平成10年4月17日



                                                              大蔵省企業会計審議会



                                                                                  



                                                                                  



      企業会計審議会「公開草案」の公表について



                                                                                  

                                                                                  

                                                                                  

  企業会計審議会(会長  森田哲彌  日本大学教授)は、本日、「退職給付に係る会計基準

の設定に関する意見書」の草案を公開し、広く意見を求めることとしましたので、本意見書

案についてご意見がありましたら、5月18日までに、下記に、郵便、FAX、電子メール

により文書でお寄せください。                                              



                                                                                

                                                                                

          ┌・〒100-8940  東京都千代田区霞が関3-1-1        ┐        

          │              大蔵省証券局内  企業会計審議会事務局          │        

          │・FAX  03-5251-2172                          │        

          │・電子メール  cof04scu@mof.go.jp                           │        

          └  (インターネット大蔵省ホームページ  http://www.mof.go.jp)┘


     退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書
-  公  開  草  案  -

 

 

平成10年4月17日
企業会計審議会


                                                              平成10年4月17日

                                                                                  

                                                                                  

     退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書(公開草案)

                                                                                  

                                                                                  

  経緯                                                                       

                                                                                  

    当審議会は、企業年金に係る会計基準について検討することとし、平成9年2月以降審

  議を行ってきた。当審議会では、昭和43年に個別意見書「退職給与引当金の設定について

  」(以下「個別意見書」という。)を公表しているが、今回の審議にあたっては、企業年

  金を含む従業員の退職給付全般について検討を行い、この度、退職給付全般に係る新たな

  基準として一応の成案を得たため、これを「退職給付に係る会計基準(案)」として公表

  することとした。                                                                

                                                                                  

  会計基準整備の必要性                                                  

                                                                                  

    我が国においては、多くの企業が厚生年金基金制度や適格退職年金制度に代表される外

  部に積み立てた資産を原資として退職給付を行う形態の制度(以下「企業年金制度」とい

  う。)を採用している状況にある。このうち確定給付型の企業年金制度では、近年、積み

  立てた資産の運用利回りの低下、資産の含み損等により、将来の年金給付に必要な資産の

  確保に懸念が生じているといわれている。この将来の年金給付に必要な資産の不足は、企

  業の年金給付コストの増加により、財政状況を悪化させるおそれがあることから、企業年

  金に係る情報は、投資情報としても企業経営の観点からも極めて重要性が高まっていると

  の指摘が行われている。                                                          

    こうした指摘を踏まえ、企業年金等に係る会計基準を設定することにより、年金資産や

  年金負債の現状を速やかに明らかにするとともに、企業の負担する退職給付費用について

  適正な会計処理を行っていくことが必要である。また、今回設定する会計基準に基づく会

  計処理およびディスクロージャーについては、国際的にも通用する内容となるよう、これ

  を整備していくことが必要である。                                                

                                                                                  

  基本的考え方                                                          

                                                                                  

  1  退職給付とは退職を事由として退職以後に従業員に支給される給付をいい、退職一時

    金及び退職年金等がその典型である。個別意見書においては、退職給付のうち企業が直

    接給付を行う形態に関する会計基準は明らかにされているが、企業年金制度が我が国に

    導入されて間もなかったことから、企業年金制度に基づく退職給付の会計処理について

    は明確な基準が示されなかった。その後、我が国企業においては、企業が直接給付を行

    う退職給付の一部を企業年金制度による給付に移行し両者を併用する場合が多くなった

    が、直接給付する部分については退職給与引当金による処理が行われる一方、企業年金

    制度については拠出金を支払時の費用として処理する実務が行われており、退職給付に

    関しての会計処理が区々となっている。しかし、退職給付の支給方法(一時金支給、年

    金支給)や退職給付の積立方法(内部引当、外部積立)が異なっているとしても、いず

    れも退職を事由として支給される退職給付であることに違いはない。このような観点か

    ら、当審議会では企業年金制度を含め退職給付について包括的に検討を行った。      

                                                                                  

  2  個別意見書は、退職給付の性格に関して、賃金後払説、功績報償説、生活保障説とい

    ったいくつかの考え方を示しつつ、「企業会計においては、退職給付は基本的に労働協

    約等に基づいて従業員が提供した労働の対価として支払われる賃金の後払いである」と

    いう考え方に立っている。退職給付の性格については、社会経済環境の変化等により実

    態上は様々な捉え方があるが、今般の会計基準の検討にあたっては、退職給付は基本的

    に勤務期間を通じた労働の提供に伴って発生するものと捉えることとした。          

      このような捉え方に立てば、退職給付は、その発生が当期以前の事象に起因する将来

    の特定の費用であり、「当期の負担に属すべき退職金の金額は、その支出の事実に基づ

    くことなく、その支出の原因又は効果の期間帰属に基づいて費用として認識する」との

    企業会計における従来の考え方は、企業年金制度による退職給付についても同じく当て

    はまると考えられる。したがって、退職給付はその発生した期間に費用として認識する

    ことが必要である。                                                            

      なお、役員の退職慰労金については、労働の対価との関係が必ずしも明確でないこと

    から、本基準が直接対象とするものではない。                                    

                                                                                  

  3  企業年金制度を採用している場合の取扱いについては以下のとおりとした。        

   (1)  本基準では、確定給付型の企業年金制度を前提とした会計処理を示した。        

        なお、厚生年金基金制度のように、給付水準や財政計算が異なる部分(加算部分及

      び代行部分)から構成されている制度や従業員からの拠出部分がある制度があるが、

      これらについては次のような考え方を採ることとした。                          

      ○  このような制度における資産及び給付負担はそれぞれの部分から構成されること

        から、それぞれを区別して計算するとの考え方もある。しかし、実態としては、一

        つの運営主体によって、資産が一体として運用され一括して給付が行われており、

        区分計算することが難しいこと、母体企業が制度の運営及び維持に実質的に関与し

        ており、過去勤務債務等が発生したときには、通常、全額を母体企業が負担してい

        る場合が多いことなどから、企業会計においては、それぞれの部分を区分せずこれ

        を全体として一つの退職給付制度とみなして、財政計算上の計算方法にかかわらず

        同一の会計処理を適用することとした。                                      

      ○  このような会計上の考え方においては、従業員拠出部分に係る退職給付債務は従

        業員からの拠出額とみなして会計上の計算を行う。したがって、母体企業は従業員

        拠出部分も含め全体として退職給付債務及び退職給付費用の計算を行い、この退職

        給付費用から従業員拠出額を控除した額が母体企業が認識すべき退職給付費用とな

        る。                                                                      

   (2)  一方、中小企業退職金共済制度を採用している企業や確定拠出型の企業年金制度を

      採用している在外子会社もある。本基準では、このような、将来の退職給付について

      拠出以後に追加的な負担が生じない外部拠出型の制度に関する会計処理は示していな

      いが、基本的には、当該制度に基づく要拠出額をもって費用処理することが適当であ

      ると考えられる。                                                            

                                                                                  

  会計基準の要点と考え方                                                

                                                                                  

  1  会計基準の基本的考え方                                                      

      退職給付に係る会計処理については、将来の退職給付のうち当期の負担に属する額を

    当期の費用として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部に計上す

    ることが、企業会計原則に基づく基本的な会計処理の考え方である。このような基本的

    処理に加え、退職給付に係る会計処理に特有の事象について次のような考え方を採用す

    ることとした。                                                                

   (1)  企業年金制度に基づく退職給付においては、負債の計上にあたって外部に積み立て

      られた年金資産を差し引くとともに、年金資産の運用により生じると期待される収益

      を、退職給付費用の計算において差し引くこと                                  

   (2)  退職給付の水準の改訂及び退職給付の見積りの基礎となる計算要素の変更等により

      過去勤務債務及び数理計算上の差異が生じるが、これらは、原則として、負債の計上

      にあたって差し引くとともに、一定の期間にわたり規則的に費用として処理すること

                                                                                  

  2  退職給付費用の処理に関する基本的考え方                                      

      将来の退職給付のうち当期の負担に属する金額の計算方法としては、退職時に見込ま

    れる退職給付の総額について合理的な方法により各期の発生額を見積り、これを一定の

    割引率及び予想される退職時から現在までの期間に基づき現在価値額に割り引く方法を

    採用することとした。この方法においては、割引率等の計算基礎が会計数値の計算上重

    要な要素となることから、計算基礎を合理的に決定することが必要である。          

                                                                                  

   (1)  退職時に見込まれる退職給付の総額                                          

        実際の退職給付の支払いは退職時における退職給付の額に基づいて行われるもので

      あり、現在時点の退職給付の支払額のみに基づいて将来の退職給付の額を見積ること

      は、退職給付の実態が適切に反映していないと考えられる。したがって、退職時に見

      込まれる退職給付の額は、退職時までに合理的に見込まれる退職給付の変動要因を考

      慮して見積ることが適当であると考えられる。                                  

                                                                                  

   (2)  各期の発生額の見積り                                                      

        各期の退職給付の発生額を見積る方法としては、勤続年数を基準とする方法、全勤

      続期間における給与総支給額に対する各期の給与額の割合を基準とする方法、退職給

      付の支給倍率を基準とする方法等が考えられる。このような考え方の中で、労働の対

      価として退職給付の発生額を見積る観点からは、勤続年数を基準とする方法が、国際

      的にも合理的で簡便な方法であると考えられている。したがって、我が国においても、

      この方法を原則とすることが適当である。                                      

        なお、我が国では、一般に全勤続期間の給与額を体系的に定めている場合が多く、

      退職給付の算定基礎となる各期の給与額に各期の労働の対価が合理的に反映されてい

      ると認められる場合が多いと考えられるため、このような企業については、全勤続期

      間における給与総支給額に対する各期の給与額の割合を基準とする方法を用いること

      が認められると考えている。一方、退職給付の支給倍率は一定の勤続年数を経て急増

      することが一般的であり、労働の対価性よりも勤続に対する報償的側面を反映してい

      ると考えられるため、支給倍率の増加が各期の労働の対価を合理的に反映していると

      認められる場合を除き、支給倍率を基準とする方法を用いることは適当でない。    

                                                                                  

   (3)  現価方式の採用                                                            

        退職給付は支出までに相当の期間があることから、退職給付債務及び退職給付費用

      の計算方法としては、一定の割引率及び予想される退職時から現在までの期間に基づ

      き現在価値額に割り引く現価方式がある。この現価方式は、個別意見書においても認

      められており、現在の退職給与引当金の計算においても慣行として広く利用されてい

      る。また、企業年金制度においても一般に割引現在価値の考え方を財政計算に用いて

      いることにかんがみ、退職給付費用の計算は現価方式を原則とすることが適当である。

                                                                                  

   (4)  退職給付費用の構成                                                        

        現価方式に基づく退職給付に係る費用は、基本的に次の要素から構成される。    

      ○勤務費用                                                                  

          当期の労働の対価に係る退職給付発生額の現在価値額                        

      ○利息費用                                                                  

          期首までに発生した退職給付の現在価値額が時間の経過により増加する額      

        これらに加え、退職給付の見積計算に係る特有の費用として次の要素がある。    

      ○期待運用収益の額                                                          

          企業年金制度における年金資産の運用により生じると期待される収益で、退職給

        付費用の計算において控除される額                                          

      ○過去勤務債務のうち費用として処理した額                                    

          退職給付の給付水準の改訂等により従前の給付水準に基づく計算との差異として

        発生する過去勤務債務のうち、費用として処理した額                          

      ○数理計算上の差異のうち費用として処理した額                                

          年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に

        用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異のうち、

        費用として処理した額                                                      

                                                                                  

  3  過去勤務債務及び数理計算上の差異の処理                                      

      過去勤務債務及び数理計算上の差異については、その発生した時点において費用とす

    る考え方があるが、諸外国では一時の費用とはせず一定の期間にわたって一部ずつ費用

    とする、又は、数理計算上の差異については一定の範囲内は認識しないという処理が行

    われている。                                                                  

      こうした会計処理については、過去勤務債務の発生要因である給付水準の改訂等が従

    業員の勤労意欲が将来にわたって向上するとの期待のもとに行われる面があること、ま

    た、数理計算上の差異には予測と実績の乖離のみならず予測数値の修正も反映されるこ

    とから各期に生じる差異を直ちに費用として計上することが退職給付に係る債務の状態

    を忠実に表現するとは言えない面があること等の考え方が示されている。            

      したがって、過去勤務債務等の性格を一時の費用とすべきものとして一義的に決定づ

    けることは難しいと考えられ、これらを平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に

    費用として処理し、費用処理されない未認識過去勤務債務等は貸借対照表に計上しない

    処理を認めた。なお、一定の年数での規則的費用処理には、発生した期に全額を費用と

    して処理する方法を継続して採用することも含まれる。                            

                                                                                  

  4  年金資産                                                                    

      企業年金制度を採用している企業には、退職給付に充てるために積み立てられている

    年金資産が存在する。この年金資産は退職給付の支払いのためのみに使用されることが

    制度的に担保されていることから、これを収益獲得のために保有する一般の資産と同様

    に企業の貸借対照表に計上することには問題があり、かえって、財務諸表の利用者に誤

    解を与えるおそれがあると考えられる。また、諸外国の基準においても年金資産を貸借

    対照表に計上せず、年金給付に係る債務の計算においてこれを控除することが一般的で

    ある。したがって、年金資産の額を公正な評価額により測定し、当該金額は退職給付に

    係る負債の計上額の計算にあたって差し引くことが適当である。                    

                                                                                  

  5  小規模企業等における簡便法の採用                                            

      従業員数が比較的少ない小規模な企業などにあっては、合理的に数理計算上の見積り

    を行うことが困難である場合や退職給付の重要性が乏しい場合が考えられる。このよう

    な場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積り計算を行う等簡便な方法を用い

    て退職給付費用を計算することも認められると考えられる。                        

                                                                                  

  6  注記                                                                        

      本基準では退職給付に係る包括的な会計処理方法を示したことに対応し、財務諸表の

    有用性をさらに高める観点から、次の事項についてわかりやすい注記を行うことが必要

    である。                                                                      

   (1)  企業の採用する退職給付制度に関する説明                                    

   (2)  退職給付債務及び退職給付費用の内訳                                        

   (3)  退職給付債務等の計算基礎                                                  

                                                                                  

  実施時期等                                                            

                                                                                  

  1  本基準は、平成12年4月1日以後開始される事業年度から実施されるよう措置するこ

    とが適当である。                                                              

      なお、企業年金の受託機関等の関係者における数理計算実施上の環境整備の状況から、

    平成12年4月1日以後開始される事業年度から直ちに本基準に基づく会計処理を適用す

    ることが困難であると認められる会社については、平成13年4月1日以後開始される事

    業年度から本基準に基づく会計処理を適用することとし、平成12年4月1日以後開始さ

    れる事業年度においては、本基準に基づく退職給付債務及びその内訳等主要な事項につ

    いて注記を行うこととするよう措置することが適当である。                        

                                                                                  

  2  会計基準の変更により、従来の処理と継続した処理が行ない得ず会計数値の連続性が

    保てない場合がある。特に、新たな基準の採用により、従来合理的とされた処理により

    長期間にわたり累積された影響が一時点に発現することが予想される。したがって、こ

    の影響をすべて一時に処理することは、企業の経営成績に関する期間比較を損ない期間

    損益を歪めるおそれがある。そこで、新たな基準の採用により生じる影響額は、通常の

    会計処理とは区分して、15年以内の一定の年数の按分額を当該年数にわたって費用とし

    て処理することができるよう経過的な措置を置くことが適当である。                

                                                                                  

  3  本基準を実務に適用する場合の具体的指針については、今後、日本公認会計士協会が

    関係者と協議のうえ適切に措置していくことが適当である。

[続きがあります]