スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会(令和元年度第2回):議事録

1.日時:

令和元年11月8日(金)16時30分~18時30分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室


【神作座長】  
  ただいまより、第2回スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会を開催いたします。皆様、ご多忙のところご参集いただきまして、まことにありがとうございます。本日も前回に引き続き、スチュワードシップ・コードの改訂に向けたご議論をいただきたいと思います。  
 
 本日は、まず事務局から、10月24日に最終版が公表されました英国の改訂スチュワードシップ・コードと11月5日に公表されました米国における議決権行使助言会社に関する規制案についてご説明をいただきます。  
 
 その後、2回に分けて、メンバー及びゲストスピーカーの方よりお話を伺う時間を設けております。前半は三菱電機取締役の松山メンバーよりご説明をいただきます。後半は国際コーポレート・ガバナンス・ネットワークのワリングメンバーより、その後、連続して年金積立金管理運用独立行政法人GPIFの理事兼CIOの水野弘道様よりお話を伺います。なお、水野様は後ほどお見えになる予定でいらっしゃいます。  
 
 また、今回よりテーブルの内側にスクリーンを6台設置しております。これは、より多くの委員にご発言いただく機会を確保する観点から、説明者及び委員の発言が一定時間を過ぎますと、残り時間の目安がスクリーンに映し出される仕組みになっております。ご発言の際に参考にしていただければと存じます。  
 
 なお、本日はワリングメンバーより英語でご説明がございますので、同時通訳がございます。受信機は皆様のお手元に配付しております。日本語はチャンネルの1となります。  
 
 それでは早速、議事に移らせていただきます。先ほど申し上げましたとおり、10月24日に英国財務報告評議会より英国の改訂スチュワードシップ・コードが公表されました。更に、11月5日には米国証券取引委員会SECより、議決権行使助言会社に関して新たな規制案が公表されました。そこで、この両者につきまして事務局からご説明をお願いしたいと存じます。  
 
 また、本日は柴崎メンバー及び冨山メンバーから意見書をご提出いただいておりますので、そちらにつきましてもあわせて事務局よりご説明をお願いできればと存じます。  
 
【井上企業開示課長】  
  ありがとうございます。事務局の井上でございます。  
 
 それでは、まず、資料1の事務局説明資料のご説明をさせていただければと思います。1ページ目でございます。まず、イギリスのスチュワードシップ・コードの改訂の確定版のポイントをご紹介させていただきます。  
 
 第1回の検討会でもご説明させていただきましたとおり、イギリスでは本年の1月30日に改訂スチュワードシップ・コードの原案が公表されておりまして、パブリックコメント手続に付されておりましたが、第1回の検討会の後の10月24日に確定版が公表されております。これは資料にございますとおり、2020年の1月1日により適用開始を予定されております。  
 
 改訂版の構成につきまして重立った変更点をご説明申し上げます。まず、原則と期待される報告事項(REPORTING EXPECTATIONS)というふうに原文でなっておりますけれども、この2段階構成となっております。各原則については、前のコードのcomply or explainではなく、適用を義務づけるapply and explainという形に変更になっております。  
 
 更に、サービスプロバイダーに関する原則をまとめた章が別途設けられておりまして、運用機関、アセットオーナー向けに12原則、サービスプロバイダー向けに6原則がそれぞれ規定されているところでございます。  
 
 次に、改訂版の内容について主なポイントを申し上げます。2ページ目の下のほうですけれども、債券等を含めて全資産をコードの対象とするということを明示してございます。  
 
 次に、投資判断においてESG要素の考慮というのを明確に要求しておりまして、イントロダクションにスチュワードシップの定義がございます。英文を抜粋しておりますけれども、そこの中にも環境及び社会について明記されているところでございます。  
 
 また、年1回、英国財務報告評議会FRCに対して活動等の結果に関する報告書を提出することを要求しておりまして、FRCがその内容を評価して、それがFRCの期待に沿ったものである場合にのみ、署名者リストに掲載されることとなっております。  
 
 次のページ、3ページ目でございますけれども、これはイギリスのスチュワードシップ・コードの変遷をお示しさせていただいております。真ん中のイギリスのコードの改訂原案、そこには建設的なエンゲージメントに触れた原則がございましたけれども、改訂の確定版の原則、右側の方でございますけれども、そちらではエンゲージメントの章の中で現在適用中の現行コードと同様にエスカレーションについて原則の中で触れられる形となっております。  
 
 続きまして、議決権行使助言会社について、直近でアメリカにおいて新たな動きがございましたので、ご紹介させていただきます。資料4ページですけれども、アメリカの証券取引委員会SECは、今月の5日に議決権行使助言会社の助言の正確性及び透明性等を高めるために、委任状勧誘規制、SECの規則ですけれども、それの改正案を提案しております。  
 
 3日前に改正案が公表されたばかりですので、内容については精査中ということをお断り申し上げなければいけないんですけれども、この資料の改正案の概要にございますように、議決権行使助言会社が委任状勧誘規制の適用除外を求めるためには、資料の青い部分ですけれども、重要な利益相反についての開示や、助言を行う前に発行体企業等に対して事前にレビューとフィードバックの機会を与えること、また、求めに応じて提供する助言の中に、助言に対する発行体企業等の見解を記載した文書へとつながるリンクなどを含めていただくことを必要とすることが求められております。  
 
 以上が事務局からの資料1のご説明になります。  
 
 続きまして、本日ご欠席のメンバーからお預かりしておりますご意見を紹介させていただければと思います。  
 
 まず、柴崎メンバーからご意見をいただいております。柴崎メンバーからの意見書では、中小規模の私的企業年金においては、その役割や関与する範囲が十分には理解できていないことの他、今後、金融リテラシーを有する人材を企業年金の運用執行に当てることもスチュワードシップ・コードを浸透させていく上では重要になってくるのではないかなどのご意見を頂戴しているところでございます。  
 
 続きまして、冨山メンバーからのご意見をご紹介させていただきます。冨山メンバーからは、パッシブ運用の優位性が強まる中で、投資家サイドのエンゲージメントの動機づけの希薄化や、エンゲージメントの良質な担い手の減少など、エンゲージメントの弱体化が懸念されておりまして、その結果、コーポレートガバナンスの弱体化や持続的な企業価値向上を通じた国民資産の形成、ESGの達成に支障を来すリスクがある。集団的エンゲージメントも含め公共財的な機能とも言える良質なエンゲージメント機能の担い手の質と量を担保する方法について議論すべきというご意見をお預かりしております。  
 
 簡単でございますけれども、事務局からの説明は以上でございます。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。  
 
 それでは、メンバーからのご説明に移りたいと存じます。まずは、運用機関、アセットオーナー、サービスプロバイダーに関する論点につきまして、企業の立場から、三菱電機取締役の松山メンバーから10分程度でご説明をお願いいたします。松山メンバーからは資料3のご提出をいただいております。  
 
 それでは、松山メンバー、どうかよろしくお願いいたします。  
 
【松山メンバー】  
  経団連で金融・資本市場委員会資本市場部会長を務めております三菱電機の松山でございます。本日は私どもの考えをお話しさせていただく機会を頂戴いたしまして、まことにありがとうございます。私からは、発行体企業と機関投資家による建設的対話の更なる促進に向けての我が国企業の取組みの現状と課題をはじめとして、幾つかの論点についてお話し申し上げます。  
 
 1ページ目が目次となっております。  
 
 3ページ目と4ページ目をあわせてご覧いただきたいと思いますが、初めに対話の進展状況と今後の課題についてお話し申し上げます。前回の会合でも出ておりましたが、我が国では両コードの策定を踏まえまして、発行体企業と機関投資家による対話が促進されております。グラフでお分かりのとおり、発行体企業、機関投資家の双方においてそれが実感されているところでございます。  
 
 5ページをお開きいただきたいと思いますけれども、これまで経団連におきましては、国内外の発行体企業や機関投資家、関係団体や規制当局等との意見交換を継続的に行ってまいりました。そうした中で指摘された建設的対話のさらなる深化に向けた発行体企業と機関投資家双方の課題について紹介いたします。  
 
 まず、発行体企業につきましてですが、第1に、対話の充実に向けて社内で設定した長期ビジョンと収益とのつながりなど、長期的な価値創造のストーリーを具体的に説明すべきといった指摘がございます。  
 
 2つ目は、ESGに関する自社の情報につきまして、ただ網羅的に開示するのではなく、重視すべきポイントを明確にしつつ、分かりやすく開示することが求められております。  
 
 3点目は、対話の結果に基づく自社の行動の変化などにつきまして、機関投資家に積極的にフィードバックするとともに、対話内容の経営陣・社内に対する報告を充実したり、対話への経営陣の関与を更に増やすことなどを通じまして、対話の実効性を向上することが重要とされております。  
 
 6ページをご覧ください。こちらは機関投資家側の課題でございます。第1に、更なる情報開示や発行体へのフィードバックなど、対話の実効性向上に向けた取組みの重要性が指摘されております。投資に至るプロセスにおける対話の位置づけを発行体企業に対して可能な限り明確に示しますとともに、対話の結果どういった投資判断を行ったのか、あるいは株式の保有状況等はどうなっているのか、こういったところを含めて発行体企業に積極的にフィードバックすることが求められております。  
 
 また、受託者責任を果たす上では、議決権行使助言会社の助言や自社の基準を形式的に適用して、画一的な議決権行使を行うのではなく、対話の内容に基づいた判断を行うことが期待されております。アセットオーナーにつきましても、運用機関の議決権行使等を形式的な基準で評価するのではなく、実質的な観点から評価する必要がございます。  
 
 2つ目は、対話を建設的なものとして、対話の結果を機関投資家が十分にその後の取組みにつなげる上で、運用部門、議決権行使部門、ESG評価部門等におきまして内部連携の向上が求められております。ESGに関する分析を担う専門部署等を設置する機関投資家が増加している中で、こうした取組みが有効に機能するためにも内部の連携は不可欠と言えます。  
 
 3点目は、発行体企業の持続的な成長を促すべく、短期的な利益を追求するのではなく、中長期的な視点に立って対話や投資を行うことの重要性も指摘されております。  
 
 7ページをご覧ください。その他に指摘がありました点としましては、第1に、議決権行使助言会社の活動のあり方が挙げられます。これは後ほど説明いたします。  
 
 第2に、インフラの活用促進がございます。発行体企業が総会招集通知の早期ウェブ開示などを進める一方で、議決権行使プラットフォームを活用する投資家は少数にとどまっておりまして、対話のさらなる深化に向けてインフラの活用を促進することが期待されております。  
 
 第3に、ESGに関する統一感のある評価手法の形成が求められております。昨今、ESG、SDGsに関しまして、発行体企業の非財務情報の開示あるいは発行体企業と投資家の対話におけるフレームワークとしまして、国内外を問わず複数のガイドラインが作成されております。各社が活用するガイドラインもその結果、それぞれ異なるものとなっております。今後、ESG、SDGsに関する取組みを進める発行体企業に対しまして、適切に資金が向かうよう、より統一感のある評価手法を形成していくことが重要であります。  
 
 8ページをお開きください。経団連では、持続的成長を目指す企業がネガティブスクリーニングではなくて、ポジティブに評価されるとともに、サステナビリティを志向する資金がそれらの企業に向かうことを目指しております。そこで、GPIF、東京大学と協力しまして、SDGsの達成を目標に経団連が掲げるコンセプト、Society5.0の実現に向けた企業の取組みとサステナビリティを志向する資金を結びつけるべく、目下共同研究を行っているところでございます。こうした活動を通じまして、より適切な評価手法の形成に寄与したいと考えております。  
 
 続きまして、10ページでございますが、議決権行使助言会社の活動のあり方についてお話しいたします。スチュワードシップ・コードに署名する全ての主体は、投資や対話を通じまして企業の持続的成長を促すために行動することが求められます。そこで、議決権行使助言会社の活動のあり方につきまして、3点を新たにスチュワードシップ・コードに盛り込むべきと考えております。  
 
 第1に、議案に関する助言を行う発行企業数、及びその検討体制や個別の重要提案につきまして、発行体あるいは提案者と対話した回数、並びに助言作成に際して依拠している主な情報ソースを開示することでございます。  
 
 第2は、発行体企業に対しまして、事前に少なくとも議決権行使期限までに助言案を提供して、発行体企業がその内容に関して助言会社や運用機関とコミュニケーションできる機会を確保することでございます。また、これらの助言に関しまして、発行体企業からコメントがありました場合は、当該コメントやそれに対する考えを運用機関に提供することも期待されております。  
 
 第3に、助言基準の策定に際しまして意見募集が行われておりますが、これに寄せられた意見に対する議決権行使助言会社の考え方を一般に開示することでございます。  
 
 この他、運用機関側につきましても、議決権行使助言会社の活用状況について更に開示を進めるなど、フォローアップ会議の意見書で記載された取組み内容を進めることが重要でございます。あわせて、発行体企業が実質株主にアプローチできるよう、実質株主の把握を可能とする制度につきましても今後検討が必要と考えております。  
 
 12ページでございます。最後に企業年金によるスチュワードシップ活動についてでございますけれども、企業年金によるスチュワードシップ活動の強化は、我が国企業全体のコーポレートガバナンスの充実に資するだけでなく、従業員の安定的な資産形成や企業自らの財務状態にも好影響を与えるものでございます。  
 
 本年3月の第18回フォローアップ会議でも資料で取り上げていただいておりますけれども、経団連としましては、昨年12月に企業年金のスチュワードシップ活動に関するレターを関係各社に発出いたしましたが、これとともに本年4月には金融庁並びにスチュワードシップ・コードに署名した企業年金基金をお招きしまして、説明会を開催いたしております。  
 
 私からの説明は以上となります。ありがとうございました。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。  
 
 それでは、皆様からご意見等をお伺いする討議の時間とさせていただきます。今回も事務局説明、及び松山メンバーによるご説明で触れられた論点、そしてそれ以外の論点についても幅広くご発言をいただきたいと存じます。また、スチュワードシップ・コードの書き方につきましても、プリンシプルを記載した最低限のものであるべきかどうか、あるいはより詳細を記載したものであるべきか等につきましても、さまざまなご意見がおありでしょうから、この点についてもご意見を頂戴できればと存じます。  
 
 なお、第1回検討会において皆様からいただきましたご意見も含め、各論点についてご意見を集約した資料を資料2としてタブレットに保存しておりますので、適宜ご参照いただければと存じます。  
 
 また、本日は17時15分より、ワリングメンバーと水野弘道様よりご説明をいただくということを予定しておりますので、一旦17時15分に討議を中断し、お二方のご説明後にまた議論を再開させていただきたいと存じます。時間も限られておりますので、1人5分以内での発言をいただきますと幸いでございます。  
 
 それでは、ご発言をお願いいたします。既に立てていただいておりますけども、まず石田メンバー、お願いいたします。  
 
【石田メンバー】  
  ありがとうございます。私のほうからは、議決権行使助言会社に関してではなく、言葉の定義について述べたいと思います。  
 
 スチュワードシップ・コードでは、コードの目的は企業価値の向上とされています。企業価値が向上すれば、それはすばらしいと思いますが、ここで問題は何かというと、何が企業価値なのか、その定義がなされていないことにあると思います。定義がないと混乱が生じまして、関係者の努力が空回りする懸念が生じます。  
 
 つまり、企業にとってみれば、企業価値を上げるつもりの行動が、実は投資家の目から見れば、逆に企業価値を下げる行動、ということが起きてしまうかもしれないのです。前回のこの会でも私がコメントしたように、ISSは、例えば株主提案とかプロキシーファイトのような場合には、企業と株主の双方から意見を聞きます。企業とその株主は対立しているわけですが、両者とも企業価値の向上という言葉、それ自体は否定しません。どうして両者がぶつかるかというと、何が企業価値なのか、どうすればそれが向上するのか、その認識が異なるからです。  
 
 ですので、両者が企業価値の向上を掲げて対話すればするほど、どんどんと関係がこじれて非生産的な結果になる。そこで、何が必要かというと、分かりやすい定義だと思います。それも日本の国内だけで通用するものではなくて、グローバルな投資家の視点から見て分かりやすいもの、測定できるものが必要であるかと思います。  
 
 そこで、例えばですけど、将来キャッシュフローの現在価値、などはいががでしょうか。また、株主が得るのは、結局は配当と株価の上昇ですので、その合計であるトータル・シェアホルダー・リターン、TSRと言われておりますが、そのようなものでも良いかと思います。株価は個別企業が直接コントロールできませんので、市場に対する相対的なTSRなどでもよいかと思います。また、短期的なTSRに抵抗があれば、中長期的な相対TSRだと、企業の方も抵抗は少ないのではないかと思います。  
 
 株価の上昇と配当の合計というと、あまりにも直接的に思われるかもしれませんが、そもそも株式に投資する目的はそこにあるわけですから、それをはっきりさせておくことは大切かと思います。要は、定義を考える際に大切なことは明確さ、グローバルな投資家が理解する言語であるべきだと思います。  
 
 もう1点、また言葉の話になってしまいますが、例えば「建設的な対話」という言葉はコードのキーワードですが、何が建設的かというのも、これも人によって解釈がそれぞれです。例えば、アクティビストの株主にとっては、企業に何かを提案することが建設的な対話を意味するかもしれません。しかし、一方企業にとっては、アクティビストが会社に提案するなんて、そのようなことは両者の信頼関係を損なう非建設的な行為と解釈するかもしれないわけです。コードの目的である企業価値の向上の定義なしに、何が建設的な対話かを議論しても、それは単なる言葉遊びになってしまいます。しかしこういった場合でも測定できるような企業価値の定義があれば、それに向かって行動すればよいわけでして、話がすっきりとしてわかりやすくなると思います。  
 
 そこで結論ですけれど、スチュワードシップ・コードの文章で凝った表現を考える必要はないと思います。それよりも、誰もがわかる明確な定義で企業価値を定義すること、そうすることによって、改訂されたコードは投資家のスチュワードシップ活動において使い勝手のよい実務指針になるのではないかと思います。  
 
 以上です。ありがとうございました。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。続きまして、松永メンバー、お願いいたします。  
 
【松永メンバー】  
  日本生命の松永でございます。2点述べさせていただきます。  
 
 1点目ですが、前回の検討会でコード制定後5年間の振り返りを行い、どのようなアウトカムがあったか評価すべきとの意見があったと思います。投資家の取組みと企業側の変化について申し上げます。  
 
 まず、投資家としての取組みについてであります。機関投資家と企業の建設的な対話を通じて、企業価値向上や持続的成長を促すというコードの考え方は、長期安定的な運用を行う生命保険会社のスタンスに合致するものであります。弊社ではその理念に賛同し、取組みを推進しております。  
 
 具体的には、議決権行使に関する基準の厳格化、項目拡充とともに、体制を強化し、建設的対話数を年々増やしております。更に、スチュワードシップ活動報告書における対話や議決権行使事例の掲載、議決権行使結果の賛否理由の開示など、情報開示の拡充にも努めております。また、生命保険協会では2017年度より、生保10社が協働で株主還元、ESG関連の情報開示をテーマに集団的エンゲージメントも実施をしております。こうして、機関投資家が創意工夫を重ね、継続的に取組みを強化してきたこともあり、企業側にもよい変化があらわれていると考えております。  
 
 企業の意思決定だけではすぐには改善が難しいROEの実績向上には少々時間を要すると思われますが、独立社外取締役導入等のガバナンス体制、統合報告書開示等の情報開示、配当性向等の株主還元など、企業の意思決定によって改善できる項目は、実績、企業側の意識ともに着実に改善をしていると考えております。生命保険会社としては、今後もコード本来の目的の達成に向けて引き続き対話の高度化に努めてまいります。  
 
 2点目は、資料1、英国版スチュワードシップ・コード2020に記載の改訂版のポイントについてであります。ESGにつきましては、前回お伝えをしておりますので今回割愛をいたしますが、コードの対象資産拡大について申し上げます。  
 
 機関投資家と企業の建設的な対話を通じて、企業価値の向上や持続的成長を促すことをコード作成時には目的としており、それに対応する資産として国内上場株式のみを対象資産としていたものと理解をしております。改訂された英国のスチュワードシップ・コードの原則1では、経済、環境、社会に持続可能な利益をもたらすスチュワードシップという、このような表現が追加をされており、それを踏まえて社債等をコードの対象に加えたものと理解をしております。  
 
 今後、日本において対象資産を拡大する場合には、スチュワードシップ・コードの目的やゴールを変えるのか、こういった点も含めて、さらなる議論を尽くした上で、円滑に、かつ効果的なやり方で、どうやっていけば進めていけるのかということをしっかり議論していくべきではないか、このように考えております。  
 
 私からは以上であります。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。それでは次に、大海メンバー、どうぞ。  
 
【大海メンバー】  
  私からは1点述べさせていただきたいと思います。今のご発表、最後にもアセットオーナーの役割ということで、企業年金によるスチュワードシップ活動の強化が重要だという話がございまして、私も全くそのとおりだと考えております。ただし、残念ながら、私が見ているところ、なかなか今それが可能ではない状況ではないかということで、前回に引き続き1点、私から申し上げさせていただきたいと思います。  
 
 前回、私はいろいろな形で、総幹事さんという制度やら、あるいは母体企業との関係ということで、なかなか企業年金が主体的にいろいろと決められない状況になっているのではないかということを申し上げました。その際に、総幹事といっても運用業務は含まれていない、そこのところは全く別であるし、総幹事だからといって自動的に運用の受諾がされるわけではないというご意見があったかと思いますが、ちょっと私の感覚と違いましたので、実際にデータをとってまいりました。  
 
 私どものお客様ということで限定的、かつ私どものお客様という母体ですけれども、たかだか数十の基金さんですが、実際データをとってみたところ、総幹事さんをやられている場合には受託のシェアが平均すると42%になっております。これが総幹事をやっていない先での受託、ちなみに、これは全く入ってないケースを除いていますので、ゼロというのを除いた上で、非総幹事先で入っている場合には、このシェアは12%になります。ですから、30%下がるということで、私としては、これがほとんど総幹事は関係ありませんというのはなかなか、この数字からしても私の実感からしても、そうではないんではないかなと感じざるを得ないところでございます。  
 
 そういう点で、私からは改めて、私どもコンサルのようなサービスプロバイダーを含めて、総幹事さん、更には、場合によっては運用の受託に関して、改めて何らかの形で改善をしていくのが重要ではないかと考えております。  
 
 具体的には、皆さんもう既に顧客本意の業務運営の原則でやられている、あるいはアナウンスされていることだと思いますけれども、改めて原則2、顧客の最善の利益の追求とか、原則3、利益相反の適切な管理はもちろんのこと、それ以外の例えば手数料等の明確化の原則4とか、重要な情報の分かりやすい提供、原則5、こちらを徹底することが大事ではないかと考えております。  
 
 具体的には、例えば総幹事であれば、管理業務、数理業務、そういったサービスの内容がどうで、費用は幾らか、これらは別々に委託できるのか。更には運用業務は全く別なのかどうなのか、こういったことをはっきりと基金さんに明示化するということですね。実際、基金さんのほうでも、委託に当たっては複数社を比較検討して決定することを、義務づけるのは難しいと思いますけれども、奨励するということがいいのではないかと思います。  
 
 更に言うと、これが実効があるように定期的な見直し、これも義務づけるのは難しいと思いますが、例えば3年に一度は見直しをする。結果的に同じところに委託して継続するというのはもちろんいいと思いますので、そういったことをするというのが大事ではないかというふうに考えております。  
 
 実際に私が見ているところ、日系企業さんで総幹事が変わったケースというのは、私が15年以上この仕事をやっていて覚えがないので、外資系ではたまにあるんですけども、その点からも、場合によってはそういった固定的な長期的な関係というのが不健全な形で働いている可能性があるのではないかというふうに考えております。  
 
 そして最後に、実際、基金さんがそういったサービスプロバイダーを決定する際に、特に同じところに長期委託する、あるいは、いろいろなところを同じグループで固めているという場合には、その理由を明示するということ、これも何らかの形で奨励していただく、あるいは監査・監督する中で実際に見ていただくといったようなことをすることが、実際に企業年金さんがアセットオーナーとしてこういったスチュワードシップ活動その他に取り組むきっかけになるのではないかなというふうに考えております。  
 
 以上です。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。それでは続きまして、春田メンバー、どうぞ。  
 
【春田メンバー】  
  連合の春田でございます。私のほうからは、先ほど事務局から説明がありました英国スチュワードシップ・コードの改訂版の内容を踏まえて一言申し上げたいと思っております。  
 
 今回の英国の改訂版の中で、事務局から説明がありましたとおり、特に大きなポイントとして私どもが捉えているのは、対象資産の関係のところで、債券などを含めて全資産が対象と、そこが今回明示されているということがあります。このことにつきましては、今後の我が国のスチュワードシップ・コードの改訂の議論の中でも少なからず影響があるものと認識しているところであります。  
 
 前回の検討会でも申し上げたとおり、私どもこの間、労働組合の立場からESG投資に関し、その普及と実践に向けた運動を展開してきております。スチュワードシップ活動におけるESG要素の重要性はすごく感じており、今回の英国スチュワードシップ・コードの改訂版の中でもESG要素の考慮を要求するというようなところも我々としては影響があると感じているところであります。  
 
 先ほど話しました対象資産の関係でございますけれども、現在、債券においてもESGに関連するものも多数あるということに加えまして、社債につきましては、投資先企業の財務、それから企業価値に深く関連するものであるということから、既に社債投資先企業との対話を行っているケースもあると認識しているところであります。今後、日本版のスチュワードシップ・コードの改訂を検討する中でも、この点も含めて議論が進んでいくのではないかというふうに考えているところであります。  
 
 ただ、一方、極端な例でもございますけども、デフォルト、債務不履行をおそれるあまり、対話の最優先事項が内部留保の確保に向かうということになると、企業価値の向上とか持続的成長を促すという本コードの趣旨に反することも懸念されるところでもあります。  
 
 労働組合の立場から申し上げると、企業の収益、これは労働者の適正な分配を含め、成長に向けて適切に配分していくことが重要と考えておりますし、このことに対象資産の関係につきましてはさまざまな影響をこれから及ぼしていくことも考えられますので、先ほど話があったとおり、日本版スチュワードシップ・コードの目的、ゴールなどを含め、しっかりとした議論を進めていただければと思っているところであります。  
 
 以上でございます。  
 
【神作座長】  
  ありがとうございました。続きまして、三瓶メンバー、お願いいたします。  
 
【三瓶メンバー】  
  ありがとうございます。先ほど座長からコードの書きぶりについてもということだったので、まずそこからお話をしたいと思いますが、簡単に言うと、細か過ぎないこと、画一的な方向づけになることを避けるべきというふうに思います。それに関連して、本日の事務局からの英国のコード2020のご説明と松山メンバーのご説明を踏まえて、重要と思われるポイントを2点共有させていただきます。  
 
 1点目。英国のスチュワードシップ・コード原則1に明記されているとおり、運用機関は投資哲学を軸としてスチュワードシップ責任を考えることが、スチュワードシップ活動を運用プロセスに違和感や無駄なくインテグレーションできるということになると思います。その結果、最大限の効果を期待することができるため、最も重要な出発点だというふうに思っています。だからこそ、英国のコードで原則1に書かれていると理解しています。  
 
 逆に言えば、それぞれの運用機関の運用哲学や運用手法を踏まえないで、画一的なスチュワードシップ活動や報告を求めれば、運用プロセスや手法とのひずみ、または無駄が増えて、求める成果は遠ざかっていくと考えます。そもそも資本市場が成り立っているのは、公正に入手できる公開情報のもと、同じ価格で売りと買いが成立するからです。売り買い、真逆の投資判断が同時に起こるのは、まさに運用哲学、手法が異なるからです。同じ公開情報でも運用哲学や分析手法によって、独自に整合性のある合理的判断を下すこと、これこそが競争力であると考えます。  
 
 英国のコードは運用機関の個性を源泉とした競争力をそぐことがないように配慮しています。具体的には、参考資料2に和訳が出ていると思いますが、英国のコード1ページ目にイントロダクションがあります。上から3つ目の段落にある「コードは」というところから始まるところですね。「単一のアプローチを処方するものではない。代わりに機関が自らのビジネスモデルと戦略に沿った形で期待に応えることができるようにするものである」と明確に書かれています。また、同じ資料の3ページ目の3つ目の段落、ここにも「コードは、署名機関ごとに」というところから始まっているところに「彼らが同一の方法でスチュワードシップを行うわけではないことを認識している」というふうに明記してあります。  
 
 同様な意見は投資家フォーラムからも発信されています。投資家フォーラムというのは、国内系、外資系にかかわらず幅広く機関投資家が参加している任意団体です。投資家フォーラムがホームページ上で公開した10月30日付の第23回報告書に詳しくその件が書かれています。  
 
 2点目として、議決権行使の賛否の理由の開示についてです。これは資料2の1ページに書いてありますが、英国のコードでは原則12に関連します。先ほどの英国の参考資料2でいうと17ページ、「活動」に記載がありますが、そこでは賛否の理由ではなくて、「特に」として具体的に3つ列挙しています。会社提案への反対についての判断根拠、株主提案への反対についての判断根拠、議決権行使留保の判断根拠、です。これは大変参考になると思います。私の解釈では、会社提案にしろ、株主提案にしろ、招集通知に提案理由と判断に必要な情報が提供されているため、賛成する場合はそれに賛同したということで分かりやすいです。一方で、反対の場合は、何が反対の判断根拠になったのか、当事者以外には不明なので、簡易でいいから開示すべきなんだということだと思います。  
 
 ただし、資料2の1ページにある<その他の意見>の2つ目、「利益相反関係にある投資先に賛成する場合は」という条件つきの対話が促進されることによって、信頼性の向上につながると考えます。  
 
 以上です。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。続きまして、松谷メンバー、お願いいたします。  
 
【松谷メンバー】  
  投資信託協会の松谷でございます。直接コードにかかわる議論ではありませんが、ご報告として申し上げます。  
 
 先ほど松山メンバーから言及がございましたが、投資運用機関の実務の面では、IT化やインフラ整備促進の意見が非常に多く出ております。ご承知のとおり、日本は6月に約7割の総会が集中をしておりますが、その中で、いまだにファクスやメールベースで対応が迫られるということが随所に残っておりましす。投資運用機関では、スチュワードシップ活動を各社の運用哲学に沿って積極的に行っていくわけですが、非常に非効率な実務が強いられているという声が多く上がってきております。具体的には、できれば全ての企業に議決権電子行使プラットフォームへ参加していただくことが、極めて重要な点になろうかと思っております。  
 
 加えて、アセットオーナーに対する活動報告につきましても、事務局資料の「各論点に対する意見の要約」にも出ていますが、スマートフォーマットの活用をするといったレポーティングの共通化ができることによって、さまざまな活動が一元的に把握することができるようになろうかと思います。今申し上げたようなインフラの整備ができれば、ここで議論されているようなスチュワードシップ活動に係る事務負担が軽減され効率性が向上し、有効な開示のための余力も創出できるものと思います。     
 
 以上、ご報告したいと思います。  
 
【神作座長】  
  ありがとうございました。続いて、岡田メンバー、どうぞ。  
 
【岡田メンバー】  
  監査役協会の岡田でございます。先ほどの松山メンバーからの報告に含まれておりました議決権行使助言会社に関して1点申し上げたいと思います。  
 
 米国の動向は先ほどご紹介あったとおりでございますが、これを即導入するというのは時期尚早だと思いますけれども、いずれは何らかの形でスチュワードシップ・コードに助言会社に関するソフトロー的なものを入れるべきではないかとは考えております。  
 
 それはそれとして、議決権行使助言会社について私が感じますのは、もっと企業と対話をしていただきたいという点です。助言会社には議決権行使ガイドラインというのがありまして、これはかなり画一的な判断基準となっております。しかし、各発行会社、企業の個別具体的な事情があるわけですから、これを勘案した上での慎重な議決権行使助言を行ってほしいと望みます。  
 
 分かりやすい具体的な例としては、社外役員の独立性に関するものがあります。独立性につきましては各社が基準を設けて運用することになっておりまして、その各社の基準はコーポレートガバナンス報告書に開示されているわけです。一方で、助言会社は独自の画一的な基準により賛否助言、または独立性に疑問ありというコメントをつけられるケースがあります。助言会社として自らの物差しをきちっと持って、独立性に関する考え方を明示されるのは、よいことだと思いますが、その物差しを全てに画一的に適用するのは行き過ぎではないかと思います。各企業の設けた独立性基準についての対話をもっと突っ込んでしていただきたいと思います。  
 
 個々の議案について、賛否判断あるいは助言をするのは総会が差し迫った時期では大変なことだと思いますし、人材リソース的にもハードルは高いと思いますが、先ほど申し上げたような、各社がつくっている独立性基準に関する対話であれば、総会直前にやることもなく、普段の活動の中で余裕をもって充分対話をすることができるのではないかと考える次第でございます。  
 
 以上でございます。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。他にいらっしゃいますでしょうか。  
 
 それでは、ほぼ予定の時刻になりましたので、先ほどお話しいたしましたように、本日2回目のご説明の時間とさせていただきます。  
 
 10月14日より国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)のグローバルスチュワードシップ原則の改訂案がパブリックコメント手続に付されております。その改訂案の内容も含め、ICGN、CEOのワリングメンバーより10分程度でご説明をお願いいたします。ワリングメンバーからは資料4-1のご提出をいただいております。資料4-2がその日本語訳の概略版でございます。  
 
 それでは、ワリングメンバー、どうかよろしくお願いいたします。  
 
【ワリングメンバー】  
  ありがとうございます。たくさんのICGNのメンバーに囲まれて、ここに参加できますことは素晴らしく、うれしく思います。この機会を頂き御礼申し上げたいと思います、神作先生。  
 
 そして、また、金融庁がこういうポジティブなコーポレートガバナンス改革、そして投資家のスチュワードシップに関する改革を推進しておられるということはすばらしいことだと思います。  
 
 5つの分野に今日は焦点を合わせてスチュワードシップ・コード改正に関する書簡を検討会にお送りしています。それをベースにお話ししたいと思います。  
 
 議決権行使の理由の開示については、ICGNは金融庁と同様、投資家は意思決定のプロセスの公表を改善すべきだと思います。ICGNのグローバルスチュワードシップの原則5には4つの指針がございます。  
 
 まず、投資家が利益相反を含む議決権行使方針について公表するということです。そして議決権行使の判断にどうやって至ったかということ、行使結果の説明、地域、また持分によっても違うという事を説明するということです。また、企業に対して、議決権行使の意思決定の理由を、望ましくは株主総会の前に説明すべきだと思います。イギリスのスチュワードシップ・コードには、署名者は行使の理由を説明すべきと書いてあります。特に取締役選任に反対する行使の場合、あるいは株主提案に反対する行使の場合、議決権行使を棄権した場合、あるいは議決権行使方針と異なる行使がなされた場合に、議決権行使の記録を、議決権行使から限られた期限内に公表するということです。アリアンツ・グローバル・インベスターズはその議決権行使結果をリアルタイムでウェブサイトに公表しております。  
 
 ICGNは、助言会社の情報公表の改善に関する金融庁の提案を支持するものです。組織構成、そして意思決定に関するよりよい公表についての金融庁の提案を支持いたします。これは日本のスチュワードシップ・コードの指針5.4の中でも言及されているとおりです。英国のコードでは、新たなセクションを設けてサービスプロバイダーの責任について言及している点にご留意頂きたいと思います。また、欧州で出されました、議決権行使の調査・分析の提供者に関する好事例原則もございます。  
 
 投資家は何千という議決権行使に責任を持っており、これを助言会社が効率的に支援しています。投資家は、盲目的に助言に従っているという認識も一部にあるものの、ICGNの会員のほとんどについてはそうではないということを申し上げたいと思います。  
 
 実際、去年、14カ国の総運用資産が12兆ポンドに上る会員の4割を超える投資家が回答したアンケート調査結果があります。60%は独自の意思決定をしていて、助言会社には頼らないと言っております。そして、更なる20%は、主要市場のほとんどの議決権行使については独自の決定をしており、他の地域に関しては、助言会社に社内の行使方針に従って行使をすることを指示していると言っております。もちろん助言会社と会社の間で建設的な対話を奨励します。特に報告書の中で事実関係に不正確な部分があるのではないかとの懸念が表明された場合には対話すべきですが、分析のアプローチが違うことによって、意見の相違があり、異なる結果を生む場合もあります。事実関係の誤りがある場合には、報告書は訂正されるべきです。  
 
 しかしながら、ICGNは、米国のSECが提案するように助言会社が強制的に事前に報告書を企業と共有して、定常的に見直しさせるということは提唱しておりません。ICGN自身の原則5.6では、投資家が議決権を行使する場合に、情報に基づいて責任ある形で、自らの行使方針に則って議決権を行使することを主張しております。  
 
 また、どの程度、助言会社を使っているか、どの助言会社であるのか、そして、最終的にどの程度その推奨意見に従うかということを公表すべきことを推奨しています。  
 
 次の点としては、日本のコードにおいて、スチュワードシップを株式だけでなくその他の全資産に適用することを推奨したいと思います。このコンセプトはICGNの原則の中に従来から含まれていたわけでありまして、英国のスチュワードシップ・コードに今回含まれたことはうれしいことです。  
 
 債券の投資家、特にグローバルに、また英国においても債券市場の規模から、債券に対して年金資産は多くの投資をしています。株主の場合は自らの株主権を使い、年次総会で議決権行使することによってコーポレートガバナンスに影響を与えており、株主によるスチュワードシップは可視化しやすいのですが、債券保有者も、企業に対して投資の前にコベナンツを設定したり、あるいは契約書の条件を修正したりする場合に、その影響力を行使する権利があります。  
 
 ただ、債券保有者と株主の間には利益相反があって、エンゲージメントの際にパートナーシップをすることはできないという面もあります。債券者は財務の健全性、そしてリスク回避をしたい傾向がありますが、株主はROEを高めるため、よりリスク選好が高いのです。いろいろな意見の相違が出てくるわけですが、多くの側面においては債券保有者、株主も健全な会社に共通の利害を持っているわけです。業績を上げてキャッシュフローを生み、そして収益の伸び、そして債務返済をまかなっていく。ESG関連のリスクは信用の質、そして株主リターンに脅威を与える可能性があるということで、ESGについても共通の関心事となります。  
 
 まず、企業と対話する場合では、財務レバレッジの活用を含む資本配分の方針システミック・リスクにフォーカスしたリスクマネジメント、正確な報告と金融リスクからの防護を確保する為の堅固な会計方針、監査プロセスへのエンゲージメントが必要となるのです。したがって、企業は長期的な成長と企業価値創出に重要な役割を果たす債券保有者と株主双方を満足させるべきであります。この点についてICGNのポリシーディレクターのジョージ・ダラスが、View Pointとしてレポートを出しておりまして、ICGNのウェブサイトにありますので、どうぞご覧ください。  
 
 ESG要素をスチュワードシップ活動に統合させることの重要性を強調したいと思います。ICGNの原則6は、すべてそれに割いております。投資家の役割は、企業の長期的業績、持続的価値に影響を及ぼすESG要素を認識する、ESG要素を分析、モニターし投資の判断、議決権行使、対話に統合する、企業にESG要素をより長期の戦略と事業に組み込むことを奨励する、また、経済発展、金融市場の質と安定性に影響する長期のシステミックなリスクを理解する事です。例えば、ICGNの会員は、気候変動のビジネスへの影響を、リスクマネジメントへ組み込むということを企業に奨励しております。  
 
 あと30秒しかないのですが、スチュワードシップ活動の公表に関する言及をしておられますが、これはICGNの原則と整合性を持つものであります。イギリスのスチュワードシップ・コードも同じアプローチをとっております。イギリスでは、投資家の報告をレビューし、投資家のガバナンス組織がこれを検証し、CIOそして取締役会議長、COOが署名をすることを求めております。開示が正確でバランスがとれているということを確保するためです。  
 
 ご清聴ありがとうございました。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。  
 
 続きまして、昨今のサステナビリティ等に係る動きの高まりを踏まえまして、年金積立金管理運用独立行政法人GPIFの理事兼CIOの水野弘道様よりアセットオーナーの立場から10分程度でご説明をお願いいたします。水野様からは資料5のご提出をいただいております。  
 
 それでは、水野様、どうかよろしくお願いいたします。  
 
【水野GPIF理事兼CIO】  
  GPIFの水野でございます。本日はこのような機会をいただきまして、GPIFを代表いたしまして、まずは御礼申し上げます。スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会ということですので、今日はGPIFのほうでアセットオーナーとしてスチュワードシップに関する取組みをどう行ってきたかということと、今回の改訂についての私の期待を皆様にお話しできればと思っております。  
 
 まず、ここ数年間、私は海外のスチュワードシップに関する議論に参加するときには必ず、日本のスチュワードシップ・コードは本家英国を超えたとずっと宣伝をしてまいりました。それは、イギリスのスチュワードシップ・コードよりも先にESG的なコンセプトの言及がなされたということであったわけですけれども、今回、英国から出ているスチュワードシップの改訂を見ますに、これではまた逆転されてしまうのではないかと思っておりまして、その2つの大きな点が、今回、彼らのコードの見直しで株式だけではなく、債券に対してもスチュワードシップ責任が求められているということと、ESGのインテグレーションがかなり明確に示されているという点において、日本の改訂も必ずそれを入れていただかないと、日本のほうが進んでいると私は言えなくなってしまうということでございます。  
 
 私どもが今2つのことについてどう考えているかという説明を私どものケースを使ってしていきたいと思うのですが、資料のまずスチュワードシップ責任に対する考え方、私どもスチュワードシップ責任を果たすための方針というのをスチュワードシップ・コードを受けて出しています。また、私どもはGPIFの投資原則を発表しているのですけれども、その中で、一昨年、ESGの明記と株式投資だけから債券も含む全ての資産クラスにスチュワードシップ責任を果たす必要があるということ明記をいたしました。  
 
 その理由は、どうやら日本ではスチュワードシップ・コードはコーポレートガバナンス改善のための1つのアプローチとして導入された節を私は感じているのですけれども、もともとスチュワードシップ責任は、アセットオーナーや我々のフィデューシャリーの投資家が私どものベネフィシャリーに対してフィデューシャリーであれということですから、資産別に差があるというのは本来整合性がないというふうに思っておりまして、私どものスチュワード責任を果たすためには全てのアセットクラスにおいて必要なスチュワードシップ責任を果たすという考え方から、私どもの投資原則も一昨年、明確に「株式投資においては」というコメントを、ただし書きを削除いたしまして、プラスESGという言葉を明確に入れております。  
 
 もう1つ、現在作業中でありますけれども、私どものスチュワードシップ責任を果たすための方針の中で、長期志向というのを更に明確に言及するようにしたいと思っておりまして、それはやはり中・長期・短期、このあたりの曖昧なコンセプトの中で、なかなかタイムホライズンのバッティングが起こるときが我々の中でもございまして、ESGはそういう活動も期間が長くなってくればなるほどファイナンシャル・インフォメーションがどうかという議論も解決されると考えておりますので、明確な長期志向というのをGPIFとしては今、全ての方針の中に入れていきたいと思っております。  
 
 次に、ESGの位置づけについても重要性の定義を行っているのですが、その中で、ちょっと順番がよろしくないのですが、7ページのところでESGインテグレーションというのを私どもは運用会社さんに求めてきたわけですが、このたびESGインテグレーションの定義というものを明確にいたしました。今回は、私どもも署名しておりますPRIの定義をそのまま活用させてもらったのですけれども、ESGインテグレーションというのは、「ESGを投資分析及び投資決定に明示的かつ体系的に組み込むこと」と明確に定義いたしまして、このインテグレーションはユニバーサルオーナー、かつ超長期投資家であるGPIFがフィデューシャリー・デューティーを果たすためには必要なものであるということで、これはまさに投資期間が長期であればあるほどリスク調整後のリターンを改善する効果も見られるというふうに考えておりまして、これを現在、運用会社さんの評価にアクティブもパッシブも明確に組み込んでおりまして、これはちょっと最近の話なのですけれども、運用会社さんの評価の投資プロセスの中で、ESGインテグレーションを明確に評価項目として位置づけるようにしております。  
 
 かつ、重要なESG課題のエンゲージメントをスチュワードシップ活動原則上、運用会社さんに求めておりまして、現在パッシブにおいてはそれが30%の評価、アクティブにおいても10%の評価ということになっています。  
 
 私ども運用プロセスのインテグレーションということと表裏一体とも言えるのですけれども、ESG投資とよく一体化して議論されております一部産業等のダイベストメントというような手法ではなく、リスクリターンをインテグレートして長期的にエンゲージメントしていくというポジティブ・スクリーニング、ポジティブ・エンゲージメントという方向性を明確にしていっているところでございます。  
 
 次に、少し戻りまして、他に長期志向をどういうところで明確にしているかということですが、昨年、GPIFはアクティブの運用機関に対して、かなりめり張りのついた実績連動報酬スキームを導入させてもらったのですけれども、このときに我々のベースフィーが安いということばかりが業界で話題になったようですが、実は一番重要なところは、ここで赤色でハイライトさせていただきました、運用受託機関による長期的な運用目標の達成を可能とするため、かつ短期的な運用、短期志向的な運用のインセンティブを取り除くために複数年度の契約を導入いたしております。  
 
 また、今年は、HRコンサルタントと言うのですか、報酬体系等のコンサルティング会社を採用しまして、運用会社のエグゼクティブやファンドマネジャー、更にはスチュワードシップ担当者の報酬体系の研究を行いまして、その中でもショートターミズムを助長するようなインセンティブ構造になっていないかというところに特に注目して評価をして、今、これを運用会社さんの評価の一部として組み込んでおります。  
 
 これは最後、先ほどの債券の件の繰り返しになってしまうのですけれども、世界銀行と債券投資とESGという研究を2年前に行いまして、そのときのレポートの中で、ESG投資が債券投資家にとって一般的な投資プロセスになりつつあるという、投資のほうのファクターとしてのESGの重要性と、債券投資家によるエンゲージメントの重要性というのがレポートで指摘されまして、これも私たちが、債券も同時にスチュワードシップの対象とするという1つのきっかけになったわけでございます。  
 
 あと2分ということですので、もう少しお話ができるかと思うのですけれども、現在GPIFが運用会社さんとのスチュワードシップ議論の中で重要としておりますのは、とにかく長期の目線、ロングターミズムの徹底ということと、ショートターミズムを排するようなインセンティブづけということでありますが、ショートターミズムは人間の投資家だけにあるわけではありませんで、実際マーケットの平均保有期間が劇的に下がっている1つには、機械のトレードがあるというふうに考えております。  
 
 私ども今、AIについてもいろんな研究をしておりまして、今ここに駆けつける前もソニーコンピュータサイエンス研究所さんのAIの共同研究の報告を受けていたのですが、こういう機械のトレードが起きていけばいくほど、人間の投資家が長期目線、ESG的な考え方を持って、投資と、かつエンゲージメントを行うことの重要性がますますハイライトされていくのではないかというふうに思っております。  
 
 最後に、残りの1分で開示についてお話しさせていただきますが、今、GPIFは議決権行使等の開示も当然お願いしているのですけれども、このマーケット全体の透明性を上げるということにできる限りの努力をしております。  
 
 1つには、私どもの株が今どこにあるかということも実は重要だと思っておりまして、貸株等によって株の所在地が明確になっていないという事態もあるという認識も今持っておりまして、私どものアセマネの方々が企業さんと話されるときに、きちんとオーナーシップを認識して、オーナーシップを確保した上で話していただくということをやっていただきたいと思っておりますし、あと最後に、去年からESG活動報告というものを行っております。今年初めてTCFDに基づく気候変動リスクの開示を行いました。今年はGPIFがこれをやれたということですので、今後は私どものアセットマネジャーの方々には同じようなESGリスクの分析と開示をお願いすると。これは私どもに対するフィデューシャリー・デューティーの一環だと思っておりますので、こうした長期のシステムリスクの分析を運用会社にお願いしていきたいと思っております。  
 
 どうもありがとうございます。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。  
 
 それでは、ここで再び討議の時間とさせていただきたいと思います。冒頭に述べました論点の他、ただいまワリングメンバーと水野様からご説明いただきました論点も含めまして、ご討議をいただきたいと存じます。時間も限られておりますので、お1人5分以内でご発言をいただきますと幸いです。それでは、高山メンバー、お願いいたします。  
 
【高山メンバー】  
  ただいまワリングメンバーから発言があった内容に関連して2つの観点からコメントしたいと思います。  
 
 1つはグローバルな視点ということです。今、私たちが議論しているのは日本のスチュワードシップ・コードで、その責任を負う対象としては主として日本の投資家を考えており、その投資対象としては主として日本の企業を考えているということであるかもしれません。けれども、そうであったとしても、日本の企業、日本の投資家というのは、グローバルな市場の活動と切り離せない、その中に組み込まれているという状況にあると思います。ですので、スチュワードシップ・コードの議論をする際には、グローバルな資本市場で共有されている考え方というものがどういうものであるかという視点は、常に持っていなくてはならないと考えます。  
 
 その点で、ワリングメンバーが述べた意見書で指摘されている内容というのは、過去10年ぐらいにわたってグローバルな投資家の間で議論され、共有されている考え方が反映されているものと理解しています。ですので、私たちのスチュワードシップ・コードの改訂においては、ワリングメンバーが指摘した内容についても踏まえた上で考えたほうがよいと思います。  
 
 2つ目について話します。では、それをどういう形で行動に反映させるかということですけれども、私は段階的なアプローチがいいと思います。ワリングメンバーが指摘した内容、それから今、水野さんが指摘した内容にも関係するんですけれども、ESG要素というのは企業の中長期的な経済的価値、金銭的価値に非常に結びつくものであるので、大変重要だと思っています。それが、スチュワードシップ・コードにこれまでどういうふうに反映されてきたのかその経緯を見ますと、一番最初のスチュワードシップ・コードではESGのリスクというところにフォーカスした記載になっています。前回のコードの改訂のときには、収益機会という要素が更に加わって、リスクと収益機会という観点でESGは重要であるという内容になっています。  
 
 それから、今年フォローアップ会議で出された意見書でも、ESG要素について明示的に記載されています。これを踏まえて、今回改訂するスチュワードシップ・コードではどういうような表現がよいのかと考えましたが、ワリングメンバーが書いている表現が適切なのではないかと思います。  
 
 具体的には、資料4-2の7ページで、5番目の項目のスチュワードシップ活動へのESG要因の統合というところがございます。そこで記載されている内容ですけれども、まず、「投資家は、企業の長期的な業績や持続性に影響するリスクと機会にESG要因が与える影響について意識を高めなければならない」とあります。この表現はとてもよいと思います。なぜならば、ESG要因が企業の長期的な経済的価値、パフォーマンスと結びついているということをここで明確に述べているからです。  
 
 それから2つ目、この表現もコードに反映されるとよいのではないかと思います。その内容は、「投資家は、ESG関連のリスクと機会を分析・モニタリング・評価し、投資判断、議決権行使、エンゲージメントなどの投資プロセスへ統合する手法について、資産横断的に検討すべきである」とあります。オリジナルの英語の文章を見ると、Investors should consider waysと書いてあります。どういうふうに検討するかというところは投資家の裁量に任されているわけで、画一的にどうしろというところまで要求していないので、自由度があります。スチュワードシップ・コードの内容は、最初の段階、1回目の改訂、そして今回の改訂作業において少しずつ変わっております。多分3年後に改訂するときはまた変わると思いますが、こういう変化の過程、移行期においては、このたようなある程度自由度がある内容で記載しておくというのがよいのではないかと思いました。  
 
 以上です。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。続いて、米花メンバー、お願いいたします。  
 
【米花メンバー】  
  どうもありがとうございます。三菱UFJ信託銀行の米花でございます。私からは英国のコードの改訂と、先ほどワリングメンバーとGPIFの水野CIOからご説明があった点に関して、運用機関からの視点ということで2点コメントさせていただきたいと思います。  
 
 まず1点目は、スチュワードシップ・コードの対象を株式だけではなく、債券など全資産に拡大すべきではないかという点についてでありますが、スチュワードシップ・コードの本来的な趣旨、これは投資先企業との建設的なエンゲージメントを通じて、当該企業との中長期的な企業価値の向上や持続的成長を促すということと同時に、最終受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るということだと思いますので、このようなスチュワードシップ・コードの趣旨に照らして考えますと、その対象は株式にとどまるものではないということだと思いますし、対象範囲を広く他の資産に広げることで、よりインベストメント・チェーン全体の高度化につながるのではないかというふうに考える次第であります。  
 
 ただ、一方で、債券投資は企業価値の向上を目指す株式投資と違って、信用力の維持・拡大を目的としていることであるとか、議決権行使の概念がないといったことなど、スチュワードシップ・コードの内容を適用するに当たっては、どういうふうに適用するのかといったような具体的な方法論については考慮が必要ではないかというふうに考える次第でございます。以上が1点目です。  
 
 2点目はESGに関してでありますが、持続可能な社会の構築に向けて、企業にとってもESGの取組みは一段と重要になってきているということだと思いますし、また、弊社においても、運用機関としてスチュワードシップ活動とESG課題への取組み、これらはもはや一体になっているというふうに考えているところでございます。  
 
 一方、現在のスチュワードシップ・コードでは、ESGに関して原則3の投資先企業の把握の箇所に少しだけ記載がなされているという状況でありますので、今回のコードの改訂に際しては、ESGの視点で企業との対話を促すことを明確化するといったような、ESGに関する記載の充実を図ることには意味があるというふうに考える次第でございます。  
 
 ただ、足元で企業のESGに対する意識の高まりを感じているというところでございますけれど、一方で、ESGに関する企業の取組みは、その効果の発現までに時間を要するということでもありますし、そのリターンの効果についても現時点ではまだ必ずしも十分な検証がなされていないということだと思いますので、現時点で運用機関に最低限求められるものということで申し上げますと、ESGに関して、企業との目的を持った対話を続けていくことによって、中長期的な企業価値の向上を目指すということではないかと考える次第でございます。  
 
 私からは以上でございます。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。続きまして、佃メンバー、お願いいたします。  
 
【佃メンバー】  
  ありがとうございます。私のほうからは1点だけです。  
 
 先ほどのケリー・ワリングメンバーのプレゼンテーションの中で個人的に一番大事だと思ったのは、資料4-2の日本語版のほうでいうと8ページにございます、下のほうにある7番、投資先企業へのエンゲージメントの強化、これが一番大事じゃないかなと考える次第です。  
 
 こちらのほうには「エンゲージメントの強化(エスカレーション)」というふうに書かれていますけれども、企業業績がよくて、経営者がよくやっているといった中で、建設的な対話というのが比較的有効な中では、皆さんハッピーです。企業業績がよくて、株のパフォーマンスもよくて、経営者もハッピーで、投資家もハッピーでということだと思いますけども、やはり問題なのは、企業業績が必ずしもうまくいってない、そうした中で機関投資家としても必ずしも満足していないといった中で、じゃ、そこでどうやって建設的なエンゲージメントをやっていくのか。これこそが多くの日本企業にとって大事な話だと思います。  
 
 こちらのワリングメンバーの資料にも書かれていますけども、日本版のスチュワードシップ・コードでは、対話に進展が見られないときに投資家はどのようにエンゲージメントの強化を図るのかについての言及がありませんといった話がありました。これは当然ながら、今までの日本における、例えばエンゲージメントがまだ浸透していない状況でこういうエスカレーションの話を出すというのは時期尚早であるという状況があったと思いますけれども、今までいろいろ説明にあったように、エンゲージメントが日本でもかなり浸透してきている。そうした中で、機関投資家と、それから企業がお互いに建設的に議論するというふうなこともできてきているようになっているということであれば、まさにこちらのほうで指摘されているようなエンゲージメントの強化に関しても、今回なのか、あるいは次回なのかという議論はあるかもしれませんけども、日本版のスチュワードシップ・コードでも織り込まれるというのはやはりあるべき姿じゃないかなと考えます。  
 
 以上でございます。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。続いて、小口メンバー、お願いします。  
 
【小口メンバー】  
  ありがとうございます。本日も英国スチュワードシップ・コードの改訂をはじめ、プレゼンテーターでお話しされた松山メンバー、ワリングメンバー、水野様のいろいろなインプットをいただきまして、大変ありがとうございました。こういったグローバルな動きを考慮するというのはすごく大事なことだと思っています。  
 
 その上で、今回はスチュワードシップ・コードの改訂ということを考えているわけですけれども、もともと日本ではガバナンス改革が成長戦略の一環として位置づけられて、着手されたということはやはり忘れてはいけない特質だと思っています。  
 
 前回も問いかけさせていただいたのですけれども、コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードというのは車の両輪であります。それらのもとで経済全体の発展・成長という目的を共有してスタートしたということですけれども、その目的に向かって動いてはいますが、経済全体の発展・成長に寄与する、例えば資本効率といったような、資本コストという概念を前回のコーポレートガバナンス・コード改訂でも入れましたけれども、こういったものについて、進展はしていますけれども、グローバル基準ではまだ道半ばだということをやはり確認すべき状況かなと思っています。  
 
 こういう状況下で、企業経営も一緒ですけれども、目的達成に向けてやはり選択と集中という概念も要るのかなと。それが日本で今考えなければいけない部分であるのかなと思っています。  
 
 その視点で、今回話題になりました英国スチュワードシップ・コードの改訂ですが、私が興味を持ちましたのは、スチュワードシップ・コードの報告について、アクティビティーとアウトカムを検証するための報告というふうにかじを切ったというところです。日本でも実質の深化が命題になっているわけですが、参考にすべき点が多々あるのではないかなと思っています。  
 
 冒頭、石田メンバーから、定義がはっきりしていないと、対話といっても企業と投資家の間にすれ違いが生じるというところで、定義のわかりやすさという指摘があったのですけが、今回の参考資料1、これは英語版ですけども、あと参考資料2、これは和訳ですけれども、それをご覧いただくと、各原則ごとに開示が求められる活動と結果が明示されているわけです。そういうふうな工夫をすることによって、先ほどご指摘のあったような企業と投資家のすれ違いとか、いわゆる解釈の違いみたいなところは回避できるのではないか。そういう意味でも、こういった視点というのは大事なのかなと思っています。  
 
 その一方で、今度の英国スチュワードシップ・コードについては、概念の拡大ということもあって、それを否定することではないのですけども、先ほど申しましたとおり、今我々が考えなければいけないのは両コードによる実質の深化だということを考えますと、既にフォローアップ会議から幾つか指摘を受けているところでありまして、優先順位をつけるとすれば、そちらのほうから取り組みつつ、将来に向けていろんな議論をしていくというのが正しい方向ではないかなと思っています。  
 
 以上です。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。続いて、田中メンバー、どうぞ。  
 
【田中メンバー】  
  私からは会社法学者としてESGについて意見を申し上げたいと思います。  
 
 理論的にESGについて考える場合、私たちは企業価値に資する限度でESGを促進するのか、それとも企業価値に資さない、あるいはそれに反してでもESGを促進するのかという選択肢があります。社会全体の利益という観点から申しますと、企業価値に資さない、あるいはそれに反してでもESGを促進するという考え方ももちろんあり得ます。それは、企業価値と社会全体の利益は、どうしても一致しない、むしろ互いに相反することもあるからであります。  
 
 ここで私が企業価値と言っているのは、初めに石田メンバーがおっしゃったようなファイナンス理論における標準的な定義によっています。すなわち、企業が生み出す将来キャッシュフロー、――これは株主及び金融債権者に帰属する部分です――その将来キャッシュフローの割引現在価値として企業価値を定義するということです。このような定義によれば、企業価値の享受主体は、株主及び金融債権者ということになります。  
 
 一方、企業の活動によって影響を受ける者は、もちろん株主及び金融債権者に限られず、従業員や消費者もいますし、それだけでなく、広く社会全体、例えば企業の排出するCO2の影響を受け得る世界中の人々のように、将来的にも企業価値からその利益を享受しえない者が含まれています。これは経済学でいう外部性です。このような外部性のために、企業価値は、いかにそれを長期的に定義しようと、社会全体の利益とは必ずしも合致しないわけです。したがいまして、企業価値を最大にする経営というものが社会全体の利益の観点からは必ずしも望ましくないということが起き得るわけであります。  
 
 このような問題に対処するためには、少なくとも理論的には企業価値の向上に資さないような政策、つまり、例えば、収益性を犠牲にしてもCO2の排出量を抑えたり、環境や資源を保存するような政策が求められることはあり得ることであります。  
 
 しかしながら、個々の企業がそのような意味においてESGを追求するということは、まさに1970年代において企業の社会的責任というものが強調されていたときに、東京大学の竹内昭夫教授が指摘されたように、社会的責任というのは究極的に経営者の無責任をもたらすものであるという強い批判をもたらしたわけです。個々の企業に対して、企業価値の最大化という目的を超えるような広い目的を追求するように求めることは、結局、さまざまな利害関係者の利益を口実にして、経営者の無限の裁量を認めることになる。企業価値を超える広い意味でのESGを求めることは、そういった大きな問題を抱えているということであります。  
 
 この点は、スチュワードシップ・コードのように、機関投資家が名宛人となる規範において、広く定義されたESGの追求を求めることに対しても、やはり同じような問題があるように思います。機関投資家に対してリターンの最大化、つまり最終受益者が享受する収益の最大化ということではない、それよりも広い目的を追求するように求めることにより、機関投資家の目的が不明確になるということを私は心配しております。  
 
 この観点からすれば、ESGというのは、初めに私が示した選択肢のうちでは、企業価値に資する限度でこれを追求するという、そのようなものとして考えるのがいいのではないかと思います。このような観点からしても、例えば環境リスクに配慮した経営を求めることを正当化することは可能です。なぜなら、企業が環境に配慮しない経営を続けていれば、将来において、非常な損失をもたらすような事故を起こすといったことによって企業のリターンが減少するとか、あるいは企業のレピュテーションが非常に低下することによって収益性が低下するといったように、企業のリターンを低下させる可能性があります。また、そのような企業はリスクが増大することによって、割引率が上昇し、それによって企業価値が低下するというようなこともあります。  
 
 したがいまして、そのような将来リターン及びリスクに与える影響という観点から、ESGの重要性を述べる、そして、企業価値の向上に資する範囲においてESG要素を考慮するという、このようなポリシーを明確にするということであれば、スチュワードシップ・コードにそのような目的を掲げることに私は反対いたしません。  
 
 ただ、最後に一言申し上げておけば、私も小口メンバーと全く同様に、スチュワードシップ・コード策定のそもそもの目的が、企業の収益性の向上という、そこにあったという点を重視するべきであると思います。ESG要素にこだわるあまり、企業の収益性あるいは効率性が過度に犠牲にされ、スチュワードシップ・コード策定のそもそもの目的が曖昧になってしまうということにならないことを望んでおります。  
 
 長くなりまして申し訳ありません。以上です。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。続きまして、上田メンバー、お願いします。  
 
【上田メンバー】  
  ありがとうございます。前回お休みしましたので、少し全体的なコメントも含めて申し上げさせてください。  
 
 まず第1点目ですが、インテグレーションについてです。私はつい先日までロンドンで勤務しておりまして、よく日本からの出張者の方が、投資家が二極化しているとおっしゃっていました。  
 
 どういうことかというと、投資家の中で投資判断をする人と、しない人。つまり、投資家という人たちに会って、いろいろな意見を求めたとしても全く逆のことを言ってくると。ある会社が、IR等で来たときも、財務について関心をおっしゃる方もいれば、ESGに特化したことをおっしゃる方もいる。そもそもスチュワードシップというものに対して、これを好きな人、嫌いな人も含めて、どうも二極化していると。  
 
 投資家といっても投資判断しない人のほうが特に最近増えているわけですが、日本でも同じような動きがあると思っていまして、今日は水野様の前で申し上げるのは恐縮なんですけど、要はGPIFのマンデートをとるためにそういう人たちを設けましたと、こういうアセットマネジャーが実際いるわけです。そういう方たちの人件費というのは営業コストなんじゃないかなと思うところもあるのですが、一方で、こういう人たちが議決権行使も担当しているとなると、企業においては無視できない存在です。実際には彼らの活動というのがサステナビリティの要素なんかの検討においては重要でもありますので、それがきちんと投資プロセスの中に組み込まれていくということは、これは投資家のほうだけじゃなくて、企業からの対話においてもすごく意味があると思っております。  
 
 特にESGについては、数年前までは長期的なリスクの低減の目的が強いと思っていたのですが、昨今のように、さまざまな事業環境が相当ドラスティックに、それも急激に変わるという中では、これは事業機会の提供にもなりますので、そういう面からも機会を捉えるという意味では、投資プロセスへの組込みというものは企業価値の向上にもつながるのではないかと思っております。そのため、このインテグレーション、欧州の投資家と話していると、とても重要な要素でもありますので、ぜひ今回何か議論していただけるとよろしいかと思います。  
 
 次に、対象資産の拡大、これはワリングメンバーも言っていましたけれども、私の考えでは、スチュワードシップ責任というのは、資産に対して負うというよりも投資家が負うものですので、これを資産によって負う、負わないというのは少し違和感を持っています。  
 
 ただ、資産によってスチュワードシップ活動の出方というのは違っていると思っていって、議決権を伴う株式の場合と、それがないものの場合、特に、そしてIR、エンゲージメントの仕方も違ってくるのかと思います。  
 
 イギリスにおいても、ワリングメンバーの横で言うのも恐縮ですが、スチュワードシップ・コードの経緯というのは、金融危機の後の英国株式市場の健全化からスタートしたと思うのですが、その中で投資家の側から更に自発的に、資産が株式だけではなく債券等にも拡大したことができるんじゃないかということで拡大しているというふうに見ております。そうすると、日本においてもこういう動きというのは自発的に、今、投資家の皆様からのご意見にもあったようですので、出てくるのかと思います。  
 
 及び、最近ファイナンス手法が拡大し、例えばグリーンボンド等が増えてくる中で、日本企業、関心はあるようですが、なかなか発行に至るケースが少ないということを見ております。その1つの要因としては投資家側の需給のバランスもあると思いますので、そういったものを促すためにも、この資産の拡大というのはあるのかなと思っています。  
 
 最後に開示の強化です。UKコードにおいてREPORTING EXPECTATIONS、事務局訳では「期待される開示」という表現ですが、これは期待ではなくて、相当強いニュアンスだと理解しておりまして、日本でいう任意開示に近いぐらいのものだと考えております。したがって、この開示の強化というのは今後、我が国では賛否理由の開示になるとは思うのですが、日本のコードにおいても議論されてくる余地があるのかと思っております。反対のみの開示という動きもあると聞いていますが、特に利益相反がある場合には、賛成する理由が重要なので、そういうことを考えると、全体の開示というものがより強化されるべきかと思っております。  
 
 以上でございます。ありがとうございました。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございます。続きまして、三瓶メンバー、お願いします。  
 
【三瓶メンバー】  
  私もスチュワードシップ・コードの全資産への適用について、ESGインテグレーションとの関係で意見を述べさせていただきたいと思います。  
 
 まず、スチュワードシップ責任の対象資産を社債または不動産などに拡大していくことについては賛成です。むしろESGのEとSの観点、または持続可能性の観点からすると、自然なことだと思います。  
 
 例えば、先日ある企業とのエンゲージメントの際に、株主の立場でしたけども、ある脱炭素につながる大型プロジェクトの資金調達について、普通に調達していたので、その企業がなぜグリーンボンドを考慮しなかったのか、次に同様なプロジェクトがある場合にはぜひ検討してほしいというふうに伝えました。  
 
 企業におけるESGインテグレーションを促進するときに、ステークホルダー間のバランスが持続可能性に重要であると思います。そういうことからすると、自然と私たちがエクイティーの立場でエンゲージメントしても、他資産を含めて考えるということが自然に起こります。  
 
 ただ、留意すべき点もあります。株式と社債の利害関係、最終的なリスクバッファーとして提供しているために、議決権等の株主権が株主には付与されています。ですから、株主がガバナンスに関して主体的に関与すべきと考えます。特に日本の場合、これまでのメインバンクによるデットガバナンスから株主によるエクイティーガバナンスへやっと移行してきたところです。こういうことを考えると、株主資本コストの意識づけ、資本生産性の改善、こういったことはエクイティーガバナンスの規律の中で引き続き定着させていく必要があるというふうに思うので、ここは明確にしておくべきだと思います。  
 
 これは、先ほどの田中メンバーのご発言と絡めますと、いわゆる企業価値に資する限度でのESGであるというふうにも言えると思いますが、ただ、現状で資する範囲じゃなくて、やれることを拡大して解釈していかないといけないんだと思います。  
 
 ただ、無理していくと、それはそもそも持続可能ではないと思うので、そういう限度だと思います。非常に簡単に言うと、例えば、企業が工場の稼働率を計算上100%にできる。だけど、100%でずっと稼働させるということはあまりないですね。それは100%のままずっと行くと、持続可能性が心配になるからです。そうすると、95%とか、若干の余裕を持たせることによって、実は持続可能になる。ですから、企業価値の最大化とか極大化という言葉はちょっと違ってくるんだろうと思います。  
 
 企業価値を毀損してまでやることではないんだけれども、企業価値の最大化ではなく、ちょうどいいバランスを探しながら、持続可能性をより優先して、やれる範囲を広げていって、ESGインテグレーションというのをしていくんだろうと。それがうまく回っている会社の例もだんだん出てきています。なので、そういったエンゲージメントが必要になってくるというふうに思っています。  
 
 以上です。  
 
【神作座長】  
  ありがとうございました。続いて、大場メンバー、お願いします。  
 
【大場メンバー】  
  投資顧問業協会の大場です。今回のこのコードの見直しについて、まず、視点を明らかにした上で、この議論を進めていく必要があるように思います。その視点は何かというと、実効性のある取組みにこのコードを見直していかなくてはいけない、ということだと思います。  
 
 その実効性のある取組みとは何を言っているかというと、メンバーの方々から指摘があったように、持続的な企業価値の向上だと思います。これにつながることを実効性のある取組みにしないといけない。こういうことがまず前提としての視点だと思います。その上で、私は見直しに当たって2点をご提案したいと思います。  
 
 まず第1点目は、コードの見直しに当たっては、これは三瓶メンバーからも意見がありましたけど、コンプライ・オア・エクスプレインの基本原則を変えるような議論は起きていないわけなので、あまり細かいものにはしないということだと思います。  
 
 特に重要だと思いますのは、実効性のある取組みに関して、自らのスチュワードシップ活動を自己評価して、それを詳細に開示して見える化する、これが今のコードに示されているにもかかわらず、定着しているようには思えないので、もう一度フォーカスする必要があるのではないかと思います。  
 
 もう1点は、日本しか見られないというか、日本にとって非常に特徴的な不都合な事実から目をそらすべきではないということだと思います。それはどういうことかというと、これは前回のこの検討会で大海メンバーからも指摘があったかと思いますが、日本の株式への投資ニーズが非常に限られたものになっているということであります。つまり、日本の株式が、投資対象としてのウェイトが下がってきている、こういう事実をどう考えるかということです。投資対象じゃないのにコードの議論をしてどういう意味があるのかということになりかねない。  
 
 もう1つの不都合な事実は、アンケート調査からご紹介したアセットオーナーからESGに関する質問を受けることが極めて限定的だということです。今日、水野様からESGへの熱き思いが語られておりますけども、そういうアセットオーナーは非常に限られている、こういう現実をどう考えるかとこういうことです。  
 
 つまり、そこには同じ問題が底流としてあるのだと思います。投資対象として考えない。ESGの要素が非常に重要だと考える人が少ない。その背景は何かというと、中長期的にリターンが伴っていないということです。これが世界で日本しか見られない非常に大きな課題ではないかと思います。  
 
 したがいまして、実効性のある取組み、繰り返しになりますが、この原点に立ち返ったときに、実効性があるという意味は、持続的な企業価値の向上を意味しているのだということで考えたときに、この現実に対してどのようにくさびを打っていくかという視点でのコードの見直しが必要だと思います。  
 
 以上です。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。続いて、武井メンバー、どうぞ。  
 
【武井メンバー】  
  短い時間で簡潔に。まず1点目、議決権行使助言会社の利益相反ですが、今回の一連のアメリカの動きの中でも指摘されておりますけれども、助言会社のコンサル業務と上場会社との利益相反の話がよく出てきがちですが、実は機関投資家の方との間の利益相反の問題もあります。例えば株主提案をしている機関投資家の方が助言会社自身の重要顧客であるということに伴う利益相反もあるので、その点に関してもきちんとアドレスをしていく必要があるのだろうと思います。これが1点目です。  
 
 2点目は、アメリカの一連の動きでございますけども、アメリカでの動きは議決権行使助言会社の正確性と透明性と完全性という三点をどう担保するかという点についての重要な指摘なので、日本の今回の動きとタイミングが微妙に一致していますけれども、日本で3年後とかに先送りにしないで、今回きちんと見ておくものは見ていくべきだと思います。これが2点目です。  
 
 最後に3点目、エスカレーションの話ですが、今回、日本のコードに書き込むことは私は反対です。何らか書き込むことで、機関投資家はエスカレートす「べき」とか、集団的に企業に向かう「べき」とか、そういう「べき論」の反応に現場がなってしまいがちになりますので、そういったことを今回書くのは時期尚早だと思います。ちなみにイギリスのいろいろな改訂の動向ですが、さきほどご紹介があったアプライ・アンド・エクスプレインなんかもそうですけれども、英国が「べき論」に行っていることには若干違う背景があるように思います。日本のコードは、上場企業の持続的成長ということが目的としてあるわけですけれども、イギリスのコードは、例えば高額な役員報酬に伴う経済格差の解消とか、「べき論」でいう必要がある話・背景があるので、「べき論」の方向で強化されているという流れがあると思います。日本にはそうした問題があるわけではないので、あまりイギリスがいろいろ「べき」「べき」で強化しているからって、日本も「べき」「べき」に行くということは前提が違う面があるように思います。イギリスがこうやっているから日本もこうするべきという形にはしないほうが良い、エスカレーションとかは私は入れるべきではないと思います。  
 
 以上3点です。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。キャロンメンバー、お願いいたします。  
 
【キャロンメンバー】  
  ありがとうございます。全資産に拡大すべきかどうかという点に関して、私は賛成です。もう少し強く申し上げますと、なくてはならないと思います。水野様や多数のメンバーからもすでにお話がありましたが、責任ある機関投資家が株式投資だけでいいのかについては決してそうではないと思います。コードの策定時には株式投資を軸に想定していたのは事実ですが、全資産への拡大は意義のあるイノベーションとなります。まずコードの原則1で、受託者責任をきちんと持つことは機関投資家として当然だと思いますし、原則2で利益相反管理をしっかりと図っていくこと、そしてESG要素に配慮すべき点も、社債の投資家も内包されると考えます。  
 
 むしろ事務的なことですが、今のスケジュールでは、次回から改訂案の取りまとめになることを懸念しております。スケジュール上無理があるために導入が進まなかったり、時期尚早ということになってしまうと、それは本末転倒ということになります。全資産についてどの機関投資家もしっかりとした責任ある投資活動を行ってくださいという改訂にするとしたら、どういう改訂があるべきかについてできるだけ早急にご提示いただいて、議論しないといけないし、場合によっては次回の会議だけではなく、予備である12月の開催が必要になると思います。  
 
 もちろん、例えば、次回のコード改訂において債券投資家も含めるという方法もあると思いますが、スチュワードシップコードの改訂のサイクルは3年ごとになるため、23年の改訂になることを意味します。ですので、事務局の方々にも、メンバーの方々にもご迷惑をかけない形で、早急に今回の改訂に向けた検証をし、コードに盛り込むことが必要だと思います。全資産をコードの対象にすることは既にグローバルスタンダードになっていることは間違いないので、我が国のためになる、世界一のスチュワードシップ・コードになるよう、ぜひご検討いただければと思います。  
 
 私からは以上でございます。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。岡田メンバー、お願いいたします。  
 
【岡田メンバー】  
  前回の会議のときに、投資家の皆さんにはぜひ企業の社外役員との対話をもっとしてほしいとお話ししました。こう考えた背景を申し上げますと、最近、不祥事に関する第三者委員会の調査が行われますと、社外役員は「私のところには報告は上がっておりませんでした」ということで免責になるというケースが大変多いわけです。いや、むしろ社外役員の中には、「悪い報告を上げられると責任を負わなければならないので聞かせないでくれ」と言っているといううわさも聞きます。そういう意味でも、社外役員の方が、自分に情報が上がっているかどうかを意識している、あるいは自分が積極的に情報を取りに行っているか、こういう姿勢を見ることが大変大事だという意味で、対話をしていただきたいというお話をしました。  
 
 翻って、今回、ICGNのコードを拝見しますと、スチュワードシップ・コードは投資家が主人公になって書かれているわけですけれども、やはり企業の側もある意味、努力責任というんですか、対話をする姿勢を持つべきであるということが書いてありまして、その中には取締役としてincluding non-executive directorsというところまで書き込まれているわけです。  
 
 そういう意味で言うと、日本の場合、社外取締役が本当に機能しているのかという課題認識もあると思いますので、Non-executive directors(日本の場合は監査役も含みます)が執行を監督する姿勢を持っているか、などを中心に投資家と対話をすべきという努力義務が日本のスチュワードシップ・コードにも、書き込まれてもいいのではないかと思います。  
 
 それから、もう1点つけ加えますと、ESGの話題がたくさん出ておりますが、ESGというのは、私が企業にいたときの経験では、企業理念そのもの、あるいは企業の行動指針そのものがまずベースにあるべきだと思います。  
 
 各企業が自分の企業理念あるいは企業の行動指針、この中にESGを盛り込んだものをちゃんと開示するという姿勢が求められていると思いますので、投資家の皆様には、このような観点でも対話することをお願いします。  
 
 以上です。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。春田メンバー、お願いいたします。  
 
【春田メンバー】  
  連合の春田でございます。時間のないところ、簡潔に1点だけ、GPIFの活動について一言申し上げさせていただければと思います。  
 
 ESG投資に関しましては、社会の持続可能性に向けて重要性が増してきているというのは我々も当然のことだというふうに思っておりますけども、前回この場でも、ESGの中でやはり偏りがあるなと。取組みの中でもSの部分、労働人権、雇用の関係もそうですけど、なかなか進んできていない状況もあるのかなというふうに思っております。  
 
 GPIFの活動報告の中でも、資料を見させていただきますと、女性活躍推進指数の件も含め、そういった意味で企業の情報開示とセットでこういった指数をつくって、企業活動の中でも非常に効果があるのかなというふうに考えているところであります。  
 
 今後、どういうふうに持続可能性を考えていったらいいのかという中では、日本におきましても少子高齢化社会が進んでいく中、人手不足が進んでいく中、雇用面においても、次、どのような取組みをしていったらいいのか。またGPIFの中でも何か検討しているようなことがあれば、ご示唆いただければありがたいなと思っています。  
 
 以上でございます。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。他にご意見ございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。水野様、どうかお願いいたします。  
 
【水野GPIF理事兼CIO】  
  ありがとうございました。皆さんのご発言も大変私どもの活動に参考になります。  
 
 先ほど5分の中で1つコメントするのを忘れてしまったのがありまして、今日ちょうどご欠席の冨山メンバーの意見書にも書いてあるのですが、パッシブに私どもがエンゲージメントを求めていることについて、特に日本の運用会社ですけれども、アクティブのほうにアナリスト等のリソースが偏っていて、パッシブにはそういう人がいないと。実際フィーも今まではベスト・パッシブマネジャーはローエスト・トラッキングエラー、ローエスト・コストということでやっていましたので、それと今、私どもが要求しているエンゲージメントは合わないのではないかということが指摘されておりますが、それはGPIFは十分認識しておりまして、2年前からパッシブについても明確にパッシブの付加価値というのを分けて考えておりまして、インデックスを選ぶ、これは我々の仕事、インデックスをトラックするというもともとの運用会社の仕事に加え、アクティブ・オーナーシップ、スチュワードシップ、これが重要だと。こここそがまさにパッシブの運用会社さんが差別化できるところだということをお伝えしてまいりまして、昨年から、今2社のパッシブの運用会社さんに新しいエンゲージメントを、スチュワードシップを強化したパッシブのビジネスモデルということで採用させていただいて、運用報酬も今までのパッシブのフィーとはちょっと違う次元のフィーをお支払いするようにしております。  
 
 あと、春田メンバーからのご質問ですが、ESGに偏りがあるということも十分認識しておりますが、私どもは逆にこの中で、Gはプラットフォームであって、それそのものは目的ではございませんので、企業の持続可能な成長に向けて、現在の取締役や代表取締役の任期を超えたような課題の解決や価値の維持ということを確保するためにGが必要だと。Gの1つの目的としては、ソーシャルにかかわる課題の解決というのも必要だというふうに考えておりますので、そういう考え方でやっております。  
 
 先ほどの田中メンバーのお話でもありましたが、やはりEとSのようなものを確実に長期的に実行していく企業でなければ、長期的な企業価値の保全は多分ままならないのであろうというふうに私どもは投資家との会話の中で考えておりますので、そういう意味では、ミルトン・フリードマンの言っていたような考え方が徐々に今変化しているということを私どもは投資家として感じているわけでございます。  
 
 以上です。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。ワリングメンバー、どうぞ。  
 
【ワリングメンバー】  
  たくさんのすばらしいコメントをいただきました。どこから始めていいのか分からないぐらい、どのコメントからお答えしていいのか分からないぐらい、すばらしいコメントをいただきました。  
 
 フィデューシャリー・デューティーに関しての議論、非常に感銘を受けました。近年の投資家の役割というのは、最終受益者のために価値を創造、増強するということで、60年、80年先ということでほんとうに長期であるわけです。欧州委員会においてのESGの見方というのは、これはもう曖昧ではなくて、投資家のフィデューシャリー・デューティーとはっきりと語っています。  
 
 それから、エスカレーションに関してですけれども、言葉を変えると代替手段というふうに言えます。エスカレーションと言ってしまうと、ほんとうにエスカレートするような感じがするんですけども、ここで言っているのは投資家がいつもやっていることなんです。つまり、エンゲージメントには代替の方法があるわけです。日本は例外的で、具体的なエスカレーションというという事に言及していないんですけれど、20くらいある世界のほかのコードでは規定しています。エスカレーションがなぜ重要かといいますと、エンゲージメントの政策の中で投資家が具体的にどういうふうに企業とエンゲージメントするかということをはっきりと書いているからです。企業は、そうすれば次のステップは何かということがわかるわけですね。もしも対話が進まなかったら、次はどういうステップかということが企業側がわかるということです。  
 
 それから最後、ESGについてですが、マレーシアが初めてESGを単独の原則として入れました。ICGNがやる前です。ですから、2014年に日本はスチュワートシップ・コードを公表しましたけれども、マレーシアがその後すぐ続いたわけなんです。ESGの考えを全ての原則に入れてしまうか、それとも単独の条項でこれを求めるかという事です。もしかしたら次のサイクルのときに、ICGNや英国のコードに合わせてESGを統合するということはどういうことなのかということを考えていただければと思います。  
 
 ありがとうございました。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。他にご発言ございますでしょうか。よろしゅうございますか。  
 
 本日も非常に熱心にご議論いただきまして、ありがとうございました。スチュワードシップ・コードの書き方については、プリンシプルベースを維持すべきであるというご意見が多かったと思います。ESG要素によりフォーカスを合わせること、およびアセットの種類の拡大等についてはご意見が分かれる点もありましたけれども、どちらかというと積極的なご意見が多かったように思います。議決権行使助言会社についても、何らかの形で、特に米国の動向等を参考にして追加すべきところが多いのではないかというご意見が多かったかと思います。  
 
 本日の議論を踏まえて、次回はスチュワードシップ・コードの改訂案についてご議論をお願いしたいと存じます。なお、本検討会では議論の時間が限られておりますところ、メンバーの皆様におかれましては、現在のスチュワードシップ・コードについて記載にわかりにくい点がある等の形式的な面も含めて、ご意見がございましたら、ぜひ事務局にまでご意見を頂戴できればと存じます。  
 
 最後に、事務局のほうから何かご連絡がございましたら、お願いいたします。  
 
【井上企業開示課長】  
  次回の検討会の日程でございますが、改訂案についてのご議論をお願いしたいということでございますので、少しお時間をいただきたいと思います。皆様のご都合を踏まえた上で、最終的に決定させていただきたいと思いますので、ご案内をお待ちいただければと思います。  
 
 また、傍聴の方も含めてのお願いでございますけれども、同時通訳のレシーバーにつきましては、お持ち帰りにならず、机または座席の上に必ず置いてくださいますよう、お願い申し上げます。  
 
 また、本日ちょっと遅い時間でございますので、エレベーターホールの混雑が予想されます。ちょうど退庁時間に当たっておりますので、大変恐縮ですけれども、メンバー及びゲストスピーカーの皆様におかれましては、この会議場がございます13階のエレベーターを、一般傍聴の皆様におかれては、大変お手数でございますけれども、可能な限り階段で12階まで下りていただきまして、そちらのほうにエレベーターがたくさんございますので、12階のエレベーターをご利用いただきますよう、ご協力いただけたら幸いでございます。  
 
 事務局からは以上でございます。  
 
【神作座長】  
  どうもありがとうございました。それでは、以上をもちまして本日の検討会を終了させていただきます。熱心にご議論いただき、まことにありがとうございました。


―― 了 ――

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