(仮  訳)

     デリバティブおよびトレーディングに関し監督上
       必要とする情報を収集する際の枠組み

              概    要
           (Executive Summary)

 本ペーパーは、銀行および証券会社のデリバティブ取引活動を評価するために、
バーゼル銀行監督委員会および証券監督者国際機構(IOSCO)専門委員会が共同で、
1995年5月に公表した監督上必要とする情報についての枠組みを拡張するものであ
る。1995年版の枠組みは、監督上の目的で銀行および証券会社の当局によって幅広
く導入され、また世界中のデリバティブ市場に関する定期的なデータ収集の基礎と
して役立った。

 今般の改訂の目的は、金融イノベーションや、主にマーケット・リスクの分野に
おけるトレーディングおよびデリバティブ活動のリスク管理実務の進展を反映する
ことにある。この作業は、バーゼル委員会およびIOSCOが銀行、証券会社のトレーデ
ィングとデリバティブ取引の活動をモニターするための継続的な努力の一環である。
この点につき、今般の改訂は、1994年のデリバティブ取引のリスク管理向上のため
のガイドラインの共同発表や、1995年から実施している共同のディスクロージャー
・サーベイの年次報告書で示されているデリバティブおよびトレーディング取引の
分野でのパブリック・ディスクロージャーの向上に関する共同提案など、両委員会
で進めてきた作業を土台にしたものである。さらに、デリバティブに関し監督上必
要とする情報についての共同の枠組みを初めて発表した後、バーゼル委員会は1996
年にマーケット・リスクを規制の対象に含める形で自己資本合意を改定したほか、
1997年に銀行を対象にした金利リスクに関するリスク管理の指針を公表した。それ
に加え、IOSCOは証券会社に適用する自己資本規制やリスク管理にかかる基準にマー
ケット・リスクを含める可能性について検討してきた。

 変動する市場環境のなかで、トレーディングやデリバティブ取引活動が引き続き
増大しており、こうした取引活動の銀行や証券会社のリスク・プロファイル全体や
収益性に及ぼす影響について、監督当局が理解を深めることは重要である。したが
って、両委員会としては、この枠組みによって示される情報は、デリバティブ市場
において活動しているか、または、マーケット・リスクへのエクスポージャーが大
きい、監督対象の金融機関やその主要な子会社において入手可能でなければならず、
かつ監督当局に提供できるものでなければならないと考えている。1995年版の監督
上必要とする情報についての枠組みは、デリバティブに特化していたが、今回の19
98年版では現物およびデリバティブの両方のトレーディングから生ずるマーケット
・リスク・エクスポージャーをより包括的に把握するために枠組みを拡張している。

 この枠組みは、金融機関の報告負担を限定する必要性に留意したものとなってお
り、(1)実地検査・考査、(2)外部監査、(3)金融機関との意見交換、(4)特別なサーベイ、
(5)定例報告等、監督上必要とする情報を収集するための柔軟な方法を示している。
また、銀行や証券会社がトレーディングやデリバティブ取引活動に伴う様々なリス
ク・エクスポージャーをモニターするために開発している内部の情報システムを監
督当局が活用することを奨励している。さらに、本枠組みはグローバルに活動する
銀行や証券会社に適用されるリスク管理にかかる基準や自己資本規制と整合的とな
るように作成されている。

 この枠組みは、二つの主要な部分から構成されている。ひとつは、トレーディン
グやデリバティブのリスクを評価する際に重要と両委員会が考えるデータのカタロ
グである。各国監督当局は、自国の報告体制を整備する際に、このカタログを活用
することができよう。二つ目は、各国監督当局が入手すべきと両委員会が勧めるデ
リバティブ取引に関する国際的に調和のとれた基礎的情報(カタログの一部を構成)
に関する共通のミニマム・フレームワークである。共通のミニマム・フレームワー
クについては、当初、金融機関のデリバティブ取引の全容や信用リスクを評価する
際に有益な情報に焦点を当てていたが、今回の改正においてトレーディングやデリ
バティブ取引のマーケット・リスクを評価する際に有益な情報も含めるよう拡張さ
れることとなった。本ペーパーは三つのセクションから構成されており、それぞれ
以下に要約されている。



I.はじめに

 ここでは、本ペーパーの概要を述べるとともに、監督上必要とする情報について
の枠組み全体の根底にある基本原則について説明する。基本原則には以下の点が含
まれる。

 ・  監督当局が用いるデータは、包括的なものでなければならない。すなわち、
  データは、すべての種類のデリバティブ、およびそれらに関連する主要なリス
  クをカバーするとともに、デリバティブが個別金融機関全体の経営やリスク・
  プロファイルに及ぼす影響を把握できるものでなければならない。必要な場合
  には、デリバティブのポジションは、関連するオンバランスのポジションとと
  もに評価されなければならない(例えば、マーケット・リスクや収益を評価す
  るときなど)。デリバティブについての定量的情報は、個別金融機関全体のリ
  スク・プロファイルやリスク管理能力に関する定性的情報とあわせて評価され
  る必要がある。

 ・  監督当局は、一つの金融機関が、そのグループ内のすべての法人を通じて、
  異なる法域において実行しているデリバティブ取引について包括的に把握する
  よう努力すべきである。

 ・  金融機関のトレーディングおよびデリバティブ取引活動は、急速に変化する
  可能性があり、その結果当該金融機関のリスク・プロファイルおよび収益性に
  影響を与え得る。したがって、デリバティブに関するデータは、金融機関が直 
  面しているリスクについて意味のある形で、かつタイムリーに理解できるよう、
  十分な頻度で評価されなければならない。

 ・  金融機関の報告負担を限定するため、監督当局は銀行および証券会社が内部
  利用のために用意する情報を活用することが望ましい。監督当局への報告目的
  用の情報と、その他の監督上の要請を満たす目的で金融機関が既に用意してい
  るデータとは、できるだけ整合的であるべきである。両委員会を構成する国毎
  に監督制度や会計基準、監督方針等が異なっていることから、監督当局は、そ
  れぞれの国の監督状況に最も適したかたちで共通のミニマム・フレームワーク
  を施行する柔軟性を有している。

 ・  各国監督当局は、デリバティブ取引を大規模に行い、国際的に活動している
  金融機関に対して、共通のミニマム・フレームワークを適用するほか、デリバ
  ティブ取引の規模が大きいその他の金融機関にもこの枠組みを適用することが
  できる。



 II .監督目的のための情報のカタログ

 データ項目のカタログは、金融機関のデリバティブ取引から生じるリスクを評価す
る上で重要であると監督当局が判断した情報により構成されている。このカタログは、
監督当局間でデリバティブに伴うリスク・エクスポージャーを評価するための整合的
な手法を発展させていくことができるように作成されている。また、金融機関全体の
リスク管理の枠組みの中で把握しようと努力すべき情報について、金融機関と監督当
局の間で意見交換を行う際の基盤を提供するということも意図されている。この意味
において、監督当局は、金融機関がデリバティブ取引に関する定量的および定性的情
報の双方を保有することが確保されるよう努力すべきである。
 カタログに示されている情報は、大きく分けて以下の通り。

信用リスク
 信用リスクとは、取引相手先が債務を完全に履行し得ないかもしれないリスクのこ
とである。この枠組みでは、取引所取引よりもOTC取引のデリバティブにおける信用
リスクに焦点を当てている。なぜなら、取引所や清算機関を通じた取引ではマージン
の受け払いが行われることによってリスクが削減されているからである。信用リスク
の基本的な測定方法は、法的に有効なネッティング契約によるリスク削減効果を勘案
した上で、計測されるカレント・エクスポージャーとポテンシャル・エクスポージャ
ーである。さらに、この枠組みは、カレント・エクスポージャーおよびポテンシャル
・エクスポージャー双方のための信用補完手段についての情報もカバーしている。
最後に、信用リスクの集中および取引相手先の信用力の評価方法についても検討して
いる。

流動性リスク
 この枠組みでカバーされているデリバティブ商品に伴う流動性リスクは、市場流動
性リスクとファンディング・リスクである。市場流動性リスクとは、取引を手仕舞っ
たり反対売買を行ったりして迅速にポジションを解消できなくなるリスクである。
ファンディング・リスクとは、デリバティブのポジションによって金融機関の資金繰
りやキャッシュ・フローが悪影響を受けるリスクである。

マーケット・リスク
 マーケット・リスクとは、オンバランスもしくはオフバランス・ポジションの市場
価値が、株式、金利、為替レートおよびコモディティの市場変動により目減りしてし
まうリスクである。この枠組みでは、マーケット・リスクの評価方法として二通り示
されている。ひとつは、金融機関のマーケット・リスクを何らかの監督上のモデルを
通じて監督当局が独自に評価することができるようなポジション・データに焦点を当
てる方法である。もうひとつは、金融機関内部のマーケット・リスクの推計値に関す
る情報を評価する方法である。推計方法としては、バリュー・アット・リスクを用い
る方法、デュレーション分析、シナリオ分析等がある。

収益
 この枠組みでは、デリバティブが金融機関の収益構成に与える影響を評価する上で
重要な様々な情報について検討している。そうした情報の中には、商品の種類に関わ
らず、リスク・カテゴリー(金利リスク、為替リスク、コモディティ・エクスポージ
ャー、および株式エクスポージャー)ごとに分類されたトレーディング収益に関する
情報も含まれている。本ペーパーでは、収益についてさらに細目に分類することも監
督目的上有用であるかもしれない旨提言している。さらに、この枠組みでは、デリバ
ティブの損失について実現分および未実現分の双方の情報を評価することの重要性に
ついても検討している。

 ここで述べた監督上の関心事項については、別添1および2の表にまとめられている。



 III .共通のミニマム・フレームワーク

 両委員会は、参加各国の監督当局が、デリバティブ取引規模が大きく、国際的に活
動している主要な銀行および証券会社について、カタログで示された項目のうち、最
低限入手すべき項目を提案している。共通のミニマム・フレームワークに含まれる情
報は、金融機関のデリバティブ取引の特徴・範囲やデリバティブ取引が金融機関全体
のリスク・プロファイルに与える影響について、監督当局が評価する際の出発点とな
る情報であると、両委員会が認めたものによって構成されている。監督当局は、前述
のデータ項目のカタログを参考に、共通のミニマム・フレームワークの情報にその他
の情報を補足的に追加していくこととなる。

 共通のミニマム・フレームワークは、別添3の表1-5に示されている。本フレームワ
ークは、当初、デリバティブ取引の全容や信用リスクに焦点を当てていたが、トレー
ディングやデリバティブ取引に伴うマーケット・リスクも含めるよう、拡張されるこ
ととなった。トレーディングの対象とはならないデリバティブに加え、トレーディン
グ・ポートフォリオの現物とデリバティブを考える上で、この拡張したアプローチは、
グローバルに活動している金融機関がリスク管理上および自己資本充実度を検討する
上で、典型的に用意しているマーケット・リスクに関する情報と整合的である。別添
4、5は、共通のミニマム・フレームワークを拡張したものであるが、それぞれ銀行と
証券会社に対してマーケット・リスク情報の把握について2つのアプローチを提示して
いる。一つめのアプローチは、グローバルに活動する金融機関がリスク管理目的に最
近多く使用している内部モデルに基づいている。2つめのアプローチは、金融機関が自
己資本充実度を検討するうえで代替的に使用し得る標準的手法である。別添4、5では、
グローバルに活動する銀行と証券会社が両アプローチで典型的に用意している情報の
タイプの例が示されており、それらは監督上の分析を行う上で有益であろう。


                                  以    上




問い合わせ先 金融監督庁 国際室渉外1係(内線3162)



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