相沢委員長閣議後記者会見の概要

【平成12年12月5日(火)於:金融再生委員会 会見室】
  

【閣議案件等】

 今日の閣議には、当委員会に直接関係のある案件はありませんでした。IT時代の労働市場と世界経済という副題をつけた、世界経済白書について堺屋長官から説明がございました。

 森総理から、「これが現内閣としての最後の閣議となる。6月の総選挙、そして第二次森内閣の組閣以来、九州・沖縄サミットに始まり、色々な行事をこなしてきた。行政改革を始めとして諸改革の実現に向けて努力をしてきた。そして補正予算を成立させ、健康保険法、警察法改正という懸案も解決できたし、またIT革命その他の諸政策について各段の進歩をみることができた。これは皆様方のご協力の賜物であり、特に厚くお礼を申し上げる。特に、続長官並びに扇大臣につきましては、それぞれ公明党或いは保守党の立場からして、大変ご協力を頂いて感謝をする。これからはそれぞれの立場において、与党の政権に、国の政策にご協力をお願いを申し上げたい。」と、こういったお礼の言葉がございました。それをもちまして、この内閣としての最後の閣議が終わりということでした。

  

質疑応答】

 問:今日、組閣が行われるということで、まだ留任されるか、後任の大臣に誰がなられるか分からない状況のようですが、とりあえず内閣に辞表を出されて一区切りということになったと思うのですが、久世さんのご退任の後、急遽ご就任になられて、その後色々な出来事が短い間にございましたが、この数ヶ月間振り返ってのご感想をお聞きしたいのですが。
 

員長:本当に図らずも、と言うか「急遽」というのは私の場合に当たるのではないかと思いますのは、7月29日の晩の8時頃に地元に居りました私に総理から電話があって、「明日の晩に認証式をする。久世大臣の後を引き受けてもらいたい。」ということでした。全く用意もございませんでしたし、それから金融問題調査会長という立場で、割りと自由な立場で発言をするのと違って、やはり行政機関の長としての金融再生委員会委員長となると、色々と従来の経緯もありますし、従来の大臣の発言もありますし、役所のルールもありますので、私も急に言われても困るので、「他に適任の人があるのでははいないでしょうか」という話をしましたら、「とにかく月曜日から本会議が始まり、火曜日から委員会があって、すぐ答弁に立たなければならない。とにかく引き受けてくれ。頼む。」という話でした。それならば、ご協力を申し上げましょうということで引き受けたわけです。ですから臨時国会からのスタートでしたが、臨時国会は一応無事に済んで、皆さんご案内のように日債銀の処理問題がありました。それからそごうの問題もありました。顧みると色々な問題があったので、私としては全力投球で頑張ってきたつもりであります。
 その間、特に印象としてあるのは、各銀行の合併です。幾つかのグループが誕生する。都市銀行が言うなれば4つ大きなグル−プに集約をされていく。その間に、若干の地方銀行の破綻後の処理もございました。信用金庫、信用組合についてもありました。資本注入の制度が出来て、それに対応する対策も考えていかなければならない。その間に、都市銀行、地方銀行、第二地銀、信用金庫、信用組合、生保、損保、証券、各業界との懇談会もやって参りまして、各業界の要望や要請、注文を直接お聞きする機会も持ったわけでございます。
 私は、色々ありましたが特に関心が深かったのは生保の問題でありまして、ご案内のように4つ潰れた後に千代田生命、また協栄生命という業界の中堅以上の会社が引き続いて潰れるということがありました。その原因としては色々あるでしょうが、特に破綻した会社については、それぞれ特殊な要因もあります。非常に高利回りの商品を多く売っていたとか、或いはバブル期にリゾート開発とかゴルフ場とかの経営に手を染めたというようなこと。そういう特殊事情がありますが、破綻した原因の中に大きなものとして、運用予定利回りと実際の運用利回りとの差、所謂逆ざや問題がありました。特に、このことについては、生保業界の方と2度に渡って懇談も行いました。私としては、このままこの問題を放置して破綻を次々招くということは、生保会社の問題だけではなくて、保険契約者にとっても大問題であります。また、生保から融資を受けております企業にとっても問題であります。生保全体に対する不信感がそこにあります。それを何とか拭わなければ、新規契約が減り、或いは既契約の解除が進み、契約残高が減る。つまり生保全体として問題が大きくなる。これは、私が常々考えております公的社会保障に対する私的社会保障の重視という考え方から致しましても、放置するわけにはまいらない。運用予定利回りだけが大きな問題ではありませんが、それも一つの大きな問題でありますから、それを含めて生保対策を言うなれば早期健全化の形で考えなければならないということで、敢えて一石を投じたわけでございます。
 これには、連立与党の保守党の野田氏あたりから、「是非あれは良いことだからやってもらいたい」ということもありました。又、公明党の冬柴さんからもわざわざ手紙を頂戴して、「是非あれは進めてもらいたい」ということでもございました。色々皆さん方からは批判の声を頂戴致しましたが、やはり本筋としては考えなければならない。私から言えば、色々と新聞にも雑誌にも出ておりましたから、是非これは何らかの形で解決を考えていかなければならないと思っております。このことが非常に心残りであります。いずれまた与党におきまして、法案の検討に向けて3党のプロジェクトチームが動くようでありますので、私も是非これを推進して参りたいと考えております。
 もう一つ、株価対策ですが、株価対策ということで直接効果のある施策を考えることは難しいことであります。逆にそういうことを政府が力を入れて考えていくこと自体が、マイナスのリアクションということもあるのではないかという気も致します。ともあれ1万5千円を割るような水準になりますと、投資家が離れるばかりではなく、銀行にしても、生保・損保にしてもその資本に当然影響を及ぼす。そして、資本比率が下がることによって、或いはソルベンシーマージン比率が下がることによって、金融面に影響を及ぼしていく。また貸し渋り問題等も招く原因にもなるということですから、何とか景気の先行指標とも呼ばれる株価の回復に対して努力をするべきではないか。この点は亀井政調会長とも同じ思いであります。ただ、その方法はなかなか難しいのであります。まず考えられることは、かなり金融機関が、持ち合い解消という形で株を売るということが株価を冷やす原因にもなっている。何とかこれの抑制を出来ないものか、と言って正面切って我々が申し上げてもいけませんし、とにかく今の安い時期に売ることはないので、株価上昇を皆で考えようと言っているのだから、もう少し先に売る方が得じゃないか。その辺を一つ慎重にお考え願いたいということです。
 それから、税制問題としては、重ねて申し上げることになって恐縮ですが、個人の株の売買比率は下がり、一頃の半分ですので、何とかその対策も考えなければならない。税制問題が大きいですから、ご承知のように源泉分離と申告分離の選択性の継続を主張しておりました。税調には出ておりませんが、2年間延長ということに決まるように聞いております。私は、2年間はあまり感心しない。やるなら当分の間ということにして、ずっと延長をすべきだ。少なくともそのように思っております。もう一つ、申告分離課税について、26%の税率を20%に下げる。或いは欠損繰越しを認める。或いは長期保有株についての所得控除を認める。売買益の所得控除を認める、というような問題はまだ残っているのであります。いずれにしても、そこは少し一歩の前進を見られたかと思っております。
 もう一つは、金融問題でありまして、金融を緩めなければ株式市場にも金が回らない。ゼロ金利の解除は私共から言えば「時期尚早」であると言ったことが、如実に示されているのではないか。簡単に言えば、日銀はその施策を誤ったのではないかと、私は思っております。年末を控えて、いわゆる年越し資金、特に中小企業に対する年越し資金という問題もありますから、昨日、全金融機関の代表の方を招いてお話を申し上げました。この中で株の問題についても触れたのすが、その主眼は、やはり年末の金融ということにあるわけです。いずれに致しましても、まだまだ金融に関しては問題がたくさん残されておりますし、私もやりかけた仕事でありますから、皆さんのご支援と言うのか、ご批判と言うのか、それに答えて、折角与えられたポストというものをやっていきたいと思っておりました。
 諸般の事情で、辞表を皆さんと一緒に提出をしたわけでございます。それから先のことはどうなるのか、幹事の方からお話がございましたように、後の話が出ているような出てないような、良くわかりませんのでそれに関してはノーコメントでございます。
 色々本当に、短いようでもあり、長いようでもありました。丁度129日でした。奇しくも今日が、私の第1回の当選した日なのです。昭和51年12月5日が第1回の当選日でした。ですから、満24年と1日という記念すべき日であります。
 私、4カ月の間、やってきて思ったことの一つは、今まで、特に金融再生法、早期健全化法の2法を作った頃は、とにかく金融不安を解消することが第一でありました。とにかく「駄目なものは駄目」「良いものは良い」と、駄目なものはとにかく早く整理することが一種の至上命題だったと思います。ただ、その間に金融情勢が変わってきて、私はある意味では峠を越したと思っておりますが、これからはどんどん切り捨てていくやり方ではなく、例えば銀行にしても、破綻になりそうだったら、踏ん張れないと切り捨てるのではなく、破綻に至らないような対策を出来るだけ考えていく。弱い者と弱い者を寄せても強くならないかもしれませんが、合併を考えるとか、提携を考えるとか、色々そういうことで出来るだけ破綻を招かないでやっていく。そういう面におけるある種の行政指導というものは、これはあまり強く言いますといけないのかもしれませんが、考えていった方が良いのではないか、或いはいくべきではないかという気が致しております。そういった点で、後どなたがおやりになるか分りませんが、そういう思いをしております。

 

 問:キャピタルゲイン課税ですが、2年間の延長ではなく、きちっとやるべきだと仰るのは、永久的措置としてということでしょうか。
 

員長:そんな気持ちです。というのは、1年延期という話がありました。受け入れる方としては最悪だと言うのです。それこそ小刻みに政策を変えることになるので、一本化というものは法律で決めたけれども、まだ実施に至ってないわけです。このまま現行制度を延長することになれば、変えたことにはならないわけです。2年間延長する、2年先はどうするのか、という問題が残るのです。恐らく2年間延長ということは、その本法を変えなければ、2年先には一本化するということなのです。それで良いのかという問題はまた残るわけです。2年先になるとまた同じ議論が起きるのではないかという気がしてならないのです。株式の譲渡益課税として、基本的にどういう姿が良いのか、私はもう少しこの点は腰を据えて検討して、今の選択性が良いということならば、他の配当とか利子に対する課税問題との関連もありますが、言うならば2年とか期限を切ってやるべきではないと思っております。

  

 問:「日銀が政策を誤った」と仰いましたが、これはデフレ懸念がまだ払拭されていないということでしょうか。
 

員長:(払拭されて)ないと思います。これは、堺屋長官もそういう趣旨のことを述べております。実際、長期金利もゼロ金利解除の前に逆戻りしているわけです。堺屋長官と話していたのは、例えば、日銀のやることですから、あまり言うと「それ、独立性がどうとかこうとか」と目くじら立てる人が多いので余り言いたくない気もしますが、例えば、0.25と言わずもう少しレベルを下げても良いのではないか。金利の誘導をです。そういうことも考えられるのではないか。いずれにしても、実際問題、物価も下がっている。個人消費はGDPの約60%近くを占める部分ですから、それが何とも動かないということが景気に大きな影響を与えているわけであります。ゼロ金利是正とすぐ結びつくかどうか分かりませんが、いずれにしても、金利を上げるということになれば、大雑把に言えば金利を絞めるということなのです。ですから、直ちにゼロ金利解除の方針を改めるわけにはいかないかもしれませんが、0.25を少し下げるとか、少なくとも資金量を豊富にするということだけは是非考えてもらいたい。また、決済方式の変更ということもありまして、デフォルトの申請は増えているわけです。それに備えることもあって、相当各金融機関等も、手元の資金については配慮しなければならないという気持ちを当然持つと思うのですが、そういうことと年末対策とも含めて思い切って資金面で考えてもらいたいというのが私の気持ちでございます。

 

 問:「破綻を回避すべきだ」と仰いましたが、公的資金を使う形になるのでしょうか。
 

員長:そうでなく、色々あるのですが、例えば生保にしても繰り返しになりますが「破綻した方が保険契約者にとっても有利だ」ということを書いているところもありますが、客観的に検討しましても、どうもそういうことにはならない。破綻をすれば、やはり保護機構があるにしても、保険契約者にとっても有利にならないのです。特に、長期のものは、結局受取り保険金というものが半分にもならないという事態が起きるわけです。余りそのことを言うといけませんが、会社が潰れるということは、そこに働いている人、何千人という人が職を失うという問題もあります。同時に、保険なら保険会社から融資を受けているところが、言うなれば糧道を断たれるという心配もある。ですからとにかく出来るだけ破綻に至らないようにしてやった方が、全体として見て有利ではないか。これは生保のみならず、金融機関についてもそう思っているのです。それは公的資金を使わないようにという気持ちもないわけではありませんが、そういうことよりも寧ろ潰すことによる色々な面における影響の方が、何とか生き延びさせることよりも大きいのではないかという気がしてなりません。私の認識が間違っていなければ、そこは数年前とは情勢は違うのではないでしょうか。

 

 問:ペイオフの解禁を1年前に延期したわけですが、今の時点で、解禁を延期したことの効果と副作用についてどのようにお考えでしょうか。
 

員長:これは私も、ペイオフ延期について、当時金問調の会長としてそのことを主張した一人でありますから責任を勿論感じておりますが、私は良かったと思うのです。というのは、協同組合系の金融機関にとっては、準備が出来てなかったところが多いので、あのまま突入したら色々問題が起きることは明らかだった。それから第二地銀・地銀にしてもそうで、都銀の方でさえ、私に対してだからそう言うのかもしれませんけれど、「やはり1年延期することが正解でしたね」と言われる。ペイオフ1年延期について、けしからんことをしたという、つまり決めたことを変えたという点についてのご批判はあるでしょうが、誠にけしからんことをやったのではないかという批判は、私は少ないのではないかと思います。ただ、「もう一度延期したらどうだ」という話には組みしませんけれども。

  

 問:大臣を仮に離れられてもでしょうか。
 

員長:そう思います。

  

 問:先程仰った、日銀に量的緩和を求めるようなデフレ懸念が続くような状況の中では、このままいくとまた再延期論が出ませんでしょうか。
 

員長:そういうデフレ傾向と関係のないことではありませんが、それよりも、あの時の情勢は、とにかくペイオフ自体についての認識も随分一般の人は誤っていたのです。とにかく来年の4月からは、どの銀行も1千万円までしか払えない、預金が払い出せなくなると思っている人が多かった、現に金問調のメンバーの人でもそう思っていた人がいるのですから。やはりペイオフについての正確な認識をしてもらうということ、同時に、大きな銀行まで潰れるから、地方の銀行は非常に不安定で、とにかく1千万円を超えるものは、早く引き出そうと、他所へ預けよう、何なら貸し金庫に入れよう。噂をするだけで潰れるような情勢でしたから、その急場を何とか凌ぐことが私は絶対に必要だと思ったので、「デフレ傾向が続いていくからもう1年延期を」ということは、そういう理由では言われないと思いますし、又すべきではないと思っております。
  
 短い間でしたが、ありがとうございました。私は、これからも金融問題に関しては感心をもって、どの場所にいようと取り組んでいくつもりでありますから、またよろしくお願い申し上げます。なお、夜討ち朝駆けに来て下さった方がありましたが、殊に夜討ちで来られた方については、私は、朝が早かったものですからお会い出来なかった人もありますけれども、その点はお許しを頂きたいと思います。どうもありがとうございました。

(以上)


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