自動車損害賠償責任保険審議会(自賠審)懇談会での議論の概要

   

 自賠審では、昨年4月以降9回にわたり、懇談会形式で、自賠責保険全般について、広く国民、ドライバー、自動車事故被害者の視点に立って、幅広く議論を行ってきた。懇談会での議論で出された主な意見をまとめれば、以下のとおり。

 

I .検討に当たっての視点
 
検討に当たっては、以下の点を踏まえ、今日的な視点に立って考える必要がある。
 
自賠責保険の第一の目的である被害者保護の観点を踏まえる必要がある。
制度創設当時と現在の自動車交通を巡る環境の変化、交通事故被害者の状況を踏まえる必要がある。
制度創設当時と現在の保険会社の経営の状況の変化や任意保険の普及状況を踏まえる必要がある。
官民の役割分担という観点を踏まえる必要がある。

  

II .各 論
 
.自賠責保険の基本的枠組み
 
車検とのリンク等も含め、強制保険制度は維持すべき。
自賠責保険と任意保険の二本建て制度は、うまく機能しており、維持すべき。
強制保険という性格からしても、ノーロス・ノープロフィット原則は維持すべき。

 

.政府再保険制度
 
制度創設時と異なり保険会社の担保力が格段に向上していること、自賠責保険は比較的小さなリスクの集積であり保険会社が巨大リスクにさらされる危険性は低いこと等から、政府による再保険制度は不要ではないか。
政府再保険制度は、1件1件の保険金支払に国(運輸省)が直接関与し保険金支払のチェック等を行うシステムとしてこれまで有効に機能しており、同制度の見直しに当たっては、適正な保険金支払という意味での被害者保護が充実されるような、政府再保険にかわる支払のチェック・システムの検討を、まず行う必要がある。
 
再保険することと、支払のチェックをすることは、論理的に別の問題であり、再保険制度と支払のチェック・システムの問題を絡めて議論するのではなく、支払のチェック・システムについては再保険制度の要否とは別に検討すればよい。
政府再保険の問題の検討に当たっては、同制度を廃止した場合の支払のチェック・システムを提示した上で検討する必要がある。
政府再保険制度を廃止した場合の、支払のチェックについては、国による特別な監督が必要なのか、民間でもできるのか、第3者機関のようなものが適しているのか、といった観点から検討する必要がある。
 
再保険の廃止を検討するに当たっては、ユーザー・メリット、即ちそれによる保険料への影響を定量的に検証する必要がある。
再保険廃止のメリットとしては、保険料の額という金銭的な面ばかりでなく、行革という観点から、行政機構の簡素化による国民経済的なメリットも重視すべき。
 
再保険を廃止しても政府保障事業は引き続き行うべき。
現在特別会計で行っている運用益活用事業に関し、政府再保険を廃止した場合、その財源をどうするか検討する必要がある。

  

.保険料について
 
現在は、多額の運用益が積み上がっているため、事故が多くなれば保険料は上がり事故が減れば保険料は下がるという事故発生と保険料とのリンクがなくなっている。この際、運用益残高を減らすために思い切って保険料を引下げるべき。
自賠責保険の収支の状況をみると、前回の料率改定時の見通しよりも損害率が良好に推移しており、保険料の引下げを行うべき。
現在の保険料の水準は「赤字料率」となっており、将来的には保険料の引上げが不可避と考えられることから、今の段階での保険料の引下げは慎重に考えるべき。
 
このように多額の運用益が積み上がっていること自体が問題であり、この際保険料の設定の考え方を一回整理すべき。
従来の保険料決定方法は、保険料の激変を避け、契約年度の異なる保険契約者間の公平性を確保する観点から、累積黒字・運用益を6〜8年程度で保険料に還元する一方で、その間に発生した運用益は将来の保険料引下げ財源等として留保するという方式をとってきている。
 
保険料の水準をどうするかという議論は、保険金限度額等の補償面の議論と合わせて検討する必要がある。
保険料の水準を議論するに当たっては、運用益を活用した事業の意義や重要性、保険料の激変を緩和するという観点からどの程度の運用益を有している必要があるのか、といった点を検討する必要がある。
運用益は、目標を決めて積み立てるというものではない。
 
付加保険料についても、ノーロス・ノープロフィット原則が真に貫徹されているかという観点から、現行の水準について検証を行い、見直しを行うべき。

  

.保険金限度額
 
保険金限度額については、介護を要する重度後遺障害者が増加しているという、交通事故の状況を踏まえて見直しを検討すべき。
基本補償である自賠責保険の保障内容、金額は、最低限必要なものに限定すべきで、安易に保険金限度額の引上げを行うべきではない。
現在では、制度創設時と異なり、殆ど全ての自動車が任意保険に加入しており、自賠責保険の限度額を引き上げても、保険金の出所が任意保険から自賠責保険に切り替わるだけである。
 
従来、後遺障害の保険金限度額は死亡の保険金限度額以下に設定されてきたが、死亡の場合よりも重度後遺障害の場合の方が損害額が大きいという実態を踏まえれば、重度後遺障害の保険金限度額を死亡の場合よりも高くすることも考えるべき。
 
要介護者に対する補償を充実するという、国としての姿勢を明らかにする意味からも、要介護者に対し、介護費用を別枠で支給することを考えるべき。
介護に要する費用を別枠で支給する場合、その金額、支給対象等については、労災保険等の他の諸制度の状況等も踏まえて検討する必要がある。
要介護者に対する補償を充実するとしても、その方式、金額、支給対象等については、自賠責保険は自動車保険の1階部分として、最低限部分をカバーすべきものであるという点を十分考慮すべき。

  

.死亡無責事故等の取扱い
  
死亡無責事故等の被害者の中には、道路状況や脇道からの飛び出し等の不測の要因によって事故を起こしてしまったようなケースもある。それらの中には、賠償責任保険である自賠責保険や政府保障事業では救済の対象にならないものの、何らかの保障をすべきケースもあるのではないか。
無責事故等の被害者に何らかの保障をすることは、心情的には理解できる面もあるが、加害者側に非がある場合にその賠償責任を保障するという自賠責制度の趣旨に鑑みれば、加害者側に全く非がない事故まで保障の対象とするのはおかしいのではないか。
事故によっては、目撃者がいない等の理由により有無責の判定自体が困難な場合があるが、それらは有無責の判定の方法の改善を図る、あるいは、有無責の判定が困難な場合には被害者に有利なように判定をするということで対応すべき。有無責の判定が困難であるということと、無責事故の被害者に保障をするというのは、別の問題。

  

.損害調査、支払のチェック等
 
被害者保護の充実を図る観点から、公正な損害調査及び保険金の支払を確保することが重要であり、自算会や保険会社が行っている損害調査や保険金支払、及びそれらに対するチェックのシステムについて、改善の余地がないか検討する必要がある。
損害調査や後遺障害の等級認定の万全を期すため、自算会に「審査会」、「再審査会」の制度を設けたが、これによって透明性、客観性が格段に向上し、被害者保護が改善された。
自算会では、被害者が死亡していて加害者側の証言以外に証拠がないような場合、加害者側の証言のみによって判定を行うことはなく、あくまでも被害者に有利になるように判定をしている。
 
保険会社の損害調査や損害の認定に異議がある場合、被害者にとっては、異議申し立てを行うこと自体が非常に困難を伴うという実体があり、異議申立て手続きの改善等を行うべき。
事故の被害者は、通常、保険に関して十分な知識がなく、保険会社に対し弱い立場におかれがちである。こうした点を踏まえ、現在の示談の在り方等で改善すべき点があるのではないか。
自賠責保険では、事故発生から保険金の支払まで時間がかかるケースがあるが、この点について改善の余地はないか。

  

.運用益活用事業
 
運用益は、本来、保険料の引下げに還元すべきものであり、運用益を活用して支出を行うにしても、その額、使途は厳しく限定するとともに、効率的な支出に努めるべき。
運用益の支出を決めるに当たっては、自賠審に諮る、第3者の意見を聞く機会を設けるなど、プロセスの透明性をより高める必要がある。
政府再保険特会の運用益の支出については、財政当局との調整を経た上で、国会の審議・議決を受けている。
 
現在、運用益を活用して、交通事故防止対策や実際に事故に遭った被害者の救済対策等が行われているが、これらについては国が行っている他の交通安全対策事業等との関係等も考慮し、どういった事業を運用益を活用して行うか、厳しく見直す必要がある。
国が行っている交通安全対策等をみると、道路財源を使用した事業等、自動車ユーザーの負担によって支えられている面もある。
 
要介護状態にある被害者のケアは、保険金を支払えば済むというものではなく、また、若年層の被害者は介護保険も適用されないことも考えると、特会の運用益を活用した療護センターの事業の意義は大きい。
療護センターの運営等の被害者救済対策は、本来、社会保障制度全般の中で考えられるべきものであり、特別会計の運用益を使って行うべきものではない。

  

.その他
 
自賠責保険では、過失相殺の適用に当たって被害者に有利な取扱いをしているが、政府保障事業においては厳格な過失相殺を適用しており、被害者側からみた公平性という観点から見直しの必要があるのではないか。
 
自賠責保険にかかる各種の事務については、極力簡素化を図っていくべき。
 
現在の後遺障害等級表は、症状の表現が必ずしも客観的に明確ではなく、見直しを検討すべきではないか。
 
近年、新たなタイプの後遺障害も問題化してきており、こうした被害者への対応等についても検討する必要がある。
 
死亡追加保険料については、事故の発生を抑制するという所期の目的に照らすと、十分な効果があるとは考えにくく、他方で、追加保険料を徴収するために大きな事務が発生することから、廃止すべきではないか。


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