【特集】
 
バーゼルII(新しい自己資本比率規制)の概要について

 金融庁は、2007年3月末から適用されるバーゼルII(新しい自己資本比率規制)の枠組みの一環として、2006年3月末に「第三の柱(市場規律)」にかかる告示案等を公表しました。これにより、既に公布された「第一の柱(最低所要自己資本比率)」にかかる告示、「第二の柱(金融機関の自己管理と監督上の検証)」にかかる監督指針とあわせ、わが国におけるバーゼルIIの実施に係る全体像がほぼお示しできたことになります。
 そこで今回は、わが国におけるバーゼルIIの第一の柱及び第三の柱の概要に加え、去る3月末に公表した資料のうち、○バーゼルIIにおける適格格付機関の格付と告示上のリスク・ウェイトとの対応関係(マッピング)、○バーゼルIIに関する「本邦における証券化取引に対する適格格付の公表要件」(案)、○バーゼルIIに関するQ&Aについて簡単に解説します(「第二の柱」については、アクセスFSA第37号を参照してください。)。

1.

「第一の柱」
   第一の柱では最低所要自己資本比率を定めており、自己資本比率を算定するにあたり、分母となるリスクの計測を現行規制より精緻化するという点が最も大きな特徴です。
 具体的には信用リスクの計測の精緻化に加え、オペレーショナル・リスクの計測が新たに自己資本比率の算定に導入されました。(マーケット・リスクについては現行規制と大きな相違はありません)。
最低所要自己資本比率
 
(1)

 信用リスク
     信用リスクの計測手法としては、標準的手法、基礎的内部格付手法及び先進的内部格付手法の3つの計測手法が設けられ、銀行は、3つの手法のいずれかを選択できることとなりました。 (注)基礎的内部格付手法及び先進内部格付手法を採用する場合には、監督当局の承認が必要となります。
 標準的手法とは、現行規制を一部修正した最も簡素な手法です。現行規制からの主な変更点としては、
     中小企業・個人向け与信のリスク・ウェイトが、小口分散によるリスク軽減効果を考慮して、現行の100%から75%に軽減されていること(住宅ローンについては、現行の50%から35%に軽減)。
     延滞債権(3ヶ月以上延滞債権)については、非延滞債権よりもリスク・ウェイトを重くしつつ引当率に応じて軽減措置が講じられていること
     事業法人向け与信については、信用力に応じたリスク・ウェイトが使用可能となっていること(格付機関が付与する格付に応じて20%〜150%のリスク・ウェイトを設定。ただし、格付機関の格付を利用せず一律100%のリスク・ウェイトとすることも可能) 等です。
 他方、内部格付手法とは、高度なリスク管理を行っている金融機関が内部で推計を行っているデフォルト確率等を用いて所要自己資本を計算する手法です。このうち、基礎的内部格付手法は、デフォルト確率(PD)のみを金融機関が推計し、デフォルト時損失率(LGD)やデフォルト時与信額(EAD)等については国際的に定められた設定値を使用するものです。また、先進的内部格付手法では、PD、LGD、EADの全てについて銀行が自ら推計を行い、その推計値を基に所要自己資本を計算することになります。
 これら三つの手法を金融機関の選択制とすることにより、多様な選択肢の中から金融機関が選択を行い自主的にリスク管理の高度化を図るよう促していくこととなります。
 
(2)

 オペレーショナル・リスク
     オペレーショナル・リスクとは、事務事故、システム障害、不正行為等で損失が生じるリスクのことをいいます。
 オペレーショナル・リスクの計測においては、基礎的手法、粗利益配分手法、先進的計測手法の3つの手法が金融機関に選択肢として与えられています。
   
(注)  粗利益配分手法、先進的計測手法を採用する場合には、監督当局の承認が必要となります。
 基礎的手法、粗利益配分手法は、粗利益をオペレーショナル・リスクの代理指標とし、粗利益に一定の掛目を掛けた値をもとに所要自己資本を算出する手法です。また、先進的計測手法は、過去の損失実績等をもとに、金融機関が内部で実際に使用しているオペレーショナル・リスクの計測手法から算出されるリスク量に基づいて所要自己資本を決定する手法です。

2.

「第三の柱」
   バーゼルIIにおいては、開示の充実を通じて市場規律の実効性を高めるため、自己資本比率とその内訳、各リスクに関する計算手法や定量的な情報等についての情報開示が求められています。
 こうした第三の柱にかかる告示案においては、必要な開示項目を示すとともに、銀行法等で定める金融機関の情報開示義務を踏まえ、少なくとも年一回(銀行は年二回)はこれらの項目に関する情報の開示を求めています。更に金融機関の実情に応じた開示を促すため、半期及び四半期開示についての努力規定を設けています。但し、内部格付手法(信用リスク)または先進的計測手法(オペレーショナル・リスク)を採用する銀行については、半期及び四半期開示も適切に実施する必要があり、各手法の承認要件に盛り込んでいるほか、国際統一基準行についても同様の取扱いを求めることとしています。

3.

適格格付機関と各格付機関の格付とマッピング
   適格格付機関と各格付機関の格付と告示上の「信用リスク区分」及び「リスク・ウェイト」との対応関係(マッピング)は、「第一の柱」のうち信用リスクの標準的手法等に使用できる適格格付機関の格付がどのリスク・ウェイトに該当するかを定めたものです。
 この「マッピング」は、適格格付機関としての選定を希望した格付機関について、平成17年3月31日に公表した「バーゼルIIにおいて利用可能な格付機関の選定について」で示された客観性、独立性、透明性、情報開示、人材・組織構成、信頼性の6つの適格性の基準及びデフォルト率などのマッピングの基準を踏まえ決定したものです(適格格付機関とマッピングについての詳細は金融庁ホームページを参照してください。)。
  なお、当該マッピング案は、平成18年3月末から開始される予備計算期間に間に合わせるために公表したものであり、今後平成19年3月末のバーゼルIIの実施開始までにマッピングの見直しを必要とする事態が生じた場合には、当該マッピング内容を見直すこともあり得ます。

4.

「本邦における証券化取引に対する適格格付の公表要件」(案)
   証券化取引のリスク特性は通常の事業法人に対する与信に比べ複雑かつ多様である中、バーゼルIIにおいては、証券化エクスポージャーのリスク・ウェイトを適格格付機関の付与する格付を利用して算出することとなっており、適格格付機関が付与する格付によってリスク・ウェイトが大きく変化することとなります。したがって、証券化エクスポージャーに利用できる格付の適切性を担保することは、極めて重要であると考えています。
 しかしながら、証券化取引の個々の案件の詳細を第三者が把握することは難しいため、個々の格付について市場からの牽制機能は働き難いということが特徴として挙げられます。これに加えて、過去のデフォルト実績も僅少なため、格付をデフォルト実績値(例えば、3年累積デフォルト率)によって有意に検証することが困難なのが実情です。こうした特徴を踏まえ、バーゼルIIでは、証券化エクスポージャーに対する格付の適正さが市場規律を通じて担保されるようにするため、「当該格付は、公表されており、かつ、格付推移行列に含まれるものであること」(同項第3号)も求めています。
 これらの状況を踏まえると、当該公表要件を充足するためには、投資家ではない第三者が適格格付機関からウェブサイトやレポート等の手段を通じ、外部格付の適切性を評価できる程度の情報を、市場参加者が容易に入手可能であることが必要であると考えています。このような考えに基づき、具体的な公表項目について本年3月31日に公表し、パブリック・コメントを行いました。

5.

Q&A
   バーゼルIIに関するQ&Aは、バーゼルIIを円滑に実施し、また、金融機関のリスク管理の高度化に資するものにするという観点から、バーゼルIIに係る金融庁の現時点の考え方をまとめたものです(具体的なQ&Aの内容については、金融庁ホームページをPDF参照して下さい)。金融庁としては、リスク管理の高度化を目指す金融機関と積極的に対話を行い、リスク管理の一層の高度化を促進する方針ですが、この過程で、上記の趣旨を踏まえ必要な限りにおいて、今後ともバーゼルIIに関するQ&Aの充実を図って行く予定としています。
 
 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から「1.バーゼルII(新しい自己資本比率規制)第3の柱の告示案及び監督指針案の公表(意見募集の実施)、2.バーゼルIIにおける適格格付機関の格付と告示上のリスク・ウェイトとの対応関係(マッピング)の公表、3.バーゼルIIに関する『本邦における証券化取引に対する適格格付の公表要件』(案)の公表(意見募集の実施)、及び、4.バーゼルIIに関するQ&A等の公表について」(平成18年3月31日)にアクセスしてください。

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