金融審議会「我が国金融業の中長期的な在り方に関するワーキング・グループ」(第8回)議事要旨

1.日時:

平成23年12月2日(金曜日)13時30分~15時30分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館13階 共用第一特別会議室

3.議題:

開催挨拶

有識者等からのヒアリング

質疑応答・自由討議

4.議事内容:

  • 有識者等(三井住友アセットマネジメント(株)宅森チーフエコノミスト、日本FP協会、一橋大学 祝迫准教授、井潟委員)により、国民のニーズに合った金融サービスの提供に関する論点として、個人によるリスク資産投資について説明を受けた後、質疑応答・自由討議がなされた。

  • 質疑応答・自由討議の概要は以下の通り。

【個人によるリスク資産投資の現状】

  • 個人によるリスク資産投資が伸び悩む中、我が国のマクロ的な資金の流れは、銀行部門に預貯金の形で集約された資金が国債消化に動員される構図となっている。この結果、リスクマネー供給が細り、新産業が勃興しづらい状況に陥っている。
  • 我が国では、個人によるリスク資産投資が着実に進むための受け皿となるような投資信託が販売されていない。我が国でも、投信大国である米国を参考に、すでに1990年代後半において、何十年と続くロングセラーの投資信託や個人の生活設計に中長期的に対応する投資信託の重要性が議論され、これを踏まえた制度改革が実行に移されてきた。それでも、現在、そうした投資信託は主力商品となっておらず、短命で終わる投資信託が多い。なぜこうした現状になっているのか検証が必要である。
  • 近年、景気低迷が続いているほか、労働所得が2000年代入り後、ほとんど伸びていない。このことは、家計部門にとって、自ら保有する「人的資産」(生涯にわたって得られると期待される労働所得の現在割引価値の総計)の低下を意味する。従って、家計部門に金融商品の購入を通じた更なるリスク負担を求めるのは無理がある。
  • このところの景気循環については、回復局面がリーマンショックなどの外的ショックによって水をさされ、これに伴って株式相場も軟化に転じるというパターンが多い。このため、個人がせっかくリスク資産投資を始めても含み損を抱えるだけに終わることが多くなっており、この経験を受けて個人のリスク回避度が一段と高まる結果になっている。
  • 雇用情勢の悪化や年金制度の動揺を受けて、個人は将来不安を抱えながら生活を送っている。その不安は個々人のレベルでは解消策を見出しづらい性質のもの。こうした不確実性の高まりがリスク資産投資の伸び悩みを招来している。
  • 我が国家計は、構造的にみて、不動産という流動性が乏しい上に価格も変動する実物資産を多く保有している。このため、金融商品の購入によってさらなるリスクを負担する余裕がそもそも小さいといえる。

【個人によるリスク資産投資の増大に向けて】

  • 我が国の投信制度については、細部において改善の余地はあるかもしれないが、根幹部分において個人によるリスク資産投資の阻害要因にはなっていない。むしろ、商品開発やサービスに関して更なる工夫がプレーヤーに求められているとみることができる。販売会社が個人顧客に提供するファイナンシャル・プランニング・ツールを例にとっても、IT技術の活用を含め、注力度合の日米格差はとても大きい。
  • 個人によるリスク資産投資の増大に繋がる制度的な手当てとして強力なものは、米国の経験を踏まえると、確定拠出年金制度の拡充だと思われる。同制度は中長期的な観点から投資を行う良い契機にもなる。個人が中長期的な投資スタイルをとってこそ、ロングセラーの投資信託も生まれることになる。
  • 労働者が定年を迎え、退職金をリスク資産投資に充てた場合、10年後の資産水準を左右する最大の要因は単にいつ投資を開始したかという単なる運である。このため、定年前後の投資パフォーマンスをスムージングするような金融商品の開発が望まれる。さらには、年功賃金制度を解消してその時点での働きに応じた賃金を得られるようにすれば、現在より所得が増加する若い世代の労働者が早期にリスク資産投資を開始できるようになる。
  • ファミリータイプの賃貸マンション市場の機能向上は、子持ち世帯の人たちがわざわざ自家を購入する必要性を低下させる。これは、そうした世帯が負担する不動産リスクを軽減させることを通じて、金融商品の購入によるリスク負担を可能にし得る。不動産賃貸市場の機能向上に資する制度整備は検討に値する。

【個人の金融リテラシーの向上】

  • 個人の金融リテラシーの向上はリスク資産投資の増加に繋がり得る。金利の計算をはじめ初歩的な知識からして不足気味である。
  • 子供や青年の金銭トラブルをみると、金融教育を早期から実施する意義は深いといえるものの、それが拝金主義を醸成しないようにバランスのとれた教育を行っていく必要がある。
  • 生活設計を立てることは多岐にわたってお金の問題に関わる。このことを強く意識して、人生のマネープランを立てていくことが重要である。
  • 個々人が自己の金融リテラシーを向上させることに加えて、専門家をうまく利用していくことも重要である。
  • 個人の金融リテラシー不足を前提にした商品設計も図られるべきである。米国において開発・販売が進むターゲット・イヤー・ファンドはそうした取組みの一例。
  • リスク資産投資を行うにあたって最低限知っておくべき統計指標やそれらに対するマーケットエコノミストの予測値などを、個人は十分に把握していない。知識不足ゆえに理解できない側面のほか、統計発表日が同一日の同一時刻に集中しがちであることを背景に、指標一つ一つに対するマスコミの扱いが小さくなり、その結果、人々まで伝わっていないという側面もある。

【その他】

  • 地方圏に住む高齢者が亡くなった場合、その遺産は金融資産に姿を変えて都市部に住む子孫に移転していくことが多い。このままでは地域経済が個人資産の面で空洞化しかねない。いかにバランスを取り戻していくかが重要な論点となる。
  • 地方圏に住む高齢者が亡くなった場合、その遺産が農地であると、相続登記の不備等から流動化が困難化するケースがある。これは子孫の生活設計やマネープランに悪影響を与える。
  • 農業に利用されなくなった農地については、信託を通じてうまく集約・大規模化できれば、効率性の高い農業の展開に繋がり得る。
  • 人口減少を伴う少子高齢化が進む中にあっては、個人の資産運用においても、海外の成長を取り込んでいくことが重要になっている。海外資産への投資や、海外需要を取り込んでいる本邦企業への投資などである。

以上

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企画課(内線3645、3520)
本議事要旨は暫定版であるため、今後変更があり得ます。

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