日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会(第2回)議事要旨

日時:平成13年10月24日(水)18時00分~20時05分

場所:金融庁特別会議室

  • 第2回会合においては、中島 厚志(なかじま あつし)委員から不良債権問題について、川本 裕子(かわもと ゆうこ)委員から銀行の収益力強化の方向性についてのレポートの後、それらを基に自由討議を行った。

  • 中島委員によるレポート

(レポートの要旨)

  • 銀行のリスク管理債権は建設、不動産、卸・小売り、サービスの4業種に集中しており、これら4業種の過剰債務比率は、銀行のリスク管理債権比率と概ね一致。銀行の不良債権は企業の過剰債務に他ならない。

  • デフレの進行から過剰債務が拡大しており、デフレによる不良債権(過剰債務)の新規発生が止まらない限り、不良債権の最終処理は困難。

  • 不良債権問題は一部の大企業のみならず、中小企業の問題である面も大きく、また非製造業を中心とする日本企業の低収益性、財務の脆弱性等を含めた構造的問題。

  • 不良債権問題の背景には間接金融偏重型の金融構造があり、不良債権処理促進のためには、債権流動化市場の発達が必要。流動化の進展は、企業の過剰債務削減に寄与し、直接金融市場の育成、銀行のビジネスモデルの転換にも資する。

  • 不良債権問題解決のためには、行政当局、銀行、企業三位一体の対応策が必要。

(レポートに対し、各委員から出された主な意見は以下のとおり)

  • デフレの下では不良債権処理が進まないというのは分かるが、具体的にどういう対策が必要かが明らかでないのではないか。

  • 不良債権対策としてのマクロ政策については、財政サイドの施策(下支え)はこれ以上無理であり、金融サイドからの施策しかないのではないか。

  • 不良債権処理に伴う自己資本不足の問題については、株価次第の面はあるが、不良債権は銀行の自己資本で償却できる範囲内ではないか。

  • 現在のデフレに対しては、ECB(欧州中央銀行)が採っている物価参照値のようなものについて検討する必要があるのではないか。その際には、一般的な物価水準と資産(土地・株)価格の両方を視野に入れた議論、政府・日銀の連携が必要ではないか。

  • 不良債権処理に関するRCCの機能拡充は望ましい方向だが、最大のネックは時価買取りの問題。RCCの利用拡大と国民負担との間にはトレード・オフがある。

  • デフレによって不良債権処理が進まないという面がある一方、不良債権処理の先延ばしがデフレを加速している面もあり、ミクロの不良債権問題とマクロのデフレの問題の関係には両面がある。本来処理すべき企業を処理する方がデフレ圧力は弱まるのではないか。

  • 企業再生については、原則として市場メカニズムに委ねるべきであり、政府の関与は最小限とすべき。その意味からも、産業再生委員会のような議論は適当でない。

  • ミクロの問題について、破綻処理といっても結局は企業を再生させるのか、あるいは本当に清算して無くしてしまうのかという2つがある。無理に再生を目指すことになれば、結局オーバーバンクも解消されない一方、本当に清算させると大量の失業が出て大変だという議論もある。

  • 不良債権処理は、企業の過剰債務をいかに減らすかが重要であり、企業の収益性というものを重視しないと始まらないのではないか。インフレ・ターゲットについても、効果はどの程度あるのか、慎重に考えるべき。

  • 不良債権問題に関する銀行内部の関係者は、個々の企業再生について、経済合理性から見て潰すべきということは分かっているが経済合理性以外の何らかの理由(圧力)で潰せないのか、それとも、本当に潰すべきかどうかが分からないということなのか。

  • 銀行内部のことはよく分からないが、潰すことによる返り血というものが最大の原因ではないか。世間の社会的非難や失業などを考えると、潰したが後は知らないとは言えず、銀行にとって大変な決断であろう。

  • 中島委員からの銀行の融資機能は毀損していないという指摘はその通りだと思う。不良債権問題は、格付けの低下等を通じてマーケットが媒介を果しているものであり、不良債権の存在そのものが株を売り下げ、処理原資を減らしていくという悪循環にある。

  • 銀行としては、個々の企業の再生について、特殊な関係にある場合は別として、企業の業況を見ながら判断している。社会的批判のほか、下請企業等の関連企業の倒産などもシミュレーションをした上で再生可能かどうかの決定を行っている。

  • 不良債権比率が数パーセントになれば、もう他の仕事はほとんどできなくなるほど、不良債権には手間(マンパワー)がかかるという話を聞いたことがあるが、不良債権比率は高く、銀行員の数も減少している現状で、本当に不良債権をきちんとcareできているのか。

  • ノンアセットビジネスを重視したビジネスモデルへの転換について、そのニーズには以前から気付いていたにも関わらず、なぜまだできていないのか。合併等に伴う人事上の問題や人材育成の在り方などにも問題があるのではないか。

  • ビジネスモデルの転換ができていない理由には、銀行のビジネススタイルが外から規制されており、そもそも銀行に多様な手段が与えられていないということがある。また、経営者のメンタリティの問題として、新しいコンセプトが採り上げられない面もある。

  • これまで出ている議論は保守的ではないか。日本の金融業界は限界に来ており、文化(カルチャー)を変える程の大改革をやらないと終わらない。改革というのは、やるときは大変だが、やってしまえば大したことはない。

  • 今後の課題としては、まずは、銀行の収益性の観点から、ハイリスク・ハイリターンの金融へのシフトが必要。また、不良債権問題に関しては、デフレからの脱却のためには、あらゆる手段を採るべきであり、財政出動という手段も除外すべきではない。建設業、不動産業、卸・小売業については、大手のダメなところは潰さないと仕方がないのではないか。ただし、中小企業については、大企業とは切り離して考えることが必要。

  • 不良債権問題の解決は、土地関連の規制緩和とも関係がある。担保不動産が売れない理由は、価格が高いのではなく、建築基準法や都市計画法等による規制が大きく、金融面だけなく、これらと一体として議論することが必要。

  • 不良債権処理を進めた上で、公的資金は投入すべきだが、国としての議決権行使は、人事に限って充てるということを条件とすべき。

  • RCCによる時価買取りといっても、民間のサービサーが既にたくさんいる中で、時価にプラスアルファがないとRCCに売却する必要性はないのではないか。買い取った債権は必ず3年以内に売却すべきであり、それで損が出たら国が公的資金を投入すべき。また、RCCは時限(例えば5年)の組織とすることが必要。

  • 川本委員によるレポート

(レポートの要旨)

  • 全体のキーワードは、金融機関の「自立」。

  • 高度成長期を通じてオーバーバンキングは問題とされてきたが、現在も日本経済に非効率の淀みを根深く残している。金融の正常化を通じて、この状況を変えていかねばならない。

  • 日本の銀行の収益力回復は、不良債権問題解決のカギである。利ざやの適正化やリストラ、小規模金融機関再編、政策金融制度の見直し等で銀行経営が自立する体制を築かなければならない。

  • 公的資金の再投入については、一斉注入といった観念論の先走りが懸念される。公的資金の投入も政策選択肢の一つではあるが、あくまで個別銀行の経営改革の延長上で判断すべき。

  • 金融当局は、通常の金融監督機能だけでなく、(公的資金投入による)株主たる国民の代表として、銀行経営の正常化を実施すべき。3K(暗く、細かく、権威的)のイメージから、から3P(Positive、Pro-active、Professional)へ脱皮すべき。

(レポートに対し、各委員から出された主な意見は以下のとおり)

  • 信用リスクに見合った利ざやを確保することが必要であるのはその通り。また、民間の銀行の収益力強化にとっては公的金融の存在は無視できないため、そうした議論も必要ではないか。

  • 不良債権問題については、年明けに大臣や長官が2、3年後に処理をすると明言されてからもうすぐ1年になるが、外部からは何の進展も見られないとの印象。経済の活性化の前提として、今こそ大胆な改革提案が必要。検査の強化や厳格な査定、RCCの機能強化などは、方向性としては適切であるが、その先のプロセス、着地点が見えないのが問題。

  • 川本委員から、リスクに見合ったリターンを得ていないという観点からは、低格付け企業に対する貸出しが問題との説明があったが、その分野では、公的金融機関の存在や、公的資金注入行の健全化計画の中堅・中小への貸出目標等に起因するオーバーバンク現象など、健全なリスク・リターン原理に反する状態が顕著。対応策としては、(1)公的金融の見直し・縮小、(2)余程のシステミック・リスクでない限り、個別行への公的資金再注入によって経営の自由度を奪うようなことをしないことが必要。

  • 銀行や証券といった業態の日本的な括りを緩めることが、事業リスクの社会的な配分に大きく機能する。日本の場合、銀行が融資に関するリスクを抱え込んでいるが、これを積極的に分散するようにすべき。ノンアセットビジネスの方向性を求めるときには、事業リスクに関して銀行だけが担い手であるという認識を捨て、自由な市場設計をすることが必要。

  • 不良債権を自らの利益で処理するためには、プライシングの適正化や個人ローンへの取り組みが重要だと思うが、例えば、銀行がハイリスク・ローンの分野に進出しても、それがどの程度定着するのかは疑問。ローンの需要そのものが構造的にどの程度あるのかを考えると、こうした利ざやにどの程度依存できるのか。

以上

お問い合わせ先

金融庁総務企画局企画課
電話 03(3506)6000 (内線 3514,3515)
本議事要旨は暫定版であるため、今後修正があり得ます。

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