、黒川先生の御説明では、パーチェス法の場合にのれんを計上する場合、しない場合、それからのれんの一部を計上する場合というように、借方側からまず内容が決まって、その後に合併差益が決まるという御説明のように承ったんですけれども、一方で、今の池澤委員の御質問にもありましたように、合併に際しては、まず合併比率が決まって、発行する株式が決まる。そうすると、こののれんの部分が決まるということになりますと、(2-2)の方法はどのような位置づけになるのかということです。

それから、バートンの提案ですけれども、(2-1)と(4)の違いは、結局(2-1)がのれんの償却が期間利益に反映されてくるのに対して、バートンは同じ仕組みだけれども、それを期間利益への影響から排除した、このような提案だったと理解してよろしいのかどうかということ、まずこの点をお教えいただきたいと思います。

○斎藤部会長

黒川委員、どうぞ。

○黒川委員

第1番目の御質問に対しては、3ページの図表1で、ひとまずこのような資産の含み益も反映して企業を評価する、あるいは、将来のキャッシュフローの流列を勘案して、そしてその結果としてのれんも――もし仮にのれん価値というものの現在価値が計算されたとして、その中身がさらにシナジー効果のものなのか、あるいは個別的な特定の資源があった効果なのかということがわかったと仮定して――このような企業評価ができたとして、このようなB/Sができる、そこで1株当たりの株式価値を計算して、合併比率が計算される、このようなメカニズムによって図表1ができてくるわけです。

ですから、辻山委員にお答えをするとすれば、やはりこの企業評価がまずあり、借方側が決まる、貸方側が決まるというよりも、両方一緒に決まると言っていいのか、あるいは企業評価によって決まると、そのように思っていただければよいと思います。

○辻山委員

そうしますと、(2-1)のところで、まず合併比率があって、既に計上されるべきのれんがそこで決まっている。それに対する対価として発行される株式が時価で決まるとしますと、それは会計上の問題ではなくて、(2-1)というものがまずあり、それを(2-2)に持ってくるというのは、即時のれんを消去してしまうということなのでしょうか。

○黒川委員

同じ状況で、同じように企業評価されていながら、のれんを資産に計上するというテクニックを使うか、あるいは資本控除説というテクニックを使うかの違いです。

それから、2番目の御質問のバートンについての御理解はそのとおりだと思います。

○辻山委員

そうしますと、(2-1)と(2-2)の違いというのは、結果的にそのような処理をするために、発行された株式の時価を貸借対照表の貸方に反映させないという理解でよろしいのでしょうか。

○黒川委員

そのようなことにもなります。それは知見のところにも書いておいたと思います。

○辻山委員

もう1点、のれんの扱いについて、黒川委員の資料では個別のれんと結合のれんがどう分かれるのか説明があったわけですけれども、それ以前に、パーチェスであるとか、フレッシュスタート法であるとか、さまざまなことを考えていく前提として、会計上ののれんというのは一体何なのか、それが利益計算とどのような関係にあるのか、この点が合併の処理に当たって今後一番問題になってくることであろうと思います。

通常ですと、なぜ会計上自己創設のれんが計上されないのかというと、のれんは創設された無形の段階では会計上資産にもならないし、コストにもならないという、一般の企業会計のルーティンの利益計算の大原則があるわけです。のれんがどのようにその後会計上の利益計算に反映していくのかというと、まさにキャッシュフローが生まれた段階で、原価をそれにぶつけていくということでのれんが利益の中に入っていくという構造であろうかと思うのです。これは実際にのれんが買い入れのれんであった場合には、買い入れた段階でコストの方に入ってくる。したがって、利益に入らないという一般の利益計算のルールがあると思うのです。このことについて、実際にそれが買い入れのれんに相当するのか、それとも自己創設のれんのままで、やがて将来の利益に繰り入れられていくのか、この辺の仕切りのことが問題なのかなという感じがするのですけれども、この点と結合のれん、個別のれんの区分の問題はどのように関係してくるのでしょうか。

○黒川委員

非常に難しい御質問だと思いますけれども、今伺った範囲ですと、自己創設のれんと買い入れのれんの問題と、それから結合のれんと個別のれんの問題とは一応区分して考えておいた方がいいかと思います。結合のれんと個別のれんは、あくまでも将来の超過収益力の源泉が個別的に認識、結合前に存在しているような源泉か、あるいは後になってシナジー効果が出てくるかという、そのような話だけです。

ただ、そのときに、シナジーの部分の結合のれんは自己創設のれんにある意味で非常に性質が近い。事後になって出てくるにもかかわらず、特に公正価値プーリングの場合には、取得した方の側でも計上しますから。そこで特に自己創設のれん的な要素が入ってくる。ただ、そのようなことがあるにせよ、辻山先生の御質問の前半部分の購入のれんと自己創設のれんの会計の構造上の問題とは切り離して考えたいと思います。

○辻山委員

どうもありがとうございました。

○斎藤部会長

どうぞ、池澤委員。

○池澤委員

先ほどの結合のれんと連結のれんのところの話なんですが、合併比率なり交換比率を計算するために、各々の会社の価値をいろいろ評価する。そこからは交換比率が出るだけであって、当然絶対値は出てこないわけです。したがって、交換比率は両者合意されたけれども、絶対価格については市場から持ってきたり、または計算ルールに従ってやるということになりますと、個別のれんというものと結合のれんというものが本当に観念上存在しているのか一つ疑問があります。

それから、別の話ですけれども、このリポートの中に減損の話が出ていましたけれども、減損という行為もやはりP/Lに影響するわけでして、ここのところもさきほどの話に関係しますが、資本市場の問題がビジネスの世界に影響しているところではないかという感じがしています。

それから、先ほどの客観的に決まっているのは交換比率だけであって、絶対値ではないというところでは、やはりプーリング法はどうしても過去の事実に基づいているということからすると、いわゆるプーリング法とパーチェス、フレッシュの違いは、いわゆる識別可能資産の再評価であるとか、そのようなところだと思うのです。時価評価ですけれども、その時価評価の基礎が何か少し緩いというか、不確実性が少しあるなと。しかしながら、現実の実務では、これ位の検討をすれば大丈夫なのか、会計士の先生はオーケーと言ってくれるのか、または、株主の方からの訴訟は、これだったら耐えられるのかなといったところに非常に気をつけなければならないという点があります。以上です。

○斎藤部会長

ありがとうございました。

中島委員、どうぞ。

○中島委員

先ほどの山田さんのお話を伺っていまして、IASの方で議論されている際には、結局企業結合と一口に呼ばれているものの実質にかなり差が、違いがあるのかどうか。それから、それに応じて会計処理を違えていった方がいいのか。それから、経済的実質の違いというものをどのような規準で識別できるのかどうかというあたりが論点になっているのではないかという気がしたわけです。黒川委員の資料でいきますと、14ページに三つのタイプが、アメリカの討議資料からとったものが書いてあるのですが、一番よくわからないのは、最初の「それらの以前からの活動を継続するために」とか、それからよく持分の継続とか言われますけれども、そこが何を意味しているのかが非常にわかりにくいんですね。

それで、山田さんに御質問なのですが、先ほど取得企業を識別できるかどうかで切り分けてしまうというような方向で議論がされている。取得企業を識別できればパーチェス法だし、そうでなければプーリング法ということだと思いますが、それはここで言っている「それらの以前からの活動を継続するために」とか、持分の継続とかを別の言い方で言うとそのようなことになるのですか。それとも全く別の切り口からの規準を持ち込もうとしていると理解するのか、その辺を教えていただければと思います。

○山田委員

私もこの14ページはよくわからないのですけれども、以前からの継続の意図を持って、実際に活動が継続しているという実態をどう特定できるかによって決まるのだろうと思います。ですから、もともと取得するという意図を持っていれば、それでパーチェスの方になってしまう。もともと何かのお互いにやっていた事業を結合すると言っている中でも、どちらが買ったか特定できるケースがあるのではないかという形で特定していって、それがいよいよわからないときにはプーリングという形で、そのような限定したときにだけ簿価の引き継ぎを認めるという論理で今は区切っていると思います。そのときに明確に、この場合は継続する意思があるという事態が特定できるか、それができないから、逆に買った人がいるかいないかというところで攻めてきて、そうではないものについては簿価の引き継ぎを認めるという論理になるのかと理解しております。

○斎藤部会長

持分が継続するかしないかというのは、これは企業結合が生じれば、結合当事会社の株式は継続するとも言えるし、継続しないとも言えるわけですね。どちらでもあるわけです。それは相対的な概念であって、パーチェスをとった場合には、取得会社側の資産は評価替えしないわけです。評価替えしないというのは、持分が継続しているからだと理解しているわけですね。

○中島委員

取得会社側の。

○斎藤部会長

ええ。ですから、その場合に取得会社側の持分と同じような状況が被取得会社の株式にあれば、その場合にはやはりそちらも継続していると考えるかどうかという論点が出てくるということであって、いつも取得会社の株主持分が継続しているということをいわばミラーにして、相手方がどのように評価されるかという、そのような相対的な概念だろうと思います。ですから、それを絶対的に取り出して、継続しているとかしていないと言ってみても、それはほとんど意味のない議論だと思います。

どうぞ、西川委員。

○西川委員

持分プーリング法がなくなった世界というのが、多分実務的にまだ行われていないのだろうと思うのでわからないのですけれども、それですべてのことを解決できるということは恐らくないだろうということは考えられると思います。要するに、パーチェス法にするということはどちらかを取得者にするということですから、選挙だったら勝ち負けというのは必ず出るわけですけれども、必ずどちらかを取得者にしないといけないというところで、今プーリングにしていいような状況があったときに、どちらを取得者にするかという点で、非常に会計処理上問題が出てくる。残らざるを得ないのではないか。

○斎藤部会長

パーチェスにした場合ですね、プーリングした場合ではなくて。

○西川委員

必ずどちらかが取得者であるかを決めなければならないというところで、間に緩衝地帯がないので、やはり問題が残るのではないかと、これは実務的ですけれども、そのような感じはします。

○斎藤部会長

私がさきほど申し上げましたのは、決してプーリング否定の議論をしたのではなくて、ある状況では両方の会社が買ったとも言えるし、買われたとも言える。つまり、どちらが買ったとも言えるという条件がもしあれば、その状況は俗に言う取得者を指定できない、特定できないケースでありますから、そのような状況では、両方の会社とも持分が継続しないと考えるか、どちらも継続すると考えるか、どちらかの選択肢しかないだろうということを申し上げただけでありまして、危惧されているような持分プーリング法の否定として発言したのではありません。

八木委員、どうぞ。

○八木委員

ただいまの黒川先生の話を聞いて、この議論が結局アメリカで議会の議論にまで至っているのは、さすがに企業経営に非常に大きな影響を与えるという認識のもとにそのような議論がなされているという印象を得たこと。もう一つは、非常にたくさんのいろいろな概念がここで御説明あったわけですけれども、この中から実態に即し、かつ実行可能で、国際的調和でという観点から決めていくのもこれもまた大作業だろうという、そのような二つの印象を持ったわけでございます。そのほかに現在時点で実務に携わっている人間として大きな問題を一つ感じておりますのは、10月27日の企画調整部会でも一言申し上げたのでございますけれども、13年度の税制改正との兼ね合いがどうとられていくかということであります。本件は、この税の議論ともちろん切り離してやるわけですが、すべて切り離してやれるかというと、やはりそこも念頭に置いてやらなければならない問題だろうと、こう感じております。今まさにその税制改正の議論をやっておられるわけですけれども、この間大蔵省の方から先月ですか、会社分割・合併等の企業組織再編成にかかわる税制の基本的考え方として骨子が公表されたわけでございます。その中から感じたのは二つ三つありまして、一つはやはり時価以下主義から時価、あるいは簿価主義といいますか、そちらへの変更という観点、それから事業が継続することを要件・前提としての課税の繰り延べ、それから確定決算主義が前提になっている、この辺を公表された骨子を見て感じたわけでございます。このようなことが先ほどの御説明のあったいろいろな企業結合をめぐる議論と方向が必ずしも合致するかは、まだいろいろ問題含みではないか。合致する保障はもちろんないわけでありまして、その辺を感じました。

これから、企業の合併とか統合とか、いろいろな形のものは商法の改正を経て、我々の間で今度本格化してくるので、まさにこの議論が即実務にかかわるわけでございますけれども、結局確定決算主義とか、商法と証取法、個別と連結の関係とか、我々実務を取り巻くいろいろな問題が非常に、言うなれば日本の会計制度の基本にかかわる議論が今まさに行われていると思っております。

昨今、私どもの実務は大分複雑になってまいりまして、個別と連結、それから税務計算、その他ということで、もし確定決算主義を引きずっても、この後大分実務が複雑になる。確定決算主義をもし捨てることがあっても、相当複雑な実務がこれからあらわれるだろうと思います傍ら、確定決算主義を引きずりながらやっていくとなると、ますます大変になってくるのではないかという印象を実は持っております。税務の世界も調整計算の域を脱して、税務そのものの決算書をつくる、特に連結の税の制度が本格化しますと、相当実務がふえるだろうと少しおびえながら予測しているわけですけれども、そのような段階において、やはり確定決算主義というものをどう考えるかということを我々として本格的に議論していく時期にそろそろ来ているのではないかという気がしています。

ただ、これはまだ私個人の意見でありまして、例えば経団連あたりでも、そのような意見がちらほらと出始めているというところです。ですから、これからまた産業界の皆さんともその辺を議論していかなければならないと思っています。いずれにしても、目下税の議論が先行しておりますので、正直申し上げてそれも一つの原動力といいますか、スタートになって、産業界で大いにそこを議論してみたいと、このように考えているわけであります。

いずれにしても、非常に重要な影響がございますので、そのような税制の問題、それから先ほど来お話のIASの問題、あるいはアメリカの公開草案がどこへ落ちついていくのかとか、そのようなものをぜひ念頭に置きながらこの議論を進めていただきたいと思うし、私もそのような認識で進めていきたいと、このように思っています。

以上、印象を含めての話であります。

○斎藤部会長

ありがとうございました。

ほかに御発言ございませんでしょうか。

辻山委員、どうぞ。

○辻山委員

先ほど、少し複雑に質問し過ぎてしまったかという反省ですけれども、5ページでお教えいただきたいのは、借方側が先に決まって、そして貸方側の処理が決まる、例えば「*3」の中身がそのように結果的になるとしても――それではこののれんの資産計上額がどこから出てくるのかということです。このような理解ができるのかできないのか御質問したいのですけれども、まず会計の外の世界で合併比率が決まる。それによって、発行株式数が決まり、そして貸方側が決まる。その結果、借方側の資産の時価評価分、差額としてのれんが先ほど申し上げた買い入れのれんに相当する。このようなことなのか。黒川先生の御説明ですと、どうも借方側が先に決まって、貸方側はそれに後からついてくるというような御説明に受け取れたので、先ほど質問させていただいたということです。

○黒川委員

そこは一時期は対価の測定を市場価格で行う場合ですと、対価の方が先に決まりますから、あとは資産の含み益を調査していって、残りがのれんだと、パーチェス法か持分プーリング法かは対価の株式の測定を市場価格に基づいて資本増加させるか、あるいは額面あるいは帳簿価額のままでやるかという、そこがポイントではなかったのかと思った時期もあります。貸方側が先に決まる、貸方側がポイントだ、資本の評価がポイントだと思ったときもありました。ただ、企業評価には企業の将来のキャッシュフローを測定して、それを現在価値で評価して企業価値――その場合には資産イコール資本ですけれども――資産側の総額が決まったとします。その中で、含み益部分を計算して、残りがのれんだというと、今度貸方側というより借方側の方の総額が決まって、そのうちで特定できる――識別可能な純資産の公正価値が決まったその差額がのれんだとも言えるんですね。しかもそれが資本と同額で一致しないとまずいので、同時に決まっているのかという気もします。

○斎藤部会長

辻山委員、どうぞ。

○辻山委員

今の質問はプーリングかパーチェスかという境目の議論というよりは、むしろパーチェス法が適用になった場合の会計処理の問題なのですけれども、今の先生の御説明のようなキャッシュフローからそれを割り引いて、企業価値を評価するということは、むしろ持分の評価にかかわる部分ではないか。それが先に決まって、そしてその結果、資産の時価に振り当てる部分、そしてその残りということですから、結局貸方側が先に決まって、借方側が決まる。そうすると、借方側を任意に――この借方側に合わせて貸方側の計上額を任意に処理していくというのは、その後の会計上の工夫だけれども、最初に三つの方法がパラレルに、どれでもよいというようには決まらない――そのような趣旨だったのですが。

○斎藤部会長

今問題になっていますのは、辻山委員がおっしゃるように、そもそもパーチェスをどう定義するかという問題だと思います。つまり、基本的には他の会社の資産負債を対価の価値で受け入れるという考え方をとるのか、そうではなくて、その資産負債を例えば公正価値のようなもので受け入れると考えるのかと、そのようなパーチェスの一番本質的な部分をどこに置くかという問題だと思います。

今の二つの観点からして、もし後者であれば、これはのれん相当額というのは、さっきの黒川委員のお話ですと、持分チャージとして消去されるでしょうと。それに対して、もし前者の場合、つまりキャッシュであれば支払った現金の額、株式交換であれば発行した株式の時価総額で受け入れるということでありますと、基本的にのれん相当額は差分として資産計上されて償却されます。この場合にのれんは対価の価値の一部でありますので、それを資産計上できないということは、受け入れた資産そのものも資産計上できないという話になってまいりますので、そこはおのずから決まってくると思います。パーチェスというものをどのような性質のものと評価するか、どのように定義するかという、エッセンスをどこに置くかという問題だろうと思います。

それを今ここで延々と議論しても、余り生産的とは思いませんので、問題を出していただいたということで、今後お教えいただければと思います。

ほかに御発言ございますでしょうか。

どうぞ。

○多賀谷課長補佐

黒川委員に、また極めて基本的な質問で恐縮なのですが、第1回目の部会のときに、我が国の合併等の実務ということで、事務局から説明したところでは、我が国ではいわゆるプーリング法とパーチェス法の中間的な実務も行われているということでございました。そうなりますと、いわゆるここで言うところの識別可能な資産の一部を評価替えするというような方法と、それから、一部の資産の評価益だけを認識しても、それをのれんとして計上するという方法が恐らく図表2の識別可能な資産は全て評価替えをするという方法の前に、我が国の実務としてはその二つもあるという理解でよろしいかと思いますが、その二つは、もう理論的にはだめなのかということ、もう論外なのかどうかという点について、論外かと思っているのですが、先ほどプーリング・オブ・インタレストの御説明で、全く同じようなものであれば、そのまま結合すればいいということですと、全く簿価のまま結合するという方法がもし論理的にあり得るのであれば、識別可能な資産も一部評価替えをしない結合という選択肢というのがあり得るのかどうかという点について、もし何か御説明があればお願いします。

○黒川委員

その場合には、以前の企業活動、あるいはインタレストが全部一緒になるのですから、その以前の留保利益がそのまま一緒にならなければだめですね。ですから、パーチェス法の特徴は、要するにパーチェスされた方は留保利益を引き継がない、株式を対価とした場合には資本の増加ということになります。ですから、留保利益の部分の引き継ぎがあるかないかというところで、そのミックスはあり得ないだろう。要するに、全部資本に振りかえておいて、帳簿価格のままというのがありますかと言われれば、それはさきほどのプーリング・オブ・インタレストの論理上からは、延長線上からは出てこないだろうと、このように思います。

それから、辻山委員の議論について、パーチェス法は取得だと、このように前も言ったと思いますし、それから先ほども言いましたけれども、知見のところで公正価値が控除説をとれば反映されないという指摘はしておいたと思いますので、その点は私も同感です。

○斎藤部会長

特にほかに御発言ないでしょうか。

どうぞ、安藤委員。

○安藤委員

黒川委員がどう思われているかということを聞きたいのですけれども、バートンの提案をしきりに持ち出されています。それから、9ページ以降でのれんの所有主持分からの控除説論拠を書かれていますけれども、お聞きしている限りは非常にこれがいいのではないかと黒川委員が思われているのではないか、そのような感じを受けたのですが、素直なところをお聞かせいただきたい。

○黒川委員

パーチェスの本質論とはまた離れて、のれんだけ取り上げていると、確かに所有主持分からの控除説の論拠はすばらしいと思うときがありました。しかし、それではなぜ所有主持分の控除説がアメリカでいつも議論されているけれども、最後は否定されるかというところを思い至りますと、やはり無理というか、資産に計上する論拠がやはりあったのだろうと思っています。それに対して、経営者にとってののれんということで考えてみたのですけれども、これはいろいろな考え方があると思うし、先ほどの公正価値が反映されないのも大きな論点だろうと思います。

ですから、ここでは確かに私も魅せられたところはあるけれども、最後まで魅せられ続けているかというと、そうでもありません。

それから、四つの論拠の中の第2番目の論拠は、これは私が言ったわけではなくて、アメリカの議論を取りまとめるとこのようにまとめられますけれども、これは成り立たないだろうと私は論文で書いたことがあって、実は(2)はないと思っています。

それから、バートンの議論については今はやりのP/Lを通さない、資本直課のような方式が、今はやりというのは変ですけれども、包括利益の概念との関連で出てきます。あるいは、その他の有価証券方式と全く違う会計問題であるけれども、P/Lを通さない、償却の報告利益に対する影響を及ぼさない工夫として、企業結合のところでも一つ非常にマイナーな議論で出てくるので御紹介をしたいという意図であえて焦点を当てました。

○斎藤部会長

ありがとうございました。

それでは、予定の時刻になりましたので、本日の部会はこれで終了させていただきます。

なお、次回の予定につきましては、当初12月8日金曜日の午後2時から4時とお伝えいたしましたけれども、都合によりまして、同日、つまり12月8日の午後1時から3時までに変更いたしたいと存じます。よろしくお願いいたします。詳細につきましては、改めて事務局から御連絡を申し上げます。

本日はお忙しいところ、まことにありがとうございました。これで散会させていただきます。

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