保険審議会第3回基本問題部会議事概要
1.日 時 平成9年3月10日(月)14時00分~16時05分
2.場 所 本庁舎第1特別会議室
3.議 題 (1) 算定会の改革等、自由化措置について
(2) 持株会社制度の導入について
4.議事概要
・ 3月10日(月)に保険審議会第3回基本問題部会が開かれた。
・ まず、算定会の改革等、自由化措置について、参考人の損害保険料率算定会の
桂田専務理事と自動車保険料率算定会の布江専務理事より意見陳述があった後、
質疑応答及び自由討議が行われた。
・ 次に、持株会社制度の導入ついて、公正取引委員会事務総局より独占禁止法改
正案の概要についての説明が行われた後、質疑が行われた。次いで、山下委員か
ら持株相互会社についての意見陳述があった後、質疑応答及び自由討議が行われ
た。
意見陳述及び自由討議で出された意見は、おおむね以下のとおり。
(1) 算定会の改革等、自由化措置について
1 損害保険料率算定会桂田専務理事(参考人)の意見陳述
○ 規制緩和、自由化には基本的には反対しないが、それが急激なものとなり
消費者の不利益、市場の混乱を招くものであってはならず、保険会社による
引受拒否の防止等自由化の弊害防止措置をあらかじめ講じることが必要との
意見があった。
○ 算定会が算出してきたリスク区分を無秩序に変更することは、妥当な水準
で安定的な保険商品の供給を阻害することになり、問題があるのではないか
との意見があった。
○ 算定会職員は全員が生え抜きの職員であり、中立性の維持は図られている。
また中立性と反するような株式会社形態への変更は、我が国にはなじまない
ものであるとの意見があった。
○ 現行の取扱種目以外の保険のデータ、約款、料率等を収集・提供するデー
タバンク機能の拡充に務め、要請があればデータ提供等の行政事務支援も行
いたいとの意見があった。
○ 算定会の業務に変更があろうとも、統計データの収集等の共同行為につい
ては独占禁止法適用除外制度の手当てが必要であるとの意見があった。
2 自動車保険料率算定会布江専務理事(参考人)の意見陳述
○ 算定会は使用義務のない純保険料率、付加保険料率の両方を算出し、純保
険料率は各保険会社の純保険料率算出の基準とし、付加保険料率は各保険会
社が経営効率等の判断に基づき自由に付加保険料率算出を行うための参考値
とすべきであるとの意見があった。
○ 算定会が料率算出を行うためには、各保険会社から統計基盤を同じくする
保険実績データを収集し、共同統計を作成するとともに、標準的な保険約款
を作成するという制度的基盤が必要との意見があった。
○ 実績データ収集、共同統計作成、保険料率算出、標準約款作成等の業務を
疑義なく行うためにも独占禁止法に関する手当てが必要との意見があった。
○ また、前回のFNLIAキャロル会長の「算定会を株式会社化すべき」と
の意見に対して、算定会の民営化は中立性の観点から問題であり、現行組織
形態を維持すべきであるとの意見があった。
3 自由討議における意見
○ 算定会改革の視点として、算定会が現在料率を算出している保険には、自
動車保険や火災保険等一般大衆の日常生活に深い関わりを有するものが多い
ため、算定会改革の結果、消費者に混乱が生じないように十分注意する必要
がある、との意見があった。
○ 米国においては、ハリケーン多発地帯において、多くの保険会社が住宅総
合保険の引受けを制限したため、保険に加入できないとか、あるいはカリフ
ォルニア州で自動車保険料率が高過ぎ、保険に加入できずに無保険のまま自
動車を運転している人が600万人、2割強にものぼるという状況が生じて
いる、との意見があった。
○ 算定会の改革に当たっては、消費者保護・被害者救済という観点が何より
も重要であり、これらの点に欠けることのないよう配慮しつつ、漸進的に改
革を進めるべき、との意見があった。
○ 料率自由化時代においては、算定会が豊富な統計データを収集し、正確な
基礎数値を算出することは、消費者保護の観点、公正競争の観点及び損害保
険会社の経営の合理化の観点から今後ますます重要になる、との意見があっ
た。
○ 保険料率の原価は、科学的・数理的手法に基づいてより客観的に算出する
必要があり、過去の事故、損害の実績データをより多く収集し、将来の事故、
損害を正確に予測する必要がある。この予測値は母集団が大きければ大きい
ほど安定的になり、個々の会社が料率を算出するよりは、算定会がより多く
のデータに基づき料率を算出する方が、料率の公平性・妥当性を維持してい
く観点から望ましい、との意見があった。
○ 料率算出の基礎となるリスク区分については、監督官庁が一定の審査基準
を定め、この区分に基づいて算定会が算出することが望ましい、との意見が
あった。
○ 保険料率の基礎数値は、個々の会社が算出するよりは算定会が保険会社の
要望に応じて様々なデータを収集・加工し、商品開発の基礎数値として提供
することが、既存の会社にとっては料率算出に要する経済的コストの削減に
つながる。また、新規参入者にとっては、料率水準の把握と採算性の見通し
が確保しやすくなり、市場への参入が容易となるという経済的合理性の観点
から望ましい。更に、現在算定会が算出している保険種類以外の保険種類に
ついても幅広く算出することが望ましい、との意見があった。
○ 料率の算出形態については、個々の会社や消費者が参考値として利用する
観点や激変緩和等の観点から、一定期間等の限定を付した上で、純保険料及
び付加保険料の双方を含めた営業保険料の算出をすることが望ましい、との
意見があった。
○ 今後、算定会の役割・機能が高まるなかで、算定会の活動が法的に不安定
な状況におかれることは極めて不都合であり、一定範囲内の行為については、
引き続き独禁法の適用除外が法的に担保されることが望ましい、との意見が
あった。
○ 制度の自由化という枠組みのなかで、消費者が自己のリスク補償を適正な
価格で確実に入手することができるための制度は何か、どのように構築する
か、という問題を審議会で考えなければならない、との意見があった。
○ 保険には「価値循環の転倒」という特殊性がある。すなわち、利益の先取
りという形で保険料を収受し、後から保険金の支払いという形でコストが生
じるわけで、契約の際の保険の原価は後から決定され、それはあくまで確率
という形でしか捕まえることができない。この問題を考えると、保険料率の
形成を100%市場に任せるというのは問題であると考えられる、との意見
があった。
○ 保険原価の事後確定性を考えた場合、保険料率の下限には理論的限界があ
るが、それを遵守するというモラル・スタンダードが我が国においては十分
に確立していないと考えられる現状がある。料率が自由化されれば、自己の
市場地位の拡大を狙って、過大な料率引下げを行う者が現れる可能性を否定
できない、との意見があった。
○ 市場の混乱を避けるべく、早期警戒制度などの議論がある。これを活用す
るには行政当局の非常な人手を要するが、我が国の行政は、外国と比較して
人員的に非常に手薄であり、今後益々新規参入者が増えると考えた場合、果
してそれが現実的な解決策になり得るか。また、現在検討中の支払保証制度
についても、保険の場合、銀行預金のペイオフと異なり、ただ支払えば良い
というものではないのではないか、との意見があった。
○ 算定会は、中立・公平かつ標準的なアドバイザリー・レートを公表し、料
率の差別化を求める保険会社の申請については、個々の危険因子を勘案し、
認可段階でチェックすることが望ましいのでないか、との意見があった。
○ 契約者側に自己責任原則が求められているが、日本社会の保険知識一般を
みると、消費者保護の必要性は一段と大きく、自由化の下で算定会の役割は
一層大きい、との意見があった。
4 参考人の補足意見
(純率アドバイザリーであっても独禁法適用除外制度は必要であると考えて
いるのか、という質問に対して)
○ 合理的なアドバイザリー料率を算出するためには、算定会が定める統一フ
ォーマットに基づいて、精度の高い統計報告を求める必要がある。仮に統計
報告を義務づけるということになれば、公取委のガイドライン上、独禁法に
抵触するおそれがあると考える。また、純率アドバイザリーであっても、会
員各社の多くが当該料率を使用する頻度は高く、ガイドライン上問題となる
可能性があるのではないか。そのように考えれば、純率アドバイザリーであ
っても、適用除外が必要になってくると考える。
○ 良質かつ正確な保険実績データを安定的に収集するためには、会員にデー
タ報告を義務づけることが必要になり、独禁法上の手当てが必要である。料
率算出行為自体も、基本的に事業者団体ガイドラインが言うところの価格算
定行為という性格を有しているのではないかと考えられる。いずれにせよ、
疑義が生じないような明確な手当てが必要である。その手当てを適用除外法
の中で行うかどうかの問題はあるが、少なくとも明確にする必要がある。
(算定会は「規制緩和の中身には基本的には反対しない。」とのことであった
が、ここまでなら規制緩和・自由化してもよいという点が必ずしも明確でな
かったように思う。どこまでなら自由化してもよいと考えているのか。
また、消費者にとっては一時的に混乱を招くことがあっても、選択の幅が
広がるということが大事ではないか。その点からすると、算定会が損害保険
・自動車保険で一つずつというのではなくて、複数であったらどうなのか。
前回の参考人(キャロル氏)の意見では、株式会社が複数存在することが前
提であったように思う。複数存在することによって競争が生じ、違った算定
というのが出てくるのではないか。株式会社だから全て危険であるというこ
とでもないと思うが、その点についてはどうか、という質問に対して)
○ どこまで規制緩和を許容できるかについては、日米保険協議で料率使用義
務を撤廃することが決まったのであるから、料率の三原則(合理的、妥当か
つ不当に差別的でない)を充足するものであれば許容できる。ただ、最低で
も純率アドバイザリーを算定会が出していく、できれば付加保険料について
もヒストリカルデータを提供し、一般消費者が保険を購入・選択するに際し
ての参考数値に役立てる方が、市場を混乱させず、消費者の選択の幅を広げ
るという趣旨に沿うこととなる。本来は営業保険料率アドバイザリーがいち
ばん望ましいと考えるが、そうなると独禁政策上問題となる可能性があるの
で、この場で十分議論願いたい。ただ、一定の間(何年間か)は、激変緩和
の観点から、営保アドバイザリーとの考え方もあり得るのではないか。
○ 株式会社化については、株式会社が株主の意見を代表し、またその利益を
代表するという観点から、保険会社が株主となれば、中立性がなくなり、特
定会社寄りの団体となってしまう。複数存在すればどうか、という点につい
ては、現在でも複数存立することが可能であるが、当該複数の算定会が大量
のデータを収集し得るか、という効率性の観点の問題があり、結果論として、
現在損害保険で一つ、自動車保険で一つという存立状態になっていると理解
している。
○ 米国では、料率の使用義務を廃止してから、付加率アドバイザリーの状態
が実に20年間続いていた。付加率の算出を廃止すると宣言してからも4年
の期間を要している。日本の場合は、国際的合意の観点から、一挙にアドバ
イザリーへ移行するものであり、どこまで自由化を進めることができるかは
非常に困難な問題を内包していることは否めない。
○ 選択肢が広がる、ということであるが、保険原価の事後確定性という性質
から、選択が広がったことで商品内容が不明確になる可能性がある。
算定会が複数存立することを何ら否定するものでないが、コストに合わな
い。集中処理するメリットが損なわれてしまう。
(2) 持株会社制度の導入について
1 公正取引委員会事務総局の説明に対する意見
○ 川下持株会社については、現行独占禁止法第11条の認可がかかるとのこ
とだが、第11条の運用に当たっては、簡便な手続きが適当であるとの意見
があった。
・ 山下委員の意見陳述
○ 持株相互会社の概念、諸外国における持株相互会社制度について説明の後、
法制面からみた持株相互会社の問題点について、次のような指摘があった。
i)持株相互会社自体の問題点として、
・ 保険契約者を構成員とする法人が持株会社事業を営む社会的必要がある
のか。
・ 持株相互会社の目的である持株会社事業と相互主義の非営利性は両立し
ないのでないか。
・ 持株相互会社の資産は、相互保険事業のために形成されたものであるの
に、これを持株会社事業のために使用することは会社の本質を変容させる
ものではないか。
ii)外国では、持株相互会社と子保険会社を一体として相互主義が維持され
ていると考えているようであるが、親子関係にあるとはいえ独立の2法人
を一体とするという説明は困難ではないか。
iii)子保険会社の保険契約者と持株相互会社の社員という関係について、あ
る法人の顧客を当然に別法人の社員とするような法律関係は異例ではない
か。
iv) 持株相互会社の財産は、特別の手当てがなければ、子保険会社の保険契
約者のための責任財産とはならないので、持株相互会社化は保険契約者に
不利であるといえる。
v)子保険会社の解散・破産等又は持株相互会社が所有する子保険会社の株
式の保有比率の低下により、持株相互会社が解散するといった関係は、法
人の独立性を排除するものであり、異例ではないか。
vi)解散を免れるため、子保険会社の株式保有比率を維持しようとすれば、
子保険会社の成長に合わせて持株相互会社は新株を引受けなければならず、
保険契約者に対する利益還元が制約されるのではないか。
vii)持株相互会社は、相互主義を標榜しているため、保険契約者と株主との
利益相反の問題を解決することが不可欠ではないか。
○ 上記のような問題点を勘案すると、持株相互会社制度の採用は困難である
との結論であった。
○ また、持株相互会社制度を採用しない場合の課題として、相互会社が規制
緩和による市場競争の激化に対処するために、
・株式会社化の利用可能性を高めるべきではないか。
・資本性資金調達手段の創設の可能性について検討すべきではないか。
・川下金融持株会社とそれによる外部株式資本調達を認めるべきではないか。
との指摘があった。
3 自由討議における意見
○ 持株相互会社については、山下委員の意見陳述における指摘のように、法
制上困難なことは理解しているが、今後、時間を要しても、引き続き、当局
において検討を進めていただきたいとの意見があった。
また、簡易な手続による相互会社の株式会社化についても、併せて、検討
していただきたいとの意見があった。
○ 川下持株会社については、川上持株会社とのイコール・フッティングが重
要であり、特に、外部資金調達、子会社の業務範囲、株式の保有制限におい
て、差異が生じないようにすべきとの意見があった。
○ 事業持株会社については、純粋持株会社が解禁されたことにより、これま
での法制度上の自由度が損なわれないようにすべきとの意見があった。
○ 客観的にみて資金供給などを通じて影響力の強い銀行に関しては、持株会
社を通じた参入について、注意深く対処するという公正取引委員会の考え方
で、当面、進めることが妥当であるとの意見があった。
○ 持株相互会社は、法制的に大変難しい問題をはらんでいるということは承
知しているが、実質的な株式会社化の一方策でもあることから、今後、検討
の視野に残しておくべきとの意見があった。
○ 我が国の産業社会において銀行による支配に対する危機感がある以上、そ
れが反映されてシステムに影響を与える傾向があるため、厳重にテェックし
た上で議論を進めるべきとの意見があった。
○ 株式保有や融資関係を通じて市場に大きな影響力のある銀行、保険会社が、
持株会社を通じて証券業に参入する場合には、十分なファイアー・ウォール
が必要であるとの意見があった。
○ 持株会社方式を含め、相互参入については、弊害があるなら、弊害防止措
置を講ずれば良く、弊害があるかもしれないといって、止めるのは問題があ
るとの意見があった。
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│担 当: 大蔵省銀行局保険部保険第一課調査室 │
│連絡先: 電話(代表) (3581)4111 内線 2812 │
│ │
│ 本議事概要は暫定版であるため今後修正があり得ます。 │
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