経営健全化計画の審査等に係る議事概要

 

 当委員会では、前述のとおり、経営健全化計画(素案)の書面審査及び代表者ヒアリングにより、個別に同計画の予備審査を行ってきたが、代表者ヒアリング後においても各申請行は、予備審査の結果等を踏まえ、同計画の見直しを累次行っており、当委員会としても、これらの計画につき、より客観的な整理を行い、その整理されたポイントから審査、評価を行った。

1. 審査の内容
 
 既に議決、公表している当委員会の「基本方針」にあるよう に、金融システムに対する内外の信頼を回復するためには、業 務の再構築、リストラ、金融機関の再編を促進することにより、金融機関の収益性を向上させる必要がある。その意味で、計画の多くの要素は、収益性の向上への貢献に集約されると考えられる。
 
 早期健全化法上、今回の資本増強(議決権のある株式の引受け以外の株式等の引受等)に当たっては、同法第7条第1項第3号及び同号に基づく基準によれば、本計画の確実な履行等を通じて経営の合理化のための方策、信用供与の減少の回避のための方策等の実行が見込まれることが重要な要件となっていることには格別の留意が必要である(別添資料4参照)。
 
 経営健全化計画は、公表による国民及び市場の評価、監視を前提とするものであり、その厳しい評価に耐えるものでなければならない。一方、同計画の実現の成否が各申請行の経営責任にもつながるものであるため、当然ではあるが、最小限の記載事項及び計画策定上必要となる株価の予測値等を除き、経営健全化計画は申請行の責任で策定されるべきである。
 
 以上の点を踏まえ、委員会においては、各申請行の経営健全化計画案の審査に当たり、
 
 修正・改善を要すべき点
 
 評価すべき点
 
 フォローアップの中心となる点

を明らかにした。

 この結果を踏まえ、事務局から申請予定行に対して、機械化費用を除く物件費の増加等下記2.において減点対象とされている点を中心に、修正・改善を要すべき点等の伝達を行った。
 このような経過を経て各申請行は正式申請時において最終的な修正を施した経営健全化計画の確定を行ったものである。
 

2. 評価の内容

 「優先株等の配当率等に関する基本方針について」においては、経営健全化計画の実行によって、将来の財務内容、経営内容等の改善の見込みを評価し、これを配当率等に反映させることとしている。この経営健全化の改善点の評価については、具体的には以下のとおり行うこととした。

 金融再編への対応については、合併、子会社化、資本・業務提携など、実態に応じた対応が進捗しているところであり、これにより金融機関の収益性や財務内容の改善が図られることを評価する。(具体的に、信託銀行間の合併、都銀と信託銀行間との間の子会社化・資本提携、地域間・他業態間の業務提携が計画されている。)
 
 業務の再構築については、金融取引にかかわる市場全体の観点を踏まえ、横並び的な業務の再構築ではなく、明確かつ特色ある戦略による収益性の向上や組織の抜本的改革を図ることを評価する。また、特に海外を含む不採算の拠点からの撤退を評価する。(具体的には、海外全面撤退によるリージョナルバンク化等、不採算の海外支店等の廃止、支店営業体制の改革、地元中心のリテール戦略、信託部門の合弁・分社化の検討、金融持株会社の設立などが計画されている。)
 
 人件費を含む固定費の見直し等のリストラ策については、人件費総額や機械化関連費用を除く物件費の削減がなされているか、また役員数・職員数が削減されているかといった観点から、スリムで強靭な経営体質に転換し、収益性の向上を図ることが必要との認識の下で評価する。
 
 更に、公的資金注入後の貸出額増加が計画されているか、資本の自力調達が図られているか、公的資金申請額が特に十分であるか、不良債権の流動化が具体的に計画されているか、相談役・顧問制度を廃止することとしているか、減配等により利益流出が十分に抑制されているか、などの諸点を加点要素として評価する。
 
 一方、減点要素として、有価証券含み損の処理が遅い、不良債権を発生させた経緯等の記述が不十分、過大な役員報酬・役員退職慰労金の支給、遊休施設の処分が不十分などの点を勘案する。

 以上のような諸点(合計22項目に整理)の評価基準で各申請行の経営健全化計画の改善点の評価を点数化した上で5段階評価を行い、優先株の配当率等の引受条件に反映させた(別添資料8)。
 

3. 委員からの意見

 各委員からの意見については、上記の審査の内容及び評価の内容に集約されているところであるが、以下のような意見もあった。

 経営健全化計画の評価は、ある程度主観的にならざるを得ないが、できる限り積み上げ方式で客観的に行うべきではないか。
 
 特定の金融機関の引受条件を改善するという意図をもって、経営健全化計画の評価に当たっての評価項目、配点を決めないことを確認したい。
 
 経営健全化計画の評価は、現時点の申請行の実力を評価しているわけではなく、あくまで計画の実行による経営内容等の改善度を評価していることをもっとはっきりさせるべきではないか。
 
 全体として、経営健全化計画については、金融再編、業務の再構築(選択と集中)に関して必ずしも十分満足できるものでないことを確認しておきたい。
 
 海外拠点を残す場合には、その拠点の業務内容等について採算性の観点から十分検討されるべきではないか。
 
 海外拠点からの撤退について、リージョナルバンクについて、その撤退の計画を評価しているが、その一方で海外拠点を引き続き残して、営業を続けていくことを選択している優良行についてまったく評価しないというのはいかがなものか。
 
 リストラ計画について、役員を何人減らすとか、従業員を何人減らすとかいう点だけを取り上げて、評価するのは如何なものか。また、再編への対応について、子会社化あるいは合併という形式基準だけで加点するというのはどうか。その内容や今後の収益に本当にプラスとなるのかという観点から評価がなされるべきものではないか。
 
 資本増強を受ける金融機関の減配等については、早期健全化法上、今回申請のあった健全行について、利益の流出の抑制と規定されている。承認要件として求めることは困難であるとしても、それを慫慂することは現下の国民感情からいえば当然ではないか。
 
 早期健全化法上、今回申請のあった健全行について、資本増強を受けるに至ったことに対する経営責任を明確化することは、資本増強の承認要件となっていない。経営責任は経営健全化計画の今後の履行に関して発生するものではないか。
 
 相談役・顧問制度については、旧経営陣が残って銀行の負担増となっている点で世間の理解を得られないばかりでなく、意思決定などにおいて経営の非効率化の原因になっている場合があるのではないか。

 


資本増強の承認に係る議事概要

 

 資本増強の審査については、申請予定行に通知を行った後も、経営健全化計画や引受株式等の商品性について委員会及び申請行の双方において検討を重ねたところ、3月4日に、予備審査を経た15行から、預金保険機構を経由して正式に公的な資本増強の申請があった。

1. 代表者ヒアリングの実施

 経営健全化計画(素案)の書面審査を終了した段階で、各申請行の代表者からヒアリングを行ったが、3月4日に正式な資本増強の申請が提出されたことから、最終的な審査に当たり、修正された経営健全化計画に基づき、再び代表者から直接説明を受け、次の点を確認した。

今般の資本増強に当たっての総括的な考え方
 
経営健全化計画の着実な履行に向けた決意
 
これまでの指摘事項に対する見直しの状況

 なお、各代表者により、その直後に、経営健全化計画の概要の資料を配布した上での記者会見が行われた。
 

2. 「資本増強の基本的考え方」について
 
(1)  趣旨

 公的な資本増強の承認の適否を決定するに当たって、委員会としてこれまでの審査における基本的な考え方を最終的に文書としてとりまとめ、「資本増強の基本的な考え方」として、12日に議決し、公表した。
 

(2)  内容

 資本増強の基本的考え方は、検討の経緯、基本的考え方、審査結果・フォローアップをその主たる項目としており、基本的考え方は、○原則、○財務内容の健全性、○資本増強額、○経営健全化計画、○商品性から構成されている。
 

 そのうち財務内容の健全性及び資本増強額のポイントをあげると、以下のとおりである。
 
財務内容の健全性
 
 申請のあった15行について、その財務状況の健全性を審査したところ、10年9月期において債務超過ではなく、健全な自己資本の状況の区分にあることを確認した。
 
 11年3月期の公的資本増強を行う前の状況においても、業務純益や自力調達等により、これらの金融機関は相当の自己資本を確保できるものと考えられ、早期健全化法第7条第1項第2号前段に規定する「その存続が極めて困難であると認められる場合ではない」ものと考えられる。
 
資本増強額
 
 金融機関に対する内外からの信頼を回復するためには、不良債権や有価証券含み損を適切に処理することが必要である。
 
 少なくとも国際基準行については、「資本増強に当たっての償却・引当についての考え方」に則り、不良債権に対する十分な償却・引当を行うことにより、11年3月期にその処理を基本的に終了する。
 
 有価証券含み損については、14年3月期の時価評価の導入を控え、できる限り早期に処理することが望ましいが、現行会計基準に基づいて実際には有価証券含み損の処理を行わない場合でも、資本増強の審査に当たっては、これを考慮する。
 
 業務純益や民間からの自力調達等と併せ、政府保証を活用した資本増強を行うことにより、不良債権の処理額や有価証券の含み損を考慮してもなお十分な資本勘定を確保する。
 
 信用収縮に対しては、国内企業向け貸出、特に中小企業向け貸出等の額(特殊要因を勘案した実勢ベース)について、11年度には増加させるものとする。
 
3. 資本増強の承認

 2.の基本的考え方に則り、申請のあった15行について、その申請内容、経営健全化計画等を精査した結果、これらの申請を承認することが適当であるとの結論に至り、全会一致で議決した(別添資料9及び10)。
 なお、この結果を受けて、3月15日各申請行の経営健全化計画の公表を行うとともに、30日には、株式の払込等を行い、3月31日に15行の資本増強が完了したところである。
 

4. 議論の内容

 上記2.及び3.の審議における各委員等からの意見は既に公表している「資本増強の基本的考え方」に集約したところであるが、以下のような意見もあった。

 今回の資本増強を契機として、ジャパンプレミアムがロンドン市場において殆ど解消され、また、平均株価も上昇してきており、内外において、資本増強が相当評価されていると考えてよいのではないか。
 
 経営健全化計画では、有価証券の含み損を昨年の9月末の株価を前提に算出しているが、現在の株価の上昇により相当規模で含み損が縮小していることも確認しておきたい。
 
 資本増強により、市場が好転していることはそれ自体意義のあることであるが、リストラ、倒産等痛みは今後もなお負担しなければならないことが予想される経済状況にあり、この点は認識しておく必要がある。更に、問題解決は道半ばであることを明記すべきではないか。我々の行ったことは好転の一つのきっかけを作ったが、ここで手を緩めることは許されない。今後ともフォローアップ等によって現在予定されていることが実現するよう更に努めていくべきことを確認しておきたい。
 
 現状認識として、次のことを述べておきたい。
 
 我が国の金融仲介が銀行による間接金融に偏っているた めに、バブル崩壊に伴って今日のような問題が生じた。
 
 金融機関の国際的な競争力、収益力向上のため、オーバ ーバンキングの状態を解消する必要がある。
 
 オーバーバンキングというのは、銀行の数の問題でなく、皆が同じ内容の業務をやっているからオーバーバンキングになるといわれているのではないか。従って独自性のある業務を展開することを促すことが重要である。特に、銀行業務の技術革新を積極的に取り入れ、サービスの多様化に努めることが重要ではないか。

 


経営健全化計画のフォローアップに係る議事概要

 

 資本増強の承認後は、金融再生委員会の役割として、経営健全化計画のフォローアップが最重要となるものである。このため、3月12日に議決した「資本増強の基本的考え方」において、フォローアップの在り方として次の方針を示した。
 
 資本増強を受けた金融機関においては、資本増強の趣旨・目的を踏まえ、経営健全化計画に沿った健全な経営が行われ、収益力が向上することを強く期待する。経済状況の著しい悪化等の特段の理由がなく、経営健全化計画の基本となる重要な事項について履行が確保されない場合には、経営責任の明確化が図られるべきである。
 
 経営健全化計画上の業務の再構築・リストラ、金融再編への対応などの履行状況については、早期健全化法第5条第4項に基づき報告を求め、これを公表する。これにより、金融機関自身による自己規正を促す。
 
 業務の再構築や金融再編への対応等の積極的な理由がある場合には、経営健全化計画の見直しを行うことを可能とする。
 
 報告等を通じた状況把握の結果、資本増強を受けた金融機関が、経営健全化計画を自ら的確に履行しようとしていないと認められた場合には、必要に応じ、同法第20条第2項に基づく銀行法上の措置の発動により、適切に対応するものとする。
 
 大手行については、今回の資本増強により不良債権の処理が基本的に終了することとなるが、金融システム改革の進展に伴う金融再編とともに、資本増強を契機とした新たな再編を促進することにより、金融システムの効率化を図るものとする。
 
 また、次の点について委員会で認識の一致をみている。
 
 優先株の転換権の行使については、行使すべき事態が生ずれば、当然これを行使することとなるが、経営健全化計画が履行されることにより、特段の事情がない限り、転換権を行使して個別の金融機関の経営に参画しなければならない事態になることは考えていない。
 
 今回の申請金融機関であっても、今後の金融システム改革の進展に伴い金融再編が進捗する場合などには、更なる資本増強があり得る。
 
 なお、フォローアップに関連して各委員から次のような意見があった。
 
 フォローアップは、単に経営者の責任を追及すればよいというものではなく、経営健全化計画をきちんと履行させて、銀行を健全なものにしていくことこそを重視すべきではないか。一方、現行の経営について、箸の上げ下ろしまで口を出すことは慎むべきではないか。
 
 フォローアップにおいては、経営健全化計画との違いが生じたらその原因を分析して、矯正方を事実上指導していくことも考えられのではないか。
 
 現段階では、金融再編は必ずしも十分とは言えない。具体的には、経営健全化計画をフォローアップしていく過程で、金融再編を促していくべきではないか。
 
 経営健全化計画の履行を促すものは、一義的には公表による国民の目であるが、当委員会としても打つべき手は打たなければならない。その手段としては早期健全化法第20条第2項に基づく銀行法上の措置等が用意されていることを確認しておきたい。
 
 フォローアップの頻度は、原則として決算の行われる3月期と9月期の年2回程度が適当ではないか。
 
 優先株の転換については、当面想定しないとしても、転換期間が開始する機会等に、委員会として転換権行使の適否等について、適宜議論する必要があるのではないか。
 

(以上)

 


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