谷垣委員長・村井総括政務次官記者会見概要

【平成12年5月30日(火)於:金融再生委員会記者会見室】
  

【新たな形態の銀行業に対する免許審査・監督上の対応(運用上の指針)について】

谷垣 委員長:異業種による銀行業参入等新たな形態の銀行業の問題につきましては、今年の1月以降、金融再生委員会及び金融監督庁におきまして鋭意検討を行ってきたところですが、今日の金融再生委員会におきまして、「基本的な考え方」及び「運用上の指針案」について議決いたしました。その具体的な内容につきましては、既に事務方よりお話申し上げていると思いますが、私からは本問題に対する金融再生委員会、金融監督庁としての基本的な考え方を申し上げたいと思います。
 
 最近の異業種による銀行業参入と新たな形態の銀行の設立の動きにつきましては、金融技術の革新あるいは競争の促進などを通じて、我国金融の活性化あるいは利用者利便の向上等に寄与する可能性があると考えております。他方、こうした新たな形態の銀行業につきましては、従来の伝統的な銀行業においては想定していなかった様々な観点からの問題が考えられますから、銀行法上要請されている銀行業務の健全かつ適切な運営確保の観点から改めて検討を行ったところでございまして、今般運用上の指針案を策定したわけであります。今後、この運用上の指針案は1ヶ月間パブリックコメントに付した上で、最終的に取りまとめる予定であります。もとより新規に参入する銀行におきましても、決済機能や金融仲介機能の担い手として、通常の銀行と同じように十分な財産的基礎あるいは適格な人的構成、内部管理体制などが求められる事になりますが、今後、本指針案が確定された後は、これらの点も含めまして本指針を踏まえて、免許審査や免許後の監督において十分なチェックが行われることになるわけであります。
 
 なお、このほど策定した指針案はあくまでも現行法令下での免許審査そして監督を的確に行うための運用上の指針として位置付けられるわけですが、現行法令では対応しきれない問題、例えば免許付与後に銀行の主要株主の変更を事前に把握して、銀行の健全性確保に支障をもたらすような不適格な株主を排除していく権限、これは監督当局には付与されていないわけですが、これは法令上の手当てが欠けていたということになるわけで、そういった問題があります。そこで諸外国の状況なども参考にしながら、こうした状態を是正するための制度改正や銀行の他業禁止の緩和など異業種の銀行業参入問題とはちょうど裏腹の関係にある規制緩和の問題等について、今後、金融審議会等において早急に検討を開始していただくよう、関係当局、具体的には大蔵省ということになりますが、お願いしたいと考えております。
 
 最後になりますが、既存の銀行界におきましても異業種参入の動きを期に収益力の強化とか、利用者利便の向上に一層努力していただきたいと考えております。

   

村井 総括政務次官:谷垣大臣から既に包括的なご所見がございましたので、私からは一言だけ申し上げさせていただきたいと存じます。異業種の銀行参入の問題につきましては、いろいろ話題になりましたが、私もプロジェクトチームのお話をいろいろ伺いましたり、勉強させていただきながら、一方、自民党の金融問題調査会の論議などもずっとフォローさせていただきましたし、再生委員会にも出席をいたしまして諸先生方のお話もうかがわせていただき、今日を迎えたということでございます。率直に申しまして、銀行というものがいわゆる企業グループを越えて、今度大銀行が4つにまとまっていくというような時節でございまして、マネーというものを言わば媒介するあるいはそれを扱うサービス業の一つという色彩、金融資本が産業をまとめていくというような時代ではなくなってきた象徴として、この異業種参入問題がでてきたのではないか、という捉え方もしておりまして、さような意味でも21世紀を迎えて大変興味深い事ではないかと思っております。パブリックコメントがどのような形で寄せられるか大変期待しているところでございます。メディアの皆様方にも是非その辺いろいろご協力を頂ければありがたいと思います。

     

【質疑応答】

 問:異業種参入の意義ですが、大臣、異業種参入に今の話も前向きだったと思いますが、今回の指針が異業種参入を促して国内銀行の競争力等からとか、産業全体の活性化につながるかどうかということについて、どのような見解をお持ちなのでしょうか。
  

員長:当然、新しい形態を持った異業種の方々が参入してこられれば、今までの業態が持っていたいろいろなノウハウを銀行業の中に活かすことによる相乗効果というものが期待され、そういう中から新しい金融技術が生じて来たり、あるいは利用者の利便性が増してくることが期待できるということです。そういう効果が表れてきますと、今までの銀行にも刺激を与えていくということが考えられる。更に申し上げれば、そういうことによって日本の金融業が活性化して競争力が増し、またいろいろな金融技術が増していけば東京市場の魅力というものも高められるのではないか。今は良い事だけを申し上げましたが、そういう期待ができるのではないかと思っております。

  

 問:先ほど銀行法の改正についても踏み込んだ発言をされましたが、今回指針が銀行の参入をリスク管理の観点から今回の指針だけでは不十分だと考えるのか。その上で銀行法の改正が必要だと判断されたのかその辺について教えて頂けますか。
  
員長:今回の指針の位置付けは、今の銀行法の枠の中で新しい時代を見るとどういうふうな観点から考えていく必要があるか、ということで作ったもので、その限りにおいては新しい立法というものを視野に入れているわけではありません。その限りにおいては、今の銀行法で完結しているわけですが、先ほども触れましたが、今の銀行法では新しい株主が、言うなれば銀行を買うと言いますか、新しい大口の株主というものが自分の事業のリスクというようなものと金融業というものにあまりスクリーンを設けるということに関心のない方が入ってくる可能性があるわけで、それに対しては今の銀行法はあまり手法がないわけですから、バーゼル・コア・プリンシプルとの関係でも、その当りをどうしていくかというご議論をしていただく必要がこれからあるのかと思っております。もう一つは、銀行の側から他業種に参入していくこと、いわゆる規制緩和の議論の中でも、これをもう少し見直していこうという動きがあるわけですが、その当りもこれから当然金融審議会で議論していただく事になるのではないか。これは金融審議会がご判断を頂くわけですが、そのように思っております。
  
括政務次官:補足させていただきますと、更には公正取引委員会、自民党の独占禁止法調査会、こういったところでも銀行が、今、他業種の株式を持ちますのに制約がございますが、この当りをどう考えていくかご議論を頂かなければならない問題だろうと思っております。これは金融監督庁あるいは金融庁の問題ではございませんから、公取なりでご研究頂く問題だと思います。

   

 問:ようやく指針がまとまったわけですが、申請を受付ける側としては今回まとまった指針に基づいて、これから準備をして申請してくる側に期待するものと言うか期待するところというのは何ですか。
  

員長:先ほども申し上げたことと、狙いは何かと言うことと重なってくるわけですが、新しいいろんな視点をどうやって入れてきていただくかと言うことが一つあるのだろうと思います。他方、金融機関としての先ほど申し上げましたような、いろいろな人的な基礎であるとか、資本的な基礎であるとかそういうものが当然なければならないわけですから、もちろんその当りをしっかりご議論頂いて出していただけるとありがたいと思っております。

  

 問:異業種参入のデメリットというのはどういうところにあると思われますか。
  
員長:デメリットということになるか分りませんが、今回の指針を作る時に一番大きなポイントのひとつであったのは、親会社と申しますか事業会社の持つ様々な事業上のリスクというものをどういうふうに遮断していくかということにあったわけで、それはかなりいろいろ書き込んできたわけですが、そういう問題がやはり異業種参入にはないとは言えない。今回はそれに対するある程度の整理はきちっと出来たのではないかと思っております。それともう一つは、これもデメリットと言えるか分りませんが、やはり競争が激化するという事が一般論としては考えられるわけで、現在の我国の金融システムに対して、この競争の激化というものがどういう意味を持ってくるかについては、これもご議論があるのだろうと思います。私共としては、こういう新しいものを入れてきた競争というものが、結局長い目で見て日本の金融システムをきちっとしたものにしていく、競争力もあり力強いものにしていくということを期待したいわけです。

  

 問:既に金融当局と接触をしているヨーカ堂とかソニーとかがあると思いますが、そういうものの取り扱いというのは、このガイドラインが正式に決まるまで現状と同じような状態なのですか。それと先ほどの事務方の説明では実際の運用の目途についてはできるだけ早くといういい方だったのですが、目途としても時期的なものは示せないのですか。いつ頃から実際に運用されていくのですか。
  
員長:時期的なものは、パブリックコメントに掛けまして、6月30日までにお願いをするということですから、パブリックコメントでどういうご意見が出てくるのか分りませんが、要するに6月30日に締め切りましたら、できるだけ早く議論をまとめていかなければいけないと思います。他方、既にいろいろ接触をして頂いているところもまだ正式には申請は出てきてはおりませんが、そういうところもございますから、そういう議論の途中のものを直ぐ適用していくというわけにもいかないことがございますけれど、あまりそう言っておりますと「何時までも店晒しにしておくのか」ということにもなりかねないので、我々としてはいろいろ申請の打診をしておられる方、いろいろご相談をしながらやらなければいけないと思いますが、できるだけ早くパブリックコメントの後まとめていく努力をしなければいけないと思っています。

  

 問:アメリカでは去年事業会社の参入が原則禁止という方向に動き出しているわけですが、もちろん日米金融の置かれた状況は違うと思いますが、逆行するということについてどういうふうに分析・整理されて今回のご決断となったのですか。
  
括政務次官:アメリカの場合は確かにそういうことにしましたが、それ以前にプロポーザルが出ているものについては、従来通り参入を認めるという措置をしたと承知しております。そういう意味ではアメリカでは、流通業が銀行を持っているという状態が既にできてしまっている。それ以上やらないということにしたと理解した方が正しいのではないかと思います。そういう意味では欧米、なべていわゆる事業会社の銀行所有という状態はできているわけですから、日本だけ道を閉ざしているというようなことではないのではないかというように理解してはいかがでしょうか。

   

 問:親会社等への立入検査について、ここには明記されておりませんが、親会社の監督を金融再生委員会がするということはあり得ないと思いますが、伝家の宝刀ということも含めて、現実にイー・アイ・イー等のいろんな問題があったわけですし、そういうものがあったほうがいいという議論が相当いろんな方からお聞きしてもあるのですが、その辺については、今大臣としてはどのようにお考えですか。
  
員長:これはこれから金融審議会等で詰めて頂くべき事ですが、今仰いましたように金融の監督というものはどこまで事業会社の中に迫り得るような体制を持ち得るかというのについては、いろいろ難しい問題があるのだろうと思います。結論をいま一義的に申し上げるわけにはいかない。いろいろ難しい問題があるのだけれど、検討の対象としてそれがどうなるかということを、全部難しいからそれはいいねと言い切ってしまう必要もないのだろうと思っております。もう少し議論を煮詰めて頂く必要があるのかなというのが今の気持ちでございます。

  

 問:異業種が参入すると地域金融機関に影響が出るのではないかという見方もあるのですが、その点についてはどの様にお考えですか。
  
員長:これも先ほど申し上げたことのようになるのですが、それがある意味での金融の競争の激化を招く可能性というのは一般論として否定するわけには行かないと思いますが、他方、先ほど総括政務次官も仰いましたようにそういうものがアメリカでもでき、ヨーロッパでも行われている状況、そういう中に新しいいろいろな情報技術やいろんな物が入ってくるときに、日本が蓋をしておくことができない。そうするとそういうものを入れていく事によって相互の競争ができてより体力の強い物になっていくことを期待しようという選択をしたつもりなのですが。

  

 問:地方銀行と信金・信組の再編というのはやや足踏み状態だと思うのですが、今回の新規参入によって促進要因になるという効果を期待しているようなことはないですか。
  
員長:この新規参入を仮に認めないとしても、いろいろな投資の拡大というものが必要になってくるでしょうし、新しい商品サービスを作っていく上でも、新しい金融商品を作っていくようなことも、地方銀行にも地方の信金・信組にも要請されるでしょう。そういう基盤を固めていくためにはもう少し再編が起ってくるのだろうと私は思っています。今度認めたようなものが一体どの位の規模で日本で行われていくかということは、私共掴めているわけでは必ずしもありません。それぞれ申請をされる予定のところが、どういうものにしていくかそれなりに苦労をされながら今模索している段階だろうと思います。どうなっていくのか明確に申し上げられないのですが、ある意味での刺激にはなるだろうと思っております。

    

 問:既存銀行への適用についてですが、例えば、オリックスは信託を持っていますし、ソフトバンク連合が日債銀を買収する予定など、そういうところも対象になるのですか。
   
員長:免許を与える場合の一つの基準と監督をしていく場合の留意事項の2本建てでなりたっているわけで、免許が済んでしまっているものに対しては、当然適用する余地がないわけです。監督上の留意事項というものは当然かかってくると考えています。
  
括政務次官:今のご指摘は非常に重要な問題を含んでいるわけで、既存銀行を買取る、それで株主が変わるということについては、今の銀行法上非常に緩いチェックの手段しかないわけです。その辺りが制度論として本当にいいのかということはこれから金融審議会などで十分ご検討を頂かなければならない問題ではなかろうかと痛感をしているところでございます。

   

 問:銀行が事業会社の株式を持つ5%ルールの緩和について自民党の金問調の、金問調がと言うより相沢会長が求めているわけですが、今現在大臣はどういうご見解ですか。
  

員長:これに関して私申し上げるような結論を持っておりません。ただ金問調がということではなくこれから検討していく一つのテーマであろうと思います。

  

 問:ここには明記されていませんが、今回の銀行業への異業種の参入を認める代わりの相対のものを検討するよう金融審議会に要請するというのは、読み方によっては5%ルールも含めたものを全部緩和していくんだというベクトルはそちらの方に向いていると読めるのですが、一方で例えばアメリカでは銀行の事業会社の株の保有を禁止したりしているわけですが、こうしたところでもう一回そういった議論が必要だと思うのですが、それも金融審議会でということかもしれませんが、大臣はどういうお考えの下にこういう指針に結び付いたのかお聞きしたいのですが。
  

員長:いろいろな今までの規制の緩和とか、あるいは先ほど申し上げました銀行を買う時の規制というものについて、これから一般論として議論して頂く必要があると思います。その上で今の話は結局銀行の所有者と言いますかオーナーと金融機関との関係、前は私は距離の取り方ということを言っておりましたが、結局距離の取り方の問題になってくるわけで、一番我々が意識していかなければいけないのは、機関銀行化してしまうという事は過去の例から見てもまずいわけですから、いろんなものを規制緩和していくとか、新しい観点から捉えていくということは我々はやらなければなりませんが、然しそこに金融を見ていくものとして考えておかなければならないのは、そういう基本線はきちんと守っていかなければならないだろうと思います。それがどこまで必要なのか、どこまでやるのか、これはいろんな議論があると思いますし、今後ともこれで議論が打ち止めというわけではないと思います。そういう視点で今の問題も整理していく必要があるだろうとは思っております。
  
括政務次官:自民党の金問調でもその辺の問題がだいぶ話題になったことは事実でございまして、金融審議会の問題というだけではなく、先ほども触れましたが公正取引委員会それから自民党の独占禁止法調査会、こういったところで方向性をきちっと出して頂く必要があるのだろうと思っております。議論は人によって分れる問題だろうとも思います。私は先ほど金融資本が産業界を束ねるとか支配するとかいう時代は終ったというような個人的認識を申し上げましたけれど、これは一つの意見でありまして、それに同調されない「やはり銀行は強い」とお考えになっておられる方も当然おられるわけですから、その辺は相当議論があり得るのだろうと思っております。

( 以 上 )


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