金融機能活性化委員会のこれまでの議論の整理と

今後検討すべき事項について



                                                                              


  金融機能活性化委員会は、昨年8月の設置以降、金融仲介・決済機能の多様化・高度化


の進展を踏まえ、金融機能活性化の観点からどのような対応が必要かについて、金融機関


の経営形態・組織等の問題を中心に議論を進めてきた。                            


  また、本年10月の再開以降は、21世紀の金融サービスに期待される機能について、具体


的には、利用者の多様化するニーズに応えられるような特色ある経営が可能となる金融シ


ステムとはどのようなものかについて、幅広い検討を行っている。                  


  こうした中、今般の金融市場改革に関する総理より蔵相への指示を受け、2001年までの


金融市場改革のプランをできる限り早急にまとめることにつき、関係審議会においても精


力的な検討を行うよう蔵相より要請がなされたことから、当委員会においても、そのため


の議論が進められている。                                                      


  以下は、金融市場改革の今後の検討にあたっての参考に資するため、これまでの審議で


委員から出された議論を整理するとともに、金融市場改革のプランに盛り込むことについ


て検討すべき事項として、現時点でどのようなものが考えられるのかについて示したもの


である。                                                                      


                                                                              








I . 活性化委員会のこれまでの議論の整理



                                                                              


  (1) 我が国の金融機関・金融市場の現状と課題                                  


                                                                              


      標記について、主として以下の議論があった。                              


      我が国の金融における新しい展開として、情報・通信技術の進歩によりデリバティ


    ブ等の複雑な金融技術が可能となることなどにより、金融機関の有する仲介機能の中


    で、リスク仲介機能の占めるウェイトが高くなってきていることが挙げられる。ま  


    た、これまで金融機関が果たしてきた決済機能についても、例えば電子マネー・電子


    決済に関する種々のプロジェクトにより、今後、画期的に変革する可能性が生じてい


    る。                                                                      


      こうした従来の金融機能が変容する中で、21世紀に向けてこれまで以上に特色あ


    る経営を展開していくことが求められている状況にある。                      


      一方、不良債権問題が21世紀においても金融機関の活性化に悪影響を及ぼすこと


    は、是非とも避ける必要があり、引き続き不良債権問題の早期処理に果断に取り組む


    必要がある。                                                              


                                                                              


      資金余剰基調の続く中にあって、我が国金融システムに求められているのは、1200


    兆円に及ぶ個人金融資産がより有利に運用される機会を提供することである。その意


    味で、金融機関にとり、資金をどのように仲介するかという視点に加えて、国民の資


    産をいかに効率良く管理運用するかという視点が重要になっている。            


                                                                              


      また、金融をめぐる国際競争が一段と激化している状況において、我が国の金融市


    場のグローバル化を更に押し進め、内外の利用者にとり一層利用しやすいものとする


    とが急務となっている。                                                    


      この関連で、我が国金融機関の国際競争力については、特に商品開発力の点での遅


    れが指摘されるところであるが、その原因としては、規制及びそれに対応する銀行側


    の風土により創意工夫が生まれにくかったことや、メインバンク制のもとでの顧客と


    金融機関との間の緊張関係欠如が指摘された。                                


      また、我が国金融機関の国際競争力が伸びない背景として、規制、会計、税制、法


    制などの金融機関を取り巻く経営環境が国内と海外とで全く異なるため、国内での競


    争力が海外での競争力に結びつかない面があることや、業務体制・人事・給与を含む


    企業文化の違い、語学の問題などがあることが挙げられた。                    


                                                                              


        一方、リーテール機能に重点を置く金融機関や地域に密着した金融機関について


    は、資本市場へのアクセスが限られている中堅・中小企業や新興企業のニーズに対す


    るきめ細かいサービスの提供がこれまで以上に求められる状況となっている。この関


    連で、これまでの我が国の多くの金融機関が採ってきたとされる土地担保主義は、一


    般に新興産業は土地担保力に乏しいことが多いことから、これからの新産業育成の融


    資にあたっては問題があるとの指摘があった。                                


                                                                              


  (2) 金融市場改革の必要性と目指すべき方向                                    


                                                                              


      標記について、主として以下の議論があった。                              


      経済活動のボーダーレス化の進展により、金融をめぐる競争は各国金融制度間の競


    争という側面も有するようになっており、そのグローバル・スタンダードへの収斂が


    進む中にあっては、対応の遅れた市場は国際的に取り残されることになる。これは、


    国際競争という面のみならず、国内の利用者利便の低下を通じて、国民経済に不利益


    をもたらすとともに、金融取引の海外流出という事態を招くことになりかねない。金


    融市場改革は金融のみの問題ではなく日本経済全体の問題ととらえるべきである。  


      こうした観点に立ち、今回の改革は、法制面、税制面での改善も視野にいれたもの


    とすべきである。                                                          


                                                                              


      今回の改革においては、我が国の金融市場をニューヨーク、ロンドン市場の水準に


    キャッチアップさせるという発想ではなく、この機会に世界に先んじることを目指す


    べきであり、具体的にどのような市場を目指すべきかについて検討していく必要があ


    る。その際、「世界の水準」「グローバル・スタンダード」というのは、「世界と同


    じ」という意味ではなく、「世界と競争できる魅力と活力を備えた市場」を目指すと


    いう意味と考えるべきではないかとの指摘があった。                          


                                                                              


      金融市場改革の具体的な方向性として、(1)多様な金融仲介サービスの提供 (業務・


    商品・組織の自由化・多様化、技術革新) 、(2)市場機能を基軸とした展開 (ディスク


    ロージャー、会計制度、顧客保護ルールなど) 、(3)金融システムの健全性の確保 (決


    済システムの安全性確保、適正な自己資本、適切なリスク管理) の3点が考えられ  


    る。                                                                      


                                                                              


      今後の金融業については、業態的発想に立つのではなく、個々の機能・業務に着目


    した議論を行うべきである。例えば、特定の業務とその担い手とを一体として考える


    のではなく、各機能・業務を行うための要件や適格性を判断し、それを満たす者は担


    い手となりうるとする考え方があり得る。また、例えば、一般に金融に精通した者を


    顧客層とするホールセール業と、そうでない者を広く対象とするリーテール業とで、


    規制を区分けすることも考えられるのではないかといった指摘もあった。このよう  


    に、規制のあり方について、将来的には、業態別の規制から機能別の規制に変わって


    いくことも検討の対象となろう。                                            


                                                                              


      今後の銀行経営としては、今後とも資金余剰基調が続くと考えられることや、資金


    の直接調達も一層進むことに鑑みれば、伝統的な預貸業務中心の発想にとらわれず、


    それぞれの得意分野への特化を図ることなどにより、経営効率や商品開発力の向上と


    いった質の向上により力点が置かれるべきである。こうした特色ある経営を可能にす


    るためにも、選択肢の自由度を拡げる制度整備が必要である。                  


                                                                              


  (3) 改革を進めるにあたって考慮すべき点                                      


                                                                              


      標記について、主として以下の議論があった。                              


      今後、残された不良債権問題の処理を進めつつ、思い切った競争促進、早期是正措


    置の導入が行われていくことにより、非効率な金融機関については市場原理にもとづ


    く淘汰・再編が不可避となることから、金融市場改革の実施にあたっては、金融シス


    テムの安定性確保に細心の注意を払うことが必要である。あわせて、各金融機関が今


    回の改革に伴う変化に適切に対応していけるよう、できるだけ早急に自由化の全体像


    を提供し、目標期限内に実現する段取りを明示する必要がある。なお、安定性確保の


    ための措置を講じるにしても、透明性の高い、市場原理に則ったやり方で進められる


    べきである。                                                              


      また、改革は段階的に進めるのではなく、一気に進めることが重要ではないかとの


    指摘があった。                                                            


                                                                              


      前回の制度改革の時の、利用者の立場、国際性、金融秩序の維持、といった視点は


    今回の改革にあたっての視点としても不可欠である。この点に関連し、今回の改革は


    利用者のためのもの、という位置づけを明確にし、規制や業態の問題についてもこの


    視点からの議論を行うという発想が強調されるべきとの指摘があった。また、金融秩


    序の維持の観点から、改革のスピードや手順を考えるに当たって不良債権問題への波


    及や競争条件の公平性への配慮が必要ではないかとの意見もあった。            


                                                                              


      今回の改革が、銀行・証券・保険にわたって一定期間内に総合的かつ並行的に検討


    する必要がある以上、従来どおりそれぞれの審議会で議論するのでは十分に対応でき


    ない事項については、例えば、合同審議会を開催することについても検討してはどう


    かとの意見があった。                                                      


                                                                              


      また、業態間の参入を議論する前に、それぞれの市場の範囲を拡げ、競争を活発化


    すべきとの観点から、まず、銀行業の中で競争促進のために何をすべきかを議論する


    のが先決であるとの意見があった。                                          


                                                                              


      郵貯等公的金融については、経済社会情勢の変化等に応じ不断に見直していく必要


    がある。しかしながら、この問題は単に金融制度の問題にとどまらないものであるた


    め、そのあり方等について金融制度調査会のみで検討を行うことは難しく、むしろ、


    本調査会の場では、民間金融の分野で差し迫って解決を迫られている問題について検


    討を急ぎ、金融市場の活性化を図っていく必要があると考えられる。なお、この点に


    ついては、本改革を実効あるものとするためには、この問題の抜本的な見直しをあわ


    せて検討することが必要ではないか、また、本調査会で検討するのが難しいというの


    であれば、別の検討の場を設けるよう提言をするべきではないか、との意見も出され


    た。                                                                      


                                                                              





II . 今後、検討が必要と考えられる事項



                                                                              


  上記の議論を踏まえ、金融市場改革のプランに盛り込むことについて、今後検討するこ


とが必要ではないかと考えられるものを例示的に列挙すれば、以下のとおりである。  


  これらの事項のうち、早急に具体化すべきと認められたものについては、全体のプラン


作りの作業と並行して、制度の具体的内容についての検討を進めることとする。なお、列


挙した事項の中には、関連の他の研究会等で検討されている事項や、既に本調査会で方向


が示されており事務的に検討する予定であるものも含まれている。また、今後、必要に応


じ更に事項を追加していくものである。                                          


                                                                              


  ○金融持株会社制度の導入                                                    


      金融持株会社については、その解禁にかかる金融の観点からの問題については改正


    独占禁止法の施行前に所要の措置を講ずることとされており、今後、持株会社解禁全


    般にかかる独占禁止法改正についての動向を見極めつつ検討を行う必要がある。  


      更に、銀行・保険間の相互参入については子会社方式を含め検討する。        


                                                                              


  ○専門金融機関制度にかかわる規制の撤廃                                      


      我が国の専門金融機関制度のあり方等については、前回の金融制度改革の際に種々


    検討がなされており、金融制度調査会答申等において示された方向性を踏まえつつ、


    関連する規制の撤廃を図る必要がある。                                      


                                                                              


  ○銀行本体で取り扱える業務の範囲(有価証券関連デリバティブの取扱い、投信・保険


    の窓販、ABS等新しい有価証券の取扱い)                                  


      利用者利便の向上の観点に立ち、経営の健全性にも十分留意した上で、経済・金融


    環境の変化に対応して、銀行本体で取り扱える業務の範囲について検討する。    


                                                                              


  ○業態別子会社の業務範囲、弊害防止措置の見直し等                            


      業態別子会社の業務範囲について、金融制度改革実施後の状況、市場の状況、証券


    会社及び金融機関の経営に与える影響等を勘案しつつ、本年度中に見直しを行う必要


    がある。また、弊害防止措置及び地域金融機関が本体で行っている信託業務の範囲に


    ついても見直しを行う必要がある。(事務的に検討を行った上で、本調査会へ報告す


    る予定)                                                                  


                                                                              


  ○債権流動化                                                                


      新たな資金調達手段・リスク管理手段として債権流動化に対するニーズが増大して


    おり、ABS(資産担保証券)発行にかかる環境整備や金融機関に期待される役割に


    ついての検討をはじめ、幅広く流動化・証券化手法の多様化を検討すべきではない  


    か。                                                                      


                                                                              


  ○電子マネー・電子決済等                                                    


      電子マネー・電子決済の適切な発展のため、安全対策、実施主体の適格性の確保、


    消費者の保護、法的安定性の確保、金融政策への影響、国際取引に伴う問題点、等に


    ついて検討を進め、環境整備を進めるとともに、決済システムの安全性確保や今後の


    あり方についても検討する必要がある。(電子マネー及び電子決済に関する懇談会に


    おいて現在検討中)                                                        


                                                                              


  ○金融先物取引のあり方                                                      


      我が国の金融先物取引を一層使い勝手の良いものとし、活性化していくため、例え


    ば、インフラ整備、グローバル・マーケット化などの課題について検討する必要があ


    る。                                                                      


                                                                              


  ○短期金融市場の整備                                                        


      我が国の短期金融市場を一層効率的で透明性の高いものとしていくため、短期金融


    商品の商品性、取引慣行の見直し、担い手のあり方など、市場の整備の方策について


    検討すべきではないか。                                                    


                                                                              


  ○地域金融機関の役割                                                        


      平成2年の金融制度調査会金融制度第一委員会中間報告において、地域金融機関が


    地域活性化のために果たすべき役割やそのための機能向上について議論されており、


    今般の改革にあたっても、利用者のニーズにきめ細かく対応する観点から、地域金融


    機関の情報機能の充実等について検討する必要がある。                        


                                                                              


  ○ノンバンク問題                                                            


      ノンバンクの我が国金融システムにおける影響力が増大する中にあって、ノンバン


    クの資金調達、規制・監督のあり方等について、金融機関との整合性も考慮しつつ総


    合的に検討を行う必要がある。(ノンバンクに関する懇談会において現在検討中)  


                                                                              


  〇顧客・消費者保護                                                          


      金融商品・サービスの高度化・多様化に対応して金融機関がとるべき行動規範な  


    ど、顧客・消費者保護のための適切な仕組み・制度を検討する必要がある。      


                                                                              


  ○早期是正措置の導入                                                        


      金融機関経営の健全性確保を促すための新しい監督手法である早期是正措置につい


    て、平成10年4月の導入に向け、具体的な発動基準や措置内容等について早急に詳細


    を固める必要がある。(早期是正措置に関する検討会において現在検討中)      


                                                                              


  〇金融市場改革に関連する所要の体制整備                                      


      今回の金融市場改革に伴うリスク管理体制や監督体制のあり方、及び会計制度の改


    善などについて検討する必要がある。                                        


                                                                                






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