金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第1回)議事録

平成28年5月13日

【齋藤市場課長】

本日は、冒頭のみ、カメラ撮影が行われますので、ご了承ください。

それでは、神田座長、よろしくお願いいたします。

【神田座長】

皆様方、お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございます。ただいまから市場ワーキング・グループの第1回目の会合を開催させていただきます。

私、岩原紳作金融審議会会長・金融分科会長からご指名をいただきまして、このワーキング・グループの座長を務めさせていただきます、学習院大学の神田と申します。よろしくお願いいたします。

本日は初回でございますので、まずこのワーキング・グループについて簡単にご説明をさせていただきたいと思います。このワーキング・グループでございますけれども、本年4月19日に開催されました金融審議会の総会・金融分科会の合同会合におきまして大臣からいただきました諮問を受けて設置されたものでございます。

お手元に諮問文を配付していると思いますけれども、諮問におきましては次のように述べられております。すなわち、「情報技術の進展その他の市場・取引所を取り巻く環境の変化を踏まえ、経済の持続的な成長及び家計の安定的な資産形成を支えるべく、日本の市場・取引所を巡る諸問題について、幅広く検討を行うこと」でございます。

本日はこのワーキング・グループの第1回目でございますので、最初に、事務局である金融庁の池田総務企画局長からご挨拶を頂戴したいと思います。池田さん、よろしくお願い申し上げます。

【池田総務企画局長】

金融庁総務企画局長の池田でございます。本日は、大変お忙しい中ご参集をいただきまして、まことにありがとうございます。ただいま神田座長のほうからご紹介をいただきましたとおり、今回の大臣の諮問におきましては、日本の市場・取引所をめぐる諸問題について幅広く検討をいただくということをお願いさせていただいたところでございます。

日本の証券市場・取引所におきましては、1990年代末以降、我が国の市場を欧米の市場と並ぶ機能の充実した市場とすべく、例えば取引の場の多様化とか、取扱商品の多様化、取引システムの高度化あるいは取引所の統合など各般の取組みが進められてきたところであります。このような取組みについては一定の成果が見られる一方で、残された課題も少なからず存在し、なお道半ばであるという状況でもあろうかと存じております。また同時に、近時では日本や欧米の市場・取引所や、それを取り巻く環境にさまざまな変化が見られ、これらについてどのように対応していくかが新たな課題ともなっていると考えております。

こうした中、金融をめぐる内外の環境変化にどう留意し、どのように必要な手立てを講じつつ市場・取引所の機能強化に向けた取組みをさらに推し進めていくか、この時点で改めて考察を加えておくことが有意義なことではないかと考える次第であります。委員の皆様方には、ぜひこの機会に活発なご意見を頂戴することをお願い申し上げまして、私からのご挨拶とさせていただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、カメラの方、恐縮ですが、ここまでとさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

(カメラ退席)

【神田座長】

それでは次に、このワーキング・グループにご参加いただきます委員の皆様方をご紹介したいと思います。お手元に名簿を配付させていただいております。委員のご紹介を事務局からお願いいたします。

【齋藤市場課長】

総務企画局市場課長をしております齋藤と申します。よろしくお願いいたします。座ってご紹介をさせていただきます。

当ワーキング・グループの委員の方々をご紹介申し上げます。座席順にご紹介をさせていただきます。

委員の皆様の右側からになりますが、有田浩之様でいらっしゃいます。

【有田委員】

有田でございます。よろしくお願いいたします。

【齋藤市場課長】

池尾和人様でいらっしゃいます。

【池尾委員】

池尾です。よろしくお願いします。

【齋藤市場課長】

大崎貞和様でいらっしゃいます。

【大崎委員】

大崎でございます。どうもよろしくお願いいたします。

【齋藤市場課長】

黒沼悦郎様でいらっしゃいます。

【黒沼委員】

黒沼でございます。よろしくお願いします。

【齋藤市場課長】

永沢裕美子様でいらっしゃいます。

【永沢委員】

永沢でございます。よろしくお願いいたします。

【齋藤市場課長】

濱口大輔様でいらっしゃいます。

【濱口委員】

濱口です。よろしくお願いします。

【齋藤市場課長】

林田晃雄様でいらっしゃいます。

【林田委員】

林田です。よろしくお願いします。

【齋藤市場課長】

福田慎一様でいらっしゃいます。

【福田委員】

福田でございます。よろしくお願いいたします。

【齋藤市場課長】

また、本日はご欠席ですが、皆様のほか、神作委員、宮本委員にもご参加いただくことになっております。

本ワーキング・グループは、広範なテーマを扱う予定であることから、テーマに応じたご参加をお願いさせていただく委員の方もいらっしゃいます。本日は取引や取引所のあり方に関するテーマを扱いますので、有田委員、濱口委員のお二人にご参加をいただいております。

また、投資商品の多様化や顧客本位の業務運営に関するテーマの回には、ブラックストーン・グループ・ジャパン株式会社の鹿毛特別顧問、FPアソシエイツ&コンサルティング株式会社の神戸代表取締役、三井住友アセットマネジメント株式会社の横山代表取締役社長の皆様方にご参加いただくことを考えております。

次に、オブザーバーの皆様をご紹介いたします。

日本銀行金融市場局市場企画課の東課長でいらっしゃいます。

日本取引所グループ、東京証券取引所の土本専務執行役員でいらっしゃいます。

【土本オブザーバー】

土本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【齋藤市場課長】

日本証券業協会より、野村證券の明渡執行役員でいらっしゃいます。

【明渡オブザーバー】

明渡です。よろしくお願いします。

【齋藤市場課長】

国際銀行協会より、モルガン・スタンレーMUFG証券の田村取締役でいらっしゃいます。

【田村オブザーバー】

田村と申します。よろしくお願いいたします。

【齋藤市場課長】

なお、オブザーバーについては、テーマに即してお呼びすることとなりますので、今後追加、変更があり得ることをご了承いただければと思います。

事務局につきましては、時間の都合もあり、お手元の配席表をもって紹介にかえさせていただきます。

委員等のご紹介につきましては以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。ただいま事務局からご説明がありました委員等につきましては、このワーキング・グループは幅広いテーマを今後取り上げてご審議いただくということを予定しておりますので、今後の議論の進展によっては、さらに委員等の方々の追加を検討させていただくこともあり得ると思われます。

次に、初回でございますので、会議の運営につきまして幾つかお諮りし、お認めいただきたいことがあります。

まず、このワーキング・グループですけれども、ほかのワーキング・グループと同様、原則として公開とさせていただきたいと思います。議事録も公表させていただきたいと思います。したがいまして、皆様方には、公表を前提としてというか、公表されるという前提でご意見、ご発言をいただければと思います。

それから、やや細かいことで恐縮ですが、私が万が一のことでこの会合に出席できないような事態が生じた場合には、座長代理をどなたかにお願いするということにさせていただきたいのですけれども、その点は私にご一任いただいて、その都度お願いをさせていただきたいと思っております。

以上の、議事の公開、議事録の公表並びに、私に事故があったときの取り扱いについて、ご承認いただけますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【神田座長】

どうもありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。

それでは、早速議事に移らせていただきたいと思いますけれども、議論の進め方につきまして、少し申し上げさせていただきたいと思います。冒頭にもご紹介いただきましたけれども、このワーキング・グループは、先月4月19日の金融審の総会で大臣からいただいた諮問を受けて設置されたものであります。総会では、お手元の参考資料2に基づきまして、諮問事項の背景となる問題意識等について事務局から説明がされました。参考資料2につきましては既に事務局からそれぞれの委員の皆様方にご説明させていただいていると伺っておりますので、本日は時間の関係もあり、そのご説明は省略させていただいて、議論を進めさせていただきたいと思います。

何度も申し上げていますけれども、このワーキング・グループは、広範なというか広いテーマについてご議論いただきますので、どうやって進めていくのかということがちょっと問題になりますけれども、できるだけ議論を効率的に進めるために、一度に全てのテーマを議論するということではなくて、テーマごと、各回ごとに、1つまたは関連する幾つかのテーマというふうに選んで皆様方にご議論をお願いしたいと少なくとも現時点では考えております。

そういうことで申しますと、本日は「取引の高速化」ということをテーマにご議論をしていただければありがたく存じます。そこで、事務局から取引の高速化についてご説明をしていただき、その後、質疑応答、意見交換ということで本日は進めさせていただきたいと思います。それでは、事務局からのご説明をお願いいたします。

【齋藤市場課長】

それでは、私のほうから、お手元に配付させていただいています資料2、「事務局説明資料(取引の高速化)」と書かれている資料に基づいてご説明をさせていただきます。1枚おめくりいただきまして、まず最初に、幾つかの資料を用いて、今回のこのテーマの議論の前提となる概念整理とか現状とかといったことについてご説明をさせていただければと思います。

まず、アルゴリズム取引がどういうものかということでございます。アルゴリズムというのは、ここにありますように、ある特定の問題を解いたり、課題を解決したりするための手順とか処理手順でございます。これをコンピューターで処理するための具体的な手順を記述したものがプログラムだというふうな定義かと思われます。

アルゴリズム取引でございますけれども、注文の開始、タイミング、価格、数量など注文のパラメーターについて、コンピューターのアルゴリズムが自動的に決定する金融商品の取引というふうにご理解いただければと思います。このアルゴリズム取引において使用されるアルゴリズムには、仲介業者である証券会社が開発して投資家に提供するようなものもありますし、一方で投資家がみずから開発するものもあるとされております。特に投資家がみずから開発するものには、みずからの投資戦略に応じて多様なものが存在するというのが現状かと思います。

このようなアルゴリズムを用いた高速な取引は、あくまでも取引のやり方でしかなく、それを用いて行われるとされる投資戦略にはさまざまなものがございます。それが2ページ目に書かれてございます。これはアメリカのSECのコンセプトリリースなどを参考に、日本で行われているとすればこういうものがあるのではないかということで分類させていただいたものでございます。

上から簡単にご紹介いたしますと、1つは、受動的マーケットメークと言われている戦略でございまして、これは、市場に売りと買いの両方の注文を出しておいて、ビッド・アスク・スプレッド分を利益とするような戦略だとされております。このような戦略をとる場合には、膨大な注文数や高いキャンセル率が実際にあらわれてくると言われております。

2つ目の類型としてはアービトラージでございます。同一商品の市場間での価格差などに着目して裁定取引を行うことで利益を上げる戦略とされております。また、厳密な裁定取引ではありませんが、複数の商品間の長期的な相関関係から事実上の裁定取引で利益を上げる戦略も存在するとされております。

それらとは別に、ディレクショナルと分類されるような戦略も幾つかあると言われております。例えばトレンド・フォローという、株価の動きに一定のトレンドがある、例えば上がっていくとか下がっていくとかいったことを前提に、株価が上昇傾向にあるものを買い、下落傾向にあるものを売るという取引戦略があるともされております。

また、ニューストレーディングという、過去のパターンから、マクロ経済などに係るニュースへの株価の反応を予測して利益を上げる戦略もあるとされています。

それから、他者の注文動向を察知する戦略ということで、大口取引者の取引ニーズを何らかの方法で察知して、それに先んじてポジションを構築しておき、そのポジションを解消して利益を得るような取引戦略もあると言われております。

その他、価格の急変動を起こさせる戦略ということで、例えば高速・大量の注文あるいは注文取消しで、他の投資家のアルゴリズムを反応させ、価格の急変動を起こそうとするような取引とされています。ただ、ここにありますように、不公正取引に該当するものは当然禁止されていますので、それに当たらないようなものという分類になります。

いずれにいたしましても、このような戦略に関しては、その前提となる情報をできるだけ早く入手して、それに基づいてできるだけ早く注文するということが重要となる投資戦略かと思われますので、アルゴリズムを用いた高速な取引で行われていると言われているところでございます。

このようなものがアルゴリズム取引であり、あるいは高速取引に用いられる投資戦略になるわけですが、1枚おめくりいただきまして、ここで、今回のワーキング・グループで取引の高速化を議論するに当たって1つ注意しておきたいことがあり、このページを入れております。HFTという言葉がよく使われますが、HFTという言葉には厳密な定義が、あるいは共通の定義があるわけではありませんので、使い手によって非常に曖昧な使われ方をする概念かと思われます。ここであえて広義のHFTと書いてございますが、このワーキング・グループにおいては、高速あるいは高頻度といった取引を全体的に捉えて広義のHFTとして議論していただければと思っております。

他方で狭義のHFTと書いてございますが、話し手によっては、HFTについて、「High Frequency Tradingを字義どおり捉えれば、非常に大量の注文あるいは大量の注文取り消しを高頻度に短時間のうちに行うような取引あるいはそういう取引を行う主体であろう」とイメージして、そこから連想される投資戦略は受動的なマーケットメーク戦略であり、そのような戦略をとっている者がHFTなんだというような捉え方をされる場合がございます。ただ、今回の議論においては、このような狭義のHFTではなくて、上にあるような、それにとらわれない、高速・高頻度の取引全体という意味での広義のHFTを念頭に置いてご議論をいただければと思っています。

1枚おめくりいただきまして、実際に取引の高速化とはどういうことなのかというイメージ図でございます。従来であれば、投資家から実際に注文がなされる場合に、一番上にあるように、証券会社に対して注文指示があって、それを受けて証券会社が取引所の取引システムに対して注文を出していくといったことがこれまでの通常の形態だったかと思います。それが、ITの進展とともに、できるだけ高速に取引をするというニーズを踏まえて、取引所の中に設けられたコロケーションエリアの中にある証券会社のサーバーに対して投資家が注文を出していって、証券会社が開発したアルゴリズムに基づいて自動発注されるというようなことも増えてきているということでございます。

さらには、投資家のほうが証券会社に自分の投資戦略等を悟られたくないというような動機もあって、コロケーションエリアの中に投資家みずからがサーバーを置いて、そこに投資家が開発したアルゴリズムを組み込んだり調整したりして、そこから自動的に取引システムに発注するといったようなことがだんだん増えてきているという状況にあろうかと思います。

スライドの下部の囲み部分にありますように、このように取引形態が多様化していく中で、投資家の取引に対する証券会社の関与が薄まっている、それから、証券会社や投資家の注文がシステム化されてきている状況をどう考えるのか。また、その結果、それらのシステムに起因するリスクが高まってきているのではないかといったようなことが1つ論点としてあり得るのかなと思っているところでございます。

もう1枚おめくりいただきまして、取引所と証券会社と投資家の関係でございます。投資家が証券会社を使って取引所なりPTSなりに注文を出していくわけですが、投資家も取引戦略を証券会社に悟られないようにといったような目的で、複数の証券会社に分けて発注するというような実態も増えてきているところでございます。

そうなりますと、例えばこの図でいえば、投資家Xは、証券会社Aに対しても、Bに対しても、Cに対しても注文を出している。それぞれまた違った戦略を出しているといったこともあろうかと思います。こうなりますと、証券会社Aは、投資家Xから自社に来る注文についてはわかりますが、投資家Xが他の証券会社に対して出している注文の内容は把握できないことになります。また、取引所においても、証券会社Aから来る注文は把握できるところでございますけれども、その裏側にどの投資家が存在していて、どういう注文を出しているのかといったことは正確には把握できない状況になっていようかと思います。

このような状況を踏まえますと、スライド下部の囲み部分にありますように、多くの投資家が複数の証券会社に分けて発注する実態があって、証券会社は個々の投資家の投資行動等の全体像を把握し切れない状況になっていますが、これをどのように考えるのか。また、このような状況のもとで、取引所やPTSも市場取引の全体像を十分把握し切れていないことがないかといったようなことも1つ論点になろうかというふうに考えております。ここまでのスライドで、高速取引やそれを取り巻くイメージをつかんでいただければと思います。

その上で、高速取引の現状についてでございますが、先ほどの図にもありましたように、その詳細はなかなか把握し切れないところでございますので、非常に大きく捉えた議論になってしまいますが、高速取引を行う者の多くが用いているであろう東証のコロケーションエリアからの取引が取引全体に占める割合でございます。注文件数ベースでは、足元では大体75%前後、約定件数ベースでは44%前後に上っております。

これが海外との比較でどのようになっているのかが7ページ目でございます。これも正確なところはなかなかわからない、統計データがないところでございますが、そのような状況の中で、この分野でよく用いられているのが、Tabb Groupの独自のヒアリングに基づいた調査でございます。アメリカにおいては約定株数ベースで大体5割弱ぐらい、それから、欧州であれば4割弱ぐらいといったところで、前のページの東証のコロケーションエリアからの約定件数ベースで45%というのは、ベースが必ずしも一致しているわけではないので正確なところではありませんが、その間ぐらいと言えなくもないような状況になっていようかと思います。以上が、この議論の前提となる高速取引やアルゴリズム取引の現状や概念整理についてのご説明です。

8ページ以降では、取引の高速化に係る経緯や、各国の対応等についてご説明をさせていただきます。まず8ページ目ですが、取引の高速化をめぐる主な経緯でございます。2010年ごろから、ここではちょっと曖昧な言葉で恐縮ですけれども、HFTが徐々に注目を浴びてきて議論が始まったところでございますけれども、2010年5月にフラッシュクラッシュといわれる事象が発生しました。このようなことを受けて、同年11月にG20のソウルサミットにおいて、IOSCOに対して、このような技術発展がもたらすリスクの抑制策について検討することが要請されたところでございます。翌年の2012年10月に、IOSCOがこの要請に対する最終報告書を公表したという流れですので、2010年、11年ぐらいから国際的にも議論が始まったと承知をいたしています。

翌年2012年8月にナイト・キャピタル社の誤発注問題が発生し、その後各国当局でさまざまな対応がなされたところでございますが、代表的なものとして、2013年5月にドイツにおきまして、高頻度取引に関する規制法案が成立、施行されました。それから、2014年5月に欧州で第二次金融商品市場指令等として、アルゴリズム取引に対する規制案が成立しております。また、2015年11月に、アメリカのCFTCが同じくアルゴリズムトレーディングあるいはオートメーティッドトレーディングに対する規制案についてパブリックコメントを実施した、という経緯になってございます。

経緯に関してもう少し詳しくご説明をさせていただきますと、まず議論の発端となったものが、1つ目はフラッシュクラッシュでございまして、9ページ目でございます。2010年5月6日に発生した事象でございます。5分ほどの極めて短い時間にダウ平均が500ドル以上の急激な値下がりを示した後、2分足らずで543ドル急騰するといったことで市場が大きく混乱した出来事とされております。先物市場で始まった価格変動が現物市場、ETFなどの関連市場に急速に伝搬して、20分間に個別株やETFなど多くの商品で5%から15%もの価格変動が生じたとされております。このようなことが市場で大きな混乱につながったと。これが国際的な議論の発端になったということでございます。

それから、もう1つ有名な事件が10ページ目のナイト・キャピタル社のシステム・トラブルによる誤発注でございます。これは2012年8月に起きた事件でございますけれども、一番下のポツにありますように、原因は、8台のサーバーに新たなプログラムを段階的に組み込む過程において、1台のサーバーにプログラムをコピーし忘れたことで発生したものだというふうに事後的には分析がなされているところでございます。

このナイト・キャピタル社というのは、下の※印にありますように、2012年1月から5月の期間では、米国の全株取引の11%に関与するような非常に大手の証券仲介会社でありました。

2012年8月1日に、2つ目のポツにありますように、数十銘柄の株式において明らかに安くなる異常な気配値が観測されて、ふだんでは取引されないような銘柄について通常の取引日に最も多く取引されるS&P500指数連動型ETFを上回るような取引が50銘柄存在するというようなことがあり、異常な注文が行われて、多くの銘柄でミニフラッシュクラッシュが発生したとされています。

この結果、ナイト・キャピタル社は、154銘柄の株式で400万回以上もの取引を成立させて、多額の買い越しポジションまたは売り越しポジションを抱えて、約4億6,000万ドルの損失をこうむることとなり、結果的に実質的な破綻というか他社の買収を受けることになったということでございます。

このような出来事を踏まえて、各国当局や国際機関等において議論が開始され、さまざまな指摘や懸念が示されたところでございます。それらは6つぐらいに大きく分けられようかと思いますけれども、それについてこれから幾つかご紹介させていただきます。

1つは、市場の安定性に与える影響ということで、相場の急変動やボラティリティの上昇とアルゴリズムを用いた高速の取引との関係についてどう考えるかといったことでございます。一般的には、オフィシャルなマーケットメーキングに携わるHFTは、流動性を供給することによってボラティリティを和らげることを助けているというふうにされておりますが、真ん中にありますように、プログラムエラーや予期せぬ大規模発注、プログラムの意図と異なる動きをするアルゴリズムによる連鎖反応を起こすことによって、ボラティリティを高めたり、市場の秩序を混乱させたりするリスクがあるのではないか。また、マーケットイベントにアルゴリズム取引システムが過剰に反応してボラティリティを増幅させてしまうリスクもあるのではないか。さらに、高速化は、意図せざる取引の結果が市場全体に広く影響を及ぼす潜在的なリスクを高めているのではないかといった指摘もなされているところでございます。

学術的な世界からの指摘としては、HFTがボラティリティを高めているか否かについては、さまざまな分析に見られるように賛否両論があるとスティグリッツ教授もされているところでございます。

12ページにありますように、キリレンコ教授の研究結果であれば、フラッシュクラッシュにおいて、真ん中にありますように、HFTがフラッシュクラッシュの変動を補助したといった実証分析がなされている一方、下にありますヘンダーショット教授の研究結果においては、これはフラッシュクラッシュの分析ではありませんが、ボラティリティの変動に応じてアルゴリズムが取引の取引量が有意に変動しているという証拠は得られなかったといったことで、このように賛否両論の実証結果が見られてございます。

昨夏以降、日本においても市場が急変動するといったことはたびたび起こったわけでございますが、13ページにありますように、この見方についても、マクロ経済的な要因とか、その他ファンダメンタルズに起因する要因が指摘される一方で、高頻度取引が影響しているのではないかといった両方の見方がされているところでございます。

14ページ以降、では、昨夏以降のボラティリティがどうだったのかについて一応お示ししております。まず日中1日でどのぐらいの変動が起きたのかといったことを、日中値幅という形で示させていただいております。これは、下の参考にありますように、日中高値から日中安値を引いた数値を中値で割った数値をそれぞれ足し上げて平均したものでございますが、2015年上期から下期、2016年と上昇してきているところでございます。

ただ、この数値でございますけれども、長い期間を見れば、例えば2008年、リーマンショックがあった年を通じて見れば、日中値幅の平均は例えば2.4%であったり、あるいはフラッシュクラッシュが起きた2010年であれば1.2%であったりということで、足元の数字が過去に比べてものすごく高い数字になっているということでは必ずしもないということは、口頭で恐縮ですが、補足をさせていただきます。ただ、去年の夏以降はどうだったかということを分析すれば、去年の夏以降上昇してきているという現象が見られてございます。

また、これは1日の変動でございますけれども、短時間での変動ということでどうかというのが15ページでございます。足元の日経平均株価の1分間の変動率の分布を見たものでございますが、1分前に比べて日経平均株価が何%動いたのかといった分析でございます。前のページと同じように、青が2015年上期、赤が2015年下期、黄色が今年に入ってからということになります。下の表にありますように、98%から99%は1分前からの変動率が0.2%未満になるわけですけれども、0.4%以上動くような事象がどの程度の頻度で起こるかに関していえば、去年の上期から去年の下期、今年にかけては上昇しているという状況はあります。ただ、この数値に関しても、過去の数字と比べて格段に現在が高いと言えるところまで行っているわけでは必ずしもないということを補足させていただきます。これはあくまでも足元のボラティリティがどうなっているかということでございます。足元のボラティリティとアルゴリズム取引の関係もなかなか分析するのは非常に難しいわけでございますので、あくまでもご参考ということでございます。

16ページに掲げておりますのは、緑がボラティリティインデックスの推移でございます。赤がコロケーションエリアの中から来た注文の約定した注文数に対する割合、要するに、約定数の何倍注文しているのかをあらわしたグラフでございます。青色の線が、コロケーションの外から来た注文について、約定数の何倍注文しているかをあらわしたグラフになってございます。これを見ますと、ボラティリティが急に上がったときに青の線と赤の線とどちらが連れて変動するかに関しては、赤の線のほうが変動しているということが見てとれます。ただ、これも因果関係を説明するものではございませんで、あくまでもどちらのほうが相関が高いかといったことをご参考までに示したものでございます。実証分析では必ずしもないということでございます。

実証分析という意味では、もう1枚おめくりください。日本の市場についての実証分析はなかなか数が少ない、あるいはデータの制約から分析できる範囲がいろいろ制約されるわけですが、その中で比較的に詳しいデータを用いたものとして引用されるのが、JPXから発表されているワーキングペーパー「東証におけるHigh Frequency Tradingの分析」です。

この分析に基づくと、下のほうの取引の特徴でございますけれども、HFTは取引時間中の流動性を供給する発注が多いというような特徴が見られる、あるいは一番下にあるように、価格変動を抑制する方向での注文金額の割合が高いといった特徴が見られるという分析結果になってございます。ただ、1点注意しておきたいのは、最初にある本分析におけるHTFの定義でございますが、注文執行比率が25%未満であり、かつ注文取消率が20%以上の条件を満たすものでございますので、最初のほうに申し上げた広義のHFTか狭義のHFTかという意味では、どちらかといえば狭義のHFTに近いものを定義した上での分析かなとも思いますが、そのようなものとしてこのような特徴があらわれているといったことがございます。以上が、市場の安定性に与える影響の指摘と、それにまつわる現状あるいはそれに関する分析の御紹介でございました。

あと5つほど指摘あるいは懸念が示されているところでございます。2つ目として、市場の公正性に与える影響ということで、アルゴリズム取引が不公正な取引に用いられているのではないのかという点でございます。欧米とは違って、市場の分断等の度合いが日本では少ないということもありますので、それを不当に利用する取引は限定的ではありますけれども、我が国でもアルゴリズム取引を用いたり、アルゴリズムに働きかけたりするような相場操縦事案の勧告事例が既にあるところでございます。時間の関係もありますので説明は省略させていただきます。

20ページにありますように、各国においても、アルゴリズム取引の技術が不公正取引に利用される可能性があり、HFTの技術的な優位性がより大規模な不公正取引を可能にしている懸念があるというような指摘もなされているところでございます。

それから、3つ目の視点での指摘あるいは懸念が21ページでございまして、市場の効率性に与える影響でございます。アルゴリズムを用いた高速な取引の是非はともかくとして、過度なスピード競争のためにコストや労力をかけることは市場の効率性を高める上で意味があるのかといったような指摘あるいは懸念でございます。

具体的には、下にありますように、2つ目のポツでございますけれども、他者にみずからの注文を察知されて先回りされる懸念を認識した投資家は、これを回避するためにコストをかけて、察知しようとする側もその能力を高めるためにコストをかけてシステム開発を行うわけですが、これは社会全体にとって見ればどういう意味があるのだろうか。3つ目のポツですけれども、特に株式市場は、資金の出し手と受け手を結んで資本の効率的な配分をする機能を担うものでありますけれども、他人よりもわずかに早く情報を得て発注するといったことがこの機能との関係でどういう意味を持つのだろうかといったような指摘がなされているところでございます。

それから、4番目の視点が22ページでございます。アルゴリズムを用いた高速な取引が高速性を生かして一般の投資家よりも過度に多くの利益を得るとすれば、投資家に不公平感を与えることとならないかといったような観点からの指摘でございます。ただ、公平か公平じゃないかといったことは価値判断に属するような話でありまして、不公正な取引は明らかに問題だと考えられるものの、全体としては非常に難しい問題ではなかろうかと思いますが、こういうような指摘がなされているところでございます。

それから、23ページ目でございますが、5つ目の視点からの指摘として、企業価値に基づく価格形成に与える影響ということです。アルゴリズムを用いた高速な取引のシェアが相当程度を占める株式市場では、中長期的な企業の収益性に着眼した価格形成が阻害されるということがないか、との指摘でございます。真ん中、3つ目のポツでございますけれども、HFTの戦略の多くは超短期的であり、短期的にファンダメンタルズから乖離した株価の動きをもたらして価格発見プロセスを阻害している可能性があるといった指摘がなされているところでございます。

それから、6つ目の視点からの指摘、懸念が24ページでございまして、システム面に与える影響でございます。万が一の場合、システム面でのトラブルが市場に大きな問題を引き起こすおそれはないかといった指摘でございます。具体的には、一番下のポツでございますけれども、IT技術の進化が、自動化されたシステムに伴うオペレーショナルリスクを高めているのではないか。例えば誤発注、急停止、遅延、不法侵入などのリスクが高まっているのではないか。ある主体における一見すると小さなシステム上の問題が、瞬間的に市場参加者の損失、負債を生ぜしめ、それが市場システム全体に広がって、市場参加者や投資家に広範な損害を与える可能性があるといったような指摘がなされているところでございます。

このような大別すれば6つほどの視点からの指摘や懸念が示されているところでありまして、そのようなことを踏まえて各国においてさまざまな対応がなされてきているところでございます。真ん中にございますように、基本的に投資家が証券会社に注文を出し、それが証券会社から取引所に注文されて執行されるわけですけれども、このいろいろな場面をとらえてどのような観点からどういう対応、規制がなされているかを整理したものです。上半分が欧米で実施されている規制、下半分が我が国で実施されている規制でございます。

左側から参りまして、価格の急変が増幅しないような防止措置については、欧米の取引所において例えばサーキットブレーカーとか、誤発注取消しルールが導入されていまして、日本でも同様の趣旨からの対応が既になされてきているところでございます。また、アルゴリズムを用いた高速な取引自体を抑制する等の観点から、EUでも日本においても、取引所レベルで、例えば注文回数への課金がなされているところでございます。

さらに、市場の混乱をきたすようなシステム発注の排除ということで、右側にございますけれども、証券会社自身のシステム管理とか、あるいはネイキッドアクセスの禁止とか、取引記録の保持義務といったことが欧米でも実施されておりますし、日本でもそれに関しては対応がなされてきているということでございます。ただ、少し上のところに書いてございますが、投資家自身に対する登録義務等に関してEUで導入予定となっておりますが、ここについてはまだ日本ではその対応がなされているわけではないというのが現状かと思います。

この投資家に対する対応の詳細が26ページでございます。欧州の第二次金融商品市場指令等においてアルゴリズム取引規制の導入が決定されて、2018年1月から実施予定になっているということでございます。具体的には、高頻度アルゴリズム取引技術を利用する投資家を登録制とした上で、体制整備、リスク管理義務を課すとともに、当局に対する通知あるいは情報提供義務を課すという内容になっているところでございます。

もう1枚おめくりいただきまして、アメリカのCFTCによる、デリバティブ取引に関する規制でございます。EUと枠組みとかたてつけは若干異なるところがありますが、趣旨が類似した規制について、パブリックコメントが実施されてきているところでございます。直接電子アクセスを利用して自己勘定でアルゴリズム取引を行う業者に新たに登録義務を課した上で、体制整備・リスク管理義務、あるいは当局に対する情報提供義務を課す内容になっております。

このように各国当局において検討が進められてきているということを踏まえて、最後に、今回のこのテーマに関する論点としてこのような観点から御議論いただければということでまとめさせていただいております。

まず今申し上げた6つの視点からの指摘、懸念についてどう考えるのか。具体的には、市場の安定性、市場の公正性、市場の効率性、それから、投資家間の公平性、企業価値に基づく価格形成、システム面への影響についてどう考えるのかという論点が1つあろうかと思います。

また、一番最初のほうでご紹介いたしましたが、取引形態が多様化していく中で、投資家の取引ニーズに対する証券会社の関与が薄まっている、それから、証券会社や投資家の注文がシステム化されてきている状況をどう考えるか。また、その結果、それらのシステムに起因するリスクが高まってきていることはないかといったような観点からもご議論いただければと思います。

また、取引所や証券会社も、個々の投資家の投資行動の全体像を把握し切れないといったような状況をどう考えるか。このような状況のもとで、相場の急変動や無秩序な市場の動きがあっても原因分析ができないことになってはいないかといったような観点からご議論いただければと思います。

1枚おめくりいただきまして、年金基金、個人を含めた多様な投資家を呼び込んで市場の厚みを増すといったことが本来の多様な流動性を確保した上での市場の厚みかと思いますけれども、仮にこうした状況が放置された場合には、その市場の厚みを増すという動きに水を差すということにならないかといった視点からの議論もあろうかと思います。

それから、多くの投資家の取引がアルゴリズムで自動化、高速化されている状況のもとで、異常な注文・取引やサイバー攻撃等の影響が、瞬時に市場全体に伝播するリスクをどう考えるのか。

さらには、取引所や証券会社を通じた規制・監督のみでこれらのリスクに対応可能と考えられるか。例えばこれらのリスクを回避すべく、関係者の適切な取組みを促すということでそういった取組みの実効性等を検証していくこと等が必要ではないかといったような視点もあろうかと思います。

最後に、取引の高速化への対応については、諸外国における高速取引の状況や規制の動向も踏まえた検討も重要ではないか。

このような論点、必ずしもこれらの論点にとらわれないものもあろうかと思いますけれども、このような観点からご議論いただければと思うところであります。私からの説明は以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

なお、本日ご欠席の宮本委員から書面にてご意見の提出をいただいておりますので、お手元に配付させていただいております。

それでは、今の事務局からのご説明を受けて皆様方にご議論をお願いしたいと思いますけれども、今ご説明があった資料の最後の2ページに論点が挙げられております。これらの論点に限っていただく必要はありません。しかし、そこでは、6つの懸念についてどう考えるかから始まって、今ご説明あったとおりですけれども、論点を提示していただいておりますので、皆様方には、この論点、またそれ以外の論点でも結構ですけれども、そうした論点をお出しいただいて、ご意見をいただければと思います。ご質問もあろうかと思いますし、初回ですのでなかなかすぐに難しい議論に入れるかどうかということもはあるかもしれませんけれども、どなたからでも、どの点についてでも結構です。いかがでしょうか。

有田委員、どうぞ。

【有田委員】

ブラックロックの有田でございます。多くの先生方がご出席されている中で私のような者が口火を切ると申しますか、最初に発言するのも逡巡するところではございますが、一方、ブラックロックというグローバルな運用会社で業としてお客様のご資金の運用に特化しておりまして、日々マーケットに接しておりますのもおそらくユニークな立場だと思いますので、まず最初に私の考えるところあるいは所感を述べさせていただきたいと思います。また、皆様のこれからの議論のたたき台としていただければなと思っております。

まず、申し上げたいことは2点ございます。1点目でございますが、高速取引、HFTというのは一般にはなかなか正しく理解されていないと思っております。2点目は、一方でマーケットにおける実務としては実に存在感のある取引主体あるいは取引手法でございまして、私どもが日々直面している大問題であるということでございます。

最初の第1点目の、一般にはなかなか理解されていないという点でございますが、確かに近年メディア等でHFTに関する記事も散見されますし、社会的な関心が高まりつつあると思います。しかし、高速取引と一言でいっても、それが高頻度取引のことなのか、あるいはアルゴリズムを使った取引手法のことなのか、その取引の実態につきましてはなかなか踏み込んだ報道もされないまま、情報がやや断片的であるがゆえに、ややもすると、HFTなるものは、不公正にマーケット情報を一般投資家より早く入手して、かつ異常なまでに高頻度の回転売買を繰り返すことによって不当な利益を得ている取引主体だ、という印象が先行してしまうというのが実情なのではないでしょうか。

その意味で、ただいま齋藤市場課長からいただきましたプレゼンテーションの内容は、非常に網羅的でございまして、かつバイアスのないもので、わかりやすい内容であったと思いますし、今後皆様と議論を深めていきたいポイントが幾つも内包されていると思います。改めて感謝いたします。

私たちは市場に参加する者として、社会のイメージが一方的にならないように、HFTが行っていることをさらに詳しく理解して正しい情報をまず発信していく必要があると考えております。ちなみに、中長期投資家の立場として実務上の私どもの印象を端的に申し上げますと、ここ数年で、いわゆる最良執行という意味におきまして、ブラックロックにおける国内株式の取引執行コストが上昇しているという内部の分析結果はございません。それが第1点目でございます。

第2点目の、マーケットでは実に存在感のある取引主体であるという点ですが、ただいまのプレゼンテーションにもございましたように、発注件数の7割、約定件数の約4割5分を占める取引主体、取引手法になっているわけでございまして、こういった1つのブロックに対して、私どものような他の取引参加者あるいは監督当局が無頓着のままでい続けることはできないのではないかなというのが私の考えでございます。

そもそも市場というのは非常に、いってみれば微妙な思惑のバランスで成り立っているものでございまして、1つのプライスに対して買う人と売る人がいるということは、双方ともに非常に不安定な、あるいは不安を抱えながらのバランスでございます。そういったところに何らかの形でショックが与えられますと、ちょうどバランスボールに乗っている人がバランスを一旦崩すと転げ落ちるかのようにマーケットが一方向に変動してしまうということは、今に始まった話ではございませんが、多く見られる現象だと思います。これが例えば企業業績とか経済指標のサプライズによってなされることもございますけれども、最近ではアルゴリズムのバグであったり、何らかのシステム上の欠陥によってそのような事態が誘引されるケースも増えていると理解しております。

HFTというのは、定義上、アルゴリズムを使った取引でございますし、高頻度でシステムを使って自動的に発注を繰り返すというグループでございますので、そのHFTが使用しているプラットフォームが頑強なものであるかどうかというのは、もはや取引主体に任せておくだけのことではなくて、社会の仕組みが機能するために、当然ほかの大手の取引参加者が行っているのと少なくとも同等のチェックをする必要があるのではないかなと考えております。

詳しいことはこれからの皆さんの議論の中でさらに私の考えあるいは理解をご紹介したいと思いますけれども、結論といたしましては、健全な市場の発展に向けて、彼らのプラットフォームが頑強であることを確認し、取引の実態をさらに詳細に把握する仕組みが何らかの形で必要なのではないかというのが私の考えです。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

大崎委員、どうぞ。

【大崎委員】

ありがとうございます。私、考え方としては今の有田委員のお話にほぼ全面的に賛同するという感じなんですが、ただ、私はちょっと有田さんよりは人が悪いというか性格が悪いものですから、有田さんはこの資料のまとめ方が非常にバイアスがないとおっしゃったんですけれども、私は若干バイアスをもってまとめていただいたのかなというふうに率直に思っております。それは決して事務局を非難しているわけじゃなくて、どうしてそういうバイアスがかかったのかというのは理解できるんですが、その点について補足的に申し上げたいんです。

有田さんが先ほど冒頭、このHFTなりアルゴリズムを利用した高速取引が出てきたことで長期的な運用をされる方が大きな損をこうむっているという事実はないんじゃないかという認識でおられるとおっしゃったんですが、この資料ですと、やっぱりいろいろ懸念があるよという話ばかりで、じゃ、何のために高速取引をやっているのかという大前提が実はここには説明がないんです。それはよく流動性の供給に役立っているという説明がされて、それはそれで正しいと私は思っておりますが、もう1つすごく大事な点として、高速処理ができることによって、処理できる取引の数が絶対的に増えているということをやっぱり忘れてはいけないんじゃないかなと思っております。

かつては東証のシステムは1件処理するのに数秒かかるというようなことがあったわけで、そうすると、同じ値段で売買しようにも、投資家の数によってはずっと待たされるということになって、なかなか注文が処理されないうちにファンダメンタルの変化が起きて価格がまた変動していくというようなこともあり得たわけです。やっぱり高速処理が可能になったからこそ、ファンダメンタルな変化も瞬時に反映しやすくなっているという、これは忘れてはいけないんじゃないかなという気がします。その意味で、速度を遅くする必要があるというようなメッセージをこの資料からもし受け取ってしまう人がいるとすると、それは非常にまずいなと思った次第です。

それからもう1点は、いろいろな大先生が懸念を表明しておられると。ノーベル賞の方なんかも出てきてということで、それはそれでもちろん事実だと思うんですが、ちょっと気になりましたのが、この幾つかのポイントのうち、企業価値に基づく価格形成に影響があるというポイントについてです。これは今後議論していく必要がある点ではあると思うんですけれども、現物株式の取引でないものにもこのHFT、高速取引は対応しているということも事実であります。例えばデリバティブの取引ですね。そういったときには、この問題点は全く関係ないはずであります。つまり、デリバティブを高速取引することによって企業価値に基づく価格形成が妨げられるというのはちょっと考えにくい話でありますので、この観点だけからやっぱり規制をこういうふうに設計しなければいけないとかいうふうにやってしまうと、思わぬ波及効果がほかの取引に及びかねないのじゃないかなというのをちょっと心配するという次第です。

それからもう1点、投資家間の公平性という論点についてです。速い取引ができる人に先回りされてしまって何らか損をするという思いを抱く人がいるかもしれないというのは事実で、これ、私、アメリカでもいろいろインタビューなんかしたんですけれども、それはそういう思いを持つ人がいるだろうということは言っている人がいました。ただ、例えば長期的な投資家がある株を1セント高く買わなければいけなくなったからといって、それがどれほどの問題なんだろうかという言い方をする方もまた一方でおられました。そこのところは考える必要があるんだろうと思っています。

また、公平性が欠けているかということなんですが、きょう東証の方も来ておられるので、多分私が言っているのは間違っていないと言ってくださると思うんですけれども、東証で例えばコロケーションを利用しようと思ったら、理論的には、私でもお金払って申し込めば多分使わせてくれるはずだと思うんです。ただ、私がそんなものを使っても、それを有効に活用するシステムをつくるお金も何もないので、全くの無駄金になって意味がないので使わないということでありまして、決して何か差別的に行われているということではないんじゃないかなと。

この公平性ということで、アメリカで問題になった、例えば情報フィードの速さがもともと違うものが存在していて、しかも一般に利用できるフィードが非常に遅かったというような、本当に公平性の観点から問題がありそうな問題が日本にもあるのであればそれは考えなければいけないと思うんですが、そこは単純に、速い人に先に値段のいいやつをとられてしまったということだけに問題を集中してはいけないなと思う次第です。ちょっと長くなりましたが、今のところ以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。

どうぞ、濱口委員。

【濱口委員】

企業年金連合会です。我々は日本株に約2兆円投資しておりまして、うち1兆円がインハウスで直接市場で取引しております。したがって、健全な日本の株式市場の発展というのは言うまでもなく非常に重要なわけですが、その観点で言いますと、今回の議論の対象になっているHFTをはじめとして、いろいろな市場取引のイノベーションは健全な市場の発展に不可欠だと思っていますので、基本的には歓迎という立場です。一方で、近年、HFTについていろいろな議論が世界的にされているのは事実ですので、そのような問題について状況を把握する、精査する必要は当然あると思います。

先ほど事務局のほうからプラスマイナス両論のご紹介がありましたが、それは大崎さんもおっしゃったように、どちらかというとマイナスのほうが分量が多かったように思うのですが、私は、実情は状況によると思います。状況によってプラスにもマイナスにも動き得ると。かつ、状況に対する反応というのはどんどん変化していくというか、進化していくというか。だから、今は大丈夫ですといっても、将来問題になることは十分にあると考えます。

それで、このHFTの規模、これもご紹介があったようなレベルですと、ここまで拡大しているということであれば、万一、マイナスの方向に動いたときの影響は相当なものになるという覚悟をしておいたほうがいいと考えます。特に怖いのは、平易にいえば、いわゆる連鎖反応でして、また、いわゆる合成の誤謬と呼ばれるような現象のわけですが、それぞれの主体もしくはそれぞれのコンピューターというか、それぞれのプログラムは適切でも、皆が例えば同様のパターンで動くと結果としては逆効果になるといった現象のことです。

私は長年この仕事をしているので古典的な例で恐縮ですが、でも、わかりやすいので申し上げますが、87年にブラックマンデーというのがございました。そのときにポートフォリオインシュアランスというものがありまして、それが原因だということが言われたわけです。簡単にいいますと、リスク回避のために、自動プログラムでマーケットが下がるにつれてどんどん売っていく、売りのオーダーを出す訳ですが、みんなが同じプログラムを使っていたので、結局売りが売りを呼んで余計にマーケットが暴落してしまった。それで、みんなの損失が拡大したというもので、典型的な合成の誤謬なわけです。その反省に基づいていろいろ業界では対応が考えられたと思われますが、結局リーマンショックのときも同じような現象が起こったということも言われています。

今、特に私が心配していますのは、実は我々普通の機関投資家自体の投資行動も、ある意味ではプログラム化もしくはシステム化が一部で進んでおります。いろいろな呼ばれ方をしていますが、クオンツ運用とか、もしくはファクター投資とか、それから、フィンテックの世界ですとAI運用だとか、個人向けのロボアドバイザーとか、いろいろな呼ばれ方をしていますが、そういう傾向が強まっているということで、結果として、個別銘柄の値動きにもう相当ゆがみが出ているという見方もございます。

こうした投資行動自体、これは必ずしも高速ではないでしょうが、でも、プログラム化しているので自動化という意味ではそれに近いんですが、それと、今議論になっているHFTの取引行動、これの相乗効果がどういうものになるのか心配です。私はちょっと心配し過ぎだと思いますが、例えば仮にリーマンショックのようなことが起こるとか、もしくは例は悪いですが、東日本大震災のようなことが起こったときにどのような影響になるのか。前回と同じようなレベルでとどまるのか、私は個人的には非常に心配しています。

したがって、全体像を把握するのは非常に重要だと思っています。ご説明では、必ずしも全体像が把握できていないというようなことなのであれば、必要に応じて状況を分析して、動けるような態勢を整備しておくのは絶対必要だと考えます。念のために申し上げますと、何もすぐにHFT業者の行動を規制すべきと言っているわけではなくて、総論としては規制緩和に賛成なわけですが、少なくとも監視体制は整えて対応できるようにしておくということは大事だと思います。

特に欧米の当局がその方向で動いているというご紹介でしたので、その中で日本だけ何もしないというのは、これは明らかにまずい。結果として、ほかの市場で動きにくくなったので、仮に悪質な業者がいたとして、それが皆、日本の市場をターゲットにしてくるというような事態は、それは絶対避ける必要があるわけです。この関連でいいますと、EUとか、あと、アメリカのCFTCの対応のご紹介がありましたが、肝心のSECは何を考えてどう対応しようとしているのか。金融庁のほうでいろいろコンタクトをされていると思うので、参考までにご紹介いただければありがたい。

最後に、そのような監視体制をどういう形で整えるかということですが、取引所、証券会社にも当然一定の役割は負っていただく必要はあると思います。ただ、HFT業者というのは手数料を払ってくれる重要なお客さんでしょうから、そういう利害関係がある中で、やはり自主規制の体制が整えられているとはいえ、その効果にはおのずと限界があるように思います。株式市場全体の機能の効率性とか健全性を維持、発展させるという観点でいいますと、金融庁とか、証券取引等監視委員会のように直接利害関係がない、純粋に中立的な機関が一定の機能を備えて、全体を俯瞰して対応する必要があるのではないかと思います。

金融政策で言われるマクロプルーデンスのような対応かもわかりませんし、もしくは独禁法で公正取引委員会が果たしているような役割かも知れません。基本は自由、ただ、市場全体を見て、市場全体の機能の観点から、必要であればブレーキを踏むというようなことではないでしょうか。正直、監視体制を整えたからといって、どれだけ負の影響を抑えられるのか多少疑問はあります。というのは、そこに使われている市場の世界の人的、賃金的リソースはすごいですから、多分監視体制をくぐり抜けていくようなことはいくらでも起こると思います。ただ、言い方は悪いですが、ないよりは絶対あったほうがいい。ないと、何か大きな影響が起こったときに、何が原因だったのか分析もできないわけですし、事後的な対応もできないということになりかねない。事前にそういう体制を整えておくというのは必要だと思います。以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

アメリカについてのご質問がありましたけれども。

【齋藤市場課長】

ご案内のとおり、アメリカにおいては、デリバティブ市場に関してはCFTCが、現物市場に関してはSECが所管をしております。先ほどCFTCのほうの対応についてご説明しましたので、今のご質問は、現物市場を所管しているSECの対応についてということかと思います。

1つには、既に導入されているものとして、大口投資家報告制度がございます。大口投資家、1日に例えば200万株以上の取引をしている者に対して、大口投資家のIDを取得して、ブローカー、ディーラーにIDを報告し、SECからの要請に応じて情報提供をする義務を課すといったような制度が1つございます。

それから、アメリカでは、諸般の事情から、いわゆるHFTと呼ばれている投資家も、日本でいうところの証券会社としての登録をしているケースも比較的多い状況になっております。つまり、そういう意味では、例えばシステムリスク管理義務とか体制整備義務が証券会社として課されているというようなことがございます。

最近のSECの規則の改正案として、これまで一部、HFT等のトレーディング業者に関して、FINRAという、日本でいえば日証協に近いのかもしれませんけれども、自主規制団体への登録が免除されていた業者がおりましたが、その免除規定を原則廃止して、HFT等のトレーディング業者に関しても原則FINRA登録の対象にするといったような規則改正案が出されているところでございます。そういう意味では、欧州のMiFIDと完全にパラレルのような形での規制ではありませんが、別途の形で規制を課すというような動きがあるということでございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、池尾委員、黒沼委員の順番で、池尾先生からどうぞ。

【池尾委員】

どうもありがとうございます。大崎さんの先ほどの意見を聞いていて私も思ったんですけれども、そもそもHFTに社会的な存在意義があるのかどうかということをちゃんと確認しておく必要があると思います。これだけ規模が大きくなったということは、個別の観点からすると、利益が上がるというようなことがあるから拡大してきたということだと思います。

ただ、そういう個別の観点からいってもうかることだとしても、それは自動的に社会的にも存在意義があるということを意味するわけではないので、本当にその存在意義があるのかないのか。仮に存在意義が大してないのであれば、禁止してしまえば済む話のはずです。こういう議論をここでもやっているし、ご紹介があったように諸外国でいろいろ議論しているということは、それなりの大きな社会的存在意義のようなものがやっぱりあるということだと思います。

事務局の説明資料で指摘されているように、さまざまな弊害とかそういう可能性もあるんだけども、やっぱり基本として何か社会的な存在意義が現としてあるからこそ、繰り返しになってしまいますけれども、議論しているんだと思います。ところが、HFTが持っている社会的な存在意義とは何かということが、今のところ全く不明確という感じのところがあって、やっぱりそこのところを我々ちょっと詰めないと、議論が生産的にならないんじゃないかなというふうに思いました。

それで、私はどう考えるかですけれども、そんなにまとまった考えを持っているわけではないんですけれども、やっぱりある種のアービトラージが非常に徹底して行われるような状況をもたらしたということだと思います。アービトラージというのは、いろいろなところにゆがみがあるのを利用してもうけようという行為ですよね。だから、アービトラージを行うことによってゆがみそのものを解消していくということであって、だから、ゆがみが急速に解消されるような状況をもたらしているということは社会的にも非常にある意味意義のあることだというのが基本じゃないかと思います。

ただ、アービトラージはその点ではジレンマがあって、ゆがみを利用してもうけるんですけれども、そういうことをやるとゆがみがなくなるのでもうけのネタがだんだんなくなってくるというようなところがあって、そうすると、自分でゆがみをつくり出すようなことをする人が出てくる可能性がある。マーケットにそもそもゆがみがあって、それをアービトラージを使ってもうけようということで結果的に解消しているという段階では、取引についてはポジティブに捉えておけばいいと思うんですが、そういう活動がかなり大規模に行われてくると、ゆがみがほとんど見当たらなくなって、今後HFT取引とかの規模が今までどおりの調子でどんどん伸びていくのか、ちょっと停滞していくのかというようなことが、それとの関連では問題になると思いますけれども、もし停滞していって、ゆがみがそんなに転がっていないという状況になると、自分でゆがみをつくり出すような人が出てきかねないという懸念はあるかなというふうに思いました。とにかくどういう意義があるのかということを押さえておかないと、議論としてうまくないんじゃないかということです。ちょっと雑駁になりましたが、以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、黒沼委員、林田委員の順で。黒沼先生、どうぞ。

【黒沼委員】

HFTをめぐる問題というのは、アルゴリズム取引という点から生じる問題と、情報の格差といいますか、スピードの問題から生じる2つがあると思うのですが、今日いろいろとご紹介いただいた諸外国でとられようとしている規制というのは、これはアルゴリズムから生じる問題には対処しているけれども、直接スピードから生じる問題については対処していないと思うのです。その問題についてこのワーキングでできるかというと、それは非常に難しい問題なので、必ずしもそこまで期待はしていないし、自分自身の考えもまとまっていないのですけれども、その問題もやはり押さえておく必要はあると思います。

個別にいうと、先ほど大崎委員が言われた、投資家間の不公平感なのか、不公平なのかという問題であります。HFT業者というのは、取引情報を早く入手することができて、その取引情報がほかの投資家に知られるよりも前に注文を出したり取り消したりすることによって利益を得るわけです。そうすると、ある一時点を見ると、一般の投資家が持っている情報とHFT業者が持っている情報は違うわけです。その情報の格差を利用して利益を上げている。それで利益をあげることができるというのであれば、他方で損失をこうむっている者がいるわけです。

その利益が正当化できる利益なのかというのを突き詰めて考えると難しいのですけれども、1つの考え方は、HFT業者は流動性を提供しているとか、ボラティリティを減少させていて、先ほど池尾委員が言われたように、存在意義があるからそういう利益を得ていいんだという議論もあり得るかと思います。しかし、HFT業者というのは別に公認マーケットメーカーではないので、マーケットメーカーとしての義務を負っているわけではないんですね。

そういった点をどう考えるかというのは非常に重要な問題でして、今のようなことはスピードから生じている問題なので、例えばスピード制限をかけるような、これは従来の規制からいうと、不公正取引規制とかそういうものに類するものだと思いますけれども、そういうものも本当は考えていく必要があると私は思っています。ですから、登録制にして透明性を高めておかしなことが起こらないようにするというだけでは今のような問題は根本的には解決しないので、そういう点ももしできれば今後とも議論し、あるいはいろいろな資料があれば出していただきたいなと思っております。以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

林田委員、どうぞ。

【林田委員】

ありがとうございます。専門家の皆様とは私ちょっと趣を変えまして、一個人といいますか、個人の目線から申し上げたいと思います。先ほどの事務局のご説明を聞いておりますと、現在の市場というのは、高性能コンピューターで武装したプロ同士が熾烈な戦いを繰り広げている現代戦の戦場のような印象を受けまして、丸腰の個人なんかがのこのこ行くとひどい目に遭うんじゃないかというような印象を何となく受けましたし、多分そういうような目でこの問題を見ている人も少なからずいるのではないかなという気がしています。

ニュースにもなりましたフラッシュクラッシュのようなことが頻発するということになりますと、やはり個人レベルの投資家はかなりそれを恐れて、どうも敬遠する。そうしますと、せっかく貯蓄から投資という流れをつくろうと、それを経済活性化に役立てようというこれまでのいろいろなレベルでの取組みも、なかなか実現というのがさらに遠のいてしまうのではないかなんていうこともちょっと心配だなという気がしておりますので、不測の事態が起きないように何か防止策を講じるとか、起きた場合の影響を最小限にとどめるとか、そうした何かやろうという今回の議論というのは進めていく価値があるなと考えております。

それから、先ほど公平性についてはそんな差別はしていないというお話がありまして、多分そのとおりなんだろうと思いますけれども、今申し上げたように、何となく不公平感というような、戦っても勝てないというか、何となく個人では太刀打ちできないというような不公平感みたいなものも、そういった誤解のようなものがあるんだとすれば、これも市場から遠のいてしまう原因になってしまいますので、そういうものが誤解であれば、それを解けるように、取引の実態としては今どういうことが起きているのかというのがよりわかるような何か手立てを講じていく必要もあるのかなと考えています。

ただ、もう一方の観点からいいますと、取引システムの高度化というのはやっぱり時代の流れでありまして、それ自体は市場取引の厚みを増すとかいろいろなメリットも考えられるし、実際にあるかと思います。ですから、時代を逆行させるようにそれをやめてしまおうとか、逆方向に引っ張っていこうというのは、あまり現実的ではないし、そうするべきでもないのかなと思います。グローバルな市場間の競争もありますし、そういった観点では逆行はさせないほうがいいのかなと。そこでどう知恵を使うかというのがここでの議論の中心になるのかと思います。

具体的な対処策を私がここで申し述べるほどの知見がなくて非常に残念なんですけれども、やはり国際的な整合性とか、欧米で先行事例があるようですので、それをめぐる市場関係者等の反応、あるいは現時点で予想される効果とか副作用、そういった点を総合的に勘案して、そう先を急がず、漸進的に改革を進めていくというスタンスで行ったらいいのかなと感想として思いました。以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

永沢委員、どうぞお願いします。

【永沢委員】

ありがとうございます。私も一個人投資家の立場から素朴な感想を幾つか述べさせていただきたいと思います。プロの方のご発言の後に申し上げるのはとても恥ずかしいのですけれども、一個人の投資家の意見もこういう場では期待されているのだろうということで申し上げさせていただきたいと思いますが、整合的ではないですし、論理的でもないので、その点はご容赦いただきたいと思います。

まず1つ目ですけれども、6ページ目のグラフにつきましては、総会でも質問させていただきました。注文件数ベースと約定件数ベースの差があることにつきまして、このグラフを見ましたときに、まず率直な感想として、一般個人投資家は取引ができたときにしか手数料を払わなくていいというのが頭にあったものですから、高速取引を行う人たちはフリーで東証のシステムに負荷をかけているのかと、そのように思っていたのですが、後で取引所関係者の方からご説明いただきまして、約定が成立していなくても、約定を出すだけで、課金を支払っている、つまり一定の費用を負担してシステムを使っているんだということを知りました。個人投資家としてこのグラフを見たとき、高速取引を行う投資家はフリーライダーのように思いましたが、それは誤解であったということをまず申し上げておきたいと思います。

とはいうものの、東証というのは非常に重要なインフラだと思っておりまして、特に日本の場合には取引所は東証に集中しているのではないでしょうか。もし東証のシステムに何かがあったときには、その波及効果というのは計り知れないのではないかという不安はあります。高速取引を行う投資家のシステムに万一バグがあって、そこから東証のシステムにおかしな発注が出ていったときに、まず証券会社、そして、証券取引所でその注文を止めることができるやに聞いておりますけれども、そのようなゲートキーパーという役割を本当に高速取引の中でできるのだろうかという点は、原発の事故が起きたこともございまして、非常に素朴な疑問と言いますか、不安を投資家としては感じるところでございます。

万が一起きたときには、こういう取引を出した方も破綻するでしょうし、もしかしたら証券会社も破綻されるのかもしれませんけれども、それだけではおそらく済まなくて、社会全体で想定外の被害をこうむるということもあり得るのではないかということを、ナイト・キャピタル社というアメリカで起きた事件などの資料などを拝見しまして思った次第です。それが第1点目でございます。

それから、2点目ですけれども、高速取引を行う投資家の取引が流動性を供給してくれているということも確かだと思っておりまして、注文が成立しやすくなって、個人投資家にとってもストレスが小さくなるという効用もおそらくあるのではないかなと思いました。

ただ、その一方で、本日お示しいただきました資料によりますと、1日のボラティリティが最近上がっているという指摘がありました。これが高速取引が原因かどうかということはわからないと思います。ここのところ想定外の大企業の不祥事のニュースが急に出てきたりしておりますので、高速取引だけが原因ではおそらくないんだろうとは思いますが、個人投資家としては、最近の相場というのは、前の日に注文を出して、次の日の昼間見て、夕方また見たときに、きょうは何があったのか、なぜこのように相場が動くのかがよくわからないというぐらい、1日の変動はやはり大きくなっているとは感じております。

個人の投資家にとってみると、このような変動の大きい相場というのは、もしこの原因が高速取引だということになりますと、これはやはり構造的な問題であり、個人の投資家は入ってはいけない市場なのかなという感想を持つ人が出てくる可能性はあると私は思っております。それは1つ懸念しなくてはいけないことで、この相場の変動の原因が高速取引が原因なのかどうかというところもはっきりしないということは踏まえたことで、その辺の関係よくわからないんですが、今の相場の状態はあまり個人投資家にとっては好ましい状況ではないとは感じております。

それから、3点目ですけれども、何人かの委員からもご指摘のあった投資家間の公平性のところですけれども、これは個人投資家として申し上げる必要があるところだと思っております。私は、大崎委員のおっしゃったことにかなり近い感想は持っておりまして、これは不公平感なんだろうと思っています。高速取引を行う投資家は、そのために莫大なシステム投資をされていて、それによって利益を得てらっしゃるんだから、投資に対するリターンなんだということは頭の中ではわかっております。とはいいながらも、ビットコインに関する議論がありましたとき、マイニングを行う業者がすごく利益を得るというお話を聞いたときと同じような、持たざる者のひがみというんでしょうか、そういうものをやはり感じざるを得ないということで、やはりそういう意味では不公平感を感じるというところは否めないんではないかと思っております。

それから、その一方で、繰り返しになりますけれども、投資をした対価だから、あるいは東証のシステムを利用する際に利用料払っているからいいのかというふうに言い切っていいのかというところも、先ほど申し上げた、システムに何か大きな問題があって社会全体に迷惑をかけたときということを想定したときに、それでいいのかなという疑問がやっぱり残らざるを得ないということを感じております。

いろいろとつらつらと述べてきましたが、結論としては、高速取引を行う投資家の全体像については、証券取引所だけでは把握は難しいとも思いますので、何かのときのことを考えますと、現在はボーダレスにもなっていますので、やはり当局のほうで投資家の全体像を把握いただく必要があるのではないかと感じております。少し先の話になるんでしょうけれども、届出制なのか登録制なのかという議論になってしまうんだと思いますけれども、やはり高速取引を行う投資家に体制整備やリスク管理義務を果たしてもらう必要がおそらくあると思っております。大崎委員が総会のときにおっしゃった、日本の登録制という言葉の意味が誤解されやすいので、なかなか難しいところだとは思いますが。本日は、以上にさせていただきたいと思います。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

有田委員、大崎委員の順で、有田委員、どうぞ。

【有田委員】

ありがとうございます。今、永沢委員あるいは林田委員のほうから個人の投資家としての印象について幾つか言及していただきましたが、不公平感というものが現実にあるということがやはり問題だと私は思っております。では、その不公平感が現実を反映しているかというと、もう少しマーケットに近く日々業務に当たっている者としては、ほとんどの部分は杞憂であると思っているわけでございますが、そのように感じられる方が社会に多くいらっしゃること自体が問題であって、それについては対処しなければいけないと考えます。したがって、HFTが行っている取引をもう少し詳しく把握する必要があり、そのためには、取引業者にはいろいろなところにお出ましいただかなければいけないのではないかなと考えているところです。

例えば資料の2ページにいろいろな取引例がございますが、ここで示されているようなことは、HFTのみならず、マーケット参加者皆さんがやっていること、あるいはやろうとしていることでございます。1つだけ特徴的なことを申し上げますと、取引業者は、売り気配、買い気配の中値で売ったり買ったりしたがるという特徴がありまして、そこは明らかに流動性を提供している、社会の役に立っている部分であろうかと思います。

一方で、情報を早く受け取ることによって――ちなみに、情報を早く発信はしていないと思うんです。同時に発信された情報を、翌日の新聞で見るか、今日インターネットで見るかと同じように、そこまで行って見るかということでございまして、この区別は非常に難しいと思うんですが、その努力を払っているわけなので、ただ他の投資家の行動をある意味先読みするだけの先回り取引、これは我々は非常に非建設的なトレードだと思いますが、そういうことも中にはやっている。これはやや問題なんじゃないかなと。

したがって申し上げたいことは、高速トレード業者のトレードの中に、建設的なものと非建設的なものがあるのではないかということです。そういったものをより一層深く理解するためにも、取引の内容を何らかの形でしっかり理解し、彼らのプラットフォームをチェックしていく機能が今後必要になってくる。それだけ存在感が大きくて、濱口委員がおっしゃったように、何かあってからでは遅過ぎるほどの影響力があるという懸念を強く持っていると思います。

【神田座長】

ありがとうございました。

大崎委員、どうぞ。

【大崎委員】

ありがとうございます。すみません。さっき個人投資家にとっての視点というご発言が複数ありましたので、私自身も個人投資家なものですし、ちょっと話が極端に行ってしまったらまずいなと思ったものですから1つ発言させていただきたいんです。不公平感というものがあるかもしれないというのは私も先ほど自分で言ったとおりで、そのとおりだと思うんですが、ただ、その不公平感というものがどこまで蔓延しているか、かつそれが投資家の市場離れというようなことにつながりかねないほどの深刻な問題なのかどうかという、そこが問題だと思うんです。

それでいえば、日本の市場の過去を振り返ったら、個人投資家の市場離れがおそらく一番ひどかったのは、今のように取引が高速化していないバブル崩壊後の長期株価低迷期であったという気がいたしますし、2010年に「アローヘッド」が入って高速取引時代になって、2013年以降のアベノミクス相場で個人投資家は大いに市場に戻り、NISAなんかも利用しながら非常に活発な投資をやっているわけです。ですから、高速化が進むと個人投資家がそんな市場から離れていくというのは果たして本当かと。私は、相場が低迷すると離れていくというほうが説得的なんじゃないかと思っております。

日中値幅が拡大しているという話についても、同じような気持ちを持っております。原因はわからないというふうに事務局はおっしゃったんですが、私は高速取引になったこととの因果関係は全くないというのは、これ、断言して大丈夫だと思います。それは過去からのデータをきちっと見ていただければ、高速化したためにボラティリティが上がったということは全然示せないんだと思うんです。継続的なデータを私、今、手元に持っていませんけれども、東証の方もおられるので、もし何でしたら東証で把握しておられる様子を伺ってもいいと思うんですが、私が思うのは、2015年から今年にかけて起きたことを振り返れば、要は、アメリカが歴史的な利上げに踏み切るという話になって、いつ踏み切るかという話が出て、日本がマイナス金利を入れる、金融緩和をどうするんだというような話になって、あれだけ不透明な中でボラティリティが上がったということはそんなに驚くことなのかなと正直思っております。すみません、以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

オブザーバーの方々、今の点に関係してもしなくてもどちらでも結構ですけれども、いかがでしょうか。

【土本オブザーバー】

東証の土本でございます。委員の先生から非常に貴重な意見をお聞きできたと思っております。その中でも幾つか、マーケットデータとか、市場でどういうことが行われているのかというのがもう少し理解できると、いろいろ建設的に議論が深まるのではないかというような印象も少し持ちました。

その意味では、例えばボラティリティについても、冒頭の齋藤課長のご説明でもありましたけれども、足元のところを数字にするとこうだけれども、長期的に見ると、大きな上昇が明らかとまでは言えないというような数字もありますということですので、そういったことを含めて、必要な統計データとか、市場でどういったことが起きているのかということについては提供させていただき、積極的に協力させていただきたいと思います。

それから、それに関連していいますと、6ページに今、東証のほうでコロケーションを利用している割合が載っておりまして、注文件数ベースと約定件数ベースが大きく開いておりますとありました。注文件数ベースのところは取り消しとか変更を含むというようにここにも書いてありますけれども、まさにこの差が非常に大きいということは、取り消しとか変更を用いているようなスタイルのHFTが今、東京のマーケットでは大半を占めているということをある意味これは物語っていると思いますので、資料の冒頭のほうで幾つかカテゴリーがありますけれども、狭義の意味のHFTの活動が非常に多いというのが今の特徴だと思います。

その意味でいうと、大崎さんが先ほど言われたことと整合的だと思いますけれども、こういった受動的なマーケットメークをしているタイプのHFTは、1日の中で大きなポジションを偏って持ちませんので、そういう意味でボラティリティに対しては中立、あるいはアービトラージャーはむしろそれをマイルドにしているというのが実態であるのだと思います。その結果、有田さんが冒頭言われたように、実際の最近のマーケットでの執行コストはむしろ下がっているのではないかというご意見あるいは体感とも一致しているのかなというような感覚を持っております。

それから、システム的なことについては非常に大事だと思っております。25ページにそれぞれの段階でどういう対応をとっているのかというのが書かれておりますけれども、例えば取引所のところでは、取引のルールとして値幅制限をはじめとする幾つかのルールを入れておりまして、これは従来から入れているものもあれば、取引の環境が高速化されたのでそういう環境に合わせて新しく入れたルールもあります。この辺のマーケットスタビライザー機能は、欧米を上回るような制度設計にさせていただいているのかなと思っています。

それから、ここにはございませんけれども、システム面での対応ということも非常に大事な観点で、今はシステムの高速化というよりも、むしろ高速環境の中でリスク管理機能をいかに充実させるのかということにも力点を置いて開発、実際の運用を行っているというような状況でございます。

スピード面でいうと、世界で1番じゃなければいけないんですかということではなくて、むしろ実態的には2番であったり3番であったり、または、それを下回るぐらいの水準であり、オリンピックには出られるようなぐらいのレベルかなと思っています。それと、マーケットスタビライザー機能をより充実している状況を合わせてミックスで考えれば、欧米市場と比べても、安定性の上で遜色のないマーケットが提供できているのではないかとは考えております。

ただ、こう言うと、もうこれ以上何もしなくていいのかというように聞こえてしまい、それは誤解を生じてしまいますので、あえて言及させていただきますと、日本の株式市場のセントラルマーケットの提供者としまして、常日ごろから高い信頼性、豊かな流動性、そして、それらをあわせ持つことによる国際的な競争力の高いマーケット、これを構築、強化していくということを目指してやっております。今回のこのワーキングの議論も、まさにこの3点、信頼性を高める、流動性を向上させる、そして、国際競争力を強化すると、こういう観点での議論が深まっていけばありがたいなと思っておりますし、そういう方面での施策が幾つか必要だということであれば、私たちもそれについてむしろ前向きに対応させていただくことになると思っております。以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

明渡さんと田村さん、何かございましたらどうぞ。

【明渡オブザーバー】

野村證券の明渡です。私ども証券会社としてセカンダリーマーケットに携わっている者として常々心がけているのは、流動性と公正な価格というこの2つです。これが担保されることによって、セカンダリー市場で適正な値段でいつも売買できます。したがって、発行市場のプレミアムが下がるということになります。HFTというのは、基本的にはマーケットメーカーの機能を提供していると思っておりまして、その中で今申し上げた2つの点で非常に市場参加者にとってメリットがあると感じております。

ここの資料には載っていませんが、東証さんの刻み値は徐々に小さくなってきています。昔ですと1,000円の銘柄というのは、1,000円の次は1,010円と。ですから、1,000円の銘柄を買おうとすると、1,010円でしか買えなかったわけです。これが1円刻みになると、もう少し買いと売りが縮まってきます。これは流動性がないと、どうしても1,000円と1,010円から縮まらないのですが、1日に何回も買い手、売り手が出てくると、1,000円で買って1,008円で売っても良いという人たちがあらわれてきます。これが1,003円になり、1,007円になる。

買いたい、売りたいというところで、即座に執行したい人と時間をかけて待っていても良いという人がいて、即座に執行したい人に対してマーケットメーカーはスプレッドをもらって流動性を提供している。これをHFTがやっているのだと私は理解しています。この1,004円、1,007円だったとしたものが、HFTがより競争的な環境で入ってくることによって、1,005円、1,006円になると。そうしますと、個人投資家の方が今まで1,010円でしか買えなかったものが1,007円になり、1,006円で買えるようになるというように理解をしています。

それから、何かニュースがあったときに株価が瞬時に動いてしまうということですが、これは今まで例えば1日かけて、あるいは30分かけて、5分かけて公正な値段に収斂していたものが、今は高速化が進んだことによって例えば1秒で収斂してしまいます。これはそれを日計りでうまくとろうと思っていた人にとっては収益チャンスがなくなりますが、市場全体としては、瞬時に公正な値段に収斂して、その公正な値段が提供できる。今までですと、例えば1,000円が950円で収斂する場合、1時間かけて950円になるものが1秒で収斂します。ということは、970円で途中で買ってしまったかもしれない人が950円で買えるようになるということだと思います。

HFTのシェアですが、50%弱ですけれども、マーケットメーカーだという仮定を置くと、全ての注文がマーケットメーカーと対当するとすれば、マーケットメーカー同士が対当しない限りは、シェアの上限は50%になると思いますので、HFTのシェアが50%を超えてどんどん増えるということはないだろうと思います。

次に、モニターをするというのはやはりこれは大切なことで、やっていかないといけないと思います。2つございまして、1つは、不公正な取引が行われているかということのチェックです。もう1つは、HFTというお化けがいるのではないかという市場参加者の皆さまの不安を取り除くという意味で、そういったモニターをしていくというのは意味があると思います。

それから、不公平という声もあります。ちなみに、HFTというのは、これはHigh Frequency Tradingですが、Middle Frequencyとか、Low Frequencyという取引もございます。要は、1秒以内で売買する方もいれば、分単位、1時間単位、数日単位で行う人もいるということです。普通の投資家の方が中期・長期でされる取引のタイムスパンとHFT取引のタイムスパンは全然違います。リアルタイムで彼らよりも速い情報を同じように持てていないといったところで、実はもうHFTが100回ぐらい取引した後の取引の値段かもしれないわけです。ですから、そこにスピードによる不公平というよりは、ビットアスクスプレッドが縮まったことによるメリットをより市場参加者の方は享受されているのだろうと思います。

HFTといったときに、多分モニターするときにこの定義が非常に難しいのだと思います。東証さんのペーパーを拝見していますと、仮想サーバーというところで定義を使ってらっしゃいますが、そういったやり方は1つあるのだろうと思います。

それから、何か大きなイベントが起きた時に、ネガティブスパイラルで激しい値動きが起こってしまう、あるいは先ほどのポートフォリオインシュアランスのようなことが起こってしまうという可能性はあると思います。これは値幅制限とか特別気配とかを東証さんは取り入れていらっしゃると思いますけれども、ブラックマンデーのときにしても、多分もう少し頭を冷やせば十分安い値段ということで買いが入ってくるということだと思います。そういった、頭を冷やす、あるいは考える暇もなく一気に値段が動いてしまわないような枠組みは、多分取引所さんで、今でも十分かもしれませんが、引き続きご検討いただくのが良いかと思います。

あと、どうしてもプログラムが暴走してしまうという可能性はございますので、我々業者のほうでもそういったことがないように内部的に対応していますが、今、東証さんのほうでおっしゃられたように、例えば個別銘柄ではいろいろなツールを提供していただいていますが、それはワンショットの1つの取引ですので、これが連続的に起きたときにも我々がそういったことを取引所さんのツールを使って制御できるような、そういったことも東証さんで検討いただけるとありがたいと思います。以上です。

【神田座長】

ありがとうございました。

田村さん、もしご意見がございましたら、どうぞ。

【田村オブザーバー】

田村と申します。明渡さんのコメントに加えますと、まず28ページの最初の6点のところですが、証券会社としては、最初の4点、常に日々責務と思ってやっております。投資家の公平のところは、各証券会社、いろいろなお客様がいる中、この場で議論されているHFTのお客様もいますし、機関投資家、広義の投資家もいますので、そういう意味では証券会社は日々この点に関しては責務を感じております。

先ほど永沢さんとか大崎さんからのコメントもありましたけれども、何か問題があるとき、実際に取引所あるいは証券会社がそれをとめられるかといいますと、基本的にはこれはとめるはずです。ただし、以前指摘されているフラッシュクラッシュあるいはナイト・キャピタル社に関しては、結論とすれば、これは投資家、取引所、証券会社、全てに責任があると思っております。

最後、ボラティリティに関しては、これはもしかしたら私の勘違いかもしれないのですが、個人の投資家のみボラティリティを恐れている、あるいは困っているということに関しては、多くの機関投資家のお客様から最近よく聞きますのは、やはりボラティリティがあまりにも高いので、機関投資家もこれに関しては困っているという意見でして、特にこの数カ月よく聞きます。ですから、ボラティリティは、リテール、個人投資家だけに影響することではなく、これは市場全体の問題と思っております。

【神田座長】

ありがとうございました。

大崎委員、どうぞ。

【大崎委員】

細かいことで、それで、何度も発言させていただいて、すみません。さっき明渡さんが、頭を冷やしてというのも大事だということをおっしゃったので、この資料にいい例が出ているものですから。資料の12ページを見ていただくと、キリレンコ教授の研究結果というご紹介があって、これはHFTがいわゆるボラティリティの拡大に影響を及ぼしたという例を示している実証研究というご紹介があります。ここで図がついていますけれども、Stop Logic Functionalityというので書いてありますが、これ、たしかCMEの制度で、異常な変動があったときに5秒間取引を停止するという制度なんです。それが発動された後、むしろ価格変動が非常にまともになったというようなことがございます。

今後制度を検討していく上でも、昔ですと、例えばサーキットブレーカーというと、もう取引を全部やめて、その日は取引をしないとかいうのが普通だと。それぐらいしないと頭は冷やせないというふうに思われていたわけですが、今の時代は、もう5秒なんていうのは、何百万マイクロ秒なわけなので、それで十分頭は冷やせると。そういうことは考える必要があるなと思う次第です。すみません、余計なことで。

【神田座長】

ありがとうございました。コンピューターは頭を冷やすかもしれないけれども、5秒で人間が頭を冷やせるかどうか。いやいや、失礼しました。

池田局長、どうぞ。

【池田総務企画局長】

今日はさまざまなご意見を頂戴しまして、ありがとうございます。事務局の立場から、最後に、今日いただいた宿題の今後の対応ということも含めて若干申し上げたいと思います。

この速度の問題というのは、2000年代半ばごろ、まさに東京証券取引所は大変遅いという批判を我々も多く受けまして、そういう中で、我々も取引所と一緒になって速度を上げるための取組みを進めてきたというのは皆さんよくご案内のとおりだと思います。

HFTへの対応については、例えば欧州などでは、スピードを遅くするようなシステムを導入しようというような提案、議論が行われた時期もありましたが、その際も、そのようなシステムを導入すると、かえってシステム負荷が増え、システムダウンのリスクがさらに高まるのではないかというような議論があり、そのような提案に対しては、日本の当局も取引所も、かなり消極的な反応をしてきたものと思っており、少なくとも現時点でいえば、欧州でもそういうことは行われていないという状況です。そういう中で、登録制を導入するということが決定されて今に至っているということかと思います。

今日の委員の方、さまざまなご意見あるいは宿題を頂戴したと思っていますが、まとめていえば、HFTなるものは、その定義はいろいろあるのかもしれませんが、市場において相当な存在感を持つに至っている。ただ同時に、正確なことはよくわかっていないと。取引所は、問題は見受けられないというふうに、これは公式にも表明されていると理解をしていますが、本当に正確なところを把握した上で表明されているのかどうか。

それから、先ほど土本専務からリスク管理という話もありましたけれども、取引所の自主規制というのは証券会社にしか及んでいないので、証券会社を経由して、HFTのリスク管理まで、本当にしっかり確保できているのか。

このような状況において、漠たるものも含めて不安感なるものが存在する。大崎委員のご指摘では、それが取引の参加を妨げることにはなっていないということではありましたが、市場をあずかるものとしては、やはりそういう不安感なりの存在を見過ごすことは必ずしもできないのかなというふうにも思っています。

そうした中で、事務局に対しては、とにかく取引の正確なところをもっと示せというご注文を今日数々いただいたものと理解しています。このワーキング・グループの審議の過程の中で、できるだけそうしたものにお応えできればとは思っておりますが、そもそも私どもも権限的には必ずしもそういうものを把握し、ご報告できるようなものを持ち合わせていないので、これはまさに市場関係者の方々のご協力をいただきながら、正確なところをできる限りご提供できればということになる。これはひとえに市場関係者の皆様のご協力にかかわっておりますので、ご協力もいただきながら建設的な議論になっていくように努めていきたいと思います。引き続きよろしくご意見を頂戴できますよう、お願いいたします。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

そろそろ時間でございますので、もし追加でご発言があれば伺いますけれども、よろしゅうございますでしょうか。

大変貴重なご意見やご指摘を多数いただきまして、また、事務局にも随分宿題をいただいたように思います。簡単なテーマでないことは共通の認識が得られていると思いますけれども、本日いただきました皆様方からのご意見、ご指摘等を踏まえて、今後より具体的な審議、検討が進められればと思います。

それで、最後になりましたが、もう1点、皆様方にご了解いただければと思う点がございます。それは次のような点であります。すなわち、開かれた議論を行っていくという観点から、金融庁のホームページといいますかウェブサイトに、英語版を含めて専用のページを開設してはどうかと考えております。そして、このワーキング・グループで議論する各テーマについて、外国人の投資家等からも幅広く意見を出していただいて、それをこの場の審議のご参考にしていただいてはと考えております。

このような取組みを行ってみたいと思いますけれども、こういうことで進めてもよろしゅうございますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【神田座長】

どうもありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。

次回のワーキング・グループの日程、テーマ等につきましては、後日事務局からご案内させていただきます。

それでは、以上をもちまして本日の会議は終了させていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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