金融監督庁発足時の記者会見における長官発言骨子

(平成10年6月22日15時20分~)

I.(総理、官房長官からのご指示とそれを踏まえての金融監督庁運営の基本的考え方)
 金融監督庁長官を拝命するに当たり、総理からは、「事前指導的な行政から事後チェック重視型の行政への転換を図り、公正で透明な金融行政を実現すること、あわせて、職員モラルの保持に万全を期し、金融行政に対する内外の信頼の回復に努めること、また、現下の金融情勢にかんがみ、金融監督当局として、金融機関の不良債権処理の促進に万全を期すること」とのご指示があった。また、官房長官からは、本日はお目にかかれなかったが、「検査・監督を専門的に行う独立の行政機関として、その機能を十全に発揮すべく、検査・監督体制について計画的な整備を図ること」とのご指示が別途あった。
 以上のご指示を踏まえ、今後の金融監督庁の運営に当たっては、以下の5点を柱としたいと考えている。第1は、明確なルールに基づく「公正で透明な金融監督の確立」である。第2は、このような金融監督の基本となる「厳正で実効性ある検査の実施とモニタリングの充実」である。第3は、「海外の金融検査監督当局等との連携強化」である。第4は、「専門性の向上と高いモラルの保持」である。第5は、「検査・監視・監督体制の計画的な整備」である。以下、これらの点につき補足的なコメントを加えたい。


 1点目の「公正で透明な金融監督の確立」は、自己責任原則の徹底と市場規律重視を基本として、極力、裁量的なもの、不透明なものを排除して、金融監督を行うということである。そのためにはまず、監督当局として責任を持って監督すべき守備範囲を明確にする必要がある。その上で、その範囲内においては、検査やモニタリングから得られる情報に基づき、早期是正措置をはじめ、明確なルールによる監督を行わなければならない。また、たとえば法令解釈等の照会に文書で回答し、その内容を一般に公表するというようなことを含め、行政の透明性を高めるための方策を具体的に研究してみたい。


 2点目の「厳正で実効性ある検査の実施とモニタリングの充実」は、総理からご指示のあった事後チェック重視型行政への転換を図るための大前提である。早期是正措置の導入に対応して、金融検査の基本的あり方を抜本的に改め、新検査方式が定められたところであるが、今後とも金融の新しい流れに即応して検査手法の不断の見直し・向上を図るとともに、民間専門家の登用、海外の主要金融検査監督当局との人事交流等を通じ、検査官の育成と検査機能の充実・強化を図ることが重要である。
 また、国際的な金融監督の潮流をも踏まえ、オンサイトの検査に加えて、検査後における改善状況のフォローアップや財務諸表等の継続的な分析といったオフサイトのモニタリング機能が重要と考えており、従来手薄であったこうした機能の充実に努めなければならないと考えている。


 3点目の「海外の金融検査監督当局等との連携強化」は、金融取引のグローバル化という状況に適切に対応するために、極めて重要なことであり、バーゼル委員会やIOSCO(証券監督者国際機構)等における国際的な議論に主体的に参画していくことはもとより、海外金融検査監督当局との間での情報交換の枠組みの整備にも努めてまいりたいと考えている。
 さらに、金融犯罪の防止に向けた国際的な取組みについては、サミットにおいても合意されているものであり、我が国として積極的な貢献を図ってまいりたいと考えている。このため、金融犯罪の防止のための日本版FIUを、組織的犯罪処罰法案の成立・施行を待って金融監督庁に設置することとしているが、これに先立ち本日付で、FIUの設立準備と国際会議への対応等を担当する特定金融情報管理体制等検討準備室を長官官房に設置することとしたところである。


 4点目の「専門性の向上と高いモラルの保持」は、総理のご指示にもあるとおり、検査・監視・監督を専門的に行う行政機関として、我が国金融行政に対する内外の信頼の回復を図る上で不可欠なことである。職員の専門能力向上のための研修や、服務監察を含め高いモラルを保持するための方策に、真剣に取り組んでまいりたい。


 5点目の「検査・監視・監督体制の計画的な整備」は、官房長官のご指示にもあるとおり、金融の検査・監視・監督を専門的に行う官庁として、責任をもって金融行政を担い、内外の信頼を確保する上で極めて重要なことである。
 我が国の検査・監視・監督体制は、これまでの関係者の努力もあって、金融監督庁の403人に財務局の検査・監視・監督要員約1,100人を加えて合計約1,500人となっている。しかし、市場の自由度が高いといわれる米国の体制と比べてまだまだ貧弱であるとのご批判は素直に受け止めなければならないと思う。
 また、職員数の面だけでなく機構の面でみても、組織全体として実効性の高い態勢になっているかどうか、検討すべき点も少なくないように思う。
 こうした体制の不備が、我が国金融システムの安定性に対する懸念の一因となりうるとすれば、看過しがたいところである。定員の大幅増を含む体制の抜本的な整備ということは、従来の行政の感覚からするとなかなか難しいことなのかもしれないが、事後チェック重視型の公正・透明な行政を責任をもって担うための体制整備であり、官邸・与党のご指導を賜りつつ、是非とも国民各位のご理解を得て、検査・監視・監督体制の計画的な整備を図ってまいりたいと考えている。
 以上、初代長官を拝命するにあたり、自らに重い宿題を課すつもりで申し上げた。また、先刻の職員に対する訓辞でも大要以上のようなことを申し述べた。
 これら5本の柱に沿って、金融監督庁の運営を行っていくこととなるが、現下の金融情勢における喫緊の課題は、総理のご指示にもある金融機関の不良債権問題であると考えている。これについては、政府与党挙げての真剣な取組みが行われているところであるが、金融監督庁としても、金融機関による不良債権の早期処理に向けて、金融監督当局として適切に対応してまいりたいと考えている。




II.(職員人事について)
 次に、この機会に金融監督庁の職員人事についての考え方を述べておきたい。
 金融監督庁の職員については、民間金融機関に対する検査・監督等の業務を的確に遂行して国民に信頼される金融行政を実施していくとの観点から、望ましい人材を確保したところである。
 具体的には、金融監督庁には当然のことながら金融行政経験の豊かな人材を確保する必要があり、大蔵省において検査・監督事務に従事してきた職員等の中から多数任用しているが、同時に、公認会計士など、民間の専門家の登用や大蔵省以外の省庁との大幅な人事交流の実施など、幅広い分野からの人材確保に配意したところである。
 民間からの人材登用については、私が金融監督行政を実施していくにあたって、ご指導、ご助言をいただくための顧問(非常勤)を、経済学者、法曹界、会計専門家、経済界等の各分野の有識者に委嘱したほか、若手の公認会計士5名を検査官に、また、新進気鋭の商法専攻の大学教授1名を非常勤の検査部参事に登用したところである。
 大蔵省以外の省庁との人事交流については、13省庁から30名程度の受入れ規模となっている。
 また、金融監督庁の中枢を担う幹部職員である、次長、検査部長、監督部長、監視委員会の事務局長及び事務局次長の5名については、経歴等から最もふさわしいと思う者を任用すべく意を用いたところであり、事務局次長は裁判所出身、それ以外の4人は大蔵省出身である。
 これら大蔵省出身の幹部職員の今後の人事については、将来の話でもあり、また、もとより人事は適材適所を基本とするところであるが、各人には金融監督庁の中枢を担うべき幹部職員として金融監督庁に骨を埋める覚悟で使命感を持って仕事に取り組んでもらいたいと考えている。
 なお、新規採用についても積極的に進めてまいりたいと考えており、採用に向けて体制も整えてあるので、熱意のある諸君の応募を期待している。




III.(決意)
 以上、金融監督庁運営の基本的な考え方と職員人事についての考え方を申し述べたが、最後に決意を表明させていただく。
 総理の掲げられた金融システム改革の3原則であるフリー・フェアー・グローバルは、金融監督行政の理念そのものでもあると考えている。
 先程述べた5つの柱を基本として、かかる理念を実現すべく、最善を尽くす決意であるので宜しくお願いしたい。

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