18. | バーゼル委員会およびIOSCO専門委員会は、銀行と証券会社に対し、自らのトレーディング(デリバティブおよび現物取引)および非トレーディング対象のデリバティブ取引について、定性・定量双方の面における意味のある概要情報を提供することを勧奨する15。ディスクロージャーは、金融機関のトレーディングおよびデリバティブ取引の範囲と性質を明確に伝え、それらの取引が金融機関の収益構造にどのように寄与しているかを明らかにするべきである。金融機関は、信用リスク、マーケット・リスク、流動性リスク、オペレーショナル・リスク、リーガル・リスク、およびレピュテーショナル・リスクなど、自己のトレーディングおよびデリバティブ取引に伴う主要なリスクに係る情報を開示すべきである。さらに、金融機関はこうしたリスク、特にマーケット・リスクおよび信用リスクに対するリスク管理の実績を開示すべきである。財務諸表の利用者が適切な文脈の中で情報を理解し得るよう、ディスクロージャーはトレーディング業務と非トレーディング業務に分けて行うべきである。 |
19. | フィッシャー・レポートに始まり、最近ではクラウス・レポートにおいて議論されたとおり、金融機関は、自らのリスク・エクスポージャーと、その管理実績について、定性・定量双方の面から情報開示を行うべきである。理想的には、内部的なリスク測定や実績評価のシステムに用いている手法と平仄のとれた形でディスクロージャーを行うことが望ましい。パブリック・ディスクロージャーを内部リスク管理実務と結び付けることで、ディスクロージャーが時の経過とともにリスク管理実務に関する技術革新に後れをとらないようにすることができる。特に、マーケット・リスクや信用リスクのように変化が急速な分野においては、この利点は大きい。 |
20. | ディスクロージャーは金融機関にとって重大なリスク・エクスポージャーに焦点を当てたものとすべきであり、開示情報の量は、金融機関の業務、リスク構造、および収益全体に占める当該取引の重要性に比例していなければならない。金融機関のリスク構造の変化を適切に捉えるため、トレーディングおよびデリバティブ取引やこれらの取引に伴うリスクの水準の推移に関する分析(例:マーケット・リスクや信用リスクの水準の年次ベースでの推移)も開示されるべきである。 |
21. | 定性的情報のディスクロージャーは、年次報告書に記載される定量的ディスクロージャーについて詳しく説明する機会を経営陣に与えるとともに、定量的ディスクロージャーに深みを与える。財務諸表の利用者は、財務諸表および付属諸表に報告されている計数を理解するために必要な適切な全体観を把握するために、定性的な情報を必要としている。どのような場合においても、定性的情報は財務諸表上の定量的情報と整合的でなければならない。 |
22. | 定量的情報のディスクロージャーは、いかに頻繁に行われようとも、当該機関の業務の一時点における状況を表わしているに過ぎない。したがって、金融機関は、経営目的、戦略、およびリスクテイクに対する哲学について定性的情報を提供することが重要である。経営陣は、定性的な議論を通じて、トレーディングおよびデリバティブ取引が、金融機関の経営目的、それを達成するための経営戦略(オンバランスおよびオフバランスの全項目が対象)、およびリスクテイクに関する哲学と、いかに適合しているのか説明するとともに、トレーディングおよびデリバティブ取引が当該金融機関全体のリスクのレベルにどのような影響を及ぼしているのかについても説明すべきである。このような議論は、経営目的を理解するのに必要な前後関係の説明も含むべきである。また、経営陣はデリバティブの利用方針について論じるとともに、トレーディングおよびデリバティブ取引管理のために設けている主要な内部管理手続きについて説明すべきである。さらに、このようなディスクロージャーには、革新的な新商品や複雑ないしレバレッジの掛かった商品の取引、そうした取引に関連するリスクに関する概略説明が含まれているべきである16。 |
23. | 経営陣は、最低でも、デリバティブの主たる使用目的がトレーディング業務にあるのか非トレーディング業務にあるのか、また、主として使用されているのは取引所で取引されるデリバティブか、あるいはOTCデリバティブかという点を明らかにすべきである17。トレーディング業務に係る一般的なディスクロージャーにおいては、その金融機関がマーケット・メーカーなのか、自己勘定のトレーディングを行っているのか、あるいは、顧客サービスの必要からポジションをとっているのか、経営陣の見解を示すべきである。さらに経営陣は、リスク水準の潜在的な変化について、財務諸表の利用者の注意を喚起するため、前回の財務諸表において説明されていたトレーディング戦略、リスク許容度、およびリスク管理システムに大幅な変更があれば、その旨も記載すべきである。 |
24. | また、金融機関は、非トレーディング対象のデリバティブ取引の目的、およびその目的を達成するための戦略について説明すべきである。例えば、銀行の場合、為替リスク、金利リスク、あるいは銀行業務に伴うその他のリスクをヘッジするためにデリバティブがどのように利用されているのかを説明すべきである。こうしたディスクロージャーにおいては、利用されているヘッジ戦略の相違をタイプ別に明らかにし、それぞれの種類のヘッジについてリスク管理方針を説明するとともに、リスク・ヘッジの対象となっている商品・取引についても説明を加えるべきである。この種の情報は、関連するオンバランス・ポジションの文脈の中に挿入されるべきである。 |
25. | 具体的には、銀行と証券会社が、トレーディングおよびデリバティブ取引に係る定性的な概略情報として以下のタイプのディスクロージャーを検討することを勧奨する。 |
(a)リスクと経営管理18
26. | 金融機関は、トレーディングおよびデリバティブ取引に対するリスク管理・コントロール手続きに関し、中心的役割を果たす内部組織について、その構造の主要部分の概要を示すべきである(例:リスク・コントロールに係る部署や委員会の構造)。また、信用リスク、マーケット・リスク、流動性リスク、オペレーショナル・リスク、リーガル・リスク、レピュテーショナル・リスクなど、トレーディングおよびデリバティブ取引から生じる主要なリスクの各々について説明すべきである。その際、それらのリスクがいかにして発生し、また、どのような方法でそれを測定・管理するのかという点についても触れるべきである。例えば、金融機関は、マーケット・リスクや信用リスクに対するエクスポージャーに限度を設定する際の方針を議論するとともに、マーケット・リスクの管理や、金融機関によっては信用リスクの管理に、バリュー・アット・リスク評価法がどのように活用されているのか説明すべきである。さらに、金融機関は、これらのリスク管理の実績を評価する方法についても提示すべきである。 |
27. | 金融機関は、マーケット・リスクを測定・管理する際の方針を概説し、同リスク管理の実績がいかに評価されているかを論じるべきである。例えば、マーケット・リスクの管理・コントロールに当る独立した部署の構造、内部コントロール、リスク・リミット(例:バリュー・アット・リスクのリミット)、リミットのモニタリング・プロセスなどが説明されていれば、情報利用者がリスク・コントロール環境の性質を把握するための一助となる。 |
28. | マーケット・リスクに関する金融機関のディスクロージャーについて理解を深めるためには、内部モデルに使われている主要な前提やパラメーターに関する情報を開示することにより、マーケット・リスクに関する定量的なディスクロージャーを補足すべきである。例えば、バリュー・アット・リスクのディスクロージャーに際しては、用いられているモデルのタイプ(分散共分散法、ヒストリカル・シミュレーション法等)、対象ポートフォリオ、および、保有期間・信頼区間・観測期間などのパラメーター情報を明らかにすべきである。加えて、リスクをどのような方法で総計しているのか、また、市場間(例えば、異通貨間)ならびに市場要素間(例えば、金利商品・通貨商品間)の相関がモデルの中に織り込まれているのか否かについて開示すべきである。さらに、内部モデルの精度の検証やバック・テスティングのプロセスについても論じなければならない。 |
29. | マーケット・リスクの定性的情報のディスクロージャーにおいては、市場環境の悪化を想定したポートフォリオのストレス・テスティングのプロセスについても説明すべきである。そうした情報には、テストの対象となるポートフォリオ、テスト・シナリオの策定プロセス、テストの頻度、および、テストの結果に対する経営陣の対応が含まれよう。 |
30. | また、前回報告期間以降に発生したマーケット・リスク・エクスポージャーやリスク管理戦略の大きな変化が、定量的情報のみでは明らかにならないような場合には、定性的情報のディスクロージャーによって、その点を論じるべきである。こうしたディスクロージャーは、当該機関のリスク構造の先行きを展望するための一助となる。 |
31. | 金融機関は、信用リスクの認識・測定・管理に関する方針を概説すべきである。そうした説明においては、例えば、信用リスクのコントロールや貸出審査機能、内部コントロール、リスク・リミット(例えば、取引相手、事前決済、決済、および集中に係るリミット)、およびリミットのモニタリングの構造について説明すべきである。取引相手に対する信用エクスポージャーにストレス・テストを行っている場合は、そのプロセスを記述すべきである。 |
32. | 信用リスクの定性的ディスクロージャーにおいては、担保、証拠金、バイラテラルないしマルチラテラル・ネッティング取極、早期解約条項等を含め、信用リスク・エクスポージャーを削減するために金融機関が用いているメカニズムについて述べるべきである。また、信用リスク管理実績がいかに評価されているかを論じるべきである。 |
33. | OTCデリバティブ契約およびその他の負債性商品については、信用リスクの測定・管理に用いている手法に関する情報を開示すべきである。多くの金融機関は、潜在的な信用エクスポージャー、すなわち再構築コストが変化する可能性を数値化するために高度な内部モデルを開発している。そうした内部モデルを用いている場合は、モデルのタイプや主な前提(信頼区間等)など、鍵となる情報を開示すべきである。 |
34. | さらに、一部の金融機関は、統計モデルを用いて、取引相手が債務不履行に陥る可能性から発生する期待/非期待信用損失額(expected/unexpected
credit losses)を算出している。この場合も、潜在的信用エクスポージャーの場合と同様、モデルに関連する定性的情報(前提等)の開示が有益である19。 |
35. | 金融機関は、流動性リスクがいかに発生するか、また、自己のトレーディングおよびデリバティブ取引において流動性リスクがどのような意味を持っているかを記述すべきである。さらに、流動性リスクをいかに管理しているか、また、トレーディング・ポジションの時価を判定する際に流動性リスクをどのように考慮しているかを記述すべきである。また、流動性リスク管理実績がいかに評価されているかを論じるべきである。 |
36. | リーガル・リスク、オペレーショナル・リスク、およびレピュテーショナル・リスクは、しばしば金融機関に重大な懸念を与えるが、これらのリスクを正確に測定することは往々にして難しい。しかしながら、金融機関は、これらのリスクの性質に関する情報を開示し、それらのリスクが自らの業務にどのように関わっているかを示すことにより、財務諸表の利用者がこれらのリスクを理解することを助けることができる。さらに、金融機関は、トレーディングおよびデリバティブ取引について、これらのリスクをどのような方法で認識・管理しているかを記述すべきである。 |
37. | 金融機関は、トレーディング業務(現物取引およびデリバティブ取引の双方)および非トレーディング対象のデリバティブ取引において使用している会計方針および収益の認識方法について記述するべきである。会計方針に係るディスクロージャーは、様々なタイプないし用途のデリバティブ取引の間で会計上の取扱いが大きく異なる場合、財務諸表の利用者がその違いを理解できるように表示されるべきである。デリバティブに係る会計慣行は、国際間のみならず国内金融機関同士でも必ずしも整合的ではないため、各金融機関が保有デリバティブ商品の会計処理を十分に説明することが非常に重要である。 |
38. | 具体的には、デリバティブ取引の会計手法、それぞれの手法により処理されるデリバティブ取引のタイプ、およびそれぞれの手法を適用する際の規準(ヘッジの認定規準等)を概説することが有益であろう。また、金融機関は、解約したヘッジや将来発生し得る取引に対するヘッジの会計処理を説明すべきである。所定のヘッジ規準を満たしていないデリバティブ商品の会計処理についても記述すべきである。さらに、デリバティブ取引から生じる資産・負債のネッティングに関する方針と手続きについても論じるべきである。 |
39. | 金融機関はまた、トレーディング対象および対象外のデリバティブ取引の公正価値を判定する手法を記載すべきである。個別商品ないしポートフォリオに対して評価調整20(valuation adjustment)が行われている場合は、そうした準備金の性質およびその正当性を論じるべきである。市場価格がない商品については、時価を推計する際の手法と前提を明らかにすべきである。また、不良化したデリバティブ契約の認定と報告、およびディスクロージャーについては、そうした信用損失額(credit
losses)の認識に関する方針についても記述すべきである。 |
40. | 財務諸表の時系列での比較可能性を確保する目的と矛盾しないよう、デリバティブ契約の会計方針に大きな変更があった場合には、その旨を記述すべきである。また、将来的に新しい会計規則を適用する計画がある場合には(例えば、新たな規制に応えるため)、当該新規則、ならびにそれが財務諸表に及ぼし得る潜在的な影響を開示すべきである。 |
41. | 金融機関は、定量的情報のディスクロージャーを通じて、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引の実態を財務諸表の利用者に明確に伝えるべきである。定量的情報のディスクロージャーには、トレーディング・ポートフォリオの構成(トレーディング資産とトレーディング負債との区別の要)、および、非トレーディング業務におけるデリバティブの利用に関する概要情報が含まれているべきである。そのような情報の中には、トレーディング目的および非トレーディング目的で保有している主なカテゴリーの現物およびデリバティブ商品の期末および期中平均21の想定元本ならびに時価が含まれよう。さらに、取引所で取引されるデリバティブとOTCデリバティブでは、固有のリスクが異なるため、上記の情報は両者について別々に開示されるべきである。 |
42. | 市場取引に関する情報は、大まかなリスク・カテゴリー(金利、為替、貴金属、その他商品、株式)、大まかな商品カテゴリー(先物、先渡、スワップ、オプション)、および価格改訂日(満期期間が1年以内、1年超5年以内、5年超10年以内、10年超20年以内、20年超の各バンド)毎に開示されるべきである。 |
43. | 金融機関は、マーケット・リスクに対するエクスポージャーについて、内部的なリスク測定のために用いている手法を基に、定量的情報の概要を作成するとともに、これを実際のリスク管理の実績と併せて開示すべきである。 |
44. | 期末のバリュー・アット・リスク値は一時点におけるリスクを見ているに過ぎないため、金融機関は、報告期間全体にわたる一連の数値を開示し、自らのリスク構造をよりダイナミックに示すべきである。通常、ディーラーとして活動している銀行と証券会社は、内部リスク管理の目的で、トレーディング業務に関する損益情報の作成ならびにバリュー・アット・リスク値の算出を毎日行っている。金融機関は、このように内部的に作成された情報をパブリック・ディスクロージャーに援用し、自己のマーケット・リスク・エクスポージャーの明確な実態や、それを管理するに当たっての効率性を示す有益な概要情報(日次損益とバリュー・アット・リスク値を対比したヒストグラム、期中のバリュー・アット・リスクの最高値・最低値・平均値、等)を提供することが望ましい。日次ベースの情報も有用ではあるが、業務の概要説明としては、VAR値や実績値を週次ないし月次ベースで要約したものがより適切であるかもしれない。 |
45. | 金融機関のマーケット・リスク構造の透明性を高める定量的情報としては、以上の他に、シナリオ分析の結果ないしレート・ショックの影響、実際の損失額がバリュー・アット・リスクの推計値を上回った回数、等が挙げられる。 |
46. | 非トレーディングのポートフォリオについては、デリバティブの時価および想定元本を開示すべきである。また、マーケット・リスクの包括的な姿を示すためには、バリュー・アット・リスクおよびアーニング・アット・リスクに係る情報が有用である。金融機関はまた、非トレーディング対象のポートフォリオについても、レート・ショックの影響やシナリオ分析に係る情報を開示することも考えられよう。 |
47. | 金融機関は、取引相手に対するグロスの現在の信用エクスポージャー(再構築コスト)と潜在的な将来のエクスポージャーの双方を開示すべきである。グロスの現在のエクスポージャーとは、デリバティブ契約の正の時価であり、一時点におけるリスクを表わす指標である。金融機関は、時間の経過とともに信用エクスポージャーが変動する可能性を明らかにするため、デリバティブ契約の原資産の時価の変動から生じ得る将来の信用エクスポージャーをも開示すべきである。信用エクスポージャーについてさらなる見方を与えるため、金融機関は、報告期間中の信用エクスポージャーの平均値ないし信用エクスポージャーの変動幅を開示することも検討すべきである。また、満期期間毎に信用エクスポージャーに関する情報を開示すべきである。 |
48. | 金融機関が、OTC契約から発生するカウンターパーティーの信用エクスポージャーに対して信用補完手段を用いており、その効果によって信用リスクの水準が大幅に低下している場合には、当該情報を開示すべきである。本情報には、法的に有効なバイラテラル・ネッディング取極が信用エクスポージャーに及ぼす効果も含まれよう。金融機関がOTC契約に係るマルチラテラルな決済機関に加盟している場合は、マルチラテラル・ネッティングの効果をも開示すべきである。カウンターパーティーの信用エクスポージャーを減じるために担保や保証を用いている場合には、その効果も開示すべきである。こうしたディスクロージャーには、差し入れられている担保の名目価値と時価が含まれていなければならない。 |
49. | 信用エクスポージャーの質は、最終的な信用損失額に大きな影響を与える。したがって、金融機関は取引相手の信用度を大づかみに把握するための助けとなる情報を開示するべきである。例えば、内部および外部の格付を用いて取引相手の信用度を表示することができる。高密度の集中(取引相手別、産業別、地域別)に関する情報も、信用リスク・エクスポージャーの質に関する意味のある情報となる。定量的情報としては、以上の他に、不良化した契約の再構築コスト、デリバティブ商品から発生した信用損失額、信用損失額に備えて設けられている準備金などが挙げられよう。 |
50. | 潜在的な信用エクスポージャーおよび期待/非期待信用損失額については、金融機関のリスク管理や実績測定プロセスおいて、内部モデルから生成されるデータの重要性が増大している。したがって、多くの金融機関は内部モデルを開発し、バーゼル自己資本合意のアドオン・アプローチにおいて求められいてる以上に正確に潜在的信用エクスポージャーを算出しようとしてきた。内部モデルの方がより正確であると金融機関が考える場合には、同モデルをベースとする情報を開示することが望ましいかもしれない。そうしたディスクロージャーにおいては、内部的な信用リスク・モデルによって予測された信用損失額を実際の損失額と比較するかたちで開示することが考えられる。 |
51. | 一部の金融機関にとって、クレジット・デリバティブは信用リスクを管理するための有用な手段となっている。クレジット・デリバティブを利用することにより、金融機関はプロテクションの購入者ないし売却者として信用リスクを移転することができる。クレジット・デリバティブを用いている場合、金融機関は、プロテクションの売却と購入ならびに商品のタイプ(トータル・リターン・スワップ、クレジット・デフォルト・スワップ等)を区別のうえ、想定元本を開示すべきである。クレジット・デリバティブが信用リスクの集中に大きな影響を与えている場合には、これらのエクスポージャーをレファレンス資産別に開示することを検討すべきである。 |
52. | 考慮すべき流動性リスクには二つのタイプがある。すなわち、市場流動性リスクと調達流動性リスクである。市場流動性リスクについては、取引所取引およびOTC契約の想定元本と時価を市場タイプ別(金利、外為契約、商品、株式契約等)および商品別(スワップ、先物、先渡、オプション等)に区分して示すべきである。こうしたデータは、金融機関が異なる商品を使ってエクスポージャーを相殺する能力について示唆を与えてくれる。 |
53. | 金融機関が取引所契約およびOTC契約にどの程度関わっているかを示す情報は、調達流動性リスクの全体観を提示してくれる。取引所で取引される商品は毎日現金決済する必要があるため、金融機関がこうした商品を用いてOTC契約をヘッジしている場合には、そうした現金決済が当該金融機関の流動性に大きな影響を与える可能性がある。金融機関がOTC契約において多額の担保を差し入れている場合には、その情報も開示すべきである。 |
54. | 金融機関の調達流動性リスクに対する全体観を提示するために、金融機関は、トレーディング業務、非トレーディング業務の双方につき、予想キャッシュフローを表記したギャップ表を開示すべきである。 |
55. | 前述のとおり、リーガル・リスク、オペレーショナル・リスク、およびレピュテーショナル・リスクを正確に測定することは往々にして難しい。金融機関は、財務諸表利用者と共用すべき定量的情報を認定するに当たり、革新的であることが望まれる。リーガル・リスクの定量的情報のディスクロージャーの一例としては、係争対象となっている契約がある場合、同契約の現在の損失のエクスポージャーおよび潜在的損失のエクスポージャーを開示することが有用であると思われる。 |
56. | 金融機関は、トレーディング業務および非トレーディング対象のデリバティブ取引が収益に与える影響について情報を開示することが望ましい。マーケット・リスクや信用リスクの場合と同様、こうしたディスクロージャーは、適当と判断される場合、内部的な測定・会計システムと整合的なものとすべきである。 |
57. | 金融機関は、現物およびデリバティブ商品を合算するとともに、主要リスク・カテゴリー別の内訳(外為、株式、商品、その他)を設けて、トレーディング収入の概要を開示すべきである。これに代わるものとして、主要商品別の内訳(債券、スワップ、株式等)を設けることも考えられる。選択された方法は、金融機関が当該取引を管理する際の手法と整合的でなければならない。 |
58. | 金融機関はまた、業務実績について、財務諸表の利用者の理解の向上に資すると思われる場合、大まかなトレーディング戦略から発生する重大なトレーディング損益を示す概要情報を開示することも検討すべきである。例えば、特定の戦略によって通常を上回る大規模な損益が発生した場合、収益結果が一回限りの特異な要因によって歪められている可能性があることを認識しておくことは、財務諸表の利用者の役に立つかもしれない。 |
59. | 非トレーディング対象のデリバティブについては22、金利リスク、通貨リスク、およびその他リスクの管理目的で保有されているオフバランス・ポジションが収益に及ぼす影響について、定量的情報を開示すべきである。こうした情報は、非トレーディング・リスク管理(金利リスク・エクスポージャー等)のためにデリバティブがどのように利用されているのか、また、そうした努力がどの程度効果を上げているのかといった点について示唆を与えてくれる。 |
60. | したがって、金融機関は、デリバティブから発生した累積繰延損失額(実現損および含み損)、当該繰延損失を収益として認識することとなる事由、および将来において当該繰延損失が損益勘定に認識される時期(次回会計期間中、それ以降等)を開示すべきである。その際、当該報告期間中に非トレーディング業務から発生した各種収益の結果として認識されるネット損益、および同損益が記録された収益のカテゴリーを明確に示すべきである。適当と認められる場合、ヘッジが無効に終った場合の影響を隔離したうえで、こうした情報をヘッジ戦略毎に分類することも考えられる。さらに、金融機関が、コミットメントの履行や将来発生することが予想される取引について、前提条件を変更したことが原因で、当期収益として発生した繰延損益についても開示すべきである。金融機関が、デリバティブから発生した損益のヘッジや繰延べを行っている場合、その最大期間を開示することも有用であろう。こうした情報は、既に発生した損失によって将来の収益や自己資本がどのような影響を受けるかという点について示唆を与えてくれる。 |
61. | 市場規律の有効性および金融市場の健全かつ効率的な機能を促進するため、銀行および証券会社は、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引の実態を財務諸表利用者に明確に提示すべきである。 |
62. | 金融機関は、定性・定量双方の面から、トレーディングおよびデリバティブ取引の範囲と性質について意味のある概要情報を提供し、同業務が金融機関の収益構造にいかに寄与しているかを説明すべきである。金融機関は、信用リスク、マーケット・リスク、流動性リスク、オペレーショナル・リスク、リーガル・リスク、およびレピュテーショナル・リスクをはじめ、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引に伴う主要なリスクに係る情報を開示すべきである。さらに、それらのリスク、特にマーケット・リスクおよび信用リスクの管理実績に係る情報も開示すべきである。 |
63. | また、金融機関は、ディスクロージャーがリスク測定・管理に関する技術革新に遅れをとらないように、自らのリスク・エクスポージャーやその管理実績について、内部的なリスク測定・管理システムから生成される情報を開示すべきである。 |
64. | バーゼル委員会およびIOSCO専門委員会は、銀行および証券会社に対し、本ペーパーに示され、付表に要約されている提言を実施するよう勧奨する。両委員会は、健全なリスク管理慣行の促進と金融市場の安定性強化を目指して監督当局が行っている努力を補完するという点において、意味のあるパブリック・ディスクロージャーに基づく透明性は、重要な役割を果たし得ると考える。 |
1999年2月
注
トレーディングおよびデリバティブ取引のディスクロージャーに関する提言の一覧表
総論
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定性的情報のディスクロージャー:一般事項 | ||||||||||||||||
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リスク管理:定性的情報のディスクロージャー | ||||||||||||||||
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マーケット・リスク:定性的情報のディスクロージャー | ||||||||||||||||
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信用リスク:定性的情報のディスクロージャー | ||||||||||||||||
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流動性リスク:定性的情報のディスクロージャー |
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その他リスク(オペレーショナル・リスク、リーガル・リスク、レピュテーショナル・リスク):定性的情報のディスクロージャー | ||||||||||||||||
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会計・評価方法 | ||||||||||||||||
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定量的情報のティスクロージャー:一般事項 | ||||||||||||||||
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マーケット・リスク:定量的情報のディスクロージャー | ||||||||||||||||
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信用リスク:定量的情報のディスクロージャー | ||||||||||||||||
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流動性リスク:定量的情報のディスクロージャー | ||||||||||||||||
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その他リスク | ||||||||||||||||
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収益:トレーディング業務 | ||||||||||||||||
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収益:非トレーディング目的のデリバティブ保有 | ||||||||||||||||
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