連結キャッシュ・フロー計算書等の
作成基準の設定に関する意見書

 

 

- 公 開 草 案 -

 

 

平成9年12月22日

企業会計審議会

 



                                                      平成9年12月22日    

                                                                          

連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準の設定に関する意見書(公開草案)

 

    連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準の設定について

 

  一  経緯                                                                

                                                                          

      証券取引法に基づくディスクロージャー制度における資金情報は、昭和61年

    10月に当審議会が公表した「証券取引法に基づくディスクロージャー制度にお

    ける財務情報の充実について(中間報告)」において資金繰り情報の改善が提言

    されたことに基づき、昭和62年4月以降、有価証券報告書及び有価証券届出書

    の「経理の状況」において財務諸表外の情報として個別ベースの資金収支表が開

    示されてきている。当審議会は本年6月に公表した「連結財務諸表制度の見直し

    に関する意見書」において、連結情報重視の観点から、連結ベースのキャッシュ

    ・フロー計算書を導入するとともに個別ベースの資金収支表を廃止することを提

    言した。この提言に基づき連結ベースのキャッシュ・フロー計算書を導入する場

    合、連結財務諸表を作成しない会社については、従来の資金収支表に代えて個別

    ベースのキャッシュ・フロー計算書を導入することが適当と考えられる。    

      当審議会は、このような経緯及び考え方に基づき、本年8月以降、連結キャッ

    シュ・フロー計算書及び個別ベースのキャッシュ・フロー計算書の作成基準につ

    いて審議を重ねてきた。                                                

      当審議会は、また、同意見書で導入を提言した中間連結財務諸表の作成基準に

    ついても併せて審議し、「中間連結財務諸表等の作成基準の設定に関する意見  

    書」の草案を別途公表する運びとなったが、その審議の過程で、半期報告書にお

    いて中間連結キャッシュ・フロー計算書を作成することが適当であり、連結財務

    諸表を作成しない会社においては個別ベースの中間キャッシュ・フロー計算書を

    作成することが適当であるとされたため、これらの作成基準についても審議の対

    象とした。                                                              

      以上のような経過を経て、この度、一応の成案を得たため、連結キャッシュ・

    フロー計算書及び個別ベースのキャッシュ・フロー計算書並びに中間連結キャッ

    シュ・フロー計算書及び個別ベースの中間キャッシュ・フロー計算書(以下『キ

    ャッシュ・フロー計算書』という。)の全てを対象とした作成基準を「連結キャ

    ッシュ・フロー計算書等の作成基準(案)」として公表することとした。    

                                                                          

  二  キャッシュ・フロー計算書の位置付け                                  

                                                                          

      『キャッシュ・フロー計算書』は、一会計期間におけるキャッシュ・フローの

    状況を一定の活動区分別に表示するものである。                          

      我が国では、資金情報を開示する資金収支表は、従来、財務諸表外の情報とし  

    て位置付けられてきたが、この度、これに代えて『キャッシュ・フロー計算書』

    を導入するに当たり、それが貸借対照表、損益計算書と同様に企業活動全体を対  

    象とする重要な情報を提供するものであることに鑑み、これを財務諸表の一つと  

    して位置付けることが適当であると考える。                              

      なお、国際的にもキャッシュ・フロー計算書は財務諸表の一つとして位置付け

    られているところである。                                              

                                                                          

  三  「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準(案)」の概要            

                                                                          

    1.「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準(案)」の構成          

                                                                          

        「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準(案)」は、「連結キャッシ

      ュ・フロー計算書作成基準」、個別ベースの「キャッシュ・フロー計算書作成

      基準」、「中間連結キャッシュ・フロー計算書作成基準」及び個別ベースの  

      「中間キャッシュ・フロー計算書作成基準」を含むものであるが、これらの作

      成基準は原則的には同一であるので、年度の「連結キャッシュ・フロー計算書  

      作成基準」を示し、他はそれを準用する形としている。                    

                                                                          

    2  資金の範囲                                                        

                                                                          

     (1)  現行の資金収支表においては、現預金及び市場性のある一時所有の有価証

        券が資金とされているが、資金の範囲が広く、企業における資金管理活動の

        実態が的確に反映されていないとの問題点が指摘されている。          

          このため、『キャッシュ・フロー計算書』が対象とする資金の範囲を現金

        (手許現金及び要求払預金)並びに現金同等物に限定するとともに、「容易

        に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わない短

        期投資」を現金同等物とすることとし、価格変動リスクの高い株式等は資金

        の範囲から除くこととする。                                        

          なお、現金同等物として具体的に何を含めるかについては経営者の判断に

        委ねることが適当と考えられるが、『キャッシュ・フロー計算書』の比較可

        能性を考慮して、取得日から3カ月以内に満期日又は償還日が到来する短期

        的な投資を、一般的な例として示すこととする。                      

                                                                          

     (2)  資金の範囲に含めた現金及び現金同等物の内容については、『キャッシュ

        ・フロー計算書』に注記することとする。また、現金及び現金同等物の期末

        残高と貸借対照表上の科目との関連性について併せて注記することとする。

          なお、資金の範囲を変更した場合には、その旨、その理由及び影響額を注

        記することとする。                                                

                                                                          

    3.表示区分                                                          

                                                                          

     (1)  『キャッシュ・フロー計算書』においては、一会計期間におけるキャッシ

        ュ・フローを「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動によるキ  

        ャッシュ・フロー」及び「財務活動によるキャッシュ・フロー」の三つの区

        分に分けて表示することとする。                                    

                                                                          

     (2)  「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分には、商品及び役務の販売

        による収入、商品及び役務の購入による支出等、営業損益計算の対象となっ

        た取引のほか、投資活動及び財務活動以外の取引によるキャッシュ・フロー

        を記載することとする。                                            

          なお、商品及び役務の販売により取得した手形の割引による収入等、営業

        活動に係る債権・債務から生ずるキャッシュ・フローについては、「営業活

        動によるキャッシュ・フロー」の区分に表示することとする。          

                                                                          

     (3)  「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分には、固定資産の取得及び

        売却並びに現金同等物に含まれない短期投資の取得及び売却によるキャッシ

        ュ・フロー等を記載することとする。                                

                                                                          

     (4)  「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分には、株式の発行による収

        入、自己株式の取得による支出、社債の発行・償還及び借入れ・返済による

        収入・支出等、資金の調達及び返済によるキャッシュ・フローを記載するこ

        ととする。                                                        

                                                                          

    4.表示方法                                                          

                                                                          

     (1)  「営業活動によるキャッシュ・フロー」の表示方法としては、主要な取引

        ごとに収入総額と支出総額を表示する方法(直接法)と、純利益に必要な調

        整項目を加減して表示する方法(間接法)とがあるが、本意見書(公開草案)

        では、次のような理由からこれらの方法の選択適用を認めることとした。  

        ○  直接法による表示方法は、「営業活動によるキャッシュ・フロー」が総

          額で表示される点に長所が認められること。                        

        ○  直接法により表示するためには親会社及び子会社において主要な取引ご

          とにキャッシュ・フローに関する基礎データを用意することが必要であり、

          実務上手数を要すると考えられること。                            

        ○  間接法による表示方法も、純利益とキャッシュ・フローとの関係が明示

          される点に長所が認められること。                                

          なお、「営業活動によるキャッシュ・フロー」を間接法により表示する場

        合には、法人税等の支払額が『キャッシュ・フロー計算書』において明示さ

        れるよう、税引前当期純利益から開始する形式によることとする。        

                                                                          

     (2)  法人税等に係るキャッシュ・フローについては、上記の三区分を前提とし

        た場合、○「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に一括して記載す

        る方法と○「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動によるキャ

        ッシュ・フロー」及び「財務活動によるキャッシュ・フロー」に区分して記

        載する方法が考えられるが、それぞれの活動ごとに課税所得を分割すること

        は一般的には困難であると考えられる。                              

          このため、「営業活動によるキャッシュ・フロー」に一括表示することを

        原則とし、「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動によるキャ

        ッシュ・フロー」及び「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に分け

        て計算することができる場合には、それぞれの区分に記載することができる

        こととする。                                                      

                                                                          

     (3)  利息及び配当金の表示方法としては、次の二つの方法が考えられるが、継

        続適用を条件として、これらの方法の選択適用を認めることとする。    

        ○  損益の算定に含まれる受取利息、受取配当金及び支払利息は「営業活動

          によるキャッシュ・フロー」の区分に、損益の算定に含まれない支払配当

          金は「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する方法    

        ○  投資活動の成果である受取利息及び受取配当金は「投資活動によるキャ

          ッシュ・フロー」の区分に、財務活動上のコストである支払利息及び支払

          配当金は「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する方法  

                                                                          

    四  実施時期等                                                        

                                                                          

      連結キャッシュ・フロー計算書(連結財務諸表を作成しない会社については個

    別ベースでのキャッシュ・フロー計算書)の作成は、平成11年4月1日以後開

    始する事業年度から実施されるよう措置することが適当である。            

      また、中間連結キャッシュ・フロー計算書(連結財務諸表を作成しない会社に

    ついては個別ベースでの中間キャッシュ・フロー計算書)の作成は、平成12年

    4月1日以後開始する中間会計期間から実施されるよう措置することが適当であ

    る。                                                                    

      連結キャッシュ・フロー計算書等の作成に関する実務指針については、今後、

    日本公認会計士協会が関係者と協議のうえ適切に措置することが必要と考える。

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