(仮訳)

銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引のパブリック・ディスクロージャーに関する提言

 

 

バーゼル銀行監督委員会と証券監督者国際機構(IOSCO)専門委員会による市中協議ペーパー

 

 

コメント期限:5月31日
 

1999年2月

 

 


バーゼル銀行監督委員会の透明性小委員会
 

議長:Ms. Susan Krause
 Office of the Comptroller of the Currency,Washington,D.C.

 

Commission Bancaire et Financiere, Brussels

Mr. Luc van Cauter

Office of the Superintendent of Financial Institutions Canada, Ottawa

Mr. Nancy Sinclair

Commission Bancaire, Paris

Mr. Christian Delhomme

Deutsche Bundesbank, Frankfurt am Main

Mr. Karl-Heinz Hillen

Bundesaufsichtsamt fur das Kreditwesen, Berlin

Mr. Michael Wendt

Banca d’Italia, Rome

Mr. Antonio Renzi

日本銀行、東京

金融監督庁、東京

Commission de Surveillance du Secteur Financier,
Luxembourg

Ms. Isabelle Goubin

De Nederlandsche Bank, Amsterdam

Mr. Alfred Verhoeven

Finansinspektionen, Stockholm

Ms. Brita Aberg

Eidgenossische Bankenkommission, Bern

Mr. Rolf Gertsch

Financial Services Authority, London

Ms. Jane Blackburn

Board of Governors of the Federal Reserve System, Washington, D.C.

Mr. Gerald Edwards

Federal Reserve Bank of New York

Ms. Sarah Dahlgren

Office of the Comptroller of the Currency, Washington, D.C.

Mr. Tom Rees

Ms. Inga Swanner

Federal Deposit Insurance Corporation, Washington, D.C.

Mr. Michael J. Zamorski

Mr. William A. Stark

European Commission, Brussels

Mr. Patrick Brady

Secretariat of the Basle Committee on Banking Supervison, Bank for International Settlements

Mr. Magnus Orrell

 


IOSCO専門委員会の金融仲介機関の規制に関するワーキング・パーティ
 

Ms. Richard Britton
Financial Services Authority, London

 

Australian Securities and Investment Commission, Sydney

Mr. Malcolm Rodgers

Commission des Operations de Bourse, Paris

Mr. Francois Champarnaud

Commission Bancaire, Paris

Mr. Michel Martino

Bundesaufsichtsamt fur den Wertpapierhandel,

Frankfurt am Main

Dr. Horst Nottmeier

Deutsche Bundesbank, Frankfurt am Main

Mr. Werner Gehring

Bundesaufsichtsamt fur das Kreditwesen, Berlin

Mr. Uwe Neumann

Securities and Futures Commission, Hong Kong

Mr. Richard Yin

Commissione Nazionale per le Societa e la Borsa, Rome

Mr. Carlo Biancheri

金融監督庁、東京

山 田 拓 史

Comision Nacional Bancaria y de Valores, Mexico City

Mr. Alfonso Orozco

Stichting Toezicht Effectenverkeer, Amsterdam

Mr. Ge Overdevest

Ontario Securities Commission, Toronto

Ms. Tanis Maclaren

Commission des Valeurs Mobilieres du Quebec, Montreal

Mr. Alain Gelinas

Financial Services Board, Pretoria

Mr. Gerry Anderson

Comision Nacional del Mercado de Valores, Madrid

Mr. Ramiro Martinez-Pardo del Valle

Finansinspektionen, Stockholm

Mr. Lennart Torstensson

Eidgenossische Bankenkommission, Bern

Mr. Christopher McHale

Financial Services Authority, London

Ms. Sarah Varney

United States Securities and Exchange Commission, Washington, D.C.

Mr. Michael Macchiaroli

Commodities Futures Trading Commission, Washington, D.C.

Mr. I. Michael Greenberger

 


目    次
 

エグゼクティブ・サマリー
 
I .  総論
 
(1)  はじめに
(2)  目的
(3)  本レポートの内容
 
II .  トレーディングおよびデリバティブ取引の透明性の向上
 
(1)  トレーディングおよびデリバティブ取引を透明化することの重要性
(2)  その他のディスクロージャー対応
 
III .  提言
 
(1)  定性的情報のディスクロージャー
 
(a)  リスクと経営管理
(b)  マーケット・リスク
(c)  信用リスク
(d)  流動性リスク
(e)  その他のリスク
(f)  会計・評価方法
 
(2)  定量的情報のディスクロージャー
 
(a)  マーケット・リスク
(b)  信用リスク
(c)  流動性リスク
(d)  その他のリスク
(e)  収益
 
IV .  おわりに
 
付 表

 


エグゼクティブ・サマリー

銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引のパブリック・ディスクロージャーに関する提言
 

 本ペーパーは、バーゼル銀行監督委員会とIOSCO専門委員会が共同で公表し、銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引のパブリック・ディスクロージャーに関する提言を行うものである。これらの提言は、国際的に活動する大規模な銀行および証券会社によるトレーディングおよびデリバティブ取引のディスクロージャーにつき、両委員会が毎年行っているサーベイを補完するものである。最新のサーベイは1998年11月に公表されている。いずれの提言も、両委員会が継続的に行ってきた努力の一環を成すものであり、銀行と証券会社が、市場参加者に対し、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引に固有のリスクを理解してもらうために十分な情報を提供するように促すことを狙っている。

 両委員会は、銀行と証券会社の業務およびリスクの透明性は、金融システムを有効に監督するうえで、鍵となる要素であると考えている。タイムリーに提供される意味のある正確な情報は、市場参加者の重要な意思決定の基盤となる。十分な情報を持った投資家、預金者、顧客、および債権者は、強い市場規律を働かせることにより、金融機関に対し、注意深くかつ定められた事業目的に適った方法で業務およびリスク・エクスポージャーを管理するよう促すことができる。

 本ペーパーの提言は、以下の二つの点に沿ったものとなっている。

 バーゼル委員会およびIOSCO専門委員会は、銀行と証券会社が本ペーパーに示されている定量・定性双方の面においてディスクロージャーのガイダンスを実行に移すことを提言する。また、銀行と証券会社は、ディスクロージャーに係る他の国内および国際団体の提案、および国際的なレベルで同格に当たる金融機関が行っているディスクロージャーの方法も参考にすべきである。

 ディスクロージャーの提言は、大規模にトレーディングおよびデリバティブ取引を行うその他の金融・非金融機関にとっても有用かもしれない。会計基準設定者、規制当局、およびその他のディスクロージャー基準設定に責任を有する機関にとっても、より良い、調和のとれたパブリック・ディスクロージャー基準を開発していく際に、本ペーパーが役に立つかもしれない。本ペーパーは、他のより広範な報告の枠組を代替ないし無効にすることを意図してはいない。

 本ペーパーに掲げる提言は、両委員会が、銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引に係る初回の調査報告書に基づいて、1995年に発表した提言に代わるものである。前回の提言以降、金融機関によるデリバティブの利用の拡大、リスク管理技術の利用と手法の変化、およびディスクロージャーの水準や実務の継続的な向上等、様々な進展がみられた。

コメントの募集

 本ペーパーは市中協議のために発表されるものである。両委員会は、規制監督機関、銀行、証券会社、業界団体、および会計基準設定者を含め、関心を有する全ての関係者に対してコメントを求める。コメントは1999年5月31日をもって受付けが締め切られ、ガイダンスの最終版を策定する際に考慮される。両委員会は、1999年後半に本ペーパーの最終版を公表する所存である。

コメントの宛先:

バーゼル銀行監督委員会事務局Mr. Magnus Orrell

国際決済銀行

CH-4002バーゼル、スイス

Fax:   +41(61)2809100

E-mail: magnus.orrell@bis.org

 


銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引のパブリック・ディスクロージャーに関する提言

1999年2月

I .総論

(1)はじめに

1.  本ペーパーは、バーゼル銀行監督委員会1(以下、バーゼル委員会)と、証券監督者国際機構2(同、IOSCO)の専門委員会が共同で公表し、銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引3のパブリック・ディスクロージャーに関する提言を行うものである。これらの提言は、両委員会が1995年以来毎年公表してきている銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引のディスクロージャーに関するサーベイを補完するものである4。何れの提言も、両委員会が継続的に行ってきた努力の一環を成すものであり、銀行と証券会社が、市場参加者に対し、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引に固有のリスクを理解してもらうために十分な情報を提供するように促すことを狙っている。
 
2.  両委員会の行ってきた努力は、金融の安定を促進するうえで透明性が重要であることを記したG7諸国首脳および蔵相の声明と整合的であり、その支持を受けている。これらの声明においては、金融機関の財務状況、業況、業務活動、リスク構造、およびリスク管理実務の透明性が向上すれば、市場規律の有効性が高まり、金融市場が健全かつ効率的に機能することが認められている。このように、透明性の向上は、個別金融機関および金融システム全体の安全性と健全性の促進を狙った監督当局の努力を補完するものである。本提案は、各国の様々な会計およびディスクロージャーの枠組の中で求められる報告およびディスクロージャーの要件を補完するものとなろう。本ペーパーは、他のより広範な報告の枠組を代替ないし無効にすることを意図してはいない。
 
3.

 本ペーパーは、バーゼル委員会の透明性小委員会5とIOSCOの「金融仲介機関の規制に関するワーキング・パーティ」6の協力の下に作成された。本ペーパーに示されている提言は、両委員会が1995年に発表した提言に代わるものである7
 

(2)目的

4.  本ペーパーの目的は、ディスクロージャーの適切なあり方に関するガイダンスを示すことにより、大規模な銀行・証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引の透明性を高めることにある。本提言は、その他のトレーディングおよびデリバティブ取引を行う金融・非金融機関にとっても有用かもしれない。会計基準設定者、規制当局、およびその他のディスクロージャー基準設定に責任を有する機関にとっても、より良い、調和のとれたパブリック・ディスクロージャー基準を開発する際に、本ペーパーが役に立つかもしれない。
 
5.  バーゼル委員会およびIOSCO専門委員会は、意味のあるパブリック・ディスクロージャーに基づく透明性は、健全なリスク管理実務を促進し、金融市場の安定性向上を狙った監督当局の努力を補強するという重要な役割を果たすものと確信している8。透明性が向上すれば、銀行や証券会社自身も、取引相手に対する自らのエクスポージャーを評価・管理する能力が高まり、さらには、金融システムにストレスが発生した時に市場の噂や誤解により被害を被る可能性が低下するというかたちで利益を受ける筈である。
 

(3)本レポートの内容

6.  総論に続く第 II 部では、トレーディングおよびデリバティブ取引の透明性を高めることの重要性を論じる。また、この分野におけるディスクロージャーについて、規制当局、基準設定者、および業界団体が近年とってきた対応に言及する。
 
7.  第 III 部では、トレーディングおよびデリバティブ取引に深く関わっている大規模な銀行および証券会社に対し、同取引の適切なディスクロージャーに係るガイダンスが示されている。それらの提言は、以下の二つの点に沿ったものとなっている9
 
 第一に、金融機関は財務諸表の利用者に対し、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引の実態を正確に伝えるべきである。金融機関は、こうした取引の範囲と性質に関し、定性・定量双方の面において、意味のある概略情報を提供するとともに、それらの取引が収益構造にどのように寄与しているかを明らかにすべきである。金融機関はまた、こうした取引に伴う主要なリスク、および、それらのリスク管理の実績に関する情報を開示すべきである。
 第二に、金融機関は、自らのリスク・エクスポージャーおよびその管理実績について、内部的なリスク測定・管理システムから生成された情報を開示すべきである。パブリック・ディスクロージャーを内部リスク管理プロセスと結び付けることにより、ディスクロージャーがリスク測定・管理技術の革新に遅れをとらないようにすることができる。
8.  バーゼル委員会およびIOSCO専門委員会は、銀行と証券会社が、本ペーパーに示されている定量・定性双方のディスクロージャーに向けた提言を実行に移すことを奨励する。また、銀行と証券会社は、第 II 部に言及されているものを含め、会計基準設定者や規制当局等、他の国内および国際団体のディスクロージャーに関する提言も考慮すべきである。さらに銀行と証券会社は、両委員会が1998年11月に発表したトレーディングおよびデリバティブのディスクロージャーに関するサーベイに概説されているとおり10、国際的なレベルで同格に当たる金融機関が行っているディスクロージャーの方法も参考にすべきである。

 


II .トレーディングおよびデリバティブ取引の透明性の向上

(1)トレーディングおよびデリバティブ取引を透明化することの重要性

9.

 クラウス・レポートに論じられているとおり、市場規律は、リスクを効果的に管理する金融機関に報酬を与え、一方、リスク管理が脆弱ないし効果的ではない金融機関にペナルティーを課すことによって監督目的を補完する。タイムリーに報告される意味のある正確な情報は、市場参加者の意思決定の重要な基盤となる。十分な情報を持った投資家、預金者、顧客、債権者、およびその他の取引相手は、強い市場規律を働かせることにより、金融機関に対し、注意深くかつ定められた事業目的に適った方法で、業務およびリスク・エクスポージャーを管理するよう促すことができる。
 

10.

 トレーディングおよびデリバティブ取引に伴うリスクは、一般に、より伝統的な銀行・証券業務に関わるリスクと同様のものを含んでいる一方、こうした取引の金融リスク管理は、極めてダイナミックなプロセスになってきており、そこでは短期間に大規模な損益が発生する可能性が潜在していることが十分に実証されている。トレーディングおよびデリバティブ取引に関するタイムリーかつ信頼性のある情報は、金融機関の経営状態、業績、およびリスク構造を正確に評価するために不可欠であるが、これまで、こうした取引に纏わる透明性については、情報利用者の満足がいく水準まで達していないほか、取引増大や複雑化に対応していないとみなされることが多かった11
 

11.  銀行と証券会社に対し安全かつ健全な実務を促すことができるように市場参加者の能力を高めるためには、パブリック・ディスクロージャーによって、トレーディングおよびデリバティブ取引が金融機関全体のリスク構造および収益性にどのように寄与しているのか、また、同取引から生ずるリスクを当該金融機関がいかに巧く管理しているのかといった点について、包括的な情報が提供されることが重要である。当該金融機関の財務状況や業況見通しを意味のある形で伝えるためには、十分な頻度と適切なタイミングで情報提供が行われなければならない。トレーディングおよびデリバティブ取引の場合、銀行・証券会社はポジションやリスク構造を急速に変化させることができるので、ディスクロージャーがタイムリーかつ将来を見通した形で行われることは、特に重要である。会計期間中にトレーディングおよびデリバティブのポジションや戦略が変化した場合、次年度ないし次回半期報告まで当該情報のディスクロージャーを遅らせることは不適当である。実際、大多数の証券取引所は上場企業に対し、株価に影響を及ぼす新しい情報があれば直ちに市場に伝えるよう求めている。
 
12.

 また、情報は比較可能でなければならない。市場参加者やその他の情報利用者は、異なる金融機関同士や国家間、あるいは時系列で比較が可能な情報を必要としている。銀行間、国家間の比較が可能であれば、情報利用者は、金融機関の相対的な財務状況や業績を他の金融機関との比較において評価することができる。時系列の比較可能性はトレンドを見極めるために必要である。
 

13.

 ディスクロージャーは、重要性(materiality)の基準に従って12、各金融機関のトレーディングおよびデリバティブ取引の規模と性質に比例したものとすべきである。例えば、金融機関によっては、広範な現物およびデリバティブ商品についてマーケット・メーカーとなっている場合もあれば、主として自身のリスク管理目的でデリバティブを用いている場合もある。トレーディングおよびデリバティブ取引に関する情報をどの程度開示するかという判断は、それらの取引が当該金融機関の全体の業務、収益、およびリスク構造にどの程度重要であるかという観点から決定されるべきである。
 

14.

 銀行と証券会社は、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引について意味のあるディスクロージャーを行うことに関心を払うべきである。自らのリスク構造について僅かな情報しか提供しない金融機関は、ストレス発生時に市場の噂や市場参加者の誤解に晒され易くなり、その結果として、取引相手が取引から手を引いたり、資本調達コストが上昇したり、資金調達が困難化したりすることもあり得る。さらに、こうしたディスクロージャーが行われれば、金融機関は取引相手のリスク構造をより明確に把握することが可能になり、リスク管理が向上するとともに、より充実した情報に基づいて経営判断を下すことができる。
 

15.

 銀行と証券会社のディスクロージャーの実務は、各々の金融機関におけるトレーディングおよびデリバティブ取引、ならびにこうした取引を管理するための内部システムの拡大と技術革新を反映するとともに、そこから遅れをとらないようにすることが重要である。理想的には、リスクを測定・管理するために各金融機関が内部的に用いているアプローチに則してパブリック・ディスクロージャーが行われ、その結果として、リスク管理実務の向上がパブリック・ディスクロージャーに反映されることが望まれる。既に内部的に作成されている情報をリスク管理のために用いれば、パブリック・ディスクロージャーの向上に伴うコストと事務負担が軽減されることにもなる。
 

16.

 トレーディングおよびデリバティブ取引の透明性は、金融システムを有効に監督するための鍵となる要素である。金融革新が急速に進み、金融取引が複雑化する環境の下、銀行と証券会社の強固な内部リスク管理・コントロールは、健全性に関する監督やより高度なパブリック・ディスクロージャーの実務に補完されつつ、安定的な金融システムを育成するための枠組みを提供する。
 

(2)その他のディスクロージャー対応

17.  バーゼル委員会およびIOSCO専門委員会の他にも、幾つかの国内および国際機関がトレーディングおよびデリバティブ取引のディスクロージャーに係る基準、提案、ないしルールを発表している。こうした発案の多くは、既に現行のディスクロージャー実務に影響を与えているか、もしくは将来の慣行に影響を与えることが予想される。こうした提案が国内の強制的な規制を超える場合には、金融機関は、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引のディスクロージャーの比較可能性と質の向上を図る目的で、それらを検討することが望ましい。
 
 国際会計基準IAS 32「金融商品:ディスクロージャーと表示」:1995年6月に国際会計基準委員会(IASC)より発出されたIAS 32においては、金融商品の契約条件、内容および会計方針、金利リスクと信用リスクに関するデータ、およびオンバランスよびオフバランス金融商品の公正価値のディスクロージャーが求められている。IASC 理事会は1998年12月にIAS 39「金融商品:認識と測定」を採択した。本基準は、金融リスク管理の目的と方針に関するディスクロージャーを新たに求めている。
 
 カナダ勅許会計士協会ハンドブック§ 3860、金融商品─ディスクロージャーと表示:本セクションには、金融商品の表示に係る必要事項が提示され、開示すべき情報が特定されている。本提言においては、金融商品に関する、企業の将来のキャッシュフローの額、時期、および確実性に影響を与える要因に関する情報が取り上げられている。本章はまた、企業による金融商品の利用の性質と程度、同商品が貢献している事業目的、同商品に内包されているリスク、およびそれらのリスクをコントロールするに当たっての経営方針等のディスクロージャーを勧奨している。本章は、1996年1月1日以降、(一部の例外を除いて)すべての企業に適用されている。1995年10月には、金融機関監督庁(OSFI)より、「ガイドラインD-6─デリバティブのディスクロージャー」が発表された。同ガイドラインは、連邦規制下の金融機関に対し、第3860章の適用指針を与えるとともに、追加的なディスクロージャー規制の概略を示したものである。
 
 フランスのマーケット・リスクのディスクロージャーに関するガイダンス:会計理事会(CNC)13は1998年、マーケット・リスクのディスクロージャーに関して二つの文書を発出した。助言98.05号は、マーケット・リスク項目に関する情報を財務諸表の注記に開示する際のベスト・プラクティスについて指針を示したものである。本文書は、銀行委員会の監督下にある銀行および投資会社に対し、会計原則・規則、銀行業務の収益性、デリバティブ取引におけるカウンターパーティー・リスク、およびオフバランス項目(特にデリバティブ)に係る情報の開示を義務付けている。提言98.R.01号は、経営戦略に係る情報(部門ならびに地域別に提示)、金利・外為リスクおよびマーケット・リスク・エクスポージャーに関する定性的、定量的情報の開示を求めている。
 

 日本のトレーディング取引の時価会計に係る大蔵省の新規則:1997年4月1日以降、日本の銀行および証券会社は、内部管理や評価・会計手順に関して大蔵省が設定した一定の承認基準を満たしていることを条件として、トレーディング業務(デリバティブを含む)に時価会計を採用することを認められた。これにより、銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引の期間業績に係る一般開示情報は改善された14
 

 また、日本においては1996年7月に省令と通達(財務諸表等規則および同取扱要領等)が改正され、全ての企業を対象としてデリバティブのディスクロージャーが強化された。1997年3月期から適用されているこれらの改訂により、企業は、OTC商品を含むすべてのデリバティブについて、定性的情報および想定元本情報を開示することを義務付けられている。これらの改訂においては、マーケット・リスクおよび信用リスクに関する定量的情報の開示も勧奨されている。さらに、1998年3月期からは、OTC商品の時価情報のディスクロージャーも義務付けられている。
 

 スイス銀行協会の「トレーディングおよびデリバティブ利用に際するリスク管理についてのガイダンス」:1996年に発出された本ペーパーは、銀行が適切な定性的・定量的情報(バリュー・アット・リスク、信頼区間、信用リスク、グロスおよびネットの正の再構築コスト、アドオン、取引相手の信用度による内訳、等)を提供すべきである旨述べ、国際基準の適用を勧奨している。
 
 英国会計基準理事会(ASB)の財務報告基準(FRS)13「デリバティブおよびその他の金融商品:ディスクロージャー」:1998年9月に発出されたFRS13は、英国企業に対し、使用している金融商品から生ずるリスクに関する包括的な情報、および、それらのリスクについての考え方と対応の開示を求めている。本基準は1999年3月23日以降に到来する会計期間につき、保険会社を除くすべての上場企業、およびすべての銀行に対して適用される。主要な開示項目には、金利リスク、通貨、流動性および満期、公正価値、および、ヘッジ会計の効果に関する情報が含まれる。
 
 米国証券取引委員会(SEC)の「マーケット・リスク」開示規則:本規則は、SECより1995年に提案され、1997年1月に完成した。本規則は、1998年6月15日以降に到来する会計期間につき、米国上場企業のほぼ全てに適用される。本規則は、マーケット・リスクに係る詳細な定量的・定性的ディスクロージャーに加え、デリバティブに係る当該企業の会計方針、および、前年度と比較してマーケット・リスク・エクスポージャーが大幅な量的変化をみた場合には、その理由をも詳細に開示することを求めている。企業は、マーケット・リスクに係る定量的情報の開示に際し、以下の3つの選択肢の中から一つないし複数を用いることができる。
 

 契約条件およびその他の情報を一表にまとめたもの。その他の情報には、マーケット・リスクヘの感応度のある商品の公正価値、キャッシュフロー(初めの5年間については各年毎、6年目以降については合算)、および実効金利・価格が含まれる。
 

 現在の金利、為替レート、商品価格、およびその他の市場レートもしくは価格が短期間に変化することを現実的な範囲で仮定し、収益、公正価値、ないしキャッシュフローに発生する損失を推計した感応度分析。
 

 デリバティブおよび金融商品のバリュー・アット・リスク。すなわち、ある期間内に一定の確率で発生する市場変動の結果として、マーケット・リスクに対する感応度のある商品の公正価値、収益、ないしキャッシュフローに発生し得る損失を表わす数値。
 

 米国金融会計基準理事会(FASB)の金融会計基準書第133号「デリバティブ商品およびヘッジ取引の会計」:1999年6月15日に発効する本基準書は、デリバティブ商品およびヘッジ取引に係る会計とディスクロージャーの基準を設定するものである。要約すると、企業は本基準書により、全てのデリバティブを資産ないし負債として認識し、公正価値により評価することを求められている。企業は、デリバティブを保有ないし発行する目的を開示するとともに、リスク・ヘッジの対象となっている項目・取引の概要を説明のうえ、自社のリスク管理政策を示さなければならない。ヘッジ手段として表記されていないデリバティブ商品については、その使用目的を述べなければならない。本基準書では、指定された使用目的にしたがってデリバティブの会計処理を具体的に定めるとともに、そうした処理が収益に与える影響の開示を求めている。
 

 マーケット・リスクに自己資本ルールを適用するためのバーゼル自己資本合意の改正、および、EUの自己資本充実指令:マーケット・リスクに対する規制上の所要自己資本額、およびその算出に係る情報の開示は、多くの国において1996年中に一般的な慣行となった。バーゼル自己資本合意の改正は、国際的に活動するG10諸国銀行を対象として、マーケット・リスクに係る自己資本ルールを1998年1月以降実施することを求めている。EU法によれば、マーケット・リスクに係る自己資本ルールは、EU加盟国の銀行と証券会社に対して1995年末までに適用されることになっていた。
 

 公表が予定されている欧州委員会の金融商品情報のディスクロージャーに関する提言:欧州委員会は、会計分野における国際的な進展に遅れをとらないという公約にしたがい、銀行およびその他金融機関の年次会計における金融商品情報のディスクロージャーに関する提言を1999年の後半に提案する予定である。
 

次へ

Back
メニューへ戻る