金融審議会金融分科会第二部会(第26回)・「信託に関するWG」(第13回)合同会合議事録

日時:平成17年11月29日(火)16時00分~18時00分

場所:中央合同庁舎第4号館9階 金融庁特別会議室

○ 岩原部会長

それでは、時間でございますので、ただいまから第26回金融審議会金融分科会第二部会と第13回信託に関するワーキンググループの合同会合を開催いたします。

皆様、お忙しいところをお集まり頂きまして誠にありがとうございます。

会議に先立ちまして、本日の会議は公開ということになっておりますので、その点をまずご了解頂きたいと存じます。

なお、本日は後藤田大臣政務官にもご出席を頂く予定でございます。

ちょうど後藤田大臣政務官にご出席頂きましたので、最初に政務官からご挨拶を頂きたいと存じます。どうかよろしくお願いします。

○ 後藤田大臣政務官

遅くなりましてすみません。このたび大臣政務官を拝命いたしました後藤田でございます。今、経済財政諮問会議が官邸で終わったところで、少々遅れまして、申しわけございません。

私も政務官になりまして、できる限り審議会に出席させて頂きまして、お声を頂戴したいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

○ 岩原部会長

どうもありがとうございました。

それでは、議事に入ります前に、本日よりオブザーバーとして法務省民事局、中原局付がご出席でございますので、ご報告申し上げます。

○ 中原法務省民事局局付

中原でございます。よろしくお願いいたします。

○ 岩原部会長

本日の予定でございますが、大きく分けて2つございます。第一は、前回の会合におきまして、議論の前提としてまず信託法の改正によりどのようなことが可能になるのか、具体的なニーズ等についてヒアリングをした上で、信託業法の見直しについて議論を進めることが必要であるとのご意見をお出し頂いたところでございます。そこで、現状、信託業の主力の担い手である信託銀行を代表して、信託協会の会長行である三菱UFJ信託銀行、改正後の信託業法による免許第1号であり、著作権の信託を専門に取り扱われておられますジャパン・デジタル・コンテンツ信託株式会社、そして、信託を活用したさまざまなビジネスの実務に詳しい株式会社オリエントコーポレーションからご説明を頂き、理解を深めて頂ければと考えております。

第二は、前回の会合で出されましたご意見を踏まえまして、事務局が信託業法の見直しの具体的な論点をまとめましたので、事務局からご説明を頂き、それに基づいて議論をして頂ければと考えております。

それでは、お手元の「議事次第」に従いまして、まずは三菱UFJ信託銀行から「信託業法改正について」ご説明を頂きたいと思います。

入江主任調査役、よろしくお願い申し上げます。

○ 入江三菱UFJ信託銀行主任調査役

三菱UFJ信託銀行の入江でございます。本日は貴重なお時間を頂戴いたしまして、どうもありがとうございます。それでは、早速始めさせて頂きたいと思います。

まず、今回の信託法改正に伴う信託業法改正に伴いまして、実務の観点から大きく2つの意味があると考えておりまして、この2つについてご説明したいと思います。さらに、その2つについて、それぞれ2つ論点を抽出いたしまして、細かい論点といたしましては4点ご説明をさせて頂きます。

まず2つの意味ですが、1つ目は、従来想定されていなかった新しい信託の使い方が可能となる改正がなされるということでございます。2点目は、これまでの実務に照らしまして、過度に規制的になっていた部分があると私どもとしては考えておりまして、これが見直されると、この大きな2つの意味があると考えております。

お手元の資料の表紙をめくって頂きまして、2ページ目にそれぞれについて、信託業法の改正においてはどうあるべきかということで、総論的な意見、要望を簡単に記載させて頂いております。

1点目につきましては、新たな形態の信託についての意見ということでございます。これにつきましては、今後、実現に向けていろいろな問題点がございますので、検討が必要だと思われますけれども、少なくとも我が国において信託が業として行われるということであれば、信託業法の適用を受けるべきであるというのが意見でございます。その理由といたしましては、信託の利用者にとりまして、業として行われているものに信託業法の適用のあるものとないものが分かれているというのは適切なものではないということでございます。

業の範囲につきましては、前回の会合でもご議論があったところかと思いますが、いろいろな考え方があると思いますけれども、基本的に営業の目的で使われるようなものは業に当たるのではないかと考えております。いずれにいたしましても、現時点で信託業法の適用がないアウトサイダーをあえてつくる必要はないのではないか、規制については広い意味でイコール・フッティングが図られることが重要だと考えております。信託業法の目的等については、資料にございますので、ご参照頂ければと思います。

2点目の「信託法改正に合わせた受託者の義務の見直し」につきましては、後半のところでご説明申し上げますけれども、先ほど申しましたように、過度な規制になっている部分があるので、信託法の改正と合わせて、信託業法についても見直しをお願いしたいということでございます。

それでは、個別の論点に移らせて頂きます。

まず、3ページ目からの信託宣言ですが、先に4ページの図をご覧頂きたいと思います。信託宣言導入の代表的なニーズは資金調達目的、いわゆる資産の流動化ということですので、流動化を例に挙げております。信託宣言という制度は、自らこの財産を自分に信託しますという宣言をすることで信託受益権をつくり出せるという制度でございます。ここでは、売掛債権の一部を信託宣言して、その受益権を投資家に販売して資金を調達するというケースを図にしたものでございます。

「業績不振企業」と書いてありますけれども、そのような企業が資金を調達しようとしたときには、借入とか通常の流動化ですと、銀行などの第三者の審査が入るけれども、信託宣言であれば入らないということで誘惑に駆られるのではないかということであえて記載をしております。スキームとしては非常に単純かもしれませんけれども、これにつきましては受益者にとって幾つか懸念があると考えております。

まずは、右下の吹き出しにありますように、二重信託や架空の信託が行われるのではないかということでございます。通常の流動化型の信託の場合は受託者が受託の審査を行うようになりますが、信託宣言では自分に対する審査という形になりますので、甘くなったり、極端な例では行われないことがあるのではないかということでございます。

また、左の囲みの真ん中あたりに「分別管理等の受託者義務の履行確保に問題」とございますが、これは、特に売掛債権を信託宣言した場合に、売掛先や他の債権者に対して信託財産であるということを対抗できないのではないかという議論があると聞いておりますので、通常と異なる問題があるのではないかということで書いております。

信託宣言というのは概ねこういう制度でございまして、使い方によっては間接金融ではなく直接金融という形になるかと思います。

なお、この信託宣言における債権者とか受益者の保護については、信託法改正において何らかの規律を設ける方向というふうにも聞いておりますので、このスキームについては仮置きの部分があるということを付言させて頂きます。

次に、5ページにまいりまして、信託宣言につきましては、海外で一般に使われているので、我が国にも導入すべきというご指摘があるところですけれども、信託協会がこの夏にアメリカで行政当局とか実務家にヒアリングを行いまして、そこで聞いた範囲では、確かに制度としては存在しているけれども、企業が自らの資金調達を目的で使うという例は聞いたことがないということでございました。

その理由を聞きましたところ、会計上のオフバランスの問題がクリアできないのではないかとか、企業からの倒産隔離効果が図られないので投資家に売れないのではないかというような回答がございました。一方、信託宣言はどういう場合に使われているかということですけれども、アメリカにおいては個人が煩雑な相続手続を避けるために、家族を受益者として設定したり、投資信託を立ち上げるときに作成される証書のことを「信託宣言」と言うことがあるということでございました。

恐縮ですが、3ページに戻って頂きたいと思います。信託宣言は、今ご説明申し上げたようなスキームであると思いますが、新しい制度ではございませんで、大正時代から我が国でも議論がなされ、これまでは悪用される懸念が高いので制度としては認められていないという認識がされてきたものでございます。悪用懸念の代表的なものは、資料にありますように、執行免脱ということで、詐害的な行為であるかと思います。

以上から、あえてこのような制度を導入することは信託スキームの信用失墜にもつながりかねないと考えておりまして、制度として導入されることにはそもそも反対でございます。ただ、仮に導入されるということになれば、信託業法の枠組みの中で受託者の資質とか受益者の保護が図られる必要があるのではないかと考えております。

次に、事業の信託について。すみません、その前に今の信託宣言に関してですが、資金調達目的に使われるケースがございますので、例えば1回だけの信託宣言であれば業に該当しないのではないかという考えも当然あり得るかと思いますけれども、複数の投資家から資金を募る目的で設定されるような場合においては、1回であっても信託業法の適用の対象とすることが妥当ではないかと考えます。

それでは、次に6ページに移らせて頂きます。事業の信託ということで、前回の法務省さんのご説明にもございましたが、プラスの財産だけでなく、債務も当初から信託できるようになるということで、事業そのものの信託も可能になるのではないかと言われているものでございます。こちらは、正直な感想といたしましては、本当に事業そのものが信託できるのかどうかというのはよくわからないというか、6ページにありますように、会社法との関係など検討すべき論点が非常に多いのではないかと思っております。結論といたしましては、どのようなスキームであれ信託業法の枠組みの中で行われるのが適当であるということでございます。

7ページに、どのような制度かということを、半分想像を交えて書いております。製薬会社が一事業部門を信託して、その受益権を投資家に販売して資金調達するという、トラッキング・ストックに近いようなスキームかと思います。事業部門がそっくり信託されるということは、工場といった通常の財産のほかに、例えばその部門にいる熟練工といった人材とか、権利化されない営業機密とか、顧客リストといったような一切の財産、それと借入金、買掛金と、従業員にかかる退職金給付債務のようなものも場合によっては含まれるかと思いますが、そういった消極財産が信託財産になることと思われますので、前回のこの合同会合でもご指摘がございましたけれども、従業員との関係などがクリアになるのかどうかという問題があるかと思います。

さらに、これが先ほど説明申し上げました信託宣言と組み合わされた場合には、株主、債権者、受益者との関係がより複雑になりまして、実務的にワークさせようと思うと悩ましい問題があるのかなと思います。例えば、人事異動を行ったところ忠実義務違反になってしまうというようなこともあるのではないかと思っている次第です。

いずれにいたしましても、事業の信託は会社に類似しているということで、通常の信託とは異なるものと理解しておりますけれども、これもその信託受益権を販売すれば資金調達が可能になるということを踏まえますと、既存の信託と同様に信託業法の枠組みの中で説明責任とか、受託者の義務が果たされる必要があるのではないかと考えております。

新しい信託につきましては以上の2点でございまして、このほかにも信託法改正では目的信託とか限定責任信託といった制度が提言されておりますけれども、本日は時間の関係もありますので、このプレゼンでは割愛させて頂いております。いずれにいたしましても、信託業法の適用があるべきということには変わりはございません。

次に、大きな2点目の論点でございますが、受託者責任のあり方ということで、8ページをご覧頂ければと思います。これは信託法が実務に照らして過渡な規制的な部分もあるということで、この見直しを行うことですので、基本的に信託業法についてもこの考えと平仄をとって頂ければと思う次第でございます。特に今回のプレゼンテーションでは、現行の実務上強いニーズがあるものを2点抜き出しております。これは、いずれも現行の信託業法が現行の信託法の規律をベースにしていると思われることから、過度に規制的になっていると考えているものでございます。

まず8ページの自己取引関係ですけれども、詳しい説明は省きますが、これについては大きく3つ要望がございます。自己取引というのはどういうものかというのは資料に記載しておりますので、そちらをご参照頂ければと思いますが、要望の1点目といたしまして、自己取引の禁止の例外規定というものがございまして、これに関して2つ挙げております。

(1)は、例外規定について改正信託法と同様に3つの例外を設けてほしいということでございます。現行の信託業法では基本的に1番のみということになっております。(2)については現行の信託業法に「損害を与えるおそれがない」という条文がございまして、この書きぶりについて明確化をして頂きたいという趣旨でございます。例えば、自己取引をした後にマーケットが変動して結果的に損が出たようなときに、損害を与えるおそれがあったのかどうかという疑問も起こり得るということでございます。

(1)については何を申し上げたいかと言いますと、形式的に自己取引に該当するものは要件を満たさない限り一切行われないという、ある意味、硬直的な規制になっているわけですけれども、この形式要件が狭いと、たとえ受益者や信託財産にとって有益であったとしても、行えないというケースが出てくるということでございまして、逆に要件を満たして行ったからといって、本来払うべき注意を怠っていれば、そこは善管注意義務違反に問われるということかと思いますので、この形式要件については緩めて頂きたいという趣旨でございます。

次に、9ページにお進み頂ければと思います。こちらは要望の2点目でございまして、運用裁量権のない受託者への自己取引規制の適用除外ということでございます。現行の規制では、例えば、委託者あるいは受益者から指図を受けて、指定された証券会社に有価証券の売買を発注するようなケースがあるわけですが、このときに、その証券会社が受託者の関係会社、信託業法では利害関係人に当たるのですけれども、これに該当いたしますと、自己取引に該当するということでございます。

また、今の例とは若干異なりますけれども、自己取引の外延という意味では、市場を通して行った取引の相手方がたまたま利害関係人であったということで、これも自己取引に当たってしまうのではないかという疑問があるところでございます。これらにつきましては、要望の3として利害関係人の範囲が広いということも挙げさせて頂いておりますが、そもそも取引権限のない行為などについては自己取引には該当しないという整理をお願いしたいという趣旨でございます。

10ページは飛ばさせて頂きまして、11ページ、最後の論点でございます。外部委託ということで挙げさせて頂いております。これは実務からいたしますと非常に問題が多いのではないかと考えているところでございます。要望といたしましては、信託業務の委託先に該当いたしますと、委託先に受託者と同様の義務が課されてしまって、状況によっては不必要に重い規制になっているので、一律に課すことを不要にして頂きたいというものでございます。

実務の世界では、一口に委託と言いましても、宅配業者に配送を委託するようなもの、それから、土地信託で建設会社に工事を発注するようなケース、外国有価証券の保管を海外のカストディアンに委託するようなケース等さまざまございまして、信託業法でいうところの委託に該当いたしますと、資料に記載してあるような規制が委託先に直接課せられることとなっているということでございます。

実務上どういったところが問題かと申しますと、委託については委託する理由、内容、委託先の国とか業界の商慣行、あとはその他の法律による規制の有無などもまちまちでございまして、一律の規制ということになりますと、委託契約を結ぶ際に交渉が長引いたり、条件が悪化したり、さらには契約が結べなかったりということがあり得るということでございます。信託目的からしまして、利用が不可欠な委託先、例えば海外のカストディアンの利用などがあるかと思いますが、こういった委託先については、一律の規制ということではなくて、受益者保護に欠けない範囲で状況に応じたものとして頂きたいという趣旨でございます。

委託につきましては、業法上の委託に該当するかしないかという線引きが非常に難しいという問題もございます。現状では委託先に裁量があるかどうかで分けるという考え方が監督指針とかパブリックコメントへの回答で示されておりますけれども、裁量が全くないということはなかなか証明しづらいことございまして、例えば、信託業法上の委託に該当するかどうかというのを弁護士の先生にお伺いしましても、回答はまちまちということが現実に起こっております。この点につきましても、どのような委託が信託業法で規制されるべきものかということを含めて、明確になるようにお願いしたいと思っております。

資料にはございませんが、委託につきましては、委託者、受益者が委託先を指定してくるというケースもございますので、そのような場合について、受託者の責任は軽減されるような規律にして頂きたいというニーズもございます。

早足で大変恐縮でございますが、意見と要望は以上でございます。

12ページ、13ページは省略させて頂きたいと思います。

どうもご静聴ありがとうございました。

○ 岩原部会長

どうもありがとうございました。

それでは、次にジャパン・デジタル・コンテンツ信託株式会社から「エンタテイメント・コンテンツと信託業」についてご説明を頂きたいと思います。

土井委員、よろしくお願いいたします。

○ 土井委員

ジャパン・デジタル・コンテンツ信託の土井でございます。先般も申し上げましたように、私どもの会社は今年の6月13日から信託会社として営業を開始させて頂いております。今日はお話をさせて頂く機会を与えて頂きましてありがとうございます。信託法の改正等とあまり関係のない点もございますが、著作権を中心とした信託業は今どういうふうに動いているか、この辺をお話しするとともに、より使い勝手がよくなるためにはこういった点があるのではないかというようなところをご説明申し上げたいと思っております。

1ページから3ページ目までは私どもの会社の内容でございますので、ここは飛ばさせて頂きますが、ご存じない方もいらっしゃると思いますので、後ほどご覧頂ければと思います。

4ページ目に書いてございますように、現在、我が国は「知的財産推進計画2005」が走っております。コンテンツは日本にとって非常に有益な産業になるであろうということで、ここに業界の近代化とか合理化を支援すると書いてございますけれども、2点目にコンテンツの制作・投資等を促進するということで、国を挙げて知的財産権、それから、ここに出ておりますようにコンテンツ関係、力を入れて頂いておりまして、非常にありがたいことと思っております。

その次のページは、そのコンテンツビジネスの全体の市場規模でございます。現在、日本のコンテンツビジネス市場規模は13兆3,000億円で、これは世界の約10%。アメリカが1位でございまして、50兆を超えておりますが、日本はコンテンツでは世界第2位の大国でございます。加えて申し上げますと、コンテンツ産業の成長率も非常に高い予測がされているのは、左側のグラフで見て頂ければわかると思います。

その次の6ページでございますが、問題点として、日本のコンテンツの市場規模はGDP比で見ますと、まだまだ米国や世界の平均と比べると低い。これは潜在的な成長力があるのではないかというふうにもとれますけれども、若干成長力が落ちているのも事実でございます。

それはどこから来るかと言いますと、その次の7ページでございますが、コンテンツ業界の中心的な部分は制作でございます。制作会社が非常に大事なわけでございますが、残念ながら日本のコンテンツ業界は業界内の大手メディアにほとんど支配されておりまして、制作会社に対して資金がなかなか行きにくいというのは非常に大きな問題点でございます。

こういった問題点を次のページで整理しております。プラス要因もあるんですが、マイナス要因のところでビジネス構造ができていない。これはその裏にございます資金の調達制度が未整備であるというところから来ているのかなと思っておりまして、私どもは7年半ずっとやってまいりましたが、制作会社にどうやって資金をつけていくかということを考えてきたわけでございます。

その次のページが、ではどういう資金調達が必要かということでございます。制作会社の規模等から見ますと、制作費が非常に大きいという関係にございまして、どちらかというと融資とか直接の株式投資にはあまり向かない状況でございます。したがいまして、真ん中にございますように、事業リスクといったものをバックにした形での投資が期待されるところでございます。

ただ、その次のページにございますように、コンテンツビジネスというのは水物だとかいろいろ言われておりまして、投資がなかなか集まらない状況でございますので、特に視点として大事な点を整理いたしました。

10ページの表は、Y軸は仕組みをつくるストラクチャーの固定コストで、X軸は右にいけばいくほど投資家の保護が強いという状況でございますけれども、やはり両方のバランスが非常に大事になるのであろうと思っております。コンテンツビジネスで一番の主力は、左の一番下にございます制作委員会方式とかいったものがございますけれども、これはほとんど投資家の保護がございません。逆に、一番上の方の資産流動化法とか商品ファンド法はコストが非常に高いと。そういう意味では、知的財産権の信託というのはバランスのとれた非常にいい制度になったのではないかという感じを持っております。

そういう中で、私どもは7月1日には松竹さんの映画をやりまして、先週から次の11ページにございます『天使』という映画、これはシネマ信託と称しておりますけれども、著作権信託に対して個人の投資家から資金を調達しようということで、今、スキームを走らせております。もう既に金曜日から募集の開始を始めております。これはセップさんという会社さんの資金調達をこういう形でやりますということで、相当大きな資金がこういう形で調達できるようになる。

その次のページを見て頂くと、これは来年の1月から募集開始でございますが、シネカノンさんという映画の制作、それから映画館をやっている会社さんでございます。こちらは映画の著作権信託を複数本一遍にやろうということで、45億から50億円程度を証券会社を通した形で投資家を集めるということをやろうと思っております。先ほどの『天使』という映画についても証券会社を通して形を考えております。これは何でかといいますと、私どもも審査をいたしますけれども、複数の目で見ていくことによって、より投資家の保護が図られるのではないかというふうに考えております。

こういう形でいい方向に進んでいるんですが、その次のページは私からの要望でございまして、まだまだ使いづらい点がございます。今見て頂いたシネカノンとか『天使』というのは、でき上がった著作権を信託しているわけでございます。要するに完成リスクは一般の投資家には負わせない形でございますが、実際に資金が必要なのは制作段階でございます。

ではどうするか。一般の投資家には完成リスクを負わせずにやるとしたら、二段階の方式が考えられます。これは銀行さんからの融資でつくって、その後に信託に入れて頂くという方法もございますが、そのほかのスペシャルパーパス・ビークル(SPV)といったものを使った形も考えられます。これについては、残念ながら、信託会社が全体としてはガバナンスを持っていながら、このSPVの方は商品ファンド法がかかってくると。これはストラクチャーが非常に柔軟にはできない形になりますので、この辺の規制緩和をぜひ必要なのではないかと思っております。それから、当然ながら完成保証制度ですね、完成リスクを軽減するという形で、これは保険業法にかかわってくると思いますが、こちらも日本での導入は喫緊の課題であろうと考えております。

2.にその他の課題と書いてございますけれども、これは信託法そのものは関係ございませんが、著作権、著作権への信託の登録制度が整備されておりません。効率化がなされていないという状況でございますので、この点はぜひ改革をして頂きたい。

それから、これは著作権法上の問題でございますが、ライセンシーの登録制度の整備も必要になるだろうと考えております。

そういったことを考えますと、著作権に関しましては、できれば制作から完成までの一つの事業と考えれば、そのプロジェクトそのものを信託して頂く。これは我々としては非常にやりやすい方式になるのかなと思っております。我々としては、信託宣言の方は業者としてはやる意味はあまりないのかなと思っておりますが、事業の信託の方は知的財産権としては結構活用ができるのではないかと考えております。

以下は、私どもJDC信託の評価システム、それから、15ページはディスクロージャーのガイドライン、こういったところを書いてございますが、最後の16ページは私どもが今までやってきた内容及び今後の将来像でございます。2003年以前はファンドによる投資をやっておりましたが、2003年から2004年にかけてはSPCを使った形で、倒産隔離をさせた形での投資をやってまいりまして、2005年にようやく信託受益権化を実現できたわけでございます。

コンテンツビジネスの資金需要というのは非常に大きゅうございます。これを何とか賄っていくためには、大きな公募の証券化のマーケットをつくっていく必要が絶対あるだろうと考えております。そのためにはぜひ信託受益権の有価証券化は進めて頂きたいと思っておりますし、民間レベルの流通市場の整備も合わせて必要なのかなと考えております。

非常に雑駁で駆け足でご説明申し上げましたが、コンテンツ、知的財産権の信託としては以上の説明でございます。ありがとうございました。

○ 岩原部会長

どうもありがとうございました。

それでは、次に株式会社オリエントコーポレーションから、「信託法改正後の信託の活用例と業法の課題」についてご説明頂きたいと思います。本日は吉元利行法務部長にお越し頂いております。吉元部長は法制審議会信託法部会の委員をされておられます。

よろしくお願い申し上げます。

○ 吉元オリエントコーポレーション法務部長

ただいまご紹介頂きましたオリエントコーポレーション法務部の吉元と申します。本日は、信託法が改正された後にはどのようなビジネスが可能になるのか、どのようなニーズがあるのかということで、今ご紹介頂きましたようなことでまいりました。

当社では10年以上前からクレジット債権の流動化に取り組んでおりまして、日本有数の実績を残しております。クレジット債権の流動化におきましては、信託を利用したスキームがよく利用されておりまして、そのスキームづくりには法務の面から関与してきたということがございます。

私自身は信託実務の経験はありませんけれども、クレジット会社の法務を20年ほど担当しております。したがいまして、流動化をやるについて、必要な法律であります倒産法とか資産流動化法などに加えまして、信託法、信託業法についても若干関与したということで、先ほどご紹介頂きましたように、法務省の法制審議会の委員もさせて頂いておりまして、本日も意見を述べさせて頂くということになったのではないかなと思っております。

本日は、このレジュメにも書いておりますけれども、債権流動化における信託のユーザーの視点、それから、事業として信託をとらえた場合にどのような活用が考えられるのかというのを、個人の立場でお話をしていきたいと思っております。

それでは、早速、内容に入らせて頂きたいと思います。私の資料は字ばかりで恐縮ですけれども、二部に分かれておりまして、資料13-3-1が基本的なレジュメで、この流れに沿ってお話をしていきたいと思います。資料13-3-2は参考資料でございまして、レジュメの該当箇所に「参考資料をご参照ください」と書いておりますので、その際にご覧頂ければと思います。なお、今日は時間が限られておりますので、主なもののご紹介ということにさせて頂きたいと思います。

それでは、レジュメに従いましてお話をさせて頂きたいと思います。今回の改正内容について、今日は2番に書いております5つの項目についてお話をしたいと思います。

まず第1は、3に書いてございます信託宣言の活用についてということで、流動化での活用例と流動化以外での活用例についてお話をしたいと思います。この信託宣言につきましては、クレジット債権の流動化の観点から、また、クレジットビジネスの観点から大変注目しております。

参考資料の1の1ページをご覧頂きたいと思いますが、最近の流動化におきましては、債権の現在の保有者、クレジット会社ですけれども、これから債権が信託銀行に信託されて、その際に給付される信託受益権を売却することによって資金化する信託方式というものがあります。

それから、多額の信託受益権を資金化するにはそのままではなかなか難しいということで、いわゆるABS方式というSPC等を使ってこの信託受益権を買い取らせるという方式があります。この場合に、SPCが発行した社債等の購入者である投資家には、クレジット債権の回収を通じて元利金を償還していく必要がございますけれども、SPCがオリジネーター(発行者)でありますクレジット会社等の倒産などを理由に償還できない事態が発生すると、投資家は安心して買ってくれることはありません。したがいまして、参考資料の下の方のマル1からマル3に書いておりますような3つの方法で倒産隔離を図っております。

マル1が、タックスヘイブンのケイマン諸島などにおいて組成されている会社を利用して、信託宣言によってケイマン赤十字社等の慈善団体に議決権を保有させるなどしまして、資金調達会社の倒産等の影響を受けない会社を親会社としてSPCをつくる方法です。

それから、マル2に書いておりますけれども、中間法人をつくりまして、資金調達会社はファンドを出すわけですが、議決権はない、議決権は業務執行社員として公認会計士など独立した第三者にお願いする、ことで資金調達会社とは隔離された形で中間法人を運営する中で、その子会社としてSPCや特定目的会社をつくるというような工夫もやっております。

3番目に、SPC法に基づいて特定持ち分信託という方法が認められていまですが、これについては引き受け手があまりいないということとか、信託法58条に基づく解除命令の問題等があるのではないかということで、ほとんど利用されていないという状況があります。したがいまして、信託宣言によって、マル1のような方法が国内でもできないかということを考えております。

次に、最も利用が考えられるのが、参考資料の次のページに書いておりますけれども、クレジット債権を信託宣言を利用して債権の流動化を直接行うという方法でございます。銀行でも、現状では他の銀行等から譲り受けた債権とか自分の債権を流動化するためには、一たん信託銀行に信託するという手続きをとらないといけないわけですけれども、信託宣言を利用することによってこういった手間が省ける、コストが削減できるという大きなメリットがあるのではないかと思います。クレジット会社でも、同様に信託宣言を活用することによって、先ほど説明しましたようなSPCの組成を省略する、したがって、管理コスト等も削減でき、しかも早く流動化が可能になるのではないかということを考えております。

なお、現在、当社をはじめクレジット会社では信託銀行を利用して流動化をやっているわけですけれども、その際、先ほどお話がありましたが、信託銀行の事務の代行をやっているわけです。実際に信託された債権の管理業務、回収資金の管理等の業務を我々の固有財産とコミングルしないような形で管理をしているという実績がございます。したがいまして、信託宣言でやったとしても、このあたりはきちんとできますので、受益者の保護上問題ないのではないかと思っております。

次に、流動化以外の信託宣言の活用例をご紹介したいと思います。当社は、自社及び子会社である日本債権回収という会社で集金代行業務を営んでおります。最近では電気代とかガス代、新聞代なども当社がクレジットカード決済、口座振替、コンビニ収納といったもので集金をして回収しておりますけれども、集金した代金をガス会社等に一定期間までに引き渡す間、管理をしておく必要があるわけです。その間に不幸にして倒産してしまった場合、預かっているお金がどうなるのか。消費者は既に払っているが、電力会社には収納されていないというような事態が起きたらどうなるのかという問題があります。

これについては、裁判でもどちらの預金なのかということにつきましては、信託類似の考え方が用いられた場合と、従来からのお金を出した方の預金だという古典的な考え方のもと保護されないということもありまして、非常に不安定な状況でございます。したがいまして、この回収金を信託宣言することによって、電力会社等を受益者として資金を受託者の財産から分離する、あるいは、倒産から隔離するということで使えるのではないかと思っております。

それから、4番目に書いておりますけれども、クレジット分野では、塾や英会話学校などのように長期間の役務提供をする業者に対して、前納金の一括立替払というものも実施しております。しかしながら、ときどきこれらの役務提供事業者が倒産してしまう。したがって、消費者は残りのサービスを受けられない、中途解約金も戻ってこないというようなトラブルが発生することがあります。

特定商取引法では、利用者に前払い金の保全措置の有無とその内容を開示して、書面等を渡して知らせるということになっているのですけれども、これを引き受ける適切な機関がありません。したがいまして、クレジット会社が利用者の委託を受けて、もしくは、信託宣言によって、役務提供に応じて資金を払うというようなエスクロー的な利用も考えられるのではないかと思っております。

このように、信託宣言の活用が考えられるわけですけれども、受託者がクレジット会社ということになると、現状の信託法の規制を考えますと、信託会社の免許とか登録といったものが必要になって、また兼業規制とか会社の商号も信託というのを入れないといけないというような問題があります。それから、信託業務の経験者を多数新しく採用しなければいけない、そういった問題もあります。

先ほども言いましたように、クレジット会社は既に流動化実務において代行者として行っている実績はあるのに、人材を外部から調達する必要があったり、当社をはじめクレジット会社は商社並みにいろいろな営業をやっているがために、兼業規制があると全く信託に取り組めないということになってしまわないかというような問題点がございます。

続きまして、4の責任限定信託と事業信託について簡単にお話をしたいと思います。私どもクレジット会社はクレジットを取り扱う加盟店を全国で60万店を組織しておりますけれども、加盟店の大多数は中小事業者です。当社の営業マンは各販売店の販売促進の一つの方法として、クレジットの活用というのを各加盟店に勧めて、販売店と消費者双方にとって利用しやすく、安心・便利なクレジットシステムを提案しているわけですけれども、その中でよく話題に上がるのが大手事業者への対抗策と後継者問題があります。

そこでいろいろ考えたのですけれども、3ページ目の参考資料2として4つの例を掲げております。今日は時間がございませんので、このうち(1)のポツの2つ目、整備工場部門を持つというところを説明したいと思います。整備工場部門を持つ中古車販売事業者、(中小事業者と考えて頂いたらいいと思いますが、)そこの社長が引退時期に差しかかったけれども、後継者が若くてまだ跡が継げないという状況だとします。将来的には息子に跡継ぎをして頂きたいんですけれども、それが無理だと、このままでは廃業しないといけなくなってしまうかもしれないということになると非常に困るわけですね。

そこで信頼している同業者に頼んで、息子が整備士の免許をとって経験を積んで、経営能力を身につけるまで信託をする。本人は信託の収益で生活する、息子の方はそのまま同業者である受託者のもとで働いて、将来、整備士免許をとって、それから部門長的な立場で整備部門とか販売部門などを経験させた後に、信託終了後に再び親の事業を継承するというような使い方はできないだろうかと、そういうことを考えております。こういった方法だけではなくて、実質的には営業譲渡としても使えるのではないかとも考えております。

したがいまして、それ以外の方法もいろいろ考えてきたのですけれども、(1)の最初の部分は、責任限定信託を組み合わせまして、大規模事業者に匹敵するような総合的チエーンが営めないかということ。(2)では、例えばカード会社では相互に業務提携をいろいろやっていますけれども、通常の事業提携契約ではなくて、事業信託を利用することによって相互のコミットメントがより強い形でできるのではなかろうかと、そういったことも考えました。

それから、ベンチャー事業的な新規事業を、責任限定信託と信託宣言を使って、当該会社の事業リスクとは遮断しながら、運営していくということも考えられるのではないかなと。これは大企業であっても、中小企業でもあっても使えるのではないかと思います。

ところで、この事業信託を行う上で、信託の引受けを営業として行うということであれば、現行の信託業法の適用がある可能性があります。そうなると非常に問題があるのではないかということを一言指摘させて頂きたいと思います。と申しますのは、事業信託をやっても、受託者として元の事業を営むわけですが、そうしたときに突然、信託業の許可免許が必要になって兼業ができないということとか、信託の知識を持った人たちとか、組織をつくらないといけないということでは、実質上使えないではないかということがありますので、このあたり、後でも申し上げますけれども、実態にあった規制とすべきではないかと思います。

続きまして、5の目的信託の活用に移りたいと思います。目的信託というのは受益者のいない信託でございまして、信託法では、受託者の監視機能を持つ受益者がいないということは、だれもが処分できない財産をつくり出すことになって、財産の流通を阻害することになるので、問題が多いということで認められておりません。しかし、最近では高齢化社会の進展とか債権流動化の観点から目的信託が使えるのではないかということで、今回の信託法の改正で一定の条件のもとで認められる方向性にあります。

参考資料3に書いておりますけれども、債権流動化をさらに安定的に実施する立場に立ちますと、目的信託を利用して受益者の信託に与える影響を排除することによって、さらに安定的なSPCの組成が可能になるのではないかと思います。現行のスキームでは中間法人を使っていると申し上げましたけれども、中間法人は、現在、政府の検討によりますと、公益法人制度見直しの中で廃止される可能性が非常に高いということです。

もともとこの中間法人法というのは、同窓会組織とかサークルの法人化のニーズにこたえたものであって、流動化を目的につくられた制度ではないわけです。また、社員が1人になれば解散事由に該当するということなど、流動化にとっても必ずしも万全なものではありません。したがって、中間法人制度に加えて、目的信託を流動化に使えるようになりますと、多様な流動化スキームの一つの機能として活用できるのではないか、そういったことが期待されていると言えます。

債権流動化以外では、目的信託は、(2)に書いておりますけれども、公益信託類似の利用、すなわち公益信託として主務官庁の認可が得られるほどの公益性がないもの、もしくは、公益性はある程度あるけれども、公益信託では許されない財産の信託や給付内容となるような信託、こういったものに利用されるのではないかと思います。

活用例として2つ挙げておりますけれども、これらは財団法人などの公益法人を使ってもできます。しかしながら、財団法人の運営コストは高いと言われておりますし、より低いコストで目的が達せられるのではないか。それから、認可制度でございますので、認可に時間がかかってしまう。早急にやりたいというニーズもあると思います。したがいまして、目的信託が認められるようになると、実務のニーズはかなりあるのではないかなと思います。

それから、6番目の信託受益権の有価証券化についてお話をします。現在、信託受益権の一部であります、例えば不動産投資信託の受益権は既に証券取引法上の有価証券でございます。今回の改正では一般の信託も含めて私法上の有価証券とすることができるというふうになる予定でございまして、債権の流動化に関与する立場からは資金調達の手段の多様化が図られるという点で大賛成でございます。これによって、各流動化スキームの比較検討とか、アレンジャーの提案競争などを通じて、調達する会社としてはさらなるコスト削減、低コストでの資金調達が可能になるのではないと期待しております。

ただ、現在の信託業法でも信託受益権の取扱いに関しまして、信託受益権販売業の登録制度が設けられておりまして、オリジネーターであっても、SPCに譲渡するところまでは大丈夫なんですけれども、一般投資家に接触できない、売れない、勧誘できないというような問題点があります。同様に、もし有価証券化された場合に、一律に証券取引法対象の有価証券となってしまいますと、証券業の登録が必要になるなど、今まで流動化では柔軟に扱われてきたものが扱われないということで、債権流動化の障害になりかねない問題があると思いますので、この問題についてもご配慮頂きたいと思います。

最後になりましたけれども、レジュメの7に受託者の責任に関して記載させて頂いております。従来は受託者における厳格な責任と義務こそが信託制度の安定には欠かせないということで、その責任及び義務は強行規定とされておりました。しかし、今回、信託法の見直しの論議の中で、信託も制定当初に想定されたものから、再三、私が申し上げております流動化のビークルとしての信託まで、さまざまなものが出てきております。今後も、法律が改正されますと、受託者として各種の専門能力を持った方々がどんどん出てきて、ニーズにあった信託商品を提供していく形になるのだろうと思います。そういうことを考えて信託法では受託者責任の任意規定化が図られていると思います。

しかしながら、信託業法では、受益者保護、投資家保護という観点から、受託者の責任について強行規定を維持すると、せっかくの法制審議会での議論が生かされないのではないかなというような危惧を持っております。特に信託宣言における流動化とか事業信託、先ほども申しましたけれども、これらの新しい類型の信託については、金融機関の行う信託とは区別された監督のあり方を検討する中で、柔軟な規定の仕方を検討する必要があるのではないかと思っております。

また、信託法の改正によって信託財産の種類が増加し信託の使われ方が変化します。そういうことで信託法では受託者自身の遂行義務、信託事務の遂行義務を見直して、代行者の利用がより柔軟にできるように変わる予定でございます。しかし、現在の信託業法では、代行者がいる場合、その代行者に対して受託者と同様の責任を課すとともに、受託者に対し代行者の業務に関する重い責任を課しております。これでは代行業務の引受をする者がしり込みをしてしまうのではないか、もしくは、代行者の責任が重いということで、それが報酬に反映してしまって、かえって受益者にマイナスの要素が出てくるのではないかと思われます。これは信託銀行さんと同じ立場だと思いますけれども、信託法改正の趣旨を生かして柔軟に対応できるように見直しをして頂きたいと思います。

最後になりましたが、新しいタイプの受託会社が今後出現し、さまざまな信託を活用したサービスが提供されたり、事業信託を利用した事業展開がなされるのではないかと思われます。そうした時代に信託業法について、銀行を兼営する時代の受託者の責任等に関する規定や、監督規定、こういったものをそのままパラレルに新しい受託会社に適用するのではなくて、新たに生まれる「柔軟な信託」が信託法改正の今回の基本的なポリシーだと思うんですけれども、「柔軟な信託」に適合する別の枠組みづくりが必要ではないかということを申し上げまして、私の報告とさせて頂きたいと思います。

どうもありがとうございました。

○ 岩原部会長

どうもありがとうございました。

それでは、次に、信託業法の見直しについて主な論点と、さらにご議論頂きたい事項について、保井信託法令準備室長よりご説明を頂きたいと思います。

○ 保井信託法令準備室長

それでは、お手元にございます「主な論点とさらに御議論いただきたい事項」(案)に沿って、事務局からご説明をさせて頂きます。

1枚おめくり頂きまして、1ページ目でございます。点線で囲ってあるものは、前回第1回の審議でお出しいたしました主な論点をそのまま記載させて頂いておりまして、下にございますのが「更に御議論いただきたい事項」でございます。これから各項目についてこの構成でご説明をさせて頂きたいと思います。これは、第1回のご審議のときに主な論点について、具体的な論点について議論したいという委員の先生方のご要望にこたえたものでございます。

1ページ目の(1)といたしまして、今回の信託法の改正、信託業法の改正につきまして、新たなビジネスチャンスを認め、過剰な規制とならないようにというご意見があった一方で、受益者等の顧客の保護に十分配慮するべきという意見がございまして、これらの意見を踏まえまして、具体的な制度設計をどうするかという論点でございます。

特に(2)でございますけれども、先ほどご紹介のございました新しい形態の信託につきまして、どこまで信託業法でカバーすべきか、信託業の概念整理についての論点でございます。

1枚おめくり頂きまして、2ページが信託設定時における消極財産(債務)の引受け、いわゆる債務の引受けの信託でございます。

恐縮でございますが、また1枚おめくり頂きまして、3ページでございます。こちらに、今回、事業信託あるいはネットマイナスの信託についてご議論頂きたい事項がございます。いわゆる事業信託につきましては、マル1といたしまして、企業の特定事業の事業再生などの新たなニーズがあるということでございます。また、マル2といたしましては、事業の信託については株主と株式会社との関係に類似しているというふうにも言えることから、受益者の保護の観点から、事業運営上の重要事項の意思決定については、受益者の意見を十分に反映させる仕組みを求めるべきではないかとの意見もあるところでございます。

下はポンチ絵でございまして、右側が会社におけるガバナンスの仕組み、左側が事業信託におけるガバナンスの仕組みでございます。例えば、事業信託と株式会社のガバナンスの仕組みの違いについてどう考えるかという論点でございます。

1枚おめくり頂きまして、4ページ、さらに事業信託についての特段の論点でございます。いわゆるネットマイナス信託、特にネットベースで債務が超過している信託の引受けの場合でございます。典型といたしましては、例えば信託財産に比べて借入金の比率が高く、レバレッジがきいた信託受益権を金融商品として売る場合でございます。こうした場合、受益者が出資した元本以上の額の損失を被る可能性があるとされておりまして、いわばリスクの高い商品となるということでございますので、受益者保護のために特段の措置を講じることについてどう考えるかという論点でございます。

例えばということで、(a)、(b)とございまして、信託受益権販売業者に説明義務を課す。あるいは、(b)といたしまして、販売勧誘について一定の制限、不招請勧誘などを課すということが考えられるかどうかという論点でございます。

おめくり頂きまして、5ページは信託宣言についての論点でございます。

恐縮でございます。また1枚おめくり頂きまして、6ページに信託宣言についてさらにご議論頂きたい事項ということで書かせて頂いております。マル1でございますけれども、信託宣言につきましては、今ご紹介ございましたように、社内ベンチャーの推進とか、あるいは、比較的小規模な信託商品の組成が容易になる。あるいは、信託の受託フィーが節約できる、こういう新しいニーズがあるわけでございますけれども、今、入江さんからご紹介ございましたように、そもそも事業目的で用いられている海外事例が乏しいということでございますし、かつ、信託財産の二重譲渡が容易に行われるという懸念があるところでございますので、受益者を保護するための特段のルールは必要ではないかという論点でございます。

具体的に申せば、(a)といたしまして、信託受益権販売業者に対して信託宣言の内容について一定の説明義務を課す、あるいは(b)といたしまして、信託の設定が真正になされることのチェックを求めることなどとしてはどうかという論点でございます。

それから、このポンチ絵の下の※でございますけれども、信託宣言でございましても、受託者は分別管理義務を負っておりまして、改正信託法上も受託者が破産した場合でも信託財産は破産財団に属さず、信託財産が不当に処分されようとしたときは、受益者は取戻権を行使することができるという規定が置かれる予定でございます。

他方、これは分別管理義務との関係でございますが、倒産隔離機能が担保されるかという懸念の声もあるところでございまして、特段のところを申し上げますと、信託法改正で信託財産の公示に関するところ、特に動産・有価証券に関する懸念があるということでございまして、信託宣言の場合についての倒産隔離機能の確保については、金銭についても懸念があるという声が上がっているところでございます。

続きまして7ページでございます。さらに論点を深めまして、マル2でございます。前回のご議論の中で業概念の整理をしてはどうかというご提案がございまして、こちらに整理をさせて頂いております。信託業の業とは、反復継続して収支相償うように行うことを言うということでございますけれども、信託宣言の場合、どういった場合を信託業と考えるべきかという論点がございます。

後ろの26、27ページに業概念の整理がございますので、後でご覧頂ければと思いますけれども、ここでは具体的に3類型、(a)、(b)、(c)についてそれぞれ検討をしております。(a)につきましては、企業における一事業部門を信託宣言により信託設定する場合。その発展形といたしまして、さらにその受益権を多数の投資家に販売する場合。それから、ちょっと毛色が違いますが、(c)につきましては、弁護士等が顧客からの預り金について、信託宣言により信託設定する場合。こういった3つの類型があろうかと存じます。

考え方の整理といたしまして、少なくとも信託の引受け行為が1回しか予定されていないと考える場合、あるいは、信託引受けの費用等を受け取らない場合につきましては、信託業と考えられないのではないかとも考えるわけでございますが、いかがでございましょうかという論点でございます。

8ページ、マル3の論点でございますけれども、自己の債権を流動化目的で信託宣言する場合でございます。先ほど吉元委員からご紹介がございました信託業法の兼業規制の論点でございます。現行信託業法では信託会社が兼業を行う場合兼業規制がかかっております。

下のポンチ絵をご覧頂ければと思いますけれども、他業につきましては信託業務を影響を及ぼさないこと、信託業務に関連するもの、それから、信託業務に付随するものに限って、承認制というふうになっておりまして、他の金融法令(銀行、保険会社等)のバランスということもございますけれども、この考え方といたしましては、中ほどの段落にございますように、他業からのリスク遮断、信託業務の信頼の確保の観点から講じられている措置でございまして、信託業におきましても、事業等の信託を行うについても同様にこうした兼業規制を課してもよいのではないかと考えられるわけでございますが、いかがかという論点でございます。

それから、9ページでございますが、目的信託でございます。目的信託につきましては、例えば大学研究の寄附につきまして、新たなニーズがあるとされておりますけれども、目的信託の特徴といたしまして、受託者を監視する受益者がいないということがございますので、委託者の監督権限を強めるような措置は必要ないかどうかという論点がございます。

1枚おめくり頂きまして10ページでございます。限定責任信託でございます。限定責任信託につきましては、例えば法制審の信託改正要綱試案に対するパブリックコメント等で、民間ビジネスの世界で出資者や所有者の有限責任性を確保した投資ニーズ等が高まっているというご指摘があったところでございますし、新たなニーズが出てきているというふうに考えることができますが、他方、限定責任信託につきましては、受益者の財産分配規制が課される等の説明義務を課すなどの措置を講じることが必要かどうかということをご検討頂ければと思っております。

それから、11ページ目、3といたしまして、受託者等の業務についてでございます。1番目が善管注意義務についてでございます。改正信託法におきましては、信託会社と顧客との間で信託会社の善管注意義務を契約によって軽減を認める。例えば信託契約上信託会社が信託事務の遂行に当たり、軽過失があっても免責するなどが認められるということを聞いておりますけれども、信託業法としてどう考えるかということでございます。

特に信託業の場合、例えば四宮和夫先生の信託法などの本によりましても、受託者が職業人である場合には職業的に分化した、すなわち経営陣より高度の注意能力を前提としたと解すべきであると記されておりまして、平均値よりも一段高い注意義務が信託会社に課されると考えますと、特に顧客との間の交渉力・情報量の格差等に鑑みまして、信託会社には善管注意義務を一律に求めるべきではないかという論点もございますが、これについていかがとするかということでございます。

12ページは分別管理義務でございまして、改正信託法におきましては、動産・有価証券等につきまして、委託者・受託者間の定めによって物理的な分別のかわりに、帳簿上の記載のみによる管理を認めるということも考えられているということでございますけれども、仮に財産が滅失した場合に固有財産、信託財産ともに損失を按分することになると聞いております。この財産の物理的な滅失、混同のリスクにもかかわらず、信託業といたしまして帳簿上の記載のみの管理を行わせることについてどう考えるかという論点でございます。特に信託宣言におけるリスクについては、先ほど信託宣言のところでご説明をしたところでございます。

13ページ目の(3)、忠実義務でございます。忠実義務につきましては、現行の信託業法上では信託目的等に照らして不必要な取引、あるいは、通常の条件と異なる条件で信託財産に損害を与える条件での取引につきましては、顧客保護の観点から一律禁止しておりまして、これについては現行の仕組みを維持することが適当と考えられるがどうかという論点でございます。

さらに、マル2といたしまして、忠実義務のうち利益相反行為の禁止についてでございます。現在は信託契約等に定めがあり、かつ、信託財産に損害を与えるおそれがないものについては免除が認められておりますけれども、先ほど入江委員からご指摘ございましたように、この要件の認定は難しいという実務の声も聞いておりますので、これをより明確化するなどの工夫が必要というふうに考えられるわけでございますが、これについてどう考えるかという論点でございます。

14ページ以降は信託業務の委託についてでございます。恐縮でございますが、もう1枚おめくり頂きまして、15ページをお開き頂ければと思います。ここにさらにご議論頂きたい事項といたしまして2つございます。

マル1といたしまして、現行信託業法では、委託先についても受託者と同様に善管注意義務や忠実義務を課しておりますけれども、一言で言えばフィデューシャリーパワーのシェアと申しましょうか、信託会社への信頼に基づいて財産を顧客は信託しておりますので、顧客には原則実績払いをする信託の本質に根ざした義務というふうに解しております。他方、委託先の義務につきましては、損害賠償ルールによって最終的に受益者保護が担保されているから、それで十分だというご指摘もございます。さらに、受託者と同様の義務が課されることによって、委託のコストがかさむという指摘もあるところでございます。

この委託コストがかさむというご指摘につきましては、※にございますように、例えば委託先が忠実義務を負うとすると、裁量性の少ない業務については、受託者はあらかじめ利害関係者の利益相反行為がないかどうかチェックをしなければいけないということ、さらに違反については罰則が課されるということもございますので、チェックのための費用も含めて委託コストがかさむという指摘があるところでございます。

マル2でございますが、マル1の観点、それから、実務上の要請をあわせて考えましたときに、委託については性質に応じて以下の3類型で考えていくことが可能かということで、 i 、 ii 、 iii と挙げさせて頂いております。

i は、信託財産の運用・保管を委託されている場合など、委託先が受託者と同様の役割を担っていると考えられる場合でございまして、これについては委託先に信託会社と同様の義務を課すべきと考えられるかどうかということでございます。

ii は、 i と iii の中間でございまして、財産の運用・保管には該当いたしませんが、例えば、土地信託におけるテナント募集・賃料収受、それから、金銭債権信託における回収業務とった、定型ではありますが、管理行為と見なされるものについてどういう取扱いとすべきか。

iii については、運搬・清掃等、付随的・定型的な業務を委託された第三者については、受託者と同様の義務を課すことまでは必要がないとも考えられるわけでございますが、これについてはいかがでございましょうかという論点でございます。

1枚おめくり頂きまして、16ページ、マル3でございますけれども、現行信託業法では、委託についてあらかじめ信託契約上明記することを求めておりますが、先ほどの iii のような簡易な業務委託まであらかじめ契約を明記することを求めるのか、あるいは、委託される業務の内容に応じて検討していくのかということの論点でございます。

それから、マル4といたしまして、信託法については善管注意義務の任意規定化というご方針でございますので、信託会社の委託先に対する監督責任を信託契約等によって軽減することを認めるということを検討されていると聞いております。

他方、信託業法につきましては、現在の法制では委託先の選任に相当注意をし、かつ、委託先が行う業務による損害発生の防止に努めたときを除いて、委託先が受益者に与えた損害を賠償する責任を信託会社に課しておりますけれども、この損害賠償ルールは信託財産に損害が発生した場合の受益者保護を最終的に担保する仕組みでございまして、基本的にはこれらの損害賠償責任あるいは監督選任責任については、軽減を認めるべきではないと考えられるがどうかという論点でございます。

先ほどご紹介のございました「ただし書き」のところでございますけれども、委託者が委託先を連れてくる場合について、例えば、委託者・受益者が委託先を選任した場合は軽減を認めてよいという指摘についてはどう考えるかという論点があるわけでございます。

それから、17ページにまいりまして、4のその他の論点といたしまして、受益者多数にわたる場合の意思決定の仕組みについてでございます。信託法では、今回、任意規定化ということで、受益者の意思決定について信託契約で定めれば、例えば受益者のうち一人、あるいは、受益者に委ねることも可能とすることが検討されているわけでございますけれども、現在の信託業法は、信託契約の内容の変更については受益者全員の同意を得ることが前提となっておりまして、これについてどう考えるかという論点でございます。

18ページ以降は、具体的な材料といたしまして、今回の論点に関して信託法の改正骨子案に寄せられたパブリックコメントから、適宜クォートをさせて頂いております。

最後の26、27ページの2ページは、「業」概念にかかる法令上の用例、主な学説ということで、26ページの最初でございますけれども、「信託業」とは信託の引受けを行う営業をいうということで、「営業」とは何かという考え方になるわけでございますが、商法上の考え方でまいりますと、「営利の目的」をもって、「反復継続して行う」とされているところでございます。これについての法令上の用例の整備ということでございます。

以上でございます。

○ 岩原部会長

どうもありがとうございました。

ただいまのご説明内容についてご質問、ご意見を頂ければと存じます。どうぞ皆様ご自由にご発言頂ければと思います。

関委員、どうぞ。

○ 関委員

事業信託についてです。今回の信託法の改正が事業信託によって事業の切り出しのようなものができると、柔軟な使い方ができるということが一つの目玉になっていると思うんですが、先ほどオリエントコーポレーションの方からお話があったんですけれども、消極財産の引受けについて、あるいは、信託宣言についての論点のところですが、投資家というか受益者の意見を十分に聞くとか、信託受益権販売業者に事業計画の説明を課すとか、あるいは、販売勧誘について一定の制限を課すというのは、当然のことだと考えるわけです。いわゆる投資家保護の観点から当然のことと考えるわけです。

そこで質問になるわけですが、事業会社が信託を受託するあるいは委託するというようなことが、今の信託業法の兼業規制とか免許制という一つの制約になっているわけですが、これは何らかの手当てがされるということを前提に物事を考えていっていいんですかという質問であります。

つまり、金融機関なら必要とされる信託業法の兼業規制等のところが解除される、解禁されるということでないと、事業信託の入口が閉ざされるということになるのではないかという指摘がオリコの参考資料2の3ページにあるわけですけれども、ここのところは議論の前提としてどういうふうに考えておけばいいのかという質問です。投資家保護の観点からいろいろな制約が加わるというのはごく当然のことだと思いますけれども、入口のところをどういうふうに認識しておけばいいかということであります。

○ 岩原部会長

保井さん、あるいは大森さん。

○ 大森信用制度参事官

関委員のはオリコへの質問ということですか。私どもですね。

まさにそれをここで議論して頂きたいということなのでございます。

○ 関委員

そういうことであれば、「おまえ一体どれだけの事業信託のニーズがあるんだ、言ってみろ」と言われると正直言って困るわけですけれども、会社法上の事業分割と、先ほど三菱信託の方から提案があったように本当に使えるスキームになるためには、事業分割を会社法に基づいてやることと比べて、信託という手法がどういうメリットがあるのか、あるいは、デメリットがあるのかという意味合いのようなものをもう少しきちっと整理しないと判断がつかないと思っておりまして、そのことをぜひやって頂きたいんですが、事業信託という手法を、海外には事例がほとんどないということですけれども、産業の活性化なり事業の活性化に生かしていく、つまり使いやすいようにするためにはどういう条件が要るのかということを構築していくということでぜひ議論して頂きたいと思います。

そういう意味で、免許制とか兼業規制が制約になっているのであればぜひ工夫をして頂きたい。三菱信託の方がおっしゃったように、初めから信託業として整理していって、信託業法を何がなんでも全部適用するんだということなのかどうか。つまり、投資家保護という観点は非常に重要なわけですが、事業信託を認めた場合、信託業法の今の枠組みできちっと規制していくということになるのかどうか。そこはぜひ弾力的に考えて頂きたいというのが私の意見であります。

○ 岩原部会長

木村委員、その後、川本委員。

では、木村委員、お願いします。

○ 木村委員

今のところにもかかわり、前にも発言させて頂いたんですが、今日も法務省の方が同席されているということなので、若干、確認も含めて伺いしたいところがございます。

今の事業分割、営業譲渡、私どもも会社法の世界で非常になじみがあるんですけれども、これらの手法と比べ、事業の信託はどういったメリットがあるのかというのはよくわからない中で判断がつきにくいなと思っております。これが導入されたとしてどの程度利用されるのかというのは、現時点でどういうふうに想定されているのかお伺いしたいのと、例えば事業の信託において、私どもの関心は例えばそこに働く労働者の地位は一体どうなってしまうのかなということであります。仮に信託会社みたいなところに地位が移転するということになりますと、営業譲渡とか企業分割などでは労働契約承継法が適用されますから、労働者保護というのは一定の担保がされるわけですけれども、そこら辺がどうなるのかということをお伺いしたいと思います。

その上で、事業の信託ですけれども、企業分割、営業譲渡、いわば会社法の世界では株主総会などで一定のガバナンスがきいているわけであります。そうではなくて、信託の世界になると受益者からのガバナンスはあるのかないのか、なかなかイメージがしづらいところがございます。信託の場合、そこら辺が非常に不明確な感じがしまして、そこで働く人たちの雇用も不安定になりがちではないかというようなことも踏まえますと、業として行うのであればしっかり対応はやって頂きたいなと思っております。そうでないと事業の信託を業として認めることは消極的にならざるを得ないなと感じております。

以上です。

○ 岩原部会長

当然そういう問題は詰めていく必要があると思います。

それでは、中原さん。

○ 中原法務省民事局局付

今、幾つかご指摘を頂戴しましたので、法制審議会におきまして議論している状況をご紹介させて頂ければと思います。

ます最初に、木村委員の事業信託の労働契約承継法上の扱いがどうなるかというお話でございますが、その点についてはこれまでの取扱いを変えるものではございませんので、これによって何か潜脱ができるようなことを考えているということではございません。

それから、仮に信託宣言による場合であったとしましても、それを営業として信託宣言するというときには、旧商法でいえば245条に基づき、営業譲渡の特別決議が要るということはこれまでどおりと変わらないことであろうかと思います。

事業信託と申しますのは、外延が曖昧な言葉でございまして、人によっては事業が移転するんだとおっしゃる方と、財産を移転して、その財産を使って事業をやるんだというパターン、それから、信託宣言によって事業をやるパターン、その3つが混在されて使われているかなと思っております。

法制審議会におきましていろいろなニーズ等に関するご指摘がございましたのは、事業部門を信託宣言しまして、受益権をどなたかに売却して、そこで得た資金を使って何かやるというような場合が多かったかと思います。その場合に、従業員の皆様はどうなるかということでございますが、その点については、私がお伺いしている範囲では、通常はこれまでどおりと同じような扱いで、通常の会社業務の中に携わっていくということで、むしろ実質的に経済的な財産の管理権は移転するんですけれども、そこに携わる皆様はかつてのような一体としてある中で働いた方が機能する場合もあるのではないかという観点からこういったスキームを、ご発言された方はそのような観点からも工夫をされたのかというふうに拝聴しておりました。

信託と申しますのは、受託者と言われる方の持っているノウハウを最大限活用しようという制度でございまして、新規産業の創出といった観点からご指摘をされていたのかなと思います。

2点目に、先ほど来、先日もそうですが、株式会社と比べまして、信託というのはガバナンスの観点からちょっと劣っているのではないかというようなご指摘がございまして、私ども受益者保護には万全を尽くしてやろうと。確かに任意規定化を図ったりするようなところはございますけれども、締めるところは締めようというつもりで毎回、審議会で議論しておりますので、受益者保護に劣るのではないかと言われてしまうとかなり切ないものがございます。

株式会社を批判するわけではございませんが、信託の方がガバナンスの観点から優れているということを、思いつくところを幾つか申し上げますと、例えば受託者が権限違反の行為をした場合、株式会社によりましては株主は単に取締役の違法行為の損害賠償請求をするだけでございますが、信託法の下では受益者には取消権というのがございまして、受託者の権限違反行為を取り消すことができるということがございます。

あるいは、取締役が競業避止義務に違反した行為をした場合、先般の会社法では介入権はございませんが、今回の信託法におきましては、競合行為に対する介入権というものを用意しておりまして、固有財産で信託財産の機会を奪取して取引をしたときは、受益者はそれが信託財産のために行為をしたものとみなすことができるというような規定を設けるという方向で議論させて頂いております。

それから、受益者が多数のときには公平義務違反ということがあるわけでございますが、そのための差止請求権というものを、会社法におきましては株主平等原則があるわけですけれども、株主間の公平を害する形で新株発行がされようとしている場合の差止請求に関する規定というのはあるんですが、公平義務違反に関する一般的な差止請求に関する規定はないと思います。私どもではそういった場合も差止請求を認めようという手はずを整えております。

それから、会社財産に対して取締役の債権者とか、関係ない人が執行してきたときに、株主は異議の訴えができるかというと、そうではないかと思うのですけれども、信託におきましては受益者は信託財産について、第三者異議の訴えの原告適格が認められるというようなことがございます。

それから、差止請求権とか、帳簿等の閲覧請求権とか、検査役選任請求権といったものについて、例えば会社ですと、保有期間について6か月間引き続き株式を有していなければいけないとか、100分の3以上持っていなければいけないという規定があるわけでございますが、私どもの方では基本的にこういった制限は設けないという方向で対処しようとしているところでございます。

それから、今回、これまでの信託法を改めまして、委託者と受益者の合意で受託者をいつでも解任できるということをデフォルトにしようという提案をさせて頂いておりますし、受託者の解任申立権とか、信託が違法に使われたときの終了申立権、それから、信託監督人の選解任申立権といったような、裁判所に対する申立権というものも幅広く認めていこうと。会社法におきましては訴訟手続なわけですけれども、私どもにおきましては、非訟手続ということで、迅速に対応できるようにしていこうというような手はずを整えているわけでございます。ちょっと長く申し上げましたが、受益者保護という観点からは、一応私どもなりに万全の努力をして制度をつくってまいろうと思っているところでございます。

長くなりましたので、もうこれでやめますが、最後に、入江委員から、信託宣言について、4ページの「新たな形態の信託」というところで幾つか問題提起を頂戴しました。これは私どもがまだ成案を得ていないので無理からぬところもあり、あるいはそのようなことを入江委員もご存じの上でおっしゃったのかと思いますが、例えば信託契約書がないため、受益者への開示内容が不明確という点につきましては、私どもの現在の提案におきましては、要式性を要求し、書面にてやらなければいけない、それが効力要件だということになっていますし、確定日付で通知をいたすときには、単にいつ通知されたというだけではなくて、信託行為の内容も通知しなければいけないということになっております。

それから、先ほど事務局の保井室長が適切にご指摘されたとおり、信託宣言の場合におきましても、受託者について分別管理義務がかかるということは、他の信託の場合と全く異なるところはありません。異なるところは、分別管理しなければいけない財産の出身地が外であるか自分のところであるかというだけでございまして、それが自分のところであるから分別管理義務がなされない危険があるというふうに一概に断ずるわけではないかと思います。

一たん外に売却した上で、それをもう1回信託を受ける。現在、信託宣言が認められていないがために、100パーセント子会社をつくって、そこに信託しまして、それで信託を受けるというような信託宣言をしたのと同様のことが行われているわけでございますが、そのような場合であれば分別管理義務は果たされて、信託宣言であれば分別管理義務は果たされないということではないのではないかと考えております。

さらに、先ほど保井室長もご指摘されましたとおり、受託者が破産したときにはその財産は破産財団に入らないと。これも信託宣言だろうと、通常の信託であろうと、異なるところは全くないわけでございます。

さらにもう1つ、セールスポイントですが、受託者が分別管理義務に違反しまして、信託財産と固有財産を識別不能にしてしまった、いわばぐちゃぐちゃにしてしまったというような場合には、共有みなしルールというのが強行法的に適用になるというふうにしております。私どもの審議会ですと、どういうわけか「ヒツジ百頭」と。ヒツジとかウシとかいう例があるんですけれども、信託財産でヒツジ百頭、固有財産でヒツジ百頭というのがあって、それがぐちゃぐちゃになってしまいましたということになりますと、それぞれのヒツジについて信託財産が共有持分権を持つということですので、固有財産の債権者が執行してきたときにそれを全部とられちゃって、受益者の保護にならないかというと、そんなことにはならないというルールを強行法規として信託法で設けているということでございます。その意味から、受益者保護という観点からも、私どもなりに規定は整備しているんだということをご理解頂ければと思います。

長くなりましたが、以上です。

○ 岩原部会長

ただいまの論点に関してでしょうか。よろしいですか。

川本さんは別の論点ですか。含みますか。じゃ、先に手を挙げられたので、川本さん。

○ 川本委員

前回お休みさせて頂いたので基本的なところから申しあげて恐縮ですけれども、私はスタンスとしては過度に規制的な部分はぜひ改正して頂きたいと思っております。そういう意味では、業法規制の見直しをやって頂きたいということはあります。

しかし、今の論点に関して、すなわち信託宣言については仕組み自体が信託会社の存在意義を否定するものなのではないかということを感じまして、このような形態の活用が信託という仕組みの健全な発展に寄与するのだろうか、と懸念をもっております。

逆にこういうような民事以外で海外でも例のないものを指向していかなければいけない背景には、信託会社の使い勝手が悪いということ、設立とか運営コストが高いとか、そういうことが存在するのではないか、そうであればそちらの論点を見直すべきなのではないかと思っています。例えば、参入要件で3年経験した人を雇うとか、資本金の規制のハードルが高いとか、信託商号を使わなければいけないとか、そういうところをまず考え直すべきなのではないかと、思っております。もう1つ、気になるところとしては、例えば、マイナス信託のところでのディスクロージャー、説明義務をきちんと課して頂きたいと思います。例えば、純資産額とかレバレッジの比率とかいうものが出されていないと健全な運営に支障をきたすのではないかなと思います。

本来、フィデューシャリーパワーとはとても強い責任だという根本論があると思っておりますが、そのシェアについて、すなわち外部委託をどのぐらいの人たちに対して受託者と同じような義務を課すかという、15ページの論点については、信託財産の運用や保管を委託されていない場合、財産の運用・保管に該当しない場合である ii と iii については受託者と同様の義務を課すのは行き過ぎなのではないかと思います。

以上です。

○ 岩原部会長

それでは、原委員、お願いします。

○ 原委員

せっかく今日は法務省の方がお見えになっていらっしゃるので、法制審での審議をもう少し聞かせて頂きたいと思いまして、木村委員と重複するところもあったりしたのですが、再度、質問を重ねさせて頂きたいと思っております。今回、ヒアリングをお聞きして、これほど大きな広がりを持っている課題になっているということを改めて認識したというところがございます。

その観点から確認なのですが、信託宣言の話ですけれども、三菱UFJ信託さんの方で海外ではないとおっしゃられたので、それは今、川本委員が違うところに背景があるのではないかとおっしゃられたのですが、これほど多様な現場のニーズにこたえられるという形でいろいろな信託を考えられたと思うのですが、今日のヒアリングの中でも、特にオリコさんがおっしゃられたところの広がりまで想定をしていらっしゃっての議論になっているのかどうかというところが1点です。

それから、それとも重なるのですが、関委員から兼業規制についてどう考えるのかというお話がありましたけれども、今日のお話を聞いていても、兼業でおやりになられる可能性も随分出ていると思うのですが、兼業については法制審ではどのように考えていらっしゃるのかというのが2つ目です。

それから、株式と違って信託での今回の見直しでは幾つも売りがあるということをおっしゃられたのですが、お聞きしていて、法制審で考えられている感じが非常に強いというのでしょうか、そういう感じがしました。次回以降の検討の中で私も意見を述べさせて頂きたいと思うのですが、受益者の中でのプロ・アマ論のような話はどのように整理をされてきているのか。こちらでは、金融審議会の(仮称)投資サービス法、金融サービス・市場法の検討では、プロ・アマ論は前提として大変大きな議論になるわけですが、受益者のプロ・アマ論についてはどういった審議状況というのでしょうか、検討がされたのでしょうか。

その3点について追加で質問させて頂きたいと思います。

○ 岩原部会長

それでは、まず保井さんの方から。

○ 保井信託法令準備室長

恐縮ですが、最初に後ろの方から、いわゆるプロ・アマ論の話からご説明をさせて頂きたいということと、もう1つ、海外事例の話がございましたので、事務局としてファクトの補足をさせて頂きます。

プロ・アマ論につきましては、今、金融審の第一部会の投資サービス法等の議論で、プロとアマの規制、特に説明義務等について、規制の対応をいろいろ違えるというご議論があるようでございまして、それは私どもも伺っております。ただ、私どもが信託業法で検討しておりますのは、先ほど川本委員からフィデューシャリーパワーという言葉がございましたけれども、受託者責任等重い責任をどうやって果たしていくのか。もう1つは、信託の設定をするときに、リスクが高いとか、レバレッジがきいているとか、そういう信託の形態について、プロであれアマであれそれは知りたいのではないかという論点から、一律に説明義務を課してはどうかというようなことを論点として挙げさせて頂いているわけでございます。これが第1点。

第2点は、外国事例がなかなかないではないか、特に事業信託について、あるいは、信託宣言についてという話なんですが、90年代にアメリカでは脱税に使われるスキームとして信託が大もての時代がございましたけれども、それがエンロン事件以降、税務当局の取締りも厳しくなりました。具体的に申しますと、米国財務省のウェブサイトにいきますと、アビューシブ・タックス・スキーム、すなわち租税回避のためのタックススキームというのが載っております。この類型を見ますと、例えば、外国に信託を飛ばしてみたりとか、事業信託、すなわちビジネストラストをやってみたりといった事例が山ほど入っていまして、こういう規制強化の動きも外国の事例が乏しいという一つのエビデンスになるのではないかと思います。

以上です。

○ 岩原部会長

法務省に対するご質問もあったと思いますが。

○ 寺本法務省民事局参事官

それでは、法務省から補足いたします。

多様な現場のニーズにこたえた信託というお話でございますが、まず、信託宣言につきましては、英米の信託法でも、あるいは、ヨーロッパの信託法原則におきましても、信託宣言というものは認められております。そして、信託宣言には、様々な有用な使い方があるということをパブリック・コメントや法制審議会の委員の皆さまから指摘されておりまして、それを踏まえて現在、法制審議会ではこれを導入する方向でご議論を頂いているという状況でございます。

それから、目的信託につきましても、最近のアメリカの統一信託法典では、いわゆるパーパス・トラストが認められております。あるいは、カリブ海のケイマン諸島というところでチャリタブル・トラストとしまして、目的信託と類似の制度が認められております。これは受益者のいない信託が認められることによって、流動化だけではなくて、民事でも商事でもいろいろ有用な使い方があるであろうということを想定いたしまして、法制審議会では基本的に認める方向でいいのではないかというご議論を頂いているところでございます。

それから、限定責任信託につきましても、アメリカでビジネス・トラスト法というのがございまして、特に目的を制限せずに受託者の責任が限定されるという規定がございまして、これは商事でも頻繁に利用されているようでございます。そのような例を踏まえまして、法制審議会では、限定責任信託制度を導入することもあり得るのではないかというご議論を頂いているという状況でございます。

それから、プロ・アマ論につきましては、私の記憶のある限りでは、法制審議会の場では、そのような議論はあまり出ていなかったのではないかという気がいたします。

他方、兼業規制の問題につきましては、信託宣言を導入するに当たりまして兼業規制があると、それは信託宣言が利用できないことになってしまうのではないかという意見を述べる方は結構おられまして、法制審議会の場でも、そういう問題を指摘される方は少なくなくいらっしゃるという状況でございます。法制審議会の事務局をしております法務省といたしましても、兼業規制が果たして信託に必要であろうかと。受益債権の対象は信託財産でございまして、受託者の固有財産が仮に事業に失敗して悪化しても、信託財産が健全であれば受益債権、受益者にとってはそれほど不合理はないのではないかという気もいたします。

先ほどどなたかもおっしゃいましたように、信託であれば、受託者のノウハウと言いますか、スキルを信頼して頼んでいるわけでございます。それにもかかわらず兼業規制をすると、本来は慣れていないと思われる信託の方をやらされまして、スキルフルな仕事の方ができなくなるということが、果たして信託でふさわしいものなのかという点は疑問がないわけではなくて、信託業法も金融規制の一環、横並びということは言えるのかもしれませんが、兼業規制につきまして、果たして信託でそのようなものが必要なのかどうかという点は、なお慎重な検討をして頂ければと思っているところでございます。

あと、脱税の問題は、制度というものはその利用の方法によって良い面、悪い面はもちろんあるわけでございますが、新たな信託法におきましては、先ほども申し上げましたように、受益者のガバナンスを十分働かせることとか、信託宣言につきましても、例えば詐害防止の措置を種々講じております。それから、会社法の解散命令と同様な制度ということで、信託の終了命令という制度を設けて公序良俗に反する利用がなされている場合には、利害関係人の申立てによって裁判所が信託を終了させてしまうという制度を導入する方向でも考えております。このように自由な使い方を認めつつ、しかし悪用を防止するという制度を設けることによりまして、悪用は可及的に防止できるのではないかと考えているところでございます。

○ 岩原部会長

それでは、根本委員、お願いします。

○ 根本委員

事務局の方のつくられた総論のところで、日本で民事での信託はあまり活用されていないという中で、「業」というのを整理されて定義を明確化すると、新しい活用を妨げないというところですね。こういったところは賛成しております。信託業法における扱いでも柔軟で、時代に合った活用を考える。一方、受益者の保護にバランスをとるという点も私も同意しております。

流動化という話も出ていますので、投資家の立場というか、格付会社の見方からお話したいのですけれども、1つは信託宣言のところでして、債権者の立場から気になるところは、債権者が阻害されないのかというところでございまして、もしよろしければ質問させて頂きたいと。証券化などを会社さんがされますと、一定以上証券化をすると、債権者にとっては、最後に価値を担保しているのは資産ですから、格付が下がるということもありますので、そのあたりの透明性が債権者に対しても確保されるのかというところを伺いたいと思いました。

それから、信託宣言で受益権を例えば市場で販売されるというような場合に、格付会社で見るポイントですけれども、1つは、先ほどご議論のあった倒産隔離性があるかというところで、関連の倒産法も含めて手当てがされていらっしゃるのか。そこはあるというお話だったと思うんですけれども。

2点目としましては、信託の持つ牽制機能が確保されるのかということでございます。証券化の場合、オリジネーターというか、原債権者と信託会社、投資家という三者があって、それぞれがモニターをしているという牽制効果が働いているわけですが、オリジネーターと信託が同一であるというところでそれが確保されるのか。先ほど財産に関しては第三者がチェックされるということがあったのですけれども、それが継続してお互いの義務を果たしているかを見ていくのかというところで、何らかのスキームというんでしょうか、信託管理人のような方を指定されるとか、そういったことも格付をする上では必要になるのではないかと思います。

それから、事業信託についてです。3ページ目に何らかのガバナンスの仕組みが必要というお話がありまして、専門家の前で申しわけないのですけれども、信託業務ではたいがいの場合、あらかじめ財産に起きることが想定されるように思うんですが、事業信託に関しては環境の変化とかいろいろ想定外のことが起きて、大きく変化するのではないかと。

そういう中で、受益者が必ず同意をしなければ決定できないとか、そういう仕組みであるというのは柔軟性を欠くのかなと思いまして、株式会社のようなガバナンスのスキームも合致しているのではないかと思います。ただ、こういうガバナンスのスキームがあった場合は、受益者を特段にさらに保護するというところですけれども、説明責任というのは当然あると思うんですが、あまり過剰な、特にプロの受益者に対して過剰な規制があるのはどうなのかと思います。

それから、消極財産が多い場合がリスクの高い信託とあったんですけれども、資産の評価が例えば無形資産とかあって必ずしもはっきりと分かれるものなのかというのがちょっと疑問に思いまして、設定時にバランスシートが資産超過であっても、事業そのものがリスクが高いようなものに関しては、やはりリスクが高いと言えるのではないかとか、そのあたりお考えがあればお伺いしたいと思いました。

以上です。

○ 岩原部会長

じゃ、保井さんからまずお願いします。

○ 保井信託法令準備室長

それでは、事務局から3点ほどご説明させて頂きたいと思います。

1つは、格付会社の観点からということで、債権者としてどう信託宣言、流動化といったことを知るのかということですが、おそらく事業会社のガバナンスの仕組みが働いて、例えば営業譲渡とか、そういったことの類似で株主総会の特別決議とか、重要な財産の移転であれば取締役会の決議が要るとか、そういったガバナンスが働くというふうに考えられます。

それから、倒産隔離の件につきましては、先生ご指摘のところではございますけれども、債権者から考えれば、本当に真正な信託設定がされているのかと、まかり間違って信託設定されている方に固有財産が全部入ってしまうことはないのかというような懸念があるところでございましょうし、そういった観点では、第三者からの真正の信託設定のチェックという仕組みが、受益者あるいは債権者の仕組みとしても働くのではないかと考えております。

最後、事業信託につきまして、プロに過剰な規制を課す必要があるのだろうかと、ご指摘はごもっともだと思いますけれども、プロであれアマであれ、本当に真正に信託設定されているかどうかを知りたいということもございましょうし。あと、これは実務の方に補足して頂ければ、あるいは間違いをただして頂ければありがたいんですが、プロの世界でもオファリングメモという形で、いろいろなリスクを全部ディスクレイマーで説明しておくという慣行があると聞いておりますので、あえて言えばこれはプロですらやっていることではないかと考えております。

以上です。

○ 岩原部会長

今の点について。先に法務省から。

○ 中原法務省民事局局付

根本委員のご指摘で一つ確認でございますが、債権者とおっしゃられたのは受託者の固有財産に対して債権を持っている債権者のことでございますか。

○ 根本委員

そうです。

○ 中原法務省民事局局付

その点につきましては、今回の信託宣言による信託設定の場合に書面性を要求して、確定日付などを要求して、設定の日付をさかのぼらせることができないというような手当てをするとともに、それが債権者詐害でなされたときには、詐害信託ということで債権者の利益は守られるんだという点において、私どもなりには万全の手当てをさせて頂いているかなと考えているところでございます。

○ 岩原部会長

それでは、入江さん、お願いいたします。あ、松谷さんですね、ごめんなさい。

○ 松谷委員

それでは、信託業界から幾つかお話をさせて頂きたいと思います。

まず、繰り返しになりますけれども、信託宣言については中原委員から正しい使い方というか、そういうガイダンスを頂けたと思います。ただ、ほかの委員のお話にもありましたように、もともと信託とは財産権の移転を行い他人をして管理処分を行うという、それほど重い受託者責任を負っています。それを規律する一つの要素としては、委託者とか受益者からのモニタリング、監視・監督機能が担保されているということだろうと思います。したがいまして、信託宣言につきましては、正しくない使われ方がされやすいということで、我々信託業界は導入について反対をしているというところをまず申し上げます。

それから、話題になっております事業信託でございますが、いろいろな想定をされる方が多いので、何をもって事業の信託かというのは我々としても定義がよくわからないところでございます。金融庁の事務局でご用意頂いた例によれば、事業を丸ごと入口のところから信託財産として預けるということが例として挙がっておりますので、そうした場合、いわゆる事業譲渡とか会社分割と類似の行為ができてしまうといったときに、木村委員からご指摘がございました労働契約とか、あるいは、会社法等のガバナンスと同じものが確保できているのかどうかというところについて疑問を申し上げたわけであって、事業の信託について必ずしも反対をしているわけではないんですが、よくわからないところが多いというところが我々業界の感想でございます。

それから、特にその2つに代表されます新たな類型につきましては幾つか事例がご紹介されましたけれども、要約いたしますと、受益権を投資家に譲渡することによって資金をファイナンスしたいというところが多くの信託目的であろうと思います。したがいまして、受益者保護の観点から制定されております信託業法については、当然のごとくその規制に服するべきと考えております。

それから、兼業制限についても幾つかご意見がございましたけれども、昨年の12月30日に現行の信託業法が施行されておりますが、その時点で担い手あるいは参入規制については議論されております。そのときの結果としまして、いろいろな類型が整備されるとともに、受益者保護の観点から兼業制限、いわゆる他業による信託業務へのリスク遮断という観点で制定されたものと認識しておりますので、その辺は申し上げたいと思います。

以上でございます。

○ 岩原部会長

鮎瀬さん。

○ 鮎瀬幹事

2点申し上げます。

1点は、ただいま話題になっております事業信託に関してです。事業信託につきまして、いろいろな使い方がある、かつ、こうしたものが考えられていることが、会社に比べて柔軟性といったところで利用価値があるということだとしますと、必ずしも一律のガバナンスを強制することによって受益者保護を図るということではなくて、どのようなガバナンスがとられているかについて、説明義務あるいは開示といったものをしっかりやっていくという形で、受益者の保護を図っていくという方向性もあるのではないかという感じを持ちました。それが1点目でございます。

もう1点は、プロ・アマの区別をめぐる議論でございます。先ほど一定の説明義務についてはアマだけでなくプロも当然ほしい情報もあるというご説明がございまして、その点はそのとおりかと存じますが、今回、信託法の改正で受託者義務について任意規定化等が図られているのが一つの大きな流れということでありまして、それを信託業法でも規制の緩和という形で生かしていくとしますと、受託者義務の内容によりましては、プロ・アマの区別をしまして、プロについては軽減を図っていくという方向性もあり得るのかなという感じがいたしました。

例えば、プロについて善管注意義務の軽減というものを合意によって認める余地についてはどうかとか、忠実義務のうち自己取引の制限につきまして、プロについては受益者の合意があれば外形基準のようなものを課さずにこれを認めていくとか、そういったところではプロ・アマの区分も信託についても考えていく余地はあるのではないかという感じを持ちました。

以上でございます。

○ 岩原部会長

あと、手を挙げていらっしゃるのは。じゃ、翁委員。

○ 翁委員

時間も押していますので、意見を簡単に申し上げたいんですが、今回、「業」の整理をして頂いて非常によくわかりましたけれども、8ページのところにございますように、信託業として認められるものというのは、事業会社で引受け行為が1回しか予定されていないとか、信託引受けの報酬・費用等を受け入れない場合については信託業とは考えないということでやっていくべきでないかというのが1つでございます。

もう1つは、次のページになりますが、先ほどから議論がございます兼業規制のところでございます。考え方として、忠実義務とか分別管理義務とか善管注意義務といった行為規制をきちん担保していれば、参入規制の方は基本的には緩和していくと。事業者のニーズも広がりが見られますし、従来型の預金を扱う銀行だけがこれを担うという世界から大きく変わっていくというところがございます。それから、ビークルとして利用するという観点で、ほかの銀行業とか保険業とちょっと違う観点が必要なのではないかと思いますので、その意味でも参入規制の方は緩和していって、むしろ行為規制できちんと担保できているかということを検証していくと、そういう考え方が必要なのではないかと思いました。

○ 岩原部会長

まだまだご意見あると思うんですが……。

それでは、池尾先生、お願いします。

○ 池尾委員

すみません、大分前から立てていたので。

事務局の資料でいうと2番目の新しい形態の信託についての話からいろいろと意見が出されて、議論が活発に行われていたんですが、その前の1の信託制度見直しの考え方についてというところが飛ばされたような形で議論が始まった気がしていて、私は前回から入口のところで非常にこだわりみたいなものを感じていまして、経済学者的理解ということで、法律の専門家からするととんでもない理解ということになるかもしれないですけれども、そもそも信託法に加えて信託業法なるものがどうして要るんだという話があると思うんですね。

もうちょっと一般的にいうと、取引ルールに加えて業者ルールみたいなものをわざわざ置く必要がどうしてあるのかということで、取引ルール的なレベルで、法務省の方からご説明あったように、受託者保護に万全を期するような形でルールの整備が図られるわけですよね。にもかかわらず、業者ルールで何かしなければいけないというのは、私の理解だと近代市民法の原則では対処できないような特別なシチュエーションがあるときに限って、業法の意義みたいなものが出てくると思うんですよね。

ということは、対等性が何らかの意味で確保できないような状況があったときにはじめて業法による規制が適正だということになるんだと思うんですね。だから、業法上の非対称性が非常に大きいとか、交渉力の格差が非常に大きいと想定されるケースについて、業法による規制を考慮すればいいのであって、繰り返しやっていても、交渉上の格差とか情報上の非対称性とか、そういうものが別段起こらないような状況においては、取引ルールだけで律していていいはずだと思うんですよね。

業法としての規制をしなければいけないような情報上……、事務局の資料だと3のところでそういう言葉が出てきていて、11ページのところで「信託会社と顧客の間の交渉力・情報量の格差等に鑑みて、常に一律に求めるべきではないか」と。これはプロ・アマ論にも関係しますけれども、信託会社と顧客はいつでもこういうふうに情報格差があると想定すべきなのかという話になると、顧客がプロのときはそうではないじゃないかという話になる。そうすると、ここは業法だから、業でやっているから適用範囲に入るとしても、適用除外ルールみたいなものが当てはまるとか、そういうふうな整理になるのではないかと思うんです。

私の誤解かもしれませんが、信託法と信託業法と2つ法律があって、二重にカバーしなければいけないというのはどういうことなんだという前提を理解した上での議論をもうちょっと詰めてもらわないと、議論が散漫になっているのではないかなという印象を受けたので、発言させていただきました。

○ 岩原部会長

先ほどからまだ二、三の方に手を挙げて頂いていますが、本当に手短にお願いします。

まず落合委員からお願いします。

○ 落合委員

実務家の意見として述べさせて頂きます。新しいビジネスモデルが導入される場合には、既存のビジネスモデルとどう整合性がとれているのかとか、補完性があるのかという見地から見なければいけないのではないかと思います。

そのような観点から見ますと、三菱UFJさんの資料による新しい信託宣言は売掛債権を企業側だけで簡単に信託宣言でき、その受益権を確保できるようになっています。しかし、金融機関は運転資金として、既にこれを返済財源と見込んだ貸出金を企業側に貸出しているケースが多いわけです。

従いまして、これが貸出後、いつ信託宣言になるかわからないということになりますと、当然今後は運転資金として企業側に貸出することが容易に出来なくなるか、あるいはそれを担保しなければ円滑に貸し出し出来にくくなることが予測されます。

資金調達を望んでいる企業は簡素で安定的な資金調達を望んでいるが、既存の資金調達が出来なくなった時の資金繰り等中小企業の経営に及ぼす影響は非常に大きいと思われます。

よって、その辺のところの対応策をもう一度調整しないといけないと思います。

今回の提案は、長所もいっぱいありますので、何のための改正か、どのようにしたら実務で使う側の人たちのニーズに合って制度として成り立つのか。

これらを再度検討していただきたいと思います。

○ 岩原部会長

それでは、あとは吉元さんですか、どうぞ。

○ 吉元オリエントコーポレーション法務部長

先ほどから信託宣言の利用について、いろいろな懸念を表明されておられますので、ちょっとだけ意見を言わさせていただきます。まず委託者と受託者が同じだということで、きちんとやれないんじゃないかというようなことが議論としてされていると思いますけれども、別人格だからこそ受託者の責任としてやらないといけない部分と、そもそもいくら同一人格であろうと受託者の責任はかかるんであって、その意味できちんと規制がかかっている以上は問題ないんじゃないかということを申し上げたいと思います。

それから、受益者がプロの場合、アマの場合というのもありますし、もっと流動化のところで言いますと、多数の投資家が存在が想定されるようなものについては、現状でも投資家のために第三者がデューデリをやるということで、初めて投資ができるような状況になっているわけですね。ですから、信託宣言がされようが、今の形で信託銀行を使おうが、ここは同じではないか、特に信託宣言だから悪くなるというようなことはないんじゃないかなというふうに思います。

それから、三菱UFJ信託さんの資料の5で、所有権の移転が行われないとか、利益相反が起こりやすいというようなアメリカのご事情が紹介されているんですけれども、先ほど法務省さんの方からもご説明ありましたように、そういった問題点を超えるような、それを防ぐような形で公正証書の作成とか信託の公示制度とか、そういったものが設けられて、受益者保護が図られるということもありますし、それから利益相反が起こりやすいというのは、これは実際に信託宣言ではないですけれども、信託業務とそれから銀行固有業務を行われている信託銀行さんでもこれは起こり得ることなわけですね。それをきちんと内部の、チャイニーズウォールとかその他でもって、利益相反行為が起こらないように工夫されているのが今の現状だと思いますし、信託宣言やった場合にも当然受託者の義務があるわけですから、あと公益性もあるわけですから、そこで同様な対応ができるんじゃないか、したがって信託宣言がこういう点で劣るということではないんではないかということを、最後にちょっと申し上げたいと思います。

○ 岩原部会長

はい、どうも。

まだまだご意見は尽きないと存じます。私の司会の不手際で、十分皆々にはご議論頂けなかったこと、大変申しわけなく存じますが、この後の記者会見の予定等もございますので、また本日に引き続き次回、ご議論頂きたいと思いますので、本日の審議はこれにて終了させて頂ければと存じます。今申し上げましたように、この後、記者会見を行いまして、本日の会合についてお話をさせて頂きます。

本日、本当に貴重なご意見を多数頂きありがとうございました。次回は、本日頂きましたご意見を整理した資料を事務局にて整理して頂き、それをもとにご議論頂ければと考えております。

最後になりましたが、事務局からご連絡等ございましたら、お願いいたします。

○ 大森信用制度参事官

議事の設定の仕方で、今、部会長からもお話しありましたけれども、委員の皆様の発言の時間が限られまして、フラストレーションを感じられたらお許し頂きたいと思います。まだ同じことを違う表現で言っているようなところがあるかもしれませんので、もう少し委員の皆様にとっての焦点が絞られてくるような工夫を考えさせて頂きたいと思います。

次回の日程は、調整の上、後日改めてご連絡をいたしますので、よろしくお願いをいたします。

以上でございます。

○ 岩原部会長

それでは、長時間、熱心なご討議ありがとうございました。以上をもちまして、本日の会合を終了させて頂きます。

サイトマップ

ページの先頭に戻る