平成12年8月

日本債券信用銀行の譲渡及び瑕疵担保特約の考え方等について


1.譲渡延期の経緯

(1)  特別公的管理下にある日本債券信用銀行(日債銀)の譲渡については、さる6月30日に株式売買契約が締結され、8月1日にソフトバンク、オリックス及び東京海上火災保険を中心に構成される出資グループ(以下「ソフトバンク・グループ」)へ譲渡される予定となっていました。

(2)

 しかしながら、特別公的管理銀行についての譲渡の仕組み、とりわけ瑕疵担保特約については、そごう問題に端を発し、与党をはじめとする各方面から、あるいは、国会においても様々なご批判やご指摘があり、特に説明が必ずしも十分ではなかったとのご批判がありました。

(3)

 こうした状況の下、7月28日からの臨時国会におけるご論議や国民の皆さんのご意見に十分耳を傾けるとともに、これらの譲渡の仕組みや瑕疵担保特約についてのご理解を深めていただくためには、当初予定の8月1日に譲渡を実行するのは適当でないと考え、また、譲渡予定先のソフトバンク・グループからも延期を希望する旨の意向が伝えられたことなどを考慮しまして、日債銀の譲渡を9月1日まで1ヶ月延長することとしました。
 そこで、以下では、本問題について極力分かりやすくご説明します。

2.特別公的管理銀行にかかる譲渡の仕組み

(1)  平成10年秋第143回国会での与野党協議により「金融再生法」が制定され、同年12月に日債銀は同法により特別公的管理銀行として一時国有化され、同月に設立された金融再生委員会がその破綻処理の任に当たることになりました。

(2)

 金融再生法では、特別公的管理銀行(日債銀)を清算するのではなく、できるだけ速やかに譲渡先を見つけることとしており、また、「善意かつ健全な債務者」を保護するため、日債銀の個別の貸出資産について「善意かつ健全な債務者」に対する貸出債権として譲渡先に引渡すべきかどうかの判定を金融再生委員会が行うよう定められています。金融再生委員会は、平成11年5月に、譲渡先に引き渡すべき「適」(善意かつ健全な債務者)と判定する資産と、新たな融資は行われず整理回収機構(RCC)により回収が行われる「不適」と判断する資産とに判別する資産判定を行いました。

 (参考

)11年5月の日債銀の資産判定結果(抜粋)
貸付金関連資産   適資産   約40,500億円(約2600件)
  不適資産   約38,300億円(約790件)

(3)

 金融再生委員会は、その後日債銀の譲渡先候補との交渉に入りましたが、破綻銀行売却後に譲渡先に生じる2次ロスの一部を政府が補填する仕組みが金融再生法では定められていなかったため、交渉作業は極めて難航しました。

(4)

 なお、金融再生委員会により「適」と判定された債権であってもその後の経済環境の変化等により、債権の価値は変動することが考えられます。そのため、実際の譲渡時には、「適」の債務者について銀行会計上のルールに則り、適切な債務者区分(資産査定)とそれに見合う引当金の計上を行うこととしております。

3.瑕疵担保特約の考え方

(1)  瑕疵担保特約の必要性


 法律上の考え方
 上記で説明したように、金融再生法では、破綻銀行売却後に同行に生じた2次ロスの一部を国(売主)が補填する仕組み(米国のロス・シェアリングのような仕組み)が規定されていないため、特別公的管理終了後生じる2次ロスの全部又は一部を国が特別公的管理下にあった銀行に直接補填することは困難であると考えました。
 その理由として、金融再生法より以前に成立した「住専法」には、ロス・シェアリングの規定があり、その反対解釈として金融再生法ではロス・シェアリングは認められないと解するのが相当と考えたからです。
 このため、金融再生委員会では、上記の資産判定作業の経緯(「適」資産の判定は専ら金融再生委員会が行ったものであり譲渡先は自ら資産の調査・査定を行っていない)から、民法上の公平の原則に基づく瑕疵担保責任の法理(売ったものに隠れた瑕(きず)があれば、買主に対して売主が一定の責任を負う)を用いて、金融再生法の下でも実施可能な2次ロス対策として瑕疵担保特約を考えました。


 2次ロス対策の必要性
瑕疵担保特約は、
 イ .預金者や債務者の保護、ひいては金融システムの安定や再生のためには、可能な限り早期に日債銀を売却する必要があり、そのためには譲受候補先に十分な資産調査・査定を行わせる時間的余裕がないこと、(日債銀のような大銀行の場合相当の期間を要する)
 ロ .譲受候補先もお金と時間を要する資産調査・査定を望まず、何らかの2次ロス対策を設けて欲しいとの強い要望があったこと(それだけのコストをかけても譲渡先として選定されるとは限らない)
から、旧長銀の譲渡の場合と同様、金融再生法の下でも実施可能な2次ロス対策として設ける必要がありました。

(2)

 瑕疵担保特約の内容
 瑕疵担保特約の内容として、日債銀譲渡後3年1ヶ月の間は、ある債務者を金融再生委員会が「善意かつ健全な債務者」と判定した根拠(当該根拠は譲渡先に明示しています)が真実でなくなった場合等を「瑕疵」と考え、そのような「瑕疵」が明らかになった場合で、かつ、その債務者に対する貸出債権の実質価値が、日債銀の譲渡時と比較して2割以上減価した場合に国が責任を負い、譲渡時の実質価値相当額(債権の額面マイナス引当金)で引取ることにしました(従って日債銀譲渡後に新生日債銀の責めに帰すべきような事由で債権の価値が下落しても「瑕疵」には該当しません)。
 新生日債銀はその債務者に対する貸出債権が上記(「瑕疵」に該当しかつ2割以上の減価)の場合にあたれば、その引取を国(預金保険機構、以下「機構」)に求めることができ、機構は貸出債権及びその引当金の引取りと引き換えに、その貸出債権の日債銀譲渡時の実質価値相当額を新生日債銀に支払う取り決めとなっています。なお、引当金とは、将来の資産価値の減少のリスクに見合った合理的な見積額を損失として計上するものです。

 金融再生委員会からこのような瑕疵担保特約を提案したこと等により、ソフトバンク・グループとの交渉が妥結し、6月30日に最終契約書が締結されました。

4.結語

 瑕疵担保特約付きで日債銀を譲渡すれば、瑕疵担保特約が履行され、譲渡した一部の債権が国に戻ってきて国民負担がある程度増加することも考えられますが、金融再生委員会としては、瑕疵担保特約は長銀や日債銀のような資産規模の大きい銀行を早期に売却するために、必要かつ不可欠なものであり、そのような特約を結ぶことはやむをえなかったものと考えています。
 以上の考え方に立ち、日債銀の譲渡については、既に6月30日に締結された契約を変更することなく、9月1日に実行したいと考えています。
 

home.gif (1468 バイト) HOMEへ戻る