4.貸倒引当金の計上方法                                                      

 (1)  基本的考え方                                                            

      受取手形、売掛金、貸付金その他の債権に係る貸倒引当金については、企業会計

    原則注解18に基づき設定することとされており、貸倒見積高の具体的な算定方法

    は会計慣行に委ねられてきた。これまでの会計慣行では個別の元本の回収可能性を

    重視して貸倒見積高が算定されていたが、金融機関の貸付金については、債務者の

    財政状態及び経営成績の悪化に対し適切な貸倒引当金の設定を行う観点から、平成

    9年4月1日以後開始する事業年度以降、会計実務上、債務者の財政状態及び経営

    成績を考慮した分類に基づき、過去の貸倒実績率、担保の処分見込額、保証による

    回収見込額等を基礎として貸倒見積高が算定されているところである。          

      このような状況の下において、債権一般に関して、債務者の財政状態及び経営成

    績が悪化し、当初の契約条件に従って元本の回収又は利息の受取りができない可能

    性が生じている場合に、貸倒見積高を適切に算定するための会計基準を整備する必

    要があると考える。本基準では、債務者の財政状態及び経営成績を考慮して、債権

    を正常債権、危険債権及び破産更生債権等に分類し、その分類ごとに貸倒見積高の

    算定方法を示すこととしている。                                            

                                                                                

 (2)  貸倒見積高の算定方法                                                      

      正常債権については債務者の財政状態及び経営成績に特に問題がないこと、また、

    破産更生債権等については債務者が既に経営破綻に陥っていることから、各々、貸

    倒見積高の算定方法は特定される。                                          

      これに対し、危険債権については債務者の財政状態及び経営成績が正常債権に近

    いものから破産更生債権等に近いものまで区々であり、個々の債権の実態に最も適

    合する算定方法を採用することが必要である。このため、危険債権に係る貸倒見積

    高の算定方法として、担保の処分見込額及び保証による回収見込額を考慮する方法

    の他、元利金の将来のキャッシュ・フロ-を見積もることが可能な場合、元利金の

    キャッシュ・フローの予想額を当初の約定利子率で割り引いた金額と当該債権の帳

    簿価額の差額を貸倒見積高とする方法を示すこととしている。なお、この二つの方

    法の適用に当たっては、債務者の状況や債務返済計画等が変わらない限り、継続し

    て適用することとしている。                                                

                                                                              

5.ヘッジ会計                                                                  

 (1)  基本的な考え方                                                            

      ヘッジ取引とは、本基準においては、ヘッジ対象である資産又は負債の価格変動、

    金利変動及び為替変動といった相場変動等による損失の可能性を減殺することを目

    的として、デリバティブ取引をヘッジ手段として用いる取引をいう。            

      ヘッジ手段であるデリバティブ取引については、原則的な処理方法によれば時価

    評価され損益が認識されることとなるが、ヘッジ対象である資産又は負債が原価評

    価されている場合、両者の損益は期間的に対応しなくなり、ヘッジ対象の相場変動

    等による損失の可能性がヘッジ手段によってカバーされているという経済的実態が

    財務諸表に反映されないこととなる。このため、ヘッジ対象及びヘッジ手段に係る

    損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を財務諸表に反映させるヘッジ会計

    が必要と考えられる。                                                      

      本基準においては、ヘッジ会計を導入することとし、先物取引に係るヘッジ会計

    の考え方を示した当審議会の「先物・オプション取引等の会計基準に関する意見書

    等について」を踏まえ、デリバティブ取引をヘッジ手段として利用しているヘッジ

    取引全般に対応しうるよう、ヘッジ会計の基準を包括的に定めることとしている。  

                                                                              

 (2)  ヘッジ会計が適用されるヘッジ対象とヘッジ手段                            

      ヘッジ会計が適用されるヘッジ対象には、相場変動等による損失の可能性がある

    資産又は負債のうち相場等の変動が評価に反映されていないもの及び反映されてい

    るもので評価差額が損益として処理されないものの他、未履行の確定契約又は予定

    取引(以下、「予定取引等」という。)により発生が見込まれる資産又は負債も含

    まれる。ただし、予定取引については、主要な取引条件が合理的に予測可能であり、

    かつ、その実行される可能性が極めて高い取引に限定することとしている。      

      なお、他に適当なヘッジ手段がなく、ヘッジ対象と異なる類型のデリバティブ取

    引をヘッジ手段として用いるいわゆるクロスヘッジもヘッジ会計の対象となる。  

                                                                              

 (3)  ヘッジ会計を適用するための要件                                          

      ヘッジ取引についてヘッジ会計が適用されるためには、基本的には、ヘッジ対象

    が相場変動等による損失の可能性にさらされており、ヘッジ手段とヘッジ対象との

    それぞれに生じる損益が互いに相殺される関係にあることが前提になる。        

      さらに、ヘッジ会計を適用できるか否かの具体的な判定に当たっては、企業の利

    益操作の防止等の観点から、「先物・オプション取引等の会計基準に関する意見書

    等について」における事前テストと事後テストというヘッジ会計の適用基準の考え

    方を踏まえ、ヘッジ取引時にはヘッジ取引が企業のリスク管理方針に基づくもので

    あり、それ以降はヘッジ手段の損益がヘッジ対象の損益を高い程度で相殺する効果

    があることを定期的に確認しなければならないという具体的な要件を定めている。  

                                                                              

 (4)  ヘッジ会計の方法                                                        

    ○  ヘッジ取引に係る損益認識時点                                

        ヘッジ会計は、時価評価されているヘッジ手段に係る評価差額をヘッジ対象に

      係る損益が認識されるまで資産又は負債として繰り延べる方法(以下、「繰延ヘ

      ッジ」という。)によることを原則とするものとする。ただし、ヘッジ対象であ

      る資産又は負債が時価評価差額を損益として処理すべき資産又は負債以外のもの

      である場合に、それらの資産又は負債を時価評価することができるときは、ヘッ

      ジ手段に係る損益と同一の会計期間にその損益を認識する方法(以下、「時価ヘ

      ッジ」という。)によることも認めるものとする。                          

    ○  為替変動リスクのヘッジについて                                        

        為替予約、通貨先物、通貨スワップ及び権利行使が確実に見込まれる買建て通

      貨オプション(以下、「為替予約等」という。)については、外貨建金銭債権債

      務等のヘッジ手段として利用されている場合において、ヘッジ会計の要件が充た

      されているときは、ヘッジ会計の適用の対象となる。                        

        しかし、「外貨建取引等会計処理基準」によれば、外貨建金銭債権債務につい

      ては、為替予約等が付されていること等により決済時における円貨額が確定して

      いる場合、当該円貨額を付すこととされているところであり、この方法は振当処

      理として実務的にも定着しているところである。このため、本基準では、外貨建

      金銭債権債務について、為替予約等が付されていること等により決済時における

      円貨額が確定しており、ヘッジ会計の要件が充たされている場合、当面振当処理

      も認めることとしている。                                                

    ○  金利スワップについて                                                    

        金利スワップは、デリバティブ取引の一種として時価評価の対象となるが、そ

      の中には、例えば固定利付債務を変動利付債務へ変換するなど、原価評価されて

      いる資産又は負債に係る金利の受払条件を変換することを目的として利用されて

      いるものがある。このような金利スワップのうち、想定元本、利息の受払条件(利

      率、利息の受払日等)、契約期間が金利変換の対象となる資産又は負債とほぼ同

      一であり、かつ、当該資産又は負債と金利スワップがヘッジ会計の要件を充たし

      ているものについては、両者を一体と考え、金利スワップを時価評価しないで、

      それに係る受取、支払利息の純額等を当該資産又は負債から生じる利息に加減し

      て処理することを認めることとする。                                        

    ○  ヘッジ会計の終了等                                                      

        ヘッジ対象が消滅した場合、その時点でヘッジ会計が終了し、繰延ヘッジでは、

      繰り延べられているヘッジ手段に係る評価差額を損益として処理することとす  

      る。                                                                    

      また、ヘッジ対象である予定取引等が行われないことが明らかになった場合にお

      いても同様に処理するものとする。                                        

        これに対し、ヘッジ会計の要件が充たされなくなった場合、繰延ヘッジでは、

      ヘッジ会計の要件が充たされていた間のヘッジ手段に係る評価差額をヘッジ対象

      に係る損益が認識されるまで引き続き繰り延べ、それ以後のヘッジ手段に係る評

      価差額は損益として処理するものとする。ただし、繰り延べられたヘッジ手段に

      係る評価差額に関し、見合いのヘッジ対象に係る含み益の減少によりヘッジ会計

      の終了時点で重要な損失が生じるおそれがあるときは、当該損失部分を見積もり、

      当期の損失として処理することとする。また、時価ヘッジでは、ヘッジ会計の要

      件が充たされなくなった時点のヘッジ対象の時価をもってヘッジ対象の帳簿価額

      とするものとする。                                                      

                                                                              

6.複合金融商品                                                              

    本基準は、複数種類の金融資産又は金融負債及びそれらを発生又は消滅させる契約

  を複合金融商品とし、その会計処理を定めることとしている。                    

 (1)  払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品                  

      契約の一方の当事者の払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商

    品について、払込資本を増加させる可能性のある部分とそれ以外の部分とが、同時

    に各々存在し得る場合には、当該複合金融商品に係る財政状態や経営成績を適正に

    表示するため、払込資本を増加させる可能性のある部分とそれ以外の部分とを区分

    して処理するものとする。                                                  

      こうした考え方に基づき、新株引受権付社債については新株引受権部分と社債部

    分を区分して処理することとする。これに対し、転換社債については、株式転換権

    が行使された場合には社債は株式に転換され、社債の償還権と株式転換権が同時に

    各々存在し得えないと考えられることから、両者を区分せず一体として処理するこ

    ととする。                                                                

      なお、発行者側の新株引受権部分の対価の取扱いについては、新株引受権が行使

    された場合、当該対価は株式発行の対価としての性格が認められることになるから

    資本準備金に振り替えられることとなるが、権利行使の有無が確定するまでの間は、

    その性格が確定しないことから仮勘定として負債の部に計上することとする。    

                                                                                

 (2)  その他の複合金融商品                                                      

      上記(1)以外の複合金融商品には、通貨オプション付円建てローンのように現物の

    資産・負債とデリバティブ取引が組み合わされたものや、ゼロ・コスト・オプショ

    ンのように複数のデリバティブ取引が組み合わされたものがある。            

      このような複合金融商品に含まれる複数種類の金融資産又は金融負債は、それぞ

    れ独立して存在しうるが、複合金融商品からもたらされるキャッシュ・フロ-は正

    味で発生する。このため、資金の運用・調達の実態を財務諸表に適切に反映させる

    という観点から、複合金融商品を構成する個々の金融資産又は金融負債の本基準に

    よる評価額を合算した上での純額をもって当該複合金融商品の貸借対照表価額とす

    ることとする。                                                            

      なお、金融機関のように、経営上、複合金融商品を個々の金融資産又は金融負債

    ごとに継続して区分して管理しており、投資情報としても区分して表示することが

    経営の実態を表す上で有用な場合には、区分して表示することも認められるものと

    する。                                                                    

                                                                              

                                                                              

実施時期等                                                                    

                                                                              

1.実施時期                                                                  

 (1)  金融商品に係る会計基準は、平成12年4月1日以後開始する事業年度から実施

    されるよう措置することが適当である。                                      

 (2)  その他有価証券に係る時価評価については、平成12年4月1日以後開始する事

    業年度は期末帳簿価額と時価との差額について税効果を適用した場合の注記による

    こととし、財務諸表における時価評価は平成13年4月1日以後開始する事業年度

    から実施することが適当である。なお、平成13年4月1日以後開始する事業年度

    において、個別財務諸表における時価評価実施の環境が整わないときは、連結財務

    諸表から実施することが適当である。                                        

 (3)  本基準の実施に際し、必要となる他の基準との調整については、今後検討する。  

                                                                              

2.経過措置                                                                  

    いわゆるローン・パーティシペーションやデット・アサンプションは、本基準にお

  ける金融資産又は金融負債の消滅の認識要件を充たさないこととなるが、経過措置と

  して、以下の会計処理を当分の間認めることとする。                            

 (1)  ローン・パーティシペーションは、実務上、債権譲渡に際して債務者の承諾を得

    ることが困難な場合、債権譲渡に代わる債権流動化の手法として広く利用されてい

    る。このような実情を考慮し、債権に係るリスクと経済的利益のほとんどすべてが

    譲渡人から譲受人に移転している場合等一定の要件を充たすものに限り、当該債権

    の消滅を認識する。                                                        

 (2)  デット・アサンプションは、実務上、社債の買入償還が困難な場合、買入償還に

    代わる社債償還の手法として広く利用されている。このような実情を考慮し、社債

    の元利金の支払いに充てられる資産がリスクフリーの資産である場合等社債の発行

    者に対し遡求請求が行われる可能性が極めて低い場合に限り、当該社債の消滅を認

    識する。                                                                  

    なお、これらの経過措置を必要とする債権譲渡や社債の買入償還に係る実務上の制

  約がなくなったときは、本基準に従って会計処理される必要があるため、今後、適宜、

  当該経過措置の見直しを行うものとする。                                      

                                                                              

3.実務指針等                                                                

    本基準を実務に適用する場合の具体的な指針等については、今後、関係省令を整備

  するとともに、日本公認会計士協会が関係者と協議のうえ適切に措置することが必要

  である。また、業種固有の問題についても実務的取扱いを定めることが必要と考え  

  る。

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